説明

回転感覚呈示装置

【課題】 回転方向の可動範囲が限定された簡略な装置を用いて充分な回転感覚を呈示することができる回転感覚呈示装置を提供する。
【解決手段】 制御装置9は、ヘッドマウントディスプレイ1により表示される画像の回転状態とユーザ用回転台2の回転状態とが異なるように、画像記憶装置6又は撮像カメラ7から出力される画像をヘッドマウントディスプレイ1へ出力し、その画像の回転状態を制御するとともに、ユーザ用駆動装置3の回転状態を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ユーザに擬似的な回転感覚を呈示する回転感覚呈示装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ユーザが擬似的な回転感覚等を体験する回転感覚呈示装置としては、例えば、操作訓練のための乗物シミュレータや遊園地に設置される擬似体験型の乗物娯楽装置がある。これらの装置は、移動する物体から観測される映像を表示するスクリーンと、ユーザが搭乗する擬似的な乗物であるシミュレータとを備え、シミュレータは、ヨウ方向、ピッチ方向及びロー方向のX軸、Y軸及びZ軸についての回転機構と、前後及び上下の並進機構とを備える。シミュレータの搭乗者は、表示される映像に合わせたシミュレータの回転運動及び前進又は後退運動により、例えば、シミュレータが実際に道路上を移動しているかのように錯覚する。
【0003】
また、他の回転感覚呈示装置として、ユーザが配置される座席と、互いに一致しない複数の軸を中心に座席をそれぞれ回転させる複数の回転装置とから構成されるシミュレータを備え、仮想の乗物の操縦席から見える映像をユーザに呈示する加速度シミュレータ装置がある(例えば、特許文献1参照)。この加速度シミュレータ装置では、より現実的な加速度をユーザに感覚させることができる。
【特許文献1】特開2004−163796号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記のシミュレータを映像に合わせて回転させることにより、ユーザに回転感覚を提示したのでは、回転方向の可動範囲を広く取る必要があるため、シミュレータの可動部と固定部との接続方法や信号の伝達方法が複雑となる。また、急激に変化する回転感覚をユーザに提示する場合、シミュレータの駆動装置の出力を大きくして高い回転加速度を得る必要があるため、装置の機械的な構成が複雑になり、コストも高くなる。
【0005】
本発明の目的は、回転方向の可動範囲が限定された簡略な装置を用いて充分な回転感覚を呈示することができる回転感覚呈示装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る回転感覚呈示装置は、ユーザに対して回転する画像を表示する表示手段と、ユーザを回転させる回転手段と、表示手段により表示される画像の回転状態と回転手段の回転状態とが異なるように表示手段により表示される画像の回転状態と回転手段の回転状態とを制御する制御手段とを備えるものである。
【0007】
本発明に係る回転感覚呈示装置では、ユーザが回転された状態でユーザに対して回転する画像が表示され、表示される画像の回転状態とユーザの回転状態とが異なるように表示手段により表示される画像の回転状態と回転手段の回転状態とが制御されるので、ユーザの実際の回転状態と異なる回転感覚をユーザに与えることができ、可動範囲が限定された簡略な装置を用いて充分な回転感覚を呈示することができる。
【0008】
制御手段は、表示手段により表示される回転画像を視認するユーザが回転手段により回転していることを知覚できるが、その回転方向を知覚できない第1の回転加速度範囲において、表示手段により表示される画像の回転方向と同一方向に回転手段を回転させることが好ましい。
【0009】
この場合、回転する画像を視認するユーザが回転していることを知覚できるが、回転手段の回転方向を知覚できない第1の回転加速度範囲において、画像の回転方向と同一方向に回転手段が回転されるので、回転する画像によりユーザに一定方向に回転している感覚を与えながら、回転手段を逆方向に回転させて回転位置を戻すことができ、可動範囲が限定された簡略な装置を用いて、一定方向に連続して回転している感覚を呈示することができる。
【0010】
制御手段は、表示手段により表示される回転画像を視認するユーザが回転手段により回転していること及びその回転方向を知覚できる第2の回転加速度範囲のうち第1の回転加速度範囲側の第3の回転加速度範囲において回転手段を回転させるとともに、回転手段の回転加速度と異なる回転加速度で表示手段により表示される画像を回転させることが好ましい。
【0011】
この場合、回転する画像を視認するユーザが回転していること及びその回転方向を知覚できる第2の回転加速度範囲のうち第1の回転加速度範囲側の第3の回転加速度範囲において回転手段が回転され、その回転加速度と異なる回転加速度で画像を回転させているので、ユーザに実際の回転加速度による回転感覚と異なる回転感覚を与えることができ、可動範囲が限定された簡略な装置を用いて、実際の回転感覚と異なる種々の回転感覚を与えることができる。
【0012】
制御手段は、第3の回転加速度範囲において回転手段を回転させるとともに、回転手段の回転加速度より高い回転加速度で表示手段により表示される画像を回転させることが好ましい。
【0013】
この場合、第3の回転加速度範囲において回転手段が回転され、その回転加速度より高い回転加速度で画像を回転させているので、可動範囲が限定された簡略な装置を用いて、ユーザに実際の回転加速度による回転感覚より大きい回転感覚を与えることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ユーザが回転された状態でユーザに対して回転する画像が表示され、表示される画像の回転状態とユーザの回転状態とが異なるように表示手段により表示される画像の回転状態と回転手段の回転状態とが制御されるので、ユーザの実際の回転状態と異なる回転感覚をユーザに与えることができ、可動範囲が限定された簡略な装置を用いて充分な回転感覚を呈示することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の一実施の形態による回転感覚呈示装置について図面を参照しながら説明する。図1は、本発明の一実施の形態による回転感覚呈示装置の構成を示すブロック図であり、図2は、図1に示す回転感覚呈示装置の外観を示す斜視図である。
【0016】
図1に示す回転感覚呈示装置は、ヘッドマウントディスプレイ1、ユーザ用回転台2、ユーザ用駆動装置3、回転枠4、回転枠用駆動装置5、画像記録装置6、撮像カメラ7、カメラ用駆動装置8及び制御装置9を備える。
【0017】
ヘッドマウントディスプレイ1は、図2に示すように、ユーザの頭部に装着され、制御装置9から出力される画像をユーザに表示する。したがって、ユーザは、現実の世界すなわちユーザが実際に回転しているときの状況を見るのではなく、ヘッドマウントディスプレイ1により提示される仮想映像のみを視認する。なお、ユーザに画像を提示する装置は、この例に特に限定されず、ユーザの周りをスクリーンで360度覆い、このスクリーンに仮想映像を投影する投影器等を用いてもよい。
【0018】
ユーザ用回転台2は、図2に示す椅子2a及びユーザ用回転板2b等から構成され、ユーザ用回転板2bは本体部10に回転可能に支持され、椅子2aはユーザ用回転板2bに固定されている。ユーザ用駆動装置3は、モータ等から構成され、ギア又は駆動ベルト等を用いてユーザ用回転板2bを回転させ、椅子2aに着座しているユーザを回転させる。ユーザ用回転台2の回転範囲は約200度であり、可動範囲が狭いため、その機械的構成が簡略となるとともに、簡略な回転制御方法を用いることができる。
【0019】
回転枠4は、図2に示す円形状の手摺部4a及び回転枠用回転板4b等から構成され、回転枠用回転板4bは本体部10に回転可能に支持され、手摺部4aは支柱を介して回転枠用回転板4bに固定されている。回転枠用駆動装置5は、モータ等から構成され、ギア又は駆動ベルト等を用いて回転枠用回転板4bを回転させ、手摺部4aを回転させる。回転枠4の回転範囲は約200度であり、可動範囲が狭いため、その機械的構成が簡略となるとともに、簡略な回転制御方法を用いることができる。
【0020】
図2に示すようにユーザが手摺部4aを把持している場合、回転枠4をユーザ用回転台2に異なる回転状態で回転させることにより、視覚的な回転感覚だけでなく、手の感触を通じた回転感覚をユーザに与えることができ、多様な回転感覚を与えることができる。なお、ユーザのみを回転させる場合は、回転枠4及び回転枠用駆動装置5を省略してもよい。
【0021】
画像記憶装置6は、ハードディスクドライブ等の記憶装置から構成され、予め記憶している画像を制御装置9へ出力する。なお、後述する撮像カメラ7により撮影された画像をユーザに提示する場合は、画像記憶装置6を省略してもよい。
【0022】
撮像カメラ7は、ユーザの両眼に対応する2台のカメラから構成され、回転可能な状態でカメラ用駆動装置8に固定される。撮像カメラ7及びカメラ用駆動装置8は、図2に示すように、ユーザの頭部の上方に配置され、カメラ用駆動装置8は、撮像カメラ7を回転させ、撮像カメラ7は、回転しながら外界を撮影し、撮影した回転画像を制御装置9へ出力する。なお、画像記憶装置6に記憶されている画像をユーザに提示する場合は、撮像カメラ7及びカメラ用駆動装置8を省略してもよい。
【0023】
制御装置9は、コンピュータ等から構成され、ヘッドマウントディスプレイ1、ユーザ用駆動装置3、回転枠用駆動装置5、画像記録装置6、撮像カメラ7及びカメラ用駆動装置8を制御する。例えば、制御装置9は、ヘッドマウントディスプレイ1により表示される画像の回転状態とユーザ用回転台2の回転状態とが異なるように、画像記憶装置6又は撮像カメラ7から出力される画像をヘッドマウントディスプレイ1へ出力し、その画像の回転状態を制御するとともに、ユーザ用駆動装置3の回転状態を制御する。
【0024】
また、制御装置9は、表示される回転画像を視認するユーザが回転していることを知覚できるが、ユーザ用回転台2の回転方向を知覚できない第1の回転加速度範囲になるようにユーザ用駆動装置3を制御し、ヘッドマウントディスプレイ1により表示される画像の回転方向と同一方向にユーザ用回転台2を回転させる。
【0025】
さらに、制御装置9は、回転する画像を視認するユーザが回転していること及びその回転方向を知覚できる第2の回転加速度範囲のうち第1の回転加速度範囲側の第3の回転加速度範囲になるようにユーザ用駆動装置3を制御し、ユーザ用回転台2の回転加速度と異なる回転加速度、例えば、ユーザ用回転台2の回転加速度より高い回転加速度でヘッドマウントディスプレイ1により表示される画像を回転させる。
【0026】
本実施の形態では、ヘッドマウントディスプレイ1が表示手段の一例に相当し、ユーザ用回転台2及びユーザ用駆動装置3が回転手段の一例に相当し、制御装置9が制御手段の一例に相当する。
【0027】
次に、上記のように構成された回転感覚呈示装置を用いてヘッドマウントディスプレイ1により表示される画像の角加速度とユーザ用回転台2の角加速度とを変化させてユーザに回転感覚を提示した場合にユーザが感じた回転感覚の測定結果を説明する。
【0028】
図3は、ヘッドマウントディスプレイ1により表示される画像の角加速度とユーザ用回転台2の角加速度とを変化させたときにユーザがユーザ用回転台2の回転状態をどの程度知覚できるかを測定した測定結果を示す図である。図3の縦軸はユーザの正答率を示し、横軸はユーザ用回転台2の角加速度(deg/s)を示している。
【0029】
本測定は、前庭迷路系への情報として、ユーザを乗せたユーザ用回転台2を等加速度で回転させ、ユーザ用回転台2の角加速度として、0.02、0.05、0.1、0.5、1、2(deg/s)の6種類を用いた。また、視覚系への情報として、ヘッドマウントディスプレイ1により水平方向に等加速度運動する白黒の縦縞画像をユーザから約2m先の位置に擬似的に表示し、この画像の角加速度として、ユーザ用回転台2の回転方向と同一方向に0.02、0.05、0.1、0.5、1、2(deg/s)の6種類を、ユーザ用回転台2の回転方向と逆方向に0.02、0.05、0.1、0.5、1、2(deg/s)の6種類を用いた。また、ヘッドマウントディスプレイ1により表示される白黒の縦縞画像としては、縦方向の長さがユーザの垂直方向視角で18度、横方向の長さがユーザの水平方向視角で24度の長方形の枠外を黒色で表示し、長方形枠内に縦縞模様(ユーザの水平方向視角で5度の白縞及び5度の黒縞を繰り返した模様)を表示した画像を用い、この縞模様を回転表示した。
【0030】
上記の各角加速度でユーザ用回転台2を回転させながら、ヘッドマウントディスプレイ1により表示される画像を上記の各角加速度で同一方向及び逆方向に回転させたときの正答率を測定した。正答率は、回答が正しいとき(ユーザがユーザ用回転台2の回転方向を回答したとき)は1、間違っているとき(ユーザがユーザ用回転台2の回転方向と逆の回転方向を回答したとき)は0としたときの各角加速度での平均値を用いており、図3では、ユーザ用回転台2の各角加速度における同一方向及び逆方向の正答率を棒グラフで示すとともに、角加速度における同一方向の正答率と逆方向の正答率との平均値を折れ線グラフで示している。
【0031】
図3に示すように、ユーザ用回転台2の角加速度が0.02、0.05(deg/s)の場合、ヘッドマウントディスプレイ1により表示される画像が逆方向に回転されたとき、ユーザはユーザ用回転台2の回転方向をほぼ知覚することができるが、ヘッドマウントディスプレイ1により表示される画像が同一方向に回転されたとき、ユーザはユーザ用回転台2の回転方向と逆方向に回転していると誤って知覚し、ユーザ用回転台2の回転方向を知覚することができなかった。したがって、これらの角加速度では、ユーザは、ユーザ用回転台2すなわちユーザ自身の実際の回転方向ではなく、画像の回転により知覚される回転方向に自身が回転していると錯覚していることがわかる。
【0032】
ユーザ用回転台2の角加速度が0.1、0.5(deg/s)の場合、ヘッドマウントディスプレイ1により表示される画像が逆方向に回転されたとき、ユーザはユーザ用回転台2の回転方向に回転していることをほぼ知覚することができるが、ヘッドマウントディスプレイ1により表示される画像が同一方向に回転されたとき、ユーザはユーザ用回転台2の回転方向をあまり正確に知覚することはできなかった。したがって、これらの角加速度では、ユーザは、ユーザ用回転台2によりユーザ自身が回転していることを知覚できるが、画像がユーザ用回転台2の回転方向と同一方向に回転している場合、ユーザ用回転台2の回転方向までは知覚できないことがわかる。
【0033】
ユーザ用回転台2の角加速度が1、2(deg/s)の場合、ヘッドマウントディスプレイ1により表示される画像が逆方向に回転されたとき、ユーザはユーザ用回転台2の回転方向に回転していることを正確に知覚することができるとともに、ヘッドマウントディスプレイ1により表示される画像が同一方向に回転されたときでも、ユーザはユーザ用回転台2の回転方向をほぼ知覚することができた。したがって、これらの角加速度では、ユーザは、ユーザ用回転台2によりユーザ自身が回転していること及びその回転方向を知覚できることがわかる。
【0034】
上記の測定結果から、正答率が0.5以上0.75以下の範囲を、回転する画像を視認するユーザがユーザ用回転台2により回転していることを知覚できるが、その回転方向までは知覚できない第1の回転加速度範囲とすると、ユーザ用回転台2の角加速度範囲は、0.08(deg/s)以上0.6(deg/s)以下の範囲となり、0.1(deg/s)以上0.5(deg/s)以下の範囲であることがより好ましい。また、正答率が0.75を超え1以下の範囲を、回転する画像を視認するユーザがユーザ用回転台2により回転していること及びその回転方向を知覚できる第2の回転加速度範囲とすると、ユーザ用回転台2の角加速度範囲は、0.6(deg/s)を超え2(deg/s)以下の範囲となる。
【0035】
ここで、本回転感覚呈示装置では、ユーザ用回転台2の可動範囲が限られているため、ユーザを一定方向に連続して回転させることができない。このため、ユーザに一定方向に連続して回転している感覚を与えるためには、ユーザを可動範囲内で一方向に回転させた後に、逆方向に回転させて回転位置を元の位置に戻し、さらに一方向に回転させる動作を繰り返さなければならない。したがって、制御装置9は、ヘッドマウントディスプレイ1により表示される画像を一定方向に回転させながら、ユーザ用回転台2を可動範囲内で画像の回転方向と逆方向へ回転させた後に、上記の第1の回転加速度範囲内で画像の回転方向と同一方向に回転させて回転位置を元の位置に戻し、さらに画像の回転方向と逆方向へ回転させる動作を繰り返させる。
【0036】
この場合、回転する画像を視認するユーザがユーザ用回転台2により回転していることを知覚できるが、ユーザ用回転台2の回転方向を知覚できない第1の回転加速度範囲において、画像の回転方向と同一方向にユーザ用回転台2が回転されるので、ユーザに一定方向に回転している感覚を与えながら、ユーザ用回転台2を逆の方向に回転させて回転位置を戻すことができ、可動範囲が限定された簡略な装置を用いて、一定方向に連続して回転している感覚をユーザに与えることができる。
【0037】
図4は、ヘッドマウントディスプレイ1により表示される画像の角加速度とユーザ用回転台2の角加速度とを変化させたときにユーザが感じた回転角を測定した測定結果を示す図である。図4の縦軸はユーザが感じた回転角(deg)を示し、横軸はヘッドマウントディスプレイ1により表示される画像の角加速度を示している。
【0038】
本測定は、ヘッドマウントディスプレイ1により表示される画像の角加速度として、0.1、0.5、1、2(deg/s)の4種類を用い、ユーザ用回転台2の角加速度として、画像の回転方向と逆方向に0.1、0.5、1、2(deg/s)の4種類を用い、画像の回転方向と同一方向に0.5、1、2(deg/s)の3種類を用いた。ヘッドマウントディスプレイ1により表示される画像は、図3の場合と同様である。
【0039】
上記の各角加速度でヘッドマウントディスプレイ1により表示される画像を回転させながら、ユーザ用回転台2を上記の各角加速度で画像の回転方向と逆方向及び同一方向に回転させたときにユーザが感じた回転角を測定した。図4では、ユーザ用回転台2の角加速度ごとにユーザが感じた回転角を折れ線グラフで示している。
【0040】
図4に示すように、ユーザ用回転台2の角加速度が画像の回転方向と逆方向で0.1、0.5、2(deg/s)、同一方向で0.5、1、2(deg/s)の場合、画像の角加速度を変化させても、ユーザ用回転台2の角加速度による回転角を主に感じていることがわかる。
【0041】
一方、ユーザ用回転台2の角加速度が画像の回転方向と逆方向で1(deg/s)の場合、画像の角加速度の変化に応じて、ユーザが感じる回転角が変化していることがわかる。この角加速度は、図3を用いて説明した第2の回転加速度範囲のうち第1の回転加速度範囲側の第3の回転加速度範囲にあり、第3の回転角加速度範囲としては、略1(deg/s)であることが好ましく、表示される画像によっては1(deg/s)以上1.3(deg/s)以下の範囲であることが好ましい。
【0042】
図5は、ユーザ用回転台2の角加速度が画像の回転方向と逆方向で1(deg/s)の場合にヘッドマウントディスプレイ1により表示される画像の角加速度を変化させたときにユーザが感じた回転角を測定した測定結果を示す図である。図5の縦軸はユーザが感じた回転角(deg)を示し、横軸はヘッドマウントディスプレイ1により表示される画像の角加速度(deg/s)を示している。
【0043】
本測定は、ヘッドマウントディスプレイ1により表示される画像の角加速度として、0.035、0.3、1.5(deg/s)の3種類を用い、比較例として画像を表示しない例を用いた。ヘッドマウントディスプレイ1により表示される画像は、図3の場合と同様である。
【0044】
上記の各角加速度でヘッドマウントディスプレイ1により表示される画像を回転させながら、ユーザ用回転台2を画像の回転方向と逆方向に1(deg/s)で回転させたときにユーザが感じた回転角を複数回測定した。図5では、画像を表示しない場合及び各角加速度で画像を表示した場合にユーザが感じた回転角の平均値を棒グラフで示すとともに、その分散を直線で示している。
【0045】
図5に示すように、ユーザが感じた回転角の平均値及び分散から、ユーザ用回転台2の角加速度が画像の回転方向と逆方向で1(deg/s)の場合、画像の角加速度の変化に応じて、ユーザが感じる回転角が変化していることが統計的にも正しいものであることが証明された。また、画像無の比較例及び各角加速度における測定結果が同じ集合に属する確率は、それぞれ5%以下であり、この点からも、上記の結果が正確なものであることが証明された。
【0046】
上記の図4及び図5に示す測定結果を基に、制御装置9は、上記の第3の回転角加速度範囲内の角加速度でユーザ用回転台2を回転させながら、ユーザ用回転台2の回転方向と逆方向にヘッドマウントディスプレイ1により表示される画像を回転させてその角加速度を変化させる。この場合、回転する画像を視認するユーザがユーザ用回転台2により回転していること及びその回転方向を知覚できる第2の回転加速度範囲のうち第1の回転加速度範囲側の第3の回転加速度範囲の角加速度でユーザ用回転台2が回転され、その角加速度と異なる角加速度で画像を回転させることにより、ユーザ用回転台2の角加速度による回転感覚ではなく、画像の角加速度による回転感覚を与えることができ、可動範囲が限定された簡略な装置を用いて、実際の回転感覚と異なる種々の回転感覚を与えることができる。
【0047】
また、制御装置9が上記の角加速度でユーザ用回転台2を回転させながら、ユーザ用回転台2の角加速度より高い角加速度でユーザ用回転台2の回転方向と逆方向にヘッドマウントディスプレイ1により表示される画像を回転させる場合、可動範囲が限定された簡略な装置を用いて、ユーザに実際の角加速度による回転感覚より大きい回転感覚を与えることができる。
【0048】
上記のように、本実施の形態では、ユーザ用回転台2によりユーザが回転された状態でヘッドマウントディスプレイ1によりユーザに対して回転する画像が表示され、ヘッドマウントディスプレイ1により表示される画像の回転状態とユーザ用回転台2によるユーザの回転状態とが異なるように、ヘッドマウントディスプレイ1により表示される画像の回転状態とユーザ用回転台2の回転状態とが制御されるので、ユーザの実際の回転状態と異なる回転感覚をユーザに与えることができ、可動範囲が限定された簡略な装置を用いて充分な回転感覚を呈示することができる。
【0049】
なお、上記の説明では、ユーザに表示される画像として縞模様の画像を例に説明したが、この例に特に限定されず、種々のシミュレーション等に使用される実写画像又はこれに相当する仮想画像等を用いることがより好ましい。この場合、ユーザに与える回転感覚をよりリアルなものにすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の一実施の形態による回転感覚呈示装置の構成を示すブロック図である。
【図2】図1に示す回転感覚呈示装置の外観を示す斜視図である。
【図3】画像の角加速度とユーザ用回転台の角加速度とを変化させたときにユーザがユーザ用回転台の回転状態をどの程度知覚できるかを測定した測定結果を示す図である。
【図4】画像の角加速度とユーザ用回転台の角加速度とを変化させたときにユーザが感じた回転角を測定した測定結果を示す図である。
【図5】ユーザ用回転台の角加速度が画像の回転方向と逆方向で1(deg/s)の場合にヘッドマウントディスプレイにより表示される画像の角加速度を変化させたときにユーザが感じた回転角を測定した測定結果を示す図である。
【符号の説明】
【0051】
1 ヘッドマウントディスプレイ
2 ユーザ用回転台
3 ユーザ用駆動装置
4 回転枠
5 回転枠用駆動装置
6 画像記録装置
7 撮像カメラ
8 カメラ用駆動装置
9 制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ユーザに対して回転する画像を表示する表示手段と、
ユーザを回転させる回転手段と、
前記表示手段により表示される画像の回転状態と前記回転手段の回転状態とが異なるように前記表示手段により表示される画像の回転状態と前記回転手段の回転状態とを制御する制御手段とを備えることを特徴とする回転感覚呈示装置。
【請求項2】
前記制御手段は、前記表示手段により表示される回転画像を視認するユーザが前記回転手段により回転していることを知覚できるが、その回転方向を知覚できない第1の回転加速度範囲において、前記表示手段により表示される画像の回転方向と同一方向に前記回転手段を回転させることを特徴とする請求項1記載の回転感覚呈示装置。
【請求項3】
前記制御手段は、前記表示手段により表示される回転画像を視認するユーザが前記回転手段により回転していること及びその回転方向を知覚できる第2の回転加速度範囲のうち前記第1の回転加速度範囲側の第3の回転加速度範囲において前記回転手段を回転させるとともに、前記回転手段の回転加速度と異なる回転加速度で前記表示手段により表示される画像を回転させることを特徴とする請求項2記載の回転感覚呈示装置。
【請求項4】
前記制御手段は、前記第3の回転加速度範囲において前記回転手段を回転させるとともに、前記回転手段の回転加速度より高い回転加速度で前記表示手段により表示される画像を回転させることを特徴とする請求項3記載の回転感覚呈示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−126411(P2006−126411A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−313608(P2004−313608)
【出願日】平成16年10月28日(2004.10.28)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成16年度独立行政法人情報通信研究機構、研究テーマ「人間情報コミュニケーションの研究開発」に関する委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(393031586)株式会社国際電気通信基礎技術研究所 (905)