噴流浴装置
【課題】 まっすぐな噴流噴出と往復自励振動する噴流噴出の両方を切り替えて実現可能であり、噴流の勢いを維持しつつ入浴中の事故を防止できる噴流浴装置を提供することである。
【解決手段】 本発明では、浴槽壁に設置され、噴出方向を変化させながら前記浴槽の内部に噴出する噴流ノズル11において、略長方形状の噴出口26の長方形状のうち、長辺壁と略平行に配置された柵27を設けることにより、指入れ防止効果の高い噴流浴装置が提供される。
【解決手段】 本発明では、浴槽壁に設置され、噴出方向を変化させながら前記浴槽の内部に噴出する噴流ノズル11において、略長方形状の噴出口26の長方形状のうち、長辺壁と略平行に配置された柵27を設けることにより、指入れ防止効果の高い噴流浴装置が提供される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、浴槽内に噴流を噴出させる噴流ノズルを備えた噴流浴装置に係り、特に使用者の安全性を確保した噴流浴装置に関する発明である。
【背景技術】
【0002】
従来の浴槽壁に噴流ノズルを設けて、そのノズルから噴流を浴槽内に噴出させるものがあるが、その多くはまっすぐに噴流を噴出させるものであり(例えば、特許文献1参照)、噴流が入浴者の身体の一部に局所的にあたり、噴流により受ける刺激が単調で飽きやすく、多様なマッサージ感は得られ難かった。
【0003】
また、特許文献2には、ノズル自体に可動部を設けない構造にて、噴出方向を変化させつつ、噴流噴出が可能な構成が開示されている。
これらの構造においては、入浴者がノズル先端部に指などを挿入する危険性について対策がなされておらず、指がノズル内に挟み込まれるなどの事故が発生する可能性があった。
【0004】
一方、特許文献3にはノズルの噴出口に噴流を分岐させる目的で分岐仕切りを設けた構造が開示されている。
この場合、分岐仕切りの開口面積によっては、入浴者が指などを挟みこむ可能性を低減することが可能であるが、分岐仕切りが噴流の振動方向と略直行に設けられているため、噴流の振動が妨げられ、入浴者が得られるマッサージ感が低減してしまうという課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7−178142号公報
【特許文献2】特開平4−174461号公報
【特許文献3】特開2007−160155号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記問題を解決するためになされたもので、本発明の課題は、まっすぐな噴流噴出と往復自励振動する噴流噴出の両方を切り替えて実現可能であり、噴流の勢いを維持しつつ入浴中の事故を防止できる噴流浴装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために請求項1記載の発明によれば、浴槽と、前記浴槽の浴槽壁に開口され前記浴槽の内部に貯留された浴槽水が吸い込まれる吸入口と、前記吸入口から浴槽水を吸入し加圧して吐出する加圧装置と、前記浴槽のあふれ縁より下で前記浴槽壁に対して保持される一重構造の筐体を有し、前記筐体の内部に導入された浴槽水を、噴出方向を変化させながら前記浴槽の内部に噴出する噴流ノズルと、を備えた噴流浴装置であって、前記噴流ノズルは、流水導入部と、前記筐体の軸方向に延在して前記筐体の内部に形成されたチャンバーと、を有し、前記流水導入部は、前記加圧装置から送られる加圧浴槽水が導入される上流側端部と、前記上流側端部に対して流路が細くされると共に、前記チャンバーに連通する下流側端部と、を有し、前記チャンバーは、前記軸方向の上流側端部に設けられ前記流水導入部の前記下流側端部に対して流路断面が急拡大された流路断面急拡大部と、前記軸方向の下流側端部に開口され前記浴槽の内部に臨む噴出口と、を有し、前記流路断面急拡大部から前記噴出口にかけての断面形状が略長方形状に形成され、前記流路断面収縮部流水導入部の前記下流側端部における前記チャンバー内に臨む下流端開口は、前記噴出口から前記チャンバー内を見た正面視で前記チャンバーの断面形状を形作る輪郭線よりも内側に位置し、前記流路断面収縮部流水導入部の前記下流端開口の開口縁部と前記輪郭線との間に隙間を有し、前記噴出口の長方形状のうち、長辺壁と略平行に配置された柵を設けることを特徴とする噴流浴装置が提供される。
これによれば、噴流が自励振動する方向と略平行に柵を設けたことにより、噴流の自励振動を妨げることなく、入浴者がノズルに指などを入れてしまうことを防止できる。
【0008】
また、請求項2記載の発明によれば、前記柵が複数設けられたことを特徴とする噴流浴装置が提供される。
これによれば、柵と柵、柵と長辺壁との間隔を小さなものとすることができ、児童など体の小さな入浴者が、ノズルに指などを入れてしまうことを防止できる。
【0009】
また、請求項3記載の発明によれば、前記噴出口を正面から見た流路断面積を、前記柵を設けた面積相当分広げることを特徴とする噴流浴装置が提供される。
これによれば、噴出口の流路断面積を柵を設ける前と同じ面積とすることで、噴流の勢いを維持したまま、入浴者がノズルに指などを入れてしまうことを防止できる。
【0010】
また、請求項4記載の発明によれば、前記柵の長手方向から垂直に見た断面形状は、流線形状であることを特徴とする噴流浴装置が提供される。
これによれば、柵の断面形状を流線型状とすることで、噴流が柵に当たることによる流速の低下を抑えながら、入浴者がノズルに指などを入れてしまうことを防止できる。
【0011】
また、請求項5記載の発明によれば、前記柵を前記噴出口の浴槽側端部よりも前記チャンバー内方向に設けたことを特徴とする噴流浴装置が提供される。
これによれば、柵が噴出口の端部に存在し、使用者が誤って柵に衝撃を加えることで柵を破壊してしまうことを防止できる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、まっすぐな噴流噴出と往復自励振動する噴流噴出の両方を切り替えて実現可能であり、噴流の勢いを維持しつつ入浴中の事故を防止できるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施形態に係る噴流浴装置の概略構成を示す模式図。
【図2】同噴流浴装置における噴流ノズルの模式断面図。
【図3】同噴流ノズルを噴出口側から見た正面図。
【図4】同噴流ノズルにおけるチャンバーの模式図。
【図5】同噴流ノズルにおけるチャンバー及び噴出口の断面形状の他の具体例を示す模式図。
【図6】同噴流ノズルにおけるチャンバー及び噴出口の断面形状のさらに他の具体例を示す模式図。
【図7】同噴流ノズル内における流水の挙動を説明するための模式図。
【図8】同噴流ノズルからの噴出噴流を、噴出口から70mmの位置に設けた面状に広がる観測体に衝突させ、その観測体に対する噴流衝突部分の中心位置の時間変化に伴う挙動を示す模式図。
【図9】図8(a)における撮像画像10フレームごとの移動軌跡を示す模式図。
【図10】本実施形態に係る噴流ノズルにおける噴出噴流振動振幅の出現率を示すグラフ。
【図11】本実施形態に係る噴流ノズルにおける圧力Pと流量QとのPQ特性を示すグラフ。
【図12】本実施形態に係る噴流ノズルにおける噴流噴出方向切換周波数特性を示すグラフ。
【図13】本実施形態に係る噴流ノズルにおける噴流噴出方向の切り換わりの様子を示す画像。
【図14】同噴流ノズルを噴出口側から見た正面図と断面図。
【図15】図14におけるA−A断面図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1は、本発明の実施形態に係る噴流浴装置の概略構成を示す模式図である。
【0015】
本実施形態に係る噴流浴装置は、浴槽4と、浴槽4の浴槽壁に開口された吸入口5と、循環路6、8と、循環路6、8の間に接続された加圧装置であるポンプ7と、浴槽壁に設けられた2つの噴流ノズル11とを備える。
【0016】
浴槽4は、略平行に相対向する一対の長辺浴槽壁3a、3bと、略平行に相対向する一対の短辺浴槽壁4a、4bとを有する。
【0017】
吸入口5は一対の長辺浴槽壁3a、3bのうちの一方(図1に示す例では長辺浴槽壁3a)に形成されている。ポンプ7が駆動されると、浴槽4の内部に貯留された浴槽水(湯も含む)は吸入口5を介して循環路6へと吸い込まれる。
【0018】
一般に、入浴者は、向かい合う一対の短辺浴槽壁4a、4bのうちの一方に背をもたれかけて他方の短辺浴槽壁に足を向けた姿勢で入浴するため、吸入口5を短辺浴槽壁に形成した場合には、入浴者の背中や足裏で吸入口5がふさがれポンプ7に過剰の負荷がかかることが懸念される。したがって、吸入口5は、入浴者の身体の一部等によってふさがれにくい長辺浴槽壁に形成するのが望ましい。
【0019】
循環路6の一端は吸入口5に接続され、他端はポンプ7の吸込口に接続されている。循環路8の一端はポンプ7の吐出口に接続され、他端は噴流ノズル11に接続されている。ポンプ7は、吸入口5から循環路6内に浴槽水を吸い込むと共に、その吸い込んだ浴槽水を加圧してポンプ7の下流側の循環路8に吐出する。このポンプ7から吐出された加圧浴槽水は、噴流ノズル11の内部に流入する。なお、使用していないときに、ポンプ7内部の残留水を抜くために、ポンプ7は吸入口5よりも上方に設けることが望ましい。
【0020】
本実施形態では、一対の短辺浴槽壁4a、4bのうちの一方(図1に示す例では短辺浴槽壁4a)に、2つの噴流ノズル11を取り付けている。2つの噴流ノズル11は、略同じ高さに所定距離水平方向に隔てて、短辺浴槽壁4aに保持されている。なお、入浴者が噴流ノズル11が設けられた短辺浴槽壁4aに背中を向けた姿勢で入浴すれば、噴流ノズル11からの噴流を背中や腰に受けることができるし、その短辺浴槽壁4aに足を向けた姿勢で入浴すれば足裏や脹脛に噴流ノズル11からの噴流を受けることができる。
【0021】
図2は、噴流ノズル11の模式断面図である。
図3は、図2における噴流ノズル11を噴出口26側から見た正面図である。
【0022】
噴流ノズル11は、大きく分けて、略円筒形状でほぼまっすぐに延在する筒体20と、筒体20の軸方向の上流側端部に設けられた湾曲部30とを有する。筒体20は筒状の外側カバー31の内部に設けられ、湾曲部30はエルボカバー32の内部に設けられている。筒体20と湾曲部30とは一体成形構造であってもよいし、別体のものを結合させてもよい。
【0023】
外側カバー31の下流側端部には、図3に示すようにその中央部分に円形の貫通孔34aが形成された円環状のフランジ部34が設けられている。その貫通孔34aから筒体20の噴出口26を含む下流側端面が露出している。
【0024】
湾曲部30の内部には流水導入部22が形成され、その流水導入部22における上流側端部の最上流端に開口形成された流水導入口21は、前述した循環路8と接続される配管33と接続されている。
【0025】
図1において、噴流ノズル11は、その噴出口26を、浴槽4のあふれ縁より下で浴槽4の内部に臨ませて短辺浴槽壁4aに保持されている。ここで、「あふれ縁」とは、浴槽4内に浴槽水をためていったとき、最初に浴槽4内から溢れる部分の浴槽4の縁(またはリム)を意味する。このような構成のため、浴槽4内に浴槽水を溜めて人が入浴した状態で、噴流ノズル11からの噴流を確実に浴槽水中に噴出させることができる。
【0026】
流水導入部22の下流側端部は、流水導入部22の中で最も流路断面が縮小された流路断面収縮部23として機能する。流路断面収縮部23の最下流端は、筒体20の軸方向の上流側端部に開口している。
【0027】
流水導入部22の流路断面は円形または楕円形であり、その流路断面積は、上流側端部から下流側端部である流路断面収縮部23に向けて漸次減少している。すなわち、流水導入部22の流路は、上流側端部から下流側端部である流路断面収縮部23に向けて漸次細くなっている。
【0028】
流路断面収縮部23の流路断面の中心は、筒体20及びチャンバー25の中心軸C1に一致している。流水導入部22の流路断面の中心を通る流路中心線C2は曲率を有する曲線を描き、流水導入部22は湾曲している。その流路中心線C2の下流端位置は、筒体20及びチャンバー25の中心軸C1に一致している。
【0029】
筒体20の内部には筒体20の軸方向に延在するチャンバー25が形成され、流路断面収縮部23は、そのチャンバー25に連通し、且つチャンバー25に対して流路断面が縮小されている。また、流路断面収縮部23は、その流路断面の中心を、チャンバー25の中心軸C1に一致させて、チャンバー25の軸方向に対して略平行に延在し、径が一定な直管状に形成されている。すなわち、流水導入部22の流路は上流側から下流側に向けて漸次細くなり、その細くなった先には、流路径がほぼ一定な直管部(流路断面収縮部23)が続いている。これにより、キャビテーションが発生し難くなり、キャビテーション音の低減が図れる。
【0030】
チャンバー25の軸方向の上流側端部には、流路断面収縮部23に対して流路断面が急拡大(例えば噴出口26からチャンバー25内を見た正面視でチャンバー25の略長方形状の長手方向の長さが4倍以上)された流路断面急拡大部24が設けられている。
【0031】
筒体20の外形は円筒状であるが、その内部に中空穴として形成されたチャンバー25は、チャンバー25のみを抽出して模式的に示す図4に示すように、流路断面急拡大部24から噴出口26にかけての断面形状が略長方形状に形成されている。すなわち、噴出口26からチャンバー25内を見た正面視でチャンバー25及び噴出口26の断面形状が略長方形状となっている。ここで、「略長方形状」とは、4つの角が直角に形成された矩形状に限らず、図5に示すように矩形において4つの角が丸まった(アールが付いた)形状や、図6に示すように略平行に対向する一対の直線を長辺として有すると共に短辺部分が曲線で構成されたオーバルもしくはレーストラック形状も含む。
【0032】
チャンバー25の軸方向の下流側端部には、チャンバー断面と同じ「略長方形状」の噴出口26が開口している。チャンバー25の内壁面は、流路断面急拡大部24から噴出口26に至るまで、チャンバー25の中心軸C1に対して略平行に延在し、また、チャンバー25は流路断面急拡大部24の断面形状が略長方形状のまま噴出口26まで続いている。チャンバー25における軸方向の上流側端部が流路断面急拡大部24として機能し、チャンバー25における軸方向の下流側端部が噴出口26として機能する。
【0033】
噴出口26には、長辺壁と略平行に配置された柵27を設けている。また、柵27の配置された長手方向は、噴流が自励振動する方向と略平行になっている。
【0034】
流路断面収縮部23から流路断面急拡大部24にかけての流路壁面は略垂直に変化している。すなわち、流路断面収縮部23の流路壁面は、チャンバー25の軸方向に対して略平行であるのに対して、流路断面急拡大部24として機能するチャンバー25の軸方向の上流側端部の端面は、流路断面収縮部23の流路壁面に対して略垂直に続いて径外方に広がって形成されている。この流路壁面の急変化により、後述するように流路断面急拡大部24にて、壁面からの流れの剥離が生じる。
【0035】
流路断面収縮部23におけるチャンバー25内に臨む下流端開口は円形状に形成され、その中心はチャンバー25の軸中心に位置している。その流路断面収縮部23の下流端開口は、噴出口26からチャンバー25内を見た正面視において、チャンバー25の断面形状を形作る輪郭線よりも内側に位置し、図3において円形で表される流路断面収縮部23の下流端開口の開口縁部は、同じ図3において矩形状に表されるチャンバー25断面の輪郭線に対して離間し、それら開口縁部と輪郭線との間には上記正面視で隙間が存在する。
【0036】
図2において、外側カバー31は浴槽壁に対して保持固定され、その内部に設けられた筒体20は外側カバー31に対して中心軸C1のまわりに回動自在となっている。図3に示すように、筒体20の下流側端面には噴出口26が開口しているが、その下流側端面において噴出口26の長辺部の外側には、噴出口26を挟んで位置する2つのくぼみ38が形成されている。くぼみ38は、図3において紙面奥側にくぼんでいる。これら2つのくぼみ38を指でつまみながら、図2における、筒体20を外側カバー31に対して回動させることができ、この筒体20の回動によって、噴出口26の長手方向を任意の向きに設定することができる。図3においては、噴出口26の長手方向は縦向きにされているが、横向きにしたり、縦横に対して傾いた向きにしたりと、自由にその向きを変えることができる。
【0037】
次に、本実施形態に係る噴流浴装置の作用について説明する。
浴槽近傍に設けられた図示しないコントローラのスイッチを入浴者が操作すると、前述したポンプ7が起動し、浴槽4内に貯留された浴槽水が吸入口5から循環路6内へと吸入される。この吸入された浴槽水は、ポンプ7にて加圧されて、循環路8を介して、噴流ノズル11の流水導入部22に導入される。
【0038】
ここで、図7(a)〜(d)において左側に表される図は、チャンバー25内での流水の挙動を説明するための模式図であり、その図の右側には噴出口26側から見た正面図を示す。この正面図において、噴出噴流の正面側から見た位置を1点鎖線の円で模式的に表す。(a)において左側の図は、その右側の図におけるA−A断面に対応し、(b)〜(d)の各図においても同様である。
【0039】
流水導入部22に導入された加圧浴槽水は、流路断面収縮部23および流路断面急拡大部24を順に経てチャンバー25内に噴流となって流入する。加圧浴槽水が、流路断面収縮部23からチャンバー25内に流入する際、流路断面の急拡大により、筒体20の内壁面に沿って流れることができなくなり、すなわち流路内壁面に対して流れの剥離が生じる。
【0040】
一般的に、噴流は、外部流体との運動量交換により外部流体を加速し、噴流内部に巻き込む。このとき、噴流近傍に壁面が存在すると、外部流体を内部に引き込むように作用する引きつけ力の反作用により、噴流自身が壁面に向かって曲げられ、再び流れが壁面に沿うようになる。つまり、チャンバー25の内壁面の一部に流れが再付着する。
【0041】
チャンバー25の内壁面に付着した主流は、そのままチャンバー25の内壁面に沿って噴出口26に向かって流れ、噴出口26の出口断面の一部に偏って浴槽4内に噴出する。
【0042】
流路断面収縮部23に比べて噴出口26の流路断面が大きく、流れは下流に向かって減速、すなわち、チャンバー25内部では下流に向かって静圧が増加する逆圧力勾配が形成されることによって、前述した主流の一部は噴出口26から噴出されず、図7(b)において矢印bで表すように、チャンバー25の上流側に戻される。
【0043】
その上流側に戻された流れが、図7(c)に表すように、流路断面急拡大部24付近にて主流が剥離したよどみ領域に流れ込むことで、図7(d)に表すように、流路断面急拡大部24付近で中心軸C1まわりに旋回流が形成され、これにより、主流の内壁面に対する再付着位置が不規則に変化し、チャンバー25内には中心軸C1まわりに不規則に旋回する流れが形成される。ここで、流路断面収縮部23のチャンバー25に臨む下流端開口の開口縁部(図示の例では円形状)と、チャンバー25の略長方形状の輪郭線(すなわちチャンバー25の周囲を囲む4つの内壁面)と、の間には前述した隙間が存在することから、チャンバー25内における上記よどみ領域に、流路断面収縮部23の下流端開口径よりも広がった空間が流路断面収縮部23の下流端開口の全周方向に存在し、そこでの旋回流の形成を可能とする。
そして、噴出口26も含めたチャンバー25の断面形状は前述したように略長方形状であるため、その短手方向への旋回流の広がり(膨らみ)は規制され、結果として噴出口26からはその長手方向に不規則に往復移動する噴流が噴出される。図7(d)の右側の正面図において、正面側から見た噴出噴流の位置の移動軌跡を1点鎖線の矢印で模式的に表す。
【0044】
流路断面収縮部の流路径(図2におけるd)を8.3mm、チャンバー25の軸方向長さ(図2におけるL)を76.6mm、チャンバー25及び噴出口26の断面における長手方向寸法(図3におけるD)を34mm、チャンバー25及び噴出口26の断面における短手方向寸法(図3におけるW)を14mm、流路断面収縮部23におけるチャンバー25内に臨む下流端開口の開口縁部と、チャンバー25の断面輪郭線における長辺部との間の距離(図3におけるX)を2.85mmにそれぞれ設計し、ノズル内への供給流量を25〜45リットル/分とした場合に、噴出口26の長手方向に往復して振れるような噴流の噴出を確認できた。
【0045】
入浴者は、噴流ノズル11から噴出される往復噴流を、腰、背、肩、手、足等の身体の一部に受けることにより、マッサージ効果を得ることができる。前述したように筒体20を回動させることで噴出口26の長手方向を縦向きにしたり、横向きにしたり、斜め向きにしたりと任意にその向きを設定できるため、例えば噴出口26を縦向きにした場合に、入浴者がノズル11が取り付けられた短辺浴槽壁4aに背中を向けた姿勢で入浴すれば、背骨に沿って往復移動する噴流マッサージを受けることができる。
【0046】
同じく噴出口26を縦向きにした場合において、入浴者が足裏をノズル11側に向けた姿勢で入浴すれば、足裏における足先と踵との間の足裏縦方向に沿って往復移動する噴流マッサージを受けることができる。また、噴出口26を横向きにした場合において、入浴者が足裏をノズル11側に向けた姿勢で入浴すれば、足の指の付け根部分に沿って往復移動する噴流マッサージを受けることができる。
【0047】
このような往復移動する噴流によるマッサージは、一般に広く知られる気泡浴装置による細くて強く、まっすぐに噴出する直線的な噴流では得られないものである。しかも、そのような直線噴流に比べて、本実施形態によって実現される噴流は太くてやわらかいため、局所的に強い刺激感ではなく、もみほぐすような手もみに近いマッサージ感を得ることができ、長時間入浴していても飽きがなくゆったりとリラックスできる。また、往復移動の振動数は一定ではなく不規則に変化するので、自然なマッサージ感が得られる。
【0048】
また、本実施形態に係る噴流ノズル11は、チャンバー25の流路断面急拡大部24から断面形状が略長方形状のまま噴出口26まで続いており、内部に導入された流体自身が、前述したようにチャンバー25内での還流作用によって、噴出口26から噴出される噴流の往復移動を励起する構成となっているため、チャンバー25が凸凹の少ない形状になっているため、汚れも付き難くメンテナンスや製作も容易である。また、噴出方向切り換え用の三方弁が不要であり、ノズル構造が単純化され、安価に作製することができ、またメンテナンスも容易になる。さらには、細い制御用流路がないため、ゴミ詰まりなどの心配もない。
【0049】
また、本実施形態では、チャンバー25を囲む筒体20は一重構造である。すなわち、ひとつの筒体20によって周囲が囲まれる単一空間(流路)内で、噴出口26へと向かう主流、および主流とは逆方向に流れる還流が形成され、浴槽水中に往復噴流として噴出される。したがって、構造が単純化され、安価に作製することができ、またメンテナンスも容易になる。さらには、ゴミ詰まりの心配もない。
【0050】
また、本実施形態では、チャンバー25への流入口として機能する流路断面収縮部23は、チャンバー25を囲む筒体20の周壁部には形成されてはおらず、チャンバー25の軸方向の上流側端部に開口している。したがって、流路断面収縮部23からチャンバー25内に流入した主流は、流路断面急拡大部24で流路壁面から剥離した後、チャンバー25の内周面に再付着して、ある程度の直進性を保ったまま噴出口26から噴出し、さらに、その主流の流路壁面(チャンバー25の内周面)への再付着位置がチャンバー25内に形成される循環流(戻り流)により変化することで、噴出方向が変化するため、刺激箇所が時間とともに変化するような変化に富んだ噴流刺激が得られる。
【0051】
流水導入部における流水導入口から流路断面収縮部へと続く部分は流路径がほぼ一定のまま湾曲させた構造としてもよい。ただし、図2に示す前述した実施形態のように、流水導入部22の流路径を上流側端部から下流側端部である流路断面収縮部23に向けて漸次細くなるようにし、且つその流水導入部22の流路断面中心線C2の下流端位置をチャンバー25の中心軸C1に一致させることで、流路径一定のまま湾曲させた場合に比べて、湾曲部の突出長を抑えて、限られた浴室内スペースでの設置に有利となる小型化が図れる。
【0052】
さらに、流路断面収縮部の流路径(図2におけるd)を8.3mm、チャンバー25の軸方向長さ(図2におけるL)を76.6mm、流路断面収縮部23から噴出口26方向の、チャンバー25の軸方向長さ66.6mmの位置から噴出口26の断面における長手方向寸法(図3におけるD)を29.3mmから30mmへ拡大し、同じ位置からチャンバー25及び噴出口26の断面における短手方向寸法(図3におけるW)を14mmから17mmへ拡大し、チャンバー25の噴出口26の長辺壁に対して平行に、短辺壁に対して等間隔に柵を2本形成し、さらに柵の長手方向から垂直に見た断面形状を出口へ向け細くなるような流線形状とし、流線形状のの短手方向の幅を1.5mm、奥行長さを4mmとし、流路断面収縮部23におけるチャンバー25内に臨む下流端開口の開口縁部と、チャンバー25の断面輪郭線における長辺部との間の距離(図3におけるX)を2.85mmにそれぞれ設計し、25〜45リットル/分とした場合に、噴出口26の長手方向に往復して振れるような噴流の噴出を確認できた。
【0053】
図14に噴流ノズル11を正面から見た状態を示す。
噴流が自励振動する方向と略平行に柵27を設けたことにより、噴流の自励振動を妨げることなく、入浴者がノズルに指などを入れてしまうことを防止できる。また、柵間の隙間が、約4.6mmである事から、児童など体の小さな入浴者が、ノズルに指などを入れてしまうことを防止できる。
【0054】
前記噴出口26を正面から見た流路断面積を、実施例にあるように14mm×29.3mm=410.2mm^2から、柵を設けた面積相当分である、1.5mm×30mm=45mm^2の2本分である90mm^2分広げる、噴出口26を17mm×30mm=510mm^2程度の断面積をもつ形状にすることにより、噴流の圧力損失にならず、噴流の勢いを維持したまま、入浴者がノズルに指などを入れてしまうことを防止できる。
【0055】
図15に図14におけるA−A断面図を示す。
柵27は、その断面形状が上流側端部が丸く下流側端部が細くとがった流線形状となっている。これにより、噴流の流れに乱れが生じず整流となり、柵が流れの妨げにならない為、流速の低下を抑えながら、入浴者がノズルに指などを入れてしまうことを防止できる。
【0056】
さらに、柵27を噴出口26の浴槽側端部よりも、チャンバー25内方向に設けている。これにより、柵27が噴出口26の端部に存在した場合に、使用者が誤って柵27に衝撃を加えることで柵27を破壊してしまうことを防止できる。
【0057】
ここで、本発明者等は、本実施形態に係るノズル11からの噴出噴流を、噴出口26から70mmの位置に設けた面状に広がる観測体に衝突させ、その観測体に対する噴流衝突部分を可視化した状態で噴出口26に対して正対する方向から撮像装置で撮影することで、噴出噴流の挙動を調べた。
【0058】
流路断面収縮部の流路径(図2におけるd)を8.3mm、チャンバー25の軸方向長さ(図2におけるL)を76.8mm、流路断面収縮部23の直管部長さ(図2におけるL1)を3mm、チャンバー25及び噴出口26の断面における長手方向寸法(図3におけるD)を33.8mm、チャンバー25及び噴出口26の断面における短手方向寸法(図3におけるW)を13.8mm、流路断面収縮部23におけるチャンバー25内に臨む下流端開口の開口縁部と、チャンバー25の断面輪郭線における長辺部との間の距離(図3におけるX)を2.75mmにそれぞれ設計し、ノズル内への供給流量を40リットル/分とした。
【0059】
撮影画像の解析結果を図8に示す。撮影は3回行い、それぞれについての結果を、図8(a)、(b)、(c)に示す。
【0060】
図8(a)、(b)、(c)は、上記観測体に対する噴流衝突部分の中心位置の時間変化に伴う衝突面内分布(移動軌跡)であり、小さな○印が観測体に対する噴流衝突部分の中心位置を示す。これら分布図の横軸のx方向及び縦軸のy方向における0は、矩形状の噴出口26の中心を表し、x方向はその矩形状の噴出口26の長手方向に、y方向は短手方向にそれぞれ対応する。
【0061】
画像解析フレーム数は600フレームであり、時間ステップは0.01秒、解析総時間は6秒である。
【0062】
図8の結果より、3回の撮影いずれのときも、噴出噴流は、y方向すなわち矩形状の噴出口26の短手方向への変位はわずかで、x方向すなわち噴出口26の長手方向に大きく振れていることが確認できた。
【0063】
図8(a)、(b)、(c)のそれぞれは、画像解析フレーム数600フレームの各フレームをすべて重ね合わせた図であるが、図9には、例えば図8(a)における10フレームごとの移動軌跡を示す。図9において「#10−19」が左上に付された分布図は10フレーム目から19フレーム目までの移動軌跡を表し、「#15−24」が左上に付された分布図は15フレーム目から24フレーム目までの移動軌跡を表し、他の分布図についても左上に付された「#数字−数字」の意味は同様である。そして、図9には、10フレーム目から154フレーム目までの間で、10フレームごと28段階に分けた移動軌跡を示している。
【0064】
0.01秒ごとに1フレームをサンプリングしており、したがって10フレームにわたる移動軌跡は0.1秒間の移動軌跡を表す。図9の各分布図中、フレームサンプリング順序を矢印で示し、例えば10フレーム目から19フレーム目までの移動軌跡においては、10フレーム目から6フレーム目ぐらいまではy方向上方に移動しつつx方向右方に移動し、以降19フレーム目まではy方向下方に移動しつつx方向左方に移動している。
【0065】
図9の結果より、噴出噴流の挙動が旋回成分を持ちながら不規則に変化していることがわかる。なお、図8(a)、(b)、(c)におけるx方向、y方向の目盛範囲はそれぞれ同じであったのに対し、図9の各分布図においてはx方向の目盛範囲が80mmであるのに対してy方向の目盛範囲は20mmである。したがって、図9においてはx方向の移動範囲に対してy方向の移動範囲が実際よりも誇張して示され、実際には、図8(a)、(b)、(c)に示すようにx方向の移動に対してy方向の移動は小さく、噴出噴流はx方向すなわち矩形状の噴出口26の長手方向に大きく振れている。
【0066】
また、本発明者等は、図8(a)、(b)、(c)の3つのデータのx方向成分から、噴出噴流の振動振幅の出現状況の確認を行った。これは、最初に各データのノイズ低減化で7回移動平均を行った上で、時系列的な上限下限ピークの抜き出しを順番に行ってそれらの差分を取っていき、その値を噴出噴流の振動振幅とし、その振動振幅の出現率を見るために確率密度分布を算出し、さらに全体の確率密度分布を算出した。
【0067】
この結果を図10に示す。図10のグラフにおいて、点線は図8(a)のデータについての結果であり、1点鎖線は図8(b)についての結果であり、2点鎖線は図8(c)についての結果であり、実線は図8(a)〜(c)全体についての結果である。
【0068】
この図10の結果から、5〜70mmの間で噴出噴流振動振幅の出現率がほぼブロードになっており、噴出噴流振動振幅の変動幅が一定でなく不規則に変化しているようすがわかる。結果として、往復移動の振動数が一定でなく不規則に変化することと相俟って、よりランダムで自然なマッサージ感が得られ、入浴者に緊張感を与えない。
【0069】
また、本発明者等は、本実施形態に係るノズル11からの噴出噴流において、噴出口26での噴出方向切換周期を測定した。具体的には、透明樹脂で製作したノズル11を用い、噴出口26に対して正対する方向から、噴出口26の矩形状断面構造の長手方向と平行になるようにレーザーシート光を照射して、その長手方向の側面側から撮像装置によって撮影した。水流の動きが確認できるトレーサー粒子を水の中に入れ、図13に示すような撮像装置による画像を観察し、噴流の方向切換回数を目視でカウントすることによって、2次元的な噴流の方向切換挙動特性を調べた。
【0070】
流路断面収縮部23の流路径(図2におけるd)を8.3mm、チャンバー25の軸方向長さ(図2におけるL)を76.8mm、流路断面収縮部23の直管部長さ(図2におけるL1)を3mm、チャンバー25及び噴出口26の断面における長手方向寸法(図3におけるD)を29mm、チャンバー25及び噴出口26の断面における短手方向寸法(図3におけるW)を13.8mm、流路断面収縮部23におけるチャンバー25内に臨む下流端開口の開口縁部と、チャンバー25の断面輪郭線における長辺部との間の距離(図3におけるX)を2.75mmに、それぞれ設計し、ノズル内への供給流量を25、30、40、45リットル/分とした。
【0071】
図11に、ノズル11内に供給される水の圧力Pと、流量Qとの関係を示すPQ特性グラフを示す。
図12に、ノズル11の噴出噴流方向切換周波数特性グラフを示す。
【0072】
これら結果より、供給流量が25〜45リットル/分のとき、噴出噴流は13〜23Hz程度の周波数で、噴流が噴出口26の長手方向に切り換わる傾向であることがわかる。なお、噴出口26から70mmの位置では、噴流が広がり、やや蛇行した上に、比較的狭い範囲で行われていること、さらに面上の観測体は弾性体であるため高い周波数成分が吸収されてしまったこともあり、人の手によるマッサージに近いリズムである比較的低周波領域の振動数が出現した。
【0073】
図13に、噴流噴出方向の切り換わりの様子を示した撮影画像を示す。図13において、主流と渦の概略的な動きを仮想流体線で示している。この結果から、渦発生箇所の上下方向(矩形噴出口の長手方向)の位置の切り換わりと、主流の噴出方向の切り換わりとがリンクしていること、さらには、噴出した噴流が広がり、やや蛇行している様子がわかる。
【0074】
これらの結果から、実際に入浴者に与える刺激感としては、低周波領域では噴流振動を強く感じさせ、細かく方向が切り換わる振動領域では13〜23Hzで感じさせており、これらを複合した、より複雑なきめ細かい刺激を入浴者に与える噴出噴流が得られていることが確認できる。
【符号の説明】
【0075】
4…浴槽、5…吸入口、11…噴流ノズル、20…筒体、22…流水導入部、23…流路断面収縮部、24…流路断面急拡大部、25…チャンバー、26…噴出口、27…柵、30…湾曲部、31…外側カバー
【技術分野】
【0001】
本発明は、浴槽内に噴流を噴出させる噴流ノズルを備えた噴流浴装置に係り、特に使用者の安全性を確保した噴流浴装置に関する発明である。
【背景技術】
【0002】
従来の浴槽壁に噴流ノズルを設けて、そのノズルから噴流を浴槽内に噴出させるものがあるが、その多くはまっすぐに噴流を噴出させるものであり(例えば、特許文献1参照)、噴流が入浴者の身体の一部に局所的にあたり、噴流により受ける刺激が単調で飽きやすく、多様なマッサージ感は得られ難かった。
【0003】
また、特許文献2には、ノズル自体に可動部を設けない構造にて、噴出方向を変化させつつ、噴流噴出が可能な構成が開示されている。
これらの構造においては、入浴者がノズル先端部に指などを挿入する危険性について対策がなされておらず、指がノズル内に挟み込まれるなどの事故が発生する可能性があった。
【0004】
一方、特許文献3にはノズルの噴出口に噴流を分岐させる目的で分岐仕切りを設けた構造が開示されている。
この場合、分岐仕切りの開口面積によっては、入浴者が指などを挟みこむ可能性を低減することが可能であるが、分岐仕切りが噴流の振動方向と略直行に設けられているため、噴流の振動が妨げられ、入浴者が得られるマッサージ感が低減してしまうという課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7−178142号公報
【特許文献2】特開平4−174461号公報
【特許文献3】特開2007−160155号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記問題を解決するためになされたもので、本発明の課題は、まっすぐな噴流噴出と往復自励振動する噴流噴出の両方を切り替えて実現可能であり、噴流の勢いを維持しつつ入浴中の事故を防止できる噴流浴装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために請求項1記載の発明によれば、浴槽と、前記浴槽の浴槽壁に開口され前記浴槽の内部に貯留された浴槽水が吸い込まれる吸入口と、前記吸入口から浴槽水を吸入し加圧して吐出する加圧装置と、前記浴槽のあふれ縁より下で前記浴槽壁に対して保持される一重構造の筐体を有し、前記筐体の内部に導入された浴槽水を、噴出方向を変化させながら前記浴槽の内部に噴出する噴流ノズルと、を備えた噴流浴装置であって、前記噴流ノズルは、流水導入部と、前記筐体の軸方向に延在して前記筐体の内部に形成されたチャンバーと、を有し、前記流水導入部は、前記加圧装置から送られる加圧浴槽水が導入される上流側端部と、前記上流側端部に対して流路が細くされると共に、前記チャンバーに連通する下流側端部と、を有し、前記チャンバーは、前記軸方向の上流側端部に設けられ前記流水導入部の前記下流側端部に対して流路断面が急拡大された流路断面急拡大部と、前記軸方向の下流側端部に開口され前記浴槽の内部に臨む噴出口と、を有し、前記流路断面急拡大部から前記噴出口にかけての断面形状が略長方形状に形成され、前記流路断面収縮部流水導入部の前記下流側端部における前記チャンバー内に臨む下流端開口は、前記噴出口から前記チャンバー内を見た正面視で前記チャンバーの断面形状を形作る輪郭線よりも内側に位置し、前記流路断面収縮部流水導入部の前記下流端開口の開口縁部と前記輪郭線との間に隙間を有し、前記噴出口の長方形状のうち、長辺壁と略平行に配置された柵を設けることを特徴とする噴流浴装置が提供される。
これによれば、噴流が自励振動する方向と略平行に柵を設けたことにより、噴流の自励振動を妨げることなく、入浴者がノズルに指などを入れてしまうことを防止できる。
【0008】
また、請求項2記載の発明によれば、前記柵が複数設けられたことを特徴とする噴流浴装置が提供される。
これによれば、柵と柵、柵と長辺壁との間隔を小さなものとすることができ、児童など体の小さな入浴者が、ノズルに指などを入れてしまうことを防止できる。
【0009】
また、請求項3記載の発明によれば、前記噴出口を正面から見た流路断面積を、前記柵を設けた面積相当分広げることを特徴とする噴流浴装置が提供される。
これによれば、噴出口の流路断面積を柵を設ける前と同じ面積とすることで、噴流の勢いを維持したまま、入浴者がノズルに指などを入れてしまうことを防止できる。
【0010】
また、請求項4記載の発明によれば、前記柵の長手方向から垂直に見た断面形状は、流線形状であることを特徴とする噴流浴装置が提供される。
これによれば、柵の断面形状を流線型状とすることで、噴流が柵に当たることによる流速の低下を抑えながら、入浴者がノズルに指などを入れてしまうことを防止できる。
【0011】
また、請求項5記載の発明によれば、前記柵を前記噴出口の浴槽側端部よりも前記チャンバー内方向に設けたことを特徴とする噴流浴装置が提供される。
これによれば、柵が噴出口の端部に存在し、使用者が誤って柵に衝撃を加えることで柵を破壊してしまうことを防止できる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、まっすぐな噴流噴出と往復自励振動する噴流噴出の両方を切り替えて実現可能であり、噴流の勢いを維持しつつ入浴中の事故を防止できるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施形態に係る噴流浴装置の概略構成を示す模式図。
【図2】同噴流浴装置における噴流ノズルの模式断面図。
【図3】同噴流ノズルを噴出口側から見た正面図。
【図4】同噴流ノズルにおけるチャンバーの模式図。
【図5】同噴流ノズルにおけるチャンバー及び噴出口の断面形状の他の具体例を示す模式図。
【図6】同噴流ノズルにおけるチャンバー及び噴出口の断面形状のさらに他の具体例を示す模式図。
【図7】同噴流ノズル内における流水の挙動を説明するための模式図。
【図8】同噴流ノズルからの噴出噴流を、噴出口から70mmの位置に設けた面状に広がる観測体に衝突させ、その観測体に対する噴流衝突部分の中心位置の時間変化に伴う挙動を示す模式図。
【図9】図8(a)における撮像画像10フレームごとの移動軌跡を示す模式図。
【図10】本実施形態に係る噴流ノズルにおける噴出噴流振動振幅の出現率を示すグラフ。
【図11】本実施形態に係る噴流ノズルにおける圧力Pと流量QとのPQ特性を示すグラフ。
【図12】本実施形態に係る噴流ノズルにおける噴流噴出方向切換周波数特性を示すグラフ。
【図13】本実施形態に係る噴流ノズルにおける噴流噴出方向の切り換わりの様子を示す画像。
【図14】同噴流ノズルを噴出口側から見た正面図と断面図。
【図15】図14におけるA−A断面図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1は、本発明の実施形態に係る噴流浴装置の概略構成を示す模式図である。
【0015】
本実施形態に係る噴流浴装置は、浴槽4と、浴槽4の浴槽壁に開口された吸入口5と、循環路6、8と、循環路6、8の間に接続された加圧装置であるポンプ7と、浴槽壁に設けられた2つの噴流ノズル11とを備える。
【0016】
浴槽4は、略平行に相対向する一対の長辺浴槽壁3a、3bと、略平行に相対向する一対の短辺浴槽壁4a、4bとを有する。
【0017】
吸入口5は一対の長辺浴槽壁3a、3bのうちの一方(図1に示す例では長辺浴槽壁3a)に形成されている。ポンプ7が駆動されると、浴槽4の内部に貯留された浴槽水(湯も含む)は吸入口5を介して循環路6へと吸い込まれる。
【0018】
一般に、入浴者は、向かい合う一対の短辺浴槽壁4a、4bのうちの一方に背をもたれかけて他方の短辺浴槽壁に足を向けた姿勢で入浴するため、吸入口5を短辺浴槽壁に形成した場合には、入浴者の背中や足裏で吸入口5がふさがれポンプ7に過剰の負荷がかかることが懸念される。したがって、吸入口5は、入浴者の身体の一部等によってふさがれにくい長辺浴槽壁に形成するのが望ましい。
【0019】
循環路6の一端は吸入口5に接続され、他端はポンプ7の吸込口に接続されている。循環路8の一端はポンプ7の吐出口に接続され、他端は噴流ノズル11に接続されている。ポンプ7は、吸入口5から循環路6内に浴槽水を吸い込むと共に、その吸い込んだ浴槽水を加圧してポンプ7の下流側の循環路8に吐出する。このポンプ7から吐出された加圧浴槽水は、噴流ノズル11の内部に流入する。なお、使用していないときに、ポンプ7内部の残留水を抜くために、ポンプ7は吸入口5よりも上方に設けることが望ましい。
【0020】
本実施形態では、一対の短辺浴槽壁4a、4bのうちの一方(図1に示す例では短辺浴槽壁4a)に、2つの噴流ノズル11を取り付けている。2つの噴流ノズル11は、略同じ高さに所定距離水平方向に隔てて、短辺浴槽壁4aに保持されている。なお、入浴者が噴流ノズル11が設けられた短辺浴槽壁4aに背中を向けた姿勢で入浴すれば、噴流ノズル11からの噴流を背中や腰に受けることができるし、その短辺浴槽壁4aに足を向けた姿勢で入浴すれば足裏や脹脛に噴流ノズル11からの噴流を受けることができる。
【0021】
図2は、噴流ノズル11の模式断面図である。
図3は、図2における噴流ノズル11を噴出口26側から見た正面図である。
【0022】
噴流ノズル11は、大きく分けて、略円筒形状でほぼまっすぐに延在する筒体20と、筒体20の軸方向の上流側端部に設けられた湾曲部30とを有する。筒体20は筒状の外側カバー31の内部に設けられ、湾曲部30はエルボカバー32の内部に設けられている。筒体20と湾曲部30とは一体成形構造であってもよいし、別体のものを結合させてもよい。
【0023】
外側カバー31の下流側端部には、図3に示すようにその中央部分に円形の貫通孔34aが形成された円環状のフランジ部34が設けられている。その貫通孔34aから筒体20の噴出口26を含む下流側端面が露出している。
【0024】
湾曲部30の内部には流水導入部22が形成され、その流水導入部22における上流側端部の最上流端に開口形成された流水導入口21は、前述した循環路8と接続される配管33と接続されている。
【0025】
図1において、噴流ノズル11は、その噴出口26を、浴槽4のあふれ縁より下で浴槽4の内部に臨ませて短辺浴槽壁4aに保持されている。ここで、「あふれ縁」とは、浴槽4内に浴槽水をためていったとき、最初に浴槽4内から溢れる部分の浴槽4の縁(またはリム)を意味する。このような構成のため、浴槽4内に浴槽水を溜めて人が入浴した状態で、噴流ノズル11からの噴流を確実に浴槽水中に噴出させることができる。
【0026】
流水導入部22の下流側端部は、流水導入部22の中で最も流路断面が縮小された流路断面収縮部23として機能する。流路断面収縮部23の最下流端は、筒体20の軸方向の上流側端部に開口している。
【0027】
流水導入部22の流路断面は円形または楕円形であり、その流路断面積は、上流側端部から下流側端部である流路断面収縮部23に向けて漸次減少している。すなわち、流水導入部22の流路は、上流側端部から下流側端部である流路断面収縮部23に向けて漸次細くなっている。
【0028】
流路断面収縮部23の流路断面の中心は、筒体20及びチャンバー25の中心軸C1に一致している。流水導入部22の流路断面の中心を通る流路中心線C2は曲率を有する曲線を描き、流水導入部22は湾曲している。その流路中心線C2の下流端位置は、筒体20及びチャンバー25の中心軸C1に一致している。
【0029】
筒体20の内部には筒体20の軸方向に延在するチャンバー25が形成され、流路断面収縮部23は、そのチャンバー25に連通し、且つチャンバー25に対して流路断面が縮小されている。また、流路断面収縮部23は、その流路断面の中心を、チャンバー25の中心軸C1に一致させて、チャンバー25の軸方向に対して略平行に延在し、径が一定な直管状に形成されている。すなわち、流水導入部22の流路は上流側から下流側に向けて漸次細くなり、その細くなった先には、流路径がほぼ一定な直管部(流路断面収縮部23)が続いている。これにより、キャビテーションが発生し難くなり、キャビテーション音の低減が図れる。
【0030】
チャンバー25の軸方向の上流側端部には、流路断面収縮部23に対して流路断面が急拡大(例えば噴出口26からチャンバー25内を見た正面視でチャンバー25の略長方形状の長手方向の長さが4倍以上)された流路断面急拡大部24が設けられている。
【0031】
筒体20の外形は円筒状であるが、その内部に中空穴として形成されたチャンバー25は、チャンバー25のみを抽出して模式的に示す図4に示すように、流路断面急拡大部24から噴出口26にかけての断面形状が略長方形状に形成されている。すなわち、噴出口26からチャンバー25内を見た正面視でチャンバー25及び噴出口26の断面形状が略長方形状となっている。ここで、「略長方形状」とは、4つの角が直角に形成された矩形状に限らず、図5に示すように矩形において4つの角が丸まった(アールが付いた)形状や、図6に示すように略平行に対向する一対の直線を長辺として有すると共に短辺部分が曲線で構成されたオーバルもしくはレーストラック形状も含む。
【0032】
チャンバー25の軸方向の下流側端部には、チャンバー断面と同じ「略長方形状」の噴出口26が開口している。チャンバー25の内壁面は、流路断面急拡大部24から噴出口26に至るまで、チャンバー25の中心軸C1に対して略平行に延在し、また、チャンバー25は流路断面急拡大部24の断面形状が略長方形状のまま噴出口26まで続いている。チャンバー25における軸方向の上流側端部が流路断面急拡大部24として機能し、チャンバー25における軸方向の下流側端部が噴出口26として機能する。
【0033】
噴出口26には、長辺壁と略平行に配置された柵27を設けている。また、柵27の配置された長手方向は、噴流が自励振動する方向と略平行になっている。
【0034】
流路断面収縮部23から流路断面急拡大部24にかけての流路壁面は略垂直に変化している。すなわち、流路断面収縮部23の流路壁面は、チャンバー25の軸方向に対して略平行であるのに対して、流路断面急拡大部24として機能するチャンバー25の軸方向の上流側端部の端面は、流路断面収縮部23の流路壁面に対して略垂直に続いて径外方に広がって形成されている。この流路壁面の急変化により、後述するように流路断面急拡大部24にて、壁面からの流れの剥離が生じる。
【0035】
流路断面収縮部23におけるチャンバー25内に臨む下流端開口は円形状に形成され、その中心はチャンバー25の軸中心に位置している。その流路断面収縮部23の下流端開口は、噴出口26からチャンバー25内を見た正面視において、チャンバー25の断面形状を形作る輪郭線よりも内側に位置し、図3において円形で表される流路断面収縮部23の下流端開口の開口縁部は、同じ図3において矩形状に表されるチャンバー25断面の輪郭線に対して離間し、それら開口縁部と輪郭線との間には上記正面視で隙間が存在する。
【0036】
図2において、外側カバー31は浴槽壁に対して保持固定され、その内部に設けられた筒体20は外側カバー31に対して中心軸C1のまわりに回動自在となっている。図3に示すように、筒体20の下流側端面には噴出口26が開口しているが、その下流側端面において噴出口26の長辺部の外側には、噴出口26を挟んで位置する2つのくぼみ38が形成されている。くぼみ38は、図3において紙面奥側にくぼんでいる。これら2つのくぼみ38を指でつまみながら、図2における、筒体20を外側カバー31に対して回動させることができ、この筒体20の回動によって、噴出口26の長手方向を任意の向きに設定することができる。図3においては、噴出口26の長手方向は縦向きにされているが、横向きにしたり、縦横に対して傾いた向きにしたりと、自由にその向きを変えることができる。
【0037】
次に、本実施形態に係る噴流浴装置の作用について説明する。
浴槽近傍に設けられた図示しないコントローラのスイッチを入浴者が操作すると、前述したポンプ7が起動し、浴槽4内に貯留された浴槽水が吸入口5から循環路6内へと吸入される。この吸入された浴槽水は、ポンプ7にて加圧されて、循環路8を介して、噴流ノズル11の流水導入部22に導入される。
【0038】
ここで、図7(a)〜(d)において左側に表される図は、チャンバー25内での流水の挙動を説明するための模式図であり、その図の右側には噴出口26側から見た正面図を示す。この正面図において、噴出噴流の正面側から見た位置を1点鎖線の円で模式的に表す。(a)において左側の図は、その右側の図におけるA−A断面に対応し、(b)〜(d)の各図においても同様である。
【0039】
流水導入部22に導入された加圧浴槽水は、流路断面収縮部23および流路断面急拡大部24を順に経てチャンバー25内に噴流となって流入する。加圧浴槽水が、流路断面収縮部23からチャンバー25内に流入する際、流路断面の急拡大により、筒体20の内壁面に沿って流れることができなくなり、すなわち流路内壁面に対して流れの剥離が生じる。
【0040】
一般的に、噴流は、外部流体との運動量交換により外部流体を加速し、噴流内部に巻き込む。このとき、噴流近傍に壁面が存在すると、外部流体を内部に引き込むように作用する引きつけ力の反作用により、噴流自身が壁面に向かって曲げられ、再び流れが壁面に沿うようになる。つまり、チャンバー25の内壁面の一部に流れが再付着する。
【0041】
チャンバー25の内壁面に付着した主流は、そのままチャンバー25の内壁面に沿って噴出口26に向かって流れ、噴出口26の出口断面の一部に偏って浴槽4内に噴出する。
【0042】
流路断面収縮部23に比べて噴出口26の流路断面が大きく、流れは下流に向かって減速、すなわち、チャンバー25内部では下流に向かって静圧が増加する逆圧力勾配が形成されることによって、前述した主流の一部は噴出口26から噴出されず、図7(b)において矢印bで表すように、チャンバー25の上流側に戻される。
【0043】
その上流側に戻された流れが、図7(c)に表すように、流路断面急拡大部24付近にて主流が剥離したよどみ領域に流れ込むことで、図7(d)に表すように、流路断面急拡大部24付近で中心軸C1まわりに旋回流が形成され、これにより、主流の内壁面に対する再付着位置が不規則に変化し、チャンバー25内には中心軸C1まわりに不規則に旋回する流れが形成される。ここで、流路断面収縮部23のチャンバー25に臨む下流端開口の開口縁部(図示の例では円形状)と、チャンバー25の略長方形状の輪郭線(すなわちチャンバー25の周囲を囲む4つの内壁面)と、の間には前述した隙間が存在することから、チャンバー25内における上記よどみ領域に、流路断面収縮部23の下流端開口径よりも広がった空間が流路断面収縮部23の下流端開口の全周方向に存在し、そこでの旋回流の形成を可能とする。
そして、噴出口26も含めたチャンバー25の断面形状は前述したように略長方形状であるため、その短手方向への旋回流の広がり(膨らみ)は規制され、結果として噴出口26からはその長手方向に不規則に往復移動する噴流が噴出される。図7(d)の右側の正面図において、正面側から見た噴出噴流の位置の移動軌跡を1点鎖線の矢印で模式的に表す。
【0044】
流路断面収縮部の流路径(図2におけるd)を8.3mm、チャンバー25の軸方向長さ(図2におけるL)を76.6mm、チャンバー25及び噴出口26の断面における長手方向寸法(図3におけるD)を34mm、チャンバー25及び噴出口26の断面における短手方向寸法(図3におけるW)を14mm、流路断面収縮部23におけるチャンバー25内に臨む下流端開口の開口縁部と、チャンバー25の断面輪郭線における長辺部との間の距離(図3におけるX)を2.85mmにそれぞれ設計し、ノズル内への供給流量を25〜45リットル/分とした場合に、噴出口26の長手方向に往復して振れるような噴流の噴出を確認できた。
【0045】
入浴者は、噴流ノズル11から噴出される往復噴流を、腰、背、肩、手、足等の身体の一部に受けることにより、マッサージ効果を得ることができる。前述したように筒体20を回動させることで噴出口26の長手方向を縦向きにしたり、横向きにしたり、斜め向きにしたりと任意にその向きを設定できるため、例えば噴出口26を縦向きにした場合に、入浴者がノズル11が取り付けられた短辺浴槽壁4aに背中を向けた姿勢で入浴すれば、背骨に沿って往復移動する噴流マッサージを受けることができる。
【0046】
同じく噴出口26を縦向きにした場合において、入浴者が足裏をノズル11側に向けた姿勢で入浴すれば、足裏における足先と踵との間の足裏縦方向に沿って往復移動する噴流マッサージを受けることができる。また、噴出口26を横向きにした場合において、入浴者が足裏をノズル11側に向けた姿勢で入浴すれば、足の指の付け根部分に沿って往復移動する噴流マッサージを受けることができる。
【0047】
このような往復移動する噴流によるマッサージは、一般に広く知られる気泡浴装置による細くて強く、まっすぐに噴出する直線的な噴流では得られないものである。しかも、そのような直線噴流に比べて、本実施形態によって実現される噴流は太くてやわらかいため、局所的に強い刺激感ではなく、もみほぐすような手もみに近いマッサージ感を得ることができ、長時間入浴していても飽きがなくゆったりとリラックスできる。また、往復移動の振動数は一定ではなく不規則に変化するので、自然なマッサージ感が得られる。
【0048】
また、本実施形態に係る噴流ノズル11は、チャンバー25の流路断面急拡大部24から断面形状が略長方形状のまま噴出口26まで続いており、内部に導入された流体自身が、前述したようにチャンバー25内での還流作用によって、噴出口26から噴出される噴流の往復移動を励起する構成となっているため、チャンバー25が凸凹の少ない形状になっているため、汚れも付き難くメンテナンスや製作も容易である。また、噴出方向切り換え用の三方弁が不要であり、ノズル構造が単純化され、安価に作製することができ、またメンテナンスも容易になる。さらには、細い制御用流路がないため、ゴミ詰まりなどの心配もない。
【0049】
また、本実施形態では、チャンバー25を囲む筒体20は一重構造である。すなわち、ひとつの筒体20によって周囲が囲まれる単一空間(流路)内で、噴出口26へと向かう主流、および主流とは逆方向に流れる還流が形成され、浴槽水中に往復噴流として噴出される。したがって、構造が単純化され、安価に作製することができ、またメンテナンスも容易になる。さらには、ゴミ詰まりの心配もない。
【0050】
また、本実施形態では、チャンバー25への流入口として機能する流路断面収縮部23は、チャンバー25を囲む筒体20の周壁部には形成されてはおらず、チャンバー25の軸方向の上流側端部に開口している。したがって、流路断面収縮部23からチャンバー25内に流入した主流は、流路断面急拡大部24で流路壁面から剥離した後、チャンバー25の内周面に再付着して、ある程度の直進性を保ったまま噴出口26から噴出し、さらに、その主流の流路壁面(チャンバー25の内周面)への再付着位置がチャンバー25内に形成される循環流(戻り流)により変化することで、噴出方向が変化するため、刺激箇所が時間とともに変化するような変化に富んだ噴流刺激が得られる。
【0051】
流水導入部における流水導入口から流路断面収縮部へと続く部分は流路径がほぼ一定のまま湾曲させた構造としてもよい。ただし、図2に示す前述した実施形態のように、流水導入部22の流路径を上流側端部から下流側端部である流路断面収縮部23に向けて漸次細くなるようにし、且つその流水導入部22の流路断面中心線C2の下流端位置をチャンバー25の中心軸C1に一致させることで、流路径一定のまま湾曲させた場合に比べて、湾曲部の突出長を抑えて、限られた浴室内スペースでの設置に有利となる小型化が図れる。
【0052】
さらに、流路断面収縮部の流路径(図2におけるd)を8.3mm、チャンバー25の軸方向長さ(図2におけるL)を76.6mm、流路断面収縮部23から噴出口26方向の、チャンバー25の軸方向長さ66.6mmの位置から噴出口26の断面における長手方向寸法(図3におけるD)を29.3mmから30mmへ拡大し、同じ位置からチャンバー25及び噴出口26の断面における短手方向寸法(図3におけるW)を14mmから17mmへ拡大し、チャンバー25の噴出口26の長辺壁に対して平行に、短辺壁に対して等間隔に柵を2本形成し、さらに柵の長手方向から垂直に見た断面形状を出口へ向け細くなるような流線形状とし、流線形状のの短手方向の幅を1.5mm、奥行長さを4mmとし、流路断面収縮部23におけるチャンバー25内に臨む下流端開口の開口縁部と、チャンバー25の断面輪郭線における長辺部との間の距離(図3におけるX)を2.85mmにそれぞれ設計し、25〜45リットル/分とした場合に、噴出口26の長手方向に往復して振れるような噴流の噴出を確認できた。
【0053】
図14に噴流ノズル11を正面から見た状態を示す。
噴流が自励振動する方向と略平行に柵27を設けたことにより、噴流の自励振動を妨げることなく、入浴者がノズルに指などを入れてしまうことを防止できる。また、柵間の隙間が、約4.6mmである事から、児童など体の小さな入浴者が、ノズルに指などを入れてしまうことを防止できる。
【0054】
前記噴出口26を正面から見た流路断面積を、実施例にあるように14mm×29.3mm=410.2mm^2から、柵を設けた面積相当分である、1.5mm×30mm=45mm^2の2本分である90mm^2分広げる、噴出口26を17mm×30mm=510mm^2程度の断面積をもつ形状にすることにより、噴流の圧力損失にならず、噴流の勢いを維持したまま、入浴者がノズルに指などを入れてしまうことを防止できる。
【0055】
図15に図14におけるA−A断面図を示す。
柵27は、その断面形状が上流側端部が丸く下流側端部が細くとがった流線形状となっている。これにより、噴流の流れに乱れが生じず整流となり、柵が流れの妨げにならない為、流速の低下を抑えながら、入浴者がノズルに指などを入れてしまうことを防止できる。
【0056】
さらに、柵27を噴出口26の浴槽側端部よりも、チャンバー25内方向に設けている。これにより、柵27が噴出口26の端部に存在した場合に、使用者が誤って柵27に衝撃を加えることで柵27を破壊してしまうことを防止できる。
【0057】
ここで、本発明者等は、本実施形態に係るノズル11からの噴出噴流を、噴出口26から70mmの位置に設けた面状に広がる観測体に衝突させ、その観測体に対する噴流衝突部分を可視化した状態で噴出口26に対して正対する方向から撮像装置で撮影することで、噴出噴流の挙動を調べた。
【0058】
流路断面収縮部の流路径(図2におけるd)を8.3mm、チャンバー25の軸方向長さ(図2におけるL)を76.8mm、流路断面収縮部23の直管部長さ(図2におけるL1)を3mm、チャンバー25及び噴出口26の断面における長手方向寸法(図3におけるD)を33.8mm、チャンバー25及び噴出口26の断面における短手方向寸法(図3におけるW)を13.8mm、流路断面収縮部23におけるチャンバー25内に臨む下流端開口の開口縁部と、チャンバー25の断面輪郭線における長辺部との間の距離(図3におけるX)を2.75mmにそれぞれ設計し、ノズル内への供給流量を40リットル/分とした。
【0059】
撮影画像の解析結果を図8に示す。撮影は3回行い、それぞれについての結果を、図8(a)、(b)、(c)に示す。
【0060】
図8(a)、(b)、(c)は、上記観測体に対する噴流衝突部分の中心位置の時間変化に伴う衝突面内分布(移動軌跡)であり、小さな○印が観測体に対する噴流衝突部分の中心位置を示す。これら分布図の横軸のx方向及び縦軸のy方向における0は、矩形状の噴出口26の中心を表し、x方向はその矩形状の噴出口26の長手方向に、y方向は短手方向にそれぞれ対応する。
【0061】
画像解析フレーム数は600フレームであり、時間ステップは0.01秒、解析総時間は6秒である。
【0062】
図8の結果より、3回の撮影いずれのときも、噴出噴流は、y方向すなわち矩形状の噴出口26の短手方向への変位はわずかで、x方向すなわち噴出口26の長手方向に大きく振れていることが確認できた。
【0063】
図8(a)、(b)、(c)のそれぞれは、画像解析フレーム数600フレームの各フレームをすべて重ね合わせた図であるが、図9には、例えば図8(a)における10フレームごとの移動軌跡を示す。図9において「#10−19」が左上に付された分布図は10フレーム目から19フレーム目までの移動軌跡を表し、「#15−24」が左上に付された分布図は15フレーム目から24フレーム目までの移動軌跡を表し、他の分布図についても左上に付された「#数字−数字」の意味は同様である。そして、図9には、10フレーム目から154フレーム目までの間で、10フレームごと28段階に分けた移動軌跡を示している。
【0064】
0.01秒ごとに1フレームをサンプリングしており、したがって10フレームにわたる移動軌跡は0.1秒間の移動軌跡を表す。図9の各分布図中、フレームサンプリング順序を矢印で示し、例えば10フレーム目から19フレーム目までの移動軌跡においては、10フレーム目から6フレーム目ぐらいまではy方向上方に移動しつつx方向右方に移動し、以降19フレーム目まではy方向下方に移動しつつx方向左方に移動している。
【0065】
図9の結果より、噴出噴流の挙動が旋回成分を持ちながら不規則に変化していることがわかる。なお、図8(a)、(b)、(c)におけるx方向、y方向の目盛範囲はそれぞれ同じであったのに対し、図9の各分布図においてはx方向の目盛範囲が80mmであるのに対してy方向の目盛範囲は20mmである。したがって、図9においてはx方向の移動範囲に対してy方向の移動範囲が実際よりも誇張して示され、実際には、図8(a)、(b)、(c)に示すようにx方向の移動に対してy方向の移動は小さく、噴出噴流はx方向すなわち矩形状の噴出口26の長手方向に大きく振れている。
【0066】
また、本発明者等は、図8(a)、(b)、(c)の3つのデータのx方向成分から、噴出噴流の振動振幅の出現状況の確認を行った。これは、最初に各データのノイズ低減化で7回移動平均を行った上で、時系列的な上限下限ピークの抜き出しを順番に行ってそれらの差分を取っていき、その値を噴出噴流の振動振幅とし、その振動振幅の出現率を見るために確率密度分布を算出し、さらに全体の確率密度分布を算出した。
【0067】
この結果を図10に示す。図10のグラフにおいて、点線は図8(a)のデータについての結果であり、1点鎖線は図8(b)についての結果であり、2点鎖線は図8(c)についての結果であり、実線は図8(a)〜(c)全体についての結果である。
【0068】
この図10の結果から、5〜70mmの間で噴出噴流振動振幅の出現率がほぼブロードになっており、噴出噴流振動振幅の変動幅が一定でなく不規則に変化しているようすがわかる。結果として、往復移動の振動数が一定でなく不規則に変化することと相俟って、よりランダムで自然なマッサージ感が得られ、入浴者に緊張感を与えない。
【0069】
また、本発明者等は、本実施形態に係るノズル11からの噴出噴流において、噴出口26での噴出方向切換周期を測定した。具体的には、透明樹脂で製作したノズル11を用い、噴出口26に対して正対する方向から、噴出口26の矩形状断面構造の長手方向と平行になるようにレーザーシート光を照射して、その長手方向の側面側から撮像装置によって撮影した。水流の動きが確認できるトレーサー粒子を水の中に入れ、図13に示すような撮像装置による画像を観察し、噴流の方向切換回数を目視でカウントすることによって、2次元的な噴流の方向切換挙動特性を調べた。
【0070】
流路断面収縮部23の流路径(図2におけるd)を8.3mm、チャンバー25の軸方向長さ(図2におけるL)を76.8mm、流路断面収縮部23の直管部長さ(図2におけるL1)を3mm、チャンバー25及び噴出口26の断面における長手方向寸法(図3におけるD)を29mm、チャンバー25及び噴出口26の断面における短手方向寸法(図3におけるW)を13.8mm、流路断面収縮部23におけるチャンバー25内に臨む下流端開口の開口縁部と、チャンバー25の断面輪郭線における長辺部との間の距離(図3におけるX)を2.75mmに、それぞれ設計し、ノズル内への供給流量を25、30、40、45リットル/分とした。
【0071】
図11に、ノズル11内に供給される水の圧力Pと、流量Qとの関係を示すPQ特性グラフを示す。
図12に、ノズル11の噴出噴流方向切換周波数特性グラフを示す。
【0072】
これら結果より、供給流量が25〜45リットル/分のとき、噴出噴流は13〜23Hz程度の周波数で、噴流が噴出口26の長手方向に切り換わる傾向であることがわかる。なお、噴出口26から70mmの位置では、噴流が広がり、やや蛇行した上に、比較的狭い範囲で行われていること、さらに面上の観測体は弾性体であるため高い周波数成分が吸収されてしまったこともあり、人の手によるマッサージに近いリズムである比較的低周波領域の振動数が出現した。
【0073】
図13に、噴流噴出方向の切り換わりの様子を示した撮影画像を示す。図13において、主流と渦の概略的な動きを仮想流体線で示している。この結果から、渦発生箇所の上下方向(矩形噴出口の長手方向)の位置の切り換わりと、主流の噴出方向の切り換わりとがリンクしていること、さらには、噴出した噴流が広がり、やや蛇行している様子がわかる。
【0074】
これらの結果から、実際に入浴者に与える刺激感としては、低周波領域では噴流振動を強く感じさせ、細かく方向が切り換わる振動領域では13〜23Hzで感じさせており、これらを複合した、より複雑なきめ細かい刺激を入浴者に与える噴出噴流が得られていることが確認できる。
【符号の説明】
【0075】
4…浴槽、5…吸入口、11…噴流ノズル、20…筒体、22…流水導入部、23…流路断面収縮部、24…流路断面急拡大部、25…チャンバー、26…噴出口、27…柵、30…湾曲部、31…外側カバー
【特許請求の範囲】
【請求項1】
浴槽と、
前記浴槽の浴槽壁に開口され前記浴槽の内部に貯留された浴槽水が吸い込まれる吸入口と、
前記吸入口から浴槽水を吸入し加圧して吐出する加圧装置と、
前記浴槽のあふれ縁より下で前記浴槽壁に対して保持される一重構造の筐体を有し、
前記筐体の内部に導入された浴槽水を、噴出方向を変化させながら前記浴槽の内部に噴出する噴流ノズルと、を備えた噴流浴装置であって、
前記噴流ノズルは、流水導入部と、
前記筐体の軸方向に延在して前記筐体の内部に形成されたチャンバーと、を有し、
前記流水導入部は、前記加圧装置から送られる加圧浴槽水が導入される上流側端部と、
前記上流側端部に対して流路が細くされると共に、前記チャンバーに連通する下流側端部と、を有し
前記チャンバーは、前記軸方向の上流側端部に設けられ前記流水導入部の前記下流側端部に対して流路断面が急拡大された流路断面急拡大部と、
前記軸方向の下流側端部に開口され前記浴槽の内部に臨む噴出口と、を有し、
前記流路断面急拡大部から前記噴出口にかけての断面形状が略長方形状に形成され、
前記流路断面収縮部流水導入部の前記下流側端部における前記チャンバー内に臨む下流端開口は、前記噴出口から前記チャンバー内を見た正面視で前記チャンバーの断面形状を形作る輪郭線よりも内側に位置し、前記流路断面収縮部流水導入部の前記下流端開口の開口縁部と前記輪郭線との間に隙間を有し、
前記噴出口の長方形状のうち、長辺壁と略平行に配置された柵を設けることを特徴とする噴流浴装置。
【請求項2】
前記柵が複数設けられたことを特徴とする請求項1に記載の噴流浴装置
【請求項3】
前記噴出口を正面から見た流路断面積を、前記柵を設けた面積相当分広げることを特徴とする請求項2に記載の噴流浴装置
【請求項4】
前記柵の長手方向から垂直に見た断面形状は、流線形状であることを特徴とする請求項3に記載の噴流浴装置。
【請求項5】
前記柵を前記噴出口の浴槽側端部よりも前記チャンバー内方向に設けたことを特徴とする請求項4に記載の噴流浴装置。
【請求項1】
浴槽と、
前記浴槽の浴槽壁に開口され前記浴槽の内部に貯留された浴槽水が吸い込まれる吸入口と、
前記吸入口から浴槽水を吸入し加圧して吐出する加圧装置と、
前記浴槽のあふれ縁より下で前記浴槽壁に対して保持される一重構造の筐体を有し、
前記筐体の内部に導入された浴槽水を、噴出方向を変化させながら前記浴槽の内部に噴出する噴流ノズルと、を備えた噴流浴装置であって、
前記噴流ノズルは、流水導入部と、
前記筐体の軸方向に延在して前記筐体の内部に形成されたチャンバーと、を有し、
前記流水導入部は、前記加圧装置から送られる加圧浴槽水が導入される上流側端部と、
前記上流側端部に対して流路が細くされると共に、前記チャンバーに連通する下流側端部と、を有し
前記チャンバーは、前記軸方向の上流側端部に設けられ前記流水導入部の前記下流側端部に対して流路断面が急拡大された流路断面急拡大部と、
前記軸方向の下流側端部に開口され前記浴槽の内部に臨む噴出口と、を有し、
前記流路断面急拡大部から前記噴出口にかけての断面形状が略長方形状に形成され、
前記流路断面収縮部流水導入部の前記下流側端部における前記チャンバー内に臨む下流端開口は、前記噴出口から前記チャンバー内を見た正面視で前記チャンバーの断面形状を形作る輪郭線よりも内側に位置し、前記流路断面収縮部流水導入部の前記下流端開口の開口縁部と前記輪郭線との間に隙間を有し、
前記噴出口の長方形状のうち、長辺壁と略平行に配置された柵を設けることを特徴とする噴流浴装置。
【請求項2】
前記柵が複数設けられたことを特徴とする請求項1に記載の噴流浴装置
【請求項3】
前記噴出口を正面から見た流路断面積を、前記柵を設けた面積相当分広げることを特徴とする請求項2に記載の噴流浴装置
【請求項4】
前記柵の長手方向から垂直に見た断面形状は、流線形状であることを特徴とする請求項3に記載の噴流浴装置。
【請求項5】
前記柵を前記噴出口の浴槽側端部よりも前記チャンバー内方向に設けたことを特徴とする請求項4に記載の噴流浴装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2011−15779(P2011−15779A)
【公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−161518(P2009−161518)
【出願日】平成21年7月8日(2009.7.8)
【出願人】(000010087)TOTO株式会社 (3,889)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年7月8日(2009.7.8)
【出願人】(000010087)TOTO株式会社 (3,889)
【Fターム(参考)】
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