説明

固体電解コンデンサ

【課題】 陽極リード線の断面積を大きくし、抵抗値の低い銅系素材を陽極端子に使用した場合においても、組立製造工程において各種負荷に十分に耐える溶接強度を保ち、漏れ電流特性やESR特性が劣化することなく低ESR化を可能にする固体電解コンデンサを提供すること。
【解決手段】 弁作用金属からなる陽極体と陽極体の表面に形成された誘電体層と該誘電体層に接して形成された固体電解質層と該固体電解質層に接して形成された陰極層と前記陽極体の一端を引き出してなる陽極リード線2とから構成されたコンデンサ素子1において、陽極リード線2の陽極端子との接続部分の一部分に引き出し方向に直交する方向の溝7を設けている。そして溝7より先の部分が陽極端子との溶接部6となっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体電解コンデンサに関し、特にその陽極リード線と陽極端子との接続構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器の高速化、デジタル化に伴い、これら機器に使用される固体電解コンデンサにおいては大容量化と高周波領域でのESR(等価直列抵抗)の低減が要求されている。
【0003】
図4に、従来の固体電解コンデンサの一例の断面図を示す。通常、固体電解コンデンサは、弁作用金属の焼結体からなる陽極体11と陽極体11の表面に形成された誘電体層と誘電体層に接して形成された固体電解質層12と固体電解質層12に接して形成された陰極層13と陽極体11の一端を引き出してなる陽極リード線50とから構成されたコンデンサ素子51を有しており、陽極リード線50の先端には溶接などの機械的接続によって陽極端子52が接続されている。コンデンサ素子51の外表面の陰極層13には、導電接着剤を介して平板状の陰極端子4が接続されている。
【0004】
このように端子の接続が行われた後、外装樹脂部5が成型金型等により形成される。その後、固体電解コンデンサのリード成形工程においては、外装樹脂部5より引き出された陽極端子52、陰極端子4は金型等により所定の形状に切断、成形が行われる。すなわち、陽極端子52、陰極端子4は外装樹脂部5を基準とし、外装樹脂部5に沿うように曲げ成形される。成形時は、複数回に分離された曲げ金型を使用し、曲げ箇所別に順次成形を実施する。従来の固体電解コンデンサの陽極リード線と陽極端子との接続工程の一例が特許文献1に記載されている。
【0005】
【特許文献1】特開2004−311976号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述のような従来の固体電解コンデンサでは、高周波領域でのESR値を下げるために、固体電解質層12や陰極層13の形状を大きくして静電容量を大きくしたり、陽極端子52や陰極端子4に抵抗値の低い銅系素材を使用したり、また、陽極リード線50の径を太くしたりしている。さらに、複数の陽極体、陽極リード線を設けることで全体として陽極リード線の断面積を増やし抵抗を低減する方法がある。
【0007】
コンデンサ素子51や陽極端子52、陰極端子4の基本的な形状や材料は変えずにESR特性値を下げようとした場合、一番簡単で他の特性に影響を及ぼさない方法は陽極リード線50の径を太くする方法である。陽極リード線50を太くすることで断面積が大きくなるため陽極リード線50の線抵抗を下げることができる。また、陽極体11、誘電体層、固体電解質層12の間のそれぞれの接触面積が増えるため接触抵抗も低減することができる。
【0008】
しかし、従来の固体電解コンデンサでは、陽極リード線50の径を太くすると組立製造工程において陽極リード線50を切断する時にかかる負荷が増加してしまう。このため、切断時に応力を受けた陽極リード線50及び一体となっている陽極体11を通して固体電解質層12や誘電体層に応力が加わり、その応力印加部分でダメージや位置ズレが発生し、漏れ電流特性やESR特性に影響を及ぼし特性が劣化する。実際に通常の円形断面の陽極リード線の線径は上記の切断時の影響のため一定寸法(約0.5mm)以上にすることはできない。
【0009】
なお、陽極リード線を複数本にした場合、1本の断面積が同じでも合計の断面積が大きくなるため全体として抵抗は下げることができるが、切断工程において外部からの応力が加わる回数は複数回に増えてしまい特性が劣化する可能性も大きくなる。
【0010】
上記の切断時の負荷を低減する方法としては、陽極リード線の断面積は同じにして、通常は円形である断面形状を潰して楕円形状とすること、さらに扁平な平板状の陽極リード線とすることが考えられる。これにより切断厚さは減少するので切断時の負荷が減少し、陽極リード線にかかる応力も減少する。図5はコンデンサ素子51の陽極リード線の形状を示す斜視図であり、図5(a)は通常の円形断面形状の陽極リード線50、図5(b)は線径を太くして扁平化した平板状の陽極リード線60を示す。
【0011】
しかし、このように陽極リード線を平板状にした場合、陽極リード線50と陽極端子52の接続工程において新たな問題が生ずる。第一の問題は、上記接続には一般的に抵抗溶接が用いられるので、扁平な形状では陽極リード線50と陽極端子52を重ね合わせ電流を流した場合に電極などの接触面積が大きくなるため接触抵抗が小さくなってしまい、溶融のための十分な加熱が得られないという問題である。図6は陽極リード線と陽極端子の抵抗溶接による接続工程を説明するための断面図であり、陽極リード線60が陽極端子52と重ね合わされ、溶接機の溶接電極8と9の間に挟まれて電流が印加され加熱される。このとき、溶接電極8と陽極リード線60、陽極リード線60と陽極端子52、および溶接電極9と陽極端子52の間の各接触抵抗はそれぞれ小さくなり、陽極リード線60と陽極端子52の溶融が安定して行えない。特に陽極端子52に抵抗の低い銅系素材を使用した場合には接触抵抗がさらに小さくなるため安定な接続は見込めない。各溶接用電極にそれぞれの素材がくっついてしまう現象も発生する。実際にこのように単に陽極リード線を扁平にしただけでは上記のように溶接強度が不安定になる傾向が現れるので陽極リード線の元の線径は0.5mm程度以上にはできない。
【0012】
第二の問題は、陽極リード線60と陽極端子52は面接触となるため陽極リード線60と陽極端子52との接触圧力が大きな面積に分散し、陽極端子52に対する陽極リード線60の十分な沈み込みが見込めないためアンカー部分が得られないことである。このため陽極リード線60と陽極端子52との接続部は後の陽極端子の曲げ工程などでその負荷に耐える接続強度が得られないことになる。上記の沈み込みを得ようとする場合、溶接時の陽極リード線60と陽極端子52との密着圧力を上げる方法があるが、この場合、逆に陽極リード線60と陽極端子52との接触抵抗が小さくなるため溶接時の溶融は少なくなり、やはり十分な接続強度は得にくくなる。
【0013】
第三の問題は、上記のような接触抵抗が低い溶接では接触面の発熱を得るために溶接電流値を上げなくてはならなく、このような大電流の溶接ではスパークが発生しやすく、スパークにより陽極端子52の銅系素材がチップ状に溶融し飛散することである。この溶融したチップは陽極リード線60と陽極端子52の接合面に水平に飛散し、コンデンサ素子に付着してしまう。この結果、固体電解コンデンサの漏れ電流特性が劣化する。
【0014】
従って、本発明の課題は、上記の問題を解決し、固体電解コンデンサにおいて、陽極リード線の断面積を大きくし、抵抗値の低い銅系素材を陽極端子に使用した場合においても、組立製造工程において各種負荷に十分に耐える溶接強度を保ち、漏れ電流特性やESR特性が劣化することなく低ESR化を可能にする固体電解コンデンサを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を達成するため、本発明の固体電解コンデンサは、弁作用金属からなる陽極体と該陽極体の表面に形成された誘電体層と該誘電体層に接して形成された固体電解質層と該固体電解質層に接して形成された陰極層と前記陽極体の一端を引き出してなる陽極リード線とから構成されたコンデンサ素子と、前記陽極リード線に接続された陽極端子と、前記陰極層に接続された陰極端子とからなる固体電解コンデンサにおいて、前記陽極リード線の前記陽極端子との接続部分の一部分に前記引き出し方向に直交する方向の溝を設けたことを特徴とする。
【0016】
前記陽極端子は、その先端が前記陽極リード線の溝が形成された部分に位置し、前記陽極リード線の溝が形成された部分より先端の部分において前記陽極リード線と重ね合わされて抵抗溶接されてもよく、また、前記陽極リード線の形状は、平板形の形状または断面が楕円形状であることが望ましい。
【0017】
上述のように、本発明では、線径の太い陽極リード線を用いた場合、それを平板形の形状または断面を楕円形状となるよう潰し加工し、かつ、陽極端子との接続部分の一部分に引き出し方向に直交する方向の溝を設けることにより、溶接領域を限定して溶接時の接触抵抗値を高めことにより溶接状態の安定性を改善すると同時にその溝をアンカーとして作用させることにより接続強度を改善し、上記の課題の解決をはかったものである。
【発明の効果】
【0018】
以上のように、本発明によれば、陽極リード線の断面積を大きくし、抵抗値の低い銅系素材を陽極端子に使用した場合においても、組立製造工程において各種負荷に十分に耐える溶接強度を保ち、漏れ電流特性やESR特性が劣化することなく低ESR化を可能にする固体電解コンデンサが得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
次に、本発明に係る固体電解コンデンサの実施の形態について図面を参照して説明する。
【0020】
図1は、本発明による固体電解コンデンサの一実施の形態に使用するコンデンサ素子の斜視図であり、陽極リード線の構造を示す図である。図1は、図4の従来の固体電解コンデンサと同様に、弁作用金属からなる陽極体と陽極体の表面に形成された誘電体層と該誘電体層に接して形成された固体電解質層と該固体電解質層に接して形成された陰極層と前記陽極体の一端を引き出してなる陽極リード線とから構成されたコンデンサ素子1を示しているが、ここでは、その陽極リード線2の陽極端子との接続部分の一部分に引き出し方向に直交する方向の溝7を設けている。そして溝7より先の部分が陽極端子との溶接部6となっている。
【0021】
コンデンサ素子1の成形においては、断面積が円形状の弁作用金属の焼結体で成形された線を加工により平板形の形状または断面を楕円形状に成形し、それを陽極体および陽極リード線として使用する。この成形においては例えば成形金型等を使用する。その後、表面に誘電体層を形成し、コンデンサ素子1の成形金型にセットして固体電解質層となる粉末を挿入して圧縮成形を行い、陰極層形成などの素子形成工程を経てコンデンサ素子1の組立を完了する。
【0022】
次に、コンデンサ素子1は陽極リード線2を規定寸法に切断し、陽極リード線2と陽極端子を抵抗溶接によって、電気的に且つ機械的に接続を行う。本実施の形態においては、このとき、陽極リード線2の先端付近の陽極端子との接続部分の一部分には溝7が設けられている。この溝7の成形方法については、例えば陽極リード線2の切断時に溝7が形成される部分を押圧すること、または溝7の部分に切り込みを入れることなどにより、切断と同時に溝形成を行う方法がある。
【0023】
陽極リード線2の溝7から切断端面までの部分である溶接部6の長さについては、溶接時に陽極端子と重ね合わせたときに最適な溶接条件が得られるような長さとなるように設定し、また、溶接時には陽極リード線2と陽極端子を重ねたときに、陽極端子の先端が溝7の中に位置するように設定する。
【0024】
図2は、本実施の形態の陽極リード線と陽極端子の抵抗溶接による接続工程を説明するための断面図である。陽極リード線2が陽極端子3と重ね合わされ、溶接機の溶接電極8と溶接電極9の間に挟まれて電流が印加され加熱される。本実施の形態では陽極リード線2と陽極端子3は陽極リード線2の溶接部6の部分だけ重ね合わされているので両者の間の接触面積が少なく、図6に示した従来の場合よりその接触抵抗が高くなる。また、図2に示すように溶接電極8、9を陽極リード線2の先端側に配置し、陽極リード線2と溶接部6の部分のみで接触するように配置することで、溶接電極8、9と陽極リード線2、および陽極端子3との接触面積も従来の図6の場合より小さくなり、さらに溶接電流は溝7で一部がブロックされるため、抵抗値が上昇して抵抗溶接に必要な安定した発熱が得られる。陽極端子3に銅系の材料を用いた場合の抵抗溶接においても安定して溶接を行うことができる。
【0025】
また、陽極リード線2は先端の溶接部6のみで陽極端子3と接触し接触圧力が分散しないため溶接部6は陽極端子3内にクサビの様に埋め込まれてしまう。また、溝7の側にはみ出した陽極端子3の先端部は抵抗溶接時には接触圧力がかかっていないため、抵抗溶接時の発熱により陽極リード線2の溝7の部分に溶け込んでしまう。この両方の効果により、図2に示すような陽極リード線2と陽極端子3との間の噛み合わされたアンカー構造が得られ、従来の接触状態での抵抗溶接では実現できない強い接続強度が得られる。
【0026】
上述のように低ESR化のため陽極端子3の母材に銅系素材を使用する場合、抵抗溶接では、陽極リード線と陽極端子との接触抵抗が低くなるため、接触面の発熱を得るために溶接電流値を上げる必要があり、このとき従来の溶接状態ではスパークにより溶融飛散したチップがコンデンサ素子に付着する結果、固体電解コンデンサの漏れ電流特性が劣化する。
【0027】
一方、本実施の形態では陽極端子の先端は溝7の中に流れ込むように溶融するので、そこから飛散するチップは溝7のコンデンサ素子1側の壁により防御され、溝7よりコンデンサ素子1側へのチップの飛散を防ぐことができる。この結果、漏れ電流特性は抵抗溶接前後で劣化することがない。
【0028】
図3は、上記の工程により形成された本実施の形態の固体電解コンデンサの断面図を示す。コンデンサ素子1の外側全周面に陰極層13が形成されており、この陰極層13と陰極端子4を導電性接着剤により電気的に接続する。その後、外装樹脂により全体を覆い成形し外装樹脂部5を形成する。この後は従来と同様な方法で陽極端子3、陰極端子4を所定寸法にて切断、成形し最終形状を得る。
【0029】
以上のように、本発明により陽極リード線の断面積を大きくし、抵抗値の低い銅系素材を陽極端子に使用した場合においても、組立製造工程において各種負荷に十分に耐える溶接強度を保ち、漏れ電流特性やESR特性が劣化することなく低ESR化を可能にする固体電解コンデンサが得られる。
【0030】
なお、本発明は、上述の実施の形態に限定されるものではないことは言うまでもなく、本発明に使用する陽極リード線、陽極端子の材料や形状および溝の形状などは目的に合わせて任意に設計することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明による固体電解コンデンサの一実施の形態に使用するコンデンサ素子の斜視図、陽極リード線の構造を示す図。
【図2】本実施の形態の陽極リード線と陽極端子の抵抗溶接による接続工程を説明するための断面図。
【図3】本実施の形態の固体電解コンデンサの断面図。
【図4】従来の固体電解コンデンサの一例の断面図。
【図5】従来のコンデンサ素子の部分の陽極リード線の形状を示す斜視図、図5(a)は円形断面形状の陽極リード線を示す斜視図、図5(b)は平板状の陽極リード線を示す斜視図。
【図6】従来の陽極リード線と陽極端子の抵抗溶接による接続工程を説明するための断面図。
【符号の説明】
【0032】
1、51 コンデンサ素子
2、50、60 陽極リード線
3、52 陽極端子
4 陰極端子
5 外装樹脂部
6 溶接部
7 溝
8,9 溶接電極
11 陽極体
12 固体電解質層
13 陰極層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
弁作用金属からなる陽極体と該陽極体の表面に形成された誘電体層と該誘電体層に接して形成された固体電解質層と該固体電解質層に接して形成された陰極層と前記陽極体の一端を引き出してなる陽極リード線とから構成されたコンデンサ素子と、前記陽極リード線に接続された陽極端子と、前記陰極層に接続された陰極端子とからなる固体電解コンデンサにおいて、前記陽極リード線の前記陽極端子との接続部分の一部分に前記引き出し方向に直交する方向の溝を設けたことを特徴とする固体電解コンデンサ。
【請求項2】
前記陽極端子は、その先端が前記陽極リード線の溝が形成された部分に位置し、前記陽極リード線の溝が形成された部分より先端の部分において前記陽極リード線と重ね合わされて抵抗溶接されることを特徴とする請求項1記載の固体電解コンデンサ。
【請求項3】
前記陽極リード線の形状は、平板形の形状または断面が楕円形状であることを特徴とする請求項1または2記載の固体電解コンデンサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−305824(P2008−305824A)
【公開日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−148953(P2007−148953)
【出願日】平成19年6月5日(2007.6.5)
【出願人】(000134257)NECトーキン株式会社 (1,832)