説明

固体酸化物燃料電池

【課題】半導体製造技術を利用して製造可能な携帯機器用電源に好適な超小型固体酸化物燃料電池を提供する。
【解決手段】固体電解質層11と、固体電解質層11の一方の面に設ける空気極層12と、固体電解質層11の他方の面に設ける燃料極層13とを、空気極層、電解質層、燃料極層の順で積層形成した電池層2と、下部電極を兼ねる基板21上に、誘電体層22と上部電極層23とを順次積層形成し、上部電極層23と基板21の間に交流電圧を印加して誘電体層22を発熱させる誘電加熱層3とを備え、誘電加熱層3上に絶縁層4を介して電池層2を積層して燃料電池セル5を形成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体酸化物燃料電池に関し、特に、半導体製造技術を用いて製造する超小型の固体酸化物燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、電気エネルギ源として種々の発電形式の燃料電池が開発され実用化されるに至っており、その1つとして固体酸化物燃料電池(SOFC:Solid Oxide Fuel Cell)がある。固体酸化物燃料電池は、固体電解質燃料電池とも呼ばれ、酸化物イオンの透過性が高いイオン伝導性セラミックスを用いた固体電解質の一面に空気極(カソード)を形成し、固体電解質の他方の面に燃料極(アノード)を形成し、酸素又は酸素含有気体と水素等の燃料ガスを供給する。これにより、空気極側において、酸素(O2)が空気極と固体電解質との境界で酸素イオン(O2-)にイオン化され、この酸素イオンが固体電解質を介して燃料極側に伝導され、燃料極側において、伝導された酸素イオンが燃料ガスと反応して水(H2O)が生成される。この反応で、酸素イオンが電子を放出し、空気極と燃料極との間に電位差が生じるので、空気極と燃料極とを電気結線することで、燃料極側の電子が空気極側に流れ、燃料電池として発電する。
【0003】
このような固体酸化物燃料電池として、空気極側に酸素又は酸素含有気体を導入するためのチャンバーと燃料極側に水素等の燃料ガスを導入するためのチャンバーとを、それぞれ分離して設けるセパレートチャンバー方式(例えば、特許文献1参照)や、固体電解質、空気極及び燃料極からなる電池セルを単一のチャンバー内に配置し、酸素又は酸素含有気体と燃料ガスを混合した混合燃料ガスを導入するシングルチャンバー方式がある(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−32649号公報
【特許文献2】特許第4405196号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、固体酸化物燃料電池は、電解質に固体を使用するため、電解質の漏れ等がなく、また、発電効率も高く、携帯機器用電源として適している。しかしながら、固体酸化物燃料電池は動作温度が800〜1000℃と高く、従来、例えば特許文献2に記載されているように、火炎を利用して電池セルを加熱する等の加熱方式が採用されており、携帯機器用電源に要求される小型化、薄型化が難しいという問題があった。
【0006】
本発明は上記問題点に着目してなされたもので、半導体製造技術を利用して電池層と誘電加熱層を一体化した燃料電池セルを形成することにより、携帯機器用電源に好適な超小型の固体酸化物燃料電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このため、本発明の固体酸化物燃料電池は、酸化物からなる固体電解質層と、該固体電解質層の一方の面に設ける空気極層と、前記固体電解質層の他方の面に設ける燃料極層とを、前記空気極層、電解質層、燃料極層の順で積層して形成した電池層と、誘電体層と、該誘電体層の一方の面に設ける上部電極層と、該誘電体層の他方の面に設ける下部電極層とを、前記下部電極層、誘電体層、上部電極層の順で基板上に積層して形成し、前記上部電極層と下部電極層の間に交流電圧を印加して前記誘電体層を発熱させる誘電加熱層とを備え、前記誘電加熱層上に絶縁層を介して前記電池層を積層して燃料電池セルを形成したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の固体酸化物燃料電池によれば、下部電極層、誘電体層、上部電極層、絶縁層、空気極層、電解質層及び燃料極層を、順々に基板上に積層することで、電池層と誘電加熱層とを一体化した燃料電池セルを形成できるので、半導体製造技術を用いて極めて容易に製造でき、携帯機器用電源に好適な超小型の固体酸化物燃料電池を容易に実現できる。
また、例えば、燃料電池セルを、その周縁部と中央部との間に、周縁部に中央部を支持する支持部を残して空間部を設けて中央部からの放熱を抑制する構成にすることで、中央部を実質的な発電領域とし、この発電領域のみを局所的に加熱可能にして動作温度まで短時間で昇温することが可能となり、固体酸化物燃料電池の起動・停止時間の短縮化を図れる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明に係る固体酸化物燃料電池の一実施形態を示す平面図である。
【図2】図1のA−A矢視断面図である。
【図3】図1のB−B矢視断面図である。
【図4】図1の燃料電池セルを複数積層したセルスタックの一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1及び図2に、本発明に係る固体酸化物燃料電池の一実施形態を示し、図1は平面図であり、図2は図1のA-A矢視断面図で、図3は図1のB−B矢視断面図である。
図1〜図3において、本実施形態の固体酸化物燃料電池1は、電気エネルギを発生する電池層2と、この電池層2を誘電加熱により加熱する誘電加熱層3とを備え、誘電加熱層3上に絶縁層4を介して電池層2を積層することで、電気エネルギを発生させる電池部(電池層2)とこの電池部をその動作温度(800〜1000℃)まで加熱するための加熱部(誘電加熱層3)を一体化した燃料電池セル5を形成している。
【0011】
前記電池層2は、固体電解質層11と、固体電解質層11の一方の面に設ける空気極層12と、固体電解質層11の他方の面に設ける燃料極層13とを、図2のように、空気極層12と、電解質層11と、燃料極層13とを、順次積層して形成されている。
【0012】
前記固体電解質層11には、公知の材料を用いることができ、例えば、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)等、酸化物イオンの透過性の高い安定化ジルコニアやランタン、ガリウムのペロブスカイト酸化物等のイオン伝導性セラミックスが挙げられる。
【0013】
前記空気極層12には、公知の材料を用いることができ、例えば、ニッケルや白金等が挙げられる。
【0014】
燃料極層13には、公知の材料を用いることができ、例えば、ストロンチウム等の周期律表第3族元素が添加されたランタンのマンガン、ガリウム又はコバルト酸化化合物(例えば、LSCO)等が挙げられる。
【0015】
前記誘電加熱層3は、導電材である例えばステンレス鋼(SUS)等の薄板を用いて下部電極層を兼ねる基板21とし、この基板21上に、誘電体層22と上部電極層23とを順次積層して形成され、上部電極層23と下部電極層を兼ねる基板21の間に、図2に示すように交流電源6から交流電圧を印加して誘電体層22を発熱させるよう構成されている。尚、本実施形態の誘電加熱層3は、基板21下面側に電気的絶縁のために絶縁層24を設けているが、絶縁層24は省略してもよい。
【0016】
前記誘電体層22には、例えば比誘電率の高いチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)等を用いる。また、前記上部電極層23には、例えばニッケルや白金等を用いる。
【0017】
前記燃料電池セル5は、図1に示すように、その平面形状が、周縁部5Aと中央部5Bとの間に、中央部5Bを周縁部5Aに支持する支持部5Cを残して空間部7を有する形状とし、前記中央部5Bが、空間部7で複数(本実施形態では8つ)に分割され、各中央部5Bはそれぞれの支持部5Cを介して周縁部5Aに支持される形状としている。更に、各中央部5Bには、多数の貫通孔8を形成してある。
【0018】
本実施形態の固体酸化物燃料電池1の燃料電池セル5は、半導体製造技術を用いて製造する。
例えば、ステンレス鋼(SUS)の薄板を準備し、これを基板21としてその下側に、例えば酸化ジルコニア(ZrO2)を成膜して絶縁層24を形成する。次いで、基板21上に、例えばMOCVD装置を用いてチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)を成膜して誘電体層22を形成する。次いで、誘電体層22上に例えばスパッタ法等を用いてニッケ層を成膜して上部電極層23を形成して誘電加熱層3を形成する。次いで、上部電極層23上に酸化ジルコニア(ZrO2)を成膜して絶縁層4を形成する。
【0019】
続いて、絶縁層4上に、例えばスパッタ法等を用いてニッケ層を成膜して空気極層12を形成する。次いで、空気極層12上に例えばMOCVD装置を用いてイットリア安定化ジルコニア(YSZ)を成膜して固体電解質層11を形成し、固体電解質層11上に例えばMOCVD装置を用いてLSCOを成膜して燃料極層13を形成して電池層2を形成する。
【0020】
その後、誘電加熱層3と絶縁層4と電池層2を積層形成した積層体の表面に、空間部7及び貫通孔8形成のためのエッチング用マスクパターンを形成し、このマスクパターンにより、空間部7及び貫通孔8領域以外の周縁部5A、中央部5B及び支持部5Cに相当する領域をマスクして例えばRIE(Reactive Ion Etching)により空間部7及び各中央部5Bの貫通孔8に相当する部分をエッチングする。これにより、図1に示すような、周縁部5Aの内側に、各支持部5Cで支持されそれぞれが多数の貫通孔8を設けた8つの中央部5Bを有する燃料電池セル5が形成される。
【0021】
その後、電池層2の空気極層12と燃料極層13や誘電加熱層3の下部電極層を兼ねる基板21と上部電極層23に、図2に示すように例えばボンディングワイヤ等による電気配線9を取付ける。
【0022】
次に、本実施形態の固体酸化物燃料電池1による発電動作について説明する。
誘電加熱層3の基板21と上部電極層23の間に、交流電源6により例えば100kHz、5V程度の交流電圧を印加すると、誘電体層22が誘電加熱の原理により発熱する。誘電加熱による発熱量Pは、下記の(1)式で表される。
P=2πfε0εrtanδE2[W/m3] (1)
ここで、fは印加交流電圧の周波数、ε0は真空の誘電率、εrは誘電体の比誘電率、tanδは誘電体の誘電正接(損失角)、Eは電界の強さである。
上記の(1)式から明らかなように、誘電加熱による発熱量Pは、印加交流電圧の周波数や誘電体の比誘電率に比例する。従って、誘電体層22としてPZTのような比誘電率の高い材料を用いることで、100kHz程度の周波数で、電池層2をその動作温度(800〜1000℃)まで加熱するのに十分な発熱量を得ることが可能である。
【0023】
そして、各中央部5Bを支持する支持部5Cの幅L(図1に図示)を狭くすることで、加熱された各中央部5Bの熱が周縁部5A側へ逃げ難くして各中央部5Bからの放熱を抑制している。このため、各中央部5Bが局所的に加熱され、各中央部5Bの電池層2が短時間で昇温し、各中央部5Bにおける電池層2が実質的な発電部としてその動作温度(800〜1000℃)まで急速に昇温する。
【0024】
この状態で、燃料ガスとして例えば水素ガスを、酸素又は酸素含有気体として例えば空気を、混合した混合ガスとして燃料電池セル5の周囲に供給する。これにより、混合ガスに含まれる空気中の酸素が、空気極層21と固体電解質層22の境界で酸素イオン(O2-)にイオン化され、酸素イオンは固体電解質層22を介して燃料極層23側に伝導され、燃料極層23側で水素ガスと反応して水(H2O)を生成する。この反応で、酸素イオンが電子を放出し、空気極層21と燃料極層23との間に電位差が生じ、電気配線9,9により空気極層21と燃料極層23とを電気結線することで、燃料極層23側の電子が空気極層21側に流れて発電する。
【0025】
空気極層21側における電極反応は、空気と電極と固体電解質の3相が接する三相界面の領域(図3中、点線円で囲んだ領域)で活発に起こる。そして、本実施形態では中央部5Bに多数の貫通孔8を形成することで、前記三相界面領域の面積を多くしたので、高い発電効率を得ることができる。
【0026】
本実施形態の固体酸化物燃料電池1によれば、半導体製造技術を利用して、下部電極層を兼ねた基板21上に、誘電体層22、上部電極層23、絶縁層4、空気極層12、固体電解質層11、燃料極層13を、順次成膜した積層体を製造した後、この積層体の空間部7及び貫通孔8に相当する領域をエッチング除去するだけで、誘電加熱層と電池層とが一体化された燃料電池セル5を製造することができるので、例えば、1cm角程度の大きさの超小型固体酸化物燃料電池を、容易且つ安価に製造することができるようになる。また、誘電加熱層3によって電池層2を局所的に加熱することが可能であるので、電池層2を固体酸化物燃料電池の動作温度(800〜1000℃)まで短時間で昇温することが可能となり、固体酸化物燃料電池の起動・停止時間の短縮化が図れる。従って、固体酸化物燃料電池を携帯機器用電源として適用することが可能になる。
【0027】
尚、上記実施形態では、基板21に導電材を用いて、基板21で下部電極層を兼ねる構成としたが、基板21上に、基板とは別に下部電極層を積層形成する構成でもよいことは言うまでもない。
【0028】
次に、図1の燃料電池セル5を複数積層するセルスタックの一例を図4に示す。尚、図1と同一要素には同一符号を付してある。
図4は、セルスタックの断面図で、本実施形態のセルスタック30は、燃料ガスの供給口31と、酸素又は酸素含有気体として例えば空気の供給口32と、排ガス等の排出口33とを設け、断面形状が矩形状の容器34内に、燃料電池セル5を所定の間隔を設けて複数積層して収容してある。ここで、前記所定の間隔は、容器34内に燃料ガスと空気が供給され混合されたときに、この混合ガスが発火し得ない距離(消炎距離)以下に設定する。燃料ガスとして水素ガスを使用した場合、水素ガスの消炎距離は、0.6mmであり、従って、本実施形態のセルスタック30では、互いの燃料電池セル5間の間隔が0.6mm以下となるよう、各燃料電池セル5を容器34内に積層して配置する。尚、燃料電池セル5間の間隔だけでなく、容器34と燃料電池セル5との隙間や燃料電池セル5における貫通孔8の径は勿論、周縁部5Aと中央部5Bとの間に存在する空間部7の幅も、前記消炎距離以下に設定されている。
【0029】
各燃料電池セル5の電池層2を直列接続する。即ち、各燃料電池セル5の空気極層12を隣接する燃料電池セル5の燃料極層13に電気的に接続し、その燃料極層13を別の隣接する燃料電池セル5の空気極層12に接続するようにして、順次各燃料電池セル5を電気的に接続することで、燃料電池セル5の電池層2を直列接続する。
【0030】
また、各燃料電池セル5の誘電加熱層3は並列接続する。即ち、各燃料電池セル5の下部電極層を兼ねる基板21同士を電気的に接続し、上部電極層23同士を電気的に接続することで、燃料電池セル5の誘電加熱層3を並列接続する。
【0031】
かかる構成のセルスタック30では、各供給口31、32から水素ガスと空気を容器34内に供給すると、容器34内の各燃料電池セル5において前述したような電極反応により、各燃料電池セル5の電池層2で電気エネルギが発生し、複数の燃料電池セル5を直列接続したセルスタック30により、高電圧の出力を得ることができる。
【0032】
燃料電池セル5を用いたセルスタック30は、高温部が図4に点線で示した燃料電池セル5の一部分(中央部5B)に限定されるため、容器34等に高温対応の耐熱材料を使用する必要がなく安価な材料を使用できる。また、セパレータの不要なシングルチャンバー方式を採用できる。従って、構造が簡素で安価な超小型の固体酸化物燃料電池のセルスタックを実現できる。
【符号の説明】
【0033】
1 固体酸化物燃料電池
2 電池層
3 誘電加熱層
4 絶縁層
5 燃料電池セル
5A 周縁部
5B 中央部
5C 支持部
7 空間部
8 貫通孔
11 電解質層
12 空気極層
13 燃料極層
21 基板
22 誘電体層
23 上部電極層
30 セルスタック
31 燃料供給口
32 空気供給口
33 排気口
34 容器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化物からなる固体電解質層と、該固体電解質層の一方の面に設ける空気極層と、前記固体電解質層の他方の面に設ける燃料極層とを、前記空気極層、電解質層、燃料極層の順で積層して形成した電池層と、
誘電体層と、該誘電体層の一方の面に設ける上部電極層と、該誘電体層の他方の面に設ける下部電極層とを、前記下部電極層、誘電体層、上部電極層の順で基板上に積層して形成し、前記上部電極層と下部電極層の間に交流電圧を印加して前記誘電体層を発熱させる誘電加熱層とを備え、
前記誘電加熱層上に絶縁層を介して前記電池層を積層して燃料電池セルを形成したことを特徴とする固体酸化物燃料電池。
【請求項2】
前記燃料電池セルは、その周縁部と中央部との間に、前記周縁部に前記中央部を支持する支持部を残して空間部を設ける構成である請求項1に記載の固体酸化物燃料電池。
【請求項3】
前記中央部が、前記空間部で複数に分割され、各中央部はそれぞれの支持部を介して前記周縁部に支持される構成である請求項2に記載の固体酸化物燃料電池。
【請求項4】
前記中央部に、多数の貫通孔を形成した請求項2又は3に記載の固体酸化物燃料電池。
【請求項5】
前記誘電加熱層は、前記基板を導電材で形成し、前記基板が前記下部電極層を兼ねる構成である請求項1〜4のいずれか1つに記載の固体酸化物燃料電池。
【請求項6】
燃料ガス及び酸素又は酸素含有気体をそれぞれ供給する各供給口と、排ガス等の排出口とを設けた単一の容器内に、前記燃料電池セルを互いに所定の間隔を設けて複数収容し、前記所定の間隔を、前記燃料ガスと酸素又は酸素含有気体の混合ガスの消炎距離以下とした請求項1〜5のいずれか1つに記載の固体酸化物燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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