説明

回転体と固定体との間の電気的接続装置

【課題】 FFCに加わるストレスを軽減し、FFCの耐久性の向上を図ること。
【解決手段】 キャリア8の任意の箇所に、キャリア8に加わる応力を、この応力に応じて変形して吸収する応力吸収部8aを設けて構成した。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、固定体側と、この固定体内に設けられる回転体とを、この両者間の環状空間に設けられるフレキシブル・フラット・ケーブル(以下、FFCと略称)により接続する回転体と固定体との間の電気的接続装置に関し、詳しくは、FFCの巻き方向反転部が通過するキャリア構造の改良に関するものである。
【0002】
【従来の技術】近年、自動車の電子制御化が進むにつれ、自動車の操舵装置におけるハンドル(ステアリングホイール)にも、電子制御のための各種スイッチが設けられるようになっており、このスイッチを電気配線によってステアリングコラム側に接続する必要がある。自動車のハンドルは、複数回左右に回転可能なように設定されているため、ハンドルの回転軸とステアリングコラムとを電気的に接続するためには、一般に複数の導線を備えたFFCが、ハンドル軸に固定された回転体とステアリングコラム側に固定された固定体であるハウジングとの間に渦巻き状態で設けられた構成の、回転体と固定体との間の電気的接続装置が用いられる。
【0003】上述のような回転体と固定体との間の電気的接続装置として、特開平4−328071号公報、あるいは特開平4−333473号公報に開示されているように、ガイドリングあるいは移動体と称される平面C字状のキャリアを用いたものが知られている。
【0004】すなわち、特開平4−328071号公報のものは、図5および図6に示すように互いに相対的に回転する回転体1と固定体2との間の環状空間10に開口部9を有する平面C字状のキャリア8を配置し、この開口部9にFFC11の反転部11aを通過させるようにしたものである。
【0005】キャリア8の内外周にローラ16(図5)やばね部材17(図6)を取り付けて、FFC11を回転体1の外周に押しつけてFFC11のたるみを防止するようにしている。
【0006】また、特開平4−333473号公報には、図7および図8に示すように、キャリア8の上下面に滑性シート18(図7)を、またはキャリア8の内外周に滑性部材19(図8)を設けてFFC11との摩擦抵抗を低減する手段が開示されている。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】上記した各従来技術では、FFC11の反転部11aがキャリア8を押した際、キャリア8とハウジング2との摺動摩擦抵抗によりFFC11に応力が加わり、FFC11のストレスが大きくなるため、FFCの損傷を早める結果となる。
【0008】また、図5および図6のものは、ローラ16やばね部材17でFFC11を回転体1の外周に押しつけているため、FFC11が回転体1に巻かれて厚みが増すと、押しつけ力が強くなりすぎ、キャリア8にブレーキかかった状態となってFFC11にかかる応力はさらに大きくなる。図7および図8のものは、キャリア8の内周と回転体1の外周との間に多少の余裕があるが、FFCの巻き量が多くなると同様の現象が起こる。
【0009】キャリア8にブレーキがかかった状態で回転体1を無理に回転させると、反転部11aから回転体1に巻かれていくFFC11が止まった状態となるため、反転部11aが開口部9から逃げようとし、FFC11は反転部11aの周辺で座屈を起こす。
【0010】上述のように、従来の回転体と固定体との間の電気的接続装置においては、FFCに加わるストレスが大きいため、FFCの耐久性が短くなるという問題がある。
【0011】本発明は上述の点に着目してなされたもので、FFCに加わるストレスを軽減し、FFCの耐久性の向上を図った回転体と固定体との間の電気的接続装置を提供することを目的とする。
【0012】
【課題を解決するための手段】前記した目的を達成するため請求項1記載の発明は、固定体内に回転体が回転可能に設けられ、この固定体と回転体との間の環状空間に、一端が前記固定体に固定され他端が前記回転体に固定されたFFCが収容され、このFFCは途中の反転部が前記環状空間に配置されたキャリアの開口部を通過するように構成された回転体と固定体との間の電気的接続装置において、前記キャリアの任意の箇所にキャリアに加わる応力を、この応力に応じて変形して吸収する応力吸収部を設けたことを特徴としている。
【0013】このため、請求項1記載の発明では、FFCの反転部がキャリアに当たる際の応力、およびFFCが回転体に巻き込まれてキャリアの内周に接触した際に加わる応力が、この応力に応じて変形する応力吸収部で吸収され、FFCに加わるストレスを軽減できる。
【0014】また、この応力吸収部はキャリアに応力が負荷したときに初めて変形し、常時は弾性機能を奏することがないので、キャリア移動時の摩擦の増加を招くことがなく、キャリアのスムーズな移動を確保することができる。
【0015】請求項2記載の発明は、請求項1記載の回転体と固定体との間の電気的接続装置であって、応力吸収部がキャリアの他の部分より薄肉で構成されていることを特徴としている。
【0016】このため、請求項2記載の発明では、キャリアに加わる応力は薄肉の応力吸収部の変形で吸収できる。
【0017】請求項3記載の発明は、請求項1又は2記載の回転体と固定体との間の電気的接続装置であって、前記応力吸収部が蛇腹形状に構成されていることを特徴としている。
【0018】このため、請求項3記載の発明では、キャリアに加わる応力は蛇腹形状の応力吸収部の変形で吸収できる。
【0019】請求項4記載の発明は、請求項1又は2記載の回転体と固定体との間の電気的接続装置であって、前記応力吸収部5が略S字形状に構成されていることを特徴としている。
【0020】このため、請求項4記載の発明では、キャリアに加わる応力は略S字形状の応力吸収部の変形で吸収できる。
【0021】請求項5記載の発明は、請求項1乃至4のいずれか1項記載の回転体と固定体との間の電気的接続装置であって、応力吸収部がキャリアの複数箇所に形成されていることを特徴としている。
【0022】このため、請求項5記載の発明では、キャリアに加わる応力は複数箇所の応力吸収部の変形で吸収できる。
【0023】
【発明の実施の形態】以下、本発明を図示した実施の形態に基づいて具体的に説明する。
【0024】図1は一実施形態としての回転体と固定体との間の電気的接続装置Aの上部を開放した平面図であり、図2はキャリアの斜視図であり、図3はキャリアの他の実施の形態であり、図4は全体の分解斜視図である。
【0025】図1乃至図4において、自動車のハンドルの軸が挿入固定される回転体1が、図示しないステアリングコラム側に固定される固定体であるハウジング2の中央に配置されている。ハウジング2は、図4に示すように回転体1を回転自在に支持する孔6を備えたアンダーカバー3と、このアンダーカバー3上に装着されたカバー4と、このカバー4上に装着されたアッパーカバー5とよりなる。回転体1は孔6に挿入され、フランジ7でアンダーカバー5の内面に係止されている。
【0026】移動部材であるキャリア8は環状体の一部に開口部9を形成したほぼ平面C字形状のもので、ハウジング2と回転体1との間に形成される環状空間10に、円周方向に回転移動可能に配置してある。キャリア8の略中間部分に、キャリア8の他の部分より肉薄となった応力吸収部8aが形成されている。この応力吸収部8aは、キャリア8に応力が加わったきのみ弾性変形され、常時は変形しない程度の剛性を有している。
【0027】FFC11は図1および図4に示すように、内周側の一端がその先端に取り付けられたモールド12を介して回転体1の固定部13に固定されている。このモールド12から引き出されたFFC11は、回転体1の外周に沿って巻かれ、キャリア8の開口部9を通過する反転部11aを形成し、ハウジング2の内周面に沿って前記とは逆方向に巻かれ、その先端に取り付けられたコネクタ14がハウジング2に固定される。
【0028】FFC11は、回転体1の図1での左回りに伴って回転体1の外周に巻かれた部位がほぐれつつ、ハウジング2の内周に巻かれる。このとき、FFC11の反転部11aは回転体1に対して相対回転しつつ回転体1と同方向に減速された状態で環状空間10内を移動し、この移動に伴いキャリア8が反転部11aの外周面に押されて回転体1と同方向に回転移動する。
【0029】またFFC11は、逆に回転体1の図1での右回りに伴って、ハウジング2の内周に巻かれた部位がほぐされつつ、そのほぐされた部位が回転体1の外周に巻かれていく。このときキャリア8は反転部11aの内周面に押されて回転体1と同方向に回転移動する。
【0030】上述の動作において、キャリア8が反転部11aに押された際、キャリア8の摺動摩擦抵抗によりキャリア8に応力が加わり、その反動でFFC11に応力がかかる。ところが、キャリア8に加わった応力は、この応力に応じて変形する応力吸収部8aで吸収され、キャリア8が内周または外周方向に拡縮し、FFC11にかかる応力を軽減できる。このとき応力吸収部8aはキャリア8に応力が負荷したときに初めて変形し、常時は弾性機能を奏することがないので、キャリア8の前記した摺動摩擦抵抗も小さく、キャリア8のスムーズな移動を確保することができ、これにより反動でFFC11にかかる応力も小さく、FFC11の応力による損傷を一層確実に回避することができる。
【0031】また、FFC11が回転体1の外周またはハウジング2の内周に巻かれていき、厚みの増大によりキャリア8に接触するようになっても、キャリア8が外周方向に拡大されるかまたは内周方向に縮小され、巻かれたFFC11との摩擦力は軽減できる。
【0032】図3は、本発明の他の実施の形態を示すもので、(a)は、キャリア8の2箇所に応力吸収部8aを形成したもの、(b)は応力吸収部8aを蛇腹形状にしたもの、(c)は応力吸収部8aを略S字状に形成したものを各々示している。応力吸収部8aの構成はこれらの実施の形態に限定するものではなく、応力により変形する構成であれば形状、個数は自由である。
【0033】
【発明の効果】以上、詳述したように請求項1記載の発明によれば、FFCの反転部がキャリアに当たる際の応力、およびFFCが回転体またはハウジングに巻き込まれてキャリアの内外周に接触した際に加わる応力が応力吸収部で吸収され、FFCに加わるストレスを軽減でき、したがってFFCの耐久性を向上させることができる。
【0034】また、請求項2記載の発明によれば、応力吸収部がキャリアの他の部分より薄肉で構成されているので、請求項1記載の発明の効果に加えて、キャリアに加わる応力は薄肉の応力吸収部の変形で容易に吸収できる。
【0035】また、請求項3記載の発明によれば、応力吸収部が蛇腹形状に構成されているので、請求項1又は2記載の発明の効果に加えて、キャリアに加わる応力は蛇腹形状の応力吸収部の変形で一層容易に吸収できる。
【0036】請求項4記載の発明は、応力吸収部が略S字形状に構成されているので、請求項1又は2記載の発明の効果に加えて、キャリアに加わる応力は略S字形状の応力吸収部の変形で一層容易に吸収できる。
【0037】請求項5記載の発明は、応力吸収部が複数箇所に形成されているので、請求項1乃至4記載の発明の効果に加えて、キャリアに加わる応力は複数箇所の応力吸収部の変形で容易に吸収できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の回転体と固定体との間の電気的接続装置の一実施の形態を示す上部開放状態の平面図である。
【図2】図1の回転体と固定体との間の電気的接続装置に用いられるキャリアの斜視図である。
【図3】(a)(b)(c)は各々キャリアの他の実施の形態を示す平面図である。
【図4】図1の回転体と固定体との間の電気的接続装置の分解斜視図である。
【図5】従来の回転体と固定体との間の電気的接続装置の上部開放状態の平面図である。
【図6】図5の回転体と固定体との間の電気的接続装置のキャリアの斜視図である。
【図7】他の従来の回転体と固定体との間の電気的接続装置の上部開放状態の平面図である。
【図8】図7の回転体と固定体との間の電気的接続装置のキャリアの斜視図である。
【符号の説明】
1 回転体
2 ハウジング(固定体)
8 キャリア
8a 応力吸収部
10 環状空間
11 FFC(フレキシブル・フラット・ケーブル)
11a 反転部

【特許請求の範囲】
【請求項1】 ハウジング内に回転体が回転可能に設けられ、このハウジングと回転体との間の環状空間に、一端が前記ハウジングに固定され他端が前記回転体に固定されたフレキシブル・フラット・ケーブルが収容され、このフレキシブル・フラット・ケーブルは途中の反転部が前記環状空間に配置されたキャリアの開口部を通過するように構成された回転体と固定体との間の電気的接続装置において、前記キャリアの任意の箇所にキャリアに加わる応力を、この応力に応じて変形して吸収する応力吸収部を設けたことを特徴とする回転体と固定体との間の電気的接続装置。
【請求項2】 前記応力吸収部がキャリアの他の部分より薄肉で構成されていることを特徴とする請求項1記載の回転体と固定体との間の電気的接続装置。
【請求項3】 前記応力吸収部が蛇腹形状に構成されていることを特徴とする請求項1又は2記載の回転体と固定体との間の電気的接続装置。
【請求項4】 前記応力吸収部が略S字形状に構成されていることを特徴とする請求項1又は2記載の回転体と固定体との間の電気的接続装置。
【請求項5】 前記応力吸収部がキャリアの複数箇所に形成されていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項記載の回転体と固定体との間の電気的接続装置。

【図3】
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【図5】
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【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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