説明

唾液緩衝能の測定方法

【課題】 唾液分泌量の少ない被験者の場合であっても、唾液緩衝能を迅速正確そして簡便に測定できる方法を提供する。
【解決手段】 唾液を唾液緩衝能検査試薬を担持した濾材で濾過することで濾材上に保持される成分と濾液に分離し、該濾材上の成分を利用して齲蝕関連菌数を測定し、さらに濾液の呈色状態により唾液緩衝能を測定することにより、唾液分泌量の少ない被験者であっても迅速かつ正確に唾液緩衝能を測定することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は唾液の緩衝能を測定し、齲蝕発生のリスクを診断する方法に関する。詳しくは、唾液緩衝能検査試薬を担持させた濾材で唾液を濾過することで生じる濾液により唾液緩衝能を測定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
医学検査や食品検査、または環境測定において微生物検査は重要な検査項目となっている。
【0003】
口腔内には多種多様な微生物が存在しており、これらの微生物の中に感染症を引き起こす微生物が存在する場合があることが知られている。例えば、齲蝕、歯周病、誤嚥性肺炎の発生には齲蝕関連菌、歯周病関連菌や日和見感染菌が強く関与していることが知られている。近年、従来感染症とは関係ないと思われていた疾患、例えば、心臓病、胃潰瘍、癌等の発症にも口腔内に存在する微生物が関与している場合があることが明らかとなり、口腔内の微生物検査は歯科領域のみならず、医科領域においても重要になっている。
【0004】
唾液中の微生物の測定は、従来培養法によって実施されており、結果が判明するまで長時間かかるという問題があったが、免疫学的測定方法が開発され検査時間が大幅に短縮された。
免疫学的測定方法は微生物が有する特異的な抗原に対する抗体を利用して該微生物を高感度に検出するという方法である。(非特許文献1、2、特許文献1)。免疫学的測定法は、一般的に、抗原抗体反応に要する時間が短時間であるため迅速に結果が判明する。
【0005】
口腔内に存在する微生物が原因の感染症の防御には唾液が重要である。唾液は、(1)洗浄作用、(2)緩衝作用、(3)抗菌作用等により生体を微生物から防御している(非特許文献3)。洗浄作用は、口腔内から微生物を洗い流す作用であり、一般的に唾液分泌量に比例して大きくなる。緩衝作用は口腔内のpHを中性付近に一定に保つ作用であり、唾液中の重炭酸塩、リン酸塩、タンパク質等により発揮され、口腔内の恒常性を保つことで疾患の発症を予防する。抗菌作用は、唾液中に含まれるペルオキシダーゼ、ラクトフェリン、抗体等により発揮されるといわれている。そして、これらのうちでも、特に緩衝作用が疾患予防に重要であることがわかっている。
【0006】
上記の理由から、口腔内の微生物により引き起こされる疾患の発生のリスクの判定には、微生物数に加えて、唾液緩衝作用(以後唾液緩衝能とよぶ場合もある)を測定することが大切である。
【0007】
例えば、唾液中の微生物数が多くても、唾液緩衝能が高い人と低い人では疾患発生のリスクが異なるし、唾液緩衝能が低い場合でも、唾液中の微生物数の多い人と少ない人では疾患発生のリスクは異なる。従って、疾患発生のリスクを正確に判定し、効果的に予防するためには、口腔内の微生物数と唾液緩衝能を同時に測定して、総合的に判定することが重要である。
【0008】
唾液中の微生物濃度および唾液緩衝能は日内変動することが知られている。従って、採取時期の異なる唾液を使用して、微生物数と唾液緩衝能を測定し比較しても正確に口腔内の状況を判定できない。このような理由から、微生物数および唾液緩衝能を測定する際には、同一のサンプルを使用して同時に測定することが望ましいといえる。
【0009】
一般的に培養法で口腔内の微生物数を測定する場合、0.01〜0.1mL程度の唾液が必要だが、免疫学的測定法を実施する場合、培養法より多量の唾液(0.3〜0.5mL程度)が必要である(例えば非特許文献3)。この理由は以下の通りである。免疫学的測定法では、通常、微生物の表面に存在する抗原に対する抗体を使用する。唾液中の病原性を持つ微生物は歯垢等のバイオフィルムで覆われている場合が多いので、このままでは抗体が接触できず、抗原抗体反応がおこらない。抗原抗体反応をおこすためには、何らかの前処理を行い、バイオフィルムを除去して抗原を露出させるか、または菌体より抗原を抽出する必要がある。しかし、前処理を行っても、バイオフィルムが完全に除去できない、全ての抗原を抽出することができない、前処理により一部の抗原が破壊される、等の理由により、口腔内微生物に存在する全ての抗原が測定可能な状態になるわけではないので、培養法に比べて多量の唾液が必要になる。
【0010】
ここで、唾液は、パラフィンペレット、ガム等の咀嚼物を一定時間被験者に噛ませ、分泌した唾液を採取することにより実施され、その量をメスシリンダー等で計量すれば、これも前記の通り疾患発生のリスクの総合的な判定の重要な指標の一つになる唾液分泌量を求めることができる。
【0011】
唾液緩衝能は、このようにして採取した唾液に一定量の酸を添加し、pHを測定することで求めることができる。pH指示薬の呈色状態を目視で確認し、予め作製された各pH値での標準比色表と比較する方法は、特に機器を必要とせず測定できるため、簡便性、迅速性の点から特に好ましい実施形態の一つであると言える。例えば、山田らは、pH指示薬と酸性緩衝剤を吸収性担体に保持させ、該担体に唾液をたらし色調を目視で確認する方法、いわゆる試験紙法、を提案している(特許文献2)。この方法は、0.005〜0.03mL程度のごく少量の唾液で唾液緩衝能が測定できるが、唾液が担体に染み込み試薬と混合されて初めて緩衝能の測定が可能になるため、粘度の高い唾液では担体への唾液の浸透が不均一になりやすいので、担体上におけるpH指示薬の呈色がまだらになり唾液緩衝能の判定が困難になる場合があるという欠点を持つ。
【0012】
一般的に、唾液分泌量の少ない被検者から採取した唾液は粘度が高いことが知られており、このような場合、上記理由により試験紙法による唾液緩衝能の測定は困難な場合が多いが、このような試験紙法において、測定に供する唾液について、濾過処理により唾液中の不溶物やムチン等の粘性物質を取り除いて供することが知られている(特許文献3)。しかしながら、この従来法においては、唾液を濾過し濾液を調製し、次いで該濾液を唾液緩衝能検査試薬と接触させるという2段階の操作が必要であり、簡便とは言いがたい。
【0013】
一方、予め試薬(乳酸、pH指示薬)の乾燥粉末を入れたテストチューブに唾液を加え、蓋をして振盪して試薬を溶解し、pH指示薬の色調を目視で判定するという方法、いわゆる判定チューブ法も提案されている(非特許文献4)。この方法では試薬を担体に染み込ませる必要がないため、粘度の高い唾液であっても比較的容易に唾液緩衝能の測定が可能であるが、0.5〜2mL程度の唾液が測定に必要である。
【0014】
被験者が高齢者である場合、または幼児の場合、唾液の分泌量が少ない、唾液をうまく吐き出せない等の理由により、0.5mL以下の唾液しか採取できない場合がある。この場合、唾液分泌量は分泌量が少なくても測定可能であるが、唾液中の微生物数と唾液緩衝能を同時に迅速簡便に測定することができないという問題があった。
【0015】
【非特許文献1】日本生化学会編集,新生化学実験講座12 分子免疫学III 抗原・抗体・捕体,東京化学同人,1992年
【非特許文献2】ヘルスケア歯科診療室発 予防歯科のすぐれモノ17+α、株式会社デンタルダイアモンド社、2006年
【非特許文献3】唾液、ヨルマ・テノブオ著、日本フィンランドむし歯予防研究会、1999年
【非特許文献4】岡崎好秀 他,小児歯科学雑誌,38巻615−621頁,2000年
【特許文献1】特開2003−215126号広報
【特許文献2】特許第1574981号
【特許文献3】特開2002−323493号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は上記事情に鑑みなされたものであり、唾液分泌量の少ない被検者から採取した唾液であっても、唾液中の微生物数に加えて唾液緩衝能も簡便迅速に測定できる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者は上記課題を解決するために、鋭意検討してきた。その結果、唾液緩衝能検査試薬を担持させた濾材によって唾液を濾過することで、唾液中の微生物を濾材上に保持すると同時に、唾液と唾液緩衝能検査試薬との接触を効率的に行い、唾液の濾過の結果生じた濾液の呈色を測定することにより唾液緩衝能が簡単に測定できることを見出した。そして更に検討を進め、本発明を完成するに至った。
【0018】
即ち、本発明は、濾材で唾液を濾過し、該濾材上に保持される成分より唾液中の微生物量を測定する際に生じる唾液の濾液を用いて、該唾液の緩衝能を測定する方法であって、pH指示薬及び酸を含む検査試薬を担持させた濾材で唾液を濾過し、濾液の呈色状態を測定することにより実施することを特徴とする唾液緩衝能の測定方法である。
【0019】
また、別の本発明は、前記唾液緩衝能の測定に使用することができる、唾液緩衝能検査試薬が担持された濾材を備えてなることを特徴とする濾過装置である。
【発明の効果】
【0020】
本発明の測定方法によれば、唾液を濾過し、該濾材上に保持される微生物と濾液の緩衝能とを測定することにより、疾患発生リスクを簡便迅速に高い正確性で評価することができる。被験者から採取した唾液は、常法により採取した場合(被験者にガム等の咀嚼物を5分間噛ませ分泌してきた唾液を集める)0.3mL〜20mL程度であり、この採取したものを本発明の方法に適用すればよい。微生物数と唾液緩衝能の両方の測定に供することができるため、本発明の方法は、唾液量が少ない場合、例えば、0.3mL〜0.5mLであっても、十分に両方の測定が実施可能であり好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明の唾液緩衝能の測定方法では、唾液緩衝能検査試薬を担持した濾材で唾液を濾過することで微生物を含む不溶物と濾液に分離し、前者の不溶物を用いて唾液中の微生物量を測定する一方で、後者の濾液を使用して唾液緩衝能を併せて測定する。
【0022】
本発明では、安静時唾液、刺激唾液の両方を使用することができるが、検体採取の再現性、容易さ等の理由から、刺激唾液を使用することが好ましい。刺激唾液は、例えば、ガム、パラフィンペレット等の咀嚼物を一定時間被験者に噛ませながら唾液を吐き出させることで採取することができる。
【0023】
本発明での唾液中に含まれる感染症を引き起こす微生物を例示すると、齲蝕関連菌、歯周病関連菌、上気道感染起因菌、日和見感染菌等が挙げられる。それぞれについて具体例を表示すると、齲蝕関連菌としては、ストレプトコッカス・ミュータンス(Streptococcus mutans)、ストレプトコッカス・ソブリヌス(Streptococcus sobrinus)等のミュータンスレンサ球菌に属する細菌、ラクトバチルス属(Lactobacillus)に属する細菌、アクチノミセス属(Actinomyces)に属する細菌が、歯周病関連菌としては、ポルフィロモナス・ジンジバリス(Porphyromonas gingivalis)、アクチノバチルス・アクチノミセテムコミタンス(Actinobatillus actinomycetemcomitans)、バクテロイデス・フォルシザス(Bacteroides forsythus)、トレポネマ・デンチコラ(Treponema denticola)、プレボテラ・インターメディア(Prevotella intermedia)、プレボテラ・ニグレッセンス(Prevotella nigrescens)等が、上気道感染起因菌としては、A群レンサ球菌(Group A Streptococcus)、マイコプラズマ・ニューモニエ(Micoplasma pneumoniae)、クラミジア・ニューモニエ(Chlamidia pneumoniae)等が、日和見感染菌としては、カンジダ菌(Candida sp.)黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)等が挙げられる。
【0024】
微生物の測定は、例えば、微生物より抗原を抽出し、該抽出抗原を免疫学的測定法により測定することで、迅速かつ正確に測定することができる。例えば、唾液を濾過することで微生物を濾材上に濃縮し、抗原を抽出することで、高感度な免疫学的測定が可能になる。抗原の抽出法としては公知の方法が何ら制限なく使用できるが、好適な例として、亜硝酸抽出法を示すことができる。亜硝酸抽出法は、公知の方法(例えば特許文献1参照)により実施することができる。
【0025】
以下、亜硝酸抽出法について説明する。亜硝酸抽出法は亜硝酸塩水溶液と酸水溶液を濾材に滴下し、亜硝酸を形成させ、生じた亜硝酸水溶液中に糖鎖抗原を抽出するという方法である。亜硝酸塩水溶液としては、例えば、0.5〜8Mの亜硝酸ナトリウム、亜硝酸カリウム等が、酸水溶液としては、0.5〜4Mの酢酸、硝酸、塩酸、クエン酸等が使用できる。上記のような亜硝酸塩水溶液と酸水溶液を例えば、0.005〜0.05mLずつ濾材に添加し、15〜50℃で1〜10分放置することで濾材上で反応を行わせる。
【0026】
反応後の抽出液は、唾液の濾過と同様の方法により加圧することで回収すれば良い。反応液は強酸性であるので例えば1〜3M水酸化ナトリウム、0.5〜2Mトリス、0.5〜1M炭酸水素ナトリウム等の塩基水溶液を添加し抽出液のpHを7.0〜8.5に調整するのが好ましい。
【0027】
塩基水溶液は抗原抽出液を濾材から回収した後に添加しても良いし、抽出液を回収する前に濾材に添加した後に抽出液を回収しても良いが、免疫学的測定法での感度の観点から、回収前に濾材に添加することがより好適である。または、亜硝酸塩水溶液と酸水溶液を予め混合して、亜硝酸水溶液(例えば、0.2〜4M 亜硝酸ナトリウムと、0.5〜4M 酢酸とを混合したもの)を調製し、該亜硝酸水溶液で濾過膜を濾過することで亜硝酸抽出を実施することもできる。この場合は、亜硝酸ナトリウム水溶液と酢酸水溶液を混合し調製した亜硝酸水溶液を0.2〜0.5mL添加して濾過し、5〜50℃で1〜10分放置することで亜硝酸抽出を行い、反応後の中和は0.5〜1.0Mトリスを100〜800μL濾過膜に添加し、加圧濾過することで糖鎖抗原抽出液を回収するのが好ましい。
【0028】
本発明の唾液緩衝能の測定法で使用する濾材としては、上記抽出操作において安定な、膜状、層状の濾材が制限なく使用することができる。このような濾材を例示すると、メンブランフィルター等のスクリーンフィルターや、濾紙、ガラス繊維濾紙等のデプスフィルターが挙げられるが、後述するように唾液緩衝能検査試薬の一定量を安定に担持させるという目的から、デプスフィルターがより好適に使用できる。
【0029】
濾材の孔径とは、スクリーンフィルターの場合は、日本工業規格(JIS K 3832)記載の液体で濡れたメンブランフィルターの孔を通って空気が押し出されるときの圧力より算出される数値(バブルポイント法)であり、デプスフィルターの場合は、日本工業規格(JIS P 3801)記載の硫酸バリウム等を自然濾過したときの漏洩粒子径により求めた数値である。一般的には、濾材がメンブランフィルター等のスクリーンフィルターである場合は、市販濾材カタログに表示されている孔径が上記方法で求めた濾材の孔径に相当し、濾材がガラス繊維濾紙や濾紙のようなデプスフィルターの場合は、市販濾材カタログに表示されている保留粒子径、粒子保持能が上記方法で求めた孔径に相当する。
【0030】
濾材の孔径は測定対象の微生物のサイズと唾液の濾過効率を勘案し、適宜選択すればよい。微生物は一般的に0.3〜1.0μmの大きさなので、1.0μm未満の孔径の濾材、0.22μmか0.45μmのメンブランフィルターを濾材として用いて濾過するのが常法であるが、口腔内の微生物は歯垢等のバイオフィルムで覆われている場合が多いので、一般的な微生物のサイズより大きな孔径の濾材を使用しても濾材上に微生物を捕捉できる。また、唾液中にはムチン等の粘度の高い高分子や、不溶物が存在しているので、孔径の小さい濾材を使用すると、濾材の目詰まりのために濾過の際の濾過圧が上昇し、唾液の濾過速度と濾過可能な唾液量の低下を招く。例えば、齲蝕関連菌を測定する場合は、特許文献1に記載してあるように、ミュータンスレンサ球菌の菌体サイズは0.5〜0.9μmの範囲にあるが、0.8〜2μmの孔径の濾材を使用することで、菌体の濾材上への補足と唾液の濾過の両者を効率よく実施することができる。
【0031】
本発明では上述のようにして調製した抗原抽出液に対して、通常は、免疫学的測定方法により定量することで、唾液中の微生物量を測定する。免疫学的測定法の具体的手法は、免疫凝集法、光学免疫測定方法、標識免疫測定方法、およびこれらの組合わせ等の従来公知の方法が制限無く採用出来る。
【0032】
以下、これら免疫学的測定方法について説明する。
[免疫凝集法]
該方法は、抗原抗体反応に基づく不溶性担体の凝集反応を利用して、糖鎖抗原抽出液中の抗原を検出、定量する方法である。半定量的方法としてはラテックス凝集法、マイクロタイター法等が、定量的測定方法としてはラテックス定量法等がある。
【0033】
例えば、ラテックス凝集法を利用して糖鎖抗原抽出液中の抗原量を免疫学的に測定する場合には、ラテックスビーズに微生物の糖鎖抗原と結合する抗体(以下単に抗体ともいう)を固定化した抗体感作粒子からなる測定試薬を作製後、該測定試薬と糖鎖抗原抽出液を混合し、抗原抗体反応後における感作粒子の凝集の度合を、目視、或いは光学的測定方法等により検出することで測定することが出来る。
【0034】
[光学免疫測定方法]
該方法は、抗体と糖鎖抗原抽出液とを接触させて抗原抗体反応を行った場合に、抗原抗体反応の結果生じる凝集物の濁度の変化を検出する方法、又は抗体を固定化した薄層(以下、抗体層ともいう。)に糖鎖抗原抽出液を接触させ、抗原抗体反応の結果生じる抗体層の屈折率の変化を透過光や表面プラズモン波等の変化として検出する方法等、抗原抗体反応の有無を光学的に検出する方法のことである。
【0035】
[標識免疫測定方法]
該方法は、抗体に放射性物質、酵素、各種色素類、コロイド類、各種粒子等の各種標識物質を結合させて得た標識抗体を含む測定試薬と、糖鎖抗原抽出液とを接触させて抗原抗体反応を行った後に、糖鎖抗原抽出液中の抗原に結合した標識物質の量、すなわち標識物質に由来する放射活性、酵素活性、蛍光強度、着色等を測定することによって、糖鎖抗原抽出液中の抗原を検出、定量する方法である。
【0036】
該方法では、例えば抗体を固定化した不溶性担体(粒子、メンブレン、イムノプレート等)からなる測定試薬と糖鎖抗原抽出液とを接触させて抗原抗体反応を行った後に、抗体を標識物質で標識した標識抗体を含む別の測定試薬を接触させて更に抗原抗体反応を行った後に、標識物質の量を測定することによって、又は糖鎖抗原抽出液と標識物質で標識した糖鎖抗原とを混合し、抗体を固定化した不溶性担体からなる測定試薬に接触させて抗原抗体反応を行った後に、抗体に結合した標識物質の量を測定することによって糖鎖抗原抽出液中の抗原を検出、定量することができる。
【0037】
標識物質としては、放射性物質として放射性ヨード、放射性炭素等が、酵素としてペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、ガラクトシダーゼ等が、各種色素類として、フルオレセインイソチオシアネート、テトラメチルローダミン等の蛍光色素類が、コロイドとして金コロイド、炭素コロイド等が、各種粒子としては着色ラテックス粒子等が使用出来る。なお、酵素標識を行う場合は、チオール基とマレイミド基、アミノ基とアルデヒド基等の共有結合により直接標識する、或いはビオチン−アビジン複合体を介し標識する等の方法が使用可能である。また、標識酵素としてアルカリホスファターゼ及びパーオキシダーゼを使用し、さらに前者の酵素の場合にはジオキセタン誘導体等の化学発光物質を、また後者の酵素の場合にはルミノール誘導体等の化学発光物質を酵素の基質として使用した場合には、該基質の発光を検出することも出来る。
【0038】
これら各種標識免疫測定方法における操作、手順等は一般に採用されているそれらと特に異ならず、公知の非競合法や競合法、サンドイッチ法等に準じることが出来る。また、抗体と共に、上記の各標識物質で標識した二次抗体、プロテインA等の抗体に結合可能な物質を使用して糖鎖抗原の検出・定量に用いることもできる。
【0039】
該標識免疫測定方法では、用いる標識に応じて従来使用されている方法が特に限定無く使用できるが、中でも放射性物質を標識として使用する放射免疫測定方法、酵素を標識として使用する酵素免疫測定方法、色素、特に蛍光色素を標識として利用する蛍光免疫測定方法、酵素の基質としての化学発光物質を標識として利用する化学発光免疫測定方法等は定量性が高いので、高精度の定量測定を行なう場合にはこれら測定方法を採用するのが好適である。また、コロイドまたは各種粒子を標識として使用するフロースルー免疫測定方法、免疫クロマト法、並びにラテックス凝集法は、操作が簡便であるという特徴がある。
【0040】
本発明では、上記のようにして、濾材で唾液を濾過し、該濾材上に保持される成分(不溶物)より唾液中の微生物量を測定するに際して、上記濾過で生じる唾液の濾液を用いて、該唾液の緩衝能も測定する。これにより、唾液に含まれる微生物数だけでなく、該唾液の緩衝作用も同時に知ることができ、これらを総合的に判断して口腔内の微生物により引き起こされる疾患の発生のリスクを、高い正確性で判定することが可能になる。
【0041】
しかして、本発明の最大の特徴は、この唾液の濾液を用いての唾液緩衝能の測定を、pH指示薬及び酸を含む唾液緩衝能検査試薬を担持させた濾材を用いて効率的に実施することにある。すなわち、上記唾液緩衝能検査試薬を担持させた濾材を用いて濾過した濾液は、該唾液緩衝能検査試薬の作用により、その緩衝能に応じたpH指示薬の色調を呈しており、その呈色状態により該緩衝能の強さを簡単迅速に測定することができる。特に、この方法によれば、pH指示薬の呈色状態は均一な濾液の色調として観察できるため、唾液緩衝能検査試薬を染み込ませた担体上に唾液を浸透させてその呈色状態を観察する場合のような色調のバラツキも生じ難く(特に、測定対象の唾液の粘度が高い場合に顕著に生じる)、高い正確性で測定できる。
【0042】
なお、このように唾液を濾過した濾液について、その緩衝能を測定しても、測定結果は、唾液を直接測定に供する場合と実質的に等しい結果が得られる。
【0043】
本発明で使用される唾液緩衝能検査試薬は、pH指示薬と酸を含有する。本発明でpH指示薬とは、酸塩基反応によりプロトン付加・脱離して変色する試薬を指し、公知のものが何ら制限なく使用できる。このようなpH指示薬の具体例として、新実験化学講座9 分析化学II(1977年発行 丸善株式会社 日本化学会編集)181ページの表(中和滴定用指示薬)記載の指示薬(クロロフェノールレッド、ブロモクレゾールパープル、クロロフェノールレッド等)を例示できる。また、酸としては公知のものが特に限定されずに使用できる。例えば、酒石酸、クエン酸、リンゴ酸、乳酸、スルホサリチル酸、シュウ酸、塩酸等を使用することができる(例えば特許文献2参照)。
使用する酸の種類、量によって、唾液の濾液と混合した後のpH分布範囲が変動するので、各pH範囲に適した変色域を持ったpH指示薬を適宜選択する(例えば特許文献2参照)。これら酸とpH指示薬の好適な組み合わせとして、酒石酸、クエン酸、リンゴ酸、乳酸、シュウ酸とクロロフェノールレッド、またはブロモクレゾールパープルの組み合わせ、シュウ酸とブロモクレゾールグリーンの組み合わせ、スルホサリチル酸とコンゴーレッドの組み合わせ、塩酸とブロモクレゾールグリーンとの組み合わせ等が例示できる。これら酸とpH指示薬は単独で使用しても良いし、複数のものを適宜混合して使用しても良い。
【0044】
本発明の唾液緩衝能検査試薬における、上記のpH指示薬と酸の1回の検査あたりの使用量は、唾液検査試薬を担持させた濾材により唾液を濾過し濾液を調製したときに、該濾液中の濃度が、酸の場合0.01〜0.5N、pH指示薬の場合10〜1000ppmとなるように配合する。濾過する唾液の量にも影響されるが、このような濃度で唾液緩衝能検査試薬が濾液に含有されるようにするためには、pH指示薬と酸の担持量は、通常濾材1cmあたり前者が0.0001mg〜50mgの範囲、より好ましくは0.001〜15mgの範囲、後者が0.0001mg〜5mgの範囲、より好ましくは0.001mg〜0.5mg の範囲から採択されるのが一般的である。
【0045】
本発明において、使用する濾材への前記構成の唾液緩衝能検査試薬の担持方法は、一定量の試薬を濾材に滴下してもよいし、または一定量の試薬の入った容器に濾材を入れて容器内の試薬を吸込ませることで実施しても良い。濾材は検査試薬で濡れた状態で唾液を濾過しても良いが、操作の容易さから、濾材を乾燥することが好ましい。検査試薬を染み込ませた濾材の乾燥方法は、公知の方法により実施すれば良い。例えば、常圧で保温(30〜80℃)することで実施しても良いし、真空ポンプ等で減圧することで実施しても良い。
【0046】
検査試薬にはこれら酸とpH指示薬の他に、pHを変動させることのない物質を添加することもできる。例えば、乾燥状態の唾液緩衝能を担持した濾材を調製する場合、試薬の再溶解性を向上させる目的で、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、界面活性剤(ポリオキシエチレンアルキルエーテル系、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル系等)等の湿潤剤を上記検査試薬成分に、試薬中の濃度が0.05〜5%となるように含ませることもできる。
【0047】
上記の唾液緩衝能検査試薬を担持させた濾材の具体的な製造例を以下に示す。唾液緩衝能検査試薬を乾燥状態で担持させた濾材を用いて0.3mLの唾液を濾過する場合には、0.1〜5Nの酒石酸、100〜10000ppmのクロロフェノールレッド、0.05〜5%のポリエチレングリコールをエタノールに溶解した唾液緩衝能検査試薬をガラス繊維濾紙に前記好適な担持量になる量で添加し、30〜80℃で10〜60分保温することで濾材を乾燥させれば良い。
【0048】
本発明において、上記濾材を用いての唾液の濾過は、一般的な濾過の方法に従って実施できる。例えば、唾液緩衝能検査試薬を担持させた濾材を装着したシリンジフィルターを使用し、シリンジにより加圧することで実施できる。または、例えば、図1のような蓋の脱着が可能な構造の濾過装置を使用し、濾過装置に唾液を注入した後に蓋を閉めて加圧することで濾過を行うこともできる。
【0049】
本発明での唾液緩衝能の測定は、上記のように唾液緩衝能検査試薬を担持させた濾材により唾液を濾過し、その結果生じた濾液のその呈色状態によりpHを測定することで実施される。濾液の呈色状態の測定は、通常は、濾液の色調を目視で確認することで実施される。予め各pHでの色調を調べて比色表を作成し、この比色表と比較することでpHを判定し、唾液緩衝能を判定すれば良い。例えば、酒石酸とクロロフェノールレッドにより検査試薬を調製した場合、該検査薬と唾液の混合液は、pHに依存して以下の表に示したような色調を呈す。唾液緩衝能が高いほど、上記混合液のpHも高くなるので、その色調に応じて表1に示したように判定することができる。
【0050】
【表1】

【0051】
以上により、口腔内の微生物数と、唾液分泌量、唾液緩衝能が効率的に測定される。本発明の唾液緩衝能の測定方法によれば、従来、微生物数と唾液緩衝能を同時に測定することが困難であった唾液分泌量の少ない被検者であっても、両方を同時に簡便に測定することが可能である。
【0052】
本発明の濾過装置は前記の唾液緩衝能検査試薬を担持させた濾材をその構成要素に含まれているものであれば、材質、形状、大きさ等は特に限定されるものではないが、加圧濾過を行うという観点から、濾過装置本体は、柔軟な物質(例えばポリプロピレン等のプラスチック)で構成され、濾材は、唾液の濾過及び唾液緩衝能検査試薬の一定量を安定に担持するという目的から、濾紙、ガラス繊維等の材質であることが好ましい。このような濾過装置の具体例としては、市販の使い捨てシリンジに唾液緩衝能検査試薬を担持したガラス繊維濾紙を固定したもの、或いは、唾液緩衝能検査試薬を担持したガラス繊維濾紙を装着したシリンジフィルター、或いは、図1に示した構造の濾過装置を表示することができる。
【0053】
以下、図1により濾過装置の具体例について説明する。なお、図1に示される濾過装置の形状は、本発明の濾過装置の一例に過ぎず、本発明の濾過装置はこれら図に示される形状に限定されるものではない。
【0054】
濾過装置本体の底面に濾材をセットし、唾液を注入した後に蓋を閉めて加圧することで濾過を行うが、濾材は接着剤により底面に保持されていても良いし、または特に接着をせずに摩擦力によってのみ底面に保持されていても良い。
【0055】
濾過装置は蓋を閉め加圧した際に蓋が本体上に保持され圧力が外部に逃げないよう密閉できる構造であることが好ましい。この目的のために、図1のように摩擦力で蓋を保持するだけでなく、スクリューネジまたはその他の密閉方法により保持させることもできる。加圧は蓋のシリンジ差込口にシリンジをさし、加圧することで実施するのが操作性のうえで好適である。
【実施例】
【0056】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例により限定されるものではない。
【0057】
製造例1[ストレプトコッカス・ミュータンスに対する精製ポリクローナル抗体の作製]
(1)[菌体試料懸濁液の調製]
ブレインハートインフュージョン(以下「BHI」と略すこともある)(DIFCO社)3.7gを100mLの純水に溶解後、オートクレーブ処理し、BHI液体培地を調製した。BHI液体培地2mL中でIngbritt(ストレプトコッカス・ミュータンス、血清型c)を37℃、5時間、嫌気条件下(N:H:CO=80:10:10)で培養した後、培養液を4000g、5分遠心処理し、上清の培地成分を除去し菌体沈殿を回収した。
【0058】
次いで、沈殿物を5mLのリン酸生理食塩緩衝液(pH7.4)(以下PBSと略すこともある)に懸濁し、同様の遠心分離をする操作を3回行い、沈殿物を洗浄した。その後得られた菌体沈殿をPBSに懸濁し、A600=1.0に調整しIngbritt菌体試料懸濁液とした。なお、該菌体試料懸濁液を超音波処理後、適宜希釈した後にBHI培地プレート上に添加し、生じたコロニー数を計数し菌体試料懸濁液の希釈倍率を乗じることで該菌体試料懸濁液の菌体濃度を求めたところ、約1×10個/mLであった。
【0059】
(2)〔ストレプトコッカス・ミュータンスに対する抗血清の作製〕
免疫は以下のように実施した。即ち、第1週は0.5mLのIngbritt菌体試料懸濁液を、5日連続で5回ウサギに対し耳介静脈注射した。第2週は1.0mLの該菌体試料懸濁液を、5日連続で5回ウサギに対し耳介静脈注射した。第3週は2.0mLの該菌体試料懸濁液を、5日連続で5回ウサギに対し耳介静脈注射した。第4週は第3週と同様に免疫した。力価の上昇をスライドグラスを利用した菌体の凝集反応の程度により確認後、最終免疫より1週間後に、定法に従い採血しストレプトコッカス・ミュータンスに対する抗血清を得た。
【0060】
(3)〔ストレプトコッカス・ミュータンスに対するポリクローナル抗体の精製〕
オートクレーブ処理したBHI液体培地1L中でIngbrittを37℃、12時間、嫌気条件下で培養した。培養液を4000g、5分遠心処理し、上清の培地成分を除去し菌体沈殿を回収した。次いで、沈殿物を100mLのPBSに懸濁させて、同様の遠心分離をする操作を3回行い、沈殿物を洗浄した。
【0061】
Ingbritt菌体を洗浄した後、0.1M トリス塩酸緩衝液(pH8.0)に懸濁しA600=15に調整した。ここにプロナーゼ(和光純薬社)を5mg/mLとなるように添加し、37℃で1時間保温した。反応終了後、遠心分離し菌体沈殿を回収した。次いで、沈殿物を20mLのPBSに懸濁して、同様の遠心分離をする操作を3回行い、沈殿物を洗浄した。次いで20mLの0.1M グリシン塩酸緩衝液(pH2.0)で3回洗浄し、更に20mLのPBSで3回洗浄し、プロテアーゼ処理菌体懸濁液(A600=12.5)を調製した。
【0062】
次いで、該プロテアーゼ処理菌体懸濁液と(2)で調製した抗血清0.5mLとを混合し、4℃、60分反応させた。混合液を4000g、5分遠心分離し、菌体を回収した。この菌体を10mLのPBSに懸濁し、同様の遠心分離をする操作を3回行い洗浄した。
【0063】
次いで、0.5mLの0.1M グリシン塩酸緩衝液(pH2.0)に菌体を懸濁し、吸着した抗体を溶出し、遠心分離により上清を回収し、1Mトリス−塩酸(pH9.0)を添加しpH7.4に調整した。同様の溶出操作を4回行い、各画分のタンパク質量を280nmの吸光度により測定した。
【0064】
次いで、あらかじめPBSで平衡化した1mLのプロテインA−セファロース(アマシャムファルマシアバイオテク社)を充填したカラムに上記溶出液を添加し、5mL洗浄後、5mLの0.1Mグリシン−塩酸緩衝液(pH3.0)にて溶出し、直ちに1Mトリス−塩酸(pH9.0)を添加しpH7.4に調整した。IgGの溶出画分は、A280を測定することで確認した。IgG画分を回収し、0.01Mリン酸緩衝液に対して透析を行った(4℃、3日)。
【0065】
以上により、抗血清(0.5mL)をプロテアーゼ処理菌体により精製したポリクローナル抗体を約1mg得た。
製造例2[免疫クロマトデバイスの製造]
コロイド粒径が40nmの市販金コロイド溶液(EY Laboratory)10mLに100mMKCOを88μL添加し、pHを9.0に調製後、0.22μmフィルター処理した。金コロイド溶液の520nmの吸光度を測定したところ、A520=1.0であった。
【0066】
次いで、1mg/mLに調整した製造例1で調製した抗体の2mMホウ酸緩衝溶液(pH9.0)64μLを、上記金コロイド溶液に撹拌しながら添加し、室温下5分放置した。次いで、10%スキムミルク−2mMホウ酸緩衝液(pH9.0)を1.1mL撹拌しながら添加し(スキムミルク終濃度1%)、室温下30分放置した。次いで、反応溶液を10℃、10000g、30分遠心処理し、上清を除去後、2mLの2mMPBS(pH7.4)を添加し、下層の金コロイド画分を再懸濁した。該再懸濁した画分の520nmの吸光度を測定したところ、A520=4.9であった。得られた金コロイド画分(以下、「金コロイド標識抗体」と表記することもある)は、4℃にて保存した。
【0067】
ニトロセルロースメンブレン(MILLIPORE社、Hi−Flow Plus Membrane、HF180、25mm×6mm)からなる展開メンブレン上の検出ラインおよびコントロール判定ライン上に、それぞれ1mg/mLの製造例1で調製した抗体および抗ウサギIgG(H+L)ポリクローナル抗体(ICNファーマシューティカルズ社)1μLをスポットし、インキュベーター内で37℃、60分乾燥し抗体を固定化した。該抗体固定化メンブレンを1%スキムミルク−0.1%TritonX100水溶液中で室温下、5分振とうした。次いで、該メンブレンを10mMリン酸緩衝液(pH7.4)中で室温下、10分振とう後取り出し、真空ポンプで吸引しながら60分間デシケーター中で乾燥した。
【0068】
また、コンジュゲートパッド(MILLIPORE社、7.5mm×6mm)を0.5%PVA−0.5%ショ糖水溶液中で1分間振とう後取り出し、真空ポンプで吸引しながら60分間デシケーター中で乾燥した。該コンジュゲートパッドにA520=1.0に調整した金コロイド標識抗体を25μL添加し、真空ポンプで吸引しながら60分間デシケーター中で乾燥した。更に、サンプルパッド(MILLIPORE社、17mm×6mm)を1%Tween20−PBS水溶液中で1分間振とう後取り出し、真空ポンプで吸引しながら60分間デシケーター中で乾燥した。尚、吸収パッド(MILLIPORE社、20mm×6mm)は未処理のまま用いた。
【0069】
このように調製した、図2に示すような免疫クロマト法ストリップの各構成部分をプラスチックの支持台上に配置し、図3に示すような免疫クロマト法ストリップを組み立てた。
実施例1[唾液緩衝能検査試薬を担持した濾材を装着した濾過装置による唾液緩衝能の測定]
(1)唾液の採取と培養法によるストレプトコッカス・ミュータンス菌数の測定
5人の被験者(A,B,C,D,E)にパラフィンペレットを5分間噛ませ、唾液を採取した。唾液分泌量を表2に示した。
【0070】
採取した唾液を適宜希釈して0.05mLをMSB固体培地上に添加し、37℃、嫌気条件下、48時間培養した。MSB固体培地上に生じるコロニー数を計数し、唾液の希釈率から、ミュータンスレンサ球菌濃度を個/mLとして算出し、表3に示した。MSB培地上のストレプトコッカス・ミュータンスの識別は、コロニーの形態学的分類、および形態学的に識別不可能なコロニーに関しては、該コロニーを純粋培養後、ミュータンスレンサ球菌の血清型特異的な抗体を利用した免疫学的測定方法および、糖発酵試験等の生化学的方法によりストレプトコッカス・ミュータンスの同定を行った。
(2)唾液緩衝能の測定
酒石酸、クロロフェノールレッド、ポリエチレングリコール(平均分子量3000)をエタノールに溶解し、0.45N酒石酸、3000ppmクロロフェノールレッド、1%ポリエチレングリコールを含む唾液緩衝能検査試薬を調製した。孔径(日本工業規格(JIS P 3801)記載の硫酸バリウム等を自然濾過したときの漏洩粒子径により求めた数値)が1.0μmのガラス繊維濾紙「GA−100」(アドバンテック東洋社製)を円形に切り取り(濾過面の面積0.95cm)、唾液緩衝能検査試薬0.03mLを濾材に滴下し、50℃にて30分間保温することで濾材GA−100を乾燥させた。この濾材GA−100をSCカートリッジ(マルエム社)にセットし、図1の構造の濾過装置を作製した。この濾過装置に、上記5人の被検者から採取した唾液をそれぞれ0.3mLずつ添加し、蓋を閉めシリンジにより加圧して濾過し、濾液の色調から表1に従って唾液緩衝能を判定した。唾液は0.3mL全量を濾過することができた。判定は3人の判定者(ア、イ、ウ)により実施した。
【0071】
また、従来法による唾液緩衝能測定法による判定は、判定チューブ法試薬であるオーラルテスターバッファ(トクヤマデンタル)により実施した。測定法はキットの取り扱い説明書に従い、唾液0.5mLを判定チューブに添加し、判定チューブ中の試薬と良く混合して緩衝能を判定した。黄色が低緩衝能、橙が中緩衝能、赤紫が高緩衝能と判定した。判定は3人の判定者により行った。結果を表2に示す。
【0072】
【表2】

【0073】
唾液を用いて判定した従来法の唾液緩衝能と本発明の方法で判定した唾液緩衝能は同じ結果であり、本発明の方法により正確に唾液緩衝能が判定できることが明らかとなった。
参考例1[実施例1における、濾材上に保持される成分を用いての唾液中のストレプトコッカス・ミュータンス菌数の測定]
(1)ストレプトコッカス・ミュータンス菌の糖鎖抗原の抽出
前記実施例1(2)で唾液を濾過した濾過装置に0.5mLの0.1M NaOH溶液を濾過装置に添加し濾過し、さらに0.5mLのPBSを濾過装置に添加し濾過することで、濾過膜上の微生物と濾過膜の洗浄を行った。1M 亜硝酸ナトリウム溶液と2M 酢酸溶液を1:1で混合し、亜硝酸水溶液を調製し、該亜硝酸水溶液0.3mLを濾過装置に添加し濾過した。2分間室温で放置した後、0.09mLの0.05% Tween20を含む1M トリス(pH未調製)を添加し、濾過装置をシリンジで加圧することで糖鎖抗原抽出液を回収した。
(4)免疫クロマトデバイスによる糖鎖抗原抽出液の測定
製造例2で製造した免疫クロマトデバイスのサンプルパッド上に、糖鎖抗原抽出液0.1mLを添加し、10分後にスポットの有無を判定した。判定は、検出用抗体スポット上に捕捉された金コロイドの程度を4段階(+++:強い陽性、++:陽性、+:弱い陽性、−:陰性)に目視で識別した。結果を表3に示した。
【0074】
【表3】

【0075】
表3に示したように、培養法により得られたストレプトコッカス・ミュータンスの濃度と相関するスポット発色強度が得られた。
【0076】
これらの結果から、本発明の方法により唾液分泌量、唾液緩衝能とストレプトコッカス・ミュータンス菌数が、正確、迅速に測定できることが分かった。
実施例2[唾液分泌量の少ない被験者の唾液緩衝能の測定]
唾液分泌量の少ない被験者F、G、Hより実施例1(1)と同様の方法により唾液を採取した。培養法でストレプトコッカス・ミュータンス菌数を測定した。
【0077】
次いで、実施例1(2)と同様に、本発明の唾液緩衝能の測定法により被験者の唾液緩衝能を測定した。
【0078】
従来法による測定は、今回の被験者は唾液分泌量が少ないため、実施例1のように判定チューブ法により唾液緩衝能を測定することが不可能なため、試験紙法により実施した。一般的に唾液分泌量の少ない被験者から採取した唾液は粘度が高い場合が多く、これを直接用いたのでは均一に浸透せず試験紙法による唾液緩衝能測定が困難になる場合がある。このため、特許文献3に記載されているように、唾液緩衝能検査試薬を担持していない濾材により唾液を濾過することで唾液の粘度を下げることを試みた。唾液緩衝能検査試薬を担持していない濾材GA−100を使用した以外は図1に示す濾過装置と同じものを作成し、唾液0.1mLを濾過した。このとき生じた濾液により唾液緩衝能を測定した。濾液を用いて試験紙法試薬であるDentobuff Strip(オーラルケア)により唾液緩衝能を測定した。測定方法は取り扱い説明書に従って、ストリップに濾液を1滴滴下し5分後の呈色を観察した。判定は黄色が低緩衝能、緑が中緩衝能、青が高緩衝能と判定した。判定は3人の判定者(ア、イ、ウ)により実施した。また、唾液を濾過せずに、唾液を直接ストリップに滴下し唾液緩衝能の測定を行った。結果を表4に示した。
【0079】
【表4】

【0080】
唾液分泌量が少ない場合、唾液の粘度が高く試験紙に均一に浸透しなかったために正確に唾液緩衝能を判定できない場合があったが、濾過により粘度を下げると判定は容易にできた。本発明の唾液緩衝能測定法では、唾液を濾材で濾過するだけで唾液と唾液緩衝能検査試薬の混合が効率よく行なわれ、従来法に比べ簡便、迅速に唾液緩衝能の判定が可能であった。
参考例2[実施例2における、濾材上に保持される成分を用いての唾液中のストレプトコッカス・ミュータンス菌数の測定]
実施例2を実施後、参考例1(1)(2)と同様の方法にて、唾液緩衝能の測定法に従って唾液を濾過した濾過装置を用いて、ストレプトコッカス・ミュータンス菌数を測定した。唾液分泌量、培養法により測定したストレプトコッカス・ミュータンス菌数、そして免疫クロマト法の結果を表5に示した。
【0081】
【表5】

【0082】
これらの結果から、唾液分泌量が少ない被験者の場合でも、本発明の唾液緩衝能の測定法により、唾液分泌量、唾液緩衝能とストレプトコッカス・ミュータンス菌数が、正確、迅速に測定できることが分かった。唾液分泌量の少ない患者から採取した唾液は、粘度が高い場合が多く、唾液緩衝能を試験紙法により測定する場合は、試験紙に唾液が染み込み難いため、判定が困難になる場合があることが知られている。今回の結果も、唾液を直接に試験紙法で測定した場合、判定がばらつく場合があった。このようなことを回避するために、唾液を濾過した濾液を使用することで、唾液の粘度を下げ、該濾液により唾液緩衝能を測定する方法が知られていたが、唾液と濾過と唾液緩衝能の測定の2つの操作を行なう必要があり煩雑であった。本発明の唾液緩衝能測定法によれば、唾液を濾材で濾過するだけで唾液緩衝能の測定が可能であり、簡便、迅速に唾液緩衝能の測定ができる。
【0083】
さらに、本発明の濾過装置を使用して、濾材上に微生物を保持すれば、微生物数も迅速簡便に測定でき、被験者の疾患発症リスクをより正確に判定することが可能となる。本発明の唾液緩衝能の測定方法は、従来、微生物数と唾液緩衝能の両方を測定することが困難であった唾液分泌量の低い被検者の場合において特に有効である。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】本図は、本発明の抗原の抽出方法で使用する濾過装置の該略図である。
【図2】本図は、本発明の免疫クロマト法で使用するストリップの各部材の概略図である。
【図3】本図は、本発明の免疫クロマト法で使用するストリップの側面図である。
【符号の説明】
【0085】
1・・・排液口
2・・・唾液緩衝能検査試薬を担持した濾材
3・・・容器本体
4・・・シリンジ差込口
5・・・蓋部
6・・・濾過装置
7・・・ストリップ
8・・・サンプルパッド
9・・・コンジュゲートパッド
10・・・展開メンブレン
11・・・吸収パッド
12・・・検出ライン
13・・・コントロール判定ライン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
濾材で唾液を濾過し、該濾材上に保持される成分より唾液中の微生物量を測定する際に生じる唾液の濾液を用いて、該唾液の緩衝能を測定する方法であって、pH指示薬及び酸を含む唾液緩衝能検査試薬を担持させた濾材で唾液を濾過し、濾液の呈色状態を測定することにより実施することを特徴とする唾液緩衝能の測定方法。
【請求項2】
微生物量を測定する唾液中の微生物が、齲蝕関連菌であることを特徴とする請求項1記載の唾液緩衝能の測定方法。
【請求項3】
pH指示薬及び酸を含む唾液緩衝能検査試薬が担持された濾材を備えてなることを特徴とする濾過装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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