説明

回転撹拌装置

【課題】被撹拌物を均質に混合して高品質の混合物を得ることができる回転撹拌装置を提供する。
【解決手段】被撹拌物を収容する撹拌容器(21)を中心軸(41)回りに公転させつつ容器中心軸(71)回りに自転させて、当該撹拌容器内の被撹拌物を撹拌する回転撹拌装置であって、中心軸と容器中心軸との相対関係を変更させることなく前記中心軸の重力方向に対する軸角度を所望角度に変更設定可能とする軸角度設定機構(91)を備えていることを特徴とする。軸角度を変更することにより、被撹拌物と撹拌容器の内壁との接触面積が広くなるので、その分、撹拌効率が高まり、これによって、高品質の混合物を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被撹拌物の撹拌(被撹拌物同士の擦れ合いによる研磨、脱泡及び粉砕を含む)を行うのに用いられる回転撹拌装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、上記した回転撹拌装置に類するものとしては、例えば、公転用駆動源と、当該公転用駆動源の出力により被撹拌物を収容した撹拌容器を鉛直方向に向く中心軸回りに公転させる公転機構と、自転用駆動源と、前記中心軸回りに公転する前記撹拌容器を前記自転用駆動源の出力により容器中心軸回りに自転させる自転機構と、を含みものがある。この撹拌容器は、その容器中心軸を公転中心軸に対して傾斜させた状態で保持され、その傾斜角度を変更できるようになっている(特許文献1〜3)。
【0003】
上記構造を備える回転撹拌装置は、公転中心軸に対して傾斜させた状態の容器を公転させることで生じる遠心力により被撹拌物を撹拌容器の内壁に押し付け、さらに、撹拌容器を自転させることで撹拌容器内の被撹拌物を撹拌するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−245000号公報(段落0010、0017、図2)
【特許文献2】特開2008−119603号公報(段落0008、0027、図3)
【特許文献3】特開2010−240579号公報(段落0015、0018、図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述した従来の回転撹拌装置によれば、容器中心軸は公転中心軸に対して傾いているものの、公転中心軸は鉛直方向に向いていることから、公転自転により撹拌容器内の被撹拌物に働く遠心力に変化が生じない。変化がないため、被撹拌物が接触するのは撹拌容器の内壁底部における一定箇所に限られていた。撹拌容器内壁の一定箇所だけとの接触では、被撹拌物がその場で空回りするだけのため撹拌が必ずしも十分に行われないという問題点があり、その解決が望まれていた。本発明は、上記した従来の課題に着目してなされたもので、被撹拌物を均質に混合して高品質の混合物を得ることができる回転撹拌装置および回転撹拌方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記した目的を達成するために発明者は、鋭意研究を重ねた結果、公転自転する従来の回転撹拌装置における公転軸を、鉛直方向に対して傾けることにより、撹拌容器内壁に対する被撹拌物の接触範囲を拡大することに成功した。本発明は、そのような知見に基づいてなされたものである。その詳細については、項を改めて説明する。なお、何れかの請求項2に記載の発明を説明するに当たって行う用語の定義等は、その記載順や表現方法、さらに発明カテゴリーの違い等に関わらず、その性質上可能な範囲において他の請求項に記載の発明にも適用されるものとする。
【0007】
(請求項1記載の発明の特徴)
請求項1記載の発明に係る回転撹拌装置(以下、適宜「請求項1の装置」という)は、被撹拌物を収容する撹拌容器を中心軸回りに公転させつつ容器中心軸回りに自転させて、当該撹拌容器内の被撹拌物を撹拌する回転撹拌装置である。請求項1の装置は、公転用駆動源と、当該公転用駆動源の出力により前記撹拌容器を中心軸回りに公転させる公転機構と、自転用駆動源と、前記自転用駆動源の出力により前記中心軸回りに公転する前記撹拌容器を容器中心軸回りに自転させる自転機構と、を含み、前記中心軸と前記容器中心軸との相対関係を変更させることなく前記容器中心軸の重力方向に対する軸角度を所望角度に変更設定可能とする軸角度設定機構を備えていることを特徴とする。ここで、公転用駆動源には、電動モータを用いるのが一般的である。また、公転機構には、たとえば、歯車駆動や摩擦駆動による原車と従車による方式や、ベルト及びプーリによるベルトドライブ方式を用いることができる。さらに、自転用駆動源には、電動モータなどを使用することを妨げないが、公転用駆動原を自転用駆動源流用することもできる。最後に、自転機構には、公転機構と同じく原車と従車による方式、ベルトドライブ方式、その他の方式を用いることができる。
【0008】
請求項1の装置によれば、撹拌容器は、中心軸回りに公転しつつ容器中心軸回りに自転する。このとき、中心軸と容器中心軸との間の相対関係に変化はない。撹拌容器を公転させることで生じる遠心力により被撹拌物を撹拌容器の内壁に押し付け、さらに、撹拌容器を自転させることで撹拌容器内の被撹拌物を撹拌して混合する。一方、容器中心軸は重力方向(鉛直方向)に対して傾斜しているため、傾斜の分だけ被撹拌物が撹拌容器内壁上で広がる。つまり、被撹拌物と撹拌容器内壁との接触面積が増大する。また、傾斜によって被撹拌物に働く力が公転に伴って変化する。公転によって生じる遠心力の方向と重力方向との間の相対関係(角度)が公転円周上において変化するからである。接触面積の増大と被撹拌物に働く力の変化は、撹拌作用に好影響を与え、その結果、被撹拌物を均質に混合して高品質の混合物を得ることができる。
【0009】
(請求項2記載の発明の特徴)
請求項2記載の発明に係る回転撹拌装置(以下、適宜「請求項2の装置」という)は、請求項1の装置であって、前記軸角度設定機構は、前記所望角度の範囲において前記中心軸を周期的に往復傾動させるように構成してあることを特徴とする。
【0010】
請求項2の装置によれば、請求項1の作用効果に加え、中心軸の往復傾動によって被撹拌物に働く力の公転による変化がより複雑になる。より複雑な変化により撹拌効率をより高めることができる。
【0011】
(請求項3記載の発明の特徴)
請求項3記載の発明に係る回転撹拌装置(以下、適宜「請求項3の装置」という)は、請求項1の装置であって、前記軸角度設定機構は、前記所望角度が360度であって、前記中心軸を所望方向に回転させるように構成してあることを特徴とする。
【0012】
請求項3の装置によれば、請求項1の作用効果に加え、中心軸の回転によって被撹拌物に働く力の公転による変化がより複雑になる。また、撹拌容器の内壁を満遍なく使用することにもなる。これらにより、撹拌効率をより高めることができる。
【0013】
(請求項4記載の発明の特徴)
請求項4記載の発明に係る回転撹拌装置(以下、適宜「請求項4の装置」という)は、請求項1ないし3いずれかの装置であって、前記撹拌容器内に、被撹拌物の粉砕補助を行うためのボールを備えることによりボールミルとしての機能することを特徴とする。
【0014】
請求項4の装置によれば、請求項1ないし3いずれかの装置の作用効果に加え、被撹拌物の撹拌するときにそれと一緒にボールを入れておくことにより、被撹拌物の粉砕の補助が行われる。被撹拌物の種類や形態等によって程度は異なるが、撹拌作用は粉砕作用を伴うのが通常であり、ボールとともに撹拌することにより粉砕作用が促進される。
【0015】
(請求項5記載の発明の特徴)
請求項5記載の発明に係る回転撹拌方法(以下、適宜「請求項5の方法」という)は、被撹拌物を収容する撹拌容器を中心軸回りに公転させつつ容器中心軸回りに自転させて、当該撹拌容器内の被撹拌物を撹拌する回転撹拌方法である。請求項5の方法は、前記中心軸と前記容器中心軸との相対関係を変更させることなく前記容器中心軸の重力方向に対する軸角度を所望角度に変更設定することを特徴とする。
【0016】
請求項5の方法によれば、撹拌容器は、中心軸回りに公転しつつ容器中心回りに自転する。このとき、中心軸と容器中心軸との間の相対関係に変化はない。撹拌容器を公転させることで生じる遠心力により被撹拌物を撹拌容器の内壁に押し付け、さらに、撹拌容器を自転させることで撹拌容器内の被撹拌物を撹拌して混合する。一方、容器中心軸は重力方向(鉛直方向)に対して傾斜しているため、傾斜の分だけ被撹拌物が撹拌容器内壁上で広がる。つまり、被撹拌物と撹拌容器内壁との接触面積が増大する。また、傾斜によって被撹拌物に働く力が公転に伴って変化する。公転によって生じる遠心力の方向と重力方向との間の相対関係(角度)が公転円周上において変化するからである。接触面積の増大と被撹拌物に働く力の変化は、撹拌作用に好影響を与え、その結果、被撹拌物を均質に混合して高品質の混合物を得ることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、被撹拌物を均質に混合して高品質の混合物を得ることができる。したがって、撹拌作業の効率化と作業性の向上を実現することができると共に、撹拌コストの低減化をも実現することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】撹拌容器をほぼ鉛直方向とした状態の回転撹拌装置の正面図である。
【図2】撹拌容器をほぼ水平方向とした状態の回転撹拌装置の平面図である。
【図3】図2に示す回転撹拌装置の正面図である。
【図4】実験例に用いたシリカ粉の粒度分布を示す図表である。
【図5】図1に示す状態で撹拌実験した結果を示す図表である。
【図6】図2に示す状態で撹拌実験した結果を示す図表である。
【図7】撹拌容器を回転させながら撹拌実験した結果を示す図表である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照しながら、本発明を実施するための形態(以下、適宜「本実施形態」という)について説明する。
【0020】
(回転撹拌装置の概略構造)
図1を参照しながら、回転撹拌装置の概略構造について説明する。回転撹拌装置1は、ベース部3と、一対の支持柱5,5と、外枠7と、内枠9と、複数(ここでは、2個)の撹拌容器21,21と、公転用駆動源31と、中心軸41と、公転機構51と、自転用駆動源61と、容器中心軸71と、自転機構81と、軸角度設定機構91と、から概略構成してある。
【0021】
ベース部3は、設置床の上に載置する部材であって、十分な強度と重さを持った部材(ここでは、鉄板)によって構成することができる。支持柱5,5は、ベース部3の上で所定間隔を介して対向起立する一対の金属製の縦長角柱であって、両者間に軸角度設定機構91を介して外枠7を支持する。支持柱5,5は、金属以外の合成樹脂などにより構成することも可能だが、外枠7を支持するための大きさと強度を備えていなければならなり。
【0022】
(外枠と内枠)
外枠7は金属製の矩形枠体であって、後述する軸角度設定機構91の作用により、支持柱5,5に取り付けてある。内枠9の金属性の矩形枠体である。内枠9は、外枠7に囲まれた空間内で回転できる大きさに形成してある。
【0023】
(軸角度調整機構の構造)
軸角度設定機構91は、軸受93aと、軸受93bと、軸受93cと、回転軸95aと、回転軸95bと、位置決め機構97と、から構成してある。軸受93aは一方(図1の向かって右)の支持柱5に、軸受93bは他方の支持柱5に、軸受93cは外枠7の軸受93bと対向する位置に、それぞれ設けてある。
【0024】
回転軸95aは、支持柱5に対して回転自在(回動自在、揺動自在)となるように軸受93aによって水平方向に支持されている。回転軸95aの一端は外枠に回転不能に固定してあり、他端は支持柱5の外側で円形の支持プレート97aに回転不能に固定してある。つまり、回転軸95aは、外枠7及び支持プレート97aと一体回転するようになっている。支持プレート97aには、その円周方向に2本(それ以上でもよい)の位置決めピン97p,97pを外側(図1の右側)からピン孔97h,97hを介して差し込みそれらの先端部が内側へ突き出し可能に構成してある。
【0025】
突き出した位置決めピン97p,97pの先端部は支持柱5に設けた受け孔5h,5hに受け入れられ、これによって、回転軸95aの回転方向の位置決がなされる。受け孔5hの数を位置決めピン97pの数より多めに形成しておき、位置決めするとき、使用する受け孔5hを選択できるようにしておくことが好ましい。受け孔5hの選択使用により、回転軸95aの回転方向における位置を段階的に変更できるようにするためである。これにより、回転軸95aの回転方向の位置決めが、容器中心軸71の重力方向に対する軸角度を所望角度に変更設定した後、その所望角度をさらに変更設定できるようになる。回転軸95aは外枠7と一体であるから、回転軸95aの位置決めは、そのまま外枠7の位置決めとなる。なお、軸角度を設定変更しても、中心軸41と容器中心軸71との相対関係に変更はない。支持プレート97aと、ピン孔97h、位置決めピン97pおよび受け孔5hにより、本実施形態の位置決め機構97を構成する。所望角度は、たとえば、被処理物の種類、形態、性状、大きさなどや撹拌容器21の内壁形状、さらに、回転速度等の違いに合わせて適宜設定することができる。
【0026】
(軸角度調整機構の変形例)
上記した位置決めピン97pによる位置決めは、一旦固定すれば変更することはできないが、これを連続して回転したり揺動したりするように構成することもできる。この位置決めピン97pと支持プレート97aの代わりに、たとえば、ステッピングモータ(図示せず)を設けておき、これを制御することにより360度回転させたり、適当な角度の中で往復揺動させたりすることもできる。
【0027】
(公転用駆動源)
回転軸95bは、軸受93bと軸受93cとによって、回転軸95aと同軸となるように、かつ、支持柱5と外枠7の双方に対して回転自在となるように支持されている。回転軸95bの外側一端(図1の左端)は公転用駆動源である駆動モータ31の回転軸に一体回転可能に固定してある。一方、回転軸95bの内側他端は、外枠7の内側で垂直方向に回転する駆動円板35の中心に中心軸一致状態で一体回転可能に固定してある。回転軸95bの中心軸41は、回転軸95aの中心軸とも一致させておく。この状態で駆動モータ31を回転させると、回転軸95bは、支持柱5と外枠7の双方に対して回転自在であるから、外枠7自体は回転せず、駆動円板35のみが回転するようになっている。
【0028】
(公転機構)
駆動円板35の円周全域には、自転車タイヤのようなゴム製の摩擦材37を固定してある。駆動円板35の半径、もしくは、摩擦材37を含めた半径は、内枠9の長さ寸法よりも長くなるように設定されている。これは、内枠9と一体に水平回転する接触円板38の外縁と転がり接触し、この接触円板38に回転を伝えるためである。接触円板38は、これに一体固定されている内枠軸39及び内枠9にその回転を伝えるようになっている。これにより内枠9は公転する。これら駆動円板35、接触円板38および内枠9は、撹拌容器21を公転させるための公転機構33を構成する。内枠軸39は、外枠7に設けられた軸受7aと軸受7b及び内枠中空軸7cにより、中心軸41を横断する位置に配され、かつ、外枠7に対して回転自在に設けられている。したがって、接触円板38の回転は、内枠軸39を回転させる。
【0029】
(容器中心軸)
説明の都合上、撹拌容器21と一体回転する容器中心軸23について先に説明する。容器中心軸23は、2個ある撹拌容器21,21それぞれの上下から内枠方向(垂直方向)に突き出し、内枠9に設けられた4個の内枠軸受9aにそれぞれが内枠9に対して回転自在に支持されている。各容器中心軸23の軸心は、回転軸95a,95bの軸心と直交するように配置してある。
【0030】
(自転用駆動源)
自転用駆動源61は、公転用駆動源でもある駆動モータ31が、これに該当する。駆動モータ31を公転用駆動源と自転用駆動源の両者として用いたのは、単一駆動源のほうが部品点数も少なくシンプルな構造で足りるからである。駆動モータ31とは別の自転用駆動源を設けることを妨げるものではなく、必要に応じて適宜採用することができる。
【0031】
(自転機構)
自転機構63は、駆動円板35、接触円板38、内枠軸39に加え(ここまでは公転機構33と共通)、それぞれ2個ずつの駆動プーリー65、従動プーリー67、連結ベルト69と、により構成してある。駆動プーリー65は、一体回転するように内枠軸39に固定してある。従動プーリー67は、同じく一体回転するように容器中心軸23に固定してある。連結ベルト69は、駆動プーリー65と従動プーリー67を駆動連結するベルトである。駆動モータ31の回転は、やがて内枠軸39を回転させ、それに伴い内枠軸39とともに駆動プーリー65を回転させる。その回転は、連結ベルト69を介して従動プーリー67を回転させ、これと一体に撹拌容器21が回転(自転)するようになっている。
【0032】
(撹拌容器)
本実施形態における撹拌容器21は、縦長円筒形に形成してあり、アウター容器25と、アウター容器25内に収納されるインナー容器27とからなる二重構造に構成してある。二重構造にしたのは、単一容器に比べ安全性を高め、これによって様々な被撹拌物に対応可能とするためである。安全性を確保できるのであれば、容器それぞれを構成する素材や加工方向などに何ら制限はないが、本実施形態では、アウター容器25を金属により、インナー容器27をジルコニアにより、それぞれ構成してある。アウター容器25は、扁平底部を持った縦長円筒状の容器本体25aと、その上端開口部を閉鎖するように容器本体25aの上端部に固定される蓋部25bと、から構成してある。また、インナー容器27は、丸い底部を持った縦長円筒状の容器本体27aと、その上端開口部を閉鎖するように容器本体27aの上端部に固定される蓋部27bと、から構成してある。なお、容器中心軸23は、その一本は容器本体25aの底部外側から突き出すように、他の一本は蓋部天板から突き出すように、それぞれ設けてある。なお、インナー容器27内に粉砕用のボール(図示を省略)を入れ被撹拌物とともに撹拌するようにしてもよい。この場合、回転撹拌装置1はボールミルとして機能することになる。
【0033】
(本実施形態の作用効果)
上記のとおり構成した回転撹拌装置1によれば、撹拌容器21は、中心軸41の回りを公転しつつ容器中心軸71回りに自転する。このとき、中心軸41と容器中心軸71との間の相対関係に変化はない。撹拌容器21を公転させることで生じる遠心力により被撹拌物を撹拌容器の内壁に押し付け、さらに、撹拌容器を自転させることで撹拌容器内の被撹拌物を撹拌して混合する。一方、中心軸は重力方向(鉛直方向)に対して傾斜しているため、傾斜の分だけ被撹拌物が撹拌容器内壁上で広がる。つまり、被撹拌物と撹拌容器内壁との接触面積が増大する。また、傾斜によって被撹拌物に働く力が公転に伴って変化する。公転によって生じる遠心力の方向と重力方向との間の相対関係(角度)が公転円周上において変化するからである。接触面積の増大と被撹拌物に働く力の変化は、撹拌作用に好影響を与え、その結果、被撹拌物を均質に混合して高品質な混合物を得ることができる。
【実施例】
【0034】
図4〜5を参照しながら、実施例について説明する。本実施例で行った撹拌実験は、回転撹拌装置1を用いた乾式粉砕であり、撹拌容器21の軸角度を、縦置き(ほぼ鉛直)、横置(ほぼ水平)、回転(連続変化、すなわち、三次元回転となる)の3種類に設定し、各々の撹拌結果を比較する実験を行った。撹拌容器には、ジルコニア容器(重量324g、容積80ml)を2個使用した。粉砕ボールとして5mm径のジルコニアボール153gを各撹拌容器の中に投入した。被撹拌物(被粉砕物)は、メジアン径(平均粒子径)94.39μmのシリカ粉末である。各容器に10gずつ投入した。撹拌容器21の公転回転数は240rpm、同じく自転回転数は103rpmであった。回転時間(撹拌時間)は3分間とした。測定装置は、HORIBA社製のレーザー解析散乱式粒度分析測定装置「LA500」を用いた。実験日の天気は晴れ、気温は22℃、湿度は62%であった。図5〜7に軸角度を変化させたときのシリカ粉末の粒子径の分布を示す。
【0035】
軸角度をほぼ鉛直として撹拌したときのメジアン径(中央値)は、66.41μmであった(図5)。撹拌前の94.39μmに比べ約29.6%減少した。このときのシリカ粉末は、重力の働きによって撹拌容器の底部に滞留するため、撹拌は、主として底部において行われる。
【0036】
軸角度をほぼ水平として撹拌したときのメジアン径は、49.44μmであり(図6)、撹拌前に比べ約47.6%減少した。ほぼ鉛直とした場合に比べ18%分余計に減少したのは、撹拌容器をほぼ水平にしたことによりシリカ粉末と撹拌容器内壁との接触面積が増え、これが粒径減少に寄与したものと思われる。撹拌時に発生する撹拌音についても、ほぼ鉛直よりもほぼ水平の方が大きく、それだけシリカに衝撃が加わっていることを聴覚的に確認することができた。撹拌後に撹拌容器を開封したとき、シリカ粉の舞い現象が見られた。ほぼ鉛直としたときには見られなかった現象であり、ほぼ水平とすることにより粒径がさらに小さくなっていることを視覚的に確認することができた。なお、撹拌容器内壁にシリカが再凝縮する現象は、ほとんどなかった。
【0037】
軸角度を回転させたときのメジアン径は、さらに減少して42.23μmとなった。撹拌前に比べ、約55.3%の粒径減少である。軸角度ほぼ水平に比べより減少したのは、軸角度回転により、公転・自転と合わせた三次元撹拌となり、これによって、撹拌容器内壁の全体が撹拌に寄与した結果であると推測される。撹拌時間を長くすれば、より顕著な粒径減少が見られるであろう。ほぼ水平のときに比べ回転時の撹拌音が大きくなり、それだけ衝撃やせん断などが激しく行われていることが耳で確認できた。撹拌容器を開封したときのシリカ粉の舞いは、ほぼ水平としたときよりさらに顕著になった。また、再凝縮は観察されなかった。
【0038】
以上のことから、ほぼ鉛直に設定するよりほぼ水平に設定するほうが、これよりさらに回転させるほうが、より効率よく撹拌(粒径減少)できることが分かった。ほぼ鉛直とほぼ水平の違いは、シリカ粉が接触可能な撹拌容器内壁の面積である。撹拌容器の内壁の形状などにもよるが、軸角度を鉛直に対し変化させることにより撹拌効率を高められることが分かった。
【符号の説明】
【0039】
1 回転撹拌装置
3 ベース部
5 支持柱
5h 受け孔
7 外枠
7a,7b 軸受
7c 内枠中空軸
9 内枠
9a 内枠軸受
21 撹拌容器
23 容器中心軸
25 アウター容器
25a 容器本体
25b 蓋部
27 インナー容器
27a 容器本体
27b 蓋部
31 公転用駆動源、自転用駆動源(駆動モータ)
33 公転機構
35 駆動円板
37 摩擦材
38 接触円板
39 内枠軸
41 中心軸
61 自転用駆動源
63 自転機構
65 駆動プーリー
67 従動プーリー
69 連結ベルト
71 容器中心軸
91 軸角度設定機構
93a,93b,93c 軸受
95a,95b 回転軸
97 位置決め機構
97a 支持プレート
97p 位置決めピン
97h ピン孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被撹拌物を収容する撹拌容器を中心軸回りに公転させつつ容器中心軸回りに自転させて、当該撹拌容器内の被撹拌物を撹拌する回転撹拌装置であって、
公転用駆動源と、
当該公転用駆動源の出力により前記撹拌容器を中心軸回りに公転させる公転機構と、
自転用駆動源と、
前記自転用駆動源の出力により前記中心軸回りに公転する前記撹拌容器を容器中心軸回りに自転させる自転機構と、を含み、
前記中心軸と前記容器中心軸との相対関係を変更させることなく前記中心軸の重力方向に対する軸角度を所望角度に変更設定可能とする軸角度設定機構を備えている
ことを特徴とする回転撹拌装置。
【請求項2】
前記軸角度設定機構は、前記所望角度の範囲において前記中心軸を周期的に往復傾動させるように構成してある
ことを特徴とする請求項1に記載の回転撹拌装置。
【請求項3】
前記軸角度設定機構は、前記所望角度が360度であって、前記中心軸を所望方向に回転させるように構成してある
ことを特徴とする請求項1に記載の回転撹拌装置。
【請求項4】
前記撹拌容器内に、被撹拌物の粉砕補助を行うためのボールを備えることによりボールミルとして機能する
ことを特徴とする請求項1ないし3何れかに記載の回転撹拌装置。
【請求項5】
被撹拌物を収容する撹拌容器を中心軸回りに公転させつつ容器中心軸回りに自転させて、当該撹拌容器内の被撹拌物を撹拌する回転撹拌方法であって、
前記中心軸と前記容器中心軸との相対関係を変更させることなく前記中心軸の重力方向に対する軸角度を所望角度に変更設定する
ことを特徴とする回転撹拌方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−91052(P2013−91052A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−236141(P2011−236141)
【出願日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【出願人】(596096320)株式会社ナガオシステム (7)
【Fターム(参考)】