説明

固体状のメチル化β−シクロデキストリンとヨウ素との包接化物の製造方法

【課題】 乾式で、固体状のメチル化β−シクロデキストリンとヨウ素との包接化物の製造方法を提供する。
【解決手段】 メチル化β−シクロデキストリン1モルに対し、ヨウ素(I)0.05〜1.5モル混合する工程を含むことを特徴とする、固体状のメチル化β−シクロデキストリンとヨウ素との包接化物の製造方法である。本発明によれば、簡便に粉末状のヨウ素−メチル化β−シクロデキストリン包接化物を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体状のメチル化β−シクロデキストリンとヨウ素との包接化物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、ヨウ素の殺菌・防カビ・消毒・防腐剤としての効用は公知である。このようなヨウ素製剤として、ヨウ素をβ−シクロデキストリンで包接した化合物やヨードホール組成物が開発され、各種の用途に使用されている。例えば、ヨウ素製剤として、水にヨウ素およびヨウ化カリウムを溶解させた水溶液や、エタノールにヨウ素およびヨウ化カリウムを溶解させたいわゆるヨードチンキ等がある。また、これらにはヨウ素の揮発性、刺激性および腐食性があるとして、ヨウ素の揮発を防止する上で効果のあるポリビニルピロリドンを担体としたポビドンヨードも多用されている。なお、ポピドンヨードは、ポリビニルピロリドンとヨウ素の複合体であり水に溶解するが長時間を要するため、一般には水溶液に調製されたポピドンヨード1重量%のものが使用されている。
【0003】
一方、液状では嵩高く、保管や輸送など不利であることに鑑みて、固形状のヨウ素製剤も多い。例えば、特許文献1には、ヨウ素−シクロデキストリン包接化物を用いた消臭、殺菌剤が開示されている。このようなヨウ素−シクロデキストリン包接化物の製造方法には制限は無いが、一般にはヨウ素が水に不溶であるためヨウ素溶解助剤を含む水溶液にヨウ素を溶解し、この水溶液にβ−シクロデキストリンを添加し、ヨウ素−シクロデキストリン包接化物を沈殿として析出させている。例えば上記特許文献1では、上記方法によって、ヨウ素とシクロデキストリンとがおよそ等モル含まれるヨウ素−シクロデキストリン包接化物を得ている。また、特許文献2では、ヨウ素溶解助剤の配合量をヨウ素1モルに対してヨウ素溶解助剤1.5〜5モルの割合で溶解し、これにヨウ素1モルに対して0.67〜100モルのシクロデキストリンを添加してヨウ素−シクロデキストリン包接化物を調製している。
【0004】
また、ヨウ素溶解助剤含有溶液に、ヨウ素1モル:ヨウ素含有助剤1.5〜5モルの割合で溶解し、これにヨウ素1モルに対して0.67〜100モルのシクロデキストリンを添加してヨウ素−デキストリン包接化合物を析出させることを特徴とする、ヨウ素−シクロデキストリン包接化物の製造方法もある(特許文献3)。上記は、いずれもヨウ素−β−シクロデキストリン包接化物を製造する際にヨウ素溶解助剤を含有する水溶液から固体として析出させるものである。したがって、得られるヨウ素−β−シクロデキストリン包接化物も粉末状、顆粒状などの固形物として回収することができる。
【特許文献1】特開昭51−88625号公報
【特許文献2】特公昭61−4810号公報
【特許文献3】特開2002−193719号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記方法で得られるヨウ素−β−シクロデキストリンの製造方法は、いずれも水に不溶性のβ−シクロデキストリンを原料として使用し、このため目的物も水に難溶性の包接化物であり、このため溶液中に目的物を析出させる方法を採用するものである。これに対し、親水性のメチル−β−シクロデキストリンを原料として使用すると、得られるヨウ素−メチル−β−シクロデキストリン包接化物も水溶性が高く、溶液中でヨウ素−メチル−β−シクロデキストリン包接化物の析出が困難となり、従って溶液中に溶解した形状で製造される。溶液状で使用するには簡便であるが、輸送や保存時の体積を低減するには、固体状で製造できることが好ましい。この場合、濃縮によってヨウ素−メチル−β−シクロデキストリン包接化物を固形物として得ようとすると、装置内にヨウ素−メチル−β−シクロデキストリン包接化物が付着し、物理的な剥離が必要となり、操作が煩雑であるとともに収率も低下する。
【0006】
加えて、上記方法では、ヨウ素−メチル−β−シクロデキストリン包接化物のほかに、ヨウ素溶解助剤も同時に濃縮されるため、ヨウ素−メチル−β−シクロデキストリン包接化物の純度が低下する。
【0007】
上記現状に鑑み、本発明は、簡便に製造でき、かつ水溶性に優れるヨウ素−シクロデキストリン包接化物を固体状で製造する方法を提供するものである。
【0008】
特に本発明は、溶液を使用しない乾式法で固体状のメチル化β−シクロデキストリンとヨウ素との包接化物を製造する方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、ヨウ素とメチル−β−シクロデキストリンとの包接化工程について詳細に検討した結果、従来は、水に不溶性のヨウ素を溶解するためにヨウ素溶解助剤を溶液状で使用し、これにヨウ素を溶解させβ−シクロデキストリンと包接化物を形成させていたが、メチル−β−シクロデキストリンは、ヨウ素溶解助剤がなくてもヨウ素と直接反応して包接化物を形成しうることを見出し、本発明を完成させた。また、ヨウ素溶解助剤をさらに配合する場合であっても、ヨウ素溶解助剤を溶液として提供することなく、粉末状でヨウ素およびメチル−β−シクロデキストリンと混合することで包接化物が得られることを見出し、本発明を完成させた。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、原料化合物を溶液で供給することなく、乾式で混合することで、固体状のメチル化β−シクロデキストリンとヨウ素との包接化物を製造することができる。このため、製造工程を簡略化できる。
【0011】
しかも、ヨウ素溶解助剤を使用せずに固体状のメチル化β−シクロデキストリンとヨウ素との包接化物が得られるため、ヨウ素溶解助剤の影響を排除することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の第一は、メチル化β−シクロデキストリン1モルに対し、ヨウ素(I)0.05〜1.5モル混合する工程を含むことを特徴とする、固体状のメチル化β−シクロデキストリンとヨウ素との包接化物(以下、ヨウ素−メチル化β−シクロデキストリン包接化物と称する。)の製造方法である。
【0013】
従来から、ヨウ素とシクロデキストリンとの包接化物は種々製造されており、一般にはヨウ素溶解助剤にヨウ素とシクロデキストリンとを混合し、目的物を溶液中に析出させる方法で製造されており、このため水溶性のヨウ素−メチル化β−シクロデキストリン包接化物も同様の方法で製造され、溶媒に溶解させたヨウ素−メチル化β−シクロデキストリン包接化物は存在したが、固体状のヨウ素−メチル化β−シクロデキストリン包接化物は製造されていなった。
【0014】
本発明では、メチル化β−シクロデキストリン1モルに対し、ヨウ素(I)0.05〜1.5モル、より好ましくは0.5〜1.0モル、特に好ましくは0.9〜1.0モルを混合する工程によって、ヨウ素をメチル化β−シクロデキストリンに包接させることができ、これによって固体状のヨウ素−メチル化β−シクロデキストリン包接化物を製造することができる。ヨウ素の配合量を調整することで、ヨウ素の包接量を調整し、目的の包接量の包接化物を製造することができる。この点で、本来ヨウ素の使用量に限定はない。しかしながら、0.05モルを下回ると、包接化物中に十分量のヨウ素が包接されず、ヨウ素−メチル化β−シクロデキストリン包接化物として抗菌性などを十分発揮することができない。一方、1.5モルを上回ると包接量以上のヨウ素が無駄になり、不利となる。なお、従来は、ヨウ素溶解助剤含有溶液にヨウ素を溶解させており、このためヨウ素溶解助剤とヨウ素との複合体がシクロデキストリンに包接されていた。しかしながら、本発明では、ヨウ素溶解助剤を使用することなく直接メチル化β−シクロデキストリンにヨウ素を包接させることができ、ヨウ素溶解助剤の影響を回避できる。さらに、ヨウ素の包接化率は、ヨウ素溶解助剤の使用量に依存していたが、本発明ではヨウ素溶解助剤を使用することなくヨウ素を包接することができるため、ヨウ素溶解助剤の使用量に依存することなく、更にヨウ素の包接化率を向上させることができ、極めて効率的な製造が可能となる。
【0015】
本発明の製造方法によれば、固体状のヨウ素−メチル化β−シクロデキストリン包接化物が製造されるが、好ましくは粉末状である。取り扱いが容易だからである。目的物を粉末状で得るには、原料として使用するメチル化β−シクロデキストリンを粉末状で提供すればよく、一般には、粒径0.2mm以下のものをを使用する。また、ヨウ素も粉末状であることが好ましく、一般には、粒径2mm以下のものを使用する。ヨウ素は昇華性化合物であるため、原料として使用するヨウ素の形状は、得られる目的物の形状に影響を与えないが、粉末状であれば体積当たりの表面積が大きいため反応性に優れる。
【0016】
ヨウ素とメチル化β−シクロデキストリンとの混合は、閉鎖系で反応させることが好ましい。ヨウ素が昇華性物質であり、揮散を防止するためである。このような反応器としては、耐食性オートクレーブやグラスライニング製コニカルドライヤーがある。
【0017】
ヨウ素とメチル化β−シクロデキストリンとの混合は、温度5〜50℃、より好ましくは10〜30℃、特に好ましくは15〜25℃で行う。5℃を下回ると、反応に長時間を要し不利である。一方、50℃を超えるとメチル化β−シクロデキストリンに包接されたヨウ素が、包接化物から離脱する場合があり不利である。
【0018】
一般には、上記範囲で1〜40時間、より好ましくは10〜30時間、特に好ましくは15〜24時間である。
【0019】
本発明では、上記混合工程によってメチル化β−シクロデキストリンにヨウ素が包接される。包接化が終了した後には、反応器内を5〜30torr、より好ましくは10〜25torr、特に好ましくは15〜20torrに減圧し、未反応のヨウ素を系外に排出する。この際、反応器を温度20〜100℃、より好ましくは40〜90℃、特には50〜70℃に調整することが好ましい。20℃を下回ると、未包接ヨウ素が系外に排出されなくなり、一方、100℃を超えると未包接のヨウ素のみならず、包接化物に含まれるヨウ素も離脱する場合があり、不利である。
【0020】
本発明では、上記方法により、メチル化β−シクロデキストリン1モルに対しヨウ素が0.05〜1モル包接された包接化物を製造することができる。
【0021】
本発明では、得られた固形状のヨウ素−メチル化β−シクロデキストリン包接化物がブロック状である場合には、これを粉砕して粉末状にしてもよい。一方、粉末状で得られたヨウ素−メチル化β−シクロデキストリン包接化物を造粒して、顆粒状、ペレット状などの他の形状に調製することもできる。このような造粒や粉砕、分級は粉体工学の従来公知の方法で行うことができる。
【0022】
一方、本発明では、メチル化β−シクロデキストリン1モルに対し、上記範囲のヨウ素とともに、ヨウ素溶解助剤を0.05〜1.5モル、より好ましくは0.05〜1モル、特に好ましくは0.05〜0.5モル配合して混合してもよい。従来法によって製造されるヨウ素−メチル化β−シクロデキストリン包接化物は、溶液として提供され、その製造工程に由来してヨウ素溶解助剤が含まれていた。上記したように、本発明ではヨウ素溶解助剤を使用せずにヨウ素−メチル化β−シクロデキストリン包接化物を製造することができるが、更にヨウ素溶解助剤を配合することで、従来溶液でのみ製造されていたヨウ素−メチル化β−シクロデキストリン包接化物と同じ組成のものを、固形状で製造することができる。また、このような固形状のヨウ素−メチル化β−シクロデキストリン包接化物を溶媒に溶解すると、従前のヨウ素−メチル化β−シクロデキストリン包接化物含有溶液として使用することができる。ヨウ素溶解助剤の使用量がメチル化β−シクロデキストリン1モルに対し0.05モルを下回ると、配合の意義が少なく、一方、1.5モルを超えてもその効果は変わらない。
【0023】
このようなヨウ素溶解助剤としては、水素原子又はリチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属、またはマグネシウム、カルシウム,バリウムなどのアルカリ土類金属と、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素などのハロゲン原子とのハロゲン化物が好ましく、該ハロゲン原子が塩素、臭素またはヨウ素であることがより好ましい。このようなヨウ素溶解助剤としては、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化カリウム、ヨウ化マグネシウム、ヨウ化カルシウム、ヨウ化バリウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、塩化バリウム、臭化ナトリウム、臭化カリウム、臭化マグネシウム、臭化カルシウム、臭化バリウム等があり、これらのなかでもヨウ素の溶解性に優れる点で、ヨウ化ナトリウムまたはヨウ化カリウムを使用することが好ましい。
【0024】
ヨウ素溶解助剤を配合する場合には、添加順序としてメチル化β−シクロデキストリンとヨウ素溶解助剤との混合物にヨウ素を添加してもよく(方法1)、メチル化β−シクロデキストリンとヨウ素の混合物にヨウ素溶解助剤を添加してもよい(方法2)。または、メチル化β−シクロデキストリンとヨウ素とを混合して包接体を形成させてから、これにヨウ素溶解助剤を添加し、更に混合してもよい(方法3)。本発明では、特に方法3が好適である。なお、ヨウ素とヨウ素溶解助剤とを予め混合すると、混合容器の壁に両者による複合体が付着し、製造効率が低下する場合がある。
【0025】
本発明は、上記によって、乾式でヨウ素−メチル化β−シクロデキストリン包接化物を製造するものである。原料化合物を溶液に溶解する必要がないため、原料化合物の溶解度の如何にかかわらず目的物を製造することができる。このため、例えば得られたヨウ素−メチル化β−シクロデキストリン包接化物を溶媒に溶解した場合であっても、従来よりもヨウ素含有量の高い溶液を調製することができる。
【実施例】
【0026】
次に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、これらの実施例は何ら本発明を制限するものではない。
【0027】
(実施例1)
2リットルナスフラスコに、メチル化β−シクロデキストリン330g(252mmol)、ヨウ素64.2g(253mmol)を仕込み、室温で14時間撹拌混合し、次いで、70℃水浴上,20torr.の減圧下に6時間、未包接のヨウ素を追い出した。これによって、381gのヨウ素−シクロデキストリン包接化物を得た。また、このヨウ素−シクロデキストリン包接化物に含まれる有効ヨウ素を測定すると15.21質量%であった。
【0028】
(実施例2)
1リットルナスフラスコに、メチル化β−シクロデキストリン(MCD)83.3g(63.6mmol)、ヨウ素16.2g(63.8mmol)、ヨウ化カリ10.6g(63.8mmol)を仕込み、室温で12時間撹拌混合し、次いで、50℃水浴上、20torrの減圧下に未包接のヨウ素を追い出した。これによって、109gのヨウ素−メチル化β−シクロデキストリン包接化物を得た。
【0029】
ヨウ素−メチル化β−シクロデキストリン包接化物に含まれる有効ヨウ素を測定すると12.94質量%であった。
【0030】
また、このヨウ素−メチル化β−シクロデキストリン包接化物は、水(溶解度37質量%)、メタノール(溶解度34質量%)、酢エチ:メタノール(1:1質量比)混合用溶媒(溶解度20質量%)、プロピレングリコール(溶解度20質量%)に溶解した。なお、これらの溶解度は温度20℃での値である。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明によれば、簡便に、固体状のメチル化β−シクロデキストリンとヨウ素との包接化物を製造することができ、有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
メチル化β−シクロデキストリン1モルに対して、ヨウ素(I)を0.05〜1.5モル混合する工程を含むことを特徴とする、固体状のメチル化β−シクロデキストリンとヨウ素との包接化物の製造方法。
【請求項2】
メチル化β−シクロデキストリン1モルに対し、さらにヨウ素溶解助剤を0.05〜1.5モル配合して混合することを特徴とする、請求項1記載の固体状のメチル化β−シクロデキストリンとヨウ素との包接化物の製造方法。
【請求項3】
該ヨウ素溶解助剤が、ヨウ化ナトリウムまたはヨウ化カリウムである、請求項2記載の固体状のメチル化β−シクロデキストリンとヨウ素との包接化物の製造方法。
【請求項4】
メチル化β−シクロデキストリンとヨウ素との包接化物が粉末状である、請求項1〜3のいずれかに記載の固体状のメチル化β−シクロデキストリンとヨウ素との包接化物の製造方法。

【公開番号】特開2006−335751(P2006−335751A)
【公開日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−166239(P2005−166239)
【出願日】平成17年6月6日(2005.6.6)
【出願人】(000227652)日宝化学株式会社 (34)
【Fターム(参考)】