説明

哺乳動物のベータ・ディフェンシンを用いた、関節リウマチの治療

本発明は、哺乳動物のベータ・ディフェンシンを用いた、関節リウマチの治療に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
配列表の参照
本出願は、配列表をコンピューターで読み取り可能な形式で含む。当該コンピュータで読み取り可能な形式は参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
発明の背景
発明の技術分野
本発明は、ヒト・ベータ・ディフェンシンの投与による、関節リウマチの予防及び治療に関する。
【背景技術】
【0003】
背景
多くの他の成分の中で、先天性免疫の重要な構成成分は、その各々が、かなりの選択性を示すが、共同で速やかに広範囲の細菌、ウィルス、及び真菌を死滅させることができる、抗微生物ペプチド(AMP)である。AMPの生物学的重要性は、天然においてそれらが偏在することによって強調され、そしてそれらは恐らく、全ての多細胞生物によって産生される。ヒトにおいて、重要なAMPはディフェンシンである。ヒトのディフェンシンは、それらの3つの分子内システイン・ジスルフィド結合の形態に基づいて、α−及びβ−ディフェンシンへと分類され得る、小さいカチオン性ペプチドである。α−ディフェンシンは、好中性顆粒から最初に単離されたもの(HNP1〜4)、及び小腸の陰窩中のパネート細胞によって発現されるもの(HD5及びHD6)へとさらに細かく分類され得る。β−ディフェンシンは主に、皮膚、気管、消化管、泌尿生殖器系、腎臓、膵臓、及び乳腺を含む、種々の組織及び器官における上皮細胞によって産生される。β−ディフェンシン・ファミリーの最も特徴付けされたメンバーは、hBD1〜3である。しかし、種々のバイオインフォマティクス・ツールを用いて、推定上のβ−ディフェンシン相同体をコードする約40個のオープン・リーディング・フレームが、ヒトゲノム中でアノテートされた。ヒト・ディフェンシンの幾つかは、恒常的に産生されるが、他のものは、炎症性サイトカイン、又は外因性の微生物産生物によって誘導される。
【0004】
ヒトのディフェンシン、及びそれらの直接的な抗微生物活性はまた、広い範囲の免疫調節性/代替性特性を有することが次第に明らかとなってきた。これらは、種々のケモカイン及びサイトカインの誘導、走化性及びアポトーシス活性、プロスタグランジンの誘導、ヒスタミン及びロイコトリエンの放出、補体の阻害、トール様受容体のシグナル伝達を通じた樹状細胞成熟の刺激、並びに好中球による病原体の一掃の刺激を含む。さらに、ヒトのディフェンシンはまた、創傷治癒、上皮及び繊維芽細胞の増殖、血管形成、並びに脈管形成において役割を果たす。
【0005】
ヒトのディフェンシンが、多くの感染性及び炎症性疾患において重要な役割を果たすことに関する証拠が増大している。ヒトのディフェンシンの過剰発現は通常、恐らく微生物成分又は内因性の炎症性サイトカインによる局所的誘導のために、炎症を起こした及び/又は感染した皮膚において観察される。乾癬において、hBD2及びhBD3は過剰に存在し、そして尋常性座瘡又は表在性毛嚢炎の患者の損傷性上皮において、hBD2の上方制御が観察された。他方で、hBD2及びhBD3の下方制御は、アトピー性皮膚炎に関連する。
【0006】
関節リウマチは、多くの組織及び器官に影響を及ぼし得るが、主に関節を攻撃して、関節軟骨の破壊、及び関節の強直へと通常進行する炎症性滑膜炎を引き起こす、慢性全身性炎症性疾患である。関節リウマチはまた、肺、心膜、胸膜及び強膜に広汎性炎症を、並びに皮下組織において最も一般的である結節性病変を引き起こし得る。関節リウマチの原因は知られていないが、自己免疫が、その慢性化及び進行に重要な役割を果たす。
【0007】
発明の詳細な説明
定義
ディフェンシン:本明細書における用語「ディフェンシン」は、抗微生物性ペプチドのディフェンシン類に属するものとして当業者によって認識されるポリペプチドのことである。ポリペプチドが本発明のディフェンシンであるか否か決定するために、無料で利用可能なHMMERソフトウェア・パッケージを使用することによって、アミノ酸配列が、PFAMデータベースの隠れマルコフモデル・プロファイル(HMMプロファイル)と比較され得る。
【0008】
PFAMディフェンシン・ファミリーは、例えばディフェンシン1、又は「哺乳動物のディフェンシン」(受入番号PF00323)、及びディフェンシン・2、又はディフェンシン・ベータ、又は「ベータ・ディフェンシン」(受入番号PF00711)を含む。
【0009】
本発明のディフェンシンは、ベータ・ディフェンシン類に属する。ベータ・ディフェンシン由来のディフェンシンは、共通の構造的特徴、例えばシステインのパターンを有する。
【0010】
本発明のディフェンシンの例は、ヒト・ベータ・ディフェンシン1(hBD1;配列番号1を参照)、ヒト・ベータ・ディフェンシン2(hBD2;配列番号2を参照)、ヒト・ベータ・ディフェンシン3(hBD3;配列番号3を参照)、ヒト・ベータ・ディフェンシン4(hBD2;配列番号4を参照)、及びマウス・ベータディフェンシン3(mBD3;配列番号6を参照)を含む。
【0011】
同一性:2つのアミノ酸配列間の関連性、又は2つのヌクレオチド配列の関連性を、パラメーター「同一性」で記載する。
【0012】
本発明の目的のために、2つのアミノ酸配列間の同一性度は、好ましくはバージョン3.0.0以降の、EMBOSSパッケージ(EMBOSS:The European Molecular Biology Open Software Suite,Rice et al,2000,Trends in Genetics 16:276−277;http://emboss.org)のNeedleプログラムに備わった、Needleman−Wunschアルゴリズム(Needleman and Wunsch,1970,J.Mol.Biol.48:443−453)を用いて決定される。使用される任意のパラメーターは、10のギャップ・オープン・ペナルティ(gap open penalty)、0.5のギャップ・エクステンション・ペナルティ(gap extension penalty)、及びEBLOSUM62(BLOSUM62のEMBOSSバージョン)置換行列である。(−nobriefオプションを用いて得られる)Needle標識された「最長同一性(longest identity)」のアウトプットは、パーセント同一性として使用され、そして以下のように計算される:
(同一残基×100)/(アラインメントの長さ−アラインメントにおけるギャップの総数)
【0013】
本発明の目的のために、2つのデオキシリボヌクレオチド配列間の同一性度は、好ましくはバージョン3.0.0以降の、EMBOSSパッケージ(EMBOSS:The European Molecular Biology Open Software Suite,Rice et al,2000,同上;http://emboss.org)のNeedleプログラムに備わった、Needleman−Wunschアルゴリズム(Needleman and Wunsch,1970,同上)を用いて決定される。使用される任意のパラメータは、10のギャップ・オープン・ペナルティ、0.5のギャップ・エクステンション・ペナルティ、及びEDNAFULL(NCBI NUC4.4のEMBOSSバージョン)置換行列である。(−nobriefオプションを用いて得られる)Needle標識された「最長同一性」のアウトプットは、パーセント同一性として使用され、そして以下のように計算される:
(同一のデオキシリボヌクレオチド×100)/(アラインメントの長さ−アラインメント中のギャップ総数)
【0014】
単離されたポリペプチド:本明細書において使用される用語「単離されたバリアント」又は「単離されたポリペプチド」は、源から単離される、バリアント又はポリペプチドのことである。一の態様において、当該バリアント又はポリペプチドは、当該ポリペプチドは、SDS−PAGEで決定される通り、少なくとも1%純粋、好ましくは少なくとも5%純粋、より好ましくは少なくとも10%純粋、より好ましくは少なくとも20%純粋、より好ましくは少なくとも40%純粋、より好ましくは少なくとも60%純粋、さらにより好ましくは少なくとも80%純粋、そして最も好ましくは少なくとも90%純粋である。
【0015】
実質的に純粋なポリペプチド:本明細書において、用語「実質的に純粋なポリペプチド」は、天然又は組み換えに関連する他のポリペプチド材料を、最大10重量%、好ましくは最大8重量%、より好ましくは最大6重量%、より好ましくは最大5重量%、より好ましくは最大4重量%、より好ましくは最大3重量%、さらにより好ましくは最大2重量%、最も好ましくは最大1重量%、そしてより最も好ましくは最大0.5重量%含むポリペプチド調製物を示す。したがって、実質的に純粋なポリペプチドは、当該調製物中に存在する総ポリペプチド材料が少なくとも92重量%純粋、好ましくは少なくとも94重量%純粋、より好ましくは少なくとも95重量%純粋、より好ましくは少なくとも96重量%純粋、より好ましくは少なくとも97重量%純粋、より好ましくは少なくとも98重量%純粋、さらにより好ましくは少なくとも99重量%純粋、最も好ましくは少なくとも99.5重量%純粋、そしてさらに最も好ましくは100重量%純粋であることが好ましい。本発明のポリペプチドは、好ましくは実質的に純粋な形態で存在する。これは例えば、周知の組み換え法により、又は古典的な精製法により、当該ポリペプチドを精製することによって達成され得る。
【0016】
哺乳動物のベータ・ディフェンシン
本発明は、関節リウマチの治療における、哺乳動物のベータ・ディフェンシン、例えばヒト・ベータ・ディフェンシン及び/又はマウス・ベータ・ディフェンシンの医薬用途に関する。当該治療は、処置された組織におけるTNF−アルファ活性の減少に好ましくは関連する。
【発明を実施するための形態】
【0017】
一の実施形態において、本発明の哺乳動物のベータ・ディフェンシンは、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、及び/又は配列番号6のいずれかと少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%、そして最も好ましくは少なくとも95%の同一性度を有する。好ましい実施形態において、本発明の哺乳動物のベータ・ディフェンシンは、配列番号1、配列番号2、配列番号3、及び/又は配列番号4のいずれかと少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%、そして最も好ましくは少なくとも95%の同一性度を有する。より好ましい実施形態において、本発明の哺乳動物のベータ・ディフェンシンは、ヒト・ベータ・ディフェンシン1(配列番号1)、ヒト・ベータ・ディフェンシン2(配列番号2)、ヒト・ベータ・ディフェンシン3(配列番号3)、ヒト・ベータ・ディフェンシン4(配列番号4)、ヒト・ベータ・ディフェンシン4のバリアント(配列番号5)、及び/又はマウス・ベータ・ディフェンシン3(配列番号6)から成る。さらにより好ましい実施形態において、本発明の哺乳動物のベータ・ディフェンシンは、ヒト・ベータ・ディフェンシン1(配列番号1)、ヒト・ベータ・ディフェンシン2(配列番号2)、ヒト・ベータ・ディフェンシン3(配列番号3)、及び/又はヒト・ベータ・ディフェンシン4(配列番号4)から成る。
【0018】
別の実施形態において、本発明の哺乳動物のベータ・ディフェンシンは、配列番号2のアミノ酸配列と、少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%、そして最も好ましくは少なくとも95%の同一性度を有する。好ましい実施形態において、本発明の哺乳動物のベータ・ディフェンシンは、ヒト・ベータ・ディフェンシン2(配列番号2)から成る。
【0019】
さらに別の実施形態において、本発明の哺乳動物のベータ・ディフェンシンは、ヒト・ベータ・ディフェンシン、及び/又はマウス・ベータ・ディフェンシン、並びに機能的に等価なそのバリアントから成る。好ましくは、哺乳動物のベータ・ディフェンシンは、ヒト・ベータ・ディフェンシン1、ヒト・ベータ・ディフェンシン2、ヒト・ベータ・ディフェンシン3、ヒト・ベータ・ディフェンシン4、及びマウス・ベータ・ディフェンシン3、並びに機能的に等価なそのバリアントから成る。より好ましくは、本発明の哺乳動物のベータ・ディフェンシンは、ヒト・ベータ・ディフェンシン2、及び機能的に等価なそのバリアントから成る。
【0020】
本発明の哺乳動物のベータ・ディフェンシンは、好ましい実施形態の化合物とも呼ばれる。
【0021】
本発明に関して、哺乳動物の(例えばヒトの)・ベータ・ディフェンシンの「機能的に等価なバリアント」は、関節リウマチにおいて、親の哺乳動物の(例えばヒトの)ベータ・ディフェンシンとほぼ同じ効果を示す、修飾された哺乳動物の(例えばヒトの)ベータ・ディフェンシンである。好ましくは、それはまた、TNF−アルファ活性において、哺乳動物の(例えばヒトの)ベータ・ディフェンシンとほぼ同一の効果を示す。
【0022】
本発明に従って、哺乳動物の(例えばヒトの)ベータ・ディフェンシンの機能的に等価なバリアントは、哺乳動物の(例えばヒトの)ベータ・ディフェンシンアミノ酸配列と比較して、1〜5個のアミノ酸修飾、好ましくは1〜4個のアミノ酸修飾、より好ましくは1〜3個のアミノ酸修飾、最も好ましくは1〜2個のアミノ酸修飾、及び特に1個のアミノ酸修飾を含み得る。
【0023】
本明細書において、用語「修飾」は、哺乳動物の(例えばヒトの)ベータ・ディフェンシンの任意の化学修飾を意味する。1又は2以上の修飾は、1又は2以上のアミノ酸の置換、欠失、及び/又は挿入、並びに1又は2以上のアミノ酸側鎖の交換;又は当該アミノ酸配列において類似の特性を有する非天然のアミノ酸の使用であり得る。特に、1又は2以上の修飾は、アミド化、例えばC末端のアミド化であり得る。
【0024】
好ましくは、アミノ酸の修飾は小さい性質のものであり、そしてそれは、ポリペプチドのフォールディング及び/又は活性に大きな影響を与えない保存的アミノ酸置換又は挿入;単一の欠失;小規模なアミノ末端又はカルボキシル末端の伸長;約20〜25残基までの小さいリンカーペプチド;又は正味電荷を変更することによって精製を容易にする小規模な伸長、或いは別の機能のもの、例えばポリ−ヒスチジンタグ、抗原性エピトープ、又は結合ドメインである。
【0025】
保存的置換の例は、塩基性アミノ酸(アルギニン、リシン、及びヒスチジン)、酸性アミノ酸(グルタミン酸及びアスパラギン酸)、極性アミノ酸(グルタミン及びアスパラギン)、疎水性アミノ酸(ロイシン、イソロイシン、及びバリン)、芳香族性アミノ酸(フェニルアラニン、トリプトファン及びチロシン)、並びに小さいアミノ酸(グリシン、アラニン、セリン、スレオニン、及びメチオニン)の群の内で存在する。特異的な活性を通常変更しないアミノ酸置換は、例えば、H.Neurath and R.L.Hill,1979,In,The Proteins,Academic Press,New Yorkに記載されている。最も一般的に生じる交換は、Ala/Ser、Val/Ile、Asp/Glu、Thr/Ser、Ala/Gly、Ala/Thr、Ser/Asn、Ala/Val、Ser/Gly、Tyr/Phe、Ala/Pro、Lys/Arg、Asp/Asn、Leu/Ile、Leu/Val、Ala/Glu、及びAsp/Glyである。
【0026】
20個の標準的アミノ酸に加えて、非標準的アミノ酸(例えば、4−ヒドロキシプロリン、6−N−メチルリシン、2−アミノイソ酪酸、イソバリン、及びアルファ−メチルセリン)は、野生型ポリペプチドのアミノ酸残基と置換され得る。限定された数の非保存的アミノ酸、遺伝子コードをコードしないアミノ酸、及び非天然アミノ酸は、アミノ酸残基と置換され得る。「非天然アミノ酸」は、タンパク質合成後に修飾され、及び/又は1又は2以上の側鎖において標準的アミノ酸のものとは異なる化学構造を有する。非天然のアミノ酸は、化学的に合成され得、そして好ましくは、市販されており、そしてピペコリン酸、チアゾリジンカルボン酸、デヒドロプロリン、3−及び4−メチルプロリン、並びに3,3−ジメチルプロリンを含む。
【0027】
哺乳動物のベータ・ディフェンシンにおける必須のアミノ酸は、当技術分野で既知の手順、例えば部位特異的変異誘発、又はアラニン走査変異誘発(alanine−scanning mutagenesis)(Cunningham and Wells,1989,Science 244:1081−1085)に従って同定され得る。後者の技術において、単一のアラニンの変異は分子内における全ての残基に導入され、そして生じた変異分子は、生物学的活性(すなわち、関節リウマチに対する活性)を試験され、当該分子の活性に重要なアミノ酸残基を同定する。Hilton et al.,1996,J.Biol.Chem.271:4699−4708も参照のこと。必須のアミノ酸の同一性は、哺乳動物(例えばヒト)のベータ・ディフェンシンに関連するポリペプチドとの同一性の分析からも推測され得る。
【0028】
単一の又は複数のアミノ酸の置換が、既知の方法の変異誘発、組み換え及び/又はシャッフリングを用いてなされ得、及び試験され得、その後、関連性スクリーニング手順、例えばReidhaar−Olson and Sauer,1988,Science 241:53−57;Bowie and Sauer,1989,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 86:2152−2156;国際公開第95/17413号;又は国際公開第95/22625号に開示されたものが行われ得る。使用され得る他の方法は、エラー・プローンPCR、ファージ・ディスプレイ(例えば、Lowman et al.,1991,Biochem.30:10832−10837;米国特許第5,223,409号明細書;国際公開第92/06204号)、及び領域特異的突然変異誘発(region−directed mutagenesis)(Derbyshire et al.,1986,Gene 46:145;Ner et al.,1988,DNA 7:127)を含む。
【0029】
本発明のポリペプチドのN末端の伸長は好適には、1〜50個のアミノ酸、好ましくは2〜20個のアミノ酸、特に3〜15個のアミノ酸から成り得る。一の実施形態において、N末端ペプチドの伸長は、Arg(R)を含まない。別の実施形態において、N末端の伸長は、以下にさらに定義されるkex2又はkex2様切断部位を含む。好ましい実施形態において、N末端伸長は、少なくとも2つのGlu(E)及び/又はAsp(D)アミノ酸残基を含むペプチドであって、例えばN末端伸長は以下の配列の一つを含む:EAE、EE、DE及びDD。
【0030】
方法、及び用途
ヒト・ベータ・ディフェンシン2は、41日間コラーゲンで誘導された関節リウマチマウスモデルにおいて、疾患パラメーターの深刻度を著しく減少させ;したがって、関節リウマチ治療のための医薬として、強力な活性を示すことが判明した。
【0031】
本発明はしたがって、関節リウマチの治療方法を提供し、当該治療は、有効量の哺乳動物のベータ・ディフェンシンを、好ましくはヒト・ベータ・ディフェンシンを、より好ましくはヒト・ベータ・ディフェンシン2を、例えば医薬組成物の形態で、当該治療を必要とする対象へ投与することを含む。医薬の製造のための、哺乳動物のベータ・ディフェンシン、好ましくはヒト・ベータ・ディフェンシン、より好ましくはヒト・ベータ・ディフェンシン2がまた、提供され、及び、関節リウマチの治療のための医薬の製造のための、哺乳動物のベータ・ディフェンシン、好ましくはヒト・ベータ・ディフェンシン、より好ましくはヒト・ベータ・ディフェンシン2の使用がまた、提供される。治療は、存在する疾患又は障害の治療、及び疾患又は障害の予防(防止)を含む。
【0032】
哺乳動物のベータ・ディフェンシンは、経腸(例えば口腔、経口、経鼻、直腸)、非経口(例えば静脈内、頭蓋内、腹腔内、皮下、若しくは筋肉内)、又は局所(例えば、皮膚上、鼻腔内、若しくは気管内)を含む、任意の従来の経路による投与のために製剤化された組成物で、治療において使用され得る。他の実施形態において、本明細書に記載された組成物は、持続放出インプラントの一部として投与され得る。
【0033】
さらに他の実施形態において、好ましい実施形態の組成物は、凍結乾燥物としての安定性を提供する好適な賦形剤を用いて、凍結乾燥物として製剤化され得、その後に再水和される。
【0034】
哺乳動物のベータ・ディフェンシンを含む医薬組成物は、従来法に従って、例えば混合、整粒、被覆、溶解、又は凍結乾燥工程によって製剤化され得る。
【0035】
好ましい実施形態の医薬組成物は、哺乳動物のベータ・ディフェンシン、並びに医薬として許容される担体、及び/又は希釈剤を含む。
【0036】
哺乳動物のベータ・ディフェンシンは好ましくは、関節リウマチにおける治療のために有効である量で、好ましくは患者において許容される毒性で、医薬組成物において使用される。かかる治療のために好適な投与量は当然、例えば、使用される本発明の化合物の化学的性質及び薬物動態データ、個々の宿主、投与様式、並びに処置される健康状態の性質及び深刻度によって変化し得る。しかし一般的に、大型哺乳動物、例えばヒトにおける満足な結果のために、望ましい一日用量は、好ましくは約0.001mg/kg体重〜約100mg/kg体重、好ましくは約0.01mg/kg体重〜約50mg/kg体重、より好ましくは約0.05mg/kg体重〜約20mg/kg体重、及び最も好ましくは約0.1mg/kg体重〜約10mg/kg体重であり、例えば、1日に1回、2回、3回、又は4回の分割量で投与される。好ましい実施形態の化合物は、大型哺乳動物、例えばヒトへ、従来使用されているものと同様の投与様式で、同様の投与量で投与され得る。
【0037】
特定の実施形態において、好ましい実施形態の医薬組成物は、哺乳動物のベータ・ディフェンシン、例えばヒト・ベータ・ディフェンシンを、投与経路に依存して、単位剤形につき、約0.5mg以下〜約1500mg以上の量で含み得、そしてそれは、好ましくは約0.5、0.6、0.7、0.8、又は0.9mg〜約150、200、250、300、350、400、450、500、600、700、800、900、又は1000mgで、及びより好ましくは約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、又は25mg〜約30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、又は100mgで含み得る。しかし、特定の実施形態において、上記のものより低い又は高い投与量が好ましいものであり得る。好適な濃度及び投与量は、当業者によって容易に決定され得る。
【0038】
医薬として許容される担体及び/又は希釈剤は、当業者に既知である。液体溶液として製剤化された組成物に関して、許容される担体及び/又は希釈剤は、生理食塩水及び滅菌水を含み、並びに場合により抗酸化剤、緩衝剤、静菌剤、及び他の一般的な添加剤を含み得る。当該組成物はまた、丸剤、カプセル、顆粒、タブレット(被覆された、又は被覆されていない)、(注射可能)溶液、固溶体、懸濁液、分散液、固体分散体(例えばアンプル、バイアル、クリーム、ゲル、ペースト、吸入製剤、粉末、フォーム、チンキ剤、リップスティック、ドロップ、スプレー、又は坐剤の形態)として、製剤化され得る。当該製剤は、(哺乳動物のベータ・ディフェンシン、及び他の追加の活性成分に加えて、)担体、賦形剤、砕解剤、フロー・コンディショナー(flow conditioner)、糖類及び甘味剤、香料、保存剤、安定剤、湿潤剤、乳化剤、可溶化剤、浸透圧調節用の塩、緩衝剤、希釈剤、分散剤及び界面活性剤、結合剤、滑剤、並びに/又は当技術分野で既知の他の医薬用賦形剤を含み得る。当業者はさらに、好適な方法で、及び慣例に従って、例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciences,Gennaro,Ed.,Mack Publishing Co.,Easton,PA 1990に記載された方法で、哺乳動物のベータ・ディフェンシンをさらに製剤化し得る。
【0039】
哺乳動物のベータ・ディフェンシンは、単剤で、又は1、2若しくは3以上の他の医薬化合物若しくは薬剤物質を用いた併用療法で、及び/又は1若しくは2以上の医薬として許容される賦形剤と共に使用され得る。
【0040】
イン・ビトロにおける合成
哺乳動物のベータ・ディフェンシンは、当技術分野で既知の従来法を用いて、イン・ビトロにおける合成によって製造され得る。種々の市販の合成装置が利用可能であり、例えばApplied Biosystems Inc.、Beckman Inc.などの自動合成機がある。合成機を用いることによって、天然に存在するアミノ酸は、非天然のアミノ酸、特にD−異性体(又はD体)、例えばD−アラニン、及びD−イソロイシン、側鎖が異なる長さ又は官能基を有するジアステレオマーなどと置換され得る。特定の配列及び製造方法は、簡便性、経済性、必要とされる純度などによって決定され得る。
【0041】
結合のために好都合な官能基、例えば、アミドのための、又は置換アミン形成、例えば還元的アミノ化のためのアミノ基、チオエーテル又はジスルフィド形成のためのチオール基、アミド形成のためのカルボキシル基などを含む種々のペプチド又はタンパク質に、化学結合が提供され得る。
【0042】
必要に応じて、種々の基が、合成中又は発現中にペプチドへと導入され得、そしてそれらは、他の分子又は表面への結合を可能とする。したがって、システインは、チオエーテルを製造するために使用され得、ヒスチジンは、金属イオン錯体と結合するために使用され得、カルボキシル基はアミド又はエステルを形成するために使用され得、アミノ基はアミドなどを形成するために使用され得る。
【0043】
哺乳動物のベータ・ディフェンシンはまた、組み換え合成の従来法に従って、単離され且つ精製され得る。溶解物は、発現宿主から調製され得、そして当該溶解物は、HPLC、排除クロマトグラフィー、ゲル電気泳動、アフィニティー・クロマトグラフィー、又は他の精製技術を用いて精製され得る。
【0044】
本発明は、本発明の範囲を限定するものであるとして解釈されるべきではない、以下の実施例によってさらに説明される。
【実施例】
【0045】
実施例1
コラーゲンで誘導された関節リウマチモデルにおける、ヒト・ベータ・ディフェンシンの評価
hBD2の免疫調節効果に関する試験を通じて、hBD2が、抗炎症性における大きな潜在力を有することが予想外にも観察された。
【0046】
本明細書において、我々は、hBD2が、コラーゲンで誘導された関節リウマチマウスモデルの治療に大きな効果があることを示した。
【0047】
ヒト・ベータ・ディフェンシン2(hBD2)
hBD2を組み換えで産生した。hBD2をコードする合成DNA断片(DNA2.0)を、pET−32(+)発現ベクター(Novagen)へとクローン化した。生じたプラスミドは、N末端チオレドキシン部位、その後にhis−タグ、エンテロキナーゼ切断部位、及び最後にhBD2ペプチドを含む、翻訳用融合ペプチドをコードした。発現プラスミドを、E.coli株BL21へと形質転換した。
【0048】
この株の一晩培養物を、100μg/mlのアンピシリンを含有するTB−グリセロールで100倍に希釈し、そして37℃にて約8のOD600となるように増殖させ、そして0.5mMのIPTGで3時間誘導し、その後細胞を遠心分離で採取した。his−タグされたtrx−hBD2融合ペプチドを、標準的手順を用いて、Ni−NTAビーズ(QIAGEN)上で精製した。his−タグ精製された融合ペプチドをその後、エンテロキナーゼ緩衝液(50mM tris−HCl pH7.5,1mM CaCl2)中にて一晩透析し、そしてエンテロキナーゼで切断して成熟hBD2を放出した。hBD2ペプチドを、Source 15S matrix(Amersham Biosciences)を用いた陽イオン交換クロマトグラフィーによってさらに精製した。hBD2の正確な分子量を、MALDI−TOF質量分析を用いて確認した。
【0049】
mBD3(実施例5参照)の産生を、同一の手順を用いて行った。
【0050】
hBD2の適切なフォールディング及びジスルフィド架橋形態をその後、LC−MS及びNMR分光法と連動したトリプシン消化を用いて確認した。
【0051】
エンドトキシンを分取RP−HPLCによって低pHにて除去し、そしてエンドトキシンの含有量をLALアッセイ(Endosafe KTA2)によって決定し、そして当該レベルは、当該アッセイの検出限界(0.05EU/mg)未満であることが分かった。エンドトキシンアッセイの検出限界未満のレベルが、PBMCを刺激することができないことを確定するために、非常に強力なリポ多糖(E.coli,O111:B4,Sigma L4391)を用いた刺激の滴定曲線を行った。非常に低レベルのこのLPS(0.06ng/ml)は、検出可能なサイトカイン産生へとPBMCを刺激することができた。
【0052】
以下の試験の目的は、関節リウマチにおける、ヒト・ベータ・ディフェンシン2の抗炎症活性を決定することであった。
【0053】
試験系
種/系統:マウス/DBA/1
源:Harlan、UK
性別:雄
動物数:n=50
年齢:ヤング・アダルト、試験開始時6〜8週齢
体重:本試験で使用される動物の健康状態を、到着時に調べた。良好な健康状態である動物のみを実験条件に順化させ、そして本試験に使用した。
順化:少なくとも7日間
収容:順化及び以下の投与の間、動物をアクセス制限されたげっ歯類施設に収容し、そして床が硬く、寝具材料として木屑を満たしたポリプロピレンのケージ(45cm×25cm×13cm)中で、最大で10匹のグループで維持した。ケージを1週間に1回変更した。
食餌及び水:動物は、市販のげっ歯類用食餌を適宜提供され、そして、ステンレス鋼のシッパー・チューブ(sipper tube)を備えたポリプロピレンの容器経由で各々のケージに供給される飲料水へのアクセスは自由であった。水容器を少なくとも3週間に1回変更した。水を、1週間に3回変更した。
環境:温度20〜24℃、相対湿度(RH)30〜70%、12時間/12時間の明/暗サイクル、及び1時間当たり10〜30回の換気を試験室内で維持するように、自動制御される環境条件を設定した。温度及びRHを手動測定及び制御コンピューターの両方によって毎日観測した。光のサイクルを制御コンピューターによって観測した。
識別:動物の耳に、固有の動物識別番号を付与した。この番号はまた、各々のケージの前面で視認可能なケージ・カードにも記載された。ケージカードは、試験番号も含んだ。
ランダム化:動物を実験グループにランダムに振り分けた。
終了:試験終了時、生存する動物にO2/CO2を吸入させ、その後放血することにより安楽死させた。
正当化:マウスが本実験動物モデルのために選択された種であることを示すために、マウスを選択した。DBA/1系統マウスはコラーゲンで誘導された関節炎(CIA)に対して高い感受性を有する。
【0054】
材料
ヒト・ベータ・ディフェンシン2(hBD2);上記参照
デキサメタゾン(Sigma,cat.no.D1756)
ウシII型コラーゲン(MD Biosciences, cat.no.804001314)
完全フロインドアジュバント(Complete Freund’s Adjuvant)(CFA)(MD Biosciences,cat.no.501009703)
PBS(PAA,cat no.H15−002)
【0055】
試験グループの構成
【0056】
【表1】

【0057】
関節炎の誘導
全ての動物は、試験0日目時点(試験開始時)で、イソフルレンによる浅麻酔下で、プラスチック製シリンジを用いて、0.1mlのII型コラーゲン/CFAエマルション(マウス1匹当たり200μgのコラーゲン)を、尾に皮内注射された。注射位置は、尾の基部から約1cm尾側であった。21日目に、コラーゲン及びPBSのIP注射によって、動物にコラーゲン(200μg/マウス)を投与した。
【0058】
治療
試験14日目に治療を開始し、そして1日1回を継続した。全生存マウスは、試験42日目に終了された。
【0059】
投与経路:
(i)hBD2:静脈内
(ii)デキサメタゾン:腹腔内
(iii)ビヒクル・コントロール:静脈内
【0060】
投与量及び体積投与量(表1も参照):
(i)hBD2:5mL/kgで、10、1又は0.1mg/kg
(ii)デキサメタゾン:5mL/kgで、1mg/kg
(iii)ビヒクル・コントロール:5mL/kgで、0mg/kg
【0061】
鎮痛:鎮痛剤は本試験の間使用されなかった。
【0062】
観察及び検査
関節炎反応
試験0、14、21日目において、その後試験終了までに週に5回、末梢関節における炎症性応答の兆候に関して、マウスを検査した。関節炎反応は、以下に示される重症度の昇順における0〜4スケールに従って、各々の足に関して報告された:
【0063】
【表2】

【0064】
臨床兆候
0、14、21日目において、及びその後試験終了まで週に5回、注意深く臨床試験が行われ、そして記録された。観察は、皮膚、毛、眼、粘膜の変化、分泌物及び排出物の発生(例えば下痢)、並びに自律神経活動(例えば流涙、唾液分泌、立毛、瞳孔の大きさ、呼吸器の異常パターン)における変化を含んだ。歩き方、姿勢の変化、及びハンドリングに対する応答、並びに奇矯な行動の存在、震え、けいれん、睡眠、及び昏睡が同様に記録された。
【0065】
14日目より前に、全ての異常行動について、マウスは毎日監視された。
【0066】
体重
0、14、21日目における関節炎誘導の前に、及びその後試験終了までに週に5回の関節炎誘導の前に、速やかに動物の個々の体重の決定を行った。
【0067】
実験的関節炎の測定
ダイヤルカリパス(Kroeplin,Munich,Germany)を使用して、試験0、14、21日目、及びその後試験終了までの週に5回、各々の動物の両方の後足(左及び右、足蹠の直下、及び踵骨の上)の厚さにおける相対的変化をmmで測定した。
【0068】
試験の終了
全てのマウスは、試験42日目で終了された。
【0069】
試料回収
試験終了時に、O2/CO2吸入の後、最終的な血液試料を残存する全ての試験動物から得た。各々の試料から血清を調製し、−20℃で保管した。さらに、左前足及び後足を回収し、ホルマリン中で保管し、そして右前足及び後足を回収し、可能な関節RNA分析のために瞬間凍結した。
【0070】
人道的エンドポイント
瀕死状態と認められた動物、並びに重度の疼痛及び重度の苦痛の兆候の持続を示した動物を人道的に安楽死させた。さらに、初期体重決定から20%超の体重減少を示した動物を人道的に安楽死させた。全関節炎スコアが12超であるマウスも、人道的理由により処分した。O2/CO2吸入させ、その後放血することによって、全ての動物を安楽死させた。足試料及び最終的な血液試料を全ての試験動物から得た。
【0071】
統計的分析
評価は主に、関節炎スコア及び足の厚さの測定の平均値に基づいた。必要に応じて、好適な統計方法によるデータの分析が、治療効果の有意性を決定するために適用された。ANOVA、その後のTukey事後分析(Winstat 2005.1 Excel用)を、治療群間の統計的差異を評価するために用いた。
【0072】
内務省の規制に従って、12又はそれ以上の全臨床スコアを有するマウスを、関節炎の重症性のために処分した。終了時におけるこれらのマウスの臨床スコアは、高スコアのマウスの除去によって当該データが人工的に歪曲されないように、当該試験の残余に関する分析に持ち越された。
【0073】
動物のケア及び使用の陳述
本試験は、科学的方法における動物の使用に関する、英国内務省の規制に従って行われた。
【0074】
結果
表2.コラーゲンで誘導された雄DBA/1関節炎マウスにおいて、42日の観察期間中で決定された平均臨床関節炎スコア。*p<0.05、ビヒクル群からの有意差
【0075】
【表3】

【0076】
結論
関節炎反応は、試験14日目からの全グループにおいて確認された。ビヒクルで処置されたマウスにおける平均の全関節炎スコア(表2)は、試験41日目において8.5±0.72で最大であった。10mg/kgのhBD2で処置されたマウス(グループC)における平均関節炎スコアは、23日目から試験終了時まで、ビヒクル処置されたマウスに比べて低かったが、41日目でのみ有意であった。
【0077】
1mg/kgのhBD2で処置されたマウス(グループD)における平均全関節炎スコアは、試験41日目において5.2±1.1で最大であり、そして21日目から試験終了時まで、ビヒクル処置群に比べて一貫して低かったが、40日目でのみ有意であった。0.1mg/kgのhBD2で処置されたマウス(グループE)における処置は、ビヒクル処置群と比較して、平均全関節炎スコアを有意に低下させなかった。このグループにおける平均スコアは、試験40日目において9.0±0.77で最大であった。デキサメタゾン処置群(グループB)におけるマウスは、試験26日目から試験終了時まで、ビヒクル処置群に比べて有意に低い関節炎スコアを示した。
【0078】
関節炎の重症性のために本試験において早期に処分されたマウスの除去がデータを人工的に歪曲しなかったことを保証するために、かかるマウスからの関節炎スコアが試験終了まで、当該分析中に持ち越された。
【0079】
実施例2
ヒト・ベータ・ディフェンシン2(hBD2)の抗炎症活性
ヒトPBMC培養中において、hBD2を用いた処置が、LPS、LTA又はペプチドグリカン刺激された培養のサイトカイン・プロファイルにおいて大きな影響を有することが観察された。hBD2が炎症性サイトカイン、並びに、ケモカインIL−6、IL−1β、RANTES、IP−10及びIL−8を誘導することができることは以前に観察されている(Niyonsaba et al.2007,Boniotto M.et al.2006)。
【0080】
本明細書において我々は、hBD2が2つの炎症性サイトカイン、TNF及びIL−1βに対する下方制御潜在力を有することを;そしてhBD2がまた、リポポリ多糖(LPS)、リポタイコ酸(LTA)、又はペプチドグリカン(PGN)を用いた炎症性刺激の誘導時において、IL−10を誘導することを示した。IL−10は、潜在的な抗炎症性サイトカインであり、したがって、hBD2のもたらす効果は抗炎症性である。これは、ヒトPBMC、単球細胞株、及び樹状細胞株(dendritoid cell line)において観察された。
【0081】
hBD2は、実施例1に記載された通りに調製された。
【0082】
PBMCの単離及び刺激
(デンマークの関連倫理委員会から認定されている)健常者から末梢血を採取した。ヘパリン添加血液をRPMIで1/1(v/v)で希釈し、そして2時間以内のFicoll密度遠心にかけた。血漿を個々のドナーの上清から回収し、そしてそれが培養培地(自家培養培地)中2%で使用されるまで、氷上で保存した。単離されたPBMCを自家培養培地中で再度懸濁し、そして96ウェル培養プレートに、1ウェルあたり255.000個の細胞で、全体で200μlとなるようにまいた。100、10、又は1μg/mlのhBD2を、それ単体で、或いは、0.6ng/ml若しくは20ng/ml(E.coli,O111:B4,Sigma L4391)のLPS、1.25μg/mlのリポタイコ酸(LTA)(B.サブチリス(subtilis)由来,Sigma L3265)、又は40μg/mlのペプチドグリカン(PGN)(S.アウレウス(aureus)由来,Sigma 77140)と共に用いて、同一ドナー由来のPBMCを刺激した。刺激のために使用される濃度は、実験初期に3人の異なるドナーにおいて最適化され、LPSに関しては、2つの異なる濃度が使用されて、調節可能なサイトカインレベル上にあることを確実なものとした。幾つかの実験において、デキサメサゾン及びインドメタシンを、単剤で、及び炎症性サイトカインの下方制御のコントロールとしてのLPS又はLTAを共に用いてPBMCを処置した。37℃で24時間のインキュベーション後に上清を回収し、そしてサイトカインの測定まで−80℃で貯蔵した。全ての実験において生存率をAlamar Blue(Biosource,DALL1100)によって測定し、そして幾つかの場合においてはMTS(Promega)によって製造業者の使用説明に従って測定し、そして幾つかの実験において、Nucleocounterによって細胞数をカウントすることによって判断した。
【0083】
MUTZ−3の培養及び刺激
ヒト骨髄性白血病由来の細胞株MUTZ−3(DSMZ,Braunschweig,Germany)を、a−MEM(Sigma M4526)中で維持し、20%[v/v]ウシ胎仔血清(Sigma F6178)、及び40ng/ml rhGM−CSF(R&D Systems 215−GM−050)を追加した。これらの前駆細胞は以下に示す単球細胞株中に存在し、そしてこれらの単球を、100、10又は1μg/mlのhBD2を、単剤で、又はLPS若しくはLTAと共に用いて刺激した。
【0084】
樹状細胞の分化
樹状細胞株を生じさせるために、rhGM−CSF(150ng/ml)及びrhlL−4(50ng/ml)の存在下で、ヒト骨髄性白血病細胞株MUTZ−3(1×105細胞/ml)を、7日間かけて分化させて未熟DCとした。2〜3日毎に培地を交換した。分化された細胞株を、LPS又はLTAのいずれかを用いて、hBD2の存在下で及び不在下でさらに刺激して、樹状細胞におけるhBD2の効果を調べた。
【0085】
サイトカインの測定
上清中におけるサイトカイン産生を、FACSアレイ・フローサイトメーター上で、ヒト炎症サイトメトリック・ビーズ・アレイ(CBA)を用いたフローサイトメトリーによって、製造業者の使用説明(BD)に従って測定した。以下のサイトカインを測定した:IL−8、IL−1β、IL−10、TNF、IL−12p70、IL−6。幾つかの実験において、R&D systemsのELISAキット(IL−10、TNF−α、IL−1β)によって、製造業者の使用説明に従って、サイトカインを測定した。
【0086】
データ分析
代表的結果が示されるように、全ての実験を少なくとも2回行った。得られたデータを、平均±標準偏差(SD)として表現した。表の説明文に記載されたように、変数が処置(hBD2、デキサメサゾンなど)及び刺激(LPS、LTA、ペプチドグリカンなど)である2−way ANOVAを行い、その後、Bonferroni事後検定を行うことによって統計的有意性を決定した。差は、p<0.05で有意であると見なされた。
【0087】
結果
LPS及びLTAで、処理された及び無処理のヒトPBMCで、hBD2の効果を試験した(表3、4及び5)。hBD2を用いた処理により、全3つの試験された濃度に関して、刺激された培養においてTNFの有意な下方制御がなされ(表3)、当該下方制御は、0.6ng/mlのLPSに関して、及びLTAに関して用量依存的であった。IL−1βに関して、主に最高用量で下方制御が観察された(表4)。興味深いことに、IL−10は有意に且つ用量依存的に上方制御された(表5)。炎症性サイトカインの下方制御、及び抗炎症性サイトカインの誘導は、hBD2の非常に強い抗炎症潜在力を示す。hBD2の抗炎症効果が細胞毒性効果によるものであることを排除するために、生存率を2つの異なるアッセイで測定した。hBD2は、細胞において細胞毒性を有さず、観察される効果は、細胞増殖をもたらす、LPS又はLTAの刺激による刺激効果であることが、表6及び7において見られる。したがって、hBD2は、これらの細胞において細胞毒性効果を有さない。
【0088】
表8、9及び10において、別のドナーからの上清は、フローサイトメトリーによるサイトメトリック・ビーズ・アッセイの代わりに、ELISAによって、サイトカインに関して分析され、同一のことが観察されたが、アッセイの感度がより低く、そして検出限界が非常により高いため、当該効果が有意なものではなかった。
【0089】
さらに別のToll様受容体リガンドを試験するために、ペプチドグリカンで刺激されたPBMCにおけるhBD2の効果が調べられた(表11及び12)。同一のことが観察された:TNFは用量依存的に下方制御され、そしてIL−10は用量依存的に誘導された。
【0090】
TNFの下方制御のポジティブ・コントロールとして、2つの抗炎症性化合物、デキサメタゾン及びインドメタシンを、アッセイにおいて試験した。当該化合物が毒性ではなく、且つ培地への溶解性のために達成可能な濃度であるように、濃度は選択された。LTAを用いた刺激後にのみ、インドメタシンはTNFを阻害したが(表13)、デキサメタゾンは、TNF産生を効果的に下方制御し、同一のことがIL−1βに関して観察された(表15)。インドメタシンは、COX−1及びCOX−2阻害剤であり、軽度〜中等度の痛みを治療するために使用される非ステロイド系抗炎症剤であり、関節炎症状を緩和するために有用であり、並びにデキサメタゾンは炎症性疾患の治療において第一に使用される合成グルココルチコイドであり、そしてそれは、非常に低用量で、炎症性サイトカインに対して非常に強力な下方制御効果を有し(Rowland et al.1998)、そしてそれを我々は、TNF−α及びIL−1βに関しても観察した。hBD2は、2つの抗炎症性化合物と同じくらい、またはそれらよりも効果的であった。
【0091】
表16及び17において、単球細胞株、及び樹状細胞においてTNFを下方制御する、hBD2の効果が示され、同じことがPBMCに関して観察された。IL−10はまた、hBD2且つLPS、又はhBD2且つLTAで刺激された樹状細胞に関して誘導された(結果は示さず)。
【0092】
LPS又はLTAへのhBD2の結合がTNF及びIL−1βの下方制御を引き起こすことを排除するために、合成リガンド(Pam3CSK4(TLR2−TLR1リガンド),InvivoGen tlrt−pms)を用いたPMBCの刺激に対するhBD2の効果を試験した。このリガンドを用いた刺激後においても、hBD2は下方制御することができ、このことは、LPS又はLTAの中和が、観察される効果に関与しないことを示している(結果は示さず)。さらに、TNF−α及びIL−αを含有するサイトカイン・カクテル、並びにhBD2を用いた樹状細胞の刺激は、サイトカイン・カクテル単体を用いた刺激と比較して、IL−1β、及びIL−8、及びIL−6の下方制御効果を有した。TNF−αを用いた刺激のために、TNFに対する効果を明白に分析することができなかった(結果を示さず)。
【0093】
表3.LPS又はLTAを用いた、hBD2を用いた及び用いない処置後における、ヒト末梢血単核細胞(PBMC)からのTNF産生。全ての試料は同一のドナーで試験された。5人のドナーからの代表的実験。TNFはFACSアレイ上でのサイトメトリック・ビーズ・アレイ(CBA)によって測定された。***p<0.001、各々のコントロール(太字)と比較、2−way ANOVAによって分析(各々のデータ・セットに関してN=約200)。
【0094】
【表4】

【0095】
表4.LPS又はLTAを用いた、hBD2を用いた及び用いない処置後における、ヒト末梢血単核細胞(PBMC)からのIL−1β産生。全ての試料は同一のドナーで試験された。5人のドナーからの代表的実験。IL−1βはFACSアレイ上でのサイトメトリック・ビーズ・アレイ(CBA)によって測定された。***p<0.001、2−way ANOVAによって分析(各々のデータ・セットに関してN=約200)。
【0096】
【表5】

【0097】
表5.LPS又はLTAを用いた、hBD2を用いた及び用いない処置後における、ヒト末梢血単核細胞(PBMC)からのIL−10産生。全ての試料は同一のドナーで試験された。5人のドナーからの代表的実験。IL−10はFACSアレイ上でのサイトメトリック・ビーズ・アレイ(CBA)によって測定された。***p<0.001,**p<0.01,*p<0.5、2−way ANOVAによって分析(各々のデータ・セットに関してN=約200)。
【0098】
【表6】

【0099】
表6.MTSアッセイによって測定された、刺激の24時間後におけるPBMC生存率。横列中、異なる下付き文字を有する値は有意差があり、2−way ANOVA、その後Bonferroni事後検定を行うことで検定された。
【0100】
【表7】

【0101】
表7.Alamar Blueによって測定されたPBMC生存率、5人の異なるドナーからの、5つの実験からの、1つの代表的実験。横列中異なる上付き文字を有する値、及び縦列中異なる上付き文字を有する値は有意差があり、2−way ANOVA、その後Bonferroni事後検定を行うことで検定された。
【0102】
【表8】

【0103】
表8.hBD2、LTA、LPS又はそれらの組み合わせを用いた刺激後における、PBMCからのTNF−アルファ分泌。TNF−アルファはELISAによって測定された。nd:検出不能、アッセイにおける検出限界0.01ng/ml、*p<0.05、各々のコントロールと比較;**p<0.01、各々のコントロールと比較。
【0104】
【表9】

【0105】
表9.hBD2、LTA、LPS又はそれらの組み合わせを用いた刺激後における、PBMCからのIL−10分泌。TNF−アルファはELISAによって測定された。nd:検出不能、アッセイにおける検出限界0.03ng/ml。
【0106】
【表10】

【0107】
表10.hBD2、LTA、LPS又はそれらの組み合わせを用いた刺激後における、PBMCからのIL−1β分泌。TNF−アルファはELISAによって測定された。nd:検出不能、アッセイにおける検出限界0.016ng/ml、**p<0.01、各々のコントロールと比較。
【0108】
【表11】

【0109】
表11.PGNを用いた、hBD2を用いた及び用いない処置後における、ヒト末梢血単核細胞(PBMC)からのTNF産生。全ての試料は同一のドナーで試験された。TNFはFACSアレイ上でのサイトメトリック・ビーズ・アレイ(CBA)によって測定された。***p<0.001、各々のコントロールと比較、2−way ANOVAによって分析(各々のデータ・セットに関してN=約200)。
【0110】
【表12】

【0111】
表12.PGNを用いた、hBD2を用いた及び用いない処置後における、ヒト末梢血単核細胞(PBMC)からのIL−10産生;全ての試料は同一のドナーで試験された。TNFはFACSアレイ上でのサイトメトリック・ビーズ・アレイ(CBA)によって測定された。***p<0.001、各々のコントロールと比較、2−way ANOVAによって分析(各々のデータ・セットに関してN=約200)。
【0112】
【表13】

【0113】
表13.LPS又はLTAを用いた、hBD2又はTNF阻害のための2つの異なるコントロール(デキサメタゾン及びインドメタシン)を用いた及び用いない処置後における、ヒト末梢血単核細胞(PBMC)からのTNF産生;全ての試料は同一のドナーで試験された。TNFはFACSアレイ上でのサイトメトリック・ビーズ・アレイ(CBA)によって測定された。下線の引かれた値は各々のコントロール(太字)と比較して有意に減少した。2−way ANOVAによって分析された(各々のデータ・セットに関してN=約200)。
【0114】
【表14】

【0115】
表14.LPS又はLTAを用いた、hBD2又は抗炎症効果のための2つの異なるコントロール(デキサメタゾン及びインドメタシン)を用いた及び用いない処置後における、ヒト末梢血単核細胞(PBMC)からのIL−10産生;全ての試料は同一のドナーで試験された。IL−10はFACSアレイ上でのサイトメトリック・ビーズ・アレイ(CBA)によって測定された。下線の引かれた値は各々のコントロール(太字)と比較して有意に増加した。2−way ANOVAによって分析された(各々のデータ・セットに関してN=約200)。
【0116】
【表15】

【0117】
表15.LPS又はLTAを用いた、hBD2又は抗炎症効果のための2つの異なるコントロール(デキサメタゾン及びインドメタシン)を用いた及び用いない処置後における、ヒト末梢血単核細胞(PBMC)からのIL−1β産生;全ての試料は同一のドナーで試験された。IL−1βはFACSアレイ上でのサイトメトリック・ビーズ・アレイ(CBA)によって測定された。下線の引かれた値は各々のコントロール(太字)と比較して有意に減少した。2−way ANOVAによって分析された(各々のデータ・セットに関してN=約200)。
【0118】
【表16】

【0119】
表16.LPS又はLTAを用いた、hBD2を用いた及び用いない処置後における、ヒト単球細胞株(MUTZ−3)の上清におけるTNF産生。TNFはFACSアレイ上でのサイトメトリック・ビーズ・アレイ(CBA)によって測定された。*各々のコントロールと比較してp<0.05、**p<0.01、各々のコントロールと比較、2−way ANOVAによって分析(各々のデータ・セットに関してN=約200)。
【0120】
【表17】

【0121】
表17.(成熟DCを生じさせるために)LPS又はLTAを用いた、hBD2を用いた及び用いない処置後における、未成熟樹状細胞の上清におけるTNF産生。TNFはFACSアレイ上でのサイトメトリック・ビーズ・アレイ(CBA)によって測定された。*各々のコントロールと比較して有意に減少、p<0.05、***各々のコントロールと比較して有意に減少、p<0.01、2−way ANOVAによって分析された(各々のデータ・セットに関してN=約200)。
【0122】
【表18】

【0123】
実施例3
hBD1、hBD2、hBD3、及びhBD4バリアントの抗炎症活性
基本的に実施例2に記載された通りに実施例3を行った。下の表に示した通り、化合物rhBD2は組み換えhBD2であり、そしてそれは実施例2において使用されたhBD2と同一である。
【0124】
下の表に示した通り、化合物hBD1、hBD2、hBD3、及びhBD4バリアントは、化学合成を用いて調製され、そしてPeptide Institute Inc.から得た。
【0125】
組み換えhBD2(rhBD2)のアミノ酸配列は、化学合成により調製されたhBD2のアミノ酸配列と同一である。
【0126】
下の表で示されたhBD4バリアントは、hBD4のアミノ酸3〜39から成り、そして当該アミノ酸の配列は配列番号5に示した通りである。
【0127】
各々の表において、全ての試料は同一のドナーで試験された。SDは標準偏差を意味する。
【0128】
結果
表18.LPSを用いた、ヒト・ベータ・ディフェンシン、デキサメタゾン、又はインフリキシマブを用いた及び用いない処置後における、ヒト末梢血単核細胞(PBMC)からのTNF産生。TNFはFACSアレイ上でのサイトメトリック・ビーズ・アレイ(CBA)によって測定された。*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001、2−way ANOVAによって分析、及びBonferroni事後検定によって未処置細胞と比較。
【0129】
【表19】

【0130】
表19.LPSを用いた、ヒト・ベータ・ディフェンシン、デキサメタゾン、又はインフリキシマブを用いた及び用いない処置後における、ヒト末梢血単核細胞(PBMC)からのIL−10産生。IL−10はFACSアレイ上でのサイトメトリック・ビーズ・アレイ(CBA)によって測定された。*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001、2−way ANOVAによって分析、及びBonferroni事後検定によって未処置細胞と比較。
【0131】
【表20】

【0132】
表20.LPSを用いた、ヒト・ベータ・ディフェンシン、デキサメタゾン、又はインフリキシマブを用いた及び用いない処置後における、ヒト末梢血単核細胞(PBMC)からのIL−1β産生。IL−1βはFACSアレイ上でのサイトメトリック・ビーズ・アレイ(CBA)によって測定された。***p<0.001、2−way ANOVAによって分析、及びBonferroni事後検定によって未処置細胞と比較。
【0133】
【表21】

【0134】
hBD1、hBD2、hBD3、及びhBD4バリアントの効果を、LPSで処置された及び処置されていないヒトPBMCで試験した(表18、19及び20)。比較のために、rhBD2を各々の設定に含めた。
【0135】
全てのディフェンシンに関して、TNFは下方制御された。IL−1β分泌の減少は、TNFと同等であったが、TNFほど顕著ではなかった。hBD2及びhBD4バリアントに関して、IL−10の分泌は、有意に且つ用量依存的に上昇した。
【0136】
hBD3は10μg/ml及び40μg/mlで試験され、並びにhBD4バリアントは40μg/mlで試験された;しかし、これらの濃度においていずれの分子も毒性であったために、毒性効果と抗炎症性効果とを区別することができなかった。
【0137】
TNFの下方制御のポジティブ・コントロールとして、2つの抗炎症性化合物、デキサメタゾン及びインフリキシマブが当該設定中に含まれた。
【0138】
結論
全ての試験されたヒト・ベータ・ディフェンシンは、抗炎症潜在力を示した。
【0139】
実施例4
ヒトの単球由来樹状細胞及びヒトPBMCの、IL−23の減少
実施例4は、ヒトPBMCに関して基本的に実施例2で記載された通りに行われた;しかし、読み出しはTNF、IL−1β、及びIL−10の代わりにIL−23であった。さらに、ヒトの単球由来樹状細胞におけるrhBD2の効果が同様に調べられた。
【0140】
単球由来樹状細胞(DC)の生成
DCは、Romani et al.によって初めに記載された改良手順に従って調製された。簡潔に述べると、末梢血単核細胞(PBMC)は、Ficoll−paque(GE−healthcare)グラジエントをかけた遠心分離によって、健常なドナーの軟膜から精製された。製造業者の使用指示に従った、マグネティックビーズ(Dynal,Invitrogen)による、CD14+細胞の正の選択によって、単球をPBMCから単離した。CD14+単球を、RPMI/2%ヒトAB血清、組換え型ヒト顆粒球マクロファージ刺激因子(GM−CSF、20ng/ml)、及びIL−4(20ng/ml)(PeproTech)中で6日間、6ウェルプレート中で培養し、2日後、及び5日後に培地/サイトカインを再補充した。培養6日後、未熟DCを96ウェルプレート中で1×106細胞/mlの濃度で再度培養し、そしてさらに24時間、カクテル、及び/又はhBD2で、処置されなかったか、又は処置された。hBD2を4つの濃度で、4通りで試験した。LPS(100ng/ml)及びIFN−γ(20ng/ml)を含む炎症性カクテルを用いて、hBD2は、炎症性フェノタイプへのhDC成熟を抑制するその能力を分析された。デキサメタゾンを加え、20時間後に当該カクテルを、臨床的抗炎症活性を有することが証明されている化合物のためのポジティブ・コントロールとして加えた。hBD2とのインキュベーションを行い、4時間後にカクテルを加えた。
【0141】
サイトカインELISA
細胞培養上清を回収し、−80℃で保存した。製造業者の手順(eBioscience)に従って、市販の抗体及びスタンダードを用いた標準的サンドイッチELISAによって、IL−23の量を測定した。
【0142】
MTTアッセイ
ビヒクル、カクテル、又はhBD2を用いた処置によって任意の細胞が大幅に影響を受けるか否かを評価するために、48時間後の細胞の生存の測定において、MTT系細胞増殖決定キットを使用し、製造業者の手順(Sigma)に従って行った。
【0143】
統計学的分析
全ての実験は少なくとも2回行われ、代表的な結果を示す。示されたデータは、平均±標準誤差(SEM)として表現された。表の説明文に記載されたように、変数が処置(hBD2、デキサメタゾンなど)及び刺激(LPS、LTA、ペプチドグリカンなど)である、2−way ANOVAを行い、その後Bonferroni事後検定を行うことによって、統計的有意性を決定した。差はp<0.05で有意であると考えられた。
【0144】
結果
表21.培地(未刺激)、又はLPS及びIFN−γのいずれかで刺激され、培地(未処置)、hBD2、又はデキサメタゾンのいずれかで処置された、ヒトCD14+単球由来樹状細胞の上清中のIL−23(pg/ml)、平均(SEM)、N=4、3人の内1人の代表的ドナー。*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001、2−way ANOVAによって分析、Bonferroni事後検定によって未処置細胞と比較。nd:検出されず(検出限界未満)。
【0145】
【表22】

【0146】
表22.培地(コントロール)、0.6ng/ml LPS、20ng/ml LPS、又は5μg/ml LTAのいずれかで刺激され、hBD2、デキサメタゾン、又はインフリキシマブで処置された、ヒトPBMCの上清中のIL−23(pg/ml)、平均(SEM)。*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001、2−way ANOVAによって分析、Dunnett多重比較事後検定によって未処置細胞と比較。
【0147】
【表23】

【0148】
表21に示された通り、hBD2は、有意に且つ用量依存的に、ヒトCD14+単球由来樹状細胞からのIL−23分泌を抑制した。
【0149】
ヒトPBMCに関して、IL−23分泌はまた、有意に抑制された(表22)。これらの細胞において、逆の用量依存性が存在し、そしてそれは、より低用量のhBD2を試験したとき、鐘形の用量−反応阻害曲線であることが分かった(データを示さず)。
【0150】
これは、IL−23分泌の抑制によって、hBD2が慢性自己免疫状態の抑制効果を有し、したがってIL−23が、炎症性応答において重要な役割を果たすことを示している。Th17細胞は、それらの生存及び増殖に関して、IL−23に依存しており、そしてTh17細胞は、幾つかの自己免疫疾患、例えばクローン病、潰瘍性大腸炎、乾癬、及び多発性硬化症の病因であることが示されている。
【0151】
実施例5
マウス・ベータ・ディフェンシン3(mBD3)を用いた、PBMCからのTNF分泌の減少
実施例5は基本的に、ヒトPBMCに関して、実施例2に記載された通りに行われた。実施例1においてhBD2の産生のために使用された手順と同一のものを使用して、マウス・ベータ・ディフェンシン3(mBD3)を調製した。mBD3のアミノ酸配列は配列番号6に示される。マウスPBMCを、以下に記載した通りに調製した。
【0152】
マウス末梢血単核細胞(PBMC)の単離及び刺激
マウス末梢血単核細胞を、10匹のNMRIマウスの血液から単離した。要約すれば、ヘパリン添加血液をRPMIで1/1(v/v)で希釈し、そして2時間以内でFicoll密度遠心分離にかけた。血漿を上清から回収し、そして廃棄された。単離されたPBMCを培養培地(RPMI 1640(Gibco,42401)w/1%ペニシリン及びストレプトマイシン並びに1% L−グルタミン)中で再度懸濁し、そして96ウェル培養プレートに、1ウェルあたり155.500個の細胞で、全体で200μlとなるようにまいた。100、10、又は1μg/mlのhBD2又はmBD3(マウス・ベータ・ディフェンシン3)を;それ単体で、又は、20ng/mlのLPS(E.coli,O111:B4,Sigma L4391)と共に用いて、同一のドナーからのPBMCを刺激した。LPS刺激をした及びしていない培地へ、デキサメサゾンを3.5ng/ml加えた。37℃で24時間インキュベーション後に上清を回収し、そしてサイトカインの測定まで−80℃で貯蔵した。
【0153】
FACSアレイ・フローサイトメーターにおける製造業者の使用説明に従って、マウス炎症サイトメトリック・ビーズアレイ(CBA)を用いたフローサイトメトリーによって、上清におけるサイトカインの産生を測定した。
【0154】
上清を回収後、生存率をAlamar Blue(Biosource,DALL1100)によって測定した。
【0155】
結果
表23.LPSを用いた、hBD2を用いた及び用いない処置後における、ヒト末梢血単核細胞(PBMC)からのTNF産生。全ての試料を同一のドナーで試験された。2人のドナーからの代表的実験。TNFはFACSアレイ上でのサイトメトリック・ビーズ・アレイ(CBA)によって測定された。***p<0.001、各々のコントロールと比較。2−way ANOVAによって分析(N=2)。
【0156】
【表24】

【0157】
表24.LPSを用いた、mBD3を用いた及び用いない処置後における、マウス末梢血単核細胞(PBMC)からのTNF産生。2匹のドナーからの代表的実験。TNFはFACSアレイ上でのサイトメトリック・ビーズ・アレイ(CBA)によって測定された。***p<0.001、各々のコントロールと比較。2−way ANOVAによって分析(N=2)。
【0158】
【表25】

【0159】
表23に示された通り、マウス・ベータ・ディフェンシン3(mBD3)は、ヒトPBMCからのTNFの分泌を、hBD2及びデキサメタゾンと同程度まで下方制御した。mDB3はまた、マウスPBMCからのTNFの分泌を下方制御した(表24)。
【0160】
したがってこの設定において、mBD3は、すぐれた抗炎症活性を示した。
【0161】
【表26】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
関節リウマチの治療のための医薬の製造における、哺乳動物のベータ・ディフェンシンの使用。
【請求項2】
前記哺乳動物のベータ・ディフェンシンが、非経口で、好ましくは皮下又は静脈内投与される、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記哺乳動物のベータ・ディフェンシンが、1日当たり約0.1mg/kg体重〜1日当たり約100mg/kg体重、好ましくは1日当たり約0.1mg/kg体重〜1日当たり約10mg/kg体重の用量で投与される、請求項1又は2に記載の使用。
【請求項4】
前記哺乳動物のベータ・ディフェンシンが、ヒト・ベータ・ディフェンシンである、請求項1〜3のいずれか一項に記載の使用。
【請求項5】
前記哺乳動物のベータ・ディフェンシンが、配列番号1、配列番号2、配列番号3、又は配列番号4のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有する、請求項1〜4のいずれか一項に記載の使用。
【請求項6】
前記ヒト・ベータ・ディフェンシンが、ヒト・ベータ・ディフェンシン1、ヒト・ベータ・ディフェンシン2、ヒト・ベータ・ディフェンシン3、又はヒト・ベータ・ディフェンシン4である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の使用。
【請求項7】
前記哺乳動物のベータ・ディフェンシンが、配列番号2のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有する、請求項1〜6のいずれか一項に記載の使用。
【請求項8】
前記哺乳動物のベータ・ディフェンシンが、ヒト・ベータ・ディフェンシン2である、請求項1〜7のいずれか一項に記載の使用。
【請求項9】
治療を必要とする対象へ、有効量の哺乳動物のベータ・ディフェンシンを投与することを含む、関節リウマチの治療方法。
【請求項10】
前記ヒト・ベータ・ディフェンシンが、非経口で、好ましくは皮下又は静脈内投与される、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記ヒト・ベータ・ディフェンシン又はその機能的に等価なバリアントが、約0.1mg/kg体重〜約100mg/kg体重、好ましくは約0.1mg/kg体重〜約10mg/kg体重の用量で投与される、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
前記哺乳動物のベータ・ディフェンシンが、ヒト・ベータ・ディフェンシンである、請求項9に記載の方法。
【請求項13】
前記哺乳動物のベータ・ディフェンシンが、配列番号1、配列番号2、配列番号3、又は配列番号4のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有する、請求項9に記載の方法。
【請求項14】
前記哺乳動物のベータ・ディフェンシンが、配列番号2のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有する、請求項9に記載の方法。
【請求項15】
前記ヒト・ベータ・ディフェンシンが、ヒト・ベータ・ディフェンシン1、ヒト・ベータ・ディフェンシン2、ヒト・ベータ・ディフェンシン3、又はヒト・ベータ・ディフェンシン4である、請求項9に記載の方法。

【公表番号】特表2011−528334(P2011−528334A)
【公表日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−517956(P2011−517956)
【出願日】平成21年7月17日(2009.7.17)
【国際出願番号】PCT/EP2009/059255
【国際公開番号】WO2010/007168
【国際公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【出願人】(510062398)ノボザイムス アデニウム バイオテック アクティーゼルスカブ (8)
【Fターム(参考)】