説明

固体材料

【課題】安全性および安定性が高く、且つ抗菌、抗黴または抗ウイルス性能に優れる固体材料を提供する。
【解決手段】銀イオンおよびヒスチジンを含有する水溶液に、水に対する溶解度が0.1g/L以下である固体担体を添加し、該固体担体の表面上に銀ヒスチジン多核錯体を析出させることを含む方法によって固体材料を得る。当該固体材料を含有する抗菌、抗黴または抗ウイルス剤を得る。抗菌、抗黴または抗ウイルス剤を含有する塗料組成物、樹脂組成物を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体材料に関する。より詳細に、本発明は、抗菌、抗黴または抗ウイルス剤として有用な固体材料に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、新型インフルエンザのような新たな感染症や、レジオネラ菌のような環境中の病原微生物への対抗手段として、各種の抗菌性材料が注目されている。この中で、人畜に対する安全性が高く、広い範囲の有害微生物への活性が期待でき、耐性が発達し難いと考えられる材料として、金属銀もしくは銀化合物が検討されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、アミノ酸と銀イオンとを結合してなる化合物を固体担体に担持させたことを特徴とする抗菌抗かび材料が記載されている。該アミノ酸と銀イオンとを結合してなる化合物は、アミノ酸の水溶液と銀化合物の水溶液とを混ぜ合わせ、その混合液をアセトンなどの貧溶媒に滴下することによって製造されている。
特許文献2には、ヒスチジンが銀イオンに配位してなる水溶性銀錯体を、各種繊維、紙、皮革、セラミックス、ガラスなどに塗布あるいは含浸させることが記載されている。
特許文献3には、ヒスチジンなどの化合物が銀イオンに配位してなる錯体と、担体とを含有する抗菌抗かび剤組成物が記載されている。担体に当該錯体を固定化せしめる方法として、加熱処理、化学的結合法等が例示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−16905号公報
【特許文献2】特開2000−256365号公報
【特許文献3】特開2001−335405号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、安全性および安定性が高く、且つ抗菌、抗黴または抗ウイルス性能に優れる固体材料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、銀ヒスチジン多核錯体を固体担体の表面に担持させる方法を検討した。その結果、銀イオンおよびヒスチジンを含有する水溶液に、固体担体を添加し、該固体担体の表面上に銀ヒスチジン多核錯体を析出させることを含む方法によると、銀イオンが非常に安定に保持され、抗菌活性が長期間にわたり発揮される固体材料が高収率で得られることを見出した。本発明は、この知見に基づきさらに検討を加えて、完成するに至ったものである。
【0007】
すなわち本発明は、以下のものを含む。
〔1〕 固体担体、および
その表面に担持された水不溶性銀ヒスチジン多核錯体
を含有してなる固体材料。
〔2〕 前記固体担体は、比表面積が0.1〜1000m2/gである、前記〔1〕に記載の固体材料。
〔3〕 前記固体担体は、多孔質である、前記〔1〕または〔2〕に記載の固体材料。
〔4〕 前記固体担体は、最大粒径が200μm以下である、前記〔1〕〜〔3〕のいずれかひとつに記載の固体材料。
〔5〕 前記固体担体は、大きさが平均粒径で10μm以下、最大粒径で50μm以下である、前記〔1〕〜〔3〕のいずれかひとつに記載の固体材料。
〔6〕 前記固体担体は、水に対する溶解度が0.1g/L以下である、前記〔1〕〜〔5〕のいずれかひとつに記載の固体材料。
〔7〕 前記固体担体が、炭酸カルシウム、酸化亜鉛、酸化アルミニウムおよび水酸化アルミニウムからなる群から選ばれる少なくとも1種である、前記〔1〕〜〔6〕のいずれかひとつに記載の固体材料。
【0008】
〔8〕 前記〔1〕〜〔7〕のいずれかひとつに記載の固体材料と、最大粒径が200μm以下で且つ前記固体材料に含有される固体担体と同じ若しくは異なる種類の固体担体とを含有する、固体混合材。
【0009】
〔9〕 銀イオンおよびヒスチジンを含有する水溶液と固体担体とを混合し、該固体担体の表面上に銀ヒスチジン多核錯体を析出させることを含む、固体材料の製造方法。
〔10〕 前記水溶液は、ヒスチジンの割合が、銀イオン1モル部に対して、1〜4モル部である、前記〔9〕に記載の製造方法。
〔11〕 混合される固体担体の量が、銀イオンおよびヒスチジンの合計1質量部に対して、0.2〜100質量部である、前記〔9〕または〔10〕に記載の製造方法。
〔12〕 銀ヒスチジン多核錯体の析出を、温度10℃〜70℃にて行う、前記〔9〕〜〔11〕のいずれかひとつに記載の製造方法。
【0010】
〔13〕 前記〔1〕〜〔7〕のいずれかひとつに記載の固体材料または前記〔8〕に記載の固体混合材を含有する、抗菌、抗黴または抗ウイルス剤。
〔14〕 前記〔13〕に記載の抗菌、抗黴または抗ウイルス剤を含有する塗料組成物。
〔15〕 前記〔13〕に記載の抗菌、抗黴または抗ウイルス剤を含有する樹脂組成物。
〔16〕 前記〔13〕に記載の抗菌、抗黴または抗ウイルス剤を用いて固体または液体を抗菌、抗黴または抗ウイルス処理する方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る製造方法によれば、長期保存、特に光照射下等でも品質変化を起こさず、しかも顕著な殺菌・抗菌効果を示す、新規な固体材料を、工業的に有利に製造することができる。この製造方法において、適切な形状の担体を選択することによって、用途に応じた形状の抗菌性等に優れた固体材料が容易に得られる。特に担体として微粉体等を用いれば、析出した銀ヒスチジン多核錯体の表面積が大きいため抗菌効果が特に高くなり、しかも、光照射を受ける場合でも担体による遮光効果が得られるため、銀イオンの安定性も向上する。
【0012】
本発明に係る固体材料は、微粉体状から大型の固形状まで用途に応じた形状として製造することが可能である。急性経口毒性、皮膚刺激性、粘膜刺激性などの毒性が低く安全である。また、担体の品質に影響を及ぼさない。さらに、抗菌性、殺菌性、抗カビ性、抗ウイルス性等の効果が高く、しかも長期間にわたり持続する。特に、適切な粒径を有する微粉体状の担体を用いれば、銀ヒスチジン多核錯体自体を加工せずとも、用途に適した粒径を有する銀担持固体材料を得ることができる。これは、特に塗料、化粧品等に添加する抗菌剤の用途に適している。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明に係る固体材料の製造方法は、銀イオンおよびヒスチジンを含有する水溶液と固体担体とを混合し、該固体担体の表面上に銀ヒスチジン多核錯体を析出させることを含むものである。
【0014】
銀イオンの供給源となる銀化合物は、特に限定されないが、酸化数1の銀化合物が好ましい。例えば、硝酸銀、酸化銀、酢酸銀が挙げられる。これらのうち酸化銀(I)が好ましい。該銀化合物は1種単独で若しくは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0015】
ヒスチジンは、別名を2−アミノ−3−(1H−イミダゾ−4−イル)プロピオン酸といい、式(1)で表わされるアミノ酸である。ヒスチジンには、L体とD体の光学異性体が存在する。本発明においては、D−ヒスチジン単独で、L−ヒスチジン単独で、またはD−ヒスチジンとL−ヒスチジンとの混合物で使用することができる。
【0016】
【化1】

【0017】
銀イオンおよびヒスチジンを含有する水溶液における、ヒスチジンの割合は、銀イオン1モル部に対して、好ましくは1〜4モル部、より好ましくは1〜2モル部、さらに好ましくは1〜1.2モル部である。また、当該水溶液中の銀イオンの濃度は、好ましくは0.01〜10モル/l、より好ましくは0.05〜5モル/lである。
【0018】
銀イオンおよびヒスチジンを含有する水溶液は、その調製方法によって、特に限定されない。例えば、硝酸銀、酢酸銀などの水溶性銀化合物を水に溶解させ、これにヒスチジンをそのまま若しくは水に溶解させて添加混合することによって調製することができる。また、ヒスチジンを水に溶解若しくは懸濁させ、これに酸化銀などの水難溶性銀化合物を添加し、撹拌することによって調製することができる。溶解もしくは懸濁させる際の水の温度は特に限定されず、例えば、室温でもよいし、10〜70℃でもよい。
銀イオンとヒスチジンとは水に完全溶解していることが好ましい。完全溶解は、肉眼で判別できる不溶物がなくなり透明溶液となったことで判断できる。また、ほぼ完全溶解したと思われる時点で水溶液を濾過し、不溶物を除去することで、完全溶解した水溶液としてもよい。
【0019】
混合される固体担体は、常温で固体状であれば特に限定されない。無機化合物からなる固体担体であってもよいし、有機化合物からなる固体担体であってもよい。
固体担体は、水難溶性であることが好ましく、水不溶性であることが特に好ましい。水難溶性または水不溶性の固体担体は、中性で常温における水に対する溶解度が、好ましくは100mg/L以下、より好ましくは20mg/L以下、さらに好ましくは10mg/L以下である。
【0020】
固体担体を構成する無機化合物は、特に限定されない。例えば、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、硫酸カルシウム、炭酸マグネシウム、酸化亜鉛、酸化マンガン、酸化鉄、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、硫酸バリウム、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化タングステン、リン酸ジルコニウム、炭化ジルコニウム、ガラス、シリカ、シリカゲル、ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、炭化ケイ素、活性炭、トバモライト、ゼオライト、モンモリロナイト、ベントナイト、カオリン、タルク、珪藻土等のセラミック材料;鉄、アルミニウム、銅、亜鉛、ニッケル、錫、チタン、各種合金等の金属材料等が挙げられる。これらの中で、炭酸カルシウム、酸化亜鉛、酸化アルミニウムおよび水酸化アルミニウムからなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましく、炭酸カルシウムおよび/または酸化亜鉛がより好ましい。
【0021】
固体担体を構成する有機化合物は、特に限定されない。例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリウレタン樹脂、フェノール樹脂、フタル酸樹脂、マレイン酸樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、アミノ樹脂、酢酸ビニル樹脂、塩化ビニル樹脂、塩化ビニリデン樹脂、アクリル樹脂、ビニル樹脂、エポキシ樹脂、フラン樹脂、ポリエステル樹脂、シリコーン樹脂、天然ゴム、ニトリルブタジエンゴム、クロロプレンゴム、スチレンブタジエンゴム、イソプレンゴム、クロロプレンゴム、ブチルゴム等の合成高分子;セルロース、ニトロセルロース樹脂、セルロースエステル樹脂、キトサン、リグニン、リグニン含有樹脂、アルギン酸塩等の天然または天然由来の高分子化合物;綿糸、羊毛、絹糸、布、紙等の天然高分子化合物からなる繊維またはその加工品等が挙げられる。
【0022】
固体担体の形状は、特に限定されない。例えば、粉状、粒状、塊状、繊維状、シート状、キューブ状等が挙げられる。固体担体は、用途に応じて適切な形状のものを選択することができる。このうち粉状、粒状または繊維状であることが好ましい。固体担体は、最大粒径で200μm以下の粉状、粒状または繊維状のものが好ましく、最大粒径で50〜200μmの粉状、粒状または繊維状のものが好ましい。このような最大粒径を有する固体担体Aを用いる場合には、他の固体担体Bとの混合に適した固体材料を得ることができる。
特に、固体担体の大きさは、平均粒径で10μm以下、最大粒径で50μm以下であることが好ましく、平均粒径で5μm以下、最大粒径で30μm以下であることがさらに好ましい。このような大きさの固体担体を用いる場合には、液体への分散性が良好で、塗料用途などでの使用に適する固体材料を得ることができる。固体担体の大きさの下限は、好ましくは平均粒径で0.05μmである。
なお、固体担体の大きさ(粒径)は、BECKMAN COUNTER LS13320粒度計(ベックマン社製)を用いてレーザー回折散乱法により粒径分布を測定し、その粒径分布から最大粒径および平均粒径を決定した。
【0023】
また、固体担体は多孔質であることが好ましく、特に多孔質の粉状または繊維状であることが好ましい。多孔質の固体担体を用いると、抗菌効果が特に高くなり、しかも、多核錯体が細孔内に析出するので、光が遮られて、多核錯体の光による変質を防ぐことができる。
本発明に用いられる固体担体は比表面積が高いものが好ましい。具体的に、固体担体の比表面積は、好ましくは0.1〜1000m2/g、より好ましくは1〜100m2/gである。比表面積は、窒素吸着に基づきBET法で算出したものである。
【0024】
混合される固体担体の量は、特に限定されず、用途および効果を考慮して適宜決定することができる。混合される固体担体の量は、銀イオンおよびヒスチジンの合計1質量部に対して、好ましくは0.2〜100質量部、より好ましくは1〜20質量部、さらに好ましくは1〜10質量部、特に好ましくは2〜5質量部である。
【0025】
本発明の製造方法では、次に前記の固体担体の表面上に銀ヒスチジン多核錯体を析出させる。
銀ヒスチジン多核錯体を析出させる方法は特に限定されない。例えば、水溶液を乾燥させて水を除去することによって析出させる方法、水溶液を熱することによって析出させる方法などがある。これらのうち加熱による析出方法が、特殊な装置が不要であり比較的短時間で析出させることができる点から好ましい。なお、これらの析出方法では、固体担体に析出する量にムラが生じないように、水溶液を撹拌しながら、好ましくは水溶液および担体をともに撹拌しながら、析出させることが好ましい。
【0026】
水の除去による析出方法において、水溶液の乾燥は、自然乾燥で行ってもよいし、ロータリーエバポレーター等を用いて行ってもよい。水溶液の乾燥は、ゆっくり行うこと、すなわちスローエバポレーション法を採用することが好ましい。
【0027】
析出にあたって温度を、好ましくは10〜70℃、より好ましくは30〜70℃、さらに好ましくは30〜50℃、特に好ましくは35〜45℃に調整する。温度を調整するための方法は、特に限定されず、例えば、恒温槽、水浴または油浴を用いる方法、電磁誘導の原理を利用した誘導加熱による方法、マイクロ波等を使用した誘電加熱による方法等が挙げられる。加熱中は水溶液を均一に保つために撹拌することが好ましい。加熱時間は、特に限定されず、例えば、銀−ヒスチジン多核錯体の析出が完了するまで行うことができる。ただし、生産効率の観点から、加熱開始から、好ましくは72時間以内、より好ましくは48時間以内で加熱を終了することが好ましい。
【0028】
加熱開始から20時間程度経過した頃から、本格的に銀−ヒスチジン多核錯体の析出が始まるので、水溶液を加熱して所定の温度に調整してから、好ましくは18時間経過する前までに、より好ましくは10時間経過する前までに、さら好ましくは5時間経過する前までに、固体担体と水溶液とを混合する。混合方法としては、水溶液に固体担体を添加する方法、固体担体に水溶液を注ぐ方法などがあるが、水溶液に固体担体を添加する方法が好ましい。
【0029】
次に、得られた固体材料は、水相に懸濁させたままで使用してもよいし、水相から分離して使用してもよい。
水相から分離する方法は特に限定されない。例えば、ろ過、遠心分離、デカンテーションなどが挙げられる。分離された固体材料は、水や有機溶媒等で洗浄してもよい。
さらに分離された固体材料を乾燥させることができる。乾燥方法は特に限定されない。例えば、熱風、赤外線、高周波などによる加熱乾燥、減圧乾燥、凍結乾燥などが挙げられる。これらのうち、銀−ヒスチジン多核錯体の熱分解を抑制するという観点から、減圧乾燥が好ましい。得られた固体材料は、乾燥後に、粉砕、分級などの公知の粉粒取扱操作を行ってもよい。
【0030】
本発明の固体材料は、 固体担体、および その表面に担持された水不溶性銀ヒスチジン多核錯体 を含有してなるものである。
固体担体に担持された銀ヒスチジン多核錯体は水不溶性である。具体的に、固体担体に担持された銀ヒスチジン多核錯体は、中性で常温における水に対する溶解度が、好ましくは100mg/L以下、より好ましくは10mg/L以下、さらに好ましくは1mg/L以下である。
【0031】
本発明の固体混合材は、前述した本発明の固体材料と、固体担体Bとを含有するものである。
固体混合材に用いられる固体担体Bは、前記固体材料に含有される固体担体Aと同じ若しくは異なる種類のもの、好ましくは当該固体担体Aと同じ種類のもの、より好ましくは当該固体担体Aと同じ組成を有するもの、特に好ましくは当該固体担体Aと同じ特性値(組成、粒径などの諸特性)を有するものである。また、固体混合材に用いられる固体担体Bは、最大粒径が、200μm以下、好ましくは50μm以下である。
固体混合材における、本発明の固体材料と、固体担体Bとの混合比は、特に限定されないが、本発明の固体材料1質量部に対して、固体担体Bの量が、好ましくは100質量部以下、より好ましくは0.1〜50質量部、さらに好ましくは1〜20質量部である。
【0032】
本発明に係る抗菌、抗黴または抗ウイルス剤は本発明に係る固体材料または固体混合材を含有するものである。本発明に係る抗菌、抗黴または抗ウイルス剤に含有される他の成分としては、界面活性剤、分散媒、増粘剤、酸化防止剤、光安定化剤、担体・増量剤、香料、消泡剤等が挙げられる。本発明に係る抗菌、抗黴または抗ウイルス剤は、剤型において特に限定されない。例えば、剤型として、粉剤、粒剤、錠剤、水懸濁剤などが挙げられる。
当該抗菌、抗黴または抗ウイルス剤は、塗料、樹脂などに含有させて塗料組成物や樹脂組成物として利用することができる。また、本発明に係る抗菌、抗黴または抗ウイルス剤を用いて固体または液体を抗菌、抗黴または抗ウイルス処理することができる。
【0033】
本発明の固体材料または固体混合材において、固体担体に水不溶性のものを用いれば、水中で長期間にわたり安定して使用することができる。本発明の固体材料または固体混合材は、それ自体の表面で各種有害微生物の繁殖を防止するのみならず、水中での有害微生物の繁殖を抑制することができる。例えば、浴場や冷却塔の水中において繁殖し重篤な感染症の原因となることがあるレジオネラ菌を初めとして、水中で繁殖し人体に有害もしくは不快感を与える細菌やカビの繁殖を、本発明の固体材料または固体混合材によって抑制することが可能である。また加湿器の貯水槽等や、エアコンまたは除湿機のフィルター等の材料に用いれば、水中や多湿環境中でのカビや雑菌の発生を防ぐことができるだけでなく、空気中のカビ、細菌、ウイルス等有害微生物を殺菌もしくは抑制する効果も期待できる。
【実施例】
【0034】
以下に実施例を示して、本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明はこれら実施例によって何ら限定されるものではない。
【0035】
実施例1
遮光した1Lフラスコに蒸留水628gを入れた。これに、ヒスチジン60gおよび酸化銀43gを投入した。40℃の恒温槽内において、300rpmで回転する攪拌翼で撹拌した。撹拌開始から2時間経過後に淡褐色透明な水溶液が得られた。この溶液に炭酸カルシウム微粉(平均粒径2.78μm、最大粒径24.5μm)300gを添加し、40℃にて撹拌を継続した。撹拌開始から48時間経過後に室温にて濾過して固液分離した。固形物を約100mlの蒸留水で洗浄し、次いで風乾した。平均粒径6.1μm、最大粒径27.4μmの白色粉体が393g(全原料に対する収率98%)得られた。
当該白色粉体は、その表面に平均1μm程度の厚さで銀ヒスチジン多核錯体が被覆されたものであった。
【0036】
比較例1
遮光した1Lフラスコに蒸留水628gを入れた。これに、ヒスチジン60gおよび酸化銀43gを投入した。40℃の恒温槽内において、300rpmで回転する攪拌翼で撹拌した。撹拌開始から48時間経過後に室温にて濾過して固液分離した。固形物を約100mlの蒸留水で洗浄し、次いで風乾した。これを、粉砕して微粉末とした。
この微粉末97gと炭酸カルシウム微粉300gを混合して、混合物を製造した。該混合物は銀として10重量%を含有していた。該混合物は、銀ヒスチジン多核錯体微粉末と炭酸カルシウム微粉とが単に混ざっているだけのものであった。
【0037】
試験例
実施例1で得られた白色粉体または比較例1で得られた混合物を、表1に示した銀濃度で50mlのSCD培地に添加して懸濁させた。これに、NB培地で1晩振盪培養した大腸菌(Escherichia coli)の菌液0.5mlを接種した。これを30±1℃で72時間振盪しながら培養させた。液の濁りの有無で、菌の増殖の有無を確認した。結果を表1に示す。+は菌の増殖あり、−は菌の増殖なしを表す。
【0038】
【表1】

【0039】
表1に示すとおり、実施例1で得られた白色粉体は、比較例1で得られた混合物に比較して、約2倍の抗菌活性を有することがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体担体、および
その表面に担持された水不溶性銀ヒスチジン多核錯体
を含有してなる固体材料。
【請求項2】
前記固体担体は、比表面積が0.1〜1000m2/gである、請求項1に記載の固体材料。
【請求項3】
前記固体担体は、多孔質である、請求項1または2に記載の固体材料。
【請求項4】
前記固体担体は、最大粒径が200μm以下である、請求項1〜3のいずれかひとつに記載の固体材料。
【請求項5】
前記固体担体は、大きさが平均粒径で10μm以下、最大粒径で50μm以下である、請求項1〜3のいずれかひとつに記載の固体材料。
【請求項6】
前記固体担体は、水に対する溶解度が0.1g/L以下である、請求項1〜5のいずれかひとつに記載の固体材料。
【請求項7】
前記固体担体が、炭酸カルシウム、酸化亜鉛、酸化アルミニウムおよび水酸化アルミニウムからなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項1〜6のいずれかひとつに記載の固体材料。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかひとつに記載の固体材料と、最大粒径が200μm以下で且つ前記固体材料に含有される固体担体と同じ若しくは異なる種類の固体担体とを含有する、固体混合材。
【請求項9】
銀イオンおよびヒスチジンを含有する水溶液と固体担体とを混合し、該固体担体の表面上に銀ヒスチジン多核錯体を析出させることを含む、固体材料の製造方法。
【請求項10】
前記水溶液は、ヒスチジンの割合が、銀イオン1モル部に対して、1〜4モル部である請求項9に記載の製造方法。
【請求項11】
混合される固体担体の量が、銀イオンおよびヒスチジンの合計1質量部に対して、0.2〜100質量部である、請求項9または10に記載の製造方法。
【請求項12】
銀ヒスチジン多核錯体の析出を、温度10℃〜70℃にて行う、請求項9〜11のいずれかひとつに記載の製造方法。
【請求項13】
請求項1〜7のいずれかひとつに記載の固体材料または請求項8に記載の固体混合材を含有する、抗菌、抗黴または抗ウイルス剤。
【請求項14】
請求項13に記載の抗菌、抗黴または抗ウイルス剤を含有する塗料組成物。
【請求項15】
請求項13に記載の抗菌、抗黴または抗ウイルス剤を含有する樹脂組成物。
【請求項16】
請求項13に記載の抗菌、抗黴または抗ウイルス剤を用いて固体または液体を抗菌、抗黴または抗ウイルス処理する方法。

【公開番号】特開2013−35796(P2013−35796A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−174421(P2011−174421)
【出願日】平成23年8月9日(2011.8.9)
【出願人】(000004307)日本曹達株式会社 (434)
【Fターム(参考)】