説明

喘息の成長因子治療

本発明は、喘息患者における気管支上皮損傷を治療するための、又は気管支上皮損傷から保護するための成長因子の使用であって、該成長因子が上皮成長因子(EGF)類似体、KGF又はKGF類似体である、前記使用に関する。このための適当なEGF類似体はEGFレセプターを標的化し、かつ喘息患者において気道繊維芽細胞に比較して気管支上皮細胞の優先的増殖を促進する能力を示す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、喘息に関する治療的介入のための新規戦略に関する。特に、本発明は、喘息患者において気管支上皮損傷を標的化するための、又は気管支上皮損傷から保護するための、特定の上皮成長因子(EGF)類似体の使用に関する。さらに本発明は、かかる治療目的のためのケラチノサイト成長因子(KGF)又はKGF類似体の代替的使用に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
喘息は、息切れ、喘鳴及び咳を生じさせるアレルゲン(例えばチリダニ類)、ウイルス感染症及び大気汚染物などの一般的な環境因子に応答して気道が収縮する、気道の慢性炎症性疾患である。この疾患は、気道の上皮層に対する反復的な炎症性損傷及び気道壁の構造的変化(リモデリング)により進行する(Holgate, S.T. (1999) J. Allergy Clin.Immunol.104, 11139-11146)。
【0003】
喘息の中心的な治療は、気道収縮を低減することによって喘息症状を軽減する気管支拡張剤、及び炎症を低減するコルチコステロイドである。しかし重篤かつ慢性的な喘息患者において、気道の組織リモデリングは疾患の進行及びコルチコステロイド治療に対する耐性の両方をもたらす。これらの制御が不十分な患者は喘息治療の総費用の40%以上を占める。重篤かつ慢性的な喘息患者における気道上皮損傷の性質についてかなり知られてきているものの、この問題を直接的に対象とする臨床的に有効な手段は依然として利用可能ではない。
【0004】
かかる損傷の特性は、構造的変化を伴うかなり異常な気管支上皮であり、これは円柱細胞のその基底付着からの分離を含む。この損傷構造の下で、上皮下筋繊維芽細胞数が増加し、上皮下基底膜の肥大及び密度増加を生じさせる間質コラーゲンを蓄積する。激しい気管支上皮損傷を示す喘息患者において、かかる上皮組織は成長停止のマーカーを表し(Puddicombeら, (2003) Am. J. Respir. Cell Mol. Biol. 28, 61-68)、上皮バリアを回復する増殖の証拠はほとんどない(Demolyら, (1994) Am. J. Respir. Crit. Care Med. 150, 214-217)。慢性喘息における持続的な上皮修復は、上皮間葉栄養単位(EMTU)内の細胞間連絡を増強し、これにより筋繊維芽細胞の活性化及びリモデリング反応の粘膜下組織への伝播が生じる(Holgateら. (2000) J. Allergy Clin. Immunol. 105, 193-204及びHolgate & Davies (2001) The Immunologist, 8, 131-135)。EMTU内の媒介物質は炎症を維持するがアレルギー性媒介物質(Th−2サイトカイン)はEMTUと相互作用してこれらの反応を増強又は増幅する(Richterら. (2001) Am. J. Respir. Cell Mol. Biol. 25, 385-391; Daviesら. (2003) J. Allergy Clin. Immunol. 111, 215-225)。したがって、損傷した上皮細胞の損傷回復サイクルの欠陥が、異常な上皮-間葉相互作用の発達に重要な役割を果たすと考えられる。
【0005】
米国特許第5,455,226号は、気管支上皮の損傷に伴って生じる気管支肺病変の治療のためのEGFの使用を提案している。しかし、この明細書は喘息の治療においてEGFを使用する具体的な指示を提供しておらず、EGFは喘息の治療において何らかの臨床的価値を有するものと認識されていない。実際、喘息における既存の上皮下繊維症を悪化させることが予想された。これは、気道上皮損傷のトランスジェニックマウスモデルにおいてヒトトランスフォーミング成長因子α(TGFα)を過剰発現する研究によって実証されている。TGFαはEGFの構造的ホモログであり、EGFレセプターのリガンドである。この研究モデルにおいて、TGFαは著しい気道繊維症を生じた(Korfhagenら, Respiratory epithelial cell expression of human transforming growth factor-alpha induces lung fibrosis in transgenic mice. J. Clin. Invest.(1994) 93, 1691-1699)。米国特許第5,455,226号で具体的に言及されるヒト気管支上皮の損傷は、突発的な中毒、気管支肺感染症、慢性気管支炎及び気腫から生じる繊毛呼吸上皮創傷のみである。さらに、このような創傷を治療するためにEGFを使用するという提案は、専らヒト気管支上皮のin vitro創傷モデルに対するEGFの有利な効果の立証に依存しており、該モデルは増殖反応を増加する上皮細胞の能力の欠陥というよりもむしろ上皮細胞移行にかなり左右される。したがって、かかるモデルは喘息患者における上皮損傷及び気道リモデリングのための良いモデルではない。さらに、損傷した喘息患者の上皮における損傷回復サイクルの欠陥が、増殖反応を増加する喘息患者の上皮細胞の能力における本質的な欠陥、又は上皮成長アンタゴニストとして作用するTGFβ等の因子の存在、或いはその両者に起因しているか否かは、依然として知られていなかった。
【0006】
現在では、ヒト喘息患者由来の気管支上皮細胞は、初代培養での最大増殖のために外因性EGFを必要とするが、同じ条件の非喘息患者由来の気管支上皮細胞の増殖はこの成長因子に影響されないことがわかっている。この観察は、喘息患者において気管支上皮損傷を標的化するための又は気管支上皮損傷から保護するための新規戦略を提案する基礎を提供し、該戦略は、気道繊維芽細胞に比較してかかる気管支上皮細胞の増殖を促進する選択的能力を示すEGFの非天然の組換え類似体の使用に依存する。一例として、かかるEGF類似体はPuddicombeら(1996) J. Biol. Chem. 271, 30392-30397に開示されている。この論文は、マウスEGFのカルボキシル末端の11アミノ酸残基がマウスTGFαの対応する7アミノ酸残基で置換されているキメラ成長因子(mEGF/TGFα44−50、図1参照)を開示する。このキメラ成長因子は、EGFに比較してEGFレセプター(EGFR)に対する比較的低い親和性を有することが見出されており、予想されるように正常なヒト包皮繊維芽細胞で試験した際に弱い有糸分裂促進因子であった。対照的に、NR6/HER細胞(ヒトEGFRでトランスフェクトしたNR6マウスの繊維芽細胞)で試験したとき、このキメラ成長因子はその親和性から予測されるよりもはるかに強力な有糸分裂促進因子(すなわちスーパーアゴニスト)であった。このスーパーアゴニスト活性は、遺伝子的に改変した数種のEGFRリガンドで観察されており、EGFR結合及び低親和性リガンドの解離の反復サイクル並びに活性化EGFRの選択的トラフィッキングに起因していると考えられている(Lenferinkら(1998) Differential endocytic routing of homo- and hetero-dimeric ErbB tyrosine kinases confers signaling superiority to receptor heterodimers. EMBO J. 17, 3385-3397; Lenferinkら(2000) Superagonistic activation of ErbB-1 by EGF-related growth factors with enhanced association and dissociation rate constants. J. Biol. Chem. 275, 26748-53)。しかし、本発明者らは、スーパーアゴニストの反応を測定するために使用した細胞が、遺伝子的に改変されて正常な繊維芽細胞でみられるよりも約10倍高いレベルでEGFRを発現することを認めた。このレベルのEGFR発現は上皮細胞の特徴であるため、本発明者らはこのリガンドが上皮細胞の強力なアクチベーターを証明し得ること、及びこのリガンド自体が喘息の治療に有用な繊維症節約性(fibrosis-sparing property)を有する上皮成長因子に必要な選択性を提供し得ると推理した。現在では、本発明者らは、有糸分裂誘発アッセイにおいて、確立されている気管支上皮モデルであるH292ヒト気管支上皮細胞系とヒト気道繊維芽細胞とを用いてこの組換えキメラ成長因子を試験しており、かつこれが気管支上皮細胞でDNA合成の約100倍を超える促進能を示すことを見出している。したがって、現在では、気道繊維芽細胞の存在下で喘息患者の気管支上皮細胞の増殖を優先的に促進する能力を保持する、このキメラ成長因子、その種ホモログ、特にそのヒトホモログ、及びその他のポリペプチド類似体が、喘息患者における気管支上皮損傷を標的化する治療法として提案されている。
【0007】
EP−B 0555205に記載されるように、最初にケラチノサイト成長因子が繊維芽細胞に比較して上皮細胞に対する明らかな特異性を有する成長因子として同定された。したがって、現在では、KGF及びKGF類似体も、喘息患者において気管支上皮損傷を治療する又は気管支上皮損傷から保護するのに等しく有用であろうことが推定されている。KGFは肺における治療としての使用について既に提案されているが、かかる使用は喘息を包含していなかった。したがって、Amgen Inc.のEP−B 0619370は、KGFの様々な治療上の用途(気道熱傷、気腫及び肺炎症から生じる肺の病巣を治療することを含む)を提案する。かかる病巣の治療は、喘息患者の気管支上皮細胞の欠陥を治療する際に増殖反応を増加するKGF又は任意のEGF類似体の有用性を予測しなかった。
【0008】
Genentechの国際特許出願WO99/39729は、喘息を含む様々な肺疾患において上皮細胞増殖を誘導するための薬剤として、ヘレグリン(HRG、ニューリグニンとしても知られる)の使用を提案するが、この成長因子は別のレセプター、すなわちHER3(ErbB3)及びHER4(ErbB4)に結合するため(, , . Roles of ErbB-3 and ErbB-4 in the physiology and pathology of the mammary gland. J. Mammary Gland Biol. Neoplasia. 1997 2 (2):187-98)、EGF類似体と正確に同一なレセプター特異性プロファイルを有するとみなすことはできない。さらに、肺発生の間に間葉細胞に由来するHRGが上皮細胞増殖を刺激することが立証されているが(Dammanら. Role of neuregulin-1 beta in the developing lung. Am. J. Respir. Crit. Care Med. 2003 167(12):1711-6)、現在ではHRGは上皮特異的な有糸分裂促進因子ではないことが知られている。例えば、これは血管細胞(Russellら. Neuregulin activation of ErbB receptors in vascular endothelium leads to angiogenesis. Am. J. Physiol. 1999 277(6 Pt 2):H2205-11)、筋細胞及び神経細胞(Falls D.L. Neuregulins and the neuromuscular system: 10 years of answers and questions. J. Neurocytol. 2003 Jun-Sep;32(5-8):619-47)に対する活性を有する。気道における血管質の増加は喘息患者の気流制限に寄与すると考えられているため(Hashimotoら Quantitative analysis of bronchial wall vascularity in the medium and small airways of patients with asthma and COPD. Chest. 2005 Mar.127(3):965-72)、気道における脈管形成を誘導するHRGの潜在性は、上皮回復を促進する薬剤としてのその有用性を制限し得る望ましくない性質であった。したがって、本明細書で使用される「EGF類似体」という用語は任意のヘレグリンまで拡張されないものと理解される。
【発明の開示】
【0009】
発明の概要
したがって、一態様では、本発明は、喘息患者の気管支上皮損傷の治療又は気管支上皮損傷からの保護に使用するための医薬製造における成長因子の使用であって、該成長因子はEGF類似体、KGF又はKGF類似体であり、該EGF類似体がEGFRを標的化しかつ該患者において気道繊維芽細胞に比較して気管支上皮細胞の優先的な増殖を促進する能力を示す、上記使用を提供する。かかる優先的活性は、EGF類似体を臨床的に問題のある気道繊維症を生じることなく上皮の回復を促進するのに臨床上有効な量で気道に投与できるものであると理解されよう。EGF類似体はポリペプチド鎖に改変(例えPEG化)を導入して、投与した成長因子の半減期を延長し得る。
【0010】
別の態様では、非喘息患者の対照気管支上皮細胞に比較して増殖能力に欠陥のある喘息患者の気管支上皮細胞の増殖の増加を促進する能力について試験薬をスクリーニングする方法であって、該方法が
(i)成長因子の非存在下で喘息患者由来の上記気管支上皮細胞を培養すること;
(ii)該培養物又はこれと同一の培養物に試験薬を添加すること;及び
(iii)該試験薬が、試験薬又は成長因子を添加することなく同一の条件下で培養した対照気管支上皮細胞に比較して最大の増殖又は有糸分裂誘発を促進するための外因性EGFの必要性を低減するか否かを判定することを含む、上記方法が提供される。試験薬がEGF類似体として試験されるべきポリペプチドである場合、かかるスクリーニング方法はさらに、EGF類似体が、同一種の培養気道繊維芽細胞に比較して喘息患者の培養気管支上皮細胞の増殖又は有糸分裂誘発を促進する優先的能力を示すか否かを判定するステップも含む。しかし、かかるスクリーニングはさらに、増殖能力に欠陥のある喘息患者の気管支上皮細胞において内因性成長因子の産生を増加させる化合物をスクリーニングするために使用し得る。かかる化合物も現在では喘息患者の気管支上皮損傷の標的化又は気管支上皮損傷からの保護に使用するための強力な治療として想定されている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
図面及び配列表の簡単な説明
図1:mEGF/TGFα44−50の二次構造。TGFαのカルボキシル末端の7残基が太字で示される。このキメラ成長因子の完全な配列は配列番号1にも提供される。マウスTGFαのカルボキシル末端の7残基は配列番号3に記載される。マウスEGF由来の配列は配列番号2に記載される。
【0012】
図2:正常な及び喘息患者の気管支上皮細胞増殖に対するEGFの効果。7人の正常かつ健康なヒト対照(a)及び10人のヒト喘息対象(b)からの初代気管支上皮細胞培養物を無血清培地(SFM)のみに又は実施例2に記載されるようにEGFの存在下で無血清培地(SFM)に曝露した。データはメジアン、四分位範囲及び5−95%信頼区間を表す。黒点は異常値である。統計的有意差はウィルコクソンの順位和検定を用いて評価した。
【0013】
図3:気管支上皮細胞(a)及び気管支繊維芽細胞(b)に対するEGF及びmEGF/TGFα44−50の有糸分裂誘導活性の比較。H292気管支上皮細胞(a)又はヒト気道繊維芽細胞(b)は血清飢餓であり、その後、実施例2に記載されるように増加用量のEGF(丸)又はmEGF/TGFα44−50(四角)で処理した。DNA合成の誘導は18〜24時間後に放射性チミジンの酸不溶性物質への組込み及びシンチレーション計数を測定することによって測定した。
【0014】
詳細な説明
上で示すように、本発明に従って使用するためのEGF類似体は、喘息患者に臨床上有効な量で投与する際に、臨床上問題となる繊維症を生じることなく上皮回復を促進するようなものである。かかるEGF類似体は、EGF(野生型又は非野生型であり得る)のC末端アミノ酸残基がTGFαのC末端残基で置換されているEGF/TGFαキメラ類似体であり得る。したがって、EGFのC末端アミノ酸残基、特に例えば野生型又は非野生型EGFのC末端の11アミノ酸残基はTGFαのC末端の7アミノ酸残基で置換し得る(例えばヒト−ヒトキメラhEGF/hTGFα44−50)。かかるヒトキメラ成長因子(特にヒトEGFのC末端の11アミノ酸残基がヒトTGFαのC末端の7アミノ酸残基で置換されているヒトキメラ成長因子)は、ヒト喘息患者に関して好ましい有用性を有するものとして想定されるが、本発明はさらに非ヒト喘息動物に対する適用性も見出すかもしれない。さらに、喘息患者の気管支上皮細胞及び気道繊維芽細胞に必要な差異的活性を維持している、上記キメラ成長因子の機能的ポリペプチド類似体も利用することができる。これは最初に従来のin vitro増殖及び/又は有糸分裂誘発アッセイ、例えばコンフルエントでかつ休止の気管支上皮細胞又はヒト気管支上皮細胞系(H292気管支上皮細胞系又はヒト気道繊維芽細胞など)の初代培養物を利用する実施例に記載の有糸分裂誘発アッセイ、によって判断し得る。かかる増殖又は有糸分裂誘発アッセイにおいて、選択したEGF類似体が気道繊維芽細胞に比較して気管支上皮細胞で約10〜100倍又はそれ以上の活性を示すことが望ましい。EGF/TGFα44−50キメラ成長因子の適当な機能的類似体、例えばhEGF/hTGFα44−50は、既知のEGF類似体の変異配列によって置換され得るか、又はこの現象がこのクラスの他の成長因子に転換され得ることに基づいて、EGFR結合親和性を減少させる点突然変異(例えばL47A)又は先端切断(例えばEGF1−46)を重要なレセプター結合残基に有する(例えばGroenenら (1994) Structure-function relationships for the EGF/TGFα family of mitogens. Growth Factors 11, 235-257)が、繊維芽細胞に比較して気管支上皮細胞で必要な差異的活性を維持する、野生型EGF(又はEGFのホモログ)配列であり得る。適当なEGF先端切断は、必要な差異的活性を保持する、より短いペプチド配列を生じさせるN末端及び/又は内部欠失を有するEGF変異体を含み得る。上記のようなキメラ成長因子の適当な機能的類似体は、例えば1以上の置換、例えば繊維芽細胞に比較して気管支上皮細胞で必要な差異的活性を維持する1以上の保存的置換を、単独又は1以上の欠失との組合せのいずれかで有し得る。
【0015】
上で示したように、上記のEGF類似体も同じ治療目的のためにKGF又はKGF類似体によって置換し得ることが予想される。かかる成長因子はKGFの天然形態(ヒトKGFの天然形態など)であり得る。これは組換え成長因子であり得る。「KGF類似体」という用語は、上記のような臨床上の用途に要求される特異性を保持する天然KGFの任意の変異体を含むものと理解される。かかる変異体は休止のBALB/MK上皮ケラチノサイトにおけるDNA合成を500倍以上刺激する能力と同一視し得るが、実質的に繊維芽細胞の有糸分裂誘発活性を欠く(例えば5nMでNIH/3T3繊維芽細胞上のバックグラウンドの1倍刺激未満を示す)。あるいは、適当なKGF変異体は以下のように及びEP−A 1016716で特定されるように同定し得る:(i)BALB/MKケラチノサイトの最大刺激を誘導する変異体の量は、酸性繊維芽細胞成長因子又は塩基性繊維芽細胞成長因子によって刺激されるNIH/3T3繊維芽細胞の最大チミジン組込みの1/50未満を誘導する;あるいは(ii)BALB/MKケラチノサイトの最大刺激を誘導する変異体の量はEGF又はTGFαによって刺激されるNIH/3T3繊維芽細胞の最大チミジン組込みの1/10未満を誘導する。かかるKGF類似体の多くは既に記載されている。対象の発明との関連で、例えば天然のKGFに比較して上皮細胞に対する増加した活性を示す先端切断型KGF類似体に特に関心がある。例えばChiron Corporation名義のEP−B 0706563は、N末端の23アミノ酸残基が天然の成熟KGFから失われている上記先端切断型類似体を記載している。他の改変、例えば上で提案されるような治療用途に必要な活性及び特異性を保持する1以上の置換(1以上の保存的置換など)を全長成熟KGF又は活性の先端切断型KGFに組み込んでも良い。本発明に従って使用するためのKGF又はKGF類似体はまた、ポリペプチド鎖に改変を組み込んで、上述されるように投与時にEGF類似体に関する半減期を延長することもできる。
【0016】
上述の選択した成長因子は、気道送達のための慣用形態の医薬組成物のいずれか、例えば他の生物活性ペプチド(例えばOwensら (2003) Alternative routes of insulin delivery. Diabet. Med. 20, 886-898; Codronsら (2003) Systemic delivery of parathyroid hormone (1-34) using inhalation dry powders in rats. Pharm. Sci. 92, 938-950)用に開発されたエアロゾル送達のための液状又は粉末状製剤に組み込んでもよい。成長因子の適当な用量は、例えば1日当たり約0.5〜50μgの範囲であり、成長因子の半減期を延長する上で言及されるような改変(例えばPEG化)を含んでもよい。
【0017】
別の態様では、喘息患者、好ましくはヒト患者において気管支上皮損傷を治療する又は気管支上皮損傷から保護する方法であって、該患者の気道にEGF類似体、KGF又はKGF類似体を投与することを含み、該EGF類似体が、EGFRを標的化しかつ上記患者において気道繊維芽細胞に比較して気管支上皮細胞の優先的な増殖を促進する能力を示す、上記方法が提供される。
【0018】
スクリーニングアッセイ
上で示すように、別の態様で本発明はさらに、気管支上皮細胞の増殖に欠陥のある喘息患者の該増殖を促進可能な薬剤についてのスクリーニングアッセイまで拡張される。かかるスクリーニングアッセイは試験薬が前記細胞の最大の増殖又は有糸分裂誘発を促進するための外因性EGFの必要性を低減するか否かをin vitroで判定することに依存する。したがって、別の態様では、非喘息患者の対照気管支上皮細胞に比較して増殖能力に欠陥のある喘息患者の気管支上皮細胞の増殖の増加を促進する能力について試験薬をスクリーニングする方法であって、
(i)喘息患者、好ましくはヒト喘息患者由来の上記気管支上皮細胞を成長因子の非存在下で培養すること;
(ii)該培養物又はこれと同一の培養物に試験薬を添加すること;及び
(iii)該試験薬が試験薬又は成長因子を添加することなく同一の条件下で培養された対照細胞に比較して最大の増殖又は有糸分裂誘発を促進するための外因性EGFの必要性を低減するか否かを判定することを含む、上記方法が提供される。
【0019】
かかるスクリーニングは、従来の形態の細胞増殖又は有糸分裂誘発アッセイを使用し得る。試験薬がEGF類似体として試験されるべきポリペプチドである場合、かかるスクリーニング方法は、EGF類似体が、同一種の気道繊維芽細胞に対するものに比較して、喘息患者の気管支上皮細胞に対する優先的な増殖又はマイトジェニック活性、望ましくは気管支上皮細胞に対する約10〜100倍又はそれ以上の活性、最も望ましくは気管支上皮細胞に対する100倍又はそれ以上の活性、を示すか否かを判定するステップをさらに含む。しかし、上にも示すように、かかるスクリーニングは、喘息患者の気管支上皮細胞における内因性成長因子の産生を増加することにより、増殖能力を改善しかつ気道上皮損傷を低減し得る、潜在的な治療上関心のある化合物を選択する目的で他の化合物にも適用し得る。
【実施例】
【0020】
実施例1:mEGF/TGFα44−50及び野生型mEGFの作製
キメラ成長因子mEGF/TGFα44−50及び野生型マウスEGFは、既にChamberlinら, (2001) Eur. J. Biochem. 268, 6247-6255及びPuddicombeら, (1996) J. Biol. Chem. 271, 30392-30397で記載されているように特徴付けられるInvitrogen BV, Leek, The NetherlandsのpPIC9ベクターを用いてピキア・パストリス(Pischia pastoris)で製造した。
【0021】
実施例2:増殖及び有糸分裂誘発アッセイ
(i)初代上皮細胞培養物
気管支線毛(bronchial brushing)は非アトピー被験者、非喘息対照被験者及び喘息被験者から採取した。志願者を症状、肺機能及び薬物治療に従って特徴付けた。喘息の重篤度の評価は喘息の診断及び管理に関するGINAガイドラインに従った(Bousquet (2000) Global initiative for asthma (GINA) and its objectives. Clin Exp Allergy 30 Suppl 1:2-5)。全ての被験者は非喫煙者であり、調査への移行前最低4週間は呼吸器感染症がなかった。書面によるインフォームド・コンセントは、全ての志願者から参加前に取得し、道徳的承認はサウサンプトン大学病院トラストの合同倫理委員会から得た。被験者の詳細は表1に示す。全ての被験者は一般的な空気アレルゲンのパネルを用いてアトピーについて試験し、血清IgEレベルは標準的な酵素結合イムノソルベントアッセイ(ELISA)によって測定した。気道の過反応性はヒスタミン吸引チャレンジによって評価し、PC20(基線から20%で1秒間の努力呼気量[FEV]を生じるのに必要なヒスタミンの蓄積線量)として表現した。
【表1】

【0022】
気管支線毛は公開される標準的なガイドライン(Hurd S.Z. (1991) J. Allergy Clin. Immunol. 88, 808-814)に従って気管支ファイバースコープ(Olympus FB-20D, Tokyo, Japan)を用いた気管支鏡法によって取得した。気管支上皮細胞は標準的な滅菌の単層状ナイロン細胞診ブラシ(Olympus BC 9C-26101; Tokyo, Japan)を用いて取得した。これは直接視により気管支鏡チャンネルを介して下気道内に入り、5〜6連続の線毛を第2及び第3世代の気管支の気管支粘膜から採取した。各擦過後に5mlの滅菌リン酸緩衝生理食塩水(PBS)中に細胞を回収した。この手順の完了時に、10%ウシ胎児血清(FBS)を含む5mlRPMIを添加し、サンプルを5分間150xgで遠心分離して細胞懸濁液をペレット化した。上皮細胞の純度は回収した細胞懸濁液のサイトスピンで差異的細胞カウントを実施することによって評価した。
【0023】
初代培養物は、擦過した新鮮な気管支上皮細胞を、50IU/mlのペニシリン及び50μg/mlのストレプトマイシン(Lordanら(2002) J. Immunol. 169, 407-414)を補充した、3mlのホルモン補充無血清気管支上皮成長培地(BEGM; Clonetics, San Diego, CA)を含む培養皿に播種することによって確立した。コンフルエントのとき、細胞をトリプシンを用いて継代し(p1)、第2継代又は第3継代で実験に使用するまでさらに増殖させた。対照実験は、p2又はp3の細胞の反応間で有意な差異がないことを証明した。生存率はトリパンブルー色素の排除によって評価し、細胞の上皮性質は、培養物チャンバースライド(Nunc, Labtek II eight well chamber slides, Life Technologies Ltd, Scotland)上でパン−サイトケラチン抗体並びにサイトケラチン13(CK13)及びCK18に特異的な抗体を用いた、増殖培養物の免疫組織化学染色によって評価した。
【0024】
(ii)増殖に対するEGFの効果
細胞は4x10細胞/mlの初代BECの最小の播種密度で24ウェルトレイ中で調製した。70%コンフルエントの時点で、細胞をそれぞれ1%ITS及び1%BSAを含むBEGM中で24時間血清飢餓した。細胞をSFM又は1.7nM EGFで24時間処理した。各条件について、細胞を二重に調製した。上澄を細胞から各インキュベーションの終わりに収集し、細胞をホルマール生理食塩水(0.9%(v/v)食塩水中4%(v/v)ホルムアルデヒド)中で少なくとも30分間室温で固定した。次いで、ホルマール生理食塩水を除去し、トレイをティッシュペーパーで拭い、過剰な湿分を除去した。200μlの1%(v/v)メチレンブルー(5gのメチレンブルーを500mlの10mMホウ酸塩緩衝剤(3.82gのホウ酸二ナトリウムテトラボレートを蒸留水で1リットルとした、pH8.5)中に溶解し、濾過した)を各ウェルに30分間添加した。過剰な色素は水が透明になるまで生水で注意深く洗浄することによって除去し、トレイをティッシュペーパーで拭った。次いで、色素をウェル当たり200μlの1:1 エタノール:0.1%HCl溶液(200mlのエタノール:200mlの0.1M HCl)を添加することによって溶出させ、30分間置いた。溶出剤の吸光度を1:1 エタノール:0.1%HClで1:10希釈した後、Multiskan Ascentプレートリーダーを用いて測定して、このプレートリーダーの直線範囲内の吸光度を生じさせた。吸光度は630nmフィルターを用いて読み出し、各サンプルは二重に試験した。標準曲線を直接細胞をカウントすることによって作成して、細胞数のメチレンブルー読み出しとの関連付けを可能にした。1.0のA630は5.5x10細胞/mlと同等であった。
【0025】
結果
正常な被験者由来の初代気管支上皮細胞のEGF処理は、メチレンブルーの取り込みを用いて測定した際、細胞数に対する効果を有しなかった(図2a参照)。対照的に、EGFで処理した喘息患者の細胞は小さいが対照で見られるものに近い細胞数で有意に増加した(図2b参照)。これらのデータは、喘息患者の気管支上皮で観察された増殖率の低減が、損傷に応答して上皮回復を遅延し、かつ上皮バリアの継続的な破壊、そしてそれによる喘息患者の疾患の進行に寄与することを示す。
【0026】
(ii)有糸分裂誘発アッセイ
EGF又はmEGF/TGFα44−50の、コンフルエントかつ休止のH292気管支上皮細胞又は初代気道繊維芽細胞においてDNA合成を誘導する能力は、標準的な有糸分裂誘発アッセイの改変(Puddicombeら (2000) FASEB J. 14, 1362-1374; Puddicombeら (1996) J. Biol. Chem 271, 30392-30397)によって測定した。簡潔に言うと、細胞を96ウェルの不透明な細胞培養トレイにおいて、RPMI/10%FBS中でコンフルエントまで増殖させ、血清を減少させることにより休止を維持した。成長因子を有糸分裂誘発アッセイバッファー中の細胞に添加し、DNA合成を18時間後、Hチミジン又はチミジン類似体である[125I]UdRの取り込みによって、2時間のパルス周期にわたって測定した。細胞を固定し、5%トリクロロ酢酸で洗浄した後、メタノールで洗浄した。乾燥後、酸不溶性物質をウェル当たり40μlの0.2M NaOH中に溶解し、150μlのMicroscint−40(Canberra Packard, Pangbourne, Berks, RG8 7AN)を各ウェルに添加した後に、Topcount Scintillationカウンター(Canberra Packard)で放射活性を測定した。
【0027】
結果
図3aに示されるように、野生型EGF及びキメラ成長因子の、気管支上皮細胞に対する有糸分裂誘発反応を刺激する能力に差異はなかった。しかし、気管支繊維芽細胞に対するその有糸分裂誘発性に顕著な差異が存在した(図3b参照)。このように、EGF/TGFα44−50キメラ成長因子及びその機能的アナログが、喘息患者において気管支上皮回復を促進する手段を表すことが推定される。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】図1は、mEGF/TGFα44−50の二次構造を示す。
【図2】図2は、正常な及び喘息患者の気管支上皮細胞増殖に対するEGFの効果を示す。(a)及び(b)は、それぞれ正常かつ健康なヒト対照及びヒト喘息対象を表す。
【図3】図3は、気管支上皮細胞(a)及び気管支繊維芽細胞(b)に対するEGF及びmEGF/TGFα44−50の有糸分裂誘導活性の比較を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
喘息患者の気管支上皮損傷の治療、又は気管支上皮損傷からの保護に使用するための医薬製造における成長因子の使用であって、該成長因子が上皮成長因子(EGF)類似体、ケラチノサイト成長因子(KGF)又はKGF類似体であり、該EGF類似体が、EGFレセプターを標的化しかつ該患者において気道繊維芽細胞に比較して気管支上皮細胞の優先的増殖を促進する能力を示す、上記使用。
【請求項2】
前記患者がヒト喘息患者である、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記成長因子は、野生型又は非野生型EGFのC末端アミノ酸残基がTGFαのC末端の7アミノ酸残基で置換されているEGF/TGFα44−50キメラ類似体である、請求項1又は2に記載の使用。
【請求項4】
前記類似体は、野生型EGFのC末端の11アミノ酸残基がTGFαのC末端の7アミノ酸残基で置換されているEGF/TGFα44−50キメラ類似体である、請求項3に記載の使用。
【請求項5】
前記成長因子は、ヒトEGFのC末端の11アミノ酸残基がヒトTGFαのC末端の7アミノ酸残基で置換されているキメラ成長因子hEGF/TGFα44−50であるか、又は該キメラ成長因子の機能的類似体である、請求項2に記載の使用。
【請求項6】
前記成長因子がKGF又はKGF類似体である、請求項1又は2に記載の使用。
【請求項7】
非喘息患者の対照の気管支上皮細胞に比較して、増殖能力に欠陥のある喘息患者の気管支上皮細胞の増殖の増加を促進する能力について試験薬をスクリーニングする方法であって、該方法が
(i)成長因子の非存在下で喘息患者由来の上記気管支上皮細胞を培養すること、
(ii)該培養物又はこれと同一の培養物に試験薬を添加すること、及び
(iii)該試験薬が、試験薬又は成長因子を添加しない同一の条件下で培養された対照の気管支上皮細胞に比較して、最大の増殖又は有糸分裂誘発を促進するための外因性EGFの必要性を低減するか否かを判定すること、
を含む、上記方法。
【請求項8】
前記判定が、DNA合成を判定する有糸分裂誘発アッセイを用いるものである、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記細胞がヒト細胞である、請求項7又は8に記載の方法。
【請求項10】
前記試験薬がEGF類似体であり、かつ該類似体が同一種の培養気道繊維芽細胞に比較して喘息患者の培養気管支上皮細胞に対して増殖又は有糸分裂誘発を促進する優先的能力を示すか否かを判定するステップをさらに含む、請求項7〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記試験薬がEGF類似体又はEGF類似体含有組成物以外のものである、請求項7〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
喘息患者の気管支上皮損傷を治療する、又は気管支上皮損傷から保護する方法であって、該患者の気道に成長因子を投与することを含み、該成長因子がEGF類似体、KGF又はKGF類似体であり、該EGF類似体が、EGFRを標的化し、かつ上記患者において気道繊維芽細胞に比較して気管支上皮細胞の優先的増殖を促進する能力を示す、上記方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2008−512435(P2008−512435A)
【公表日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−530780(P2007−530780)
【出願日】平成17年9月13日(2005.9.13)
【国際出願番号】PCT/GB2005/050155
【国際公開番号】WO2006/030241
【国際公開日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【出願人】(505093736)ユニバーシティ、オブ、サウサンプトン (6)
【Fターム(参考)】