説明

固体ファントム

【課題】 大型の成型品が室温で容易に形成でき、透明性が高い固体ファントムを提供する。
【解決手段】 アルコールなどの極性溶媒または極性溶媒と水との混合溶媒の媒体中で、(A)アルキルシリケートまたは(B)カルボニル基含有樹脂、特にアセチル基含有樹脂および多価カルボン酸ヒドラジド化合物を硬化し、前記媒体をゲル化した固体ファントムであり、透明性が高いので、可視光線の透過率が高く線量測定に有利であり、室温で容易にゲルとなるので、大型の固体ファントムが容易に形成できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体ファントムに関する。さらに詳しくは室温でゲル化した固体ファントムに関する。
【背景技術】
【0002】
放射線によるガン治療は、外科手術や抗ガン剤投与と共に、ガン療法の中で重要な役割を果たしている。放射線療法は、外科療法と同様に、ガン組織とその周辺のみを治療する局所治療である点で有利なだけでなく、外科療法のような臓器摘出が不要であり、臓器を温存することができる点で優れている。しかしながら、放射線治療においては、X線検査において画像を得るために照射する量とは比較にならないほどの大量の放射線を病巣に照射する必要があるので、副作用を軽減ないし防止するために、ガン組織に対して最適な放射線量を照射してダメージを与え、一方では周囲の正常組織に対しては照射する放射線量をできる限り少なくして損傷を抑えることが求められる。
【0003】
たとえば、放射線療法の1つである強度変調療法(Intensity Modulated Radio Therapy:IMRT)では、治療対象となっている患者のガン組織の位置や形状に適合させて、放射線の照射野の形状や放射線の入射方向を調整して患者のガン組織に放射線を照射し、これらの放射線照射による積算吸収線量を最適化している。したがって、放射線を患部に正確に集中させて、有効に放射線治療を実施することができる。このようなIMRTを実施する際には、まず治療計画を作成し、患部に対して所定の吸収線量分布の放射線照射を正確に行うことができる照射条件を設定する必要があり、更に、このような治療計画の妥当性を、実験的に検証する必要がある。
この場合、人体内部に線量計を挿入して試験的な線量測定を行うことはできないので、人体等価物質から構成される人体模型、すなわち、ファントム(phantom)内に線量計を挿入する。人体等価物質としては、人体の主要組織である筋肉と等価な水を使用した水ファントムや、水と等価な固体ファントムが使用されている(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】日本医学放射線学会物理部会「放射線治療における高エネルギーX線および電子線の吸収線量の標準測定法」80−82,1989,通商産業研究社
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の固体ファントムは、透明性が十分でなかったり、大型の成型品が容易に形成できなかったり、満足のいくファントムはできていない。
【0006】
本発明の目的は、大型の成型品が室温で容易に形成でき、透明性が高い固体ファントムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記の課題に鑑み、鋭意研究の結果、特定の材料を用いれば上記の課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
本発明は、極性溶媒または極性溶媒と水との混合溶媒の媒体中で、(A)アルキルシリケートまたは(B)カルボニル基含有樹脂および多価カルボン酸ヒドラジド化合物を硬化し、前記媒体をゲル化した固体ファントムである。
さらに本発明は極性溶媒がアルコールであることを特徴とする。
さらに本発明は(B)カルボニル基含有樹脂および多価カルボン酸ヒドラジド化合物を用いた固体ファントムであって、カルボニル基含有樹脂がアセチル基含有樹脂であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、固体ファントムは透明性が高いので、可視光線の透過率が高く線量測定に有利である。また、室温で容易にゲルとなるので、大型の固体ファントムが容易に形成できる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態につき、説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではない。本発明と同一および均等の範囲内において、以下の実施の形態に対して種々の変更を加えることが可能である。
【0011】
本発明におけるアルキルシリケートは、水分により加水分解してアルコキシシリル基が水酸基となり、更に水酸基同士から水が脱離して縮重合を起こし、極性溶媒またはその水との混合媒体の媒体をゲル化することができる。
本発明においてアルキルシリケートは、オルトアルキルシリケートまたはこれらが加水分解されてある程度縮重合反応が進行したアルキルシリケート部分加水分解重合物であれば、特に限定されない。オルトアルキルシリケートとしては、具体的にはオルトメチルシリケート Si(OCH34、オルトエチルシリケート Si(OC254、オルトプロピルシリケート Si(OC374、オルトブチルシリケート Si(OC494などが挙げられる。2種以上のアルキル基を同一分子内に有するオルトアルキルシリケートでも良く、2種以上のオルトアルキルシリケートを混合して使用してもよい。
【0012】
ある程度脱水縮重合が進んだアルキルシリケート部分加水分解重合物は、オルトアルキルシリケートを出発原料として作製することができるが、同様のアルキルシリケート部分加水分解重合物が得られるなら、その原料は必ずしもオルトアルキルシリケートに限定しない。市販品としてたとえば「エチルシリケート40」や「メチルシリケート51」(多摩化学工業社製)を使用することができるが、このような化合物もそのまま、或いはさらに加水分解縮重合を進行させて用いることができる。
【0013】
前記したように、(A)アルキルシリケートは硬化し、極性溶媒または極性溶媒と水との混合溶媒の媒体全体をゲル化する。媒体は固体ファントムの母体となるものであり、また極性溶媒は水を併用するとき水に難溶性のアルキルシリケートを水中に透明に溶解させる役目をも有する。好ましくは極性溶媒と水との混合溶媒である。水はファントムとしても使用でき、水の量が多いゲルであるほど経済的に有利である。
【0014】
極性溶媒としては、たとえばアルコール、ケトン、アミドなどがあげられる。具体的には、メタノール、エタノール、1ープロパノール、2ープロパノール(IPA)、1ーブタノール、2ーブタノール、ジアセトンアルコール(DAA)、2ーメトキシエタノール(MCS)、2ーエトキシエタノール(ECS)、プロピレングリコールメチルエーテル(PGM)などの1価アルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコールなどの二価アルコール、トリメチロールプロパンなどの三価以上のアルコール;シクロヘキサノン、メチルエチルケトン(MEK)、ジエチルケトン(DEK)、メチルイソブチルケトン(MIBK)などのケトン;ジメチルフォルムアミド(DMF)、ヘキサメチルホスフォルアミド(HMPA)などのアミドが挙げられる。これらの内で好ましいのは、アルコールである。また、アルコールにエチレンオキシド1〜50モル付加したものも水溶性が大きく好適に用いられる。
【0015】
アルキルシリケートの量はゲル化対象の全体の重量に対して3〜50重量%が好ましい。3重量%以上であると媒体をゲル化させることができ、50重量%以下であるとゲルが硬すぎてひび割れを起こすことがない。好ましくは5〜30重量%である。
極性溶媒は全体の重量に対して3〜80重量%が好ましい。3重量%以上であるとゲルが硬すぎてひび割れを起こすことがなく、水との混合溶媒にしてゲルが透明になりやすい。80重量%以下であると、ファントムとして使える強度のゲルが得られ、経済的にも有利である。好ましくは10〜50重量%である。
水の量は全体の重量に対して0〜94重量%が好ましい。94重量%以下であると透明なゲルが得られやすい。好ましくは10〜94重量%であり、特に好ましくは50〜94重量%である。水の量が多い程経済的に有利である。
【0016】
上記硬化反応には触媒を用いるとアルキルシリケートの加水分解、縮重合を促進させることができ、室温でも容易にゲル化が生じるので好ましい。このような触媒としては、酸性触媒か塩基性触媒が使用できる。酸性触媒としては、塩酸、硫酸、硝酸、フッ酸、硫酸アルミニウム、塩化アンモニウム、塩化アルミニウム、硫酸アルミニウムカリウムなどの無機酸、酢酸、ギ酸、リン酸、クエン酸、コハク酸、マレイン酸、フマル酸、アスコルビン酸、スルホン酸、シュウ酸、乳酸、グルコン酸などの有機酸が挙げられる、塩基性触媒としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどの無機塩基、アンモニア、トリエチルアミン、アルキロールアミンなどの有機アミン、および有機アミンにアルキレンオキシドを付加させたものなどの有機塩基が挙げられる。これらの内、好ましいのは塩基性触媒であり、その中でも、有機アミンにアルキレンオキシド、特にエチレンオキシドを付加させたものは、触媒になるとともに極性溶媒にもなるので特に好ましい。
【0017】
触媒の量は媒体のゲル化を促進できれば限定はなく、触媒の種類によって大きく異なるが、全体の重量に対して0.5〜60重量%が好ましい。好ましくは1〜50重量%である。また、触媒として有機アミンにエチレンオキシドを付加させたものは極性溶媒とみなすこともできる。
【0018】
また、シラン系カップリング剤を添加してゲル強度を調整することができる。たとえば、トリメチルメトキシシラン、トリメチルエトキシシラン、トリエチルエトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、トリメチルエトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、γーアミノプロピルトリエトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、γーメルカプトプロピルシランなど公知のものが挙げられる。使用量は(A)アルキルシリケートの重量に対して0〜20重量%が好ましい。
【0019】
極性溶媒または極性溶媒と水との混合溶媒の媒体中に、アルキルシリケート、必要により触媒を入れて混合する。これらを投入する順序の限定はない。反応が進むと系の粘度が上昇してくる。更に進むとゲル化する。反応の終点は外観またはゲル強度によって確認出来る。ゲル強度の測定法は下記に記載した。反応する際の温度は特に限定はないが、室温または加温、たとえば40〜60℃によってアルキルシリケートが加水分解縮重合をおこし媒体がゲル化する。反応時間は触媒の有無、温度によって変わり、触媒が添加されて40℃であれば数十分で、室温であれば数時間で媒体がゲル化する。
ゲル化物のゲル強度は、好ましくは3〜1,000gであり、より好ましくは5〜600であり、特に好ましくは10〜500である。
【0020】
(ゲル強度測定法)
ゲルを25℃に温調した後、直径15.7mmの金属球を取り付けた棒を島津オートグラフ(島津製作所社製、AGS−500B)に接続した。金属球を5cm/分の速度でゲル中に押し込み、金属球がゲル中に完全に入った直後の応力(g)を測定した。これがゲル強度(g)である。
【0021】
本発明において、(B)カルボニル基含有樹脂と多価カルボン酸ヒドラジド化合物も反応して硬化する。極性溶媒または極性溶媒と水との混合溶媒の媒体中で硬化すると媒体全体をゲル化することができる。
カルボニル基含有樹脂としては分子中にカルボニル基を2個以上含有する樹脂であれば使用できる。上記カルボニル基含有樹脂としては、カルボニル基含有ビニルモノマーとその他のビニルモノマーとの共重合体を挙げることができる。本発明におけるカルボニル基はカルボニル基の炭素に隣接する両側が炭素であり、アルデヒド基、エステル基、ウレタン基などに含まれるカルボニル結合は含まない。
【0022】
カルボニル基含有ビニルモノマーとしては、ダイアセトンアクリルアミド、ダイアセトンメタクリルアミド、炭素原子を4〜7個有するビニルアルキルケトン(たとえばビニルエチルケトン、ビニルブチルケトンなど)、ジアセトンアクリレート、ジアセトンメタクリレート、β−アクリロイルオキシエチルアセチルアセテート、δ−アクリロイルオキシブチルアセチルアセテート、(メタ)アクリロイルオキシアルキルプロペナール[オキシアルキル基の炭素原子数は1〜6]、アセトアセトキシエチルアクリレート、アセトアセトキシエチルメタクリレート;水酸基とカルボニル基を有する炭素原子数10以下の化合物(例えば、4−ヒドロキシ−2−ブタノンなど)と重合性不飽和カルボン酸(たとえば、アクリル酸、メタクリル酸など)とのエステル化物;水酸基とカルボニル基とを有する炭素原子数10以下の化合物の水酸基部分とアクリルアミドまたはメタクリルアミドのアミノ基部分との縮合反応物;水酸基とカルボニル基を有する炭素原子数10以下の化合物とイソシアネート基を有する重合性不飽和モノマー(たとえば、イソシアナトエチルメタクリレートなど)との付加物;水酸基とカルボニル基を有する炭素原子数10以下の化合物とジイソシアネート化合物(たとえば、トリレンジイソシアネート、4,4′−ジフェニルメタンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネートなど)とのモノ付加物[イソシアネート基を1個有する]を水酸基含有重合性不飽和モノマー(たとえば、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレートなど)に付加してなるモノマーなどを挙げることができる。これらは、一種で、または二種以上を混合して使用することができる。
これらのうち、好ましいものはアセチル基含有モノマー、アセトアセチル基含有モノマーである。具体的には、ダイアセトンアクリルアミド、ダイアセトンメタクリルアミド、イソシアネート基を有する重合性不飽和モノマー(たとえば、イソシアナトエチルメタクリレートなど)と4−ヒドロキシ−2−ブタノンとの付加物、アセトアセトキシエチルメタクリレート、アセトアセトキシエチルアクリレートを挙げることができる。
【0023】
上記カルボニル基含有ビニルモノマーとともに共重合体を形成する上記その他のビニルモノマーとしては、上記カルボニル基含有ビニルモノマーと共重合性を有するモノマーであれば制限なく使用することができる。たとえば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸ラウリル、アクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−プロピル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸ラウリル、メタクリル酸シクロヘキシル等のアクリル酸またはメタクリル酸の炭素数1〜30のアルキルエステルまたはシクロアルキルエステル;2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレートなどのアクリル酸またはメタクリル酸の炭素数2〜8のヒドロキシアルキルエステル;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルなどの炭素原子数1〜20の脂肪酸のビニルエステル;エチレン、プロピレン、ブチレン、ペンテンなどのオレフィン;スチレン、ビニルトルエン、アクリルアミド、メタクリルアミドなどを挙げることができる。
これらのカルボニル基含有ビニルモノマーを重合または共重合する方法は公知の重合方法で重合することができる。樹脂の分子量も特に限定はなく、用途によって決められる。
【0024】
上記カルボニル基含有樹脂としては、上記共重合体以外に、カルボニル基を含有する種々の樹脂、例えば、エポキシ樹脂、アルキド樹脂、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂やポリビニルアルコール、ヒドロキシアルキルセルロース、澱粉などの水溶性高分子などを挙げることができる。これらの樹脂は、たとえば、水酸基とカルボニル基を有する炭素原子数10以下の化合物(たとえば、4−ヒドロキシ−2−ブタノン、3−ヒドロキシー3−メチル−2−ブタノンなど)とジイソシアネート化合物(上記のものと同じ)とのモノ付加物を、水酸基を含有する種々の樹脂(たとえば、エポキシ樹脂、アルキド樹脂、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂など)に付加して得ることができる。
【0025】
水溶性高分子をアセトアセチル化した樹脂としては、たとえば、ポリビニルアルコール(以下、PVA)、ヒドロキシアルキルセルロース(以下、HAS)、澱粉などの水溶性高分子をアセトアセチル化したアセトアセチル化ポリビニルアルコール、アセトアセチル化ヒドロキシアルキルセルロース、アセトアセチル化澱粉などが挙げられる。水溶性高分子をアセトアセチル化した樹脂の製造方法は、特に限定されるものではなく、従来公知の方法で製造されるが、好ましくはPVA、HAS、澱粉などにジケテンを反応させて得られる。たとえばPVAの場合であると、PVAを酢酸溶媒中に分散させておき、これにジケテンを添加する方法、PVAをジメチルホルムアミド、またはジオキサンなどの溶媒にあらかじめ溶解しておき、これにジケテンを添加する方法およびPVAにジケテンガスまたは液状ジケテンを直接接触させる方法などが挙げられる。PVAとしては特に限定されないが、重合度300〜2600、ケン化度85〜99モル%の範囲が好ましい。HAS、澱粉の場合も同様な方法が適用できる。
【0026】
カルボニル基含有樹脂の形状は固状、液状であってもよく、有機溶剤中に溶解したものでもエマルジョンであってもよい。
カルボニル基含有樹脂のカルボニル基含有量は、0.1〜20モル%が好ましく、より好ましくは0.5〜15モル%である。0.1〜20モル%であると硬化が十分にいき媒体をゲル化させることができる。
【0027】
多価カルボン酸ヒドラジド化合物としては、化学式−CO−NH−NHで示されるヒドラジド基を分子内に2個または3個有する化合物である二価または三価のカルボン酸のヒドラジド化合物が好ましい。具体例としては、アジピン酸ジヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジド、テレフタル酸ジヒドラジド、ドデカン二酸ジヒドラジド、蓚酸ジヒドラジド、マロン酸ジヒドラジド、コハク酸ジヒドラジド、グルタル酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド、マレイン酸ジヒドラジド、フマル酸ジヒドラジド、イタコン酸ジヒドラジドなどの二価カルボン酸ジヒドラジド;クエン酸トリヒドラジド、ニトリロ酢酸トリヒドラジド、シクロヘキサントリカルボン酸トリヒドラジド、1,2,4−トリメリット酸トリヒドラジドなどの三価カルボン酸トリヒドラジドが挙げられる。好ましいのは二価カルボン酸ジヒドラジドであり、特に好ましいのはアジピン酸ジヒドラジドである。三価カルボン酸トリヒドラジドだけではゲルが硬くなりすぎるので、二価カルボン酸ジヒドラジドを併用するのがよい。
【0028】
極性溶媒としては、前記(A)で使用した極性溶媒が使用できるが、ケトンとは反応することがあり使用しないのが好ましい。
上記反応は酸性触媒を用いると反応が促進できる。酸性触媒としては、(A)で記載した酸性触媒が使用できる。
【0029】
アセトアセチル基含有樹脂の量はゲル化対象の全体の重量に対して3〜30重量%が好ましい。3重量%以上であると媒体をゲル化させることができ、30重量%以下であるとゲルが硬すぎてひび割れを起こすことがない。好ましくは5〜20重量%である。
多価カルボン酸ヒドラジド化合物の量はゲル化対象の全体の重量に対して0.01〜2.0重量%が好ましい。0.01重量%以上であると媒体をゲル化させることができ、0.5重量%以下であるとゲルが硬すぎてひび割れを起こすことがない。好ましくは0.02〜1.0重量%である。
【0030】
極性溶媒は全体の重量に対して3〜80重量%が好ましい。3重量%以上であるとゲルが硬すぎてひび割れを起こすことがなく、水との混合溶媒にしてゲルが透明になりやすい。80重量%以下であると、ファントムとして使える強度のゲルが得られ経済的に有利である。好ましくは10〜50重量%である。
水の量は全体の重量に対して0〜94重量%が好ましい。94重量%以下であると透明なゲルが得られやすい。好ましくは10〜94重量%であり、特に好ましくは50〜94重量%である。水が多い程経済的に有利である。
酸触媒の量は媒体のゲル化を促進できれば限定はなく、触媒の種類によって大きく異なるが、全体の重量に対して0.05〜1.0重量%が好ましい。好ましくは0.1〜0.5重量%である。
【0031】
カルボニル基のC=O基とヒドラジン基の−NHNHのNHが反応して水が脱離しC=N−NH−の結合が生じる。その結果架橋が生じて硬化する。反応は酸性触媒の存在下で室温または加温、たとえば40〜60℃によって硬化し媒体をゲル化する。反応時間は温度によって変わり、40℃であれば数十分で、室温であれば数時間で媒体がゲル化する。
ゲル化物のゲル強度は、(A)アルキルシリケートのゲル化物の場合と同じである。
【0032】
固体ファントムは上記ゲル化物を形成した後成型してもよいが、金型中で形成してもよい。硬化は室温でも容易に行われるので大型ファントムの形成に有利である。
本発明の固体ファントムは透明性が高い。透明性は透過率(%)で測定が出来る。固体ファントムであるゲル化物の透過率(%)は、好ましくは80〜100、特に好ましくは90〜100である。ゲル化物の透明度が高い程放射線の線量が有利に測定できる。
(透過率の測定法)10mm厚のガラス製セル中でゲルを作成し25℃に温調した後、分光光度計(島津製作所製、UV−1200)にて可視光(700nm)の透過率を測定した。
【0033】
また、ここで用いられるゲルにはその他の添加剤等をゲル形成前に混合することが出来る。混合出来るものとしては水溶性又は水不溶性であれ特に制限はないが、たとえば顔料、染料、老化防止剤、紫外線吸収剤、界面活性剤、防腐剤などが挙げられる。目的に応じこれらの配合物の任意の濃度のものが使用出来る。しかし、水不溶性の添加物を配合すれば透過率が低下するので水溶性添加剤が好ましい。
【0034】
本発明の固体ファントムは、ある程度の強度を有し、室温でそのまま成型して固体ファントムとすることができるが、容器に充填してファントムとしてもよい。容器はMRIに感応せず、放射線を透過し、耐溶剤性、気密性などを有していれば特に制限はなく、ガラス、石英、アクリル樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリテトラフルオロエチレン、ポリアクリルナイトリルが好ましい。また、容器に充填した後、窒素ガス等で置換してもよい。
【0035】
固体ファントムに成型した後使用に供する場合、固体ファントム中の放射線照射の線量測定法は特に限定はない。本発明における固体ファントムは、透明性が高いので、特に放射線照射により励起されて発光する蛍光を測定するのが好ましい。固体ファントム中には、銀活性リン酸塩ガラス、蛍光染料などの蛍光発光基材を含有させるのが、蛍光発光強度が大きくなるので特に好ましい。蛍光発光基材はゲル化物を形成する前の上記液状の原料に任意の濃度で溶解させておけば均一に溶解させることができる。
【0036】
励起光を照射することによって発光する蛍光から、従来公知の任意の測定手段によって蛍光強度を測定することができる。測定手段としては、たとえば、CCDカメラ、又はフォトマルチプライヤーを用いることができる。高感度CCDカメラを用いると、蛍光強度を電気信号に変えることができ、その電気信号をコンピュータで処理することができる。
【0037】
一般に、人体への放射線照射は、約200cGy〜300cGyの範囲で実施されるので、検量線は、少なくとも200cGy〜300cGyの範囲の照射量を正確に測定することができるように作成することが好ましく、具体的には、たとえば、15cGy程度から420cGy程度までの範囲を、好ましくは15cGy単位〜30cGy単位(最も好ましくは1cGy単位)で作成する。
【実施例】
【0038】
(実施例1)
1Lビーカーに「エチルシリケートM51」(多摩化学工業社製) 100重量部、エタノール 405重量部、水 405部、「ニューポールNP−300」(商標、三洋化成工業社製、エチレンジアミンのプロピレンオキシド4モル付加物) 90重量部を入れ室温で混合すると、徐々に粘度が上がり、3時間後に均一透明なゲルAが得られた。
【0039】
(実施例2)
1Lビーカーに「エチルシリケート40」(多摩化学工業社製) 270重量部、エタノール 280重量部、「ニューポールNP−300」 450重量部を室温で混合すると、徐々に粘度が上がり、3時間後に均一透明なゲルBが得られた。
【0040】
(実施例3)
1Lビーカーに「DAAM」(ダイアセトンアクリルアミド、日本化成社製)とアクリル酸ヒドロキシエチルとの共重合体(重量平均分子量:5000)80重量部、「ADH」(日本化成社製、アジピン酸ジヒドラジド)0.5重量部、プロピレングリコール 150重量部、エタノール 180重量部、水 590重量部を混合した後、塩酸1モル%水溶液を3.5重量部を添加して室温で混合して3時間でゲルCが得られた。
【0041】
(比較例1)
130gのゼラチン・パウダーと蒸留水350mlとをビーカーに入れて、80±5℃までゆっくり加熱した。この温度で20分以上維持して、ゼラチン・パウダーが完全に溶解したゼラチン溶液を得た。 次に、500gの市販の蜂蜜(純粋な蜂蜜250g、オリゴ糖150g、及び果糖(フルクトース)及びぶどう糖(グルコース)100gを含んでいる)を、ゼラチン溶液にゆっくり加えた。 蜂蜜が溶けた後、溶液を十分混合しながら、さらに20gの食塩を加えた。この間、水の温度は80±5℃に保った。加熱された溶液をプラスチック容器(耐熱容器)へ注ぎ、室温で冷却し、ゲルDを得た。
【0042】
上記のゲルについて、ゲルの外観、透過率、ゲル強度を測定した結果を表1に示す。
【0043】
【表1】

【0044】
評価方法は、以下の通りである。
(1)ゲルの外観
室温で1日放置して作成したゲルの外観を目視判定し、次のように評価した。
○…透明 △…わずかに白濁 ×…白濁
(2)透過率上記に記載した評価法に準じて行った。
(3)ゲル強度上記に記載した測定法に準じて行った。
【0045】
《試験例》
(1)ファントムとして、上記実施例1で作成したゲルAを約30cm×約30cm×約30cmに切り取り、線量測定手段として銀活性リン酸塩ガラス製の線量計(120mm×120mmの平板)を使用し、及び基準線量測定として電離箱(0.6cc)を用いて強度変調療法(IMRT)の治療計画の実証実験を行った。
このときの基準線量測定として電離箱を用いて計測した吸収線量は、176.99cGy(測定室温度24.2℃;大気圧101.5kPa)が得られ、この値を真の吸収線量とした。
前記の固体ファントム内に装着し、前記治療計画データに沿って照射を行ったガラス線量計に対し、紫外線(約430nm)によって励起して発生した蛍光の蛍光強度をCCDカメラで測定すると、明確な蛍光強度データが得られた。
【0046】
(2)また、銀活性リン酸塩ガラス製の線量計の代りに実施例1に準じて水溶性蛍光染料を含有させたファントムを作成して、同様に放射線照射をして発生する蛍光を測定したところ、明確な蛍光強度データが得られた。
(3)比較例1で合成したゲルにてファントムを作成し、上記(1)と同様にして蛍光強度を測定したが、(1)程明確な蛍光強度データが得られなかった。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明の固体ファントムはファントムとして用いられる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
極性溶媒または極性溶媒と水との混合溶媒の媒体中で、(A)アルキルシリケートまたは(B)カルボニル基含有樹脂および多価カルボン酸ヒドラジド化合物を硬化し、前記媒体をゲル化した固体ファントム。
【請求項2】
極性溶媒がアルコールであることを特徴とする請求項1記載の固体ファントム。
【請求項3】
前記(B)カルボニル基含有樹脂および多価カルボン酸ヒドラジド化合物を用いた固体ファントムであって、該カルボニル基含有樹脂がアセチル基含有樹脂であることを特徴とする請求項1または2記載の固体ファントム。