説明

固体電解コンデンサの製造方法

【課題】従来のものよりも著しく低いESRを達成でき耐熱性に優れる固体電解コンデンサの製造方法を提供すること。
【解決手段】誘電体酸化被膜が形成された弁作用金属上に、導電性高分子層(A)を形成し、前記導電性高分子層(A)上に、導電性高分子単量体と支持電解質及び遷移金属イオンとが、溶媒に含まれてなる導電性高分子重合用電解液を準備し、導電性高分子層(B)を電解重合により形成して固体電解コンデンサを製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性高分子を固体電解質とした固体電解コンデンサの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウムやタンタル等の弁作用金属表面に誘電体酸化皮膜を形成し、該誘電体酸化皮膜上に固体電解質として電気伝導度の高い導電性高分子を形成させてなる固体電解コンデンサは、静電容量が高く、等価直列抵抗(以下、「ESR」と略記する。)が低い優れた特性を有することが知られている。
【0003】
上記固体電解コンデンサは一般的に、エッチング処理により表面積を拡大した弁作用金属箔、あるいは弁作用金属の粒子を焼結させることにより表面積を拡大した焼結体を、化成処理により該弁作用金属表面に誘電体酸化皮膜を形成させ、次いで、該誘電体酸化皮膜上に固体電解質層を形成し、カーボン及び銀ペーストからなる導電層を順次形成した後、リードフレームなどの外部端子に接続し、トランスファーモールド等による外装を施して製品化される。
【0004】
固体電解コンデンサのESRは、コンデンサを構成する各部材の固有抵抗と、コンデンサを構成する各部材間に発生する接触抵抗からなる合成抵抗が主要な因子となっており、それらの改善によるESRのより一層の低減が望まれている。
【0005】
固体電解コンデンサの劣化は、偶発的に発生する不具合の他は一般的に、コンデンサを構成する各部材の熱劣化と、コンデンサの外装部を介して浸入する水分等の酸素源に起因する各部材の酸化劣化が主要な因子となっており、これらの劣化要因に対し、コンデンサを構成する各部材、特に固体電解質層の熱耐久性能の向上と、外装部材を中心としたガスバリア性の向上等の対策が行われている。
【0006】
固体電解コンデンサに用いられる一般的な固体電解質としての導電性高分子は、ポリピロールとポリエチレンジオキシチオフェンが挙げられ、さらに詳しくは、電解酸化重合によって形成されるポリピロールと、化学酸化重合によって形成されるポリエチレンジオキシチオフェンに大別される。
【0007】
電解酸化重合によって形成される導電性高分子は、緻密な膜を形成することができるため、導電性が優れる傾向があり、積層型のコンデンサの製造に用いられている。一方、化学酸化重合は、複雑な形状の素子にも対応できるため、巻回型のコンデンサの製造に多く用いられている。
【0008】
前記固体電解コンデンサの構成部材である導電性高分子の固有の性能については、ポリピロールや、ポリエチレンジオキシチオフェン等の高分子の種類のみではなく、固体電解質形成時に使用する支持電解質によっても導電性高分子の導電性や、熱耐久性等の性能が変化することが知られており、種々の支持電解質が検討されている。
【0009】
また、導電性高分子の形成に用いられる導電性高分子重合用電解液においては、高分子および支持電解質以外に添加する添加剤によっても性能が変化することが知られている。
【0010】
特許文献1には、導電性高分子重合用電解液にフェノールまたはフェノキシド誘導体を添加し用いることで、得られるコンデンサの耐熱性が改善されることが開示されている。
【0011】
特許文献2に、電解重合液にケイ酸またはケイ酸塩とフェノール誘導体を添加することで、耐湿性に優れたコンデンサが得られることが開示されている。
【0012】
しかしこれらの添加剤を使用してなる固体電解コンデンサは現在必要とされている低ESR化の要望には不十分であり、さらなる低ESR化が望まれている。
【0013】
【特許文献1】特開平05−21284号公報
【特許文献2】特開平05−234820号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の目的は、従来のものよりも著しく低いESRを達成でき耐熱性に優れる固体電解コンデンサの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、鋭意検討した結果、導電性高分子単量体と支持電解質とが溶解された導電性高分子重合用電解液に、遷移金属イオンを含ませた電解液を準備し、該電解液を用いて固体電解コンデンサを作製したところ、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0016】
すなわち本発明は以下に示すものである。
【0017】
第1の発明は、誘電体酸化被膜が形成された弁作用金属上に、導電性高分子層(A)を形成する工程と、
前記導電性高分子層(A)上に、導電性高分子単量体と支持電解質及び遷移金属イオンとが、溶媒に含まれてなる導電性高分子重合用電解液を用い、導電性高分子層(B)を電解重合により形成する工程とを有する固体電解コンデンサの製造方法である。
【0018】
第2の発明は、導電性高分子層(A)が、層構造を有していることを特徴とする前記第1の発明に記載の固体電解コンデンサの製造方法である。
【0019】
第3の発明は、導電性高分子層(A)の形成工程が、
溶媒溶解性又は溶媒分散性の導電性高分子を含有した溶液を塗布後乾燥させることにより形成する工程を含むことを特徴とする前記第1又は第2の発明に記載の固体電解コンデンサの製造方法である。
【0020】
第4の発明は、導電性高分子層(A)の形成工程が、
導電性高分子単量体の化学重合により形成されることを特徴とする前記第1又は第2の発明に記載の固体電解コンデンサの製造方法である。
【0021】
第5の発明は、遷移金属イオンの濃度が、2〜1000ppmであることを特徴とする前記第1〜第4の発明のいずれかに記載の固体電解コンデンサの製造方法である。
【0022】
第6の発明は、前記遷移金属イオンと錯体を形成する化合物が含まれていることを特徴とする前記第1〜第5の発明のいずれかに記載の固体電解コンデンサの製造方法である。
【0023】
第7の発明は、支持電解質が、芳香族スルホン酸又はその塩であることを特徴とする前記第1〜第6の発明に記載の固体電解コンデンサの製造方法である。
【0024】
第8の発明は、支持電解質が、アントラキノンスルホン酸又はその塩、ナフタレンスルホン酸又はその塩、ニトロベンゼンスルホン酸又はその塩、分岐型ドデシルベンゼンスルホン酸又はその塩、イソプロピルベンゼンスルホン酸又はその塩、アルキルナフタレンスルホン酸又はその塩からなる群から選ばれる少なくとも1つの支持電解質であることを特徴とする前記第7の発明に記載の固体電解コンデンサの製造方法である。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、従来の固体電解コンデンサと比較して著しく優れたESR特性、高い熱耐久性を示す固体電解コンデンサを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
まず、本発明の固体電解コンデンサの製造方法について説明する。
【0027】
本発明の固体電解コンデンサは、誘電体酸化被膜が形成された弁作用金属上に、導電性高分子が含有されてなる固体電解質層が形成されたものである。
本発明に使用できる弁作用金属としては、例えば、アルミニウム、タンタル、チタン、ニオブ、ジルコニウム又はこれらの合金が挙げられ、好ましくは、アルミニウム、タンタル、ニオブである。
【0028】
弁作用金属の形態としては特に制限はないが、金属箔あるいは弁作用金属粉末の焼結体を好ましく用いることができる。金属箔は比表面積を大きくする目的でエッチング処理されたものが好ましい。
誘電体酸化被膜は、上記弁作用金属をアジピン酸アンモニウム水溶液等の化成液中で電解酸化することによって、その表面を酸化処理し形成することができる。
【0029】
本発明の固体電解コンデンサは、前記誘電体酸化被膜層上に固体電解質層を備えるものであるが、この固体電解質層は、導電性高分子層(A)と、前記導電性高分子層(A)を陽極とする電解重合により形成されてなる導電性高分子層(B)とを少なくとも有するものである。
【0030】
前記導電性高分子層(A)は層構造を有していることが好ましい。層構造を有していることによって、次いで形成する導電性高分子層(B)との密着性に優れ、接触抵抗が少なくより低ESRの固体電解コンデンサを提供することができる。
【0031】
導電性高分子層(A)が、層構造を有するように形成させる工程として好ましくは以下の2通りの方法が挙げられる。
【0032】
まず第1の方法としては、溶媒溶解性あるいは溶媒分散性の導電性高分子を含有した溶液を、誘電体酸化被膜上に塗布後乾燥し、形成する方法がある。
溶媒溶解性の導電性高分子を含有した溶液として、具体的にはポリアニリンをN−メチルピロリドン(NMP)に0.1〜10重量%溶解した液が挙げられる。
このような溶液を誘電体酸化被膜が形成された弁作用金属上に塗布後、50℃〜150℃にて加熱乾燥することによって、層構造を有する導電性高分子層(A)を形成することができる。
また、溶媒分散性の導電性高分子を含有した溶液として、具体的には、水あるいはアルコール、メチルエチルケトン、トルエン又はそれらの混合物等の有機溶剤に、ポリピロール又はポリエチレンジオキシチオフェンの重合体微粒子が分散混合された溶液が挙げられる。
なお、この分散溶液中には、必要に応じてドーパントとなる有機スルホン酸系アニオンや有機高分子スルホン酸系アニオンが含有されていても良い。
このような溶液を誘電体酸化被膜が形成された弁作用金属上に塗布後、50℃〜150℃にて加熱乾燥することによって、層構造を有する導電性高分子層(A)を形成することができる。
【0033】
第2の方法としては、誘電体酸化被膜が形成された弁作用金属上にて、導電性高分子単量体を化学酸化重合によって重合形成する方法が挙げられる。
導電性高分子単量体としては、ピロール又はその誘導体、アニリン又はその誘導体、エチレンジオキシチオフェン又はその誘導体が挙げられる。
化学酸化重合の方法としては、前記導電性高分子単量体を含有する溶液と、酸化剤とを、誘電体酸化被膜が形成された弁作用金属上にて接触し、酸化重合する方法が挙げられる。
前記酸化剤としては、過酸化水素、過硫酸塩、過ホウ酸塩等の無機酸化剤や、塩化第二鉄、硫酸第二鉄等の無機第二鉄塩、あるいは、パラトルエンスルホン酸第二鉄塩等の有機スルホン酸第二鉄塩が挙げられ、好ましくはそれらを適切な濃度に調整した溶液を酸化剤として用いることができる。
上記のよう導電性高分子単量体を含有する溶液と、前記酸化剤含有溶液とを弁作用金属上で接触させることで、層構造を有する導電性高分子層(A)を形成することができる。
【0034】
次に、導電性高分子層(B)を形成する方法を説明する。
導電性高分子層(B)の形成には、まず、導電性高分子単量体と支持電解質及び遷移金属イオンとが、溶媒中に溶解された導電性高分子重合用電解液を準備する。
【0035】
当該電解液中に、前記導電性高分子層(A)が形成された弁作用金属を浸し、該導電性高分子層(A)を陽極酸化することにより、前記導電性高分子単量体の電解酸化重合が速やかに進行し、高導電性の導電性高分子層(B)を形成することができる。
【0036】
ここで、導電性高分子層(B)に用いることができる導電性高分子単量体としては、ピロール、アニリン、フラン、チオフェンあるいはこれらの誘導体が挙げられる。該誘導体としては、3−アルキルピロール、3−アルキルチオフェン、3,4−アルキレンジオキシピロール、3,4−アルキレンジオキシチオフェンなどが挙げられる。前記導電性高分子単量体は1種もしくは2種以上を同時に含有することができる。これらの中でも、得られる導電性高分子層(B)の強靱性、導電性及び耐久性の面から、ピロール及び/又はその誘導体が好ましく、さらに好ましくはピロールである。
【0037】
前記支持電解質としては、例えば、ヨウ素、臭素、塩素等のハロゲンイオン、ヘキサフロロリン、ヘキサフロロヒ素、ヘキサフロロアンチモン、テトラフロロホウ素、過塩素酸等のハロゲン化物イオン、またはメタンスルホン酸、ドデシルスルホン酸等のアルキル置換有機スルホン酸イオン、カンファースルホン酸イオンなどの環状スルホン酸イオン、またはベンゼンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、ベンゼンジスルホン酸等のアルキル置換もしくは無置換のベンゼンモノもしくはジスルホン酸イオン、2−ナフタレンスルホン酸、1,7−ナフタレンジスルホン酸等のスルホン酸基を1〜4個置換したナフタレンスルホン酸のアルキル置換もしくは無置換イオン、アントラセンスルホン酸イオン、アントラキノンスルホン酸イオン、アルキルビフェニルスルホン酸、ビフェニルジスルホン酸等のアルキル置換もしくは無置換のビフェニルスルホン酸イオン、ポリスチレンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合体等の高分子スルホン酸イオン等、に例示される置換または無置換の芳香族スルホン酸イオン、またはビスサルチレートホウ素、ビスカテコレートホウ素等のホウ素化合物イオン、またはモリブドリン酸、タングストリン酸、タングストモリブドリン酸等のヘテロポリ酸イオンなどのアニオンを放出可能な支持電解質が一般にあげられる。本発明に好適な支持電解質の例としては、アントラキノンスルホン酸又はその塩、ナフタレンスルホン酸又はその塩、ニトロベンゼンスルホン酸又はその塩、分岐型ドデシルベンゼンスルホン酸又はその塩、イソプロピルベンゼンスルホン酸又はその塩、アルキルナフタレンスルホン酸又はその塩等が挙げられる。特に好適なものは、ナフタレンスルホン酸又はその塩、アルキルナフタレンスルホン酸又はその塩が挙げられる。
【0038】
遷移金属イオンとしては、電気化学的あるいは化学的に酸化還元が可能で、可逆的に酸化還元されうるイオンが挙げられる。
遷移金属イオンを電解液中に含有させるには、具体的には、遷移金属イオンを含有する化合物、メタロセン誘導体、遷移金属錯体等を電解液中に添加すればよい。
【0039】
遷移金属イオンとしては、Tiイオン、Vイオン、Crイオン、Mnイオン、Feイオン、Coイオン、Niイオン、Cuイオン、Ruイオン等が挙げられる。これらの中でも特にFeイオンが有効である。
これらと対になる陰イオンとしては、各種芳香族スルホン酸イオン、硫酸イオン、シュウ酸イオン、アセチルアセトナートイオン等が挙げられる。
【0040】
メタロセン誘導体としては、フェロセン誘導体、チタノセン誘導体、ジルコノセン誘導体等が挙げられ、好ましくはフェロセン誘導体である。
フェロセン誘導体としては、フェロセン、フェロセンスルホン酸、フェロセンカルボン酸、メチルフェロセン、エチルフェロセン、ブチルフェロセン、1,1’−ジブチルフェロセン、フェニルフェロセン、シクロヘキシルフェロセン、アセチルフェロセン、1,1’−ジアセチルフェロセン、α−ヒドロキシメチルフェロセン、メトキシカルボニルフェロセン、ホルミルフェロセン、N,N−ジメチルアミノメチルフェロセン、トリメチルシリルフェロセン、メチルチオフェロセン等が挙げられる。
【0041】
遷移金属錯体としては、ヘキサシアノ鉄酸塩、ヘキサアンミンコバルト塩等が挙げられる。
【0042】
本発明は、固体電解コンデンサの電解酸化重合工程において、上記した電解液を用いることを特徴とする。
本発明の電解酸化重合工程においては、導電性高分子単量体の酸化重合がアノードでの酸化と、酸化状態の遷移金属物質による酸化とが起こる。すなわち、還元状態の遷移金属化合物は、アノードあるいはアノードで酸化された酸化性物質により酸化され、導電性高分子単量体等を酸化して再び還元状態になることを繰り返して、電解酸化重合の速やかな進行に寄与する。
【0043】
上記のように、酸化還元活性を示す遷移金属化合物を用いることで、導電性高分子単量体の重合形態が変化し、表面積の大きい導電性高分子膜が得られる。その結果、コンデンサ素子への充填状態とカーボンペーストとの接合界面が改善され、高い容量と低い等価直列抵抗を両立した、優れた性能を持つコンデンサを得ることが出来る。
【0044】
遷移金属イオンの濃度は、2〜1000ppmであることが好ましい。
2ppmに満たない場合、遷移金属イオンの添加効果が生じにくい場合があり、1000ppmを超える場合、電解液の保存安定性が損なわれ、変色や劣化が生じ、得られるコンデンサの特性に悪影響が生じる場合がある。
【0045】
遷移金属イオンは、導電性高分子重合用電解液の保存安定性の面から還元状態で添加されることが好ましい。酸化状態で添加する場合は、添加後すぐに導電性高分子単量体の重合が開始してしまうため、使用しにくい。
さらに、前記遷移金属イオンと錯体を形成する化合物が含まれていることが好ましい。
上記遷移金属化合物と錯体を形成する化合物としては、
アセチルアセトン、2,3−ピラジンカルボン酸、1,10−フェナントロリン、2,2’−ビピリジル、エチレンジアミン誘導体、ピリジン、ニコチン酸、ピコリン酸、γ−ピリドン、ピロリジジン、ピロリン、ピペラジン、ピペリジン、ピラジン、ピラゾール、ピラゾリン、ピロリジン、スピロビピロリジニウム、アニリン等が挙げられる。
上記化合物を用いることで、重合形態を調整でき、より高い安定性を得ることが出来る。
【0046】
本発明に使用する導電性高分子重合用電解液の溶媒は、水、またはテトラヒドロフラン(THF)やジオキサン、ジエチルエーテル等のエーテル類、あるいはアセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、ジメチルホルムアミド(DMF)やアセトニトリル、ベンゾニトリル、N−メチルピロリドン(NMP)、ジメチルスルホキシド(DMSO)等の非プロトン性極性溶媒、酢酸エチルや酢酸ブチル等のエステル類、クロロホルムや塩化メチレン等の非芳香族性の塩素系溶媒、ニトロメタンやニトロエタン、ニトロベンゼン等のニトロ化合物、あるいはメタノールやエタノール、プロパノール等のアルコール類、またはギ酸や酢酸、プロピオン酸等の有機酸または該有機酸の酸無水物(無水酢酸等)を0〜30%以下の割合で水と混合した混合溶媒を挙げることができる。これらの中でも、環境負荷、安全性の面から、水を単独で使用したものが好ましい。
【0047】
上記のようにして誘電体酸化被膜が形成された弁作用金属上に、導電性高分子層(A)及び導電性高分子層(B)を形成した後、従来公知の方法によって固体電解コンデンサを組み立てることができる。
【0048】
すなわち、導電性高分子層(A)及び導電性高分子層(B)からなる固体電解質層を形成後、該固体電解質層にカーボンペースト、銀ペースト等の導電ペーストを塗布乾燥することによって陰極層を形成する。
次いで、弁作用金属から陽極リード端子、陰極層から陰極リード端子を接続して電極を取り出して素子を形成し、この素子全体をエポキシ樹脂等の絶縁性樹脂、あるいはセラミック製や金属製の外装ケース等により封止することで固体電解コンデンサを完成することができる。
【0049】
本発明によって得られる固体電解コンデンサは、用いられる陽極弁作用金属の種類、形状により、チップ型または巻回型のいずれとすることができる。
【0050】
本発明の固体電解コンデンサの製造方法によれば、従来よりも格段に優れたインピーダンス特性、ESR特性、熱耐久性を有する固体電解コンデンサを得ることができる。
【実施例】
【0051】
以下、本発明について実施例を挙げより詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施例により、なんら限定されない。
【0052】
(実施例1)
表面に誘電体酸化皮膜が形成された3mm×3mmサイズのエッチドアルミニウム化成箔を105℃乾燥機中で10分間乾燥させた。これを、18℃サーモプレート上に10分間静置した。次に18℃に冷却したモノマー液(ピロール:3(g)+エタノール:10(g)+HO:9.2(g)の混合液):3μlを箔上に滴下し、1分間静置した。さらに、酸化剤液(p−トルエンスルホン酸テトラエチルアンモニウム(PTS−TEA):5.6(mmol)+ペルオキソ二硫酸アンモニウム:1.56(g)+HO:10.63(g)の混合液):9μlを箔上に滴下し、10分間静置することで化学酸化重合しプレコート層を形成した。これを純水にて洗浄し、105℃乾燥機中で10分間乾燥させた。
【0053】
次に、電解重合液(2−アントラキノンスルホン酸ナトリウム(東京化成工業(株)製):1.4(mmol)+ピロール:0.6(g)+硫酸第一鉄・7HO:0.05(mmol)+HO:45.8(g)の混合液)を用意した。
【0054】
プレコート層形成済みエッチドアルミニウム化成箔を電解重合液中に浸漬し、プレコート層に接触させた外部電極を陽極として、電流値を0.4mAに固定して電解重合を行い、導電性高分子層(固体電解質層)を形成した。
【0055】
次に、上記アルミニウム箔の導電性高分子層を形成した部分にカーボンペーストと銀ペーストを順に塗布し、乾燥させて、合計20個のコンデンサ素子を完成させた。
【0056】
これら20個のコンデンサ素子について、初期特性として120Hzにおける静電容量(Cs)と損失係数(tanδ×100)、100kHzにおける静電容量(Cs)と等
価直列抵抗(ESR)を測定した。
【0057】
(実施例2)
導電性高分子の製造方法を以下の方法に代えたこと以外は実施例1と同様にして、20個のコンデンサ素子を得た。すなわち、電解重合液にアルキルナフタレンスルホン酸ナトリウム:1.4(mmol)+ピロール:0.6(g)+硫酸第一鉄・7HO:0.05(mmol)+HO:45.8(g)を混合した電解重合液を用いて電解重合を行い、導電性高分子層を形成した。コンデンサ素子の特性評価を実施例1と同様に行った。
【0058】
(実施例3)
導電性高分子の製造方法を以下の方法に代えたこと以外は実施例1と同様にして、20個のコンデンサ素子を得た。すなわち、電解重合液にイソプロピルベンゼンスルホン酸ナトリウム:1.4(mmol)+ピロール:0.6(g)+硫酸第一鉄・7HO:0.05(mmol)+HO:45.8(g)を混合した電解重合液を用いて電解重合を行い、導電性高分子層を形成した。コンデンサ素子の特性評価を実施例1と同様に行った。
【0059】
(実施例4)
導電性高分子の製造方法を以下の方法に代えたこと以外は実施例1と同様にして、20個のコンデンサ素子を得た。すなわち、電解重合液に(ハード型)ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム:1.4(mmol)+ピロール:0.6(g)+p−トルエンスルホン酸第一鉄:0.05(mmol)+HO:45.8(g)を混合した電解重合液を用いて電解重合を行い、導電性高分子層を形成した。コンデンサ素子の特性評価を実施例1と同様に行った。
【0060】
(実施例5)
導電性高分子の製造方法を以下の方法に代えたこと以外は実施例1と同様にして、20個のコンデンサ素子を得た。すなわち、電解重合液に2−ナフタレンスルホン酸ナトリウム:1.4(mmol)+ピロール:0.6(g)+p−トルエンスルホン酸第一鉄:0.05(mmol)+HO:45.8(g)を混合した電解重合液を用いて電解重合を行い、導電性高分子層を形成した。コンデンサ素子の特性評価を実施例1と同様に行った。
【0061】
(実施例6)
導電性高分子の製造方法を以下の方法に代えたこと以外は実施例1と同様にして、20個のコンデンサ素子を得た。すなわち、電解重合液にm−ニトロベンゼンスルホン酸ナトリウム:1.4(mmol)+ピロール:0.6(g)+p−トルエンスルホン酸第一鉄:0.05(mmol)+HO:45.8(g)を混合した電解重合液を用いて電解重合を行い、導電性高分子層を形成した。コンデンサ素子の特性評価を実施例1と同様に行った。
【0062】
(実施例7)
導電性高分子の製造方法を以下の方法に代えたこと以外は実施例1と同様にして、20個のコンデンサ素子を得た。すなわち、電解重合液にアルキルナフタレンスルホン酸ナトリウム:1.4(mmol)+ピロール:0.6(g)+硫酸第一鉄・7HO:0.05(mmol)+アセチルアセトン0.17(mmol)+HO:45.8(g)を混合した電解重合液を用いて電解重合を行い、導電性高分子層を形成した。コンデンサ素子の特性評価を実施例1と同様に行った。
【0063】
(実施例8)
導電性高分子の製造方法を以下の方法に代えたこと以外は実施例1と同様にして、20個のコンデンサ素子を得た。すなわち、電解重合液にアルキルナフタレンスルホン酸ナトリウム:1.4(mmol)+ピロール:0.6(g)+硫酸第一鉄・7HO:0.05(mmol)+2,3−ピラジンジカルボン酸0.17(mmol)+HO:45.8(g)を混合した電解重合液を用いて電解重合を行い、導電性高分子層を形成した。コンデンサ素子の特性評価を実施例1と同様に行った。
【0064】
(比較例1)
導電性高分子の製造方法を以下の方法に代えたこと以外は実施例1と同様にして、20個のコンデンサ素子を得た。すなわち、電解重合液に2−アントラキノンスルホン酸ナトリウム:1.4(mmol)+ピロール:0.6(g)+HO:45.8(g)を混合した電解重合液を用いて電解重合を行い、導電性高分子層を形成した。コンデンサ素子の特性評価を実施例1と同様に行った。
【0065】
(比較例2)
導電性高分子の製造方法を以下の方法に代えたこと以外は実施例1と同様にして、20個のコンデンサ素子を得た。すなわち、電解重合液にアルキルナフタレンスルホン酸ナトリウム:1.4(mmol)+ピロール:0.6(g)+HO:45.8(g)を混合した電解重合液を用いて電解重合を行い、導電性高分子層を形成した。コンデンサ素子の特性評価を実施例1と同様に行った。
【0066】
(比較例3)
導電性高分子の製造方法を以下の方法に代えたこと以外は実施例1と同様にして、20個のコンデンサ素子を得た。すなわち、電解重合液にイソプロピルベンゼンスルホン酸ナトリウム:1.4(mmol)+ピロール:0.6(g)+HO:45.8(g)を混合した電解重合液を用いて電解重合を行い、導電性高分子層を形成した。コンデンサ素子の特性評価を実施例1と同様に行った。
【0067】
(比較例4)
導電性高分子の製造方法を以下の方法に代えたこと以外は実施例1と同様にして、20個のコンデンサ素子を得た。すなわち、電解重合液に(ハード型)ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム:1.4(mmol)+ピロール:0.6(g)+HO:45.8(g)を混合した電解重合液を用いて電解重合を行い、導電性高分子層を形成した。コンデンサ素子の特性評価を実施例1と同様に行った。
【0068】
(比較例5)
導電性高分子の製造方法を以下の方法に代えたこと以外は実施例1と同様にして、20個のコンデンサ素子を得た。すなわち、電解重合液に2−ナフタレンスルホン酸ナトリウム:1.4(mmol)+ピロール:0.6(g)+HO:45.8(g)を混合した電解重合液を用いて電解重合を行い、導電性高分子層を形成した。コンデンサ素子の特性評価を実施例1と同様に行った。
【0069】
(比較例6)
導電性高分子の製造方法を以下の方法に代えたこと以外は実施例1と同様にして、20個のコンデンサ素子を得た。すなわち、電解重合液にm−ニトロベンゼンスルホン酸ナトリウム:1.4(mmol)+ピロール:0.6(g)+HO:45.8(g)を混合した電解重合液を用いて電解重合を行い、導電性高分子層を形成した。コンデンサ素子の特性評価を実施例1と同様に行った。
【0070】
実施例1〜8、比較例1〜6のコンデンサ素子の測定結果を下表1に示す。
【0071】
【表1】

【0072】
実施例1〜8と比較例1〜6を比較すると、実施例1〜8の方が遷移金属イオンの添加によりコンデンサのESRの低減が見られた。特に遷移金属と錯体を形成する添加剤を加えた実施例7及び8では、より優れたコンデンサ特性が得られることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明によれば、ESR等の電気特性に優れた固体電解コンデンサを得ることができ、そのような固体電解コンデンサは様々な電子機器等に適用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘電体酸化被膜が形成された弁作用金属上に、導電性高分子層(A)を形成する工程と、前記導電性高分子層(A)上に、導電性高分子単量体と支持電解質及び遷移金属イオンとが、溶媒に含まれてなる導電性高分子重合用電解液を用い、導電性高分子層(B)を電解重合により形成する工程とを有する固体電解コンデンサの製造方法。
【請求項2】
導電性高分子層(A)が、層構造を有していることを特徴とする請求項1に記載の固体電解コンデンサの製造方法。
【請求項3】
導電性高分子層(A)の形成工程が、
溶媒溶解性又は溶媒分散性の導電性高分子を含有した溶液を塗布後乾燥させることにより形成する工程を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の固体電解コンデンサの製造方法。
【請求項4】
導電性高分子層(A)の形成工程が、
導電性高分子単量体の化学重合により形成されることを特徴とする請求項1又は2に記載の固体電解コンデンサの製造方法。
【請求項5】
遷移金属イオン濃度が、2〜1000ppmであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の固体電解コンデンサの製造方法。
【請求項6】
前記遷移金属イオンと錯体を形成する化合物が含まれていることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の固体電解コンデンサの製造方法。
【請求項7】
支持電解質が、芳香族スルホン酸又はその塩であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の固体電解コンデンサの製造方法。
【請求項8】
支持電解質が、アントラキノンスルホン酸又はその塩、ナフタレンスルホン酸又はその塩、ニトロベンゼンスルホン酸又はその塩、分岐型ドデシルベンゼンスルホン酸又はその塩、イソプロピルベンゼンスルホン酸又はその塩、アルキルナフタレンスルホン酸又はその塩からなる群から選ばれる少なくとも1つの支持電解質であることを特徴とする請求項7に記載の固体電解コンデンサの製造方法。

【公開番号】特開2010−80724(P2010−80724A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−248290(P2008−248290)
【出願日】平成20年9月26日(2008.9.26)
【出願人】(000228349)日本カーリット株式会社 (269)