説明

固体電解質形燃料電池

【課題】隔離セパレータと燃料電池セルの接合部における信頼性を確保すること。
【解決手段】両隔離セパレータ45、49は、その内縁部がセル本体39の外縁部の上下の各面に接合されている。つまり、空気極側隔離セパレータ45の内縁部の下面は、固体電解質体27の上面の外縁部の接合部55にて、気密するように全周にわたってロウ付け接合されている。同様に、燃料極側隔離セパレータ49の内縁部の上面も、燃料極25の下面の外縁部の接合部57にて、全周にわたってロウ付け接合されている。このように、両隔離セパレータをセル本体39の両側から接合する構造により、固体電解質形燃料電池1の積層方向に応力が加わった場合でも、接合部分が剥離しにくくなっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料極及び空気極を有する固体電解質体を備えた固体電解質形燃料電池セルを積層した固体電解質形燃料電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、燃料電池として、固体電解質(固体酸化物)を用いた固体酸化物形燃料電池が知られている。
この固体酸化物形燃料電池は、例えば板状の固体電解質体の各面に燃料極と空気極とを備えた燃料電池セルを、多数積層してスタックを形成し、燃料極に燃料ガスを供給するとともに、空気極に酸化剤ガス(例えば空気)を供給し、燃料及び酸素を固体電解質体を介して化学反応させることによって電力を発生させるものである。
【0003】
上述した固体酸化物形燃料電池には、セル内にて燃料極側と空気極側とのガスの流通を分離するために、金属製の隔離セパレータが用いられており、この隔離セパレータは、例えば平板の燃料極支持形セルの固体電解質体の周縁部にて、金属ロウ材やガラスで接合されている(特許文献1参照)。
【0004】
また、これとは別に、燃料電池セルとの接合部を有する隔離セパレータを、撓ませた状態で積層して、スタック化する構造が開示されている(特許文献2参照)。
更に、隔離セパレータと燃料電池セルとの接合部において、隔離セパレータに凹部や凸部を設けて、接合部が酸化剤ガスや燃料ガスのどちらか一方と触れないようにする構造が開示されている(特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−331692号公報
【特許文献2】特開2005−203283号公報
【特許文献3】特開2005−174714号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述した特許文献1〜3の技術では、隔離セパレータと燃料電池セルの周縁部との接合部が1箇所であるため、長時間発電を継続すると、ガスの影響などによって、次第に接合部が劣化して、ガス漏れが発生する恐れがある。
【0007】
また、燃料電池セルと隔離セパレータとの接合部分は、燃料電池セルと隔離セパレータとが密着する方向への応力には強いが、特に剥離する方向への応力には抵抗する手段がないため、剥離方向への熱応力などに弱い可能性がある。
【0008】
本発明は、上述した課題を解決するためになされたものであり、その目的は、隔離セパレータと燃料電池セルの接合部における信頼性を確保することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)請求項1の発明は、固体電解質体と、該固体電解質体の一面に設けられ、燃料ガスに接する燃料極と、該固体電解質体の他面に設けられ、酸化剤ガスに接する空気極とを有するセル本体を備えた固体電解質形燃料電池セルを、ガスの流通を遮断するセル間セパレータを介して、複数積層した固体電解質形燃料電池であって、前記固体電解質形燃料電
池セルのセル本体の周縁部の表裏両面にそれぞれ接合部を設け、該両接合部にてそれぞれ隔離セパレータを接合するとともに、該両隔離セパレータのうち少なくとも一方は、前記固体電解質体に接合しており、前記燃料極側と空気極側とのガス流通を遮断する隔離セパレータであることを特徴とする。
本発明では、隔離セパレータは、セル本体の周縁部の表裏両面に接合されているので、接合部にかかる応力が分散され、よって、接合の信頼性が向上する。特に2枚の隔離セパレータをセル本体を挟むように配置することにより、上下どちらの方向(厚み方向)の応力にも抵抗できるため、つまり、一方の隔離セパレータに対して剥離方向に応力が加わる場合は、他方の隔離セパレータには密着方向に応力が加わることになるため、セルの信頼性が向上するという顕著な効果を奏する。
【0010】
なお、両隔離セパレータのうち、固体電解質体に接合される隔離セパレータは、ガスの流通を遮断する機能を有することが必要であるが、他の例えば燃料極等に接合される隔離セパレータについては、必ずしもその必要はない。
【0011】
(2)請求項2の発明では、前記燃料極上の前記固体電解質体側の面と反対側の面(例えば裏面)に、固体電解質接合層を形成するとともに、該固体電解質接合層に前記燃料極側に配置される隔離セパレータを接合したことを特徴とする。
【0012】
燃料極側に形成された固体電解質接合層(即ち固体電解質からなる層)は、固体電解質体と同様に緻密で強固であるので、隔離セパレータをこの固体電解質接合層に強固に接合することができる。
【0013】
特に、燃料極は、燃料電池の作動時に還元されて組織が変化するので、本発明のように、燃料極側(裏側)に、燃料電池の作動時も含めて形態が安定した固体電解質接合層を形成することが好適である。
【0014】
更に、固体電解質接合層を、燃料極を挟んで固体電解質体側と反対側(裏側)に形成することにより、燃料極を挟んで対称に近い構成になり、即ち燃料極支持形セル(詳しくはそのセル本体)の断面形状が対称に近くなり、セル本体の反りによる変形も低減できるという利点がある。
【0015】
(3)請求項3の発明では、前記燃料極側の隔離セパレータによって、前記燃料極側のガス導入室とガス排出室とが分離されたことを特徴とする。
本発明では、燃料極側の隔離セパレータによって、燃料極側のガス導入室とガス排出室とを分離するので、セル内に導入された燃料ガスの全てが一旦燃料極を通過することになるため、燃料ガスが燃料極を素通りすることがない。よって、燃料ガスが有効利用されるので(燃料利用率が向上するので)、発電出力が向上する。
【0016】
(4)請求項4の発明では、前記燃料極上の前記固体電解質体側の面と反対側の面に、前記固体電解質接合層以外にも、部分的に固体電解質層を備えたことを特徴とする。
これによって、燃料ガスは、燃料極のほぼ中心から(燃料極内に)導入され、燃料極の周縁部を通って排出されることになる。そのため、セル本体(特に燃料極や固体電解質等)のほぼ全面にフレッシュな燃料ガスが供給されるため、大判セルにおける平面方向の電位差や電流密度差の低減につながり、熱応力の発生を抑制することができる。
【0017】
(5)請求項5の発明では、前記隔離セパレータの少なくとも一方に、応力を緩和する撓み部を設けたことを特徴とする。
つまり、隔離セパレータに応力が加わった場合には、撓み部にて変形することにより(即ち隔離セパレータの可動範囲が広くなり)接合部にかかる応力を緩和できるので、接合
の信頼性が向上する。
【0018】
(6)請求項6の発明では、前記固体電解質体に接合される一方の隔離セパレータの接合代が、他方の隔離セパレータの接合代より小さいことを特徴とする。
本発明では、セル本体に2枚の隔離セパレータが接合されているので、固体電解質体に接合される一方の隔離セパレータ(例えば燃料極支持構造では空気極側の隔離セパレータ)の接合代を小さくできる。これにより、例えば発電性能に寄与する空気極の面積を広くできるため、発電性能が向上する。
【0019】
・ここで、前記固体電解質体は、電池の作動時に燃料極に導入される燃料ガス又は空気極に導入される酸化剤ガスのうちの一方の一部をイオンとして移動させることができるイオン伝導性を有する。このイオンとしては、例えば酸素イオン及び水素イオン等が挙げられる。また、燃料極は、還元剤となる燃料ガスと接触し、セルにおける負電極として機能する。空気極は、酸化剤となる酸化剤ガスと接触し、セルにおける正電極として機能する。
【0020】
・固体電解質体の材料としては、例えばZrO2系セラミック、LaGaO3系セラミック、BaCeO3系セラミック、SrCeO3系セラミック、SrZrO3系セラミック、
及びCaZrO3系セラミック等が挙げられる。
【0021】
・燃料極の材料としては、例えば、Ni及びFe等の金属と、Sc、Y等の希土類元素のうちの少なくとも1種により安定化されたジルコニア等のZrO2系セラミック、Ce
2系セラミック等のセラミックのうちの少なくとも1種との混合物などが挙げられる。
また、Pt、Au、Ag、Pd、Ir、Ru、Rh、Ni及びFe等の金属が挙げられる。これらの金属は1種のみでもよいし、2種以上の金属の合金でもよい。更に、これらの金属及び/又は合金と、上記セラミックの各々の少なくとも1種との混合物(サーメットを含む)が挙げられる。また、Ni及びFe等の金属の酸化物と、上記セラミックの各々の少なくとも1種との混合物などが挙げられる。
【0022】
・空気極の材料としては、例えば、各種の金属、金属の酸化物、金属の複酸化物等を用いることができる。金属としては、Pt、Au、Ag、Pd、Ir、Ru及びRh等の金属又は2種以上の金属を含有する合金が挙げられる。更に、金属の酸化物としては、La、Sr、Ce、Co、Mn及びFe等の酸化物(La23、SrO、Ce23、Co23、MnO2及びFeO等)が挙げられる。また、複酸化物としては、少なくともLa、P
r、Sm、Sr、Ba、Co、Fe及びMn等を含有する複酸化物(La1-XSrXCoO3系複酸化物、La1-XSrXFeO3系複酸化物、La1-XSrXCo1-YFeY3系複酸化
物、La1-XSrXMnO3系複酸化物、Pr1-XBaXCoO3系複酸化物及びSm1-XSrXCoO3系複酸化物等)が挙げられる。
【0023】
・隔離セパレータの材料としては、耐熱性、化学的安定性、強度等の優れた材料を使用でき、例えばステンレス鋼、ニッケル基合金、クロム基合金等の耐熱合金等の金属材料が挙げられる。
【0024】
具体的には、ステンレス鋼としては、フェライト系ステンレス鋼、マルテンサイト系ステンレス鋼、オーステナイト系ステンレス鋼が挙げられる。フェライト系ステンレス鋼としては、SUS430、SUS434、SUS405等が挙げられる。マルテンサイト系ステンレス鋼としては、SUS403、SUS410、SUS431等が挙げられる。オーステナイト系ステンレス鋼としては、SUS201、SUS301、SUS305等が挙げられる。更に、ニッケル基合金としては、インコネル600、インコネル718、インコロイ802等が挙げられる。クロム基合金としては、Ducrlloy CRF(9
4Cr5Fe1Y23)等が挙げられる。
【0025】
・隔離セパレータを接合する材料(接合部を構成する材料)としては、金属ロウ材やガラスなど、各種の接合材を使用でき、燃料電池の作動温度や寿命特性を勘案し、種々の材料を選択できる。例えばロウ材としては、Niロウ材、 Ag、Agを主成分とする合金、及びAgやAgを主成分とする合金にSiO2、Al23、Cr23、CuOなどから
選ばれる金属酸化物を少量(数質量%)添加したロウ材を採用でき、ガラスとしては、CaO−Al23−SiO2を主成分とする結晶化ガラスなどを採用できる。
【0026】
・固体電解質形燃料電池を用いて発電を行う場合、燃料極側には燃料ガスを導入し、空気極側には酸化剤ガスを導入する。
燃料ガスとしては、水素、還元剤となる炭化水素、水素と炭化水素との混合ガス、及びこれらのガスを所定温度の水中を通過させ加湿した燃料ガス、これらのガスに水蒸気を混合させた燃料ガス等が挙げられる。炭化水素は特に限定されず、例えば、天然ガス、ナフサ、石炭ガス化ガス等が挙げられる。この燃料ガスとしては水素が好ましい。これらの燃料ガスは1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用することもできる。また、50体積%以下の窒素及びアルゴン等の不活性ガスを含有していてもよい。
【0027】
酸化剤ガスとしては、酸素と他の気体との混合ガス等が挙げられる。更に、この混合ガスには80体積%以下の窒素及びアルゴン等の不活性ガスが含有されていてもよい。これらの酸化剤ガスのうちでは安全であって、且つ安価であるため、空気(約80体積%の窒素が含まれている。)が好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】実施例1の固体電解質形燃料電池を示す斜視図である。
【図2】固体電解質形燃料電池セルを分解した状態を示す説明図である。
【図3】(a)図1のA−A断面において空気の流路を示す説明図、(b)図1のB−B断面において燃料ガスの流路を示す説明図である。
【図4】(a)図1のA−A断面の固体電解質形燃料電池セルを示す説明図、(b)図1のB−B断面の燃料ガスの流路を示す説明図である。
【図5】(a)実施例2における固体電解質形燃料電池セルを示す(図1のA−A断面の)説明図、(b)実施例2における固体電解質形燃料電池セルを示す(図1のB−B断面の)説明図、(c)実施例3における固体電解質形燃料電池セルを示す(図1のA−A断面の)説明図、(d)実施例3における固体電解質形燃料電池セルを示す(図1のB−B断面の)説明図、 (e)実施例4における固体電解質形燃料電池セルを示す(図1のA−A断面の)説明図、(f)実施例4における固体電解質形燃料電池セルを示す(図1のB−B断面の)説明図である。
【図6】(a)実施例5における固体電解質形燃料電池セルを示す(図1のA−A断面の)説明図、(b)実施例5における固体電解質形燃料電池セルを示す(図1のB−B断面の)説明図、(c)実施例6における固体電解質形燃料電池セルを示す(図1のA−A断面の)説明図、(d)実施例6における固体電解質形燃料電池セルを示す(図1のB−B断面の)説明図、 (e)実施例7における固体電解質形燃料電池セルを示す(図1のA−A断面の)説明図、(f)実施例7における固体電解質形燃料電池セルを示す(図1のB−B断面の)説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
次に、本発明の最良の形態の例(実施例)について、すなわち、固体電解質形燃料電池の実施例について説明する。
【実施例1】
【0030】
a)まず、固体電解質形燃料電池モジュール(以下単に固体電解質形燃料電池と記す)の構成について説明する。
図1に示す様に、本実施例の固体電解質形燃料電池1は、燃料ガス(例えば水素)と酸化剤ガス(例えば空気(詳しくは空気中の酸素))との供給を受けて発電を行う装置であり、図示しない断熱容器に収容されている。
【0031】
この固体電解質形燃料電池1は、層状の固体電解質形燃料電池セル3が複数個(例えば8個)積層された固体電解質形燃料電池スタック4と、固体電解質形燃料電池スタック4の下側に配置された層状のガス予熱部5とが、(僅かな間隙を介して)積層されて、ボルト7〜21により一体化された積層体である。
【0032】
なお、本実施例では、空気の入口と出口は、異なるボルト7、9により、固体電解質形燃料電池1の上部に設定されている。また、同様なボルト11によって、燃料ガスの入口は、固体電解質形燃料電池1の下部に設定されるとともに、燃料ガスの出口は、固体電解質形燃料電池1の上部に設定されている。
【0033】
このうち、固体電解質形燃料電池セル3は、図2に分解して示す様に、いわゆる燃料極支持膜タイプのセルであり、燃料ガス流路23側には、燃料極(アノード)25が配置されるとともに、燃料極25の同図上側の表面には薄膜の固体電解質体27が形成され、その固体電解質体27の空気流路31側の表面には、空気極(カソード)29が形成されている。
【0034】
また、空気極29と上方の金属製のインターコネクタ(セル3間の導通を確保するとともにガス流路を遮断するプレート:セル間セパレータ)33との間には、その導通を確保するために、(例えば空気極29と同様なLSCF、LSM等からなる)空気極側集電体35が配置されている。同様に、燃料極25と下方の金属製のセル間セパレータ33との間には、その導通を確保するために、通気性を有する例えばNiフェルトからなる燃料極側集電体37が配置されている。尚、以下では、この燃料極25と固体電解質体27と空気極29とをセル本体39と称する。
【0035】
更に詳しくは、この固体電解質形燃料電池セル3は、上下一対のセル間セパレータ33、33の間に、空気流路31側の金属製の空気極フレーム41と、セラミックス製の絶縁フレーム43と、セル本体39を接合して配置するとともにガス流路を遮断する金属製の空気極側隔離セパレータ45及び燃料極側隔離セパレータ49と、両隔離セパレータ45、49の間に配置された金属製の中間フレーム47と、燃料ガス流路23側の金属製の燃料極フレーム51とを備えている。
【0036】
尚、隣り合う固体電解質形燃料電池セル3の間のセル間セパレータ33は共有されるので、上下両端の固体電解質形燃料電池セル3以外は、セル間には、1枚のセル間セパレータが配置されるだけである。
【0037】
従って、空気極フレーム41と絶縁フレーム43と空気極側隔離セパレータ(その外周縁部)45と中間フレーム47と燃料極側隔離セパレータ(その外周縁部)49と燃料極フレーム51等により、ボルト7〜21が貫く貫通孔52が形成された固体電解質形燃料電池セル3の枠部53が構成されている。
【0038】
つまり、固体電解質形燃料電池1(従って固体電解質形燃料電池セル3)は、図2の上方から見ると略正方形であり、その中央に配置されたセル本体39の周囲を囲むように、略正方形の枠体である、空気極フレーム41と絶縁フレーム43と空気極側隔離セパレータ45と中間フレーム47と燃料極側隔離セパレータ49と燃料極フレーム51が配置さ
れている。
【0039】
このうち、特に両隔離セパレータ45、49は、他のフレーム41、43、47、51に比べて、中央部の開口部分が少なく、その内縁部がセル本体39の外縁部の上下の各面に接合されている。
【0040】
つまり、空気極側隔離セパレータ45の内縁部の下面は、固体電解質体27の上面の外縁部の(ロウ材からなる)接合部55にて、気密するように全周にわたってロウ付け接合されている。尚、固体電解質体27は、燃料極25に比べて緻密で硬質であるので、空気極側隔離セパレータ45は、この固体電解質体27に強固に接合することにより、空気極29側と燃料極25側とを気密している。
【0041】
同様に、燃料極側隔離セパレータ49の内縁部の上面も、燃料極25の下面の外縁部の(ロウ材からなる)接合部57にて、全周にわたってロウ付け接合されている。
このように、両隔離セパレータをセル本体39の両側から接合する構造により、固体電解質形燃料電池1の積層方向に応力が加わった場合でも、接合部分が剥離しにくくなっている。
【0042】
また、図3に示す様に(尚、図3では説明の簡易化のためにセルの数は少なくしてある)、前記燃料ガス予熱部5は、一対の遮蔽プレート81、83及び枠体85に囲まれた層状の内部空間55を有し、その空間55に外部から導入された燃料ガスを通過させる際に、(周囲からの熱を受けて)燃料ガスを予熱し、暖められた燃料ガスを固体電解質形燃料電池スタック4側に供給する層状の装置である。
【0043】
この燃料ガス予熱部5は、固体電解質形燃料電池スタック4の下面側にて、スペーサ57を介して、ボルト7〜21にて一体に積層固定されている。
前記ボルト7〜21は、上述した様に、固体電解質形燃料電池1を積層方向に押圧して固体電解質形燃料電池セル3及び燃料ガス予熱部5を拘束するために用いる部材であり、その構造から2種類のボルト7〜21が使用されている。
【0044】
即ち、前記図1に示す様に、単に固体電解質形燃料電池1を押圧するための第1のボルト13〜21と、内部に燃料ガス又は空気が流通するガス流路を備えた第2のボルト7〜11である。
【0045】
このうち、第2のボルト7〜11には、図3に示す様に、空気のガス流路を備えた空気用のボルト(中空ボルト)7、9と燃料ガスのガス流路を備えた燃料用のボルト(中空ボルト)11がある。尚、使用する第2のボルト7〜11の本数は、固体電解質形燃料電池1の構造や定格等に応じて適宜選択できる。
【0046】
尚、各ボルト7〜21と固体電解質形燃料電池スタック4とは、絶縁リング等の絶縁板(図示しない)により電気的に絶縁されている(以下各実施例も同様)。
b)次に、固体電解質形燃料電池1のガス流路について説明する。
【0047】
尚、図3では、図面の大きさの関係で、各ボルトの中心孔から連通路などに至る横穴等の構成は省略して流路を模式的に示してある(以下同様)。
(1)空気の流路(空気の流れを実線の矢印で示す)
図3(a)に示す様に、空気用のボルト7の上方から供給された空気は、そのボルト7の軸中心に形成された中心孔59に導入され、各固体電解質形燃料電池セル3の側方にあけられた連通路61等を介してセル内の空気流路31側に導入される。
【0048】
次に、セル内の空気流路31の空気は、他の連通路63から、前記と同様な図示しない横穴等を介して、他の空気用(排出用)のボルト9の中心孔65に排出され、その上方よりスタック外に排出される。
【0049】
(2)燃料の流路(燃料の流れを破線の矢印で示す)
図3(b)に示す様に、燃料用のボルト11の下方から供給された燃料ガスは、そのボルト11の軸中心に形成された中心孔67Aに導入され、燃料ガス予熱部5の連通路69から内部空間55に供給される。尚、燃料用のボルト11の中心孔67は、下方の中心孔67Aと上方の中心孔67Bとからなり、燃料ガス予熱部5と固体電解質形燃料電池スタック4との間にて閉塞されている。
【0050】
次に、燃料ガス予熱部5の内部空間55に供給された燃料ガスは、周囲からの熱を受けて予熱され、予熱後の燃料ガスは、同様な他の連通路71から、他の燃料用のボルト13の中心孔73に導入される。
【0051】
次に、燃料ガスは、固体電解質形燃料電池スタック4の各連通路75から、各セル内の燃料ガス流路23に供給される。
次に、各セル内の燃料ガス流路23の燃料ガスは、同様な他の連通路77を介して、燃料用のボルト11の中心孔67Bに排出され、その上方よりスタック外に排出される。
【0052】
c)次に、固体電解質形燃料電池1の製造方法について、簡単に説明する。
まず、例えばSUS430からなる板材を打ち抜いて、セル間セパレータ33、空気極フレーム41、隔離セパレータ45、49、中間フレーム47、燃料極フレーム51、遮蔽プレート81、83、枠体85、スペーサ57を製造した。
【0053】
また、定法により、MgOとスピネルを主成分とするグリーンシートを所定形状に形成し、焼成して、絶縁フレーム43を製造した。
更に、固体電解質形燃料電池セル3のセル本体39を、定法に従って製造した。具体的には、燃料極25のグリーンシート上に、固体電解質体27の材料を印刷し、その上に空気極29の材料を印刷し、その後焼成してセル本体39を製造した。
【0054】
その後、セル本体39の外周部(外縁部)を、両隔離セパレータ45、49の内縁部で挟むように配置するとともに、枠部53を形成するように、空気極フレーム41、絶縁フレーム43、空気極側隔離セパレータ45、中間フレーム47、燃料極側隔離セパレータ47、燃料極フレーム51の順で、ボルト11〜21を通す貫通孔52が一致するように重ね合わせ、治具を用いて組み付けて、その接触部分をロウ材により接合一体化した。
【0055】
なお、ロウ材としては、例えばAgを主成分とする合金(Ag95質量%−Pd5質量%)を用いることができ、ロウ付け方法としては、例えばロウ材箔を接合する部材間に配置して加熱するなど、周知の方法を採用できる。
【0056】
次に、上述のように接合一体化した部材を用い、前記図3の固体電解質形燃料電池1の構成となるように、セル間セパレータ33、空気極側集電体35、燃料極側集電体37、スペーサ57、遮蔽プレート81、83、枠体85などを、積層して一体にして、固体電解質形燃料電池1を組み付けた。
【0057】
そして、この固体電解質形燃料電池1の枠部53に形成した貫通孔52にボルト7〜21を嵌め込むとともに、それらの両端からナット87(図3(a)参照)を螺合させて締め付け、固体電解質形燃料電池1を押圧して一体化した。
【0058】
尚、燃料ガスや空気をモジュール外に排出(又はモジュール内に導入)しないボルトには、有底のナットを使用して開口部を封鎖する。
c)次に、本実施例の効果について説明する。
【0059】
本実施例では、図4に要部を示す様に、空気極側隔離セパレータ45の内縁部の下面は、固体電解質体27の上面の外縁部の接合部55にて接合され、同様に、燃料極側隔離セパレータ49の内縁部の上面も、燃料極25の下面の外縁部の接合部57にて接合されている。
【0060】
つまり、両隔離セパレータ45、49はセル本体39の両表面に接合されているので、固体電解質形燃料電池1の積層方向に熱による応力が、上下方向のどちらの方向に加わった場合でも、どちらか一方の接合部55、57では、圧着方向に力がかかる。そのため、熱応力が加わった場合でも、接合部分が剥離しにくく、接合の信頼性が高いという効果がある。
【0061】
なお、本実施例では、燃料極側隔離セパレータ49は、ガス流通が可能であってもよい。
【実施例2】
【0062】
次に、実施例2について説明するが、前記実施例1と同様な内容の説明は省略する。
本実施例は、隔離セパレータに応力緩和用の撓み部として波状のリブを設けたものである。
【0063】
図5(a)、(b)に要部を示す様に、本実施例の固体電解質形燃料電池91では、前記実施例1と同様に、燃料極93と固体電解質体95と空気極97からなるセル本体99を備えるとともに、セル本体99に上下面にそれぞれ接合された空気極側隔離セパレータ101と燃料極側セパレータ103とを備えている。
【0064】
特に本実施例では、両隔離セパレータ101、103には、セル本体99の周囲を囲む様に、(積層方向から見て)四角枠状に波状の撓み部(リブ)105、107が形成されている。
【0065】
よって、本実施例では、両隔離セパレータ101、103の可動範囲が広くなるので、実施例1よりも大きな応力を吸収できるという利点がある。
【実施例3】
【0066】
次に、実施例3について説明するが、前記実施例1と同様な内容の説明は省略する。
本実施例は、燃料極側隔離セパレータとセル本体の接合部分に固体電解質からなる接合層を備えたものである。
【0067】
図5(c)、(d)に要部を示す様に、本実施例の固体電解質形燃料電池111では、前記実施例1と同様に、燃料極113と固体電解質体115と空気極117からなるセル本体119を備えるとともに、空気極側隔離セパレータ121と燃料極側セパレータ123とを備えている。
【0068】
特に本実施例では、燃料極113の下面(裏面)側の外縁部には、(積層方向から見て)四角枠状の固体電解質体115と同様な材料からなる固体電解質接合層125が形成されており、この固体電解質接合層125の表面に、燃料極側隔離セパレータ123がロウ付けされている。
【0069】
なお、固体電解質接合層125の形成方法は、固体電解質体115の形成方法と同様である。
本実施例では、空気極側隔離セパレータ121が緻密な固体電解質体115に接合されるだけでなく、燃料極側隔離セパレータ123も緻密な固体電解質接合層125に接合されているので、接合強度が高いという利点がある。
【0070】
また、燃料極113は、固体電解質形燃料電池1の作動時に還元されて組織が変化するので、この点からも、固体電解質形燃料電池1の作動時も含めて形状的に安定な固体電解質接合層125を燃料極113の下面(裏面)に形成し、この固体電解質接合層125に燃料極側隔離セパレータ123を接合することは好適である。
【0071】
更に、裏面に固体電解質接合層125を設けることにより、セル本体119の断面形状がより対称に近くなるので、セル本体119のそりによる変形を抑制できるという利点もある。
【実施例4】
【0072】
次に、実施例4について説明するが、前記実施例3と同様な内容の説明は省略する。
本実施例は、空気極側隔離セパレータの接合代を実施例3より小さくしたものである。
図5(e)、(f)に要部を示す様に、本実施例の固体電解質形燃料電池131では、前記実施例3と同様に、燃料極133と固体電解質体135と空気極137からなるセル本体139を備えるとともに、空気極側隔離セパレータ141と燃料極側セパレータ143とを備えている。また、燃料極側セパレータ143は、固体電解質接合層145に接合されている。
【0073】
特に本実施例では、両隔離セパレータ141、143は、それぞれ緻密な固体電解質体135と固体電解質接合層145に接合されて接合強度が高いので、空気極側隔離セパレータ141の接合代(同図の左右方向及び紙面に垂直方向の幅)を、前記実施例3より狭くしている。
【0074】
この接合代を小さくすることによって、固体電解質体137の上側の露出面(接合代以外の部分)を広くとることができるので、発電性能に寄与する空気極137の面積を広く設定している。これによって、発電出力が向上するという利点がある。
【実施例5】
【0075】
次に、実施例5について説明するが、前記実施例3と同様な内容の説明は省略する。
本実施例は、中間フレームに燃料ガスを排出する連通路を設けたものである。
図6(a)、(b)に要部を示す様に、本実施例の固体電解質形燃料電池151では、前記実施例3と同様に、燃料極153と固体電解質体155と空気極157からなるセル本体159を備えるとともに、空気極側隔離セパレータ161と燃料極側セパレータ163とを備えている。また、燃料極側セパレータ163は、固体電解質接合層165に接合されている。
【0076】
特に本実施例では、中間フレーム167に、燃料ガスを排出する連通路169が形成さて、燃料側隔離セパレータ163により、燃料ガスの導入側(燃料ガス流路である同図下層のガス導入室171)と排出側の流路(同図中層のガス排出室173)が分離されて、ガス流通が遮断されている。
【0077】
従って、本実施例では、ガス導入室171に導入された燃料ガスは全て、一旦燃料極153を通過するので、燃料極153を素通りする燃料ガスが無い。よって、燃料が有効利用されるので、発電効率が向上するという利点がある。
【実施例6】
【0078】
次に、実施例6について説明するが、前記実施例5と同様な内容の説明は省略する。
本実施例は、燃料極の裏面(固体電解質体と反対側の面)に、枠状に固体電解質接合層を設けるとともに、その枠内にも、部分的に固体電解質層を設けたものである。
【0079】
図6(c)、(d)に要部を示す様に、本実施例の固体電解質形燃料電池181では、前記実施例5と同様に、燃料極183と固体電解質体185と空気極187からなるセル本体189を備えている。また、空気極側隔離セパレータ191と、燃料極側セパレータ193と、固体電解質接合層195と、中間フレーム197の連通路199とを備えている。
【0080】
特に本実施例では、枠状の固体電解質接合層195の内側、即ち燃料極183の裏側表面に、固体電解質層201を露出部分があるように(積層方向から見て)メッシュ状に形成している。
【0081】
これによって、燃料極183の中心部分からほぼ全面にフレッシュな燃料が供給され、燃料極183の周縁部から(即ち厚み方向の垂直方向に)燃料ガスが排出されることになるので、特に大判セルの平面方向における電位差や電流密度差のバラツキを低減でき、熱応力の発生を抑制できるという利点がある。
【実施例7】
【0082】
次に、実施例7について説明するが、前記実施例6と同様な内容の説明は省略する。
本実施例は、空気極側隔離セパレータの接合代を小さくしたものである。
図6(e)、(f)に要部を示す様に、本実施例の固体電解質形燃料電池211では、前記実施例6と同様に、燃料極213と固体電解質体215と空気極217からなるセル本体219を備えている。また、空気極側隔離セパレータ221と、燃料極側セパレータ223と、固体電解質接合層225と、中間フレーム227の連通路229と、固体電解質層231を備えている。
【0083】
特に本実施例では、前記実施例4と同様に、空気極側隔離セパレータ221の接合代を、前記実施例6より狭くしている。つまり、接合代を小さくすることによって、空気極217の面積を広く設定しているので、発電出力が向上するという利点がある。
【0084】
尚、本発明は前記実施例になんら限定されるものではなく、本発明を逸脱しない範囲において種々の態様で実施しうることはいうまでもない。
(1)例えば、本発明は、空気極支持構造の固体電解質形燃料電池にも適用できる。この場合には、固体電解質体に一方の(ガス流路を遮断する)隔離セパレータを接合し、空気極に他方の隔離セパレータを接合する構成を採用できる。
【0085】
(2)また、固体酸化物燃料電池としては、上述した様な中空ボルトを用いて、ガスの流通とスタックの固定を行うもの以外に、例えば2006−194245号の図1〜図8等に記載の様に、ロウ材等によってセル等を接合し、そのセルの枠部を貫通するように設けたガス流路を利用して、空気や燃料を供給したり排出する構成の(帯状のマニホールドタイプの)固体電解質形燃料電池にも、本発明を適用できることは勿論である。
【符号の説明】
【0086】
1、91、111、131、151、181…固体電解質形燃料電池モジュール
3…固体電解質形燃料電池セル
4…固体電解質形燃料電池スタック
7、9、11、13、15、17、19、21…ボルト
23…燃料ガス流路
25、93、113、133、153、183…燃料極
27、95、115、135、155、185…固体電解質体
29、97、117、137、157、187…空気極
31…空気流路
33…セル間セパレータ
39、99、119、139、159、189…セル本体
45、101、121、141、161、191…空気極側隔離セパレータ
49、103、123、143、163、193…燃料極側隔離セパレータ
55、57…接合部
105、107…撓み部
125、145、165、195…固体電解質接合層
171…ガス導入室
173…ガス排出室
201…固体電解質層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体電解質体と、該固体電解質体の一面に設けられ、燃料ガスに接する燃料極と、該固体電解質体の他面に設けられ、酸化剤ガスに接する空気極とを有するセル本体を備えた固体電解質形燃料電池セルを、ガスの流通を遮断するセル間セパレータを介して、複数積層した固体電解質形燃料電池であって、
前記固体電解質形燃料電池セルのセル本体の周縁部の表裏両面にそれぞれ接合部を設け、該両接合部にてそれぞれ隔離セパレータを接合するとともに、該両隔離セパレータのうち少なくとも一方は、前記固体電解質体に接合しており、前記燃料極側と空気極側とのガス流通を遮断する隔離セパレータであることを特徴とする固体電解質形燃料電池。
【請求項2】
前記燃料極上の前記固体電解質体側の面と反対側の面に、固体電解質接合層を形成するとともに、該固体電解質接合層に前記燃料極側に配置される隔離セパレータを接合したことを特徴とする請求項1に記載の固体電解質形燃料電池。
【請求項3】
前記燃料極側の隔離セパレータによって、前記燃料極側のガス導入室とガス排出室とが分離されたことを特徴とする請求項2に記載の固体電解質形燃料電池。
【請求項4】
前記燃料極上の前記固体電解質体側の面と反対側の面に、前記固体電解質接合層以外にも、部分的に固体電解質層を備えたことを特徴とする請求項3に記載の固体電解質形燃料電池。
【請求項5】
前記隔離セパレータの少なくとも一方に、応力を緩和する撓み部を設けたことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の固体電解質形燃料電池。
【請求項6】
前記固体電解質体に接合される一方の隔離セパレータの接合代が、他方の隔離セパレータの接合代より小さいことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の固体電解質形燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−55072(P2013−55072A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−278304(P2012−278304)
【出願日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【分割の表示】特願2007−136816(P2007−136816)の分割
【原出願日】平成19年5月23日(2007.5.23)
【出願人】(000004547)日本特殊陶業株式会社 (2,912)
【Fターム(参考)】