説明

回転機器用回転子、回転機器用回転子の着磁方法、磁気エンコーダおよびその製造方法

【課題】回転機器の回転子に着磁を行う技術において、着磁ヘッドを回転子に接触させて着磁を行う場合に、着磁ヘッドおよび回転子の一方または両方が磨耗する現象を抑える技術を提供する。
【解決手段】円筒形状のホルダであるロータ部材101と、ロータ部材101の外周面に固定された被着磁体であるマグネット層103とを備え、マグネット層103の外周面が2色成形により形成されたポリアセタール樹脂により構成された摺動部材の層104で覆われていることを特徴とする回転機器用回転子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転機器用回転子、回転機器用回転子の着磁方法、磁気エンコーダおよびその製造方法に係り、回転子に高磁力な着磁が可能となる技術に関する。
【背景技術】
【0002】
着磁された回転子を有したモータや磁気エンコーダ等の各種回転機器が知られている。この回転子における着磁構造は、周方向に沿って配置された永久磁石の構成材料に着磁装置を用いてNSNS・・と順次着磁を行うことで構成されている。ところで、モータや磁気エンコーダの性能を向上させる上で、上述した回転子のマグネットをより強力(より高磁力)なものとすることが重要となる。マグネットをより強力なものとするには、より強力な着磁を行う必要がある。
【0003】
着磁をより強力に行うには、着磁装置の着磁ヘッドを着磁対象部分に接触させた状態で着磁を行う方法が最も効果的である。これは、着磁ヘッドが着磁対象部分から離れると、漏れ磁束が生じる傾向が増大し、着磁の効率が低下するからである。
【0004】
特許文献1には、着磁対象物に着磁ヘッドを接触させて着磁を行う技術について記載されている。特許文献2の図3には、着磁ヘッドをテープ状のカバー部材を介して着磁対象物に押し当て、着磁を行う技術が記載されている。特許文献3には、プラスチックマグネットの破損を防止する目的でフィルムを一体成形する技術が記載されている。特許文献4には、ボンド磁石の表面に、このボンド磁石を構成する樹脂材料により構成される樹脂層を形成し、この樹脂層を軸受等の摺動部材として利用する構成が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−59718号公報
【特許文献2】特開平11−186036号公報
【特許文献3】特開平11−215779号公報
【特許文献4】特開平11−329814号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したように、より強力な着磁を行うには、着磁対象物に着磁ヘッドを直接接触させる方法が有効となる。しかしながら、回転機器の回転子に着磁を行う場合、着磁ヘッドに対して回転子を回転させながら着磁を行うので、着磁ヘッドと回転子表面とが擦れる。この擦れにより、着磁ヘッド表面および着磁対象物表面の一方または両方の磨耗が生じる。特許文献2には、着磁ヘッドと着磁対象物との間にカバー部材を介する技術が記載されているが、この技術ではカバー部材を別に用意しなくてはならず、また作業が煩雑となる問題がある。
【0007】
特許文献3に記載の技術は、プラスチックマグネットの破損を防止する目的でフィルムを一体成形するもので、上記の着磁に係る問題とは関係がない。特許文献4に記載の技術は、樹脂を軸受やリニアモータにおける摺動部材として用いる技術であり、上記の着磁に係る問題とは関係がない。
【0008】
このような背景において、本発明は、回転機器の回転子に着磁を行う技術において、着磁ヘッドを回転子に接触させて着磁を行う場合に、着磁ヘッドおよび回転子の一方または両方が磨耗する現象を抑える技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に記載の発明は、円筒形状のホルダと、前記ホルダの外周面に固定された被着磁体とを備え、前記被着磁体の被着磁面が2色成形による摺動部材で覆われていることを特徴とする回転機器用回転子である。請求項1に記載の発明によれば、被着磁体における着磁が行われる部分の表面に2色成形による摺動部材が形成されていることで、摺動部材越しに被着磁体に着磁ヘッドを接触させ、且つ、着磁ヘッドを相対的に移動させての着磁において、被着磁体および着磁ヘッドの一方または両方の磨耗が抑えられる。
【0010】
ここで2色成形というのは、樹脂を原料としたモールド成形において、第1の樹脂材料による射出成形と第2の樹脂材料による射出成形とを2段階に分けて行い、第1の樹脂材料による成形品と第2の樹脂材料による成形品とが一体化されたモールド成形品を得る成形技術のことをいう。本発明では、一方の原料としてボンド磁石を構成する樹脂材料(磁性材料)を選択し、他方の原料として、摺動部材を構成する樹脂材料を選択する。これにより、着磁ヘッドが接触する被着磁面を摺動部材で覆った構造のボンド磁石を備えた回転子を得、当該ボンド磁石への着磁工程における着磁ヘッドの接触に起因する磨耗の問題が低減される。
【0011】
2色成形による摺動部材の形成は、工程の増加による負担が僅かであり、また2色成形の特徴から、摺動部材の被着磁面への密着性が良好であるので、着磁ヘッドが接触することによる摺動部材の剥がれや破損が生じ難い構造が得られる。そのため、摺動部材の厚みを薄くすることができる。本発明では、着磁の際において、着磁ヘッドと被着磁体との間に摺動部材の厚みの分の隙間が生じるので、摺動部材の厚みはできるだけ薄い方がよい。この点で、2色成形により形成した被膜は、薄く強固にできるので、この点で好ましい。
【0012】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記被着磁体に2色成形する前記摺動部材は、ポリアセタール樹脂であることを特徴とする。ポリアセタール樹脂は、摺動性に優れ、また2色成形による形成が行い易いので、本発明の摺動部材として用いるのに適している。
【0013】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の発明において、前記被着磁体は、ボンド磁石であることを特徴とする。ボンド磁石を用いた場合、樹脂材料中に磁性材料の粉体が分散した材質となるので、仮に着磁ヘッドと直接接触させた場合に、着磁ヘッドが相対的に高硬度で分散して存在する細かい磁性粉と接触することになり、ボンド磁石に対して着磁ヘッドを摺動させた場合における着磁ヘッドの磨耗が顕著になる。本発明を採用した場合、ボンド磁石と着磁ヘッドとの摺動が摺動部材を介在したものとなるので、ボンド磁石を用いた場合であっても、上記の着磁ヘッドの磨耗が抑えられる。
【0014】
請求項4に記載の発明は、請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の回転機器用回転子を用いたことを特徴とする磁気エンコーダである。磁気エンコーダの回転子における着磁は、検出する角度の分解能を高めるために狭いピッチで、且つ、高磁束な状態で行う必要がある。このような着磁は、着磁ヘッドを着磁する対象に接触させた状態で着磁ヘッドを移動させつつ行う必要がある。本発明を採用した場合、着磁ヘッドとその接触対象物との間で生じる磨耗の問題が緩和されるので、磁気エンコーダの回転子のような狭いピッチで高磁束な磁極を形成しなくてはならない場合にも対応が容易となる。
【0015】
請求項5に記載の発明は、円筒形状のホルダと、前記ホルダの外周面に固定された被着磁体と、着磁ヘッドとを用いて前記被着磁体に着磁を行う着磁方法において、前記着磁ヘッドによって着磁される前記被着磁体の被着磁面が2色成形により形成された摺動部材で被覆されており、前記着磁ヘッドを前記摺動部材の被覆越しに前記被着磁面に接触させ、前記被着磁体の着磁を行うことを特徴とする回転機器用回転子の着磁方法である。
【0016】
請求項6に記載の発明は、請求項5に記載の発明において、前記被着磁体に2色成形する前記摺動部材は、ポリアセタール樹脂であることを特徴とする。
【0017】
請求項7に記載の発明は、請求項5または6に記載の発明において、前記被着磁体は、ボンド磁石であることを特徴とする。
【0018】
請求項8に記載の発明は、請求項5乃至請求項7のいずれか一項に記載の回転機器用回転子の着磁方法を用いたことを特徴とする磁気エンコーダの製造方法である。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、回転機器の回転子に着磁を行う技術において、着磁ヘッドを回転子に接触させて着磁を行う場合に、着磁ヘッドおよび回転子の一方または両方が磨耗する現象を抑える技術が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】実施形態の回転子の製造工程を段階的に示す断面図(A)および(B)と、(B)に示す構造の斜視図(C)である。
【図2】着磁工程を示す概念図である。
【図3】着磁された状態を示す概念図である。
【図4】実施形態の磁気エンコーダの概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、発明を利用した回転子について説明する。以下において例示する回転子は、略円筒形状を有し、外周の周方向にNSNS・・と着磁された構造を有している。この回転子は、磁気エンコーダやブラシレスDCモータ等の回転機器の回転子(ロータ)として利用することができる。
【0022】
図1〜3には、実施形態の回転子の製造工程が示されている。まず、図1(A)に示すロータ部材101を用意する。ロータ部材101は、円筒形状のホルダの一例であり、金属により構成されている。ロータ部材101の中心には、回転軸となる後述するシャフトを貫通させるための貫通孔102が設けられている。ロータ部材101を用意したら、ロータ部材101をインサート材とした射出成形(モールド成形)により、ロータ部材101の外周に固着したマグネット層103、およびマグネット層103の外周に固着した摺動部材の層104を2色成形法に形成する。
【0023】
以下、マグネット層103と摺動部材の層104を2色成形法により形成する工程の一例を説明する。まず、金型内にロータ部材101をインサート材として配置する。次いで、1回目の射出成形を行い、マグネット層103を形成する。この状態が図1(A)に示されている。マグネット層103は、ボンド磁石(プラスチック磁石)であり、永久磁石を構成するネオジ系の磁性材料の粉末とナイロン系の樹脂材料またはポリフェニレンスルファイド(PPS)系の樹脂材料とを混ぜ、それを原料とした射出成形法によって形成される。なお、この段階において、マグネット層103は、着磁されておらず、磁石とはなっていない。
【0024】
次に、2色成形の2番目の樹脂としてポリアセタール樹脂の射出成形を行い、ポリアセタール樹脂により構成される摺動部材の層104を略円筒形状を有するマグネット層103の外周に形成する。この状態が図1(B)および図1(C)に示されている。ポリアセタール樹脂により構成される摺動部材の層104の厚さは、3μm〜30μmの範囲から選択される。後の着磁工程において、この摺動部材の層104の厚みの分、後述する着磁ヘッド201とマグネット層103との間に隙間ができる。したがって、摺動部材の層104の厚みが上記の範囲よりも厚いと、着磁により得られる磁力を高くする点で悪影響が出る。また、摺動部材の層104の厚みが上記の範囲よりも薄いと、着磁ヘッド201との間における摺動性に悪影響が出る可能性が増大し、また摺動部材の層104の耐久性が低下する。
【0025】
図1(B)の状態を得たら、マグネット層103に対する着磁を行う。図2には、この着磁を行う作業の状態が概念的に示されている。図2(A)には、着磁装置200が示されている。着磁装置200は、着磁ヘッド201を備えている。着磁ヘッド201は、軟磁性材料により構成されたコア材203,204の先端の部分により構成されている。コア材203,204には、励磁コイル205,206が巻回されている。励磁コイル205,206に励磁電流を流すことでコア材203,204に磁路を作り、着磁ヘッド201に接触または近接した被着磁体である強磁性材料(この例の場合は、マグネット層103)に着磁を行う。
【0026】
図2を参照してマグネット層103に対する着磁の作業について説明する。まず、摺動部材の層104越しにマグネット層103に着磁ヘッド201を押し付け、接触させる。この状態で励磁コイル205,206に励磁電流を流し、着磁ヘッド201が摺動部材の層104越しに接触したマグネット層103の部分に対する着磁を行なう。次いで、励磁コイル205,206に流している励磁電流を一旦切り、着磁ヘッド201が摺動部材の層104に接触した状態でロータ部材101を回転させ、先に着磁した部分に隣接する場所に着磁ヘッド201を移動させる。そして、上述したのと同様な着磁の作業を再度行う。この動作を繰り返すことで、周方向において、マグネット層103がNSN・・・と着磁された状態を得る。この着磁された状態の一例が、図3に示されている。図3に示す構造は、角度センサの一種である磁気エンコーダのロータ(回転子)に利用することができる。
【0027】
図4には、図3に示す構造を利用した磁気エンコーダの断面構造の一例が示されている。図4には、図3に示す構造を有するロータ(回転子)108が示されている。ロータ108は、ロータ部材101、マグネット層103および摺動部材の層104を備えている。ロータ部材101の中心には、回転軸となるシャフト116が固定されている。シャフト116は、図示しない軸受によりステータハウジング110の内側において回転自在な状態で保持されている。ステータハウジング110は、ステータ109を構成する部材である。ステータハウジング110は、被磁性材料により構成され、略円筒形状を有している。ステータハウジング110の内周とロータ108の外周とは、ロータ108の回転が阻害されない程度の隙間が設けられている。
【0028】
ステータハウジング110の内周面には、MRセンサ(磁気抵抗センサ)111〜114が埋め込まれている。ここで、MRセンサの代わりにホールICを利用することもできる。MRセンサ111〜114の抵抗値は、電気信号として角度演算部115に送られる。ロータ108が回転すると、周方向にNSNS・・と着磁されたマグネット103層がMRセンサ111〜114の前を移動する。この際、MRセンサ111〜114の抵抗値が変化する。このMRセンサ111〜114の抵抗値の変化に基づき、角度演算部115は、ロータ108の回転の有無、回転方向および回転角度を算出する。角度演算部115において行われる演算は、通常の磁気エンコーダにおけるものと同じである。
【0029】
(優位性)
以上述べたように、図1(B)および(C)に示す回転機器用回転子は、円筒形状のホルダであるロータ部材101と、ロータ部材101の外周面に固定された被着磁体であるマグネット層103とを備え、マグネット層103の外周面が摺動部材の層104で覆われた構造を有している。ここで、摺動部材の層104は、2色成形によってボンド磁石であるマグネット層103と一体に成形されたポリアセタール樹脂の層である。この構造によれば、図2に示すように、着磁ヘッド201を摺動部材の層104に接触させての着磁において、着磁ヘッド201とマグネット層103とを直接接触させることなく、且つ、両者を極力近付けることができ、高磁力の着磁を行いつつ、着磁ヘッド201およびマグネット層103(あるいはその一方)の磨耗が抑えられる。また、マグネット層103がポリアセタールの樹脂の層によって被覆されているので、マグネット層103の防錆や防食効果が得られる。
【0030】
(その他)
図4には、回転機器の例として、磁気エンコーダの例を説明したが、本発明を利用した回転機器としては、インナーロータ型のブラシレスDCモータ(ステッピングモータ)を挙げることができる。本発明の態様は、上述した個々の実施形態に限定されるものではなく、当業者が想到しうる種々の変形も含むものであり、本発明の効果も上述した内容に限定されない。すなわち、特許請求の範囲に規定された内容およびその均等物から導き出される本発明の概念的な思想と趣旨を逸脱しない範囲で種々の追加、変更および部分的削除が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明は、回転機器用回転子、回転機器用回転子の着磁方法および磁気エンコーダに利用することができる。
【符号の説明】
【0032】
101…ロータ部材、102…貫通孔、103…マグネット層、104…摺動部材の層、108…ロータ、109…ステータ、110…ステータハウジング、111…MRセンサ、112…MRセンサ、113…MRセンサ、114…MRセンサ、115…角度演算部、200…着磁装置、201…着磁ヘッド、203…コア材、204…コア材、205…励磁コイル、206…励磁コイル。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒形状のホルダと、
前記ホルダの外周面に固定された被着磁体と
を備え、
前記被着磁体の被着磁面が2色成形による摺動部材で覆われていることを特徴とする回転機器用回転子。
【請求項2】
前記被着磁体に2色成形する前記摺動部材は、ポリアセタール樹脂であることを特徴とする請求項1に記載の回転機器用回転子。
【請求項3】
前記被着磁体は、ボンド磁石であることを特徴とする請求項1または2に記載の回転機器用回転子。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の回転機器用回転子を用いたことを特徴とする磁気エンコーダ。
【請求項5】
円筒形状のホルダと、
前記ホルダの外周面に固定された被着磁体と、
着磁ヘッドと
を用いて前記被着磁体に着磁を行う着磁方法において、
前記着磁ヘッドによって着磁される前記被着磁体の被着磁面が2色成形により形成された摺動部材で被覆されており、
前記着磁ヘッドを前記摺動部材の被覆越しに前記被着磁面に接触させ、前記被着磁体の着磁を行うことを特徴とする回転機器用回転子の着磁方法。
【請求項6】
前記被着磁体に2色成形する前記摺動部材は、ポリアセタール樹脂であることを特徴とする請求項5に記載の回転機器用回転子の着磁方法。
【請求項7】
前記被着磁体は、ボンド磁石であることを特徴とする請求項5または6に記載の回転機器用回転子の着磁方法。
【請求項8】
請求項5乃至請求項7のいずれか一項に記載の回転機器用回転子の着磁方法を用いたことを特徴とする磁気エンコーダの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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