説明

四塩化チタン製造設備の整備方法および四塩化チタン製造設備

【課題】機器内部に存在するTiCl4の大部分を排出でき、大気開放して整備する際に塩酸ガスが発生することによる作業環境の悪化および機器の腐食を低減できるTiCl4製造設備の整備方法およびTiCl4製造設備を提供する。
【解決手段】流動層によって得られた粗TiCl4ガスを冷却して粗TiCl4液とし、この粗TiCl4液を蒸留工程で純TiCl4液とするTiCl4製造設備の整備方法であって、TiCl4製造設備が備える機器のうちで整備対象とした機器50の排出口からTiCl4液を減圧吸引した後に大気解放して整備することを特徴とする。TiCl4液を減圧吸引する際、TiCl4液回収容器40内のガスを排気することにより回収容器40内を減圧にし、この回収容器40を整備対象機器50と接続することにより整備対象機器50内のTiCl4液を減圧吸引し、回収されたTiCl4液を回収容器40内で気液分離するのが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流動層によって得られた粗TiCl4(四塩化チタン)を蒸留によって純TiCl4とするTiCl4製造設備を整備する方法およびTiCl4製造設備に関し、さらに詳しくは、製造設備が備える機器の内部に存在するTiCl4の大部分を排出でき、大気開放して整備する際に塩酸ガスが発生することによる作業環境の悪化および機器の腐食を低減できるTiCl4製造設備の整備方法およびTiCl4製造設備に関する。
【背景技術】
【0002】
金属Tiの製造原料である純TiCl4(ピュア四塩化チタン)は、通常、流動塩化法により生成する粗TiCl4(クルード四塩化チタン)から製造される。以下では、「粗TiCl4」および「純TiCl4」を総称して「TiCl4」とも呼ぶ。
【0003】
流動塩化法では、チタン源として酸化チタンを含有する鉱石、還元剤としてコークスが用いられ、鉱石およびコークスによって流動炉内に形成された層に、塩素ガスを下方から吹き上げて流動化させた流動層で塩化反応を進行させ、粗TiCl4ガスを生成する。このような流動塩化法により生成した粗TiCl4ガスには、酸化チタンを含む鉱石に鉄やアルミニウム、ジルコニウム等の酸化物が不純物として含まれていることから、これらの酸化物が塩素化された塩化物が不純物として含まれる。
【0004】
純TiCl4の製造では、流動塩化法により得られた粗TiCl4ガスを冷却して液化させた後、蒸留工程で粗TiCl4液中の不純物を減じることにより、純TiCl4を得る。蒸留工程は、例えば、単蒸留した後で精留することにより行うことができ、精留では、多段式蒸留塔や充填塔によって粗TiCl4液中の不純物を除去することにより、TiCl4の純度を高めた純TiCl4とする。
【0005】
前述の通り、酸化チタンを含む鉱石に鉄やアルミニウム、ジルコニウム等の酸化物が不純物として含まれているので、粗TiCl4ガスおよび粗TiCl4液には酸化物が塩素化された塩化物が不純物として含まれる。不純物として含まれる塩化物は、その一部が固体粒子として含まれることから、TiCl4製造設備が備える熱交換器やタンク、配管といった機器に付着して成長し、スケールを形成する。
【0006】
例えば、熱交換器でスケールが形成されると、熱交換器の部材に比べスケールの熱伝導率が低いことから、加熱または冷却が不十分となって熱交換器の熱交換能力の低下に繋がる。また、配管でスケールが形成されると、スケール成長に起因する圧力損失の上昇や配管閉塞が発生する。その結果、TiCl4製造設備において、エネルギー効率や生産性の著しい低下を招く。
【0007】
エネルギー効率や生産性の低下を防止するため、TiCl4の製造では、製造設備が備える熱交換器やタンク、配管といった機器に対し、定期的に整備作業を実施して形成されたスケールを除去する必要がある。従来、整備作業では、TiCl4製造設備が備える機器内部に存在するTiCl4液(粗TiCl4または純TiCl4)を機器から排出した後、大気開放して作業者がスケールの除去作業を行うことにより整備していた。この場合、機器内部に存在するTiCl4液の一部が、機器構造や操業上の理由により、排出されることなく機器内部に不可避的に残留する。このため、機器内部にTiCl4液が残留した状態で大気開放して整備していた。
【0008】
従来の整備方法では、除去するスケールとともに残留したTiCl4液を廃棄処理していたが、TiCl4の原料である鉱石やコークスは複数の処理が施されることにより得られることから高価であり、高価な原料から得られたTiCl4液を廃棄処理することは非常に不経済である。また、機器を大気開放すると、機器内部に大気が流入するが、流入した大気に含まれる水分と機器内部に残留したTiCl4液が下記(1)式に示す反応を起こし、塩酸ガス(HCl)を生じる。
TiCl4+2H2O→TiO2+4HCl ・・・(1)
【0009】
上記(1)式に示す反応で生じた塩酸ガスは、人体に対し非常に有害であるだけでなく、TiCl4製造設備の周辺機器などを腐食する原因にもなる。このため、従来の整備方法では、作業環境の悪化および機器の腐食が問題となっていた。
【0010】
TiCl4製造設備が備える機器で形成されるスケールに関し、従来から種々の提案がなされており、例えば、特許文献1がある。特許文献1は、TiCl4製造設備が備える機器のうち、粗TiCl4液を一時的に貯留するタンクに設けられた液面計やタンク内に貯留された粗TiCl4液を蒸留工程で使用される機器に移送するポンプで、スケール形成による動作不良が発生するのを防止することを目的とする。特許文献1では、スケールが形成されて動作不良が発生する部分に、純TiCl4液を連続的または断続的に供給し、スケールが形成されるのを防止する方法が提案されている。
【0011】
特許文献1で提案されるスケールの形成防止方法を使用した場合、純TiCl4液を連続的または断続的に供給した部分はスケールが形成されるのを防止できるが、それ以外の部分ではスケールが形成される。したがって、特許文献1で提案されるスケールの形成防止方法を使用した場合でも、定期的に整備作業を実施して形成されたスケールを除去する必要がある。このスケールを除去するために実施される整備作業について、特許文献1では、検討されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2006−55740号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
上述のように、流動層によって得られた粗TiCl4ガスを冷却して粗TiCl4液とし、この粗TiCl4液を蒸留工程で純TiCl4液とするTiCl4製造設備では、整備作業を実施して形成されたスケールを除去する必要がある。従来の整備方法では、TiCl4製造設備が備える機器内部に存在するTiCl4液を液送ポンプにより機器から排出した後、大気開放して整備していた。この場合、機器内部に存在するTiCl4液の一部が、機器構造や操業上の理由により、排出されることなく機器内部に不可避的に残留する。
【0014】
従来の整備方法は、スケールとともに機器内部に残留したTiCl4液を廃棄処理することから不経済であるとともに、機器内部に残留したTiCl4液が大気開放によって流入した大気中の水分と反応して塩酸ガスを発生させることから作業環境の悪化および機器の腐食が問題となる。
【0015】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、機器内部に存在するTiCl4の大部分を排出でき、大気開放して整備する際に塩酸ガスが発生することによる作業環境の悪化および機器の腐食を低減できるTiCl4製造設備の整備方法およびTiCl4製造設備を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、機器内部に存在するTiCl4液を、機器内部に残留させることなく、排出する方法を検討した。この方法として、整備対象となる機器の底部や側面の下部に排出口を設け、渦巻きポンプといった液体送給用ポンプを用いて排出口から排出されたTiCl4を送ることにより、機器内部に存在するTiCl4液を吸引して排出口から排出する方法が考えられる。
【0017】
ここで、機器内部に存在するTiCl4液を排出口から排出する際は、円滑に排出を行うために機器内部に気体を流入させつつTiCl4液を排出口から排出する。この機器内部に流入させる気体は、水分が含まれると前記(1)式に示す反応により塩酸ガスが発生することから、ドライエアーや不活性ガスが用いられる。また、機器内部に存在するTiCl4液の一部は、蒸発して気体となる。このため、機器内部にはTiCl4液とともに気体が存在する。
【0018】
TiCl4液と気体とが機器内部に存在する状態で、液体送給用ポンプにより機器内部に存在するTiCl4液を吸引して排出すると、やがて、液体送給用ポンプはTiCl4液とともに気体を吸い込む。液体送給用ポンプは気体を吸い込むと吸引力が著しく低下するので、液体送給用ポンプを用いて吸引する方法でもTiCl4液が機器内部に残留する。このため、大気開放して整備する際、残留するTiCl4液が大気中に含まれる水分と反応することにより発生する塩酸ガスにより、作業環境の悪化および機器の腐食が問題となる。
【0019】
本発明者らは、機器内部に残留するTiCl4を排出する方法について、さらに種々の試験を行い、鋭意検討を重ねた結果、機器内部に存在するTiCl4液を排出口から減圧吸引することにより、排出されることなく残留するTiCl4を大幅に低減可能であり、塩酸ガスによる作業環境の悪化および機器の腐食を低減できることを知見した。
【0020】
また、排出口から減圧吸引したTiCl4液をTiCl4液回収容器で回収して気液分離し、このTiCl4液回収容器内の液体を抜き出してTiCl4製造設備の途中へ戻すことにより、吸引回収されたTiCl4液を有効活用できることを知見した。
【0021】
TiCl4製造設備が備える熱交換器であって、粗TiCl4液を加熱または冷却する熱交換器を整備する場合は、減圧吸引によって熱交換器内部に存在するTiCl4を大幅に低減可能であるが、熱交換器の構造上の理由および粗TiCl4液が不純物の一部を固体粒子として含むことからスラリー状であることにより、粗TiCl4液が熱交換器に付着して残留し易い。この場合、熱交換器の排出口から粗TiCl4液を減圧吸引するとともに、熱交換器を加熱することにより熱交換器に付着したTiCl4液を気化させてガスとして減圧吸引し、吸引したTiCl4ガスを冷却器により液化してTiCl4液回収容器で回収すれば、熱交換器内部に存在する全てのTiCl4液を回収可能であることを知見した。
【0022】
本発明は、上記の知見に基づいて完成したものであり、下記(1)〜(5)のTiCl4製造設備の整備方法、および、下記(6)のTiCl4製造設備を要旨としている。
【0023】
(1)流動層によって得られた粗TiCl4ガスを冷却して粗TiCl4液とし、この粗TiCl4液を蒸留工程で純TiCl4液とするTiCl4製造設備を整備する方法であって、TiCl4製造設備が備える機器のうちで整備対象とした機器の排出口からTiCl4液を減圧吸引した後に大気解放して整備することを特徴とするTiCl4製造設備の整備方法。
【0024】
(2)前記整備対象機器の排出口からTiCl4液を減圧吸引するに際し、TiCl4液回収容器内のガスを排気することによりTiCl4液回収容器内を減圧にし、このTiCl4液回収容器を前記整備対象機器と接続することにより前記整備対象機器内のTiCl4液を減圧吸引し、吸引回収されたTiCl4液を前記TiCl4液回収容器内で気液分離することを特徴とする上記(1)に記載のTiCl4製造設備の整備方法。
【0025】
(3)前記TiCl4液回収容器内の液体を抜き出し、TiCl4製造設備の途中へ戻すことにより、吸引回収されたTiCl4液を有効活用することを特徴とする上記(2)に記載のTiCl4製造設備の整備方法。
【0026】
(4)前記整備対象機器の排出口からTiCl4液を減圧吸引するに際し、粗TiCl4液を減圧吸引し、前記TiCl4液回収容器として、撹拌機能を有するTiCl4液回収容器を用いることを特徴とする上記(3)に記載のTiCl4製造設備の整備方法。
【0027】
(5)前記整備対象機器の排出口からTiCl4液を減圧吸引するに際し、TiCl4製造設備が備える熱交換器の排出口から粗TiCl4液を減圧吸引するとともに、前記熱交換器を加熱することにより前記熱交換器に付着したTiCl4液を気化させ、ガスとして減圧吸引し、前記整備対象機器の排出口から前記TiCl4液回収容器までの間に設置された冷却器によりTiCl4ガスを液化して前記TiCl4液回収容器で回収することを特徴とする上記(3)に記載のTiCl4製造設備の整備方法。
【0028】
(6)流動層を形成して粗TiCl4ガスを生成する流動炉と、前記粗TiCl4ガスを冷却して粗TiCl4液とする冷却設備と、前記粗TiCl4液の純度を高めて純TiCl4液とする蒸留設備とを有するTiCl4製造設備であって、TiCl4製造設備が備える機器にTiCl4液を減圧吸引可能な排出口があり、この排出口から吸引されたTiCl4液を回収するTiCl4液回収容器があり、このTiCl4液回収容器が減圧機能を持つことを特徴とするTiCl4製造設備。
【発明の効果】
【0029】
本発明のTiCl4製造設備の整備方法は、機器の排出口からTiCl4液を減圧吸引することにより、機器内部に存在するTiCl4液の大部分を排出できる。このため、大気開放して整備する際、残留するTiCl4液が大気中に含まれる水分と反応することにより発生する塩酸ガスの量を抑制することができ、塩酸ガスによる作業環境の悪化および機器の腐食を低減できる。
【0030】
本発明のTiCl4製造設備は、TiCl4液を回収するTiCl4液回収容器があり、このTiCl4液回収容器が減圧機能を持つことにより、機器を整備する際に整備対象とした機器の排出口から容易にTiCl4液を減圧吸引して回収できる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明のTiCl4製造設備の構成例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
最初に、TiCl4製造設備の基本構成について、本発明のTiCl4製造設備の構成例を示す図面を参照しながら、説明する。
【0033】
図1は、本発明のTiCl4製造設備の構成例を示す模式図である。図1に示すTiCl4製造設備は、流動層を形成して粗TiCl4ガスを生成する流動炉10と、生成した粗TiCl4ガスを冷却して粗TiCl4液とする冷却設備(粗TiCl4ガス冷却器)20と、粗TiCl4液の純度を高めて純TiCl4液とする蒸留設備30とを有する。また、同図では、矢印で示す方向に粗TiCl4または純TiCl4を送る配管を実線の矢印で示す。
【0034】
流動炉10は、鉱石およびコークスによって流動炉内に形成された層に、塩素ガスを下方から吹き上げて流動化させた流動層で塩化反応を進行させ、粗TiCl4ガスを生成する。同図に示すTiCl4製造設備では、流動炉10で生成した粗TiCl4ガスは、サイクロン11に送られて固形物が除去された後、熱交換器である冷却設備(粗TiCl4ガス冷却器)20により冷却されて粗TiCl4液となる。得られた粗TiCl4液は、粗TiCl4液用タンクに送られて貯留される。
【0035】
同図に示すTiCl4製造設備では、粗TiCl4液が蒸留設備30によって単蒸留された後で精留され、純TiCl4液となる。蒸留設備30は、粗TiCl4液用タンク21から送られてきた粗TiCl4液を単蒸留する蒸発器31および単蒸留用冷却器33と、単蒸留された粗TiCl4液を精留する蒸留塔34および精留用冷却器37とで構成される。また、蒸発器31は、蒸発器用加熱器32が併設され、粗TiCl4液を蒸発器用加熱器32に循環させて加熱する。
【0036】
このような構成の蒸留設備30では、粗TiCl4液用タンク21から蒸発器31に送られてきた粗TiCl4液が蒸発器31で加熱されてガス化する。蒸発器31でガス化した粗TiCl4ガスは、単蒸留用冷却器33で液化することにより、粗TiCl4液を単蒸留する。この際、粗TiCl4液に含まれる不純物のうちの高沸点物は、ガス化することなく、蒸発器31内に残留するので、単蒸留により粗TiCl4液の純度を高めることができる。
【0037】
蒸留塔34では、単蒸留された粗TiCl4液を塔底部で蒸留塔用加熱器35に循環させることにより、加熱して蒸発させる。塔底部で発生した粗TiCl4ガスは、塔内を温度を下げながら上昇し、その一部が蒸留塔の塔頂部と塔底部の間に設けられたサイドカットから純TiCl4ガスとして取り出される。サイドカットから取り出された純TiCl4ガスは、精留用冷却器37に送られて冷却され、純TiCl4液となる。
【0038】
一方、塔底部で発生した粗TiCl4ガスが上昇して、サイドカットから取り出されることなく、頂塔部に到達すると、蒸留塔34から抜き出される。頂塔部で抜き出された粗TiCl4ガスは、塔頂冷却器36で冷却されて粗TiCl4液とした後、蒸留塔34に戻される。このような蒸留塔34では、単蒸留された粗TiCl4液に残存する高沸点物は、ガス化することなく、蒸留塔34の塔底部に残留するので、不純物が除去された純TiCl4ガスをサイドカットから取り出すことができる。
【0039】
同図に示す蒸発器用加熱器32および蒸留塔用加熱器35は、熱交換器であり、粗TiCl4液とともに高温の蒸気が供給され、粗TiCl4液を高温の蒸気と熱交換させることにより加熱する。また、粗TiCl4ガス冷却器20、単蒸留用冷却器33、塔頂冷却器36および精留用冷却器37も熱交換器であるが、冷却器では、粗TiCl4ガスまたは純TiCl4ガスとともに冷却水が供給され、高温の粗TiCl4ガスまたは純TiCl4ガスを冷却水と熱交換させることにより冷却する。
【0040】
このような基本構成である前記図1に示すTiCl4製造設備を参照しながら、本発明のTiCl4製造設備の整備方法を以下に説明する。
【0041】
本発明のTiCl4製造設備の整備方法は、前記図1に示すTiCl4製造設備のように、流動層によって得られた粗TiCl4ガスを冷却して粗TiCl4液とし、この粗TiCl4液を蒸留工程で純TiCl4液とするTiCl4製造設備を整備する方法であって、TiCl4製造設備が備える機器のうちで整備対象とした機器50の排出口からTiCl4液を減圧吸引した後に大気解放して整備することを特徴とする。
【0042】
前記図1では、整備対象機器50は、生産ラインから切り離されていることから、整備対象機器50とTiCl4製造設備とを接続する配管を省略した。本発明のTiCl4製造設備の整備方法では、整備対象機器50を、粗TiCl4液もしくはガスまたは純TiCl4液もしくはガスが通る機器とすることができ、例えば、加熱器や冷却器、タンク21、蒸発器31、それらを接続する配管とすることができる。また、減圧吸引するTiCl4液は、粗TiCl4液および純TiCl4液のいずれでもよい。
【0043】
前述の通り、液体送給用ポンプを用いて機器の排出口からTiCl4液を吸引する場合、液体送給用ポンプが気体を吸い込むと吸引力が著しく低下することから、機器内部にTiCl4液が残留する。一方、本発明のTiCl4製造設備の整備方法は、減圧吸引することにより、機器の排出口から排出されるTiCl4液に気体が混入する状態でも、吸引力を維持したままでTiCl4液を吸引することができる。
【0044】
このため、本発明のTiCl4製造設備の整備方法は、機器内部に存在するTiCl4液の大部分を排出できる。その結果、大気開放して整備する際、スケールとともに廃棄処理されるTiCl4液の量を大幅に低減することができる。また、残留するTiCl4液が大気中に含まれる水分と反応することにより発生する塩酸ガスの量を抑制することができ、塩酸ガスによる作業環境の悪化および機器の腐食を低減できる。
【0045】
特に、整備対象機器50が、加熱器や冷却器といった熱交換器でなく、タンク21、蒸発器31、それらを接続する配管といった機器である場合、機器内部に存在する全てのTiCl4液を排出できる。この場合、大気開放して整備する際、残留したTiCl4液が大気中に含まれる水分と反応することにより塩酸ガスが発生するのを完全に抑制することができ、塩酸ガスによる作業環境の悪化および機器の腐食を防止できる。
【0046】
機器内部に存在するTiCl4液は重力により機器の下部に溜まるので、整備対象機器50排出口は、機器の底部や側面の下部に設ければよい。
【0047】
本発明のTiCl4製造設備の整備方法は、整備対象機器50の排出口からTiCl4液を減圧吸引するに際し、TiCl4液回収容器40内のガスを排気することによりTiCl4液回収容器40内を減圧にし、このTiCl4液回収容器を整備対象機器50と接続することにより整備対象機器50内のTiCl4液を減圧吸引し、吸引回収されたTiCl4液をTiCl4液回収容器40内で気液分離するのが好ましい。
【0048】
前記図1に示すTiCl4製造設備は、TiCl4液回収容器40を有し、このTiCl4液回収容器40は、回収容器内のガスを排気する減圧用ポンプ41を有する。また、TiCl4製造設備は、整備対象機器50の排出口から排出された粗TiCl4液をTiCl4液回収容器40に送る配管を備える。
【0049】
このようなTiCl4製造設備で、TiCl4液回収容器40内のガスを減圧用ポンプ41で排気することによりTiCl4液回収容器40内を減圧にする。この状態でTiCl4液回収容器を整備対象機器50と接続することにより蒸発器用加熱器32のTiCl4液が減圧吸引され、TiCl4液回収容器40内に回収される。このようにTiCl4液回収容器40を用いることにより、機器内部に存在するTiCl4液を減圧吸引により排出して回収することができる。
【0050】
また、減圧吸引により気体とともに回収されたTiCl4液をTiCl4液回収容器40内で保持すると、TiCl4液中の気泡は上昇して液面に到達することから、回収されたTiCl4液から気体を分離させることができる。TiCl4液が粗TiCl4液でスラリー状である場合でも、同様にTiCl4液回収容器40を用いて減圧吸引することにより回収でき、TiCl4液回収容器40内で保持することにより気液分離することができる。
【0051】
本発明のTiCl4製造設備の整備方法は、TiCl4液回収容器内の液体を抜き出し、TiCl4製造設備の途中へ戻すことにより、吸引回収されたTiCl4液を有効活用するのが好ましい。これにより、TiCl4製造における原料歩留まりを向上させることができる。
【0052】
TiCl4製造設備の途中へ戻す場合、製造された純TiCl4液の品質低下を防止する観点から、吸引回収されたTiCl4液が粗TiCl4液であれば、単蒸留される前の段階に戻すのが好ましい。前記図1に示すTiCl4製造設備では、流動炉10より後段に配置された機器(流動炉10とサイクロン11を接続する配管)から蒸留塔34までの機器を整備する場合、機器から減圧吸引されるTiCl4液は、粗TiCl4液となり、吸引回収された粗TiCl4液は、蒸発器31より前の位置に戻すのが好ましい。
【0053】
一方、吸引回収されたTiCl4液が純TiCl4液であれば、製造された純TiCl4液の品質低下を防止する観点から、精留されるより前の段階に戻すのが好ましく、単蒸留される前の段階に戻すのがより好ましい。前記図1に示すTiCl4製造設備では、蒸留塔34より後段に配置された機器を整備する場合、機器から減圧吸引されるTiCl4液は、純TiCl4液となり、吸引回収された純TiCl4液は、蒸留塔34より前の位置に戻すのが好ましく、蒸発器31より前の位置に戻すのがより好ましい。
【0054】
粗TiCl4液を減圧吸引により回収してTiCl4液回収容器に貯留すると、粗TiCl4液に固体粒子として含まれる不純物がTiCl4液回収容器の底部に付着して堆積し、底部に設けられた排出口を閉塞させて粗TiCl4液の抜き出しを阻害する懸念がある。
【0055】
このため、本発明のTiCl4製造設備の整備方法は、整備対象機器50の排出口からTiCl4液を減圧吸引する際に粗TiCl4液を減圧吸引する場合、TiCl4液回収容器として、撹拌機能を有するTiCl4液回収容器を用いるのが好ましい。これにより、回収した粗TiCl4液に含まれる不純物によりTiCl4液回収容器の底部に付着して堆積するのを抑制することができ、排出口を閉塞させて粗TiCl4液の抜き出しを阻害する懸念を払拭できる。
【0056】
TiCl4液回収容器の攪拌機能は、回収容器内の粗TiCl4液に気体を吹き込むバブリングや回収容器内で攪拌子を回転させる機械的攪拌により実現することができる。スラリー状である粗TiCl4液は流動性に劣るので、機械的攪拌を採用するのが好ましく、前記図1に示すように、水平面に沿って回転する回転翼40aを攪拌子とし、この回転翼40aを回収容器の底面近傍に配置する機械的攪拌を採用するのがより好ましい。水平面に沿って回転する回転翼40aを回収容器の底面近傍に配置することにより、底面に付着した不純物を効率よく再流動させることができるからである。
【0057】
ここで、加熱器や冷却器といった熱交換器は、一般的に、熱交換を高効率で行うために複数の伝熱管が配置されたり、伝熱管の外周にフィンが設けられたりする。また、前述の通り、粗TiCl4液は、不純物の一部が固体粒子として含まれることから、スラリー状である。このため、熱交換器の内部に存在する粗TiCl4液を減圧吸引すると、粗TiCl4液が熱交換器に付着して残留し易い。
【0058】
そこで、本発明のTiCl4製造設備の整備方法は、整備対象機器50が粗TiCl4液を加熱または冷却する熱交換器である場合、整備対象機器50の排出口からTiCl4液を減圧吸引するに際し、熱交換器の排出口から粗TiCl4液を減圧吸引するとともに、熱交換器を加熱することにより熱交換器に付着したTiCl4液を気化させ、ガスとして減圧吸引し、整備対象機器50の排出口からTiCl4液回収容器40までの間に設置された冷却器(吸引ガス冷却器42)によりTiCl4ガスを液化してTiCl4液回収容器40で回収するのが好ましい。
【0059】
熱交換器の排出口から粗TiCl4液を減圧吸引するとともに、熱交換器を加熱することにより熱交換器に付着したTiCl4液を気化させ、ガスとして減圧吸引することにより、熱交換器内部に存在する全てのTiCl4液を熱交換器から排出することができる。さらに、整備対象機器50の排出口からTiCl4液回収容器40までの間に設置された冷却器(吸引ガス冷却器42)によりTiCl4ガスを液化してTiCl4液回収容器40で回収すれば、熱交換器内部に存在する全てのTiCl4液を回収できる。
【0060】
熱交換器やタンクといった機器の排出口から減圧吸引すると、機器内部の圧力も低下することから、機器内部に存在するTiCl4液の一部が沸点の低下によりガス化する。しかし、加熱を行わない状態では蒸発潜熱で冷却されて機器内部の温度が低下するので、減圧吸引だけで機器内部に存在するTiCl4液の大部分がガス化しない。したがって、機器内部に存在するTiCl4液をガス化して効率的に排出するには、熱交換器の加熱が効果的である。
【0061】
このように熱交換器の排出口から粗TiCl4液を減圧吸引するとともに、熱交換器を加熱することにより熱交換器に付着したTiCl4液を気化させ、ガスとして減圧吸引することにより、大気開放して作業員がスケールの除去作業を行う際に、塩酸ガスを発生させることなく、水洗することが可能となる。このため、例えば、高圧洗浄機のノズルを熱交換器の伝熱管に挿入して水洗することによりスケールを除去することが可能となり、作業効率を大幅に改善することができる。
【0062】
粗TiCl4液を加熱または冷却する熱交換器とは、前記図1に示すTiCl4製造設備では、流動炉で得られた粗TiCl4ガスを冷却する粗TiCl4ガス冷却器20、蒸発器31に併設された蒸発器用加熱器32、蒸発器31から送られた粗TiCl4ガスを冷却する単蒸留用冷却器33、蒸留塔34の塔底部で粗TiCl4液を循環させて加熱する蒸留塔用加熱器35、蒸留塔34の頂塔部から抜き出した粗TiCl4ガスを冷却する塔頂冷却器36が該当する。
【0063】
熱交換器の加熱は、TiCl4の沸点が136℃であることから、加熱器の場合、高温の蒸気として、160℃程度の加熱水蒸気を供給することにより行うことができ、冷却器の場合、冷却水に代えて、160℃程度の加熱水蒸気を供給することにより行うことができる。
【0064】
また、熱交換器の加熱は、減圧吸引による粗TiCl4液の排出が終了した後に行っても、減圧吸引による粗TiCl4液の排出と同時に行ってもよい。熱交換器の加熱が減圧吸引による粗TiCl4液の排出の終了後または同時のいずれの場合であっても、熱交換器の排出口からは粗TiCl4液の排出された後にTiCl4ガスが排出される。
【0065】
このため、TiCl4製造設備に整備対象機器50の排出口からTiCl4液回収容器40に至る経路であって吸引ガス冷却器42を経由する経路と、吸引ガス冷却器42を経由しない経路とを切替える手段を設け、粗TiCl4液が減圧吸引される場合に切替手段を操作して吸引ガス冷却器42を経由しない経路とし、TiCl4ガスが減圧吸引される場合に切替手段を操作して吸引ガス冷却器42を経由する経路とするのが好ましい。これにより、減圧吸引される粗TiCl4液およびTiCl4ガスを効率よく処理することができる。
【0066】
本発明のTiCl4製造設備の整備方法では、熱交換器やタンク21蒸発器31といった機器を複数用い、整備済みの機器を生産ラインに接続するとともに、整備対象とした機器を生産ラインから切り離して整備するのが好ましい。これにより、整備作業により流動炉10を含むTiCl4製造設備が停止するのを防止すことができからである。
【0067】
本発明のTiCl4製造設備の整備方法は、TiCl4液を機器に送るポンプとして、一般的な液体送給用ポンプを用いることができる。液体送給用ポンプとしては、効率的かつ安価にTiCl4液を送ることができることから、渦巻きポンプを用いるのが好ましい。
【0068】
続いて、本発明のTiCl4製造設備を、前記図1に示す本発明のTiCl4製造設備の構成例を参照しながら説明する。
【0069】
本発明のTiCl4製造設備は、流動層を形成して粗TiCl4ガスを生成する流動炉10と、粗TiCl4ガスを冷却して粗TiCl4液とする冷却設備(粗TiCl4ガス冷却器)20と、粗TiCl4液の純度を高めて純TiCl4液とする蒸留設備30とを有するTiCl4製造設備であって、TiCl4製造設備が備える機器にTiCl4液を減圧吸引可能な排出口があり、この排出口から吸引されたTiCl4液を回収するTiCl4液回収容器40があり、このTiCl4液回収容器40が減圧機能を持つことを特徴とする。
【0070】
本発明のTiCl4製造設備は、TiCl4液を回収するTiCl4液回収容器40があり、このTiCl4液回収容器40が減圧機能を持つことにより、機器を整備する際に減圧吸引可能な排出口がある機器50の排出口から容易にTiCl4液を減圧吸引して回収できる。このため、大気開放して整備する際、残留したTiCl4液が大気中に含まれる水分と反応することにより塩酸ガスが発生するのを抑制することができ、塩酸ガスによる作業環境の悪化および機器の腐食を低減できる。
【0071】
TiCl4液回収容器40の減圧機能は、前記図1に示すTiCl4製造設備のように回収容器内のガスを排気する減圧用ポンプ41を設けることにより実現できる。減圧用ポンプ41には、一般的に流通している真空ポンプを用いることができる。真空ポンプの中でも水封式ポンプは安価であるとともに、酸性雰囲気下で使用可能であるので、減圧用ポンプ41として水封式ポンプを用いるのが好ましい。
【0072】
前記図1に示すTiCl4製造設備は、整備対象機器50のみがTiCl4液回収容器40と配管で接続されているが、スケールの除去を目的とする整備は、流動炉10より後段にある全ての機器で定期的に行う必要がある。複数の機器からTiCl4液を減圧吸引して回収するため、本発明のTiCl4製造設備は、複数の機器にTiCl4液を減圧吸引可能な排出口があり、TiCl4液回収容器40を配管で複数の機器の排出口と接続し、TiCl4液回収容器40に接続された複数の機器のうちで整備対象とした機器を除いた機器との接続を遮断する切替手段を設けるのが好ましい。
【0073】
これにより、切替手段を操作することにより、複数の機器の排出口からTiCl4液を、順次、回収することができる。その結果、TiCl4液回収容器40の配置数を低減できるとともに、効率的に整備作業を行うことができるので、設備コストおよび作業時間を低減できる。
【実施例】
【0074】
本発明のTiCl4製造設備の整備方法およびTiCl4製造設備の効果を確認するため、下記の試験を行った。
【0075】
[試験条件]
本試験では、前記図1に示す流動炉10と、流動炉10で得られた粗TiCl4ガスを冷却する冷却設備(粗TiCl4ガス冷却器)20と、粗TiCl4液の純度を高めて純TiCl4液とする蒸留設備30とを有するTiCl4製造設備を用いた。本試験では、2台の蒸発器用加熱器を配置し、一方の蒸発器用加熱器をTiCl4製造設備に接続し、他方の整備済みである蒸発器用加熱器をTiCl4製造設備から切り離していた。この状態で、一方の蒸発器用加熱器をTiCl4製造設備から切り離して整備対象機器50とし、他方の整備済みである蒸発器用加熱器32をTiCl4製造設備に接続した。
【0076】
比較例では、整備対象機器50(TiCl4製造設備から切り離した蒸発器用加熱器)の底部に設けた排出口から排出された粗TiCl4液を、図示しない液体送給用ポンプを用いてTiCl4液回収容器40に送給することにより、機器内部に存在するTiCl4液を排出口から吸引して排出した。その後、整備対象機器50を大気開放して水洗によりスケールを除去する整備作業を行った。
【0077】
この際、吸引した粗TiCl4液は、図示しない切替手段を操作することにより、吸引ガス冷却器42を経由させることなく、直接TiCl4液回収容器40に送った。また、TiCl4液回収容器が有する攪拌機能は停止した状態で、整備対象機器50に高温の蒸気を供給して加熱することなく、吸引を行った。さらに、回収したTiCl4液回収容器内の粗TiCl4液は、気液分離した後、TiCl4製造設備の途中に戻す処理を行わなかった。
【0078】
液体送給用ポンプとして、渦巻きポンプを用いた。また、粗TiCl4液を円滑に排出するため、整備対象機器50の上部からドライエアーを供給し、整備対象機器50の上部の気圧を大気圧と同じ値に維持した。
【0079】
本発明例1では、最初に、整備対象機器50(TiCl4製造設備から切り離した蒸発器用加熱器)の排出口から排出された粗TiCl4液を、図示しない液体送給用ポンプを用いてTiCl4液回収容器40に送ることにより、機器内部に存在するTiCl4液を可能な限り排出口から吸引して排出した。続いて、TiCl4液回収容器40内のガスを減圧用ポンプ41で排気することによりTiCl4液回収容器内を減圧にし、このTiCl4液回収容器を整備対象機器50と接続することにより整備対象機器50内の粗TiCl4液を減圧吸引した。減圧吸引する際は、減圧用ポンプ41として水封式ポンプを用いてTiCl4液回収容器内のガスを排気し、TiCl4液回収容器の内圧を2.5kPaに減圧した状態で整備対象機器50と接続した。これら以外の条件は、比較例と同一条件とした。
【0080】
本発明例2では、TiCl4液回収容器内の粗TiCl4液をTiCl4製造設備の途中に戻した。具体的には、TiCl4液回収容器の底部から排出された粗TiCl4液を図示しない液体送給用ポンプである渦巻きポンプにより蒸発器31の前の位置に戻した。これら以外の試験条件は、本発明例1と同一条件とした。
【0081】
本発明例3では、TiCl4液回収容器が有する攪拌機能を動作させ、具体的には、水平面に沿って回転する回転翼を攪拌子とし、この回転翼を回収容器の底面近傍に配置して機械的攪拌を行った。これ以外の試験条件は、本発明例2と同一条件とした。
【0082】
本発明例4では、整備対象機器50の排出口から粗TiCl4液を減圧吸引するとともに、整備対象機器50を加熱することにより整備対象機器50に付着したTiCl4液を気化させ、ガスとして減圧吸引した。具体的には、減圧吸引による粗TiCl4液の排出が終了した後で160℃程度の加熱水蒸気を整備対象機器50(TiCl4製造設備から切り離した蒸発器用加熱器)に供給することにより加熱した。
【0083】
また、図示しない切替手段を操作することにより、減圧吸引した粗TiCl4液は、吸引ガス冷却器42を経由させることなく、TiCl4液回収容器40に送り、減圧吸引した粗TiCl4ガスは吸引ガス冷却器42を経由させて冷却してからTiCl4液回収容器40に送った。これら以外の試験条件は、本発明例3と同一条件とした。
【0084】
比較例および本発明例ともに、回収した粗TiCl4液の量を測定した。
【0085】
表1に、比較例および本発明例の試験条件および試験結果をそれぞれ示す。試験条件として、減圧吸引する処理、TiCl4液回収容器内の粗TiCl4液をTiCl4製造設備に戻す処理、TiCl4液回収容器の攪拌機能および整備対象機器(TiCl4製造設備から切り離した蒸発器用加熱器)の加熱処理について、処理を実施または機能を使用した場合は丸印を、処理を実施または機能を使用しなかった場合はバツ印をそれぞれ示す。また、試験結果として、TiCl4液のロス量、大気解放後の作業環境および機器腐食の状況並びにTiCl4液回収容器の排出口の閉塞状況をそれぞれ示す。
【0086】
【表1】

【0087】
ここで、TiCl4液のロス量は、整備対象機器(TiCl4製造設備から切り離した蒸発器用加熱器)内に存在する全ての粗TiCl4液を回収できた本発明例4の回収量を基準として算出した。具体的には、本発明例4の回収量と、各試験でTiCl4製造設備に戻したTiCl4液の量との差を算出してTiCl4液のロス量とした。このように算出したTiCl4液のロス量を、比較例を100とする相対値により表1に示す。
【0088】
また、表1に示す「大気解放後の作業環境および機器腐食の状況」欄の記号の意味は次の通りである。
○:作業環境の悪化および機器の腐食が認められなかったことを示す。
△:作業環境の悪化および機器の腐食が認められたが、軽微であったことを示す。
×:作業環境が著しく悪化し、機器の腐食も深刻であったことを示す。
【0089】
表1に示す「TiCl4液回収容器の排出口の閉塞状況」欄の記号の意味は次の通りである。
○:排出口が閉塞することなく、回収容器内のTiCl4液の全量が排出されたことを示す。
△:排出口が一時的に閉塞したが、回収容器内のTiCl4液の全量が排出されたことを示す。
−:回収容器内の粗TiCl4液をTiCl4製造設備の途中に戻す処理を行わなかったので、排出口の閉塞状況について評価しなかったことを示す。
【0090】
[試験結果]
表1に示す結果より、比較例では、液体送給用ポンプにより粗TiCl4液を吸引して回収し、整備対象機器50を大気開放して水洗によりスケールを除去する整備作業を行う際に、大量の塩化水素ガスが発生したことから、作業環境が著しく悪化し、機器の腐食も深刻であった。すなわち、比較例では、整備対象機器50(TiCl4製造設備から切り離した蒸発器用加熱器)の内部に相当量の粗TiCl4液が残留し、水洗により除去するスケールとともに粗TiCl4液が廃棄された。
【0091】
本発明例1では、減圧吸引により粗TiCl4液を吸引して回収し、整備対象機器50を大気開放して水洗によりスケールを除去する整備作業を行う際に、若干の塩化水素ガスが発生したことから、作業環境の悪化および機器の腐食が認められたが、軽微であった。このように、本発明例1では、比較例1と比べ、作業環境の悪化および機器の腐食の状況が改善されているので、減圧吸引により機器内部に存在するTiCl4液の大部分を排出でき、塩酸ガスによる作業環境の悪化および機器の腐食を低減できることが明らかになった。
【0092】
本発明例2では、回収した粗TiCl4液をTiCl4製造設備の途中に戻し、TiCl4液のロスが10に低減された。この際、得られた純TiCl4の品質を確認したが、回収した粗TiCl4液をTiCl4製造設備の途中に戻さない場合と同等であった。したがって、回収した粗TiCl4液をTiCl4製造設備の途中に戻すことにより、回収した粗TiCl4液を有効活用できることが明らかになった。また、本発明例2では、TiCl4液回収容器の排出口から粗TiCl4液を排出する際に攪拌機能を停止し、その結果、排出口が一時的に閉塞したが、回収容器内の粗TiCl4液の全量が排出された
【0093】
本発明例3では、TiCl4液回収容器の攪拌機能を動作させ、その結果、排出口が閉塞することなく、回収容器内の粗TiCl4液の全量が排出された。したがって、TiCl4液回収容器が攪拌機能を有することにより、排出口を閉塞させて粗TiCl4液の抜き出しを阻害する懸念を払拭可能であることが確認できた。
【0094】
本発明例4では、整備対象機器50の排出口から粗TiCl4液を減圧吸引するとともに、整備対象機器50(TiCl4製造設備から切り離した蒸発器用加熱器)を加熱し、さらに減圧吸引したTiCl4ガスを冷却器により液化してTiCl4液回収容器で回収した。本発明例4では、本発明例2および3と比べてTiCl4のロスが10から0に減少するとともに、整備対象機器50(TiCl4製造設備から切り離した蒸発器用加熱器)を大気開放して水洗によりスケールを除去する整備作業を行う際に作業環境の悪化および機器の腐食が認められなかった。
【0095】
これらから、整備対象機器が粗TiCl4液を加熱または冷却する熱交換器である場合、熱交換器の排出口から粗TiCl4液を減圧吸引するとともに、熱交換器を加熱することにより熱交換器に付着したTiCl4液を気化させ、ガスとして減圧吸引すれば、熱交換器内部に存在する全てのTiCl4液を熱交換器から排出できることが明らかになった。
【産業上の利用可能性】
【0096】
本発明のTiCl4製造設備の整備方法は、機器の排出口からTiCl4液を減圧吸引することにより、機器内部に存在するTiCl4液の大部分を排出できる。このため、大気開放して整備する際、残留するTiCl4液が大気中に含まれる水分と反応することにより発生する塩酸ガスの量を抑制することができ、塩酸ガスによる作業環境の悪化および機器の腐食を低減できる。
【0097】
本発明のTiCl4製造設備は、TiCl4液を回収するTiCl4液回収容器があり、このTiCl4液回収容器が減圧機能を持つことにより、機器を整備する際に整備対象とした機器の排出口から容易にTiCl4液を減圧吸引して回収できる。
【0098】
したがって、本発明のTiCl4製造設備の整備方法およびTiCl4製造設備はTiCl4の製造に有効に利用することができる。
【符号の説明】
【0099】
10:流動炉、 11:サイクロン、 20:粗TiCl4ガス冷却器(冷却設備)、
21:粗TiCl4液用タンク、 30:蒸留設備、 31:蒸発器、
32:蒸発器用加熱器、 33:単蒸留用冷却器、 34:蒸留塔、
35:蒸留塔用加熱器、 36:塔頂冷却器、 37:精留用冷却器、
40:TiCl4液回収容器、 40a:回転翼、 41:減圧用ポンプ、
42:吸引ガス冷却器、 50:整備対象機器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流動層によって得られた粗TiCl4ガスを冷却して粗TiCl4液とし、この粗TiCl4液を蒸留工程で純TiCl4液とするTiCl4製造設備を整備する方法であって、
TiCl4製造設備が備える機器のうちで整備対象とした機器の排出口からTiCl4液を減圧吸引した後に大気解放して整備することを特徴とするTiCl4製造設備の整備方法。
【請求項2】
前記整備対象機器の排出口からTiCl4液を減圧吸引するに際し、TiCl4液回収容器内のガスを排気することによりTiCl4液回収容器内を減圧にし、このTiCl4液回収容器を前記整備対象機器と接続することにより前記整備対象機器内のTiCl4液を減圧吸引し、
吸引回収されたTiCl4液を前記TiCl4液回収容器内で気液分離することを特徴とする請求項1に記載のTiCl4製造設備の整備方法。
【請求項3】
前記TiCl4液回収容器内の液体を抜き出し、TiCl4製造設備の途中へ戻すことにより、吸引回収されたTiCl4液を有効活用することを特徴とする請求項2に記載のTiCl4製造設備の整備方法。
【請求項4】
前記整備対象機器の排出口からTiCl4液を減圧吸引するに際し、粗TiCl4液を減圧吸引し、
前記TiCl4液回収容器として、撹拌機能を有するTiCl4液回収容器を用いることを特徴とする請求項3に記載のTiCl4製造設備の整備方法。
【請求項5】
前記整備対象機器の排出口からTiCl4液を減圧吸引するに際し、TiCl4製造設備が備える熱交換器の排出口から粗TiCl4液を減圧吸引するとともに、前記熱交換器を加熱することにより前記熱交換器に付着したTiCl4液を気化させ、ガスとして減圧吸引し、
前記整備対象機器の排出口から前記TiCl4液回収容器までの間に設置された冷却器によりTiCl4ガスを液化して前記TiCl4液回収容器で回収することを特徴とする請求項3に記載のTiCl4製造設備の整備方法。
【請求項6】
流動層を形成して粗TiCl4ガスを生成する流動炉と、前記粗TiCl4ガスを冷却して粗TiCl4液とする冷却設備と、前記粗TiCl4液の純度を高めて純TiCl4液とする蒸留設備とを有するTiCl4製造設備であって、
TiCl4製造設備が備える機器にTiCl4液を減圧吸引可能な排出口があり、この排出口から吸引されたTiCl4液を回収するTiCl4液回収容器があり、このTiCl4液回収容器が減圧機能を持つことを特徴とするTiCl4製造設備。

【図1】
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【公開番号】特開2013−63893(P2013−63893A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−151054(P2012−151054)
【出願日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【出願人】(397064944)株式会社大阪チタニウムテクノロジーズ (133)