説明

固体酸化物形燃料電池用セルの発電試験装置

【課題】本発明の目的は、空気用チャンバー及び燃料用チャンバーと固体酸化物形燃料電池用セルとの間のシールをより確実に行うと共に、空気用チャンバー及び燃料用チャンバーの繰り返し使用を可能とする固体酸化物形燃料電池用セルの発電試験装置を提供することにある。
【解決手段】空気用チャンバー30の開口側端部と燃料用チャンバー37の開口側端部とが互いに接近する方向に付勢する付勢手段としての押圧スプリング21を設けると共に、その押圧スプリング21の付勢方向とは逆方向に付勢する逆付勢手段としての分離スプリング20を設けた。そして、その付勢力を燃料用チャンバー37に連結した支持部材17の付勢受部18に作用させるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体酸化物形燃料電池用セルの発電試験装置に係り、詳しくは、燃料用チャンバー及び空気極ガス用チャンバーの繰り返し利用が可能な固体酸化物形燃料電池用セルの発電試験装置に関する。
【背景技術】
【0002】
固体酸化物形燃料電池の最小単位であるセルは、電解質と、その一の面に積層された燃料極及びその他の面に積層された空気極とから構成されている。例えば、電解質、燃料極及び空気極は、それぞれが酸化物セラミックスにより形成されている。その固体酸化物形燃料電池は、燃料極に、水素ガスの単体を供給したり、或いは都市ガスやLPGから内部改質により取り出された水素ガスを供給したりすると共に、空気極には空気極ガスを供給して、600〜1000°Cの温度条件下に作動される。すると、空気極に導入された空気極ガス中の酸素は電解質との界面で解離して酸素イオンとなり、その酸素イオンは、電解質中を拡散して燃料極へ移動し、水素と電気化学的に反応して水を生成するが、その時放出された電子が電気回路を通じて空気極に移動し、空気極での反応に使われる。このように電子が電気回路を流れることによって電気が生じる。この固体酸化物形燃料電池の発電特性を把握するために、セルの発電能力を試験するための試験装置がある。
【0003】
従来、固体酸化物形燃料電池用セルの発電試験装置としては、燃料極側ガスを収容するための燃料用チャンバー及び空気極側ガスを収容するための空気極ガス用チャンバーを有し、それぞれのチャンバーで、セルを挟み込む形態の装置が用いられてきた。このような装置が、特許文献1において、従来技術として開示されている。
【0004】
その発電試験装置では、電解質と、その電解質の上側面に積層された電解質と平面形状が同じ大きさの燃料極と、電解質の下側面に積層された電解質より平面形状が小さい空気極とからなるセルを、燃料用チャンバー(文献ではガス隔離管)と空気極ガス用チャンバー(文献ではガス隔離管)とで、上下から挟み込んでいる。このような構成のセルをシールするために、空気極ガス用チャンバーの開口側端部は電解質に密着し、また、燃料用チャンバーの開口側端部は、燃料極に密着している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−59833号公報(明細書の[0005][0006]、図面の[図13]を参照)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記発電試験装置において、空気極ガス用チャンバーの開口側端部が密着する電解質は、緻密な構造を有する酸化物セラミックスであるため、密着性を高めればシール性に問題はない。ところが、燃料用チャンバーの開口側端部が密着する相手は、多孔質構造の燃料極であるため、燃料用チャンバーの開口側端部と燃料極とが十分に密着するようにしても、燃料極側に供給された高圧の燃料ガスは、燃料極の中を通過して外部へ漏れるという問題がある。その燃料ガスの漏出は、試験のための燃料ガスの供給を効率よく行う点からすれば、好ましいものではない。
【0007】
また、被試験物であるセルを間に挟み込んだ燃料用チャンバーと空気極ガス用チャンバーとは、600〜1000°Cの雰囲気中において試験に供される。この温度条件下で試験を行う際に、空気極ガス用チャンバーの開口側端部と電解質との密着性、或いは、燃料用チャンバーの開口側端部と燃料極との密着性を高めると共に、それぞれのチャンバー内の密封性を高める必要がある。そのために、それぞれの密着部において、互いが押圧関係となるように、空気極ガス用チャンバー及び燃料用チャンバーに対して外部から押圧力を作用させることも行われている。更に、密着部でのシール性を高めるために、前記温度条件下で軟化する物質をシール部材として介在させることも行われている。
【0008】
しかし、空気極ガス用チャンバーの開口側端部と電解質とが、或いは、燃料用チャンバーの開口側端部と燃料極とが、上記のような高温下において押圧力を受けてシール部材を介して密着する場合、それぞれが仮接着状態となり、そのまま冷却して固化することが起きる。また、シール部材を介在させたときは、そのシール部材の一部が溶融して溶融接着することもある。すると、空気極ガス用チャンバーの端部から電解質を分離したり、燃料用チャンバーの端部から燃料極を分離したりすることが困難となり、空気極ガス用チャンバーや燃料用チャンバーを使い捨てとせざるを得ない状況も起こり得る。
【0009】
本発明は、このような問題に着目してなされたものであり、その目的とするところは、空気極ガス用チャンバー及び燃料用チャンバーと固体酸化物形燃料電池用セルとの間のシールをより確実に行うと共に、空気極ガス用チャンバー及び燃料用チャンバーの繰り返し使用を可能とする固体酸化物形燃料電池用セルの発電試験装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記問題を解決するために請求項1に記載の固体酸化物形燃料電池用セルの発電試験装置の発明は、板状体の電解質の一の面に燃料極が積層され、他の面に空気極が積層された固体酸化物形燃料電池用セルの発電試験装置において、前記電解質は、前記燃料極及び空気極のそれぞれの外周部の外側にシールのためのシール面部を有し、前記燃料極を収容し燃料ガスが供給される燃料用チャンバーの開口側端部と、前記空気極を収容し空気極ガスが供給される空気極ガス用チャンバーの開口側端部とにより、それぞれの開口側端部と前記電解質との間にシール部材を介在させて、前記シール面部において前記電解質が挟持されるようにし、一方、前記空気極ガス用チャンバーの開口側端部と燃料用チャンバーの開口側端部とが互いに接近する方向に付勢する付勢手段を設けると共に、その付勢手段の付勢方向とは逆方向に付勢する逆付勢手段を設けたことを特徴とするものである。
【0011】
請求項1に記載の発明によれば、電解質を、燃料極及び空気極のそれぞれの外周部の外側の部分をシール面部とすることが可能な大きさとした。そして、燃料用チャンバーの開口側端部と空気極ガス用チャンバーの開口側端部とにより、それぞれの開口側端部と電解質との間にシール部材を介在させて、前記シール面部において電解質を挟持するようにした。そのため、燃料用チャンバーの開口側端部が多孔質構造の燃料極に密着する従来技術において燃料ガスの漏出が起こることとは異なり、本発明においては、燃料用チャンバーの開口側端部がシール部材を介して緻密な構造の電解質に密着するので、燃料ガスの漏出を防止することができる。
【0012】
また、本発明においては、空気極ガス用チャンバーの開口側端部と燃料用チャンバーの開口側端部とが互いに接近する方向に付勢する付勢手段を設けると共に、その付勢手段の付勢方向とは逆方向に付勢する逆付勢手段を設けた。そのため、高温化で発電試験を行った後、付勢手段の付勢力を解除して、逆付勢手段により、空気極ガス用チャンバーの開口側端部と燃料用チャンバーの開口側端部とが互いに離反する方向に付勢することができる。すると、空気極ガス用チャンバーの開口側端部と燃料用チャンバーの開口側端部とのそれぞれが、シール部材と仮接着状態になっていても、未だ高温雰囲気にある時、押圧力が作用しなくなるので、その仮接着状態を解消することができる。
【0013】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の固体酸化物形燃料電池用セルの発電試験装置において、前記付勢手段は、前記燃料用チャンバーに連結されて発電試験装置のフレーム外に露出した支持部材に形成された付勢受部の一の面に対して、前記燃料極から空気極へ向かう方向へ付勢力を与え、前記逆付勢手段は、前記付勢受部の他の面に対して、前記空気極から燃料極へ向かう方向へ付勢力を与えることを特徴とするものである。
【0014】
請求項2に記載の発明によれば、付勢手段及び逆付勢手段のそれぞれの付勢力を、燃料用チャンバーに連結され、発電試験装置のフレーム外に露出した支持部材に形成された付勢受部に作用させるようにした。そのため、付勢手段及び逆付勢手段は、高温の雰囲気に曝されることがないので、それぞれの付勢力の調整及び維持が容易に行われる。
【0015】
請求項3に記載の発明は、請求項1に記載の固体酸化物形燃料電池用セルの発電試験装置において、前記付勢手段は、前記空気極ガス用チャンバーに連結されて発電試験装置のフレーム外に露出した支持部材に形成された付勢受部の一の面に対して、前記空気極から燃料極へ向かう方向へ付勢力を与え、前記逆付勢手段は、前記付勢受部の他の面に対して、前記燃料極から空気極へ向かう方向へ付勢力を与えることを特徴とするものである。
【0016】
請求項3に記載の発明によれば、付勢手段及び逆付勢手段のそれぞれの付勢力を、空気極ガス用チャンバーに連結され、発電試験装置のフレーム外に露出した支持部材に形成された付勢受部に作用させるようにした。そのため、付勢手段及び逆付勢手段は、高温の雰囲気に曝されることがないので、それぞれの付勢力の調整及び維持が容易に行われる。
【0017】
請求項4に記載の発明は、請求項1ないし3のうちいずれか一項に記載の固体酸化物形燃料電池用セルの発電試験装置において、前記付勢手段及び逆付勢手段は、それぞれが線条材で形成された圧縮スプリングであり、前記逆付勢手段は、前記付勢手段の付勢力よりも弱い力の付勢力を発現することを特徴とするものである。
【0018】
請求項4に記載の発明によれば、付勢手段及び逆付勢手段のそれぞれを線条材で形成した圧縮スプリングとし、付勢手段の付勢力よりも逆付勢手段の付勢力を弱いものとした。そのため、2種類の圧縮スプリングを用いる簡単な構造により、空気極ガス用チャンバーの開口側端部と燃料用チャンバーの開口側端部とが互いに接近する方向に、逆付勢手段の付勢力に抗して付勢手段の付勢力を作用させることができる。また、付勢手段の圧縮スプリングに対する圧縮力を解除すれば、逆付勢手段の圧縮スプリングにより、空気極ガス用チャンバーの開口側端部と燃料用チャンバーの開口側端部とが互いに離反する方向に付勢力を作用させることができる。
【0019】
請求項5に記載の発明は、請求項2ないし4のうちいずれか一項に記載の固体酸化物形燃料電池用セルの発電試験装置において、前記付勢手段の前記付勢受部に当接している側と反対側の端部を押し込む押込み部材が設けられ、その押込み部材の押し込みにより、前記逆付勢手段の反発力に抗して、前記付勢手段が、前記支持部材を介して、前記空気極ガス用チャンバーの開口側端部と燃料用チャンバーの開口側端部とが、前記シール部材を介して前記電解質を挟持する部分に押圧力を作用させることを特徴とするものである。
【0020】
請求項5に記載の発明によれば、押込み部材を設け、その押込み部材により付勢手段の端部を押込み、付勢手段を作動させるようにした。また、押込み部材の押込みを解除すれば、逆付勢手段を作動させることができる。
【0021】
請求項6に記載の発明は、請求項5に記載の固体酸化物形燃料電池用セルの発電試験装置において、前記押込み部材が前記付勢手段の端部から離反した時、前記逆付勢手段は、前記付勢受部の他の面に対する付勢力を維持していることを特徴とするものである。
【0022】
請求項6に記載の発明によれば、押込み部材が付勢手段の端部から離反した時、逆付勢手段の付勢受部に対する付勢力を維持できるようにした。そのため、逆付勢手段の付勢力を、空気極ガス用チャンバーの開口側端部と燃料用チャンバーの開口側端部とが互いに離反する方向により確実に作用させることができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、空気極ガス用チャンバー及び燃料用チャンバーと固体酸化物形燃料電池用セルとの間のシールをより確実に行うと共に、空気極ガス用チャンバー及び燃料用チャンバーとシール部材との固着を防止することができるため、それぞれのチャンバーの繰り返し使用を可能とする固体酸化物形燃料電池用セルの発電試験装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の実施形態の発電試験装置の全体を模式的に示す一部断面図。
【図2】チャンバーユニットを模式的に示す一部断面図。
【図3】付勢手段及び逆付勢手段を模式的に示し、(a)は付勢手段の付勢力が発現される状態を示し、(b)は付勢手段の付勢力が発現されない状態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0025】
(実施形態)
以下、本発明を具体化した実施形態を図1〜3を用いて説明する。なお、図1においては、図が込み入ることにより読み取りの妨げになることを避けるために、各4本の下部支持部材14及び支持部材17を各1本として描いている。また、本実施形態における空気極側管7及び燃料極側管8は、各2本が配置されているが、これも各1本として描いている。各部材の材質は、特に明記しないものについては、鉄鋼を用いているものとする。また、空気極ガスを単に空気と称するものとする。
【0026】
図1に示すように、本実施形態の発電試験装置は、箱状の下部フレーム10と上部フレーム11とが、それぞれの開口部を対向させた状態で互いに閉合され、それぞれの係合突部26a及び係合突部26bにおいて、係止部材27により係合されている。
【0027】
下部フレーム10は、底板10aと側板10bとよりなり、その内部にセラミック製の底部断熱材1、側部断熱材2及び側部断熱材3が収容されている。また、底板10aには、四角状に配置された4本の支持ピン13が固定され、支持ピン13に螺合された六角ナット13aにより、4本の支持ピン13が貫通した下部支持板12を支持している。この、下部支持板12は、底板10a及び底部断熱材1を貫通して、円周上等間隔に配置された4本の下部支持部材14を下方から支持している。下部支持部材14の先端部は空気用チャンバー30に螺合されている。六角ナット14aは、下部支持部材14の上方への移動を制限する位置決め部材として用いられている。
【0028】
また、下部支持板12及び底板10aを貫通すると共に、底部断熱材1の孔に挿入されたスリーブ7cの内部を貫通して、2本の空気極側管7が配管されている。この空気極側管7は、後に詳述するように、空気用チャンバー30内に空気を供給するためと、余剰の気体を排出するためとに用いられ、図示しない配管を介して、同じく図示しない空気供給装置と、空気排出装置とに連結されている。
【0029】
底板10aの左右のそれぞれの端部には、ブラケット22が六角ボルト22aにより固定され、そのブラケット22の上部に、セラミック製の位置決めピン24を支持する支持板23が六角ボルト23aにより固定されている。この位置決めピン24は側部断熱材3に配置されたスリーブ25を貫通して、後に詳述するように、その端部において、被試験体51の位置決めを行っている。六角ナット24aは、位置決めピン24の外方への移動を制限する位置決め部材として用いられている。
【0030】
上部フレーム11は、上板11aと側板11bとよりなり、その内部にセラミック製の上部断熱材4を収容している。また、上板11aには、四角状に配置された4本の支持ピン16が固定され、支持ピン16に螺合された六角ナット16aと環状部16bとにより上部支持板15を挟持している。この上部支持板15には、円周上等間隔に配置された4本の押込み部材19が螺合されている。
【0031】
また、上板11a及び上部断熱材4を摺動可能に貫通して、円周上等間隔に配置された4本の丸棒状の支持部材17が設けられ、その支持部材17に形成された板状体の付勢受部18と上板11aとの間に逆付勢手段としての線条材からなる分離スプリング20が装置されている。更に、付勢受部18の上面部には付勢手段としての線条材からなる押圧スプリング21が装置されている。支持部材17の先端部は燃料用チャンバー37に螺合されている。
【0032】
また、上部支持板15、上板11a及び上部断熱材4を貫通して、2本の燃料極側管8が配管されている。この燃料極側管8は、後に詳述するように、燃料用チャンバー37内に燃料ガスを供給するためと、余剰の燃料ガス及び生成された水分を排出するためとに用いられ、図示しない配管を介して、同じく図示しない燃料ガスの供給装置及び処理装置に連結されている。
【0033】
側部断熱材3の内面にはヒーター9が配置され、そのヒーター9により、底部断熱材1、側部断熱材2、側部断熱材3及び上部断熱材4で囲まれた空間を加熱して、被試験体51の条件に対応する600〜1000°Cのいずれかの温度に設定された高温室50を形成している。この高温室50に配置されているチャンバーユニット5は、円周上等間隔に配置されたセラミック製の4本の位置決めピン6により水平方向の位置決めがされ、被試験体51を挟持したセラミック製の空気用チャンバー30と燃料用チャンバー37とよりなっている。そして、4本の下部支持部材14により空気用チャンバー30が支持され、4本の支持部材17により燃料用チャンバー37が支持されている。各位置決めピン6の両端に螺合されているセラミック製の六角ナット6aは、位置決めピン6が空気用チャンバー30又は燃料用チャンバー37から脱落することを防ぐために用いられている。
【0034】
次に、図2を用いて、チャンバーユニット5を詳細に説明する。なお、図2においては、下部支持部材14、支持部材17及び位置決めピン6の図示を省略している。
被試験体51は、円盤状の電解質34の上面に積層された燃料極35と、電解質34の下面に積層された空気極33と、燃料極35及び空気極33の外周部の外側における電解質34の両面に配置された銀製の環状体からなるシール部材36とにより構成されている。燃料極35と上部のシール部材36とは、図示しない集電材と導電材により導通している。同様に、空気極33と下部のシール部材36とは、図示しない集電材と導電材により導通している。
【0035】
そして、前述のように、左右の位置決めピン24の凹部24cに嵌合した被試験体51は、左右の位置決めピン24により、上下方向及び左右方向を位置決めされている。この上下方向の位置決めは、被試験体51が空気用チャンバー30と燃料用チャンバー37とにより挟持されるまでの間に行われる。上記のように、燃料極35と導通した上部のシール部材36は、右側の位置決めピン24の導通部24bに導通しており、燃料極35は導通部24bを介して図示しない電圧計に電気的に接続されている。また、空気極33と導通した下部のシール部材36は、左側の位置決めピン24の導通部24dに導通しており、空気極33は導通部24dを介して図示しない電圧計に電気的に接続されている。
【0036】
空気用チャンバー30は、円盤状の基体部30aと円筒状の筒状体部30bとからなり、筒状体部30bの内部が空気を収容する空気収容室30cとなっている。空気収容室30cの底部には凹部30dが形成され、その凹部30dの底部において、空気Aを空気収容室30c内へ供給するための供給管7aと、剰余の空気Aを排出するための排出管7bが配置されている。凹部30dの底部には、供給管7a及び排出管7bと、それらが挿通された孔との間をシールするための図示しないシール材が充填されている。この供給管7aと排出管7bとが、図1に示した空気極側管7である。
【0037】
燃料用チャンバー37は、円盤状の基体部37aと円筒状の筒状体部37bとからなり、筒状体部37bの内部が燃料ガスを収容する燃料ガス収容室37cとなっている。基体部37aの上面には凹部37dが形成され、その凹部37dの底部を貫通して燃料ガス収容室37c内に臨むように、燃料ガスNを供給するための供給管8aと、余剰となった燃料ガスNと生成された水分とを排出するための排出管8bとが配置されている。凹部37dの底部には、供給管8a及び排出管8bと、それらが挿通された孔との間をシールするための図示しないシール材が充填されている。この供給管8aと排出管8bとが、図1に示した燃料極側管8である。
【0038】
そして、空気用チャンバー30の開口側端部31に被試験体51の下部のシール部材36を載置し、上部のシール部材36に燃料用チャンバー37の開口側端部38を載置して、開口側端部31と開口側端部38とにより、上下のシール部材36を介して電解質34は挟持されると共にシールされる。このとき、開口側端部31は、空気用チャンバー30を支持する下部支持部材14により、下方への移動が起こらないように位置決めされている。そして、開口側端部38は、燃料用チャンバー37を支持する支持部材17を介して押圧スプリング21の付勢力により、上部のシール部材36を押圧する。従って、開口側端部31と開口側端部38との間の上下のシール部材36及び電解質34は、それぞれが当接する部分において、押圧力を受けて密着することになる。
【0039】
次に図3を用いて、付勢手段としての押圧スプリング21と、逆付勢手段としての分離スプリング20との作用を説明する。
図3(a)に示すように、支持部材17の付勢受部18の下面部18aと、上板11aとの間に分離スプリング20が配置されている。また、六角頭部19dを有する棒状体の押込み部材19は、ねじ部19cが上部支持板15に螺合しており、先端部において押圧板19aが螺合されている。押圧板19aは止めピン19bにより回転不能となっている。そして、その押圧板19aの押圧面部19eと付勢受部18の上面部18bとの間に押圧スプリング21が配置されている。
【0040】
図3(a)に示されている状態は、六角頭部19dを正回転することにより、押込み部材19が下方に前進して押圧スプリング21に付勢力を発生させ、その付勢力が、分離スプリング20の付勢力に抗して、付勢受部18に対して下方へ向かう力を作用させていることを示している。従って、付勢受部18を介して下方への力を受ける支持部材17は、燃料用チャンバー37の開口側端部38における押圧力を発生させることになる。
【0041】
そして、図3(b)に示すように、六角頭部19dを逆回転することにより、押込み部材19を後退させて、押圧面部19eと押圧スプリング21の端部21aとの間に隙間ができるようにすれば、押圧スプリング21は自然長となって付勢力を発しない。すると、付勢受部18に対する付勢力は、上方へ向かう分離スプリング20の付勢力のみとなる。この上方への付勢力が、支持部材17を介して燃料用チャンバー37の開口側端部38に伝わり、開口側端部38のシール部材36に対する押圧力に替わり、開口側端部38がシール部材36から分離する力として作用する。このとき、チャンバーユニット5は高温室50内にあるので、開口側端部38とシール部材36との仮接着状態は固化しないまま解消される。従って、開口側端部38がシール部材36から容易に分離するので、燃料用チャンバー37の繰り返しの使用が可能となる。
【0042】
同様にして、空気用チャンバー30の開口側端部31とシール部材36との仮接着状態は固化しないまま解消され、開口側端部31がシール部材36から容易に分離するので、空気用チャンバー30の繰り返しの使用が可能となる。
【0043】
また、空気用チャンバー30の開口側端部31とシール部材36との仮接着状態が維持された場合であっても、燃料用チャンバー37は分離されているので、開口側端部31からシール部材36を剥がすことは容易に行うことができる。
【0044】
従って、上記実施形態によれば、以下のような効果を得ることができる。
(1)上記実施形態では、電解質34を、燃料極35及び空気極33のそれぞれの外周部の外側の部分をシール面部とすることが可能な大きさとした。そして、燃料用チャンバー37の開口側端部38と空気用チャンバー30の開口側端部31とにより、それぞれの開口側端部38、31と電解質34との間にシール部材36を介在させて、シール面部において電解質34を挟持するようにした。そのため、開口側端部38、31がシール部材36を介して緻密な構造の電解質34に密着するので、高圧で供給された燃料ガスNの漏出を防止することができる。
【0045】
(2)上記実施形態では、空気用チャンバー30の開口側端部31と燃料用チャンバー37の開口側端部38とが互いに接近する方向に付勢する付勢手段としての押圧スプリング21を設けると共に、その押圧スプリング21の付勢方向とは逆方向に付勢する逆付勢手段としての分離スプリング20を設けた。このため、高温下で発電試験を行った後、押圧スプリング21の付勢力を解除して、分離スプリング20の付勢力により、開口側端部31と開口側端部38とが互いに離反する方向に付勢することができる。すると、開口側端部31と開口側端部38とのそれぞれが、シール部材36と仮接着状態になっていても、未だ高温雰囲気にある時、押圧力が作用しなくなるので、その仮接着状態を解消することができる。従って、燃料用チャンバー37及び空気用チャンバー30からシール部材36を分離することを容易に行うことができるので、燃料用チャンバー37及び空気用チャンバー30の繰り返しの使用が可能な固体酸化物形燃料電池用セルの発電試験装置を提供することができる。
【0046】
(3)上記実施形態では、分離スプリング20及び押圧スプリング21を上部フレーム11の上板11aの外側に配置し、上板11a外へ露出し、燃料用チャンバー37に連結された支持部材17の付勢受部18に作用させるようにした。そのため、分離スプリング20及び押圧スプリング21は、高温の雰囲気に曝されることがないので、それぞれの付勢力の調整及び維持を容易に行うことができる。
【0047】
(4)上記実施形態では、押込み部材19を設け、その押込み部材19の六角頭部19dを正回転することにより、押圧スプリング21の端部21aを押込むと共に、付勢受部18を介して分離スプリング20を圧縮して、それぞれの付勢力を発生させるようにした。また、押込み部材19の六角頭部19dを逆回転して押込みを解除すれば、分離スプリング20の付勢力のみを作動させることができる。従って、押込み部材19の六角頭部19dの正逆回転により、空気用チャンバー30の開口側端部31及び燃料用チャンバー37の開口側端部38とシール部材36との間に押圧力を付与したり、分離力を作用させたりすることを容易に行うことができる。
【0048】
(変更例)
なお、上記実施形態は、次のように変更して具体化することも可能である。
・ 押圧スプリング21により付勢受部18を介して支持部材17に対して下方を向く力を作用させる際、同時に押圧スプリング21を圧縮するようにしたが、付勢受部18の下面部18aと上板11aとの間で分離スプリング20を非圧縮状態とすることにより、押圧スプリング21が分離スプリング20による逆付勢力を受けないようにすること。このようにした場合、付勢受部18を、支持部材17と一体化させることなく、支持部材17に形成されたねじ部に螺合することが可能な六角ナット状体とする。その上で、付勢受部18を介して支持部材17に対して上方を向く力を作用させる時は、押圧スプリング21を除いた後、六角ナット状体とした付勢受部18を正回転させることにより、分離スプリング20を圧縮して、その反力により支持部材17に対して上方を向く力を作用させるようにすることができる。
・ 付勢手段及び逆付勢手段として2種類の圧縮スプリングを用いたが、進退可能なロッドを備えた空圧シリンダーを用いること。
・ 付勢手段及び逆付勢手段として2種類の圧縮スプリングを用いたが、合成樹脂製弾性体からなる2種類の中空筒状体とすること。
・ 左右の位置決めピン24のうち、右側の位置決めピン24の導通部24bと燃料極35とを導通し、左側の位置決めピン24の導通部24dと空気極33とを導通したが、一方の位置決めピン24の上部に導通部24bを設け、下部に導通部24dを設けるようにすること。
・ 空気用チャンバー30の空気収容室30cに凹部30dを形成したが、凹部30dを形成せずに、供給管7a及び排出管7bを空気収容室30cに臨むように配管すること。
・ シール部材36を銀製としたが、シール部材36は銀に限定されず、試験の際の温度条件下で軟化する金属、硝子等を適宜選択し、例えば、硼珪酸硝子、ジルコンフリット又はアルミナシリケートB203等を用いるようにすること。シール部材36として電気抵抗の大きい部材を用いた場合は、空気極33と導通部24dとの導通のための導通材を配置する必要があり、燃料極35と導通部24bとの導通のための導通材を配置する必要がある。
・ 燃料用チャンバー37を上方に配置し、空気用チャンバー30を下方に配置したが、燃料用チャンバー37を下方に配置し、空気用チャンバー30を上方に配置すること。
【符号の説明】
【0049】
A…空気、N…燃料ガス、17…支持部材、18…付勢受部、19…押込み部材、21a…端部、30…空気用チャンバー、31,38…開口側端部、33…空気極、34…電解質、35…燃料極、36…シール部材、37…燃料用チャンバー。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
板状体の電解質の一の面に燃料極が積層され、他の面に空気極が積層された固体酸化物形燃料電池用セルの発電試験装置において、前記電解質は、前記燃料極及び空気極のそれぞれの外周部の外側にシールのためのシール面部を有し、前記燃料極を収容し燃料ガスが供給される燃料用チャンバーの開口側端部と、前記空気極を収容し空気極ガスが供給される空気極ガス用チャンバーの開口側端部とにより、それぞれの開口側端部と前記電解質との間にシール部材を介在させて、前記シール面部において前記電解質が挟持されるようにし、一方、前記空気極ガス用チャンバーの開口側端部と燃料用チャンバーの開口側端部とが互いに接近する方向に付勢する付勢手段を設けると共に、その付勢手段の付勢方向とは逆方向に付勢する逆付勢手段を設けたことを特徴とする固体酸化物形燃料電池用セルの発電試験装置。
【請求項2】
前記付勢手段は、前記燃料用チャンバーに連結されて発電試験装置のフレーム外に露出した支持部材に形成された付勢受部の一の面に対して、前記燃料極から空気極へ向かう方向へ付勢力を与え、前記逆付勢手段は、前記付勢受部の他の面に対して、前記空気極から燃料極へ向かう方向へ付勢力を与えることを特徴とする請求項1に記載の固体酸化物形燃料電池用セルの発電試験装置。
【請求項3】
前記付勢手段は、前記空気極ガス用チャンバーに連結されて発電試験装置のフレーム外に露出した支持部材に形成された付勢受部の一の面に対して、前記空気極から燃料極へ向かう方向へ付勢力を与え、前記逆付勢手段は、前記付勢受部の他の面に対して、前記燃料極から空気極へ向かう方向へ付勢力を与えることを特徴とする請求項1に記載の固体酸化物形燃料電池用セルの発電試験装置。
【請求項4】
前記付勢手段及び逆付勢手段は、それぞれが線条材で形成された圧縮スプリングであり、前記逆付勢手段は、前記付勢手段の付勢力よりも弱い力の付勢力を発現することを特徴とする請求項1ないし3のうちいずれか一項に記載の固体酸化物形燃料電池用セルの発電試験装置。
【請求項5】
前記付勢手段の前記付勢受部に当接している側と反対側の端部を押し込む押込み部材が設けられ、その押込み部材の押し込みにより、前記逆付勢手段の反発力に抗して、前記付勢手段が、前記支持部材を介して、前記空気極ガス用チャンバーの開口側端部と燃料用チャンバーの開口側端部とが、前記シール部材を介して前記電解質を挟持する部分に押圧力を作用させることを特徴とする請求項2ないし4のうちいずれか一項に記載の固体酸化物形燃料電池用セルの発電試験装置。
【請求項6】
前記押込み部材が前記付勢手段の端部から離反した時、前記逆付勢手段は、前記付勢受部の他の面に対する付勢力を維持していることを特徴とする請求項5に記載の固体酸化物形燃料電池用セルの発電試験装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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