説明

回転中における航空機の翼上の負荷を低減するための方法及び装置

装置は、閾値(X)と回転制御(X)を比較することによって、且つこの制御をフィルター処理することによって、横方向の回転運動中における翼に適用された負荷を低減するための電気的な飛行制御システムを有する航空機に使用される。回転制御に対するこの作用の結果として、翼上に生じる負荷の増大は減衰され、且つ低減することができる。従って、負荷は、適用された回転制御が航空機の計画された使用方法に対してあまりにも高い場合、翼のための最大設計値以下に留めることができ、それ故に翼の割り増し設計を制限することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、航空機の構造上の負荷の低減に関する。特に、本発明は、横方向の回転運動中における翼上の負荷を制限する方法に関する。
【0002】
また、本発明は、構造上の、特に翼上の負荷を低減するように、特に回転における、運動命令に対する航空機の応答を予想するための装置に関する。
【背景技術】
【0003】
航空機の構造の異なる部分は、永久的な変形が発生することなく、特定の負荷に耐えられるように設計される。これらの負荷は航空機の全ての運動中に発生し、特に、これらの負荷は航空機が激しい乱気流に遭遇する場合、操縦ミス中にある場合、普通ではない運動中にある場合、又は例外的な外部状態下にある場合に、通常の負荷より大きくなり得る。それらの過負荷は通常、航空機の構造の異なる要素のモデル化及び大きさの決定において少なくとも部分的に考慮され、危険性が無い状態で許容可能な負荷を決定する。
【0004】
さらに、特に戦闘機にとって、実行されるべき運動の範囲、すなわち、低空飛行、地形追従、回避行動では通常、標準的状態下の運動の範囲より大きくなる。従って、回転速度(roll rate)がパラメーターとして考慮されるべきであることが理解され、このパラメーターは戦闘機の翼の設計に影響を与える。上述された運動は、民間用の輸送機のための回転速度の2倍高い回転速度を要求する。その結果、構造に適用された負荷、特に翼の付け根における曲げモーメントは、通常の飛行のための負荷より著しく大きくなる。
【0005】
さらに、ウィングレットが過去に使用されていない航空機上のウィングレットの使用を増加することもまた、従来の回転運動における翼上の負荷を生み出し得る。それ故に、この回転速度パラメーターもまた、民間用航空機の構造の設計、特に翼の付け根の構造の設計に考慮されるべきである。
【0006】
現在までは、設計と比較された過負荷の特性は、事後検査(posterior test)において決定される。従って、過負荷は通常、パラメーターを測定することによって、特に速度を測定することによって検出され、航空機の各部分に特有である負荷モデルを使用して決定された異なる速度に対して、許容可能な速度が例えば4ノットだけ超えた場合、警報が作動される。この過負荷検出に対する改善は特許文献1に記載され、この特許文献1においては、航空機の速度と同様に垂直方向の負荷要因が考慮されて、航空機の構造部分における過負荷を決定する。
【0007】
それにもかかわらず、これらの方法は、起こり得る潜在的な過負荷を発生するイベントが発生した後のみに効果的であり、この異常な負荷の後に構造の完全性を検査するように、航空機の保守検査を行う必要があることを単に知らせるにすぎない。
【0008】
異なるパラメーターに配慮し、且つ過負荷による警告を制限するための1つの解決方法は、例えば例外的な回転速度によって発生された曲げモーメントを考慮して、翼を割り増し設計することである。しかしながら、この解決方法の直接的な結果は翼上の過負荷であり、それ故に、航空機の重量を増加させ、航空機の性能を低減させる。
【特許文献1】仏国特許第2864032号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、航空機の操作状態の関数としての航空機の翼の設計に存在している問題を克服することを目的とする。
【0010】
より具体的には、本発明は、引き起こされた回転中の負荷を低減することを意図とし、それ故に、横方向の回転運動に配慮して、翼の割り増し設計(overdesign)を避けることを意図としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
従って、本発明の態様のうちの一つは、制御パラメーター、特に回転速度によって引き起こされる負荷を低減するようなプロセスに関する。第1に、パラメーターは閾値と比較され、その閾値は、例えば、許容可能な最大負荷又は許容可能な制御された最大回転速度を発生している命令の比率、例えば70%に等しくなる場合がある。パラメーターが閾値よりも小さい場合、適用された制御命令はこのパラメーターに対応し、このパラメーターは閾値に一致することができる、又は、このパラメーターは運動の開始時点で要求された反応性に依存してローパスフィルターによってフィルター処理されることができる。パラメーターが閾値を超えるとすぐに、差はローパスフィルターによってフィルター処理され、閾値に対応する制御命令に加えられる。従って、制御は減衰され、許容可能な最大負荷を超える過負荷を予想する。好ましくは、制御命令が閾値以下でフィルター処理しているパラメーターによって決定される場合、このフィルター処理が差のために使用されたフィルターの時定数より低い時定数で行われる。
【0012】
他の態様によれば、本発明はそのようなプロセスのために適合された装置に関する。装置は、制御パラメーターを決定する手段を備える。有利には、それらの手段は、スポイラー又は航空機の補助翼のような1つ又は複数の操縦面に対して、例えば航空機の操縦桿のような装置からの回転命令などの制御命令を適用するための制御システムに関連される。装置もまた、決定されたパラメーターと閾値との間の差を計算する手段を使用する。装置には、この差が正である場合にこの差をフィルター処理するための第1のローパスフィルターが設けられ、装置には、残留の閾値又は上述された差が負である場合に制御パラメーターをフィルター処理するための第2のローパスフィルターが設けられる。装置は適用されるべき制御命令を決定する手段を備え、その制御命令は前の値の和に対応する。
【0013】
本発明の特性及び利点は、いずれの場合にも限定的であることなく、図解の目的のために提供されている、添付された図面を参照して、以下の説明を読んだ後により理解される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明は、電気的な飛行制御のシステムを有する任意の航空機に適用可能であり、特に航空機における回転を制御するように使用される装置と回転操縦面との間で機能的な関連を有する任意の航空機に適用可能である。通常、及び好ましくは、回転制御装置は航空機用操縦桿であり、操縦面は翼上に配置された補助翼及び/又はエアブレーキを備えており、この補助翼及び/又はエアブレーキはこの回転発生作用(roll generation function)のために《スポイラー》と称される。
【0015】
翼上の最大負荷ピークが回転運動中の特定の瞬間で発生するということ、すなわち、パイロットによって操縦桿を介して与えられた制御に対する航空機の応答が最大限の制御の所定の割合に近似的に等しくなる場合に、最大付加ピークは、構造が設計された最大負荷ピークを発生する制御に対応することが理解される。戦闘機にとって、この最大負荷ピークは、最大限適用される回転速度制御の70%と100%との間で発生し得る。
【0016】
回転制御に対する航空機の応答がわかれば、よって、過負荷を予想し、翼に適用された負荷が、翼が設計された最大負荷に等しくなる瞬間又は設計された負荷が超える僅かに前に、伝達された制御に対する動作をとることが可能になる。確かに、この動作は航空機の性能を僅かに低下させるが、翼上の負荷が許容可能な最大負荷よりも小さい又は許容可能な最大負荷に等しくなるように制限し、構造及び必要なメンテナンス作業に対する内部損害を避ける。
【0017】
従って、図1及び図2に図示されるように、航空機の回転制御装置によって適用される回転制御Xは、飛行制御システムに結合された装置によって測定される。この測定は、連続的に又は定期的な間隔、例えば10msと50msとの間でなされる。
【0018】
さらに、最大回転制御(図2上の限界Xmax)は、航空機の仕様における性能の拘束(performance constraints)によって常に固定される。しかしながら、翼上に適用された負荷Cは、その最大値に到達し、又は最大負荷Cmaxを超え、最大負荷Cmaxがこの値Xmaxの付近で、損害のリスクなしに航空機に適用され得る。
【0019】
回転制御は、連続して、又は好ましくは10msから50msの程度の頻度で閾値Xと比較される。この閾値は、航空機及び計画された使用方法(特に民間用又は軍事用)等の関数として事前設定され、適用された負荷が低減されることを勧告されるとすぐに、負荷低減方法を活動状態にさせる。通常、これは、戦闘機上で限界Xmaxの割合、例えば70%に制限された割合とされる。
【0020】
回転制御Xが閾値Xより小さい又は閾値Xに等しい限り、過負荷が翼上で予想されないので、回転制御Xを適用されることができる。
【0021】
回転制御Xが本発明による閾値Xより大きくなる場合、制御は減衰される。具体的には、制御Xと閾値Xとの間の差が計算され、その結果は、定数τを有する第1のローパスフィルターによってフィルター処理される。その結果、回転操縦面に適用された制御命令Oは、フィルター処理された差と閾値Xに対応する制御との和に等しい。従って、図2における曲線(1)上に図示された、従来のフィルター処理されていない制御Xからの差は、構造に実際に適用された命令の減衰が存在することであり、最大過負荷Cmaxは、翼に適用された負荷Cが最大負荷Cmaxを超えるときに、又はそれより僅かに早いときに送られた制御Xに対する動作によって予想される。曲線(2)参照のこと。
【0022】
さらに、曲線(3)上に図示されるように、過負荷もまた予想することができ、回転制御Xはいつでもフィルター処理することができる。従って、パラメーターが閾値Xに到達しない場合でさえ、回転制御は第2の時定数τを有するローパスフィルターによってフィルター処理されたパラメーターXに対応し、従って、航空機の応答が予想され、且つ翼上の負荷が遅らせられる。性能要求にとって、この場合、第2の時定数が第1の定数より小さいと、すなわちτ≧τであると、有利である。
【0023】
制御変数の選択は、言い換えればX、τ、τの選択は、航空機の性能仕様に対して最適化される。例えば、(例えば、図2における曲線(3)で図示される)民間用の輸送機の場合、パイロットによって与えられた回転制御に対する航空機の応答が正確に制御を追従する必要は無く、ローパスフィルターは非ゼロ時定数(non-zero time constant)τを有することができる。例えば、性能が制御の開始時点での操縦面による命令の取得における遅れを超える短い遅れを許容することができる航空機にとって、閾値Xは、τ=1.2s及びτ=0.1sである場合、70%の程度とすることができる。
【0024】
他方では、(例えば、曲線(2)で図示されるように、)制御後非常に短時間での応答を要求している軍事用の輸送機では、τ2をゼロに等しくなるように選択することが好ましく、これは対応するローパスフィルターを除去することに相当し、その結果、航空機はパイロットの回転制御にすぐに応答し、運動の開始時点での操縦法に加えての遅れがない。制限は、回転制御Xが閾値Xを超える場合にのみ発生する。従って、航空機の性能が制御の開始時点で最適である航空機にとって、値はX=0.7・Xmax、τ=0、τ=0.6sになり、これらの値は、無視できないマスゲイン(mass gain)に対応して、17%程度だけ翼上に適用された曲げモーメントを低減することができる。例えば、これらの値(X=70%、τ=0、τ=0.6s)を有する本発明による方法の結果は、Xmaxでの回転制御中における軍用機に対して、図3における曲線(2)で示されており、同一の方法に対する通常の負荷を図示している曲線(1)を参照として使用している。
【0025】
時定数τに依存する運動の開始時点での性能と同じように、τは、負荷低減の割合を改善するように航空機の運動性の損失に対して変化させることができる。実際には、異なるパラメーターは、電気的な飛行制御及び計画された使用基準を有する航空機のコンピュータ内で定義された操作法の設定に密接に関連づけられ、負荷低減と運動性との間での許容可能な妥協案を得ることができる。
【0026】
従って、本発明は、回転制御装置と横方向の操作関係におけるサーボ制御との間の特定の負荷低減関係を統合することによる、操縦桿に適用された命令に対する制御法を導入することによって回転運動中における横方向の負荷を低減することを提案し、よって構造的質量の節約が発生された負荷を低減することによって達成されることができる。
【0027】
航空機用の制御装置に適用された回転運動中における翼の付け根に適用された曲げモーメントの低減について本明細書内に記載されているが、航空機の構成部材に適用された負荷を低減することができる場合にこの方法が任意の他の操縦装置に適用可能であることは明白である。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明による方法の機能図である。
【図2】通常の場合(1)及び本発明の2つの実施形態(2,3)による、時間に応じて回転制御によって適用された付加を図式的に示す図である。
【図3】通常の場合(1)における、及び本発明(2)によるフィルター処理を有する場合における、航空機の従来の横方向の運動中に、時間と共に翼上に適用された曲げモーメントの変化を示す。
【符号の説明】
【0029】
C 負荷
max 最大負荷
I インプット
O 制御命令
t 時間
X 回転制御
閾値
max 限界値
τ 時定数
τ 時定数

【特許請求の範囲】
【請求項1】
制御パラメーター(X)によって航空機の構造要素上の負荷を低減するための方法であって、
‐前記パラメーター(X)をこのパラメーターの閾値(X)と比較するステップと、
‐前記パラメーターが前記閾値より小さい又は前記閾値と等しい場合(X≦X)、前記制御パラメーター(X)に対応する制御値を前記装置に適用するステップと、
‐前記パラメーターが閾値を超えた場合(X>X)、
・第1の時定数(τ)を有するローパスフィルターを使用して、パラメーターと閾値との間の差(X−X)をフィルター処理するステップと、
・フィルター処理された差と前記閾値(X)に対応する前記制御値との和に対応する制御命令を前記装置に適用するステップと、
を備えていることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記制御命令が、第2の時定数(τ)を有するローパスフィルターによってフィルター処理された前記パラメーター又は前記閾値に対応することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第2の時定数が前記第1の時定数より小さくなる(τ≦τ)ことを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記制御パラメーター(X)が回転速度とされることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記閾値(X)が許容可能な最大負荷(Cmax)に対応する前記制御の100%より小さくなることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
制御による航空機の構造要素上の負荷を低減するための装置であって、
‐制御パラメーター(X)を決定するための手段と、
‐前記制御パラメーターと前記制御パラメーターの閾値との間の差(X−X)を計算する手段と、
‐前記計算された差が正である場合に前記計算された差をフィルター処理するための第1のローパスフィルター(τ)と、
‐前記計算された差が負である場合に前記制御パラメーター(X)に対応し、前記フィルター処理された差と前記差が正である場合に前記閾値に対応する前記命令との和に等しい、制御命令を決定する手段と、
を備えている
ことを特徴とする装置。
【請求項7】
フィルター処理することによって値(X,X)に対応する前記制御命令を決定する第2のローパスフィルター(τ)を備えていることを特徴とする請求項6に記載の装置。
【請求項8】
操縦面に前記制御命令を適用するように制御システムを備えていることを特徴とする請求項6又は請求項7に記載の装置。
【請求項9】
前記制御システムは電気的システムであり、前記制御パラメーターを決定する前記手段が前記制御システムに関連していることを特徴とする請求項8に記載の装置。
【請求項10】
前記制御システムは、航空機の操縦桿のような制御装置、及び航空機の補助翼のような操縦面に、接続されることを特徴とする請求項8又は請求項9に記載の装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2009−500227(P2009−500227A)
【公表日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−519940(P2008−519940)
【出願日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際出願番号】PCT/EP2006/063974
【国際公開番号】WO2007/006725
【国際公開日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【出願人】(501446228)エアバス・フランス (93)