説明

固体粒子の洗浄方法

本発明においては、重力による沈降によって洗浄槽内に形成された高濃度帯域中の固体粒子を、洗浄槽底部より供給された洗浄液の上昇流と向流接触させることにより連続的に洗浄する。簡易な装置で固体粒子中の不純物を高度に除去することができ、また、洗浄廃液を固体粒子供給のための分散媒、洗浄液として循環使用することが出来るので、系外に排出される洗浄廃液の量を低減することが出来る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は固体粒子の洗浄方法に関し、特に、少ない洗浄液の使用量で効率的に固体粒子の洗浄を行う方法に関する。
【背景技術】
固体粒子を、洗浄液で洗浄する操作は、有機および無機化学品の製造において頻繁に行なわれる操作である。また最近では、ダイオキシンなどの有害物質に汚染された土壌を再生する手段として水などの洗浄液で汚染土壌を洗浄することが行なわれている。
固体粒子の洗浄操作は基本的に固体粒子中の不純物を洗浄液に移行させる工程と固体粒子と洗浄液を分離する工程からなる。前段の工程では、不純物を洗浄液に溶解させる、あるいは不純物をより微細な粒子として洗浄液に分散させることによって不純物が固体粒子から除去される。不純物の除去効率を高め、洗浄液への不純物の移行速度を速めるために攪拌機を有する洗浄槽が使用されることが多い。前段工程では洗浄槽の構造や滞留時間を調整することで、不純物をほぼ完全に洗浄液に移行させることも可能である。
後段の工程では、静置して上澄みを除去する方法、ろ過や遠心沈降などの固液分離方法により固体粒子を分離する。このような分離方法で得られる固体粒子には通常多少の洗浄液を同伴している。固体粒子に付着した洗浄液自体は乾燥によって除去できるものの、洗浄液中の不純物は蒸発せずに固体粒子中に残留し、不純物の除去が不充分になる。
従って、固体粒子の洗浄で不純物を高度に除去するためには、分離操作において固体粒子に同伴する洗浄液を低減する事が必要である。固体粒子の洗浄効果を高めるために、分離機内で分離後の粒子に新たな洗浄液を振りかけて不純物を含む洗浄液を除去する形式の分離機が用いられている。しかしながら、このような分離機には構造が複雑である、固体粒子の径が小さい場合には充分な洗浄効果が得られないといった問題がある。固体粒子の洗浄効果を高める別の手段としては、洗浄槽と分離機を多数組み合わせて洗浄する方法がある。しかし、工業的によく使用される遠心分離機や回転式濾過分離機などは高価であり、これを多数使用する事は設備費用が嵩む事になる。また、液体サイクロンを多数使用して固体粒子を高度に洗浄する方法が開示されている(特開平5−140044号公報)。サイクロン自体は単純な構造で分離機としては安価であるが、洗浄液を循環使用するには多数のポンプを必要とし、全体として複雑になるため必ずしも安価な装置とはならない。また、破砕し易い固体粒子は、多数のポンプやサイクロン内において破砕される為、そのような粒子には適用が困難である。従って、より単純な装置で高度に固体粒子の洗浄を行える方法が望まれていた。
固体粒子の洗浄における他の課題として、洗浄廃液の排出量を抑えることが挙げられる。先に例示した各種化学品の製造における結晶の洗浄や汚染土壌の洗浄において、不純物を含む洗浄廃液をそのまま排出すると環境を汚染するので、物理的、化学的あるいは生物化学的処理により不純物を分解ないしは無害化してから排出する必要がある。この際、廃液量が少なく不純物が濃縮されているほど分解や無害化処理を行う装置のサイズや使用エネルギーを小さくできるため有利である。特にダイオキシン類のように極めて低い濃度にまで除去する必要がある物質の場合、従来の洗浄方法では廃液量が多くなるとともに廃液中の不純物濃度が低くなる為、安価に効率よく無害化する事が困難になる。例えば、洗浄する土壌と同重量の洗浄廃水を無害化する必要があり(特開2001−113261号公報の実施例1)、土壌重量に対して3倍量の洗浄水が必要になる(特開2001−47027号公報の実施例)。
【発明の開示】
本発明は、簡易な装置で固体粒子中の不純物を洗浄液による洗浄によって高度に除去すると共に洗浄廃液の排出量を低減する方法を提供することを目的とする。
本発明者らは固体粒子の洗浄における上記問題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、洗浄槽に固体粒子と洗浄液を供給し、洗浄槽内に固体粒子の高濃度帯域を形成させ、且つ供給した洗浄液の一部を上昇流として固体粒子と向流接触させることにより、固体粒子中の不純物を高度に除去すると共に洗浄廃液の排出量を低減できることを見出し、本発明に到達した。
即ち本発明は、(1)洗浄槽上部より固体粒子を供給し、重力の作用によって固体粒子を沈降させて洗浄槽内に固体粒子の高濃度帯域を形成し、(2)洗浄槽底部より洗浄液をその一部が上昇流を形成するように供給し、(3)固体粒子と洗浄液の上昇流を向流接触させ、(4)洗浄後の固体粒子を残りの洗浄液の一部とともにスラリーとして抜き出し、(5)該スラリーから洗浄固体粒子を分離することを特徴とする固体粒子の連続洗浄方法に関する。
本発明の固体粒子の連続洗浄方法によれば、固体粒子中の不純物を高度に除去できると共に、洗浄廃液の排出量を低減できるため、洗浄廃液の処理に要するコストが低減され、工業的に極めて有利に固体粒子の洗浄が行なえる。また、洗浄固体粒子を含有するスラリーから分離された母液を、洗浄槽上部から供給する固体粒子の分散媒、または、洗浄槽底部から供給する洗浄液として循環使用することができる。
【図面の簡単な説明】
図1は、本発明による固体粒子洗浄方法を実施するための工程を説明する概略図である。
図2は、固体粒子をスラリー調合槽で分散媒と混合してから洗浄槽に供給し、固液分離機で分離された母液を洗浄液として循環使用する洗浄方法を説明する概略図である。
図3は、固体粒子をスラリー調合槽で分散媒と混合してから洗浄槽に供給し、固液分離機で分離された母液をスラリー調合の分散媒として循環使用する洗浄方法を説明する概略図である。
図4は、比較例1および2で使用した一般的な洗浄槽と固液分離機の組み合わせによる固体粒子洗浄方法を説明する概略図である。
図5は、実施例で使用した撹拌翼の説明図である。上側が平面図で、下側が側面図である。Dは洗浄槽の内径を示す。
図6は、実施例で使用した撹拌翼の説明図である。上側が平面図で、下側が側面図である。Dは洗浄槽の内径を示す。
図7は、実施例8および9で使用した洗浄装置を示す概略図である。
図8は、実施例8および9で使用した撹拌翼の説明図である。上側が平面図で、下側が側面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
本発明の対象となる固体粒子の洗浄操作とは、洗浄液を使用して固体粒子中の不純物を低減する操作全般を含む。すなわち、固体粒子表面に付着している不純物を洗浄液で溶解して除去する操作、固体粒子内部の不純物を洗浄液で抽出して除去する操作、溶媒中での化学反応によって得られたスラリーから不純物が溶解した溶媒を分離して固体粒子を得る操作等を含む。
本発明で使用する洗浄槽の形状、構造は特に限定されないが、例えば、図1〜3および7に示すような縦型の洗浄槽2または洗浄槽34が好適に用いられる。
以下、本発明による固体粒子の連続洗浄の概略を説明する。固体粒子は、そのまま(図1)、またはスラリー(図2、3および7)として洗浄槽上部の供給口より洗浄槽に供給される。洗浄槽に供給された固体粒子は重力によって洗浄槽内を沈降し固体粒子の高濃度帯域を形成する。洗浄槽の底部からは洗浄液が供給される。供給された洗浄液の一部は上昇流となり、高濃度帯域において固体粒子と向流接触しこれを洗浄する。洗浄された固体粒子は洗浄槽底部より残りの洗浄液の一部と共にスラリーとして抜き出される。向流接触後、上昇流は更に上昇して洗浄槽上部の洗浄廃液排出口より流出する。また、固体粒子を分散媒とともにスラリー状で供給した場合、供給されたスラリー中の分散媒の大部分は、上昇流と共に洗浄廃液排出口より流出する。洗浄槽は、通常、0〜230℃、0〜10MPaG(ゲージ圧)で運転される。
洗浄廃液排出口から流出する固体粒子を低減するために、洗浄廃液排出口は固体粒子/スラリー供給口より高い位置に設けるのが好ましい。図1に示される直接固体粒子を供給する洗浄槽では、固体粒子供給口の下端を洗浄廃液排出口より低い位置にすることが好ましい。このように、本発明によれば、固体粒子を洗浄すると共に、洗浄槽上部の不純物を多く含む液体が底部に混入してくることを防止できる。
本発明の方法では洗浄槽内に固体粒子の高濃度帯域を形成させることが重要である。洗浄槽下部からのスラリー抜き出し量を調節することで高濃度帯域を形成させることが出来る。高濃度帯域中の固体粒子の濃度が低いと、高濃度帯域内に固体粒子と液の激しい対流混合が発生し固体粒子中の不純物の除去効果が低下する。一方、高濃度帯域中の固体粒子濃度が過大になると固体粒子の固結やスラリー排出口での閉塞が起きやすくなり、安定した運転が困難になる。高濃度帯域中の好ましい固体粒子濃度は15〜50体積%である。
高濃度帯域中の固体粒子濃度を調節するには、固体粒子及び洗浄液の供給速度を調整することにより行なえるが、より広い供給速度の範囲で安定した高濃度帯域を形成させる為には洗浄槽内に攪拌機を設けるのが好ましい。特に、固体粒子の鉛直方向の流動を抑えるためには、回転によって水平な旋回流を生じさせる攪拌翼を鉛直方向に複数個取り付けた中心軸からなる攪拌機が好ましい。旋回流を生じさせる攪拌翼としては、図5、6および8に示される形状が例示される。攪拌翼の径は、洗浄槽の内径の0.5〜0.99倍とするのが好ましい。また、攪拌翼の好ましい回転速度は、攪拌翼先端の周速度で0.2〜5m/sである。回転速度が遅すぎると固体粒子の鉛直方向の対流を抑える効果が低くなり、回転が速すぎると攪拌機による混合が強くなるため、何れも不純物除去効果が低くなる。また、洗浄槽底部に近い最下段の攪拌翼は、固体粒子の底部へ滞留やスラリー排出口の閉塞を防止する為に傾斜パドル翼やタービン翼などの前記とは異なる形状の撹拌翼を使用してもよい。
洗浄効果を高めるためには、洗浄槽の高さを大きくして高濃度帯域の高さを大きくすること、あるいは攪拌翼の数を増やすことが好ましい。攪拌翼は通常1〜30個使用される。攪拌翼はある一定以上の間隔をもって設置する。攪拌翼の間隔は洗浄槽の内径に対して0.1〜2倍が好ましく、より好ましくは0.2〜1.5倍である。高濃度帯域の高さ(洗浄槽底部からその上面まで)は、洗浄槽底部から洗浄廃液排出口までの高さの0.5〜0.95倍であるのが好ましい。攪拌翼を複数個取り付けた中心軸を有する洗浄槽の場合、高濃度帯域の高さは、洗浄槽底部から最上部の撹拌翼までの高さの1.03〜1.5倍が好ましい。
洗浄液の上昇流の流量は処理される固体粒子1重量に対して好ましくは1重量以下、より好ましくは0.5重量以下である。この上昇流は洗浄廃液として系外に排出されることもあるので少ないほど好ましいが、流量が少な過ぎると不純物除去効果が低くなるので処理される固体粒子1重量に対して0.01重量以上であるのが好ましい。洗浄液の上昇流の速度(上昇線速度)の下限は、ゼロを越える値、つまり実質的に洗浄液の上昇流が形成されれば良く、その上限はおおよそ毎時3.3mであるのが好ましい。
洗浄槽より抜き出されたスラリーは固液分離機に送られる。洗浄槽を高温高圧の条件で操作する場合には、途中にスラリー貯槽を設け、スラリーの温度、圧力を下げて固液分離機に供給可能な状態にすることが好ましい。固液分離機が高温高圧の条件下で運転可能な形式のものであれば、スラリー貯槽を設ける必要はない。固液分離機としては遠心沈降分離機、遠心濾過分離機、真空濾過機、加圧濾過機などが挙げられるが、特に限定されない。洗浄槽からは連続的にスラリーが抜き出されるので、連続的にスラリーを供給することができ、分離ケーキと母液を連続的に排出することができる固液分離機が好ましい。スラリーから固体粒子を分離した後の母液は、固体粒子の洗浄液として循環使用することができる。分散媒と洗浄液が同じものであれば、この母液を分散媒として循環使用することもできる。
次に、本発明において好適に使用される固体粒子、洗浄液およびスラリー分散媒について説明する。
本発明の洗浄方法では重力による固体粒子の沈降を利用するので、固体粒子が小さすぎると沈降速度が遅く充分な処理量が得られない。逆に、固体粒子が大きすぎると沈降速度が速すぎて充分な洗浄効果が得られない。従って、固体粒子の大きさは、体積基準のメジアン径が0.01〜5mmであるのが好ましく、より好ましくは0.02〜2mmである。また、洗浄する固体粒子の粒径に分布がある場合、微細な粒子は洗浄液の上昇流に伴われて洗浄廃液排出口から流出する場合がある。洗浄液およびスラリー分散媒の性状にもよるが、粒径約0.005mm以下の粒子は沈降せずに洗浄液の上昇流に伴われて流出する。従って、微細粒子の流出を防ぐ必要がある場合には、固体粒子の粒径分布の下限は0.005mm以上であるのが好ましい。
微細な粒子ほど不純物の含有割合が高くなる傾向が認められる場合がある。これは、微細粒子ほど表面積が大きく不純物が吸着、付着しやすい、あるいは固液分離において固体粒子に付着する液体量が多くなるといった理由で説明される。不純物を多く含む微細粒子が流出すると、洗浄槽底部から抜き出される固体粒子の不純物含有量は低下し、洗浄効果がより高められることになる。従って、洗浄廃液に同伴されて流出する微細粒子量が許容範囲内であれば、その流出によって、むしろ好ましい効果が得られる。
洗浄される固体粒子の具体的な例としては、芳香族ポリカルボン酸を挙げることができる。芳香族ポリカルボン酸は、1個またはそれ以上の芳香環をもつ芳香族炭化水素、例えばベンゼン、ナフタレン、ビフェニル等に、2個以上のカルボキシル基が結合したものである。
ベンゼンポリカルボン酸としてはテレフタル酸以外のイソフタル酸などが好ましい。ナフタレンポリカルボン酸としては、ナフタレンジカルボン酸、ナフタレントリカルボン酸、ナフタレンテトラカルボン酸等が挙げられる。このうち、ポリエステルやウレタン、液晶ポリマー等の原料として有用なナフタレンジカルボン酸がより好ましく、2,6−ナフタレンジカルボン酸が特に好ましい。ビフェニルポリカルボン酸としては、ビフェニルジカルボン酸、ビフェニルトリカルボン酸、ビフェニルテトラカルボン酸等があり、このうちビフェニルジカルボン酸は、ポリエステルやポリアミド、液晶ポリマー等の原料として有用であり、4,4’−ビフェニルジカルボン酸が好ましい。
洗浄液は、固体粒子および除去すべき不純物に対する溶解能、比重及び粘度などを考慮して、水、酢酸などの脂肪族カルボン酸、脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素、カルボン酸エステルなどのエステル、アルコール、ケトンなどから選択される。固体粒子から除去すべき不純物に対して充分な溶解能を有し、一方、洗浄される固体粒子に対しては過大な溶解能を有さないことが望ましい。より具体的には、洗浄槽の運転温度において不純物を完全に溶解できること、及び洗浄される固体粒子に対する溶解能が洗浄液100g当たり10g未満であることが好ましい。
固体粒子の重力沈降を利用するので、洗浄液の比重は固体粒子の真比重よりも小さいことが必要である。さらに、固体粒子の沈降速度は固体粒子と洗浄液の比重差や洗浄液の粘度によって変化する。前記のように、沈降速度が速すぎても遅すぎても好ましくないので、適度な沈降速度が得られるように、固体粒子と洗浄液の組み合わせを選択する。具体的には、洗浄される固体粒子の平均粒径における終末沈降速度が好ましくは0.0005〜0.5m/s、より好ましくは0.001〜0.15m/sになるような洗浄液が好ましい。
固体粒子をスラリー状態で供給する場合に使用される分散媒は、洗浄液と同じであっても異なるものであってもよく、洗浄液と同様にして選択される。なお、異なる場合には、洗浄液と分散媒が任意の比率で相互に溶解し均一な溶液になることが好ましい。
固体粒子の洗浄効果を高めるために洗浄液またはスラリー分散媒に界面活性剤などを添加することも出来る。
本発明の洗浄方法を実施するため装置構成の例を、図1〜3および7に示す。図1は、固体粒子11を洗浄槽2にそのまま供給し、洗浄する方法を示す。図2および3は、固体粒子11をスラリー調合槽1で分散媒12と混合してから洗浄槽2に供給し、洗浄する方法を示す。この方法は、洗浄効果を高めるために洗浄槽を高温、高圧条件で操作する場合、溶媒中での化学反応によって得られたスラリー中の固体粒子を洗浄する場合などに好適に使用される。図2は固液分離機で分離された母液18を洗浄液14として循環使用する場合、図3は分離母液18をスラリー分散媒12として循環使用する場合をそれぞれ示す。図7は、スラリー調合槽31からスラリーを洗浄槽34に供給し、洗浄する方法を示す。なお、これらの図においてポンプなどの送液手段や熱交換器などの加熱、冷却装置は省略している。また、図1〜4において、同じ参照番号は同じ要素を表す。
図2を例にとって本発明を詳細に説明する。固体粒子11はスラリー調合槽1に供給され分散媒12と混合される。なお、溶媒中での化学反応によって得られたスラリー中の固体粒子を洗浄する場合には、11は固体粒子の原料、12は反応溶媒、1は反応器に相当する。
スラリー調合槽1の構造についての制限はない。固体粒子と分散媒が混合してスラリーを形成するに足りる大きさであれば良く、固体粒子と分散媒の混合を良くする為、及び固体粒子の沈殿、凝集を防止する為に攪拌機を設けても良い。
ライン13によって調合槽1から洗浄槽2にスラリーが供給される。洗浄槽2に供給された固体粒子は重力によって洗浄槽内を沈降し、固体粒子の高濃度帯域を形成しながら更に沈降して洗浄槽底部より洗浄液14とのスラリーとしてライン15より抜き出される。一方、供給されたスラリー中の分散媒12の大部分は、スラリー供給口より上部にある洗浄廃液排出口よりライン21を通って流出する。洗浄槽2の底部からは、洗浄液14が供給される。洗浄液14の一部は洗浄槽内の上昇流として固体粒子11と向流接触して洗浄廃液排出口より流出する。これにより固体粒子を洗浄すると共に、洗浄槽上部の不純物を多く含む液体が底部に混入してくる事を防止する。
底部より抜き出されたスラリーはライン15、スラリー貯槽3、ライン16を経由して固液分離機4に送られ、ケーキ17と母液18に分離される。分離されたケーキ17から含有されている洗浄液を除くことによって、洗浄固体粒子が最終製品として得られる。固液分離機4から排出された母液18の一部を、ライン19を経由して洗浄液14として循環使用してもよい。あるいは図3に示されるように、スラリー調合の分散媒12として循環使用してもよい。循環使用しない母液は、ライン20を経由して系外に除かれる。母液を循環使用する割合が高いほど系外に排出される母液が少なくなり好ましい。本発明では、分離した母液のほぼ全量を循環使用することも可能である。
洗浄槽2の洗浄廃液排出口から流出した洗浄廃液21も、その一部をライン23を経由してスラリー調合の分散媒12として循環使用してもよい。この循環割合が高いほど洗浄廃液21に不純物が濃縮され、不純物の無害化処理が容易になる。また、系外に排出される洗浄廃液22の量が低減される。また、洗浄液が高価な場合や環境に対して有害である場合には、洗浄廃液を系外に排出することなく、洗浄廃液中の不純物を分離除去し洗浄液を再生、再使用する必要がある。この再生方法として、例えば蒸留などの手段が用いられるが、洗浄廃液の量が少なければ、再生に要するエネルギーが節約され、また再生設備を小さく出来るので極めて有利である。
次に実施例によって本発明を更に具体的に説明する。ただし本発明はこれらの実施例により制限されるものではない。
【実施例1】
図1に示す装置を用いて固体粒子の表面に付着した不純物を除去する実験をおこなった。固体粒子として、(株)宇部サンド工業製の珪砂(宇部珪砂7号、平均粒径0.10mm、真比重2.6)を使用した。不純物の除去効果を測定するために、この珪砂を塩化ナトリウム水溶液に浸した後、固液分離、乾燥して得られたものを原料固体粒子として洗浄槽に供給した。この原料固体粒子は830重量ppmのナトリウムイオンを含んでいた。洗浄液には水を使用した。
洗浄槽は、内径300mmの円筒形で底部は円錐状になっており、最下部にスラリー排出口を有する。円筒部の長さは2000mmで上面には固体粒子の供給口を有する。洗浄槽上面から200mm下には洗浄廃液排出口があり、固体粒子供給口のノズル先端は洗浄槽上面から400mm下の位置にある。洗浄槽は、図5に示す攪拌翼(翼径270mm)を150mm間隔で9個、最下部には槽底部の形状に沿う形の平板パドル翼が取り付けられた中心軸を有する。
洗浄槽底部から抜き出されたスラリーはポンプ(図では省略)にて固液分離機に供給した。固液分離機には、遠心沈降型の分離機を使用した。分離された固体粒子は乾燥した後、付着しているナトリウムイオンの測定を行った。
洗浄槽に水を張り込み、撹拌機を毎分60回転の速度で回しながら原料固体粒子を毎時100重量部、洗浄水を毎時20重量部供給した。洗浄槽底部からのスラリー抜き出しは行なわず洗浄槽内に固体粒子の高濃度帯域を形成させた。高濃度帯域の上面が最上段の攪拌翼より200mm上の位置に達した時点より、洗浄槽底部からスラリーを抜き出し分離機への供給を開始した。分離機で得られた母液は、その全量を循環ラインより洗浄液として洗浄槽内に循環した。その後は、高濃度帯域の上面を一定に維持する様に底部からのスラリー抜き出し量を調節すると共に、洗浄廃液排出口からの洗浄廃液排出量が毎時約10重量部になるように洗浄水の供給量を調節しながら連続運転を行なった。この間、高濃度帯域の固体粒子濃度は25〜26体積%であった。
分離後の固体粒子は、乾燥して含水率を求め、残留ナトリウムイオン濃度を測定した。運転が安定した後にサンプリングし、乾燥した洗浄固体粒子の含水率は5〜6重量%、ナトリウムイオン濃度は5.2〜6.1ppmであった。原料に対するナトリウムイオンの除去率は、99.27〜99.37%であった。
比較例1
図4に示した一般的な洗浄槽と固液分離機の組み合わせによる固体粒子洗浄装置の不純物除去効果を求める実験を行なった。洗浄槽は傾斜パドル翼を取り付けた撹拌機を有し、固液分離機は実施例1と同じものを使用した。洗浄槽に実施例1で使用したのと同じ固体粒子を毎時100重量部、洗浄水を毎時250重量部供給し、抜き出したスラリーを、ポンプを通して分離機に供給した。分離した母液は再使用せずに、全量(約240重量部)を系外に排出した。
分離後の固体粒子について実施例1と同様の分析をおこなったところ、含水率は5〜6重量%、ナトリウムイオン濃度は17〜20ppmであった。ナトリウムイオンの除去率は、97.6〜97.9%であった。
実施例1と比べて系外への洗浄廃液排出量が非常に多く、不純物除去率も低かった。
比較例2
洗浄液の供給量を毎時15〜16重量部、分離した母液のうち毎時10重量部を系外に抜き出し、残部は洗浄槽に循環使用するように変更した以外は、比較例1と同様の操作にて実験を行なった。
含水率は5〜6重量%、ナトリウムイオン濃度は280〜320ppm、ナトリウムイオンの除去率は33〜38%であった。
系外への洗浄廃液排出量を実施例1と同程度にしたが、不純物除去率が非常に悪い結果となった。
【実施例2】
洗浄廃液抜き出し量を毎時約30重量部になるように洗浄水の供給量を調節した以外は、実施例1と同様の操作で実験を行なった。
ナトリウムイオン濃度は0.58〜0.63ppmで、ナトリウムイオン除去率は99.92〜99.93%であった。
【実施例3】
分離機で分離された母液のうち毎時10重量部を系外に抜き出し、残部を洗浄液として循環使用した以外は、実施例1と同様の操作で実験を行なった。
ナトリウムイオン濃度は1.8〜2.1ppmで、ナトリウムイオン除去率は99.75〜99.78%であった。
【実施例4】
実施例1で使用した洗浄槽において攪拌翼の数を5枚に減らし、間隔を300mmとした以外は、実施例1と同様の操作で実験を行なった。ナトリウムイオン除去率は、98.2〜98.3%であった。
【実施例5】
攪拌翼の回転数を毎分150回転(翼端の周速=2.1m/s)とした以外は、実施例1と同様の操作で実験を行なった。ナトリウムイオン除去率は、97.3〜97.5%であった。
【実施例6】
図6に示される攪拌翼を使用した以外は、実施例1と同様の操作で実験を行なった。ナトリウムイオン除去率は、97.2〜97.8%であった。
比較例3
固体粒子の供給量を毎時250重量部、洗浄廃水の抜き出し量を毎時30重量部とした以外は、実施例1と同様の装置及び操作で実験を行なった。この間、高濃度帯域の固体粒子濃度は14体積%前後であった。
含水率は5〜7重量%、ナトリウムイオン濃度は150〜170ppm、ナトリウムイオン除去率は、79〜82%であった。
比較例4
攪拌翼の回転数を毎分10回転(翼端の周速=0.14m/s)に減らした以外は、実施例1と同様の操作で実験を行なった。ナトリウムイオン除去率は、76〜80%であった。
【実施例7】
珪砂に変えて粒状アルミナ(平均粒径0.20mm,比重2.0)を使用した以外は、実施例1と同様の操作で実験を行なった。供給した粒状アルミナ中のナトリウムイオン濃度は970ppmであった。
含水率は6重量%前後、ナトリウムイオン濃度は8.3〜8.8ppm、ナトリウムイオン除去率は、99.09〜99.14%であった。
【実施例8】
図7に示す装置を用いてm−キシレンの液相酸化反応によって得られた粗イソフタル酸結晶の酢酸溶媒スラリー(原料スラリー)を水で洗浄する実験を行った。該原料スラリーは、工業的規模で製造されたスラリーであり、具体的にはm−キシレンを含水酢酸溶媒中で、コバルト、マンガン、臭素化合物からなる酸化触媒の存在下、反応温度200℃で空気を吹き込んで酸化して得られた反応生成物である。原料スラリー中のイソフタル酸結晶の濃度は30重量%、結晶分を除去した母液の組成は酢酸が86%、水が14重量%であった。
図7において、調合槽31の原料スラリーを、ポンプ32によってライン33を通して、洗浄槽34の上部に供給した。洗浄槽34は内径Dが36mmのチタン製円筒であり、モーター35に接続された撹拌軸36を有している。撹拌軸36のスラリー供給口より下方の部分には、50mm間隔で計15個の撹拌翼37が取り付けられている。撹拌翼は、図8に示す形状のものを使用した。撹拌翼の径dは32mmで、内径Dの約0.9倍である。洗浄槽34の塔頂部には洗浄廃液排出管39がある。洗浄槽34の底部には、洗浄水の供給管40と洗浄後のスラリーの抜き出し管41が連結されている。洗浄水はポンプ42によって洗浄槽34に供給される。なお、ライン33、40、41にはそれぞれ流量計と流量を調節する弁(図示せず)が設けられている。また、ライン39には洗浄槽内の圧力を調節するための弁(図示せず)が設けられている。
先ずポンプ42を駆動し、洗浄槽内に90℃の水を張り込んだ。洗浄廃液排出管39から水がオーバーフローし始めたところで、洗浄槽内の水の上昇線速度が毎時0.5mとなるように水の供給量を調節した。モーター35を作動させて撹拌軸36および撹拌翼37を毎分120回転の速度で回転させた。撹拌翼先端の周速度は0.20m/sであった。次にポンプ32を作動して、ライン33を経由して160℃の原料スラリーを8.3kg/hの流量でノズル38から供給した。
粉面検出器で検知しながら高濃度帯域の高さが最上段の撹拌翼よりも50mm上に達したら、洗浄水の供給量を増加させて洗浄槽底部からスラリー抜き出しを開始した。抜き出したスラリーはスラリー受槽43に貯えた。高濃度帯域の高さが所定位置になるようにスラリー抜き出し量を調節するとともに、水の上昇線速度が所定値(毎時0.5m)に維持されるように洗浄水の供給量を調節した。洗浄槽内が安定した状態になってから4時間運転を継続したのち、抜き出したスラリーからサンプルを採取した。サンプルを固液分離し、乾燥させてイソフタル酸結晶を得た。このイソフタル酸結晶の色相はOD340=0.71であった。
OD340は波長340nmにおける吸光度であり、イソフタル酸結晶5.0gを3N−アンモニア水溶液30mlに溶解し、5μmメンブレンフィルターで濾過した濾液を50mm石英セルに入れて分光光度計で測定した。
なお、工業的規模で製造されたイソフタル酸の酢酸溶媒スラリーをロータリーバキュウムフィルター(RVF)で固液分離し、乾燥して得られた粗イソフタル酸結晶の色相はOD340=2.42であった。
【実施例9】
図7に示す装置を用いて2,6−ジメチルナフタレンの液相酸化反応によって得られた粗2,6−ナフタレンジカルボン酸結晶の酢酸溶媒スラリーを水で洗浄する実験を行った。該原料スラリーはパイロット装置で製造されたスラリーであり、具体的には2,6−ジメチルナフタレンを含水酢酸溶媒中で、コバルト、マンガン、臭素化合物からなる酸化触媒の存在下、反応温度200℃で空気を吹き込んで酸化して得た反応生成物である。原料スラリー中の2,6−ナフタレンジカルボン酸結晶の濃度は28重量%、結晶分を除去した母液の組成は酢酸が88%、水が12重量%であった。
190℃の原料スラリーを、50g/hの流量で供給した他は実施例8と同様に実験を行った。洗浄槽内が安定した状態になってから4時間運転を継続した時点で、抜き出しスラリーのサンプルを採取した。このサンプルを固液分離し、乾燥して2,6−ナフタレンジカルボン酸結晶を得た。この2,6−ナフタレンジカルボン酸結晶の色相はOD400=0.78であった。
OD400は波長400nmにおける吸光度であり、2,6−ナフタレンジカルボン酸結晶1.0gを1N−NaOH水溶液10mlに溶解し、5μmメンブレンフィルターで濾過した濾液を10mm石英セルに入れて分光光度計で測定した。
なお、工業的規模で製造された2,6−ナフタレンジカルボン酸の酢酸溶媒スラリーをバスケット型遠心分離機で固液分離し、乾燥して得られた粗2,6−ナフタレンジカルボン酸結晶の色相はOD400=2.13であった。
【産業上の利用可能性】
本発明は、固体粒子表面に付着している不純物を洗浄液に溶解して除去する操作、固体粒子内部の不純物を洗浄液で抽出して除去する操作、溶媒中の化学反応などによって得られたスラリーから不純物を溶解した溶媒を分離して固体粒子を得る操作等、種々の洗浄操作に利用でき、産業上有用である。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)洗浄槽上部より固体粒子を供給し、重力の作用によって固体粒子を沈降させて洗浄槽内に固体粒子の高濃度帯域を形成し、(2)洗浄槽底部より洗浄液をその一部が上昇流を形成するように供給し、(3)固体粒子と洗浄液の上昇流を向流接触させ、(4)洗浄後の固体粒子を残りの洗浄液の一部とともにスラリーとして抜き出し、(5)該スラリーから洗浄固体粒子を分離することを特徴とする固体粒子の連続洗浄方法。
【請求項2】
固体粒子を、分散媒とともにスラリーとして洗浄槽に供給する請求項1に記載の固体粒子の連続洗浄方法。
【請求項3】
洗浄固体粒子を分離した後の母液の一部を、分散媒として循環使用する請求項2に記載の固体粒子の連続洗浄方法。
【請求項4】
洗浄固体粒子を分離した後の母液の一部を、洗浄液として循環使用する請求項1〜3のいずれかに記載の固体粒子の連続洗浄方法。
【請求項5】
高濃度帯域の固体粒子濃度が、15〜50堆積%である請求項1〜4のいずれかに記載の固体粒子の連続洗浄方法。
【請求項6】
高濃度帯域を攪拌機で攪拌する請求項1〜5のいずれかに記載の固体粒子の連続洗浄方法。
【請求項7】
撹拌軸とその鉛直方向に取り付けられた複数個の撹拌翼を含んでなる撹拌機により高濃度帯域に旋回流を生じさせるように撹拌する請求項6に記載の固体粒子の連続洗浄方法。
【請求項8】
固体粒子が芳香族ポリカルボン酸結晶である請求項1〜7のいずれかに記載の固体粒子の連続洗浄方法。

【国際公開番号】WO2005/032736
【国際公開日】平成17年4月14日(2005.4.14)
【発行日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−514498(P2005−514498)
【国際出願番号】PCT/JP2004/014773
【国際出願日】平成16年9月30日(2004.9.30)
【出願人】(000004466)三菱瓦斯化学株式会社 (1,281)
【Fターム(参考)】