説明

固体酸およびその固体酸の製造方法

【課題】 安全で、特殊な装置を使用しない、イオン交換容量、触媒性能、プロトン伝導性が高く耐熱性に優れた固体酸の製造方法および固体酸の提供、およびこれを使用したプロトン伝導膜、固体酸触媒、イオン交換膜、膜電極接合体の提供。
【解決手段】
スルホン酸基を有するフェノチアジン重合体を含むことを特徴とする固体酸。
スルホン酸基を有するフェノチアジン重合体が、未置換および/または置換フェノチアジン単量体を酸化剤の存在下で酸化重合し、得られた酸化重合体をスルホン酸化剤でスルホン酸化したものであることを特徴とする上記固体酸。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体酸およびその固体酸の製造方法に関するものであり、更に詳しくは、プロトン伝導膜、固体酸触媒、イオン交換膜、イオン交換容量、触媒性能、プロトン伝導性が高く耐熱性に優れた固体酸およびその固体酸の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
固体酸触媒は、分離・回収に中和や塩の除去といったプロセスが不要であり、不必要な副産物を生産することなく省エネルギーで目的物を作ることができるため、従来から積極的にその研究が進められてきた(例えば、非特許文献1参照)。
その結果、ゼオライト、シリカ−アルミナ、含水ニオブなどの固体酸触媒が化学工業で大きな成果を挙げ、社会に大きな恩恵をもたらしている。また、前述したNafionも親水性を有する非常に強い固体酸であり、液体酸を上回る酸強度をもつ超強酸として働くことが既に知られている。しかし、Nafionは熱に弱く、また、工業的に利用するには高価すぎるという問題点がある。
このように、性能およびコストなどの面から固体酸触媒が液体の酸触媒より有利な工業的プロセスの設計は難しく、現在のところほとんどの化学産業は液体の酸触媒に依存していると言える。このような現状において液体の酸を凌ぐ固体酸触媒の出現が望まれる。
【0003】
また商業化されているイオン交換樹脂も耐熱性が低く耐熱性の高い材料が求められている。
【0004】
このような中、特許文献1における固体酸は多環式芳香族炭化水素を濃硫酸中あるいは発煙硫酸中で加熱処理することにより縮合およびスルホン化を同時に行い、極性溶媒に不要な固体酸を得ている。
しかし、この方法の反応の実際は、多環式芳香族炭化水素を濃硫酸あるいは発煙硫酸中で加熱処理すると先ずスルホン酸化が生じる。このスルホン酸化により生成されるスルホン酸誘導体は化学反応的に安定であるため、これ以上の縮合反応は生じ難くなる。例えば、ナフタレンを出発多環式芳香族炭化水素とした場合、濃硫酸や発煙硫酸中加熱処理すると、1,3,6−ナフタレントリスルホン酸や1,3,5,7−ナフタレンテトラスルホン酸が必然的に生成される。これらのナフタレンスルホン酸誘導体は化学反応的に安定であるために、これ以上重縮合反応は生じ難い。一般的に、200℃を超えると熱濃硫酸や熱発煙硫酸中の硫酸は水と三酸化硫黄に分解し始めるため酸化力が非常に強い、このために有機物を酸化するために結合を破壊分解するので、目的とする固体酸は得難い。過剰の濃硫酸あるいは発煙硫酸を250℃で減圧蒸留や常圧下、300℃で蒸留を行い取り除いているが、先の理由で酸化分解されるために固体酸は得難い。また、減圧蒸留などの反応溶液の濃縮に伴って、発泡膨張のために作業上非常に危険である。しかし、目的である極性溶媒に不溶の固体酸を得るためには多環式芳香族炭化水素を縮合する必要があるが、濃硫酸あるいは発煙硫酸中加熱処理は、必ずしも効率のよい縮合反応ではない。また、この固体酸は、スルホン酸基の導入がしにくいという問題があった。元素分析により、炭素原子に対する硫黄原子の割合が15モル%未満と低く、さらに硫黄原子を多く含んだ高性能かつ分子設計の自由度が高い、作業上安全で、収率や再現性の高く、容易に製造できる材料の提供が求められていた。
【0005】
【非特許文献1】Ishihara,K;Hasegawa,A;Yamamoto,H;Angew.Chem.Int.Ed.2001,4077.
【特許文献1】特開2004−238311号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、プロトン伝導性が高く、耐熱性に優れ、且つイオン交換容量、触媒性能などにも優れた、且つ作業安全性、収率、分子設計の自由度が高く、再現性がよく、且つ容易に製造できる固体酸を提出することである。
更に本発明の他の課題は、このような固体酸を用いたプロトン伝導膜、固体酸触媒、イオン交換膜を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記課題を解決すべく鋭意研究を進めた結果、スルホン酸基を有するフェノチアジン重合体であることを特徴とする固体酸に関する。
【0008】
また、本発明は、スルホン酸基を有するフェノチアジン重合体が、未置換および/または置換フェノチアジン単量体を酸化剤の存在下で酸化重合し、得られた酸化重合体をスルホン酸化剤でスルホン酸化したものであることを特徴とする上記固体酸に関する。
【0009】
また、本発明は、固体酸の酸価が、1〜20meq/gであることを特徴とする上記固体酸に関する。
【0010】
また、本発明は、未置換および/または置換フェノチアジン単量体を酸化剤の存在下で酸化重合し、得られた酸化重合体をスルホン酸化剤でスルホン酸化することを特徴とする上記固体酸の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の固体酸は、スルホン酸基を有するフェノチアジン重合体を含むことを特徴するものである。好ましくは、前記スルホン酸を有するフェノチアジン重合体が、未置換および/または置換フェノチアジン単量体を酸化剤の存在下で酸化重合し、得られた酸化重合体をスルホン酸化剤でスルホン酸化したものである。未置換および/または置換フェノチアジン単量体を酸化剤により重合できるので、作業安全性が極めて高い。また、得られた酸化重合体をスルホン酸化剤で反応することにより、導入するスルホン酸化量を容易に設計しやすい。さらに、前記フェノチアジン骨格の窒素原子が固体酸構造中に任意に存在し、前記フェノチアジン由来の窒素原子とスルホン酸とが複雑に相互作用と、4級アミンを形成されると考えられる。このために、プロトン電導性が高く、且つイオン交換量、触媒性能などにも優れると推測される。しかも、作業安全性や収率、分子設計の自由度の高く、再現性よく、且つ容易に製造できるという顕著な効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を更に詳しく説明する。
本発明におけるスルホン酸基を有するフェノチアジン重合体としては、フェノチアジン骨格からなる重合体にスルホン酸基を有するものである。
本発明におけるフェノチアジン骨格を有する重合体にスルホン酸基を有するものとしては、未置換および/置換フェノチアジン単量体を酸化剤の存在下で酸化重合し、得られた酸化重合体をスルホン酸化剤でスルホン酸化することで得られる。または、スルホン酸基を有する未置換および/置換フェノチアジン単量体を酸化剤の存在下で酸化重合したのみで得られる。
酸化重合としては、化学酸化重合や電解重合、光化学酸化重合など公知の方法で行うことが可能である。
【0013】
未置換および/または置換フェノチアジン単量体としては、3位と7位が水素原子である、且つ置換基を有してもよいフェノチアジン誘導体である。前記置換基としては、水素原子、ハロゲン基、フェニル基、アルコキシル基、アミノ基、水酸基、N−オキシド基、フェニルオキシド基、アミノ基、ヒドラジル基、フェルダジル基、ニトロ基、ニトロソ基、水酸基、燐酸基、ジスルフィド基、メルカプタン基、アミド基、イミド基、イソシアネート基、ビニル基、(メタ)アクロリル基、シアノ基、カルボン酸、アルデヒド基、炭化水素基が挙げられる。炭化水素基は鎖状であっても、環状であってもよく、環状炭化水素は脂肪族系でも芳香族系でもよく、さらには単環であっても、多環であっても、またヘテロ環であってもよい。また炭化水素基は置換基を含んでいてもよい。
【0014】
本発明で酸化重合に使用される酸化剤としては、酸化させることが可能あれば特に限定はない。例えば、モルブテン酸、塩化鉄、塩化アルミニウム、塩化コバルト、塩化ニッケル、塩化バナジウムなどの金属塩類、AgC25、Pb(C254などの金属−C結合を有する有機金属化合物、C−N=N結合を有するアゾ化合物、硝酸、塩素酸類、次亜塩素酸塩、ヨウ素酸塩、臭素酸塩、クロム酸塩、過マンガン酸塩、バナジン酸塩、ビスマス酸塩などの酸素酸塩、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素などのハロゲン、二酸化マンガン、二酸化鉛、酸化銅、酸価銀などの酸化物、O−Oを有する過酸化物、例えば、H22、K228、Na228、(NH4228などのペルオキソ酸塩などの無機系過酸化物、tert−ブチルヒドロパーオキサイド、クメンヒドロパーオキサイド、1,1,3,3−テトラメチルブチルヒドロパーオキサイド、p−メタンヒドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンヒドロパーオキサイド、2,5−ジメチルヘキサン−2,5−ジヒドロパーオキサイドなどのアルキルヒドロペルオキシド(RCOOH)、ジ−tert−ブチルパーオキサイド、tert−ブチルクミルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイドなどの過酸化ジアルキル類(ROOR)、アセチルパーオキサド、ラウロイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイドの過酸化ジアシル類(RCOOOCOR)、メチルエチルケトンパーオキサイド、シクロヘキサノンパーオキサイド、3,3,5−トリメチルシクロヘキサノンパーオキサイド、メチルシクロヘキサノンパーオキサイドなどのケトンパーオキサイド類、1,1−ビス(tert−ブチルパーオキシ)シクロヘキサンなどのパーオキシケタール類、tert−ブチルパーオキシアセテート、tert−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、tert−ブチルパーオキシベンゾエートなどの過酸エステル(RCOOOR')などの有機過酸化物、過安息香酸、メタクロロ過安息香酸、モノペルオキシフタル酸、過蟻酸、過酢酸、トリフルオロ過酢酸などの有機過酸、テトラアルキルチウラムジスルフィドなどが挙げれる。
【0015】
前記酸化剤と還元剤とを組み合わせることも可能である。還元剤としては、セリウム(IV)塩、Fe2+塩、メタロセン[ゼロ価の金属(Fe、Co、Niなど)]、Co(II)塩、Cu(I)塩、NaHSO3、ジメチルアニリン系などの第三アミン、ナフテン酸塩、メルカプタン、Al(C253、B(C253、Zn(C252などの有機金属化合物などが挙げられるがこれに限定するものではない。
【0016】
本発明の酸化剤の添加量としては、酸化重合反応が生じる量であればよいが、より好ましくは、未置換および/またはフェノチアジン単量体100重量部に対して0.001〜5重量%である。
【0017】
本発明における酸化剤と還元剤の組み合わせによる比率は、酸化剤100重量部に対して酸化剤0.01から100重量部である。
【0018】
本発明における酸化重合は、反応溶媒中で行うことが好ましい。前記反応溶媒としては、未置換および/または置換フェノチアジン単量体を溶解するものであればいずれのもので使用できる。
例えば、アセトン、エチルメチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロヘキサノン、イソブチルメチルケトンなどのケトン類、酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル類、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類、スルホラン、ジメチルホルムアミド、アセトニトリル、イソプロパノール、ブタノールなどのアルコール類ジメチルスルホキシドなどが挙げられるがこれに限定するものではない。これらの反応溶媒は、単独または複数の溶媒を混合して用いてもよい。
【0019】
本発明で用いるスルホン酸化剤としては、三酸化硫黄、濃硫酸、発煙硫酸、クロロ硫酸、アミド硫酸などが挙げられるがこれらに限定されるものではない。
本発明のスルホン酸化剤の添加量としては、スルホン酸化剤の種類やスルホン酸化導入量により添加量は変わるが、重縮合化合物にスルホン酸化が生じる量であればよく、好ましくは、有機化合物100重量部に対して0.1〜2000重量部である。
このときの反応温度としては、スルホン酸化剤の種類やスルホン基導入量などにより反応温度は適宜変わるが、好ましくは、−20℃〜250℃である。
【0020】
本発明におけるスルホン酸化反応は、溶媒の非存在下においても行い得るが、溶媒の存在下でも行うことができる。この溶媒としては、例えば、ペンタン、ヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレン、などの炭化水素溶媒;ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、ジクロロエタン、テトラクロロエタン、トリクロロフルオロメタン、1、1、2ートリクロロー1、2、2ートリフルオロエタン、などのハロゲン化炭化水素溶媒;ニトロメタン、ニトロエタン、ニトロプロパン、ニトロベンゼン、などの含窒素溶媒、などが挙げられる。このほか一般にフリーデル−クラフツ反応やカチオン重合などに使用される溶媒も適宜に選択して好適に使用できる。なお、これらの溶媒は、1種単独で用いても2種以上混合して用いてもよい。
【0021】
本発明の酸化重合は、加熱処理を行ってもよい。例えば、加熱処理温度としては、40℃〜200℃である。
【0022】
固体酸の一般的な合成方法は、最初に濃硫酸や発煙硫酸中加熱処理しスルホン酸化を行い、縮合させる。
この方法の問題点は、多環式芳香族炭化水素を濃硫酸あるいは発煙硫酸中で加熱処理すると先ずスルホン酸化が生じる。このスルホン酸化により生成されるスルホン酸誘導体は化学反応的に安定であるため、これ以上の縮合反応は生じ難くなる。
一般的に、200℃を超えると熱濃硫酸や熱発煙硫酸中の硫酸は水と三酸化硫黄に分解し始めるため酸化力が非常に強い、このために有機物を酸化するために結合を破壊分解する。過剰の濃硫酸あるいは発煙硫酸を250℃で減圧蒸留や常圧下、300℃で蒸留を行い取り除くので、先の理由で固体酸は得難い。また、減圧蒸留では濃縮に伴い、発泡膨張のために作業上非常に危険である。しかし、目的である極性溶媒に不溶の固体酸を得るためには多環式芳香族炭化水素を縮合する必要があるが、濃硫酸あるいは発煙硫酸中加熱処理は、必ずしも効率のよい縮合反応ではない。また、この合成方法ではスルホン酸基の導入がしにくく、任意にスルホン酸の導入などが困難で、収率や再現性、分子設計の自由度が低いなどという問題があった。
【0023】
本重縮合反応系を構成するに当たって、芳香族化合物と重縮合化剤などの配合の順序、方法については特に制限はなく、それぞれを同時にあるいは種々の順序、様式で段階的に配合することも可能である。
また、本スルホン酸化反応系を構成するに当たって、重縮合化合物とスルホン酸化剤などの配合の順序、方法については特に制限はなく、それぞれを同時にあるいは種々の順序、様式で段階的に配合することも可能である。
本発明のスルホン酸化剤でスルホン酸化して得られる固体酸は、反応溶液をイオン交換水またはn−ヘキサンまたはメタノールで希釈し、デカンテーションあるいは一般濾過、精密濾過、限外濾過、逆浸透濾過などによって、上澄み液また濾液が中和になるまで洗浄を行う。
【0024】
乾燥方法としては、自然乾燥や熱風乾燥、外部加熱乾燥、スプレードライ、マイクロ波や赤外線、遠赤外線を使用した乾燥、凍結乾燥などで行うことができる。
【0025】
本発明の固体酸は、酸価が1〜20meq/gであることが好ましい。酸価が1meq/g未満で低いと活性作用が低く固体酸の機能が低くなり易く、20meq/gを超えて高すぎると極性溶媒に溶解して固体酸としての機能が損なわれ易い。
【0026】
本発明の固体酸は、プロトン伝導膜、固体酸触媒、イオン交換膜、π共役系高分子のドーピング剤に使用できる。
【0027】
本発明で言うプロトン伝導膜とは、プロトンを伝導する能力を持つ膜のことを言う。本発明の固体酸を単独で膜化させたり、バインダー樹脂などを使用したりすることで膜化して使用される。
【0028】
本発明の固体酸は強酸基が多く、高い酸触媒機能をもつことができるため、固体酸触媒としても良好に使用できる。単独で使用しても良いが、バインダー樹脂やアルミナなどに担持することでも使用できる。
【0029】
本発明で言うイオン交換膜とは、イオンを選択的に透過する膜のことを言う。本発明の固体酸を単独で使用したり、バインダー樹脂やアルミナやシリカなどに担時することにより使用される。
【0030】
本発明でいうπ共役系高分子としては、π結合をもち、π電子による共役が高分子主鎖方向に存在する電子共役系の分子構造を有する高分子化合物であればいずれをも使用できる。前記π共役系高分子を本発明の固体酸をドーパンドすることで、導電性高分子組成物を得ることができる。
【0031】
本発明の固体酸は、高い活性が得られる上、プロトン伝導性が高く、耐熱性に優れ、且つ高いイオン交換量、高触媒性能を有する。
本発明の固体酸は、酸価が1〜20meq/gであることが好ましい。酸価が1meq/g未満で低いと活性作用が低く固体酸の機能が低くなり易く、20meq/gを超えて高すぎると極性溶媒に溶解して固体酸としての機能が損なわれ易い。
【0032】
本発明の固体酸は、プロトン伝導膜、固体酸触媒、イオン交換膜に使用できる。
【0033】
本発明で言うプロトン伝導膜とは、プロトンを伝導する能力を持つ膜のことを言う。本発明の固体酸を単独で膜化させたり、バインダー樹脂などを使用したりすることで膜化して使用される。
【0034】
本発明の固体酸は強酸基が多く、高い酸触媒機能をもつことができるため、固体酸触媒としても良好に使用できる。単独で使用しても良いが、バインダー樹脂やアルミナなどに担持することでも使用できる。
【0035】
本発明で言うイオン交換膜とは、イオンを選択的に透過する膜のことを言う。本発明の固体酸を単独で使用したり、バインダー樹脂やアルミナやシリカなどに担時することにより使用される。
【実施例】
【0036】
以下、実施例および比較例により本発明を具体的に説明するが、この例示により本発明が限定的に解釈されるものではない。
【0037】
(実施例1)
4つ口フラスコ300ml中に、2,8−ジフェニルフェノチアジン50重量部と、トルエン100mlを仕込み、アゾビスイソブチロニトリルを0.1重量部仕込み、窒素雰囲気中還流下に加熱した。還流開始後、1時間後及び1.5時間後、2時間後に、アゾビスイソブチルニトリル0.03重量部をそれぞれ添加した。添加終了後、さらに1時間撹拌した。この溶液をエバポレータで溶媒を留去した。その後、n−ヘキサン50ml中に分散させ、一晩撹拌した後、吸引濾過し、フェノチアジン重合体1を40重量部得た。
4つ口フラスコ300ml中に、得たフェノチアジン重合体1を1,2−ジクロロエタン250mlに分散し、氷浴に0〜5℃に冷却しながら、クロロスルホン酸10gと1,2−ジクロロエタン20mlの混合液を反応溶液温度が5℃を超えないように、徐々に滴下した。滴下終了後、氷浴を取り外し、室温まで昇温してから、更に一晩撹拌した。エバポレータで溶媒を留去して、反応溶液量を50mlまで濃縮し、n−ヘキサンを500mlを加え、一晩撹拌し、濾過した。得られた固体酸1は、39.5重量部であった。
【0038】
(比較例1)
25gのナフタレンを250mlの濃硫酸(97質量%)に加えて200℃で15時間加熱しスルホン酸化 した。次に、過剰の濃硫酸を250℃での減圧蒸留によって除去し、黒色の固体粉末を得た。これに600 mlのイオン交換水を加えて、1時間撹拌を行い、一晩静置後、デカンテーションし、沈殿物に新たにイオ ン交換水600mlを加え、1時間撹拌したのち、一晩静置し、これを吸引ろ過し、イオン交換水で濾液が 中性になるまで洗浄し、比較の固体酸11.2gを得た。

(収量の比較)
次に、実施例1および比較例1での仕込み原料量に対する実施例1で得られた固体酸1および比較例1で得られた固体酸の収量および収率を表1に示す。
その結果、従来法に比べて、本発明の固体酸は、約2倍の収量を得ることができた。これにより、より効率よく固体酸を得ることができることがわかった。


収率%=(得られた固体酸重量部)/(最初に仕込んだ原料) × 100
【0039】
【表1】

【0040】
次に、実施例1で得られた固体酸1および比較例1で得られた固体酸の酸価の測定を下記の方法で行った。
【0041】
(酸価の測定法)
上記黒色粉末(実施例1で得られた固体酸1および比較例1で得られた固体酸)を純水で洗浄した。次に、48時間2規定の硝酸ナトリウム水溶液中で黒色粉末と反応させ、黒色粉末をフィルターで濾過した。この黒色粉末を取り除いた酸性溶液に水酸化ナトリウム溶液を滴下し、窒素気流中で中和点を計測した。その滴下した量により酸価を算出した。従来、黒色粉末に直接、水酸化ナトリウムを滴下することで中和点を求めていたが、この方法を使用するとより的確に酸価を計測できて良い。その結果を表2に示す。
その結果、従来法に比べ、本発明の固体酸は、約4倍の酸価を得ることができた。これにより、より多くの酸基が導入されていることが判った。
【0042】
【表2】

【0043】
次に、実施例1で得られた固体酸1および比較例1で得られた固体酸の固体酸触媒性能の評価を下記の方法で行った。
【0044】
(固体酸触媒性能評価法)
実施例1で得られた固体酸1および比較例1で得られた固体酸各0.2gを触媒としてアルゴン雰囲気下の酢酸0.1molとエチルアルコール1molの混合溶液に添加し、70℃で6時間攪拌し、反応中に酸触媒反応によって生成する酢酸エチルの1時間後の生成量(mol)をガスクロマトグラフで調べた。その結果を表5に示す。
【0045】
【表3】

【0046】

実施例1で得られた固体酸1のように未置換および/または置換フェノチアジン単量体を酸化剤の存在下で酸化重合し、得られた酸化重合体をスルホン酸化剤でスルホン化して製造することで、仕込み原料に対する高い収量および高い酸価(4.5meq/g)の固体酸を提供できる。これは比較例1に比べ収率では約2倍であり、効率が高く、酸価では約4倍であり、このことはイオン交換能力が高いことを示している。
【0047】
さらに、実施例1で得られた固体酸1の固体酸触媒性能を調査したところ、従来に比べ最大1.7倍の触媒性能を示し、高い性能の固体酸触媒を提供できることが判った。
【0048】
このようにスルホン酸基を有するフェノチアジン重合体である固体酸は、従来の濃硫酸あるいは発煙硫酸中で加熱処理する方法に比べ、作業上安全性や収量、再現性が高く、高い触媒性能、プロトン伝導性、イオン交換容量の性能をもつものを提供することができる。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明の固体酸は、スルホン酸基を有するフェノチアジン重合体であることを特徴とするものであり、高収量で、分子設計の自由度やプロトン伝導性が高く、耐熱性に優れ、且つイオン交換容量、触媒性能などにも優れ、作業上の安全性や収率、分子設計の自由度が高い、再現性よく、且つ容易に製造できるという顕著な効果を奏するので、産業上の利用価値が高い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スルホン酸基を有するフェノチアジン重合体を含む固体酸。
【請求項2】
スルホン酸基を有するフェノチアジン重合体が、未置換および/または置換フェノチアジン単量体を酸化剤の存在下で酸化重合し、得られた酸化重合体をスルホン酸化剤でスルホン酸化したものであることを特徴とする請求項1記載の固体酸。
【請求項3】
固体酸の酸価が、1〜20meq/gであることを特徴とする請求項1または2記載の固体酸。
【請求項4】
未置換および/または置換フェノチアジン単量体を酸化剤の存在下で酸化重合し、得られた酸化重合体をスルホン酸化剤でスルホン酸化することを特徴とする固体酸の製造方法。









































【公開番号】特開2007−224181(P2007−224181A)
【公開日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−48074(P2006−48074)
【出願日】平成18年2月24日(2006.2.24)
【出願人】(000222118)東洋インキ製造株式会社 (2,229)
【Fターム(参考)】