説明

固体電解コンデンサの製造方法

【課題】 二酸化マンガン層形成工程時に発生する陽極箔の特性劣化に伴う製品歩留まり低下を解決し、高品質と高歩留まりを実現可能な固体電解コンデンサの製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】 二酸化マンガン層形成工程を行う前に、同工程に投入するアルミニウム箔1のロットの一部をサンプリングし、このサンプリングに二酸化マンガン層を形成した後に所定の検査を行い、この検査結果に基づいて上記サンプリングしたロットのアルミニウム箔1の次工程への投入の可否を判断する方法とすることにより、二酸化マンガン層形成工程時に発生する不良を未然に防ぐことができる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は導電性高分子を固体電解質とした固体電解コンデンサの製造方法の中で、特に導電性高分子層を形成する際の核となる二酸化マンガン層を形成するにあたり、二酸化マンガン層形成工程時の特性劣化の少ない陽極箔を二酸化マンガン層形成工程へ供給することを主体とした固体電解コンデンサの製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】従来のこの種の固体電解コンデンサの製造方法について図面を用いて説明する。図5は固体電解コンデンサの構成を示した一部切欠斜視図であり、同図において、1は陽極体としてのアルミニウム箔であり、このアルミニウム箔1はエッチングにより表面を粗面化した後、化成処理によりその表面に陽極化成皮膜が形成されている。11は上記アルミニウム箔1を陽極部と陰極部に分離するために設けられた絶縁性のレジストであり、このレジスト11により分離された陰極部は二酸化マンガン層12、導電性高分子層としてのポリピロール層13、カーボン層14、銀ペイント層15が順次積層して形成され、素子が構成されている。
【0003】このように構成された素子を、単独もしくは複数枚積層し、上記陽極部と陰極部に端子部材16A,16Bを接続した後に外装樹脂17でモールド(図示せず)することにより固体電解コンデンサを構成するようにしていたものであった。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら上記従来の固体電解コンデンサの製造方法では、生産効率やコストの面から、出発材料となるアルミニウム箔1は、一般的に所定の長さの帯状の物をリールに巻回して使用し、これを1つのロットとして一連の工程に順次投入するようにしているため、比較的源泉に誓い工程で特性のバラツキが多い結果になってしまうと、このロットを用いてそれ以降の工程に投入すると製品歩留まりが悪くなるという恐れのある方法であった。
【0005】より具体的には、上記図5を用いて説明した陰極部の形成の中で、アルミニウム箔1の表面に形成された陽極化成皮膜上に二酸化マンガン層12を形成する工程において、この二酸化マンガン層12の形成は1ロット単位の帯状のアルミニウム箔1を順次マンガン塩を溶解した水溶液に浸漬して引き上げ、これを熱分解することにより表面に二酸化マンガン層12を形成するようにしているため、アルミニウム箔1にあらかじめ形成された陽極化成皮膜に与えるダメージが大きく、陽極化成皮膜を部分的に損傷させてしまうものである。
【0006】従って、この二酸化マンガン層形成工程の後で、損傷した陽極化成皮膜を修復するための化成工程を行うようにしているが、この工程だけでは十分な修復が困難であり、二酸化マンガン層形成工程によるアルミニウム箔1の特性劣化を考えるとリールに巻回された1ロット分のアルミニウム箔1全てを安心して二酸化マンガン層形成工程に投入することができないという課題を有していた。
【0007】本発明はこのような従来の課題を解決し、表面に陽極化成皮膜が形成されたアルミニウム箔のロットを安心して二酸化マンガン層形成工程へ投入することができ、しかも高歩留まりを実現することが可能な固体電解コンデンサの製造方法を提供することを目的とするものである。
【0008】
【課題を解決するための手段】上記課題を解決するために本発明は、表面に陽極化成皮膜が形成されたアルミニウム箔のロットから一部をサンプルとして採取し、このサンプルに対して二酸化マンガン層を形成し、この二酸化マンガン層が形成されたアルミニウム箔のサンプルを所定の検査方法により劣化状態の検査を行い、この検査結果に基づいてサンプルを採取したロットのアルミニウム箔を次工程となる二酸化マンガン層形成工程へ投入するか否かを判断するようにしたものである。
【0009】この本発明により、アルミニウム箔のロット全体を全て二酸化マンガン層形成工程へ投入して不良になるということがなくなり、コスト面や効率面でロスが発生することなく、高信頼性の固体電解コンデンサを安価に安定して生産することができる。
【0010】
【発明の実施の形態】本発明の請求項1に記載の発明は、表面を粗面化して陽極化成皮膜が形成された弁作用金属からなる固体電解コンデンサ用の陽極箔のロットの一部をサンプルとして採取し、この陽極箔のサンプルをマンガン塩を溶解した水溶液に浸漬して引き上げ、これを熱分解することにより上記陽極箔の表面に二酸化マンガン層を形成し、続いてこの表面に二酸化マンガン層が形成された陽極箔のサンプルを所定の検査方法により劣化状態の検査を行い、この検査結果に基づいて上記サンプルを採取したロットの陽極箔を次工程となる二酸化マンガン形成工程へ投入するか否かを判断するようにした固体電解コンデンサの製造方法というものであり、陽極箔のロット全体を全て二酸化マンガン層形成工程へ投入して不良になるということがなくなり、コスト面や効率面でロスが発生することがなく、高信頼性の固体電解コンデンサを安定して、しかも安価に製造することができるという作用を有する。
【0011】請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、陽極箔のサンプルに対して行う所定の検査方法として、表面に二酸化マンガン層を形成した陽極箔のサンプルを電解液中に浸漬し、この電解液中に浸漬された陰極に対して一定速度で電圧掃引した時に流れる電流を計測するようにしたものであり、簡単な方法で陽極箔の特性劣化の状態を精度良く検査することができるという作用を有する。
【0012】請求項3に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、陽極箔のサンプルに対して行う所定の検査方法として、表面に二酸化マンガン層を形成した陽極箔のサンプルを電解液中に浸漬し、この電解液中に浸漬された陰極に対して一定電流を一定時間流した時の最終電圧値を計測するようにしたものであり、請求項2に記載の発明による作用と同様の作用を有する。
【0013】請求項4に記載の発明は、請求項1〜3のいずれか一つに記載の発明において、陽極箔のサンプルの表面に二酸化マンガン層を形成する条件が、この陽極箔のサンプルの検査結果に基づいて行われる次工程の二酸化マンガン形成工程と同じ条件で行われるようにしたものであり、より精度の高い判断ができるようになって生産効率をより高めることができるという作用を有する。
【0014】以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて詳細に説明する。
【0015】(実施の形態1)図1は本発明の第1の実施の形態による固体電解コンデンサの製造方法を示す製造工程図であり、同図に示すように、所定の長さの帯状のアルミニウム箔1を1ロットとして、まずアルミニウム箔1の表面を粗面化して化成処理することにより、表面に陽極化成皮膜を形成した。続いて、この陽極化成皮膜が表面に形成されたアルミニウム箔1のロットから、その一部をサンプル1Aとして採取し、この採取したサンプル1Aをマンガン塩を溶解した水溶液に浸漬して引き上げ、これを熱分解することによりサンプル1Aの表面に二酸化マンガン層を形成した。なお、このサンプル1Aに対する二酸化マンガン層の形成は、本来ロット単位で行われる二酸化マンガン層形成工程と同一の条件で行った。
【0016】続いて、このようにして表面に二酸化マンガン層を形成したサンプル1Aを被検査体として図2に示すような検査を行った。
【0017】図2は上記サンプル1Aの検査方法を説明するための概念図であり、同図に示すように、試験槽4内に充填された電解液2中にサンプル1Aならびに陰極板3を浸漬し、このサンプル1Aならびに陰極板3に夫々電源5を接続し、この状態でサンプル1Aの電位を陰極板3に対して一定速度で0Vより掃引した時に流れる電流を測定するようにしたものである。
【0018】図3はこのようにした結果を示したものであり、図中6は測定したサンプル1Aの特性を示し、7は上記サンプル1Aの二酸化マンガン層形成前の特性を示したものである。この図3から明らかなように、陽極化成皮膜が形成されたアルミニウム箔の表面に二酸化マンガン層形成を形成すると陽極化成皮膜が大きなダメージを受けるために同じ電圧でも大きな電流が流れることになり、アルミニウム箔の特性が劣化していることがわかる。
【0019】そこで、図3の横軸Aの点に示すように、所定の電圧における二酸化マンガン層形成前後の電流値(縦軸のB点、C点)をあらかじめ規定しておき、この変化量、または二酸化マンガン層形成後の電流値(C点)の上限値を管理ポイントとして判断し、良品と判定されたもののロットのみ次工程以降に投入するようにし、不良品と判定されたもののロットについては次工程への投入を中止するようにした。
【0020】このようにして評価したサンプル1Aの検査結果がOKとなったロットについては、従来の技術の項で説明した製造方法と同様に、図1に示すように二酸化マンガン層形成工程、導電性高分子層形成工程、陰極導電体層形成工程、リード接続工程、外装工程の一連の各工程(図1では、帯状のアルミニウム箔1を工程の中で個片に分断する工程は省略して記載)を経て図5に示すような固体電解コンデンサを作製した。
【0021】このようにして作製された固体電解コンデンサは、製造工程の中でアルミニウム箔1に対して最も特性劣化の要因が大きな二酸化マンガン層形成工程に投入する前に、二酸化マンガン層形成工程による特性劣化が小さいことが確認できているため、サンプリングしたアルミニウム箔1のロット全てに対して良品となることが保証されたことになり、安定した特性を発揮することができるものである。
【0022】(実施の形態2)以下、本発明の第2の実施の形態について図4を用いて説明する。なお、本実施の形態は、上記第1の実施の形態において、アルミニウム箔1のロットから採取したサンプル1Aの検査方法が異なるものであり、この点以外は第1の実施の形態と同じであるために異なる部分のみ説明し、その他の説明は省略する。
【0023】まず、検査方法の概念としては上記実施の形態1で説明した図2と同様であるが、本実施の形態ではこの状態でサンプル1Aと陰極板3間に一定電流を一定時間流し、この時の最終電圧値を測定するようにしたものである。
【0024】図4はこのようにして測定した結果を示したものであり、図中8は測定したサンプル1Aの特性を示し、9は上記サンプル1Aの二酸化マンガン層形成前の特性を示したものである。
【0025】この図4から明らかなように、陽極化成皮膜が形成されたアルミニウム箔1の表面に二酸化マンガン層を形成すると陽極酸化皮膜が大きなダメージを受けるために、一定電流を流してもアルミニウム箔の耐圧が低下していることがわかる。そこで図4の横軸Aの点に示すように、所定の時間における二酸化マンガン層形成前後の電圧値(縦軸のB点、C点)をあらかじめ規定しておき、この変化量、または二酸化マンガン層形成後の電圧値(B点)の下限値を管理ポイントとして判断し、良品と判断されたもののロットのみ次工程以降に投入するようにし、不良品と判断されたもののロットについては次工程への投入を中止するようにした。
【0026】
【発明の効果】以上のように本発明による固体電解コンデンサの製造方法は、一連の製造工程の中で陽極箔の特性劣化の最大の要因である二酸化マンガン層形成工程を行う前に、同工程に投入する陽極箔のロットの一部をサンプルとして採取し、このサンプルに二酸化マンガン層を形成した後に所定の検査を行い、この検査結果に基づいて上記サンプルを採取したロットの次工程への投入の可否を判断するようにしたため、二酸化マンガン層形成工程時に特性劣化が少ない陽極箔を事前に確認してから二酸化マンガン層形成工程に供給することが可能になり、これにより、性能・品質ともに安定した固体電解コンデンサを歩留まり良く生産することが可能になるものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1の実施の形態による固体電解コンデンサの製造方法を示す製造工程図
【図2】同サンプルの検査方法を示す概念図
【図3】同検査により測定したサンプルの特性図
【図4】同第2の実施の形態による検査により測定したサンプルの特性図
【図5】本発明の一実施の形態を含む従来の固体電解コンデンサの構成を示した一部切欠斜視図
【符号の説明】
1 アルミニウム箔
1A サンプル
2 電解液
3 陰極板
4 試験槽
5 電源
6,8 二酸化マンガン層形成後の特性図
7,9 二酸化マンガン層形成前の特性図

【特許請求の範囲】
【請求項1】 表面を粗面化して陽極化成皮膜が形成された弁作用金属からなる固体電解コンデンサ用の陽極箔のロットの一部をサンプルとして採取し、この陽極箔のサンプルをマンガン塩を溶解した水溶液に浸漬して引き上げ、これを熱分解することにより上記陽極箔の表面に二酸化マンガン層を形成し、続いてこの表面に二酸化マンガン層が形成された陽極箔のサンプルを所定の検査方法により劣化状態の検査を行い、この検査結果に基づいて上記サンプルを採取したロットの陽極箔を次工程となる二酸化マンガン形成工程へ投入するか否かを判断するようにした固体電解コンデンサの製造方法。
【請求項2】 陽極箔のサンプルに対して行う所定の検査方法として、表面に二酸化マンガン層を形成した陽極箔のサンプルを電解液中に浸漬し、この電解液中に浸漬された陰極に対して一定速度で電圧掃引した時に流れる電流を計測するようにした請求項1に記載の固体電解コンデンサの製造方法。
【請求項3】 陽極箔のサンプルに対して行う所定の検査方法として、表面に二酸化マンガン層を形成した陽極箔のサンプルを電解液中に浸漬し、この電解液中に浸漬された陰極に対して一定電流を一定時間流した時の最終電圧値を計測するようにした請求項1に記載の固体電解コンデンサの製造方法。
【請求項4】 陽極箔のサンプルの表面に二酸化マンガン層を形成する条件が、この陽極箔のサンプルの検査結果に基づいて行われる次工程の二酸化マンガン形成工程と同じ条件で行われるものである請求項1〜3のいずれか一つに記載の固体電解コンデンサの製造方法。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図1】
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【図5】
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【公開番号】特開2000−223365(P2000−223365A)
【公開日】平成12年8月11日(2000.8.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平11−19485
【出願日】平成11年1月28日(1999.1.28)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)