説明

咀嚼模擬装置

【課題】実際の口腔環境に近い環境を再現し、該環境下において実際の咀嚼を模擬することにより、実際の咀嚼において試料から発生する香りの成分、味成分により近い成分を得ることができると共に、咀嚼力が弱いと考えられる消費者の噛む力をも再現して、これら消費者を対象とした商品を開発することができる咀嚼模擬装置を提供する。
【解決手段】試料(S)を破砕及び摩砕することにより、咀嚼を模擬するための装置(10)であって、前記試料(S)を収容するための容体(20A)と、該容体(20A)の内壁面(22)に沿って一方が他方に向かって摺動するように、対向して配設された一対の咀嚼擬似歯(31,32)と、を少なくとも備えてなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料を破砕及び摩砕することにより、咀嚼を模擬するための咀嚼模擬装置に係り、特に、実際の咀嚼行為により近い模擬咀嚼を再現することができる咀嚼模擬装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、食品等の様々な試料を咀嚼したときに、試料から放出される香りの成分を分析したり、前記試料の破砕及び摩砕のし易さを確認したりすることを目的として、咀嚼を模擬するための装置(咀嚼模擬装置)が開発されている。該咀嚼模擬装置の開発は、1986年頃から始まり、近年、食品会社などでは1995年にAcree,T.E.が開発した咀嚼模擬装置などの装置が用いられており、咀嚼模擬装置は、試料を攪拌して粉砕させることにより、咀嚼を模擬するものである。
【0003】
このような攪拌タイプの咀嚼模擬装置として、図6に示すような咀嚼模擬装置が提案されている(例えば特許文献1参照)。咀嚼模擬装置60は、試料を収容する容体61と、容体61内に相互に回転可能に配置された2個の混練パドル63,64と、一方の混練パドル63を回転させるモータ(回転駆動装置)62とを備えている。また、容体63の上部には、窒素ガス及び人工唾液を流入するための流入ポート61A,61Bが形成され、混練後に放出される成分を排出するための排出ポート61Cが形成されている。
【0004】
このような咀嚼模擬装置60によれば、容体61内に試料と人工唾液を投入し、モータ62を作動させることにより、一方の混練パドル63を駆動させる。該駆動により混練パドル63が回転運動すると共に、該一方の混練パドル63と噛合いながら混練パドル64も回転運動し、試料と人工唾液は攪拌され、混練パドル62,63間において試料は粉砕される。
【0005】
このようにして粉砕された試料から放出される成分は、容体61内を流入する窒素ガスと共に搬送され、排出ポート61Cから排出され、ガスクロマトグラフィによって分析される。
【0006】
また、別の態様として、例えば、図7に示すような咀嚼模擬装置が提案されている。該咀嚼模擬装置は、オランダのワーゲニンゲン大学で製作された咀嚼模擬装置であり、発明者は該装置を用いて発生する香りの研究を行っていた。
【0007】
図7に示すように、咀嚼模擬装置70は、試料Sを収容するための半球状有底の内側容体71と、内側容体71を覆うように有底の外側容体72と、を備えている。2つの容体71,72は、上方においてコネクタ75により連結されており、外側容体72は、下方において受け材76に収容されている。また、受け材76は、緩衝バネ77を介してベース78に配置されている。さらに、内側容体71の内部には、その内壁面71aに沿って摺動する咀嚼擬似歯73が配設されている。
【0008】
咀嚼模擬装置70によれば、内側容体71と外側容体72との間に温水を入れて、内側容体71内の試料Sを温めることができる。次に、連結ロッド74を介して、咀嚼擬似歯73を摺動方向に直動させると共に回動させて、試料Sの模擬咀嚼を行なう。そして、内部容器71内において、試料Sから放出された成分は、ガスクロマトグラフィにより分析される。
【特許文献1】特開2002−5795号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、図6示す咀嚼模擬装置60は、2つの混練パドル63、64を単に回動させながら噛み合わせて、試料を粉砕しているだけであり、試料に作用する力(圧力)等を調整することが出来るものではなかった。また、実際の口腔にある上下の歯は、試料(食品)を上下方向から噛み潰したり噛み切ったりする動作と、試料を摩り潰す動作の少なくとも2つの動作からなるが、咀嚼模擬装置60では、これらの2つの動作を再現しているものとは言い難い。
【0010】
一方、図7に示す咀嚼模擬装置70において、模擬咀嚼が行われる内側容体71は、試験管と同じように、底面が半球面となっているため、底側にある試料Sは、咀嚼擬似歯73を直動駆動させても上手く破砕されない場合があり、さらには、咀嚼擬似歯73の回動駆動と共に回動する場合もあった。
【0011】
また、咀嚼模擬装置70は、咀嚼擬似歯73の上下運動(直動駆動)により、口の中の環境を模した内側容体71の中において模擬咀嚼を行っている。そして、咀嚼擬似歯73は、図8に示すように、内側容体71の内壁面の形状に合わせた半球状の先端部73Aを有しており、その先端部には、歯を擬似させるべく、交差する溝73a、73bが形成されている。しかし、咀嚼擬似歯73の形状及び大きさは、内側容体71の内側壁71bの底部の大きさ及び形状に制限されるため、実際の口腔環境とは異なった環境となってしまい、実際の咀嚼に比べて、縦積み状態の試料Sを十分に破砕することができず、咀嚼時に試料Sから発生する正確な香りの成分を分析することが困難であった。
【0012】
また、発明者の実験によれば、健常人の咀嚼時に作用する咀嚼力は、0.2〜16ニュートン(N)もあった。しかし、咀嚼模擬装置70は、高い圧力により容体71,72が破損することを防止するために緩衝バネ77が設置されているため、実際の咀嚼力を再現した高い圧力条件下で、圧力を調整して咀嚼を模擬することは困難であった。
【0013】
さらに、緩衝バネ77は、咀嚼擬似歯73から試料Sに伝えられる圧力も緩慢にしてしまうため、咀嚼模擬装置70では、実際の咀嚼時に試料(食品)に作用する衝撃力等を再現することは難しいものであった。また、咀嚼する試料によっては、乳幼児や高齢者など咀嚼力が弱いと考えられる消費者の咀嚼を上手く再現できない場合があり、咀嚼模擬装置70を用いて、これら消費者の咀嚼を考慮した試料(商品)の開発をすることが、難しい場合もあった。
【0014】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、実際の口腔環境に近い環境を再現し、該環境下において実際の咀嚼を模擬することにより、実際の咀嚼時に近い香り成分及び味成分を得ることができる咀嚼模擬装置を提供することにある。さらには、乳幼児や高齢者など咀嚼力が弱いと考えられる消費者の噛む力をも再現し、これら消費者を対象とした商品を開発することができる咀嚼模擬装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
前記課題を解決すべく、本発明に係る咀嚼模擬装置(10)は、試料(S)を破砕及び摩砕することにより、咀嚼を模擬するための装置(10)であって、前記試料(S)を収容するための容体(20A)と、該容体(20A)の内壁面(22)に沿って一方が他方に向かって摺動するように、対向して配設された一対の咀嚼擬似歯(31,32)と、を少なくとも備えることを特徴とするものである。
【0016】
本発明によれば、容体(20A)内において、対向して配設された一対の咀嚼擬似歯(31,32)の間に、試料(S)を配置することができる。そして、容体(20A)の内壁面(22)に沿って、一方の咀嚼擬似歯(31)を他方の咀嚼擬似歯(32)に向かって相対的に摺動させることにより、一対の咀嚼擬似歯(31,32)の間に試料(S)を挟み込んで、試料(S)を破砕及び摩砕することができる。
【0017】
また、容体(20A)内において、咀嚼擬似歯(31,32)を対向配置させているので、咀嚼擬似歯(31,32)は、容体(20A)の摺動方向(D)と垂直な断面の形状に制約を受けるのみであって、咀嚼擬似歯(31,32)の歯の並び及び形状を自在に変更することができ、実際の口腔環境により近づけることができる。
【0018】
なお、本発明にいう「一対の咀嚼擬似歯」とは、試料(S)を挟み込んで、その表面で試料(S)を破砕及び摩砕することができる部材のことをいい、表面に歯の形状を擬似すべく交差する複数の溝が形成された一対の咀嚼擬似歯や、一方に表面に凸状曲面が形成され、他方に凸状曲面の形状に対応する凹状曲面が形成された模擬口蓋・模擬舌をイメージした一対の咀嚼擬似歯など、試料(S)を挟み込んで、その表面で試料(S)を破砕及び摩砕することができるものであれば、その表面形状は特に限定されるものではない。
【0019】
さらに、咀嚼擬似歯の摺動時に作用する圧力は、容体(20A)に直接的に作用することなく、それに対向して配設された咀嚼擬似歯がその圧力を直接的に受けることになるので、容体(20A)の破損を防止するための緩衝バネは不要となり、より高圧条件下で試料(S)に圧力を作用させることができる。
【0020】
このように一対の咀嚼擬似歯(31,32)により、試料(S)を挟み込んで試料(S)を破砕及び摩砕する動作は、実際の口腔内において上下の歯により試料(食品)を噛み潰す咀嚼の動作に近い動作を再現することになり、試料(S)を、確実に破砕及び摩砕することができる。
【0021】
さらに、咀嚼擬似歯を試料(S)に対して回動させた場合であっても、これに対向して配設された咀嚼擬似歯の歯により試料(S)は保持されるので、回動する咀嚼擬似歯と共に試料(S)が回動することなく、一対の咀嚼擬似歯(31,32)の間で摩り潰すことができる。この場合、回動方向は、一方方向に限らず、角度を変えて両方向に回動させてもよく、上下の歯が食物を噛み潰す方向だけではなく、舌や臼歯での食物を摩り潰す動作をも再現することができる。
【0022】
このような結果として、本発明に係る咀嚼模擬装置(10)によれば、実際の口腔環境に近い環境を再現し、該環境下において実際の咀嚼を模擬することができるので、試料(S)から放出される香り成分は、実際の咀嚼時の香りに近いものとなるため、実際の咀嚼時に近い香り成分を分析することができる。
【0023】
また、実際の咀嚼の状態を再現することができるため、人工唾液を試料(S)に加えることで、模擬咀嚼後に試料(S)から滲出した液と人工唾液の混合液に含まれる味成分を、高速液体クロマトグラフィ及びアミノ酸分析装置などによって分析することができる。なお、人工唾液を加える場合には、前記容体(20A)の一部に、人工唾液を流入させるための流路(25a)を設けることが好ましい。
【0024】
また、本発明に係る咀嚼模擬装置(10)は、前記一方の咀嚼擬似歯(31)と前記他方の咀嚼擬似歯(32)との間に圧力を作用させるように、前記一対の咀嚼擬似歯(31,32)のうちの少なくとも1つの咀嚼擬似歯を前記内壁面(22)に沿って直動駆動させる直動駆動部(41)をさらに備えることがより好ましい。
【0025】
本発明によれば、直動駆動部(41)を備えることにより、一方の咀嚼擬似歯(31)と他方の咀嚼擬似歯(32)との間に圧力を作用させるように直動させることができるので、一対の咀嚼擬似歯(31,32)の間にある試料(S)の破砕及び摩砕の動作を、実際の口腔内において上下の歯の上下動により試料(食品)を噛み潰す咀嚼の動作に近づけることができる。
【0026】
また、本発明に係る咀嚼模擬装置(10)は、前記咀嚼擬似歯が摺動する方向(D)に沿った軸を回転軸(R)として、前記一対の咀嚼擬似歯(31,32)のうちの少なくとも1つの咀嚼擬似歯を回動駆動させる回動駆動部(42)をさらに備えることがより好ましい。ここで、回動駆動部(42)には、回動方向を反転させる反転機構、回動速度を調整する速度調整機構、及び回動角度を検出する機構等が設けられ、種々の咀嚼の態様に対応させることができるものが好ましい。
【0027】
本発明によれば、回動駆動部(42)を備えることにより、対向して配設された一対の咀嚼擬似歯(31,32)を相対的に回動方向の向きを適宜変更して、回動させることができるので、一対の咀嚼擬似歯(31,32)の間にある試料(S)を破砕及び摩砕の動作を、実際の口腔内において上下の歯及び舌によって試料(食品)を摩り潰す咀嚼の動作に近づけることができる。
【0028】
特に、直動駆動部(41)と回動駆動部(42)を組み合わせることにより、実際の口腔にある上下の歯が試料(食品)を上下方向から噛み潰したり噛み切ったりする動作と、該上下の歯及び舌が試料を摩り潰す動作との複合動作を、咀嚼模擬装置内のおいて忠実に再現することができる。
【0029】
また、本発明に係る咀嚼模擬装置(10)は、前記一対の咀嚼擬似歯(31,32)のうち、いずれかの咀嚼擬似歯、もしくは、いずれかの咀嚼擬似歯に連結する部分(31a,31b,32a,32b)に、前記圧力を測定するための圧力測定器(43)が設けられていることがより好ましい。
【0030】
本発明によれば、いずれか一方の咀嚼擬似歯、もしくは、いずれか一方の咀嚼擬似歯に連結する部分に、圧力測定器(43)を設けることにより、圧力測定器(43)の測定値を確認しながら、実際の咀嚼時に作用する圧力に相当する圧力を試料(S)に作用させることができる。特に、直動駆動部(41)を用いた場合には、測定される圧力の値を確認しながら、直動駆動部(41)を調整することにより、時間経過と共に変化する咀嚼時の圧力を忠実に再現することもできる。
【0031】
また、同時に模擬咀嚼時の圧力を測定することが可能となるため、試料(S)を咀嚼終了するまでにどの程度の咀嚼力が必要か測定することができ、そのデータを記憶装置(100D)に蓄積することができるので、乳幼児や高齢者などを対象とした消費者の食品の開発に利用することができる。
【0032】
また、本発明に係る咀嚼模擬装置(10)は、前記一方の咀嚼擬似歯(31)には、前記直動駆動部(41)が連結され、前記他方の咀嚼擬似歯(32)には、前記一対の咀嚼擬似歯(31,32)との間に作用する圧力を調整する圧力調整機構(50)が連結されていることがより好ましい。本発明によれば、片方に圧力調整機構(50)を設けることにより、一方の咀嚼擬似歯の直動駆動により、一対の咀嚼擬似歯(31,32)の間に作用する圧力を制限することができる。
【0033】
また、本発明に係る咀嚼模擬装置(10)は、前記直動駆動部(41)の前記直動駆動を制御し、かつ、前記回動駆動部(42)の前記回動駆動を制御するための制御装置(100)をさらに備えており、該制御装置(100)は、前記咀嚼擬似歯を直動させる速度、前記一方の咀嚼擬似歯(31)と前記他方の咀嚼擬似歯(32)との間に作用させる圧力、前記咀嚼擬似歯を回動させる方向、前記咀嚼擬似歯を回動させる角度、及び前記咀嚼擬似歯を回動させる速度、を入力するための入力装置(100A)を備えており、前記制御装置(100)は、前記入力装置(100A)から入力された前記直動速度及び前記圧力に基づいて前記直動駆動部(41)を作動させるべき作動量と、前記回動方向、前記回動角度、及び前記回動速度に基づいて前記回動駆動部(42)を作動させるべき作動量と、を演算する演算手段(101)と、該演算された作動量に基づいて、前記直動駆動部(41)及び前記回動駆動部(42)に作動信号を出力する出力手段(104)と、を少なくとも備えることがより好ましい。
【0034】
本発明によれば、制御装置(100)の入力装置(100A)に入力した直動速度及び圧力となるように、作動量を演算する演算手段(101)によって直動駆動部(41)の作動量を演算し、該作動量となるように作動信号を出力手段(104)から直動駆動部(41)へ出力するので、入力した速度及び圧力となるように、咀嚼擬似歯を制御することができる。この結果として、噛み潰す動作を再現した模擬咀嚼を行うことができる。
【0035】
また、直動速度及び圧力を時間経過と共に変更して咀嚼擬似歯を駆動させることにより、人と同じように最初に大きなものを噛み切る時は強く咀嚼し、その後は細かく咀嚼するような動作を、再現することができる。この結果、時間経過に伴う模擬咀嚼時の香りを測定することが可能となる。
【0036】
一方、制御装置(100)の入力装置(100A)に入力した、前記回動方向、前記回動角度、及び前記回動速度となるように、作動量を演算する演算手段(101)によって回動駆動部(42)の作動量を演算し、該作動量となるように作動信号を出力手段(104)から回動駆動部(42)へ出力するので、前記回動方向、前記回動角度、及び前記回動速度となるように、咀嚼擬似歯を制御することができる。この結果として、摩り潰す動作を再現した模擬咀嚼を行うことができる。
【0037】
また、本発明に係る咀嚼模擬装置は、前記制御装置(100)が、前記圧力測定器(43)により測定した圧力が、前記入力装置(101)に入力された前記圧力に一致するように、前記作動量を補正する作動量補正手段(103)をさらに備えることがより好ましい。
【0038】
本発明によれば、入力した圧力と測定した圧力が一致するように作動量補正手段(103)により作動量を補正するので、試料(S)に作用する圧力をフィードバック制御することが可能となり、より精度良く試料(S)に圧力を作用させ、理想的な模擬咀嚼を再現することができる。
【0039】
なお、上記した(符号)は、発明の理解のために、以下の実施形態に示した図面の符号であり、発明そのものを図面により特定するものではなく補足的なものである。よって、上記課題を解決するための手段となる本発明は、上記符号を付した実施形態の図面に示すもののみに限定されるものではない。
【発明の効果】
【0040】
本発明によれば、実際の口腔環境に近い環境を再現し、該環境下において実際の咀嚼を模擬することにより、実際の咀嚼において試料(食品)から発生する香りの成分、味成分により近い成分を得ることができる。また、乳幼児や高齢者など咀嚼力が弱いと考えられる消費者の噛む力を再現することが可能となるため、消費者が試料(食品)をどの程度の咀嚼力であれば咀嚼できるかを判断することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0041】
以下、本発明に係る咀嚼模擬装置の実施形態を図面に基づき詳細に説明する。
図1は、本実施形態に係る咀嚼模擬装置の全体構成図ある。図2(a)は、図1に示す咀嚼模擬装置の咀嚼擬似歯の斜視図であり、(b)は、別の態様の咀嚼模擬装置の模擬口蓋・模擬舌をイメージした咀嚼擬似歯(咀嚼模擬口蓋又は咀嚼模擬舌)の斜視図である。また、図3は、図1に示す咀嚼模擬装置の制御装置を説明するための図であり、図4は、図3に示す制御装置の制御ブロック図である。
【0042】
図1に示すように、本実施形態に係る咀嚼模擬装置10は、試料Sを破砕及び摩砕することにより、咀嚼を模擬するための装置であって、試料Sを収容するための円筒形状の内側容体20Aと、内側容体20Aを覆うように円筒形状の外側容体20Bとを備えている。内側容体20Aと外側容体20Bとは、両端に開口部21A,21Bが形成されており、両端に形成された開口部21A,21Bを塞ぐように、上側封止プラグ25と下側封止プラグ26とが取り付けられている。
【0043】
上側封止プラグ25には、内側容体20Aに人工唾液を流入させるための流路25aと、内側容体20Aに窒素ガスを流入させるための流路25bと、内側容体20Aにおいて模擬咀嚼時の香りを窒素ガスと共に排出するための流路25cと、が形成され、さらにその中央には、後述する連結ロッド31bが直動及び回動可能となるように、連結ロッドを保持するための保持孔25dが形成されている。流路25a,25bを介して人工唾液と人工呼気である窒素を加えることにより、ヒトが咀嚼する環境により近付けることが可能になる。
【0044】
また、咀嚼模擬装置10は、内側容体20Aの内部に、内壁面22に沿って一方が他方に向かって摺動するように、対向して配設された1対の咀嚼擬似歯31、32を備えている。一対の咀嚼擬似歯31,32は、いずれも、図2(a)に示すように、円板形状をしており、対向する円板の表面には、歯を擬似すべく交差する溝30a,30bが形成されており、上側及び下側のコネクタベース31a,32aによって取付けられている。なお、この溝30a,30bのピッチは、模擬咀嚼を行なう試料に合わせて、適宜選定することができる。また、模擬咀嚼を行なう歯の形状は、図2(a)に示すような四角柱状の歯に限定されるものではなく、例えば、円錐、円錐台、多角柱、多角錐、多角錘台などを挙げることができ、試料(S)を挟み込んで、その表面で試料(S)を破砕及び摩砕することができるものであれば、その形状は特に限定されるものではない。
【0045】
また、図2(b)に示すように、一対の咀嚼擬似歯は、膨らみを有した凸状曲面を有した咀嚼擬似歯31Aと、該凸状曲面の形状に対応するような凹状曲面を有した咀嚼擬似歯32Aとにより、構成されていてもよい。このような形状の一対の咀嚼擬似歯31A,32Aを用いることで、これらの凸状面と凹状曲面との間に試料Sを配置して、一対の咀嚼擬似歯31A,32Aを相対的に回動させることにより、咀嚼擬似歯31A,32Aを口腔内の口蓋及び舌に見立てて、該舌及び口蓋による試料Sの摩り潰しの動作を忠実に再現することが可能になる。
【0046】
このように、咀嚼擬似歯31,32を対向して配置させることにより、咀嚼擬似歯31,32の形状を、円板形状することが可能となり、該円板の歯が形成された平坦面に試料Sを配置することができる。この結果、後述するように咀嚼擬似歯31を直動及び回動駆動させて、模擬咀嚼を行なった場合であっても、試料Sを均一に細かく破砕及び摩砕することが可能となる。
【0047】
また、従来の試験管の形状に類似した形状の内側容体に比べ、本実施形態の内側容体20Aは、円筒形状であるため、その構造はシンプルである。この結果、ヒト成人の口腔内と同じ容量の試料Sを収容する容体を安価かつ容易に製作することができる。
【0048】
さらに、一対の咀嚼擬似歯31,32のうち、上側コネクタベース31aに取付けられた一方の咀嚼擬似歯(上側咀嚼擬似歯)32は、連結ロッド31bを介して直動駆動部41と回動駆動部42に連結されている。一方、下側コネクタベース32aに取付けられた他方の咀嚼擬似歯(下側咀嚼擬似歯)32は、連結ロッド32bを介して圧力調整機構50に連結されている。
【0049】
また、咀嚼模擬装置10に備えられた直動駆動部41は、上側咀嚼擬似歯31と下側咀嚼擬似歯32との間に圧力を作用させるように、より具体的には、上側咀嚼擬似歯31が下側咀嚼擬似歯32に対して圧力を作用させるように、上側咀嚼擬似歯31を内側容体20Aの内壁面22に沿って往復動するよう駆動させる装置である。このような直動駆動部41は、回転運動を直線運動に変換する機構を備えた電動モータであることが好ましい。しかし、上側咀嚼擬似歯31を制御装置100を用いて直動駆動させる制御を行うことができるものであれば特に限定されるものではなく、例えば、油圧又は空圧シリンダなどであってもよい。
【0050】
さらに、直動駆動部41は、後述する制御装置100に電気的に接続されており、制御装置100からの作動信号により作動するように構成されている。このようにして、制御装置100からの作動信号が入力された直動駆動部41は、連結ロッド31bに連結された上側咀嚼擬似歯31を直動駆動させることができる。
【0051】
一方、咀嚼模擬装置10に備えられた回動駆動部42は、上側咀嚼擬似歯31が摺動する摺動方向Dに沿った軸を回転軸Rとして、上側咀嚼擬似歯31を回動駆動させる電動モータである。回動駆動部42は、回動駆動部42の出力軸にピニオン42aが接続されており、ピニオン42aは、連結ロッド31bに接続されたギア42bと噛合うように配置されている。
【0052】
さらに、回動駆動部42は、後述する制御装置100に電気的に接続されており、制御装置100からの作動信号により作動するように構成されている。このようにして、制御装置100から作動信号が入力された回動駆動部42は、ピニオン42a及びギア42bに伝達し、連結ロッド31bに連結された上側咀嚼擬似歯31を回動駆動させることができる。
【0053】
このように、直動駆動部41と回動駆動部42を組み合わせることにより、実際の口腔にある上下の歯が試料(食品)を上下方向から噛み潰したり噛み切ったりする動作と、該上下の歯が試料を摩り潰す動作との複合動作を、咀嚼模擬装置内のおいて忠実に再現することができる。
【0054】
さらに、上側咀嚼擬似歯31には、下側咀嚼擬似歯32に作用する圧力を測定するための圧力測定器43が設けられており、圧力測定器43からの出力信号が制御装置100に入力可能なように、圧力測定器43は、制御装置100に電気的に接続されている。この圧力計測器43は上側咀嚼擬似歯31に連結する部分である連結ロッド31bに設置してもよく、咀嚼模擬歯の圧力を正確に測定できるところであれば、どこに設置されていても問題はない。また、圧力測定器43として、圧力の測定範囲をより広くするために、圧力測定範囲の異なる圧力測定器を2つ以上設置してもよい。
【0055】
下側咀嚼擬似歯32は、内側容体20Aの内壁面22に沿って上側咀嚼擬似歯31に向かって摺動可能であり、咀嚼模擬装置10は、下側咀嚼擬似歯32が所定の圧力で上側咀嚼擬似歯31を加圧できるように、一方の咀嚼擬似歯31と他方の咀嚼擬似歯32との間に作用する圧力を調整するための圧力調整機構50をさらに備えている。さらに、下側咀嚼擬似歯32に連結された連結ロッド32bには、該連結ロッド32bを必要に応じて固定することができる固定部材44がさらに設けられている。
【0056】
一方の咀嚼擬似歯31,32のみに直動駆動部が設けられている場合は、その反対側の咀嚼擬似歯32,31に圧力調整機構50が設置されており、この圧力調整機構50は、シリンダ51Aと、シリンダ51A内を駆動するプランジャ51Bと、該シリンダ51Aに流入するエアの圧力を調整するための圧力調整弁52と、シリンダ51Aに流入する圧力を測定する圧力計53とを少なくとも備えている。シリンダ51A内のプランジャ51Bは、圧力調整弁52により調整された所定の圧力により、図1に示すように、シリンダ51Aの上方端(プランジャ51Bのストロークエンド)に常時移動せしめられる。
【0057】
そして、直動駆動部41及び回動駆動部42は、制御装置100によって作動するよう制御される。制御装置100は、図3に示すように、入力装置100A、演算装置100Bと、記憶装置100Cと、入出力変換器100Dと、を少なくとも備えている。
【0058】
入力装置100Aは、上側咀嚼擬似歯31を直動駆動させる直動速度、上側咀嚼擬似歯31を下側咀嚼擬似歯32に作用させる圧力(上側咀嚼擬似歯31と下側咀嚼擬似歯32との間に作用させる圧力)、上側咀嚼擬似歯31を回動させる回動方向、上側咀嚼擬似歯31を回動させる回動角度、上側咀嚼擬似歯31を回動させる回動速度、及び、上側咀嚼擬似歯31を往復動させる回数(模擬咀嚼の回数)を入力することが可能なように構成さている。
【0059】
ここで、上側咀嚼擬似歯31を回動させる回動角度とは、回動駆動部42が、ある基準角度(基準位置)から回動させるための角度をいい、回動方向と回動角度を入力することにより、例えば、右回りに基準角度(基準位置)から30°回動させ、左回りに60°回動させ、また、右回りに30°回動させる一連の動作を1サイクルとして、これを所定の回数繰返すことができ、回動角度は適宜調整することができる。このような繰返し動作を行なうことにより、試料(S)を摩り潰す動作を再現することができる。このように本発明にいう「回動」とは、所定の角度範囲で方向を転換させて回転する動きを含む回転の動きのことをいう。
【0060】
演算装置(CPU)100Bは、図4に示すようにして、直動駆動部41及び回動駆動部42を作動させる作動量を演算し、演算された作動量に従って直動駆動部41及び回動駆動部42に作動信号を出力する装置である。
【0061】
記憶装置100Cは、RAM及びROMからなり、前記作動量を演算するための固有の条件を記憶するための装置であり、入出力変換器100Dは、圧力測定器43からの出力信号を演算装置100Bへ入力すべくA/D変換すると共に、演算装置100Bからの作動信号を、直動駆動部41及び回動駆動部42へ入力すべくD/A変換する装置である。
【0062】
そして、図4に示すように、演算装置100B(制御装置100)は、その内部のソフトウエアとしての構成として、作動量演算手段101、補正量演算手段102、作動量補正手段103、及び出力手段104を備えている。
【0063】
作動量演算手段101は、直動駆動部41と回動駆動部42の作動量を演算する手段である。具体的には、作動量演算手段101は、入力装置100Aから入力された直動速度の値、及び、上側咀嚼擬似歯31を下側咀嚼擬似歯32に作用させる圧力の値から、直動駆動部41を作動させる作動量を演算する。さらに、入力された回動方向、回動角度、及び回動速度から回動駆動部42の作動量を演算する。
【0064】
補正量演算手段102は、圧力測定器43により測定した圧力と、入力装置100Aに入力された圧力の偏差を算出し、その偏差に相当する補正量を演算する。作動量補正手段103は、演算した補正量を用いて、圧力測定器43により測定した圧力が、入力装置100Aに入力された前記圧力に一致するように、作動量演算手段101で演算された作動量を補正する。
【0065】
出力手段104は、補正された作動量に基づいて直動駆動部41に作動信号を出力する。このようにして出力された作動信号は、入出力変換器100Dを介して、直動駆動部41と回動駆動部42に出力される。
【0066】
上記に示すように構成された咀嚼模擬装置を用いた、試料Sの模擬咀嚼の方法を以下に示す。まず、内側容体20Aの下側咀嚼擬似歯32の上に、試料Sを配置する。次に、外側容体20Bの温水流入ポート27から43℃程度の温水を常時流入させ、内側容体20Aと外側容体20Bとの間に流し、温水排水ポート28から温水を排水し、内側容体20A内の温度をヒト体温程度になるよう37℃程度に保温する。そして、上側封止プラグ25の流路25aを介して所定量の人工唾液を内側容体20A内に流入すると共に、流路25bを介して内側容体20A内に窒素ガスを流入する。
【0067】
一方、制御装置100の入力装置100Aに、前述した咀嚼のための条件、具体的には、上側咀嚼擬似歯31を直動駆動させるときの直動速度、上側咀嚼擬似歯31を下側咀嚼擬似歯32に作用させる圧力、一方の咀嚼擬似歯31を回動させる方向、一方の咀嚼擬似歯31を回動させる角度、及び一方の咀嚼擬似歯31を回動させる速度、上側咀嚼擬似歯31を往復動させる回数等の条件を入力する。
【0068】
そして、入力条件に従って、制御装置100は作動量を補正して演算し、演算した作動量に基づいて出力される作動信号を、直動駆動部41及び回動駆動部42に入力する。これにより、制御装置100は、直動駆動部41及び回動駆動部42を作動させ、上側咀嚼擬似歯31と下側咀嚼擬似歯32とを駆動させる。
【0069】
この結果、内側容体20Aの内壁面22に沿って、上側咀嚼擬似歯31を下側咀嚼擬似歯32に向かって摺動させながら往復動させることにより、試料Sを破砕及び摩砕することができ、試料Sの模擬咀嚼を行なうことができる。この時、試料Sから放出される香りの成分は、窒素ガスと共に、流路25cを介して排出されるので、該香りの成分をガスクロマトグラフィにより分析する。また、人口唾液を人工唾液を流入させるための流路25aから加えることで、模擬咀嚼後に試料Sから滲出した液と人口唾液の混合液が内側容体20Aに溜まるため、この混合液に含まれる味成分を、高速液体クロマトグラフィ及びアミノ酸分析装置などによって分析することができる。
【0070】
本実施形態による咀嚼模擬装置10によれば、上側咀嚼擬似歯31と下側咀嚼擬似歯32を対向して配置させたので、上側咀嚼擬似歯31の直動駆動時に作用する圧力は、内側容体20Aに直接的に作用することなく、下側咀嚼擬似歯32がその圧力を直接的に受けることになるので、内側容体20Aの破損を防止するための緩衝バネは不要となり、シンプルな構造にして、より高圧条件下で試料Sを模擬咀嚼することができる。
【0071】
また、一対の咀嚼擬似歯31,32により、試料Sを挟み込んで試料Sを破砕及び摩砕する動作は、実際の口腔内において上下の歯により試料(食品)を噛み潰す咀嚼の動作に近い動作を再現することになり、試料Sを確実に破砕及び摩砕することができる。さらに、上側咀嚼擬似歯31を試料Sに対して回動させた場合であっても、下側咀嚼擬似歯32の歯により試料Sは保持されるので、上側咀嚼擬似歯31と共に試料Sが回動することなく、一対の咀嚼擬似歯31,32の間で摩り潰すことができる。
【0072】
このような結果として、内側容体20A内において、実際の口腔環境に近い環境を再現し、該環境下において実際の咀嚼を模擬することができるので、試料Sから放出される香りの成分は、実際の咀嚼時の香りに近いものとなり、実際の咀嚼時に近い香り成分を分析することができる。また、唾液に溶け込む味成分も、実際の咀嚼時に近いものとなり、味成分の分析をすることができる。
【0073】
さらに、咀嚼模擬装置10は、制御装置100を備えることにより、上側咀嚼擬似歯31の直動速度及び圧力を時間経過と共に変更して一方の咀嚼擬似歯31を駆動させることにより、人と同じように最初に大きなものを噛み切る時は強く咀嚼し、その後は細かく咀嚼するような動作を、再現することができる。
【0074】
この結果、時間経過に伴う模擬咀嚼時の香の変化を測定することが可能となる。そして、この香りの変化を、例えば陽子移動反応質量分析器(PTR−MS)を用いて測定を行い、時間軸による香りの成分の挙動を測定することも可能である。この測定によって、筋線維(肉組織を構成している線維状細胞)があるために、従来から難しいとされていた肉の香りのサンプルを作製することも可能になると考えられる。
【0075】
さらにそれに併せて、制御装置100により模擬咀嚼の回数を設定したり、上側封止プラグ25の流路25aを介して人工唾液の量も調整したりすることにより、より口腔環境に近い状態で発生する香りの測定をすることが可能となる。
【実施例】
【0076】
本実施形態を以下の実施例により説明する。
〔実施例〕
<咀嚼力プロフィールの測定>
被験者の口腔内に圧力センサを取り付けて、蒟蒻ゼリーを咀嚼時の時間経過に伴う咀嚼力のプロフィールを測定した。この結果を図5(c)に示す。そして、この時の香気放散量を測定した。この結果を下記の表1に示す。
【0077】
図1に示す咀嚼模擬装置に試料として先に示したのと同等の蒟蒻ゼリーを収容し、制御装置に前記測定した咀嚼力のプロフィールを入力し、蒟蒻ゼリーの模擬咀嚼を行なった。一方模擬咀嚼時に圧力測定器により試料に作用する圧力を測定し、該圧力から咀嚼力のプロフィールを算出した。この結果を図5(a)に示す。また、同様に、模擬咀嚼後の香気放散量を測定した。この結果を下記の表1に示す。
【0078】
〔比較例〕
図7に示す咀嚼模擬装置に、実施例と同様の蒟蒻ゼリーを収容し、前記測定した咀嚼力のプロフィールとなるように、直動駆動部の駆動を調整して、蒟蒻ゼリーの模擬咀嚼を行なった。また、実施例と同様に、圧力測定器により試料に作用する圧力を測定し、該圧力から咀嚼力のプロフィールを算出した。この結果を図5(b)に示す。また、同様に、模擬咀嚼後の香気放散量を測定した。この結果を下記の表1に示す。尚、表1に示す、香気放散量とは、ガスクロマトグラフィマススペクトメトリーが検出する信号発生量であり、ガスクロマトグラフ・マススペクトル強度(GC−MS強度)に相当するものである。
【0079】
【表1】

【0080】
〔結果〕
図5(a)〜(c)に示すように、実施例の咀嚼力のプロフィールの方が、実際の被験者の咀嚼プロフィールに近かった。また、実施例の香気放散量は、比較例の香気放散量よりも多く、実際の被験者の香気放散量に近いものであった。さらに、実施例により模擬咀嚼された蒟蒻ゼリーと被験者が咀嚼した蒟蒻ゼリーの咀嚼片(粒子)の大きさは略近く、比較例により咀嚼された蒟蒻ゼリーの咀嚼片よりも細かいものであった。
【0081】
〔考察〕
上記結果から、実施例は、咀嚼片の大きさからもわかるように、実際の咀嚼力に近い咀嚼力で模擬咀嚼を行なったことにより、試料から発生する香気をより精度良く測定することができたと考えられる。一方、比較例の場合には、緩衝バネにより、所望の咀嚼プロフィールを得ることができなかったため、蒟蒻ゼリーは、実施例に比べて細かく粉砕することができず、香気放散量も少なかったと考えられる。
【0082】
以上、本発明の実施の形態を図面を用いて詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における設計変更があっても、それらは本発明に含まれるものである。
【0083】
例えば、本実施形態では、上側咀嚼擬似歯に圧力測定器を設けたが、模擬咀嚼時に試料に作用する圧力を測定し、制御装置にその圧力信号を入力することが可能であるならば、圧力測定器を下側咀嚼擬似歯に設けてもよいし、咀嚼擬似歯に直接的又は間接的に連結しており、咀嚼擬似歯にかかる圧力が測定できる場所であれば、どこに設けてもよい。
【0084】
また、本実施形態では、内側容体に導入するガスとして、窒素ガスを用いたが、試料である食品及び食品から放出される香り成分に対して影響を与えない無臭のガスであれば導入されるガスは特に限定されるわけではなく、例えば、ヘリウムガスを使用してもよい。
【0085】
また、本実施形態では、上側咀嚼擬似歯を直動駆動及び回転駆動させたが、上側咀嚼擬似歯と下側咀嚼擬似歯の間にある試料を破砕及び摩砕することができるのであれば、上側咀嚼擬似歯及び下側咀嚼擬似歯を適宜選択して直動駆動又は回転駆動させてもよく、双方の咀嚼擬似歯を直動駆動及び回動駆動させてもよい。また、同様に、圧力調整器を上側咀嚼擬似歯に設けてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明に係る咀嚼模擬装置は、例えば、咀嚼時における食品の香り、呈味を分析する研究、香り及び呈味の分析に基づく食品の開発に利用することができる。また、本発明に係る咀嚼模擬装置を用いれば、安定した香り(嗅覚を感じさせる物質)及び呈味(味覚を感じさせる物質)のサンプルを製作することも可能であり、該サンプルは、聴覚、視覚、嗅覚、味覚、平衡覚の五感を検査する病院などの感覚ドックの検査において、嗅覚と味覚の検査用の基準サンプルとして用いることも可能である。
【0087】
最近はゼリーなどで誤飲による事故も多発していることから、本発明の咀嚼模擬装置を使って、咀嚼を模擬的にシミュレーションすることで、大きさや形状、硬さが起因となって誤飲事故の原因となり難い食品を、研究開発することに利用可能である。また、高齢化社会を迎え、高齢者の脆弱化した咀嚼動作に適した食品を、研究開発することにも利用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】本実施形態に係る咀嚼模擬装置の全体構成図。
【図2】(a)は、図1に示す咀嚼模擬装置の咀嚼擬似歯の斜視図であり、(b)は、別の態様の咀嚼模擬装置の咀嚼擬似歯の斜視図。
【図3】図1に示す咀嚼模擬装置の制御装置を説明するための図。
【図4】図3に示す制御装置の制御ブロック図。
【図5】実施例と比較例に係る咀嚼力のプロフィールを示した図であり、(a)は、実施例に係る咀嚼力のプロフィールを示した図であり、(b)は、比較例に係る咀嚼力のプロフィールを示した図であり、(c)は、被験者から測定した咀嚼力のプロフィールを示した図である。
【図6】従来の攪拌タイプの咀嚼模擬装置の全体構成図。
【図7】従来の咀嚼模擬装置の全体構成図。
【図8】図7に示す咀嚼模擬装置の咀嚼擬似歯の斜視図。
【符号の説明】
【0089】
10:咀嚼模擬装置,20A:内側容体,20B:外側容体,21A:開口部,22:内壁面,25:上側封止プラグ,26:下側封止プラグ,31:上側咀嚼擬似歯,31a:上側コネクタベース,31b:連結ロッド,32:下側咀嚼擬似歯,32a:下側コネクタベース,32b:連結ロッド,41:直動駆動部,42:回動駆動部,42a:ピニオン,42b:ギア,43:圧力測定器,44:固定部材,50:圧力調整機構,51A:シリンダ,51B:プランジャ,52:圧力調整弁,53:圧力計,D:摺動方向,R:回転軸,S:試料,100:制御装置,100A:入力装置,100B:演算装置,100C:記憶装置,100D:入出力変換器,101:作動量演算手段,102:補正量演算手段,103:作動量補正手段,104:出力手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料(S)を破砕及び摩砕することにより、咀嚼を模擬するための装置(10)であって、
前記試料(S)を収容するための容体(20A)と、該容体(20A)の内壁面(22)に沿って一方が他方に向かって摺動するように、対向して配設された一対の咀嚼擬似歯(31,32)と、を少なくとも備えることを特徴とする咀嚼模擬装置。
【請求項2】
前記一方の咀嚼擬似歯(31)と前記他方の咀嚼擬似歯(32)との間に圧力を作用させるように、前記一対の咀嚼擬似歯(31,32)のうちの少なくとも1つの咀嚼擬似歯を前記内壁面(22)に沿って直動駆動させる直動駆動部(41)をさらに備えることを特徴とする請求項1に記載の咀嚼模擬装置。
【請求項3】
前記咀嚼擬似歯が摺動する方向(D)に沿った軸を回転軸(R)として、前記一対の咀嚼擬似歯(31,32)のうちの少なくとも1つの咀嚼擬似歯を回動駆動させる回動駆動部(42)をさらに備えることを特徴とする請求項1又は2に記載の咀嚼模擬装置。
【請求項4】
前記一対の咀嚼擬似歯(31,32)のうち、いずれかの咀嚼擬似歯、もしくは、いずれかの該咀嚼模擬歯に連結する部分(31a,31b,32a,32b)には、前記圧力を測定するための圧力測定器(43)が設けられていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の咀嚼模擬装置。
【請求項5】
一方の咀嚼擬似歯(31)には、前記直動駆動部(41)が連結され、他方の咀嚼擬似歯(32)には、前記一対の咀嚼擬似歯(31,32)との間に作用する圧力を調整する圧力調整機構(50)が連結されていることを特徴とする請求項3又は4に記載の咀嚼模擬装置。
【請求項6】
前記咀嚼模擬装置(10)は、前記直動駆動部(41)の前記直動駆動を制御し、かつ、前記回動駆動部(42)の前記回動駆動を制御するための制御装置(100)をさらに備えており、
該制御装置(100)は、前記咀嚼擬似歯を直動させる速度、前記一方の咀嚼擬似歯(31)と前記他方の咀嚼擬似歯(32)との間に作用させる圧力、前記咀嚼擬似歯を回動させる方向、前記咀嚼擬似歯を回動させる角度、及び前記咀嚼擬似歯を回動させる速度、を入力するための入力装置(100A)を備えており、前記制御装置(100)は、前記入力装置(100A)から入力された前記直動速度及び前記圧力に基づいて前記直動駆動部(41)を作動させるべき作動量と、前記回動方向、前記回動角度、及び前記回動速度に基づいて前記回動駆動部(42)を作動させるべき作動量と、を演算する演算手段(101)と、該演算された作動量に基づいて、前記直動駆動部(41)及び前記回動駆動部(42)に作動信号を出力する出力手段(104)と、を少なくとも備えることを特徴とする請求項3〜5のいずれかに記載の咀嚼模擬装置。
【請求項7】
前記制御装置(100)は、前記圧力測定器(43)により測定した圧力が、前記入力装置(100A)に入力された前記圧力に一致するように、前記作動量を補正する作動量補正手段(103)をさらに備えることを特徴とする請求項6に記載の咀嚼模擬装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−162731(P2009−162731A)
【公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−3247(P2008−3247)
【出願日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【出願人】(803000034)学校法人日本医科大学 (37)
【Fターム(参考)】