説明

回転電機の固定子

【課題】セグメント導体間の絶縁性を確保しつつ、コイルエンドの軸方向高さを低くし得るようにした回転電機の固定子を提供する。
【解決手段】固定子1は、周方向に複数配置されたスロット3を備える固定子鉄心2と、被膜を有する複数のセグメント導体7を接続してなる固定子巻線4とで構成されている。固定子巻線4は、固定子鉄心2の一方の端面で第1コイルエンド群5を形成し、他方の端面で第2コイルエンド群6を形成する。第2コイルエンド群6は、固定子鉄心2の周方向に固定子鉄心端面とθの角度をなすように傾斜した第1斜行部14と、固定子鉄心端面とθの角度をなすように傾斜した第2斜行部15とを有する。第1斜行部14と第2斜行部15は、θ>θなる関係を有しており、且つ第2斜行部15は、セグメント導体7の被膜が剥離されて互いに接合された接合部16a側に設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば車両に搭載されて使用される回転電機の固定子に関し、特にセグメント導体接合型の固定子巻線を備えた回転電機の固定子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、回転電機では固定子鉄心に整列して配置される複数のスロットに挿通した固定子巻線が、導体の占積率向上のため提案されている。
【0003】
前記固定子巻線は、例えばU字状に形成され2本の直線部を有して端部とU字部を有するセグメント導体を、そのU字部をねじりながら広げて2本の直線部を固定子鉄心の異なるスロットに挿通して導体挿通部からなる電気導体を構成し、そしてスロットより突出する導体突出部を固定子鉄心の周方向へ傾けて斜行部を形成してコイルエンドを構成するか、または予め傾斜した斜行部を成形した後、固定子鉄心に挿着してコイルエンドを構成し、その後周方向のセグメント導体と、径方向に隣接するセグメント導体の2つの端部を1対として端部対を形成し、これを溶接等により接合して、連続した巻線を構成するものである。
【0004】
特許文献1では、前記の様にセグメント導体を接合し形成される固定子巻線のコイルエンド形状として、セグメント導体の斜行部に存在する被膜剥離部が、固定子鉄心の径方向に隣接する他のセグメント導体の被膜剥離部と接合される事例と、斜行部を除く斜状導体部の領域において固定子鉄心端面と垂直な向きに延在する端部立上り部に存在する被膜剥離部において、固定子鉄心の径方向に隣接する他のセグメント導体の被膜剥離部と接合される事例が開示されている。
【0005】
また、特許文献2では、セグメント導体を特許文献1で開示されたU字状に形成する以外に、直線状のセグメント導体の一端を傾斜させて固定子鉄心に挿入し、他端から突出した導体突出部を、周方向について逆方向に傾斜させることでS字状のセグメント導体とした後、固定子鉄心の径方向に隣接する他のセグメント導体の被膜剥離部と斜行部にて接合した、S字状セグメント導体を用いた固定子巻線が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−199751号公報
【特許文献2】米国特許第7,759,835号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、特許文献1にて開示されるコイルエンド形状において、コイルエンドを低くするために、斜行部と固定子鉄心端面のなす角度を小さくすると、固定子鉄心の周方向に隣接する接合部間の距離が短くなり、絶縁性を確保することが困難である。
【0008】
また、斜行部と固定子鉄心端面のなす角度を小さくするほど、セグメント導体の接合部と、周方向に隣接する他のセグメント導体の斜行部との空間距離が短くなり、溶接等の入熱により他のセグメント導体の表面を被覆する絶縁被膜が熱劣化する恐れが生じるため、絶縁性を確保することが困難である。
【0009】
さらに、セグメント導体の斜行部と端部立上り部との間を接続し円弧状に延在する曲り部において、セグメント導体断面が台形状に変形し、固定子鉄心の径方向に並ぶセグメント導体同士が干渉し合うため、その分固定子鉄心の径方向に対してスペースを必要とすることとなり、小型化が困難である。
【0010】
また、セグメント導体の曲り部から端部立上り部にかけて、接合される他のセグメント導体と固定子鉄心の径方向に重なり合うため、向かい合う被膜剥離部は接合時において、被膜厚さ分引き寄せなければならず、引き寄せのための冶具スペースの確保が必要となり小型化が困難である。
【0011】
一方、特許文献2にて開示されるS字状セグメント導体を用いた場合、固定子鉄心を挟んで軸方向両側に溶接部を設けることとなり、より多くの工程が必要となる。
【0012】
さらに、U字状セグメント導体を用いた場合の、セグメント導体の斜行部で接合される事例と同様に、固定子鉄心の周方向に隣接する接合部間の距離が、絶縁に必要なだけの沿面距離を確保できずに回転電機駆動時において短絡の恐れが生じる上、斜行部と固定子鉄心端面のなす角度を小さくするほど、セグメント導体の接合部と、周方向に隣接する他のセグメント導体の斜行部との空間距離が短くなり、溶接等の入熱により他のセグメント導体の表面を被覆する絶縁被膜が熱劣化する恐れが生じるため、絶縁性を確保することが困難である。
【0013】
近年、車両用回転電機においては、特に小型化と高効率化が強く望まれるようになっている。それ故、固定子鉄心のスロットに収容する導体およびコイルエンドにおける導体を小型でかつ絶縁性を確保した高密度に収容可能なコイルエンド構造が重要となる。
【0014】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、セグメント導体間の絶縁性を確保しつつ、コイルエンドの軸方向高さを低くし得るようにした回転電機の固定子を提供することを解決すべき課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するためになされた請求項1に記載の発明は、周方向に複数配置されたスロットを備える固定子鉄心と、被膜を有する複数のセグメント導体を接続してなる固定子巻線とで構成された回転電機の固定子において、前記固定子巻線は、前記スロットに挿通されたスロット収容部と、前記スロット収容部と接続され前記スロットから突出したコイルエンド部とを備え、前記コイルエンド部は、前記固定子鉄心の周方向に前記固定子鉄心端面とθの角度をなすように傾斜した第1斜行部と、前記固定子鉄心の周方向に前記固定子鉄心端面とθの角度をなすように傾斜した第2斜行部とを有しており、前記第1斜行部と前記第2斜行部は、θ>θなる関係を有しており、且つ前記第2斜行部は、前記セグメント導体の前記被膜が剥離され互いに接合された接合部側に設けられていることを特徴とする。
【0016】
請求項1に記載の発明によれば、第1斜行部と第2斜行部は、θ>θなる関係を有しており、且つ第2斜行部は、セグメント導体の被膜が剥離され互いに接合された接合部側に設けられている。そのため、上記従来のようにセグメント導体の斜行部で接合される場合に比べ、固定子鉄心の周方向に隣接する接合部間の距離が長くなり、より多くの空間距離を確保できるため、良好な絶縁性を確保することができる。
【0017】
加えて、上記特許文献1に記載されているように、セグメント導体の端部立上り部にて接合される場合に対し、固定子鉄心の径方向における曲り部でのセグメント導体同士の干渉がなく、またセグメント導体間の被膜の重なりがないことにより、接合時に被膜厚さ分接合部を引き寄せる必要がなく、引き寄せのための冶具スペースが不要であるため小型化が可能である。
【0018】
請求項2に記載の発明は、前記固定子巻線は、前記セグメント導体の前記第1斜行部と、径方向に隣接する他の前記セグメント導体の前記第1斜行部が交差した導体交差領域を持つことを特徴とする。
【0019】
請求項2に記載の発明によれば、セグメント導体の端部同士が互いに接合された接合部から導体交差部までの距離を長くすることができるので、溶接等による被膜への熱影響を抑制することが出来、被膜の熱劣化による絶縁性悪化を防ぐことが出来る。
【0020】
請求項3に記載の発明は、前記セグメント導体の被膜剥離部は、前記導体交差領域よりも前記接合部側に存在することを特徴とする。
【0021】
請求項3に記載の発明によれば、セグメント導体の他の領域に比べ、導体間距離が短い導体交差部の絶縁性を向上させることが出来る。
【0022】
請求項4に記載の発明は、前記セグメント導体は、矩形断面を有するとともに、前記接合部およびその周辺において、径方向の導体厚さが当該セグメント導体の他の領域に比べ相対的に薄いことを特徴とする。
【0023】
固定子巻線において、セグメント導体の端部同士を溶接で接合するためにその端部同士を固定子鉄心の径方向に互いに密接させる際に、隣り合う接合部間の空間距離が短いと、目的とする接合部の隣にある接合部が誤って溶接され易い。そのため、請求項4に記載の発明によれば、セグメント導体の接合部およびその周辺の径方向の導体厚さが、他の領域に比べ相対的に薄くされているので、その分接合部を薄くすることができる。これにより、隣り合う接合部間の空間距離を広げることができるため、絶縁性を向上させることに加え、接合部間を誤って溶接することを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】実施形態1に係る回転電機の固定子の全体構成を示す斜視図である。
【図2】(a)は実施形態1の固定子における固定子鉄心の1つのスロット断面について模式的に示す説明図であり、(b)はその側面構成の一部を示す部分側面図である。
【図3】(a)は実施形態1において固定子鉄心にセグメント導体を挿着した際の固定子鉄心の1つのスロット断面について模式的に示す説明図であり、(b)はその側面構成の一部を示す部分側面図である。
【図4】(a)は比較例1における周方向の接合部間距離を示す説明図であり、(b)は実施形態1において接合部間距離が相対的に長くなることを示す説明図である。
【図5】(a)は比較例2における接合部から導体交差部までの距離Lを示す説明図であり、(b)は実施形態1における接合部から導体交差部までの距離Lを示す説明図である。
【図6】(a)は実施形態2の固定子における固定子鉄心の1つのスロット断面について模式的に示す説明図であり、(b)はその側面構成の一部を示す部分側面図である。
【図7】(a)は実施形態2において固定子鉄心にセグメント導体を挿着した際の固定子鉄心の1つのスロット断面について模式的に示す説明図であり、(b)はその側面構成の一部を示す部分側面図である。
【図8】(a)はセグメント導体の接合部に切欠き部を設けない場合において接合部の溶接時に端子間の短絡が生じる恐れを示す説明図であり、(b)は実施形態2において接合部の溶接時に端子間の短絡が生じ難いことを示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明に係る回転電機の固定子の実施形態について図面を参照して具体的に説明する。
【0026】
〔実施形態1〕
図1は、実施形態1に係る回転電機の全体構成を示す断面図である。図2(a)は実施形態1の固定子における固定子鉄心の1つのスロット断面について模式的に示す説明図であり、(b)はその側面構成の一部を示す部分側面図である。図3(a)は実施形態1において固定子鉄心にセグメント導体を挿着した際の固定子鉄心の1つのスロット断面について模式的に示す説明図であり、(b)はその側面構成の一部を示す部分側面図である。
【0027】
本実施形態では、回転電機としての車両用モータの固定子への適用を説明する。図1に示すように、固定子1は円筒状の固定子鉄心2を有する。固定子鉄心2の内周部には、軸方向に垂直な固定子鉄心2の端面に貫通する複数のスロット3が周方向に等間隔に、また径方向に放射状に設けられている。複数のスロット3には、3相巻線である固定子巻線4が挿通されている。この固定子巻線4は、固定子鉄心2の一方の端面で第1コイルエンド群5を形成し、他方の端面で第2コイルエンド群6を形成する。図2に示すように、個々のスロット3内には、固定子巻線4を構成するセグメント導体7が1列に並び収容されている。各スロット3とその中に収容されるセグメント導体7との間には、絶縁紙8が挿入されている。
【0028】
固定子巻線4は、電気導体である複数のセグメント導体7を接合して構成され、各スロット3には偶数本(本実施形態では8本)のセグメント導体7が収容されている。本実施形態では、セグメント導体7として、図3に示すU字状のセグメント導体7を用いる。なお、U字状のセグメント導体7に代えて、S字状のセグメント導体を用いても良い。
【0029】
図3に示すように、U字状のセグメント導体7は、矩形断面を持ち絶縁被膜が被覆された平角導線を所定長さに切断し、U字状に折り曲げて一対の直線部9と両直線部9を接続する1個のターン部10とを形成した後に、この一対の直線部9を所定位置で所定方向にねじるように広げて形成される。図3に示すように、本実施例では、セグメント導体7は大小2種類の大セグメント7aと小セグメント7bからなり、大セグメント7aが小セグメント7bを包むように整列された1対構造をとる。このU字状のセグメント導体7は、各直線部9が固定子鉄心2の一方の端面から異なるスロット3内に挿通されて導体挿通部(スロット収容部)11を形成し、図2に示すように、固定子鉄心2の他方の端面から突出した各導体突出部12に曲げ加工が加えられて、周方向および軸方向に延在する斜状導体部13が形成されている。
【0030】
セグメント導体7の一方の斜状導体部13(図2(b)の紙面手前側)は、周方向一方側(図2(b)の左側、時計回り方向)へ曲げられ、他方の斜状導体部13(図2(b)の紙面後方側)は、周方向他方側(図2(b)の右側、反時計回り方向)へ曲げられている。周方向の両側へそれぞれ曲げられた斜状導体部13は、後端側(導体突出部12側)に位置する直線状の第1斜行部14と、第1斜行部14の先端側(導体端部17側)に位置する直線状の第2斜行部15とを有する。第1斜行部14は、固定子鉄心2の周方向において固定子鉄心端面とθの角度をなすように傾斜し、第2斜行部15は、固定子鉄心2の周方向において固定子鉄心端面とθの角度をなすように傾斜している。この場合、第2斜行部15の傾斜角度θは、第1斜行部14の傾斜角度θよりも大きくされており、第1斜行部14と第2斜行部15は、θ>θなる関係を有している。
【0031】
第2斜行部15の先端部に位置する導体端部17には、径方向に隣接する他の導体端部17と溶接により接合するために、絶縁被膜を剥離して形成した被膜剥離部16が設けられている。この被膜剥離部16は、絶縁被膜をカッターあるいは化学薬品などで除去することにより形成される。
【0032】
そして、セグメント導体7の周方向一方側へ曲げられた一方の斜状導体部13と、周方向他方側へ曲げられた他方の斜状導体部13は、径方向に隣接して対をなす所定の被膜剥離部16同士が溶接により接合されている。本実施形態の場合、セグメント導体7の両方の斜状導体部13は、図4(b)に示すように、第1斜行部14とこの第1斜行部14よりも大きな傾斜角度θを持つ第2斜行部15とを有することから、周方向に隣接する被膜剥離部16の接合部16a間の距離を、図4(a)に示す比較例1の接合部161a間の距離に比べて長くすることができる。これにより、より多くの空間距離を確保できるため、良好な絶縁性が確保されている。なお、比較例1のセグメント導体71は、両斜状導体部131が第1斜行部141のみで構成されており、第2斜行部15に相当するものを有していない。
【0033】
また、セグメント導体7の周方向一方側へ曲げられた一方の斜状導体部13と、周方向他方側へ曲げられた他方の斜状導体部13は、図5(b)に示すように、第1斜行部14同士が交差するようにされている。即ち、本実施形態の固定子巻線4は、セグメント導体7の第1斜行部14と、径方向に隣接する他のセグメント導体7の第1斜行部14が交差した導体交差領域を有する。よって、セグメント導体7の第2斜行部15は、導体交差領域(導体交差部20)よりも接合部16a(導体端部17)側に位置している。
【0034】
これにより、セグメント導体7の被膜剥離部16(導体端部17)同士が互いに接合された接合部16aと導体交差部20との間に第2斜行部15が存在しているため、接合部16aから導体交差部20までの距離Lを、図5(a)に示す比較例2の接合部162aから導体交差部202までの距離Lに比べて長くすることができる。この比較例2のセグメント導体72は、それぞれの斜状導体部132の第1斜行部142同士ではなく、第2斜行部15同士が交差するようにされている。
【0035】
また、本実施形態では、セグメント導体7の被膜剥離部16は、導体交差領域(導体交差部20)よりも接合部16a(導体端部17)側に存在するようにされている。即ち、被膜剥離部16は、導体交差領域(導体交差部20)よりも接合部16a(導体端部17)側のみに存在している。従って、セグメント導体7の第2斜行部15の導体交差部20となる部位には、被膜剥離部16は存在していない。これにより、セグメント導体7の他の領域に比べ、導体間距離が短い導体交差部20の絶縁性の向上が図られている。
【0036】
なお、上記大小の対をなすセグメント導体7a、7bは、2対を用いて、スロット3内の外周側と内周側にそれぞれ順次挿着される。挿着する方法に関しては、スロット3の外周側と内周側で同様であるため、ここでは内周側に1対のセグメント導体7a、7bを挿着する場合について説明する。1つのスロット3内の内層の導体挿通部11aは、固定子鉄心2の時計回り方向に向けて1磁極ピッチ分離れた別のスロット3内の外層の導体挿通部11aと対をなしている。同様に、1つのスロット3内の中層の導体挿通部11bは、固定子鉄心2の時計回り方向に向けて1磁極ピッチ分離れた別のスロット3内の中層の導体挿通部11bと対をなしている。これら対をなす導体挿通部11は、固定子鉄心2の軸方向の一方の端面側において連続するターン部10を経ることにより接続される。
【0037】
従って、固定子鉄心2の一方の端面側においては、中層の導体挿通部11b同士を接合する連続するターン部10を、内層と外層の導体挿通部11aを接続する連続するターン部10が囲むことになる。つまり、固定子鉄心2の一方の端面側においては、中層の導体挿通部11b同士の接続により中層コイルエンドが形成され、内外層の導体挿通部11a同士の接続により端層コイルエンドが形成されて、これらコイルエンドにより第1コイルエンド群5が構成される。
【0038】
一方、1つのスロット3内の中層の導体挿通部11bは、固定子鉄心2の時計回り方向に向けて1磁極ピッチ分離れた別のスロット3内の内層の導体挿通部11a’(符号’は別のセグメント導体を示す)とも対をなしている。同様に、1つのスロット3内の外層の導体挿通部11a’は、固定子鉄心2の時計回り方向に向けて1磁極ピッチ分離れた別のスロット3内の中層の導体挿通部11bとも対をなしている。そして、これらの導体挿通部11は、固定子鉄心2の軸方向の他方の端面側において接合により接続される。
【0039】
従って、固定子鉄心2の他方の端面側においては、外層の導体挿通部11a’と中層の導体挿通部11bとを接続する外層端部対18と、内層の導体挿通部11a’と中層の導体挿通部11bとを接続する内層端部対18とが、径方向に並んだ状態で配置され、スロット3のさらに外周側に配置されるもう1対のセグメント導体7を含めることによって、内層端部対18と外層端部対18がそれぞれ2個ずつ、つまり合計4個の端部対18が径方向に1列に配列される。これにより、固定子鉄心2の他方の端面側に、4つの異なる同心円上に配置された4列の端部対18を形成する第2コイルエンド群6が構成される。
【0040】
この場合、端部対18を構成する導体端部17は、互いに絶縁被膜を接触させることなく導体剥離部16のみで接続されることで、セグメント導体7の被膜厚さ分や、加工による径方向への変形分を加味することなく省スペースに構成することが出来、第2コイルエンド群6の小型化が可能となる。
【0041】
また、周方向にも隣り合う端部対18のピッチは、スロット3のピッチに相当し、周方向に隣り合う端部対18同士は、互いに接触することなく絶縁性を確保している。固定子1の内側から1列目が内側端部対列を、4列目が外側端部対列を、そして2、3列目が中間端部対列を構成している。これらの端部対18は、例えば、電極を1列目の内側端部対列および4列目の外側端部対列に付設して、電極と電気的導通を確保したアーク溶接等の手段によって接合されて、電気的に接続された連続する固定子巻線4が構成される。
【0042】
以上のように、本実施形態の車両用モータの固定子1によれば、固定子巻線4の第2コイルエンド群6の斜状導体部13には、第1斜行部14の傾斜角度θよりも大きい傾斜角度θを有する第2斜行部15が設けられており、且つ第2斜行部15は、U字状のセグメント導体7の開放端部にある被膜剥離部16の接合部16a(導体端部17)側に設けられている。そのため、図4(a)に示す比較例1のように、セグメント導体71の第1斜行部141で接合される場合に比べ、固定子鉄心2の周方向に隣接する接合部16a間の距離が長くすることができる。これにより、より多くの空間距離を確保できるため、良好な絶縁性を確保することができる。
【0043】
また、本実施形態の固定子巻線4は、セグメント導体7の第1斜行部14と、径方向に隣接する他のセグメント導体7の第1斜行部14が交差した導体交差領域を有するため、接合部16aから導体交差部20までの距離Lを、図5(a)に示す比較例2の場合(距離L)に比べて長くすることができる。これにより、セグメント導体7の表面を被覆する絶縁被膜への溶接等による熱影響を抑制することが出来るので、絶縁被膜の熱劣化による絶縁性悪化を防ぐことが出来る。
【0044】
また、セグメント導体7の被膜剥離部16は、導体交差領域(導体交差部20)よりも接合部16a(導体端部17)側に存在するようにされているので、セグメント導体7の他の領域に比べ、導体間距離が短い導体交差部20の絶縁性の向上を図ることができる。
【0045】
〔実施形態2〕
図6(a)は実施形態2の固定子における固定子鉄心の1つのスロット断面について模式的に示す説明図であり、(b)はその側面構成の一部を示す部分側面図である。図7(a)は実施形態2において固定子鉄心にセグメント導体を挿着した際の固定子鉄心の1つのスロット断面について模式的に示す説明図であり、(b)はその側面構成の一部を示す部分側面図である。図8(a)はセグメント導体の接合部に切欠き部を設けない場合において接合部の溶接時に端子間の短絡が生じる恐れを示す説明図であり、(b)は実施形態2において接合部の溶接時に端子間の短絡が生じ難いことを示す説明図である。
【0046】
本実施形態の固定子1は、固定子巻線4を構成するセグメント導体7が、矩形断面を有するとともに、接合部16aおよびその周辺において、径方向の導体厚さが当該セグメント導体7の他の領域に比べ相対的に薄くされている点でのみ実施形態1と異なる。よって、実施形態1と共通する部材や構成については、図6〜図8に実施形態1と同じ符号を付すのみに止めて詳しい説明を省略し、異なる点について説明する。
【0047】
本実施形態において、セグメント導体7の導体端部17に存在する被膜剥離部16は、図7および図8に示すように、絶縁被膜をカッターあるいは化学薬品などで除去されることにより形成されており、その後、さらに被膜剥離部16の一部をカッター等により切欠くことで、径方向に薄肉化された切欠き部19が形成されている。これにより、本実施形態では、径方向に1列に整列する端部対18は、セグメント導体7の導体端部17が切欠き部19によって薄肉化された被膜剥離部16を構成しているので、径方向に隣り合う端部対18は互いに接触することなく所望の間隙を有して絶縁性を確保することができる。
【0048】
また、セグメント導体の接合部16aおよびその周辺の径方向の導体厚さが、他の領域に比べ相対的に薄くされているので、その分接合部16aを薄くすることができる。これにより、隣り合う接合部16a間の空間距離を広げることができるため、絶縁性を向上させることに加え、図8(b)に示すように、端部対18を溶接で接合する際に、溶接トーチ21から放射されるアーク21aが隣の被膜剥離部16に短絡し難く、隣の被膜剥離部16を誤って溶接してしまうことを防止できる。
【0049】
なお、図8(a)に示すように、セグメント導体7の被膜剥離部16(導体端部17)に径方向に薄肉化された切欠き部19が設けられていない場合には、隣り合う接合部16a間の空間距離が狭いため、良好な絶縁性を得ることが困難となるばかりか、端部対18を溶接で接合する際に、溶接トーチ21から放射されるアーク21aが隣の被膜剥離部16に短絡して、隣の被膜剥離部16を誤って溶接してしまう恐れがある。本実施形態の固定子1によれば、この問題の発生を回避することができる。
【0050】
〔他の実施形態〕
本発明は、上記の実施形態1および2に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変更することが可能である。例えば、上記の実施形態1および2では、本発明に係る回転電機の固定子を車両用モータの固定子1に適用した例を説明したが、本発明は、車両に搭載される回転電機としての発電機、あるいは電動機、さらには両者を選択的に使用しうる回転電機の固定子にも利用することができる。
【符号の説明】
【0051】
1…固定子、 2…固定子鉄心、 3…スロット、 4…固定子巻線、 5…第1コイルエンド群、 6…第2コイルエンド群、 7…セグメント導体、 7a…大セグメント、 7b…小セグメント、 8…絶縁紙、 9…直線部、 10…ターン部、 11…導体挿通部(スロット収容部)、 11a…内外層導体挿通部、 11b…中層導体挿通部、 12…導体突出部、 13…斜状導体部、 14…第1斜行部、 15…第2斜行部、 16…被膜剥離部、 16a…接合部、 17…導体端部、 18…端部対、 19…切欠き部、 20…導体交差部、 21…溶接トーチ、 21a…アーク。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
周方向に複数配置されたスロットを備える固定子鉄心と、被膜を有する複数のセグメント導体を接続してなる固定子巻線とで構成された回転電機の固定子において、
前記固定子巻線は、前記スロットに挿通されたスロット収容部と、前記スロット収容部と接続され前記スロットから突出したコイルエンド部とを備え、
前記コイルエンド部は、前記固定子鉄心の周方向に前記固定子鉄心端面とθの角度をなすように傾斜した第1斜行部と、前記固定子鉄心の周方向に前記固定子鉄心端面とθの角度をなすように傾斜した第2斜行部とを有しており、
前記第1斜行部と前記第2斜行部は、θ>θなる関係を有しており、且つ前記第2斜行部は、前記セグメント導体の前記被膜が剥離され互いに接合された接合部側に設けられていることを特徴とする回転電機の固定子。
【請求項2】
請求項1に記載の回転電機の固定子において、
前記固定子巻線は、前記セグメント導体の前記第1斜行部と、径方向に隣接する他の前記セグメント導体の前記第1斜行部が交差した導体交差領域を持つことを特徴とする回転電機の固定子。
【請求項3】
請求項1または2に記載の回転電機の固定子において、
前記セグメント導体の被膜剥離部は、前記導体交差領域よりも前記接合部側に存在することを特徴とする回転電機の固定子。
【請求項4】
請求項1または2に記載の回転電機の固定子において、
前記セグメント導体は、矩形断面を有するとともに、前記接合部およびその周辺において、径方向の導体厚さが当該セグメント導体の他の領域に比べ相対的に薄いことを特徴とする回転電機の固定子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−5609(P2013−5609A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−134895(P2011−134895)
【出願日】平成23年6月17日(2011.6.17)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】