説明

嚥下・咀嚼困難者向け摂食補助用油脂組成物及び嚥下・咀嚼困難者用食品

【課題】摂食時にこぼすことなく、スプーン等で容易に口まで運ぶことができる嚥下・咀嚼困難者用食品を容易に製造することができる油脂組成物、及び当該油脂組成物を用いて製造された嚥下・咀嚼困難者用食品の提供。
【解決手段】油脂を含有し、かつ可塑性を有することを特徴とする嚥下・咀嚼困難者向け摂食補助用油脂組成物;前記組成物の5〜20℃の範囲におけるSFCが19%以上であることを特徴とする前記記載の嚥下・咀嚼困難者向け摂食補助用油脂組成物;前記いずれか記載の嚥下・咀嚼困難者向け摂食補助用油脂組成物と、摂食可能な食品の細断物又は破砕物とを含有することを特徴とする嚥下・咀嚼困難者用食品;及び、油脂を含有し、かつ可塑性を有する嚥下・咀嚼困難者向け摂食補助用油脂組成物と、摂食可能な食品の細断物又は破砕物とを混合することを特徴とする嚥下・咀嚼困難者用食品の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、嚥下・咀嚼困難者向け摂食補助用油脂組成物、及びこれを使用した嚥下・咀嚼困難者用食品に関する。
【背景技術】
【0002】
嚥下・咀嚼困難者、例えば要介護高齢者においては、食べ物を咀嚼したり、嚥下する機能が衰えているために、食材を食べ易い形態にする様々な工夫が必要である。介護施設においては、古くから食材を細かく刻んだり、粉砕したりする調理が日常的に行われており、普通食以外に、キザミ食、極キザミ食、ミキサー食、ペースト食、液状食物等が提供されている。
【0003】
キザミ食とは、もともと咀嚼機能に不具合がある者に配慮して、すでに咀嚼を行ったような形状に食材を細かく切り刻むことにより、咀嚼を行わなくても飲み込み易く調製したものである。キザミ食は、介護施設等において、嚥下・咀嚼機能が低下した高齢者に広く提供されている。また、咀嚼機能が重度に低下した高齢者には、通常、咀嚼がほぼ不要なミキサー食、ペースト食、液状食物等が提供されている。
【0004】
嚥下・咀嚼困難者に供される食品の問題として、キザミ食はバラバラとばらけやすく、また、ミキサー食やペースト食は流動性が高いため、これらはスプーン等を使って食べる際に、口元に運ぶまでにスプーンからこぼれやすく、口に入れる際にも横洩れしやすいことが挙げられる。こぼさずに口元に運ぶためには、一度に少量ずつしかスプーンで掬うことができないため、嚥下・咀嚼困難者にとっては、少量ずつ摂取することによる不満足感が起こりやすい。また、介護者にとっては、給食作業が煩雑で時間がかかるという問題もある。
【0005】
その他にも、摂取カロリーの減少が問題となる(例えば、非特許文献1参照。)。例えば、食材を粉砕してペースト食を作るためには、多量のダシ汁等の水分を配合することになるため、加水により容量が増してしまうケースが多い。このため、普通食と同じ重量を摂取したとしても、実質的には減量となってしまい、摂取カロリーが減少してしまう。キザミ食の場合にも、刻むことにより容量が増大してしまい、普通食を摂取する場合と同じ重量を皿に盛り付けることが難しい場合が多く、やはり、摂取カロリーが減少してしまうという問題がある。その上、摂食時にスプーンで掬ったキザミ食等をこぼしてしまうことにより、摂食量が減るため、摂取カロリーがさらに減少してしまうことにもなる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】林静子、「高齢者栄養ケアにおける疑問と検証(1)刻み食、ミキサー食の落とし穴」、臨床栄養、2002年2月、第100巻第2号、第145ページ。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、摂食時にこぼすことなく、スプーン等で容易に口まで運ぶことができる嚥下・咀嚼困難者用食品を容易に製造することができる油脂組成物、及び当該油脂組成物を用いて製造された嚥下・咀嚼困難者用食品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、可塑性を有する油脂組成物を、キザミ食やペースト食と混合することにより、キザミ食やペースト食を、スプーン等で掬った際にこぼれ落ちにくいようにまとめることができることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
すなわち、本発明は、
(1) 油脂を含有し、かつ可塑性を有することを特徴とする嚥下・咀嚼困難者向け摂食補助用油脂組成物、
(2) 前記組成物の5〜20℃の範囲におけるSFCが19%以上であることを特徴とする前記(1)に記載の嚥下・咀嚼困難者向け摂食補助用油脂組成物、
(3) さらに、乳化剤を含有することを特徴とする前記(1)又は(2)に記載の嚥下・咀嚼困難者向け摂食補助用油脂組成物、
(4) 前記(1)〜(3)のいずれか1つに記載の嚥下・咀嚼困難者向け摂食補助用油脂組成物を可撓性容器に充填してなることを特徴とする容器入り嚥下・咀嚼困難者向け摂食補助用油脂組成物、
(5) 前記(1)〜(4)のいずれか1つに記載の嚥下・咀嚼困難者向け摂食補助用油脂組成物と、摂食可能な食品の細断物又は破砕物とを含有することを特徴とする嚥下・咀嚼困難者用食品、
(6) さらに、水を含有することを特徴とする前記(5)に記載の嚥下・咀嚼困難者用食品、
(7) 前記摂食可能な食品が、畜肉加工食品、魚肉加工食品、野菜類、果実類、麺類、ご飯、お粥、パン類、及び海藻類からなる群より選択される1種又は2種以上であることを特徴とする前記(5)又は(6)に記載の嚥下・咀嚼困難者用食品、
(8) 油脂を含有し、かつ可塑性を有する嚥下・咀嚼困難者向け摂食補助用油脂組成物と、摂食可能な食品の細断物又は破砕物とを混合することを特徴とする嚥下・咀嚼困難者用食品の製造方法、
(9) 前記混合の後、さらに破砕処理を行うことを特徴とする前記(8)に記載の嚥下・咀嚼困難者用食品の製造方法、
(10) 油脂を含有し、かつ可塑性を有する嚥下・咀嚼困難者向け摂食補助用油脂組成物と、摂食可能な食品とを混合した後、破砕処理を行うことを特徴とする嚥下・咀嚼困難者用食品の製造方法、
(11) 前記組成物の5〜20℃の範囲におけるSFCが19%以上であることを特徴とする前記(8)〜(10)のいずれか1つに記載の嚥下・咀嚼困難者用食品の製造方法、
(12) 前記嚥下・咀嚼困難者向け摂食補助用油脂組成物が、さらに、乳化剤を含有することを特徴とする前記(8)〜(11)のいずれか1つに記載の嚥下・咀嚼困難者用食品の製造方法、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の嚥下・咀嚼困難者向け摂食補助用油脂組成物を用いることにより、摂食可能な食品の細断物や破砕物がバラバラとばらけず、スプーン等で掬いやすい、まとまり感のある食品を得ることができる。このため、本発明の嚥下・咀嚼困難者向け摂食補助用油脂組成物と、従来のキザミ食やペースト食等とを混合することにより、こぼすことなく容易に口まで運ぶことが可能な嚥下・咀嚼困難者用食品を製造することができる。さらに、本発明の嚥下・咀嚼困難者向け摂食補助用油脂組成物を用いることにより、加水したペースト食であっても、摂取カロリーの低減を防止することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
まず、本発明の嚥下・咀嚼困難者向け摂食補助用油脂組成物について説明する。
本発明の嚥下・咀嚼困難者向け摂食補助用油脂組成物(以下、「本発明の摂食補助用油脂組成物」ということがある。)は、摂食可能な食品の細断物又は破砕物に混合して使用することにより、嚥下困難者や咀嚼困難者が、当該食品の摂取を容易にするもの(摂取を補助するもの)である。具体的には、本発明の嚥下・咀嚼困難者向け摂食補助用油脂組成物を、従来のキザミ食やペースト食等の細断物や破砕物と混合することにより、細断物等をまとめ、摂食時にスプーン等で掬いやすくすることができる。
【0012】
また、本発明の摂食補助用油脂組成物は、油脂を主成分とするため、普通食に比べて固形分の摂取量が少なくなりやすい従来のキザミ食やペースト食と混合した場合に、摂取カロリーの低減を防止することができる。
【0013】
本発明及び本願明細書において、「摂食可能な食品」とは、さらに調理を要することなく摂食することが可能な食品を意味し、加熱処理や味付け等の調理済みの食品と、果実等の生のまま摂食可能な食品とのいずれをも含む。また、「摂食可能な食品の細断物又は破砕物」とは、摂食可能な食品中の固形分を細断又はほぐしたり、破砕又はすり潰したりしたものを意味する。細断又は破砕処理後の固形分の大きさは特に限定されるものではなく、「摂食可能な食品の細断物又は破砕物」には、摂食可能な食品を包丁やカッター等で刻んだもの、摂食可能な食品を小さくほぐしたもの、摂食可能な食品をカッターミキサー等で破砕したもの、摂食可能な食品をすり潰したもの等が含まれる。
【0014】
なお、食品の破砕処理の方法は、特に限定されるものではなく、固形分を小さくする際に通常用いられるいずれの処理方法であってもよい。例えば、カッターミキサー等の破砕機を用いることにより、食品を破砕することができる。
【0015】
具体的には、本発明の摂食補助用油脂組成物は、可塑性を有することを特徴とする。なお、本発明及び本願明細書において、可塑性を有する油脂とは、少なくとも5〜25℃において、粘土の様に、力を加えると変形する性質を有する固体状の油脂である。摂食補助用油脂組成物が少なくとも5〜25℃において可塑性を有することにより、摂食可能な食品又は摂食可能な食品の細断物や破砕物と混合させた場合に、当該食品中の細断物や破砕物がバラバラとばらけない、まとまり感のある食品を得ることができる。
【0016】
本発明の摂食補助用油脂組成物に用いられる油脂としては、動物性油脂であってもよく、植物性油脂であってもよく、種々の動植物性油脂の分別油であってもよい。また、これらの油脂に水素添加(硬化)処理やエステル交換処理等の処理を施した加工油脂であってもよい。その他、2種類以上の油脂から調製された混合油脂であってもよい。具体的には、例えば、バター、マーガリン、ショートニング、ラード、及びこれらの油脂の加工油脂等が挙げられる。
【0017】
本発明の摂食補助用油脂組成物は、可塑性を有する油脂組成物であればよく、1種類の油脂からなるものであってもよく、2種類以上の油脂からなるものであってもよく、油脂以外の成分を含むものであってもよい。
【0018】
本発明の摂食補助用油脂組成物としては、5〜20℃の範囲におけるSFCが19%以上であることが好ましい。この場合、摂食補助用油脂組成物の5〜20℃の範囲におけるSFCが19%以上であればよく、5〜20℃の範囲におけるSFCが19%以上である1種類又は2種類以上の油脂からなるものであってもよく、5〜20℃の範囲におけるSFCが19%以上である油脂と、5〜20℃の範囲におけるSFCが19%未満である油脂とを混合した油脂であってもよい。
【0019】
なお、本発明の摂食補助用油脂組成物のSFC(solid fat content;固体脂含量)は、社団法人日本油化学会編、「基準油脂分析試験法」の2.2.9−2003固体脂含量(NMR法)に従って測定することができる。具体的には、例えば、アステック株式会社製の測定装置SFC−2000(NMR法)を使用して、以下のようにして測定することができる。まず、完全に溶解させたサンプル(油脂組成物)を、測定装置SFC−2000の測定セルに入れ、60℃で30分間保持した後、0℃で30分間保持する。さらに、25℃で30分間保持した後、0℃で30分間保持し、その後、SFCを測定する温度で30分間保持後、SFCを測定する。
【0020】
また、本発明の摂食補助用油脂組成物は、油脂の他に乳化剤を含有していてもよい。
乳化剤としては、モノグリセリン脂肪酸エステル、ジグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、有機酸モノグリセリド、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノール酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリソルベート、レシチン等が挙げられる。本発明の摂食補助用油脂組成物に含有させる乳化剤としては、これらのうちの1種を用いてもよく、2種以上を任意に混合したものを用いてもよい。
【0021】
本発明の摂食補助用油脂組成物全体に対する乳化剤の含量は、0〜5質量%であることが好ましい。
【0022】
本発明の摂食補助用油脂組成物には、油脂や乳化剤の他にも、必要に応じて、本発明の機能を損なわない範囲で、一般的に食品に用いられる乳化剤、脱脂粉乳、大豆蛋白、糖類、澱粉、化工澱粉、デキストリン、トコフェロールやビタミンC等の抗酸化剤、着色剤、香料、増粘剤等を配合することができる。増粘剤としては、例えば、グアーガム、ローカストビーンガム、カラギーナン、アラビアガム、アルギン酸類、ペクチン、キサンタンガム、プルラン、タマリンドシードガム、サイリウムシードガム、結晶セルロース、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、寒天、グルコマンナン、ゼラチン等が挙げられる。
【0023】
例えば、摂食補助用油脂組成物に含有される油脂を加熱して融解させた後、混捏処理することにより、本発明の摂食補助用油脂組成物を得ることができる。本発明の摂食補助用油脂組成物に2種類以上の油脂を含有させる場合には、含有させる全ての油脂を融解混合した状態で混捏処理を行う。なお、油脂に加えて乳化剤を含有させる場合には、乳化剤と油脂を融解混合した状態で混捏処理することにより製造することができる。
【0024】
油脂を加熱融解させる温度は、油脂の融点を考慮して適宜決定することができるが、50〜100℃に加熱することが好ましく、60〜90℃に加熱することがより好ましい。また、2種以上の油脂を用いる場合、油脂を混合した後に加熱融解させてもよく、それぞれを別個に加熱融解させた後に、混捏処理前に混合させてもよい。
【0025】
また、混捏処理は、通常、マーガリンやショーニングを製造する場合に用いられている混捏機を用いることにより行うことができる。混捏機には、必要に応じてガス、例えば空気、窒素等を混入することもできる。例えば、マーガリン製造機として用いられているボテーター、コンビネーター、パーフェクター、オンレーター等の密閉型連続式チューブ冷却機や、プレート型熱交換機等を使用することにより、混捏処理を行うことができる。また、混捏処理には、開放型のダイアクーラーとコンプレクターとの組合せを用いることもできる。
【0026】
その他、混捏処理を行わずとも可塑性を有する油脂の場合には、当該油脂をそのまま本発明の摂食補助用油脂組成物として用いてもよく、当該油脂に対してさらに混捏処理を行ったものを本発明の摂食補助用油脂組成物として用いてもよい。なお、混捏処理を行わずとも可塑性を有する油脂としては、例えば、パーム油等が挙げられる。また、市販のショートニング等の可塑性を有する油脂組成物も、本発明の摂食補助用油脂組成物として用いることができる。
【0027】
本発明の摂食補助用油脂組成物は、可撓性容器や缶容器に充填させて使用することができる。特に、本発明の摂食補助用油脂組成物を可撓性容器に充填させた容器入り嚥下・咀嚼困難者向け摂食補助用油脂組成物は、容器から摂食補助用油脂組成物を容易に出すことができ、ハンドリング性に優れている。なお、可撓性容器とは、マヨネーズ等に使用されるような柔軟性を有する容器を意味し、例えば、ポリエチレン製の容器等が挙げられる。また、可撓性容器の形状は特に限定されるものではなく、カップ状、チューブ状、ピロー包装状、パウチ等のいずれの形状であってもよい。
【0028】
カップ状の可撓性容器の材質として、ポリプロピレン等を使用することができる。
また、チューブ状の可撓性容器の材質として、チューブ部分としてはポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、アルミをラミネートしたラミネートチューブ等を、キャップ部分としてはポリプロピレン、硬質ポリエチレン等を使用することができる。
また、ピロー包装状の可撓性容器の材質として、ポリプロピレン等を使用することができる。
【0029】
次に、本発明の嚥下・咀嚼困難者用食品及びその製造方法について説明をする。
本発明の嚥下・咀嚼困難者用食品は、本発明の摂食補助用油脂組成物と、摂食可能な食品の細断物又は破砕物とを含有することを特徴とする。
【0030】
摂食可能な食品としては、例えば、牛肉、豚肉、鶏肉、羊肉、馬肉等の畜肉類や、アジ、サバ、サンマ、シーラ、カラスガレイ、カツオ、キハダマグロ、カジキマグロ、シャケ、タラ、メルルーサ等の魚類、キャベツ、にんじん、玉ねぎ、ジャガイモ、ホウレンソウ、レタス、トマト等の野菜類、リンゴ、ミカン、梨、パイナップル、イチゴ、柿、スイカ、メロン等の果物、ワカメ、昆布、ヒジキ等の海藻類、ごはん、お粥、パン、うどん、そば、パスタ等を調理した食品が挙げられる。果物やトマト、刺身用の魚類等の生で食することが可能なものについても、摂食可能な食品に含まれる。その他、摂食可能な食品には、ハンバーグ等の畜肉類を加工した畜肉加工食品、マグロフレークやつみれ等の魚肉類を加工した魚肉加工食品等の調理済み加工食品も含まれる。本発明の嚥下・咀嚼困難者用食品としては、畜肉加工食品、魚肉加工食品、野菜類、果実類、麺類、ご飯、お粥、パン類、及び海藻類からなる群より選択される1種又は2種以上の食品又はその破砕物と、本発明の摂食補助用油脂組成物とを含有することが好ましい。
【0031】
本発明の嚥下・咀嚼困難者用食品は、食品の小さな固形分と本発明の摂食補助用油脂組成物とを混合することにより製造することができる。例えば、予め細かく刻んだり、カッターミキサー等の破砕機を使用して破砕した食品に、本発明の摂食補助用油脂組成物を混合することにより、本発明の嚥下・咀嚼困難者用食品を製造することができる。破砕処理前の固形分が大きな食品と、本発明の摂食補助用油脂組成物とを混合した後、カッターミキサー等により破砕処理を行うことによっても、本発明の嚥下・咀嚼困難者用食品を製造することができる。また、予め固形分を小さくした食品と本発明の摂食補助用油脂組成物とを混合した後、さらに、ミキサー等により破砕処理を行ってもよい。
【0032】
本発明の嚥下・咀嚼困難者用食品は、食品の形状でおおまかに分類をすると、ペースト食とまとめ食に分けられる。
ここで、ペースト食とは、加水した摂食可能な食品の細断物又は破砕物をカッターミキサー等で破砕した、流動性の高い食品のことをいう。一方、まとめ食とは、摂食可能な食品の細断物又は破砕物を含有し、流動性を有さず又は流動性が低く、固形分がバラバラとばらけにくい食品のことをいう。
【0033】
例えば、ペースト食は、摂食可能な食品、好ましくは固形分が細かく刻まれた食品(いわゆるキザミ食)、本発明の摂食補助用油脂組成物、及びだし汁等の水分の混合物を混合・破砕することにより製造することができる。
ペースト食の配合は、どの程度の流動性のペースト食にするか、また、原料として使用する食品の種類や、含有する油分や水分等により、適宜調整することができる。例えば、摂食可能な食品の細断物又は破砕物100質量部、本発明の摂食補助用油脂組成物1〜100質量部(好ましくは1〜50質量部)、及び水200〜1000質量部という配合を例示することができる。
【0034】
ペースト食の製造方法としては、例えばハンバーグ等のペースト食の場合、ブロック状に切った調理済みハンバーグに、本発明の摂食補助用油脂組成物とだし汁を加えた後、フードプロセッサーで10秒間〜1分間、破砕・混合することにより製造することができる。
【0035】
一方、まとめ食は、固形分が細かく刻まれた食品(いわゆるキザミ食)と、本発明の摂食補助用油脂組成物とを混合することにより製造することができる。必要に応じて、混合後フードプロセッサーで破砕・混合をしてもよい。また、まとめ食は、摂食可能な食品と本発明の摂食補助用油脂組成物とを混合し、その混合物をフードプロセッサーで破砕・混合することにより製造することもできる。水を適宜配合することにより、得られる食品の流動性を調整することができる。
【0036】
まとめ食の配合は、原料として使用する食品の種類や、含有する油分や水分等により、適宜調整することができる。例えば、摂食可能な食品の細断物又は破砕物100質量部、嚥下・咀嚼困難者向け摂食補助用油脂組成物5〜100質量部(好ましくは5〜50質量部)という配合を例示することができる。また、必要に応じて、だし汁等の水分を添加することもできる。
【0037】
まとめ食の製造方法としては、例えば鶏肉のまとめ食の場合、ボイルした鶏肉のササミに、本発明の摂食補助用油脂組成物を加えた後、フードプロセッサーで10秒間〜1分間、破砕・混合することにより製造することができる。
また、キャベツのまとめ食の場合、湯通しをしたキャベツを約5mm以下の大きさに刻んだ後、本発明の摂食補助用油脂組成物を加え、混合することにより製造することができる。
【0038】
その他、本発明の嚥下・咀嚼困難者用食品は、必要に応じて、本発明の機能を損なわない範囲で、一般的に食品に添加されるトコフェロールやビタミンC等の抗酸化剤、塩、砂糖等の調味料、増粘剤等を配合することができる。増粘剤としては、上記で列挙されたものを用いることができる。
【実施例】
【0039】
次に実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0040】
<鶏のササミ肉のまとめ食の製造及び評価(実施例1〜5、比較例1、2)>
鶏のササミ肉のフレークと摂食補助用油脂組成物とを混合することによって鶏のササミ肉のまとめ食を製造し、摂食時にこぼれ落ちる程度を評価した。
摂食補助用油脂組成物として、表1に示すように、常温で液状であるキャノーラ油と、油脂を混捏処理して得られた可塑性を有する油脂組成物である5種類のショートニングを用いた。これらのショートニングのうち、アナリーゼ10、ロイヤルショート20、パンドーレショート10J、及びポプリ10Kは市販品であり、パーム油ショートニングは、自作したものである。
【0041】
パーム油ショートニングの具体的な製造方法は、以下の通りである。すなわち、パーム油(SOUTHEN NISSHIN BIO−TECHSDN.BHD.社製、精製パーム油)50gを容器に入れ、80℃で加熱溶解混合後、容器を氷水中へ入れて混捏することにより、混捏処理し、ショートニング50gを得た。
【0042】
鶏のササミ肉(いなば食品(株)社製、商品名:とりささみフレーク)の水分をよく切ったもの180gに、各油脂組成物30gを加えた後、フードプロセッサーで30秒間、破砕・混合し、ササミ肉のまとめ食を製造した。なお、油脂組成物を添加せずに同様に製造したものを、対照(比較例1)とした。
【0043】
得られたササミ肉のまとめ食をスプーン(掬う部分のサイズ:縦5cm、幅3cm)で1回掬い取り、重量を測定し、スプーンの重量との差から、掬い取ったまとめ食の重量を算出した。重量測定後のスプーンを手に持ち、10秒間で50cm離れた場所へ運ぶ動作を行い、動作中にこぼれ落ちたまとめ食の重量を測定した。これらの測定値から、掬い取ったまとめ食の量に対して、こぼれ落ちたまとめ食の量の割合を算出し、評価した。5回の測定結果の平均値、及び当該平均値から下記の評価基準によって導き出された評価を表1に示す。
【0044】
まとめ食のこぼれ落ちる程度の評価
○:こぼれ落ちたまとめ食の量が、掬い取ったまとめ食の量の5%未満であった。
×:こぼれ落ちたまとめ食の量が、掬い取ったまとめ食の量の5%以上であった。
【0045】
【表1】

*1:「キャノーラ油」(日清オイリオグループ社製)
*2:「アナリーゼ10」(日清オイリオグループ社製)
*3:「ロイヤルショート20」(日清オイリオグループ社製)
*4:「パンドーレショート10J」(日清オイリオグループ社製)
*5:「ポプリ10K」(日清オイリオグループ社製)
【0046】
実施例1〜5において用いたショートニングのSFCを、アステック株式会社製の測定装置SFC−2000(NMR法)を用いて測定した。
まず、80℃に加熱をして完全に溶解させたサンプル(油脂組成物)3gを測定セルに入れ、60℃で30分間保持した後、0℃で30分間保持する。さらに、25℃で30分間保持した後、0℃で30分間保持し、その後、SFCを測定する温度(5℃)で30分間保持後、SFCを測定した。同じ条件で2回の測定を行い、得られた2つの値の平均値を5℃でのSFC(%)とした。同様の方法で、10℃、15℃、20℃、25℃、30℃、35℃、40℃でのSFC(%)を測定した。測定結果を表2に示す。
【0047】
【表2】

【0048】
これらの結果から、可塑性を有する本発明の嚥下・咀嚼困難者向け摂食補助用油脂組成物を、フレーク等の摂食可能な食品に添加して粉砕・混合することにより製造されたまとめ食は、バラバラとばらけず、まとまり感があり、スプーン等で掬って口元まで運ぶ際にこぼれ落ち難く、嚥下・咀嚼困難者にとっては摂食しやすく、また、介護者にとっては給食作業がスムーズに行えることが明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明の嚥下・咀嚼困難者向け摂食補助用油脂組成物を用いることにより、嚥下・咀嚼困難者又はその介護者が、摂食時にスプーン等で容易に口まで運ぶことができる食品を簡便に製造することができるため、主に嚥下・咀嚼困難者用の食品の製造分野や介護・医療の分野において利用が可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
油脂を含有し、かつ可塑性を有することを特徴とする嚥下・咀嚼困難者向け摂食補助用油脂組成物。
【請求項2】
前記組成物の5〜20℃の範囲におけるSFCが19%以上であることを特徴とする請求項1に記載の嚥下・咀嚼困難者向け摂食補助用油脂組成物。
【請求項3】
さらに、乳化剤を含有することを特徴とする請求項1又は2に記載の嚥下・咀嚼困難者向け摂食補助用油脂組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の嚥下・咀嚼困難者向け摂食補助用油脂組成物を可撓性容器に充填してなることを特徴とする容器入り嚥下・咀嚼困難者向け摂食補助用油脂組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の嚥下・咀嚼困難者向け摂食補助用油脂組成物と、摂食可能な食品の細断物又は破砕物とを含有することを特徴とする嚥下・咀嚼困難者用食品。
【請求項6】
さらに、水を含有することを特徴とする請求項5に記載の嚥下・咀嚼困難者用食品。
【請求項7】
前記摂食可能な食品が、畜肉加工食品、魚肉加工食品、野菜類、果実類、麺類、ご飯、お粥、パン類、及び海藻類からなる群より選択される1種又は2種以上であることを特徴とする請求項5又は6に記載の嚥下・咀嚼困難者用食品。
【請求項8】
油脂を含有し、かつ可塑性を有する嚥下・咀嚼困難者向け摂食補助用油脂組成物と、摂食可能な食品の細断物又は破砕物とを混合することを特徴とする嚥下・咀嚼困難者用食品の製造方法。
【請求項9】
前記混合の後、さらに破砕処理を行うことを特徴とする請求項8に記載の嚥下・咀嚼困難者用食品の製造方法。
【請求項10】
油脂を含有し、かつ可塑性を有する嚥下・咀嚼困難者向け摂食補助用油脂組成物と、摂食可能な食品とを混合した後、破砕処理を行うことを特徴とする嚥下・咀嚼困難者用食品の製造方法。
【請求項11】
前記組成物の5〜20℃の範囲におけるSFCが19%以上であることを特徴とする請求項8〜10のいずれか1項に記載の嚥下・咀嚼困難者用食品の製造方法。
【請求項12】
前記嚥下・咀嚼困難者向け摂食補助用油脂組成物が、さらに、乳化剤を含有することを特徴とする請求項8〜11のいずれか1項に記載の嚥下・咀嚼困難者用食品の製造方法。