説明

回転機器の製造方法およびその製造方法により製造される回転機器

【課題】製造工程数の増大、製造コストの増大等を伴うことなく動作エラーを低減して品質を向上できる回転機器の製造方法および回転機器を提供する。
【解決手段】記録ディスクが載置されるべきハブ部材とハブ部材を軸受部を介して回転自在に支持するベース部材とを有するディスク駆動装置の製造方法であって、ベース部材とハブ部材と軸受部のうちの少なくとも一つをワークと呼ぶとき、本製造方法は、ワークを切削水を添加しながら切削加工する切削工程401〜403と、加工されたワークに付着する切削水を除去する除去工程405と、切削水が除去されたワークを使用してディスク駆動装置を組み立てる組立工程408とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転機器の製造方法およびその製造方法により製造される回転機器、特に製造工程数の増大を伴うことなく品質を向上する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、HDDなどの回転機器は、流体動圧軸受ユニットを備えることにより回転精度が飛躍的に向上した。それに伴い回転機器は、一層の高密度・大容量化が求められるようになった。例えば磁気的にデータを記録するHDDでは、記録トラックを形成した記録ディスクを高速で回転させておき、磁気ヘッドがその記録トラック上を僅かな浮上隙間を介してトレースしながらデータのリード/ライトを実行する。このようなHDDを高密度・大容量化するためには記録トラックの幅を狭くする必要がある。そして、トラック幅の狭幅化に伴い、磁気ヘッドと記録ディスクとの隙間をさらに狭くする必要が生じている。その浮上隙間はデータのリード/ライト信頼性を考慮すると例えば、10nm以下の極狭にしたいという要求がある。そのため、HDDを構成する部品の寸法や表面の平面度は高精度が要求される。
【0003】
このように高い寸法精度を要求されるHDD等の回転機器の部品は、切削加工などで製造されることが多い。たとえば、記録ディスクを載置して高速で回転するハブは鉄などの素材を切削加工して所望の形状および寸法を確保している(例えば、特許文献1参照)。そして、切削加工の場合、素材(以下、ワークという)と加工刃物との間等に切削油剤を供給して切削時の切削抵抗を低減させて、加工精度の向上やワークや加工刃物のダメージ低減を行っているのが一般的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−117502号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上述したように、HDDの磁気ヘッドと記録ディスクとの間隔が極狭の場合、その隙間や磁気ヘッド、記録ディスク等に僅かな汚染物質が存在するだけでもデータのリード/ライトエラーの原因になる。汚染物質はHDDの組立時に混入する場合もあれば、HDDを構成する部品に付着している場合もある。組立時の混入については、無塵室等を利用するなど組立環境の改善で抑制できる。一方、汚染物質がHDDの構成部品に付着している場合、例えば部品加工時に付着した場合は、加工後にその部品を洗浄する工程が必要になる。また、洗浄液の乾燥後に実際に汚染物質が付着していないかの検査も必要になる。その結果、ワークの洗浄は、製造時間や製造コストの増加の原因になっていた。
【0006】
部品加工時に付着する汚染物質としては、切削油剤に含まれる炭化水素化合物が原因となる場合がある。例えば、ハブの表面に切削油剤に含まれる炭化水素化合物が残留していた場合、その炭素水素化合物が時間の経過とともに揮発してHDD内を移動して記録ディスクの記録面に付着してしまうことがある。その結果、リード/ライトエラーの原因になることがある。
【0007】
リード/ライトエラーについて種々の実験を行った結果、発明者らはHDDの大容量化のためにはハブをはじめとするHDDの構成部材、特にHDDの内部空間に表面を有する構成部材に残留する炭化水素化合物の付着量を低減することが必要であるとの結論を得た。なお、炭化水素化合物の付着量を低減するためには、前述したように洗浄等の処理を施すことも考えられるが、リード/ライトエラーの原因になり得ない程度に炭化水素化合物の付着量を低減するためには、長時間の洗浄が必要になり、製造効率が低下してしまい好ましくない。また、洗浄液はコストが高く長時間の洗浄は製造コストの増大の原因になっていた。したがって、発明者らは根本的な方法により炭化水素化合物の付着量を低減させる必要があるとの結論に達した。
【0008】
本発明はこうした状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、製造工程数の増大、製造コストの増大等を伴うことなく品質を向上できる回転機器の製造方法を提供することにある。また、その製造方法で製造される回転機器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明のある態様の回転機器の製造方法は、記録ディスクが載置されるべきハブ部材とハブ部材を軸受部を介して回転自在に支持するベース部材とを有する回転機器の製造方法であって、ベース部材とハブ部材と軸受部のうちの少なくとも一つをワークと呼ぶとき、本製造方法は、ワークを切削水を添加しながら切削加工する工程と、加工されたワークに付着する切削水を除去する工程と、切削水が除去されたワークを使用して回転機器を組み立てる工程と、を含む。
【0010】
本発明の別の態様は、回転機器である。この回転機器は、記録ディスクが載置されるべきハブ部材と、ハブ部材を軸受部を介して回転自在に支持するベース部材と、を備える。ベース部材とハブ部材と軸受部のうちの少なくとも一つは、切削水が添加されながら切削加工されて形成される。
【0011】
この態様によると、記録ディスクと関わりを持つ回転機器の構成部材の少なくとも一つは切削水により切削加工されるので、従来のように炭化水素化合物を含む切削油剤を用いた切削加工に比べ炭素水素化合物の残留量が低減できる。その結果、炭素水素化合物の残留が原因となって回転機器の品質が低下することを抑制できる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、製造工程数や製造コストの増大を伴うことなく動作エラーを低減して品質を向上できる回転機器の製造方法が提供できる。また、その製造方法で製造される動作エラーの低減された高品質の回転機器が提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本実施形態の製造方法により製造される回転機器の一例であるディスク駆動装置(HDD)の内部構成を説明する説明図である。
【図2】図1のディスク駆動装置の軸受部を中心とする内部構造を説明する断面図である。
【図3】本実施形態の製造方法の工程順を説明する説明図である。
【図4】本実施形態の製造方法の切削水を用いた切削加工の一例を説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の好適な実施形態を図面に基づいて説明する。各図面に示される同一または同等の構成要素、部材には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、各図面における部材の寸法は、理解を容易にするために適宜拡大、縮小して示される。また、各図面において実施形態を説明する上で重要ではない部材の一部は省略して表示する。
【0015】
図1は、本実施形態の製造方法により製造された回転機器の一例であるディスク駆動装置10(ハードディスクドライブ装置:HDD)の内部構成を説明する説明図である。なお、図1は、内部構成を露出させるためにカバーを取り外した状態を示している。
【0016】
ベース部材12の上面には、ブラシレスモータ14、アーム軸受部16、ボイスコイルモータ18等が載置される。ブラシレスモータ14は、記録ディスク20を搭載するためのハブ部材26を回転軸上に支持し、例えば磁気的にデータを記録可能な記録ディスク20を回転駆動する。ブラシレスモータ14は、例えばスピンドルモータとすることができる。ブラシレスモータ14は、記録ディスク20を回転駆動する。ブラシレスモータ14はU相、V相、W相からなる3相の駆動電流により駆動される。アーム軸受部16は、スイングアーム22を可動範囲AB内でスイング自在に支持する。ボイスコイルモータ18は外部からの制御データにしたがってスイングアーム22をスイングさせる。スイングアーム22の先端には磁気ヘッド24が取り付けられている。ディスク駆動装置10が稼働状態にある場合、磁気ヘッド24はスイングアーム22のスイングに伴って記録ディスク20の表面を僅かな隙間を介して可動範囲AB内を移動し、データをリード/ライトする。なお、図1において、点Aは記録ディスク20の最外周の記録トラックの位置に対応する点であり、点Bは記録ディスク20の最内周の記録トラックの位置に対応する点である。スイングアーム22は、ディスク駆動装置10が停止状態にある場合には記録ディスク20の脇に設けられる待避位置に移動してもよい。
【0017】
なお、本実施形態において、記録ディスク20、スイングアーム22、磁気ヘッド24、ボイスコイルモータ18等のデータをリード/ライトする構造を全て含むものをディスク駆動装置10(回転機器)と表現する場合もあるし、HDDと表現する場合もある。また、記録ディスク20を回転駆動する部分のみをディスク駆動装置10(回転機器)と表現する場合もある。
【0018】
図2は、図1のディスク駆動装置10の軸受部を中心とする内部構造を説明する断面図である。
図2に示すように、本実施形態のディスク駆動装置10は、固定体部Sと、回転体部Rと、ラジアル動圧溝RB1,RB2と潤滑材とで構成されるラジアル流体動圧軸受部及びスラスト動圧溝SB1,SB2で構成されるスラスト流体動圧軸受部を含む軸受ユニット30と、これらの流体動圧軸受部を介して固定体部Sに対して回転体部Rを回転駆動する駆動ユニット32とにより構成されている。図2は、一例として記録ディスク20を支持するハブ部材26とシャフト34が一体となり回転する、いわゆるシャフト回転型のディスク駆動装置10の構造を示す。なお、ディスク駆動装置10を構成する部材は、機能的に固定体部S、軸受ユニット30、回転体部R、駆動ユニット32で分けられるグループのうち複数のグループに含まれるものがある。例えば、シャフト34は、回転体部Rに含まれると共に軸受ユニット30にも含まれる。
【0019】
固定体部Sは、ベース部材12、ステータコア36、コイル38、スリーブ40、カウンタープレート42を含んで構成されている。ステータコア36は、ベース部材12に形成された円筒部12aの外壁面に固着されている。スリーブ40は円筒状の部品であり、金属材料や導電性を有する樹脂材料で形成される。このスリーブ40の外周面は後述する軸受ユニット30の外周面を形成している。軸受ユニット30は、ベース部材12の円筒部12aの内壁面で形成する軸受孔12bに例えば接着剤等で固定されている。スリーブ40の一方の端部には、円盤状のカウンタープレート42が固着され、記録ディスク20等が収納されるベース部材12の内部側を封止している。
【0020】
ベース部材12は、例えば、アルミダイキャストで製作された母材の表面にエポキシ樹脂コーティングを施した後に一部を切削加工するか、アルミ板をプレス加工して形成するか、鉄板をプレス加工後、ニッケルメッキを施して形成することができる。ステータコア36は、ケイ素鋼板等の磁性板材が複数枚積層された後、表面に電着塗装や粉体塗装等による絶縁コーディングを施して形成される。また、ステータコア36は、半径方向外方向に突出する複数の突極(図示せず)を有するリング状の部材であり、各突極にはコイル38が巻回されている。例えば、ディスク駆動装置10が3相駆動であれば突極数は9極とされる。なお、コイル38の巻き線端末は、ベース部材12の底面に配設されたFPC(図示せず)上に半田付けされる。
【0021】
回転体部Rは、ハブ部材26、シャフト34、フランジ44、マグネット46を含んで構成される。ハブ部材26は、略カップ形状の部材であり、中心孔26aと同心の外周円筒部26bと、外周円筒部26bの下端に外延する外延部26cとを有している。そして、外延部26cの内壁面にリング状のマグネット46を固着している。ハブ部材26は、ステンレス、アルミニウム、鉄等の金属を切削加工して形成することができる。なお。ハブ部材26は導電性樹脂を型成型や機械加工して形成することもできる。マグネット46は、例えばNd−Fe−B(ネオジウム−鉄−ボロン)系の材料で形成され表面には電着塗装やスプレー塗装などによる防錆処理が施されている。本実施形態において、マグネット46の内周側は例えば12極に着磁されている。
【0022】
シャフト34は、ハブ部材26に形成された中心孔26aに一端が固定され、他端には、円盤状のフランジ44が固定されている。シャフト34は例えばステンレスなどの導電性を有する金属で形成することができる。フランジ44は、金属材料や導電性を有する樹脂材料で形成することができる。スリーブ40の一端には、フランジ44を収納するフランジ収納空間部40aが形成されている。したがって、スリーブ40は、フランジ44が固定されたシャフト34を円筒内壁面40b及びフランジ収納空間部40aで囲む空間で相対回転を許容しながら支持する。
【0023】
回転体部Rのフランジ44付きシャフト34が固定体部Sのスリーブ40の円筒内壁面40bに沿って挿入される。その結果、回転体部Rはラジアル動圧溝RB1,RB2と潤滑剤で構成されるラジアル流体動圧軸受部及びスラスト動圧溝SB1、SB2と潤滑剤で構成されるスラスト流体動圧軸受部を介して固定体部Sに回転自在に支持される。駆動ユニット32は、ステータコア36とコイル38とマグネット46とを含んで構成されている。このとき、ハブ部材26はステータコア36及びマグネット46と共に磁気回路を構成する。したがって、外部に設けられた駆動回路の制御により各コイル38に順次通電することにより、回転体部Rが回転駆動される。
【0024】
なお、本実施形態のハブ部材26の外周円筒部26bは、記録ディスク20の中心穴と係合すると共に、外延部26cが記録ディスク20を位置決め支持する。記録ディスク20の上面にはクランパ48が載せられ、当該クランパ48がスクリュー50によってハブ部材26に固定される。これによって記録ディスク20がハブ部材26に一体的に固定され、ハブ部材26と共に回転可能となる。
【0025】
次に、軸受ユニット30について説明する。
軸受ユニット30は、シャフト34、フランジ44、スリーブ40及びカウンタープレート42とを含んで構成されている。スリーブ40の円筒内壁面40bとそれに対向するシャフト34の外周面はラジアル空間部を形成している。そして、スリーブ40の円筒内壁面40bとシャフト34の外周面の少なくとも一方にはラジアル方向の支持を行うための動圧を発生するラジアル動圧溝RB1、RB2が形成されている。ラジアル動圧溝RB1はハブ部材26から近い側に形成され、ラジアル動圧溝RB2はラジアル動圧溝RB1よりハブ部材26に遠い側に形成されている。ラジアル動圧溝RB1,RB2は、シャフト34の軸方向に離隔して配置された例えばヘリングボーン状またはスパイラル状の溝である。これらのラジアル動圧溝RB1、RB2の形成空間にはオイル等の潤滑剤52が充填されている。したがって、シャフト34が回転することにより潤滑剤52に圧力の高い部分が生る。その圧力によりシャフト34を周囲の壁面から離反させて、当該シャフト34をラジアル方向において実質的に非接触の回転状態とする。
【0026】
前述したように、シャフト34の下端には当該シャフト34と一体的に回転するフランジ44が固定されている。そして、スリーブ40の下面の中央部分にはフランジ44を回転自在に収納するフランジ収納空間部40aが形成されている。このフランジ収納空間部40aは、一端がカウンタープレート42により封止され、フランジ収納空間部40a及びそれに続くシャフト34の収納空間の気密を維持できるようになっている。
【0027】
フランジ44とスリーブ40の軸方向に対向する面の少なくとも一方にスラスト動圧溝SB1が形成され、フランジ44とカウンタープレート42の対向する面の少なくとも一方にはスラスト動圧溝SB2が形成され、潤滑剤52と協働してスラスト流体動圧軸受部を形成している。スラスト動圧溝SB1,SB2は、例えばスパイラル状またはヘリングボーン状に形成されてポンプインの動圧を発生させる。つまり、固定体部S側であるスリーブ40及びカウンタープレート42に対して回転体部R側であるフランジ44が回転することによりポンプインの動圧が発生する。その結果、発生した動圧により固定体部Sに対してフランジ44を含む回転体部Rが軸方向に所定の間隙をもって実質的に非接触の状態となり、ハブ部材26を含む回転体部Rが固定体部Bに対して非接触状態で支持される。
【0028】
本実施形態の場合、ラジアル流体動圧軸受部及びスラスト流体動圧軸受部における間隙に充填された潤滑剤52は互いに共用される。スリーブ40の開放端側は、スリーブ40の内周とシャフト34の外周との隙間が外側に向かって徐々に拡がるようにしたキャピラリーシール部TSを構成している。ラジアル動圧溝RB1、RB2、スラスト動圧溝SB1,SB2を含む空間、キャピラリーシール部TSの途中までには潤滑剤52が満たされている。キャピラリーシール部TSは、毛細管現象により潤滑剤52が充填位置から外部へ漏出することを防止している。
【0029】
上述のように構成されるディスク駆動装置10の製造方法を図3、図4に基づいて説明する。
前述したように、ディスク駆動装置10において、リード/ライトエラー等の動作エラーの原因の一つとなる炭素水素化合物は、ディスク駆動装置10の構成部品を切削加工するときの切削油剤に含まれている。そこで、発明者らは、種々の実験により切削加工のときに実質的に炭化水素化合物を含まない(非含有)と見なせる切削水を用いることが根本的な解決策であるとの結論に達した。発明者らは実験により、炭化水素化合物を非含有と見なせる切削水であってpHをpH5〜11に調整した液体を添加しながらワークを切削加工することによって、切削加工によってワークに付着する炭化水素化合物の量を大幅に低減できることを見いだした。なお、本実施形態における以下の説明では、ディスク駆動装置10を構成する構成部材のうちベース部材12とハブ部材26とラジアル流体動圧軸受部及びスラスト流体軸受部を含む軸受ユニット30のうちの少なくとも一つをワークと呼ぶ。本実施形態では、ワークの例としてハブ部材26を切削加工する場合を例に説明する。
【0030】
発明者らは種々に実験により、本実施形態で使用する切削水は、例えばpHが8〜10の弱アルカリ性であることがワークの切削加工に適していることを見いだした。このアルカリ性の切削水は、例えば、水(好ましくは純水)と光触媒と人工ゼオライトを使用し、触媒環境機構により生成することができる。なお、アルカリ性の切削水は電気分解など公知の他の方法により生成してもよい。また、本実施形態でアルカリ性の水に水溶性合成剤を混ぜた液体を切削水として利用している。例えば、アルカリ性の水に腐食防止剤として機能する成分としてジエアタノールアミンを体積比で0.3〜1.0%、リン酸を体積比で0.05〜0.5%を混ぜた液体を切削水として利用している。また、潤滑性を向上させることができる添加剤を加えてもよい。このような添加剤として非イオン性の水溶性セルロースエーテル例えばメトローズを体積比で0.5〜1.0%加えることができる。
【0031】
アルカリ性の切削水には、防錆効果があるので、切削機械や関連する設備に錆などの腐食が発生することを抑制できる。また、実質的に炭化水素化合物を含まないと見なせる液体を切削水として使用するので、ワークの異物や汚れの除去、元々付着していた油分の除去が切削加工時に可能になる。さらに、切削水が切削加工時に周囲に飛散しても基本的には水なので、床面や壁面、周囲の機器の汚れの原因になることがなく、加工環境を損なうことがない等のメリットがある。
【0032】
なお、本実施形態で使用する切削水は、アルカリ性の水に水溶性合成剤を混合するが、もし、水溶性合成剤を混合しない場合、時間の経過と共に大気中の二酸化炭素を吸収してアルカリ性の劣化が生じると共に、劣化のばらつきが大きいという実験結果を発明者らは得ている。一方、アルカリ性の水に上述したような水溶性合成剤を混合した場合は、時間経過に伴うアルカリ性の劣化はほとんど発生することなくアルカリ性が安定的に維持されるという実験結果を得ている。
【0033】
発明者らは種々の実験により、切削水のpHをpH4以下の高値の酸性とした場合、設備等に錆の発生が確認された。また、pH11以上の高値のアルカリ性とした場合、加工中または加工後にワーク表面の変色が確認された。また、切削水がアルカリ性である場合は、酸性である場合に比べて汚れの再付着が少ないことが確認された。したがって、本実施形態に使用する切削水のpHは、実験結果を参考に余裕値を含めてpH8〜10とすることが好ましく、さらに好適にはpH8.5〜9.5とすることが好ましいとの結論を得た。なお、防錆効果のためには、リン酸、カルボ酸、スルホネート、アルコール、エステルの少なくとも一つを主成分とする水溶性合成剤を用いることが可能であることを発明者らは確認している。
【0034】
このように、切削加工時に切削水を添加しながら切削することで、ワークに付着する炭化水素化合物の量を効果的に低減できる。その結果、リード/ライトエラーが低減可能となり大容量化に適したディスク駆動装置10の構成部品の提供が容易になる。さらに大容量化が可能なディスク駆動装置10が提供できる。なお、切削機械の加工刃物を回転させるスピンドルやその他の駆動部分には駆動をスムーズにするために潤滑油剤が供給されている。このような切削機械側が機能維持のために有する潤滑油剤が切削加工時にワークに付着することがある。しかし、本実施形態の場合、切削水によりこの潤滑油剤も希釈除去可能なので、仮に潤滑油剤に含まれる炭化水素化合物がワークに残留してしまう場合で、その量は極僅かであり、リード/ライトエラーの原因にはならない程度に抑えられると共に、その残留量のばらつきも小さく安定して低いことを発明者らは実験により確認している。
【0035】
図3は、本実施形態の製造方法の工程順を説明する説明図である。
図3の場合、ワークの切削工程、切削水の除去工程、検査工程、ディスク駆動装置10の組立工程等を含む。この例では、ワークをハブ部材26として鉄素材から完成形態のハブ部材26に加工する例を説明する。切削工程401では例えばハブ部材26の外形を荒切削し、切削工程402では各表面の平面度を出すために仕上げ加工を行う。切削工程403では例えば孔加工やネジ加工を行う。これらの加工を行うときには、前述したアルカリ性の切削水を添加しながら切削する。なお、前述した切削の加工内容は一例であり、荒切削、仕上げ加工、孔加工等を工程を分けることなく適宜組み合わせて行ってもよいし、工程順を入れ替えてもよい。また、ワークが他の構成部材、例えばベース部材12や軸受ユニットの場合は、その形状に適した切削内容の工程が採用される。
【0036】
図4は、切削工程における切削水の供給例を説明する説明図である。
図4の場合、ハブ部材26となるワーク100が切削機械のチャック102によって固定され、回転する加工刃物104が切削する様子を示している。また、加工刃物104とワーク100の接触部分(加工部位)を目指して切削水110を供給する第1ノズル106と第2ノズル108が配置されている。第1ノズル106は、主として切削部分に切削水110を供給して、ワーク100と加工刃物104との加工摩擦を低減すると共に加工時に発生する熱を冷却する機能を有する。特に冷却を効果的に行うために、第1ノズル106は、加工部位に局所的に切削水110を供給できるように射出径を小さくしている。また、第2ノズル108は、切削加工時に発生した切削粉を切削水110の水圧で除去できるように加工部位に局所的かつ高圧力で切削水110を供給できるように、第1ノズル106と同様に射出径を小さくしている。また、第2ノズル108は、切削粉を効率的、かつ一定方向に吹き飛ばすためにノズル角度の調整がなされている。例えば、第1ノズル106は加工部位に対して直角に対して鋭角に配置されて切削部位に切削水110を効果的に供給するようにしている。また、第2ノズル108は第1ノズル106より直角に対して鈍角に配置されて、切削粉の除去方向である水平方向に近い姿勢で切削水110を効果的に供給するように配置されている。この場合、第1ノズル106および第2ノズル108から供給される切削水110は同じものでよく、ワーク100の洗浄効果もある。
【0037】
なお、切削水110を供給するノズルはその角度調整により、加工部位に対する切削水110の供給と切削粉の除去を同時に行うこともできる。この場合は、ノズルは1本でもよい。また、切削水110を供給するノズルの噴射方向は固定でもよいが、例えば上下または左右、その組合せで噴射方向を変えてもよい。特に第2ノズル108の場合、噴射方向を可変とすることで、切削水110の噴射状態の変化による運動エネルギにより切削粉や付着物の除去性能を向上させることができる。
【0038】
加工刃物104は従来から使用していたものと同じものでもよいが、ツールライフの向上や切削効率を考慮して、高硬度で滑り性のよい材質、例えばダイヤ系刃物や硬度や滑り性を向上させる表面コーティングを施したものを使用してもよい。また、硬度や滑り性を重視した刃先形状を有する刃物を使用してもよい。
【0039】
図3に戻り、工程の説明を続ける。
切削工程403に続いて、図3の場合、洗浄工程404を設けている。前述したように切削水には実質的に炭化水素化合物を含まないと見なせるものを使用する。発明者らは、実質的に炭化水素化合物を含まない(非含有)と見なせる切削水とは、炭化水素化合物の含有量が1000PPM以下であるものがリード/ライトエラーの低減に有効であることを実験により見いだした。前述したように、切削装置の駆動系で用いられている潤滑油剤等が切削水に混入したり、切削水を介してワーク100に炭化水素化合物が付着してしまう場合がある。切削加工中に供給される切削水でこの炭化水素化合物の低減または除去も可能であるが、さらに信頼性を高める目的で洗浄工程404を設けている。ただし、切削加工時の洗浄効果により残留する炭化水素化合物の量はごく微量なので、この洗浄工程404は、ごく短時間で少量の洗浄液で洗浄を完了することができる。したがって、洗浄工程404を設ける場合、実質的に炭化水素化合物を含まない(非含有)と見なせるレベルを緩和することができる。例えば、切削水の炭化水素化合物の含有量が10000PPM以下に緩和した場合でも、洗浄工程404があれば、実用上問題とならない程度に炭化水素化合物の残留量が低減できて、リード/ライトエラーの低減が可能になることを発明者らは確認している。この場合、洗浄工程404を含むものの、その洗浄時間を短くすることが可能で洗浄コストの低減に寄与できる。また、切削油剤を洗浄するときのような高性能の洗浄剤を使わなくてもよいので、その点でも洗浄コストの低減に寄与できる。また、上述したように、切削水の炭化水素化合物の含有量が1000PPM以下とした場合、洗浄工程404を省略できるか、洗浄を実施する場合でも、その洗浄をさらに簡易化して短縮することができることを発明者らは実験により確認している。また、切削水の炭化水素化合物の含有量が100PPM以下とする場合、洗浄工程を省略してもワーク100への炭化水素化合物の残留量のばらつきが低減されると共に、実用上問題とならない程度にリード/ライトエラーを低減できることを発明者らは実験により確認している。なお、洗浄工程404で使用する洗浄液は切削水と実質的に同等と見なせる洗浄液を使うことが好ましい。洗浄工程404では、シャワー洗浄や洗浄槽を用いた浸漬洗浄や洗浄槽内で超音波を併用する超音波洗浄等を実施してもよい。上述したように、切削加工中の切削水により十分な洗浄効果が得られる場合は、洗浄工程404を省略することができる。
【0040】
切削工程403または洗浄工程404に続いて、ワーク100に付着した切削水または洗浄水を除去する除去工程405が設けられている。除去工程405では、高圧空気の吹きつけによるエアブローを行う。この場合、複雑な凹凸形状に加工されたワーク100(ハブ部材26)の細部に付着した切削水を除去するためにワーク100の姿勢を変化させながらエアブローを行ったり、エアノズルを移動させながら除去作業を行うことが望ましい。
【0041】
本実施形態の場合、除去工程405に続いて2種類のワーク検査工程を設けている。例えば、第1検査工程406として、ワーク100の残留炭化水素化合物の量を測定する。なお、第1検査工程406は、切削水により炭化水素化合物の付着抑制がリード/ライトエラーの原因になり得ない所定レベル以下であることが実験等により確認されている場合、所定数の抜取検査としてもよいし、第1検査工程406を省略してもよい。第2検査工程407は切削加工が完了したワーク100の加工精度の検査を行う。加工精度の検査では、各寸法精度や平面精度等の検査が行われる。検査工程の終了後は、組立工程408において、切削加工が完了したワーク100を含む構成部材を用いてディスク駆動装置10を組み立てる。なお、ディスク駆動装置10の組立作業を別のタイミングで行う場合は、加工が完了したワーク100に異物が付着しないように梱包して一時保管してもよい。
【0042】
このように、切削加工時に従来用いられていた切削油剤に代えてアルカリ性の切削水を用いることにより、炭化水素化合物の付着量の低減が容易になされたディスク駆動装置10、つまり回転機器が製造できる。また、切削油剤を用いた場合に必須となる洗浄作業を省略または著しく簡略化ができるので、洗浄液削減が可能になる。さらに、切削油剤や洗浄液の不使用により、切削油剤や洗浄液の廃液処理コストが削減され、製造コストの低減ができる。また、切削油剤の不使用により、臭いや加工領域の床面、壁面、他の設備等の汚染が抑制され、ディスク駆動装置10の製造環境の改善が容易にできる。
【0043】
なお、上述した実施形態では、ワーク100としてハブ部材26を例にして説明したが、ディスク駆動装置10の構成部品であるベース部材12や軸受ユニット30の構成部品でもよく、上述したものと同様の効果を得ることができる。本実施形態の切削水は、ディスク駆動装置10の構成部品であるベース部材12とハブ部材26と軸受ユニット30の少なくとも一つの切削加工時に適用することにより、炭化水素化合物の付着量の低減効果を発揮する。したがって、切削水を適用するワークを増やせばその分炭化水素化合物の付着量の抑制効果も増大する。すなわち、切削加工を必要とするディスク駆動装置10の構成部品の切削加工の全てに本実施形態の切削水を適用することが好ましい。
【0044】
また、上述の実施形態では、流体軸受けを有するディスク駆動装置10を例に説明したが、ボール軸受タイプの回転機器等にも適用可能であり、同様な効果を得ることができる。また、ディスク駆動装置10として、読み取り専用のCD再生装置やDVD再生装置にも適用可能であり、同様な効果を得ることができる。
【0045】
以上、実施形態に係る回転機器の製造方法について説明した。これらの実施形態は例示であり、本発明の原理、応用を示しているにすぎないことはいうまでもない。実施の形態には、請求の範囲に規定された本発明の思想を逸脱しない範囲において、多くの変形例や配置の変更が可能であり、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【符号の説明】
【0046】
12 ベース部材、 20 記録ディスク、 26 ハブ部材、 30 軸受ユニット、 100 ワーク、 104 加工刃物、 106 第1ノズル、 108 第2ノズル 110 切削水。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
記録ディスクが載置されるべきハブ部材と前記ハブ部材を軸受部を介して回転自在に支持するベース部材とを有する回転機器の製造方法であって、前記ベース部材と前記ハブ部材と軸受部のうちの少なくとも一つをワークと呼ぶとき、本製造方法は、
前記ワークを切削水を添加しながら切削加工する工程と、
加工された前記ワークに付着する前記切削水を除去する工程と、
前記切削水が除去された前記ワークを使用して前記回転機器を組み立てる工程と、
を含むことを特徴とする回転機器の製造方法。
【請求項2】
前記切削水は、アルカリ性の水を主成分とすることを特徴とする請求項1記載の回転機器の製造方法。
【請求項3】
前記切削水は、腐食防止剤を含むことを特徴とする請求項1または請求項2記載の回転機器の製造方法。
【請求項4】
前記切削水は、pH8〜pH10であることを特徴とする請求項2または請求項3に記載の回転機器の製造方法。
【請求項5】
前記切削水を除去する工程の前に、前記切削水と実質的に同等と見なせる洗浄液を用いて前記ワークを洗浄する工程を含むことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の回転機器の製造方法。
【請求項6】
記録ディスクが載置されるべきハブ部材と、
前記ハブ部材を軸受部を介して回転自在に支持するベース部材と、
を備え、
前記ベース部材と前記ハブ部材と軸受部のうちの少なくとも一つは、切削水が添加されながら切削加工されて形成されることを特徴とする回転機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−77341(P2013−77341A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−215132(P2011−215132)
【出願日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【出願人】(508100033)アルファナテクノロジー株式会社 (100)
【Fターム(参考)】