説明

固体高分子型燃料電池及びその製造方法

【課題】電池性能を大きく低下させることなく、ラジカル耐性の高い固体高分子型燃料電池及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】電解質膜の両面に電極が接合された膜電極接合体を備え、前記膜電極接合体は、可溶性鉄イオンの量が電解質重量当たり10ppm以下である固体高分子型燃料電池。膜電極接合体又はその構成要素の還元処理及び酸洗処理を、この順で又は同時に行い、前記膜電極接合体に含まれる可溶性鉄イオンの量を電解質重量当たり10ppm以下にする還元・酸洗工程を備えた固体高分子型燃料電池の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体高分子型燃料電池及びその製造方法に関し、さらに詳しくは、車載用動力源、定置型小型発電器、コジェネレーションシステム等として好適な固体高分子型燃料電池及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
固体高分子型燃料電池は、固体高分子電解質膜の両面に電極が接合された膜電極接合体(MEA)を基本単位とする。また、固体高分子型燃料電池において、電極は、一般に、拡散層と触媒層の二層構造をとる。拡散層は、触媒層に反応ガス及び電子を供給するためのものであり、カーボンペーパー、カーボンクロス等が用いられる。また、触媒層は、電極反応の反応場となる部分であり、一般に、白金等の電極触媒を担持したカーボンと固体高分子電解質との複合体からなる。
【0003】
このようなMEAを構成する電解質膜あるいは触媒層内電解質には、耐酸化性に優れた全フッ素系電解質(高分子鎖内にC−H結合を含まない電解質。例えば、ナフィオン(登録商標、デュポン社製)、アシプレックス(登録商標、旭化成(株)製)、フレミオン(登録商標、旭硝子(株)製)等。)を用いるのが一般的である。
また、全フッ素系電解質は、耐酸化性に優れるが、一般に極めて高価である。そのため、固体高分子型燃料電池の低コスト化を図るために、炭化水素系電解質(高分子鎖内にC−H結合を含み、C−F結合を含まない電解質)、又は、部分フッ素系電解質(高分子鎖内にC−H結合とC−F結合の双方を含む電解質)の使用も検討されている。
【0004】
しかしながら、固体高分子型燃料電池を車載用動力源等として実用化するためには、解決すべき課題が残されている。例えば、MEAを構成する電解質膜は、触媒層で副生成する過酸化水素又はその分解生成物であるラジカルに対して不安定であり、耐久性を向上させる必要がある。触媒層内電解質や電解質膜が全フッ素系電解質である場合には、耐久性の低下は比較的少ない。これに対し、炭化水素系電解質の場合は、過酸化水素及びラジカルに対する安定性が全フッ素系電解質に比べて著しく劣るため、燃料電池を長期間安定的に作動させることは困難である。
【0005】
そこでこの問題を解決するために、従来から種々の提案がなされている。
例えば、特許文献1には、炭化水素系固体高分子電解質膜に、二酸化マンガンなどの酸化物触媒、鉄フタロシアニンなどの大環状金属錯体触媒、又は、Cu−Ni合金粒子などの遷移金属合金触媒を添加した固体高分子電解質膜が開示されている。
同文献には、炭化水素系電解質に酸化物触媒等を添加すると、過酸化水素が不均化反応により水に分解し、過酸化水素による電解質の劣化を抑制できる点が記載されている。
【0006】
また、特許文献2には、スルホン化ポリフェニレンサルファイド膜のスルホン酸基のプロトンの一部をMg、Ca、Al、Laなどの多価金属で置換したプロトン伝導性高分子膜が開示されている。
同文献には、スルホン酸基のプロトンの一部を、ある種の多価金属で置換すると、過酸化物ラジカルに対する耐性(耐酸化性)が向上する点が記載されている。
【0007】
また、特許文献3には、ポリスチレングラフトETFE膜を1N塩酸水溶液又は1N硫酸水溶液に浸漬し、室温〜90℃で1.5〜2時間保持する方法が開示されている。
同文献には、このような方法により、高分子電解質中のFe元素を0.01質量%(100ppm)以下にすることができる点が記載されている。
【0008】
また、特許文献4には、ラジカルに起因する電解質膜の劣化の抑制を目的とするものではないが、白金が担持された炭素繊維/カーボンペーパー複合体をヒドラジン水溶液又は水素化ホウ素ナトリウム水溶液に浸漬し、室温で30分間還元処理する固体高分子型燃料電池用電極の製造方法が開示されている。
同文献には、このような方法によって触媒表面の酸化物層が除去されるので、予備運転時間を短縮できる点が記載されている。
【0009】
また、特許文献5には、ラジカルに起因する電解質膜の劣化の抑制を目的とするものではないが、白金が担持された炭素繊維/カーボンペーパー複合体を1モル/Lの硫酸水溶液に浸漬し、−0.3〜0.5Vの範囲で50mV/秒の走査速度で10回酸化還元処理する固体高分子型燃料電池用電極の製造方法が開示されている。
同文献には、このような方法によって触媒表面がクリーニングされるので、予備運転時間を短縮できる点が記載されている。
【0010】
さらに、特許文献6には、ラジカルに起因する電解質膜の劣化の抑制を目的とするものではないが、プロトン型S−PES電解質膜を1mol/LのNaOH水溶液に浸漬してNa型S−PES電解質膜とし、これと触媒層とを重ね合わせ、ホットプレスする膜電極接合体の製造方法が開示されている。
同文献には、電解質膜を塩型にすると溶融温度が低下し、電解質膜と触媒層との接合を低温度で行うことができるので、電解質膜に与える化学的、機械的ダメージを抑制できる点が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2000−106203号公報
【特許文献2】特開2004−018573号公報
【特許文献3】特開2005−235523号公報
【特許文献4】特開2007−227088号公報
【特許文献5】特開2007−227083号公報
【特許文献6】特開2007−299705号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
全フッ素系電解質に対して、ある種の大環状金属錯体や遷移金属酸化物を添加し、あるいは、全フッ素系電解質のプロトンの一部を、ある種の金属イオンで置換すると、過酸化水素及びラジカルに対する耐性を向上させることができる。しかしながら、これらの技術をそのまま炭化水素系電解質に転用しても、十分な耐性が得られない場合が多い。
これは、炭化水素系電解質は、全フッ素系電解質に比べて基本骨格が不安定であるため、過酸化水素を分解する作用を持つ添加物が過酸化水素だけでなく炭化水素骨格も分解するためと考えられる。
【0013】
また、従来、高分子電解質の過酸化水素耐性試験には、フェントン試験を用いるのが一般的であった。フェントン試験(Fe2+イオン添加過酸化水素水浸漬試験)は、高湿度状態(飽和湿度)下での劣化程度を調べる方法である。
一方、燃料電池運転中には、MEAは十分な湿潤状態ではなく、ドライな状態に置かれる場合も多く、高分子電解質の耐久性を評価するにはフェントン試験のみでは不十分である。そのため、最近では、低湿度下(ドライ環境)で高温の過酸化水素蒸気を被試験体に当てる、いわゆるドライフェントン試験がMEAの劣化を模擬できる促進試験として採用されつつある。しかしながら、上述した耐久性改善法で処理した電解質膜をドライフェントン試験で評価すると、フェントン試験とは全く別の結果を示すものがある。
【0014】
さらに、遷移金属イオン(特に、Feイオン(Fe2+/Fe3+))があるしきい値を超えて電解質に存在すると、電解質の過酸化水素耐性を悪化させることが知られている。また、今まで知られていなかったことであるが、フェントン活性を有する不純物と、過酸化水素耐性を有する各種添加剤や添加イオンとの間に相互作用があり、遷移金属イオン(特に、Feイオン)があるしきい値を超えて存在すると、各種添加剤や添加イオンの効果が喪失したり、逆に過酸化水素耐性を悪化させる場合がある。
これに対し、特許文献3に開示されているように、電解質を酸で処理し、遷移金属イオンを洗い流す方法は、フェントン活性を有する不純物遷移金属イオンを除去する方法として有効である。しかしながら、単なる酸洗では、十分な過酸化水素耐性は得られない。
【0015】
本発明が解決しようとする課題は、電池性能を大きく低下させることなく、ラジカル耐性の高い固体高分子型燃料電池及びその製造方法を提供することにある。
また、本発明が解決しようとする他の課題は、電解質の種類によらず、燃料電池の作動環境下(特に、ドライ環境下)においても高い耐酸化性を示す固体高分子型燃料電池及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を解決するために本発明に係る固体高分子型燃料電池は、
電解質膜の両面に電極が接合された膜電極接合体を備え、
前記膜電極接合体は、可溶性鉄イオンの量が電解質重量当たり10ppm以下である
ことを要旨とする。
また、本発明に係る固体高分子型燃料電池の製造方法は、
膜電極接合体又はその構成要素の還元処理及び酸洗処理を、この順で又は同時に行い、前記膜電極接合体に含まれる可溶性鉄イオンの量を電解質重量当たり10ppm以下にする還元・酸洗工程
を備えていることを要旨とする。
【発明の効果】
【0017】
難溶性のFe化合物は、フェントン活性を示さず、むしろ過酸化水素を非ラジカル的に分解する作用を持つ。一方、可溶性Feイオンは、高いフェントン活性を示す。そのため、可溶性Feイオン量が10ppm以下である電解質を用いると、燃料電池の耐久性が向上する。このような電解質を備えた燃料電池は、MEA又はその構成要素の還元処理及び酸洗処理を、この順で又は同時に行うことにより得られる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】パーフルオロ系電解質膜と炭化水素系電解質膜を種々の濃度の硫酸鉄(Fe2+)水溶液に80℃×8hr浸漬し、Fe2+をイオン交換した後に過酸化水素蒸気暴露試験(3wt%H22、120℃×5hr)を行った場合の膜重量変化である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の一実施の形態について詳細に説明する。
[1. 固体高分子型燃料電池]
本発明に係る固体高分子型燃料電池は、
電解質膜の両面に電極が接合された膜電極接合体を備え、
前記膜電極接合体は、可溶性鉄イオンの量が電解質重量当たり10ppm以下である
ことを特徴とする。
【0020】
[1.1. 膜電極接合体]
固体高分子型燃料電池は、固体高分子電解質膜(電解質膜)の両面に電極が接合された膜電極接合体(MEA)を備えている。また、固体高分子型燃料電池は、通常、このようなMEAの両面を、ガス流路を備えたセパレータで挟持し、これを複数個積層したものからなる。
【0021】
[1.1.1. 電解質膜]
本発明において、固体高分子電解質膜の材質は、特に限定されるものではなく、種々の材料を用いることができる。
すなわち、固体高分子電解質膜の材質は、高分子鎖内にC−H結合を含み、かつC−F結合を含まない炭化水素系電解質、及び高分子鎖内にC−F結合を含むフッ素系電解質のいずれであっても良い。また、フッ素系電解質は、高分子鎖内にC−H結合とC−F結合の双方を含む部分フッ素系電解質であっても良く、あるいは、高分子鎖内にC−F結合を含み、かつC−H結合を含まない全フッ素系電解質であっても良い。
なお、フッ素系電解質は、フルオロカーボン構造(−CF2−、−CFCl−)の他、クロロカーボン構造(−CCl2−)や、その他の構造(例えば、−O−、−S−、−C(=O)−、−N(R)−等。但し、「R」は、アルキル基)を備えていてもよい。また、固体高分子電解質膜を構成する高分子の分子構造は、特に限定されるものではなく、直鎖状又は分岐状のいずれであっても良く、あるいは環状構造を備えていても良い。
【0022】
また、固体高分子電解質に備えられる酸基の種類についても、特に限定されるものではない。酸基としては、スルホン酸基、カルボン酸基、ホスホン酸基、スルホンイミド基等がある。固体高分子電解質には、これらの酸基の内、いずれか1種類のみが含まれていても良く、あるいは、2種以上が含まれていても良い。さらに、これらの酸基は、直鎖状固体高分子化合物に直接結合していても良く、あるいは、分枝状固体高分子化合物の主鎖又は側鎖のいずれかに結合していても良い。
【0023】
炭化水素系電解質としては、具体的には、
(1)高分子鎖のいずれかにスルホン酸基等の酸基が導入されたポリアミド、ポリアセタール、ポリエチレン、ポリプロピレン、アクリル系樹脂、ポリエステル、ポリサルホン、ポリエーテル等、及びこれらの誘導体(脂肪族炭化水素系電解質)、
(2)高分子鎖のいずれかにスルホン酸基等の酸基が導入されたポリスチレン、芳香環を有するポリアミド、ポリアミドイミド、ポリイミド、ポリエステル、ポリサルホン、ポリエーテルイミド、ポリエーテルスルホン、ポリカーボネート等、及びこれらの誘導体(部分芳香族炭化水素系電解質)、
(3)高分子鎖のいずれかにスルホン酸基等の酸基が導入されたポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトン、ポリサルホン、ポリエーテルサルホン、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリフェニレン、ポリフェニレンエーテル、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリエステル、ポリフェニレンサルファイド等、及びこれらの誘導体(全芳香族炭化水素系電解質)、
などがある。
【0024】
また、部分フッ素系電解質としては、具体的には、高分子鎖のいずれかにスルホン酸基等の酸基が導入されたポリスチレン−グラフト−エチレンテトラフルオロエチレン共重合体、ポリスチレン−グラフト−ポリテトラフルオロエチレン等、及びこれらの誘導体などがある。
また、全フッ素系電解質としては、具体的には、デュポン社製ナフィオン(登録商標)、旭化成(株)製アシプレックス(登録商標)、旭硝子(株)製フレミオン(登録商標)等、及びこれらの誘導体などがある。
【0025】
さらに、本発明において、MEAを構成する固体高分子電解質膜は、固体高分子電解質のみからなるものであっても良く、あるいは、多孔質材料、長繊維材料、短繊維材料等からなる補強材を含む複合体であっても良い。
【0026】
一般に、フッ素系電解質、特に全フッ素系電解質は、高分子鎖内にC−F結合を有しているため、耐酸化性に優れているが、フッ素系電解質に対して本発明を適用すると、さらに耐酸化性が向上する。また、炭化水素系電解質は、フッ素系電解質に比べて耐酸化性が低い。そのため、炭化水素系電解質に対して本発明を適用すると、燃料電池の作動環境下(特に、ドライ環境下)においても高い耐酸化性を示し、しかも低コストな固体高分子型燃料電池が得られる。
【0027】
[1.1.2. 電極]
MEAを構成する電極は、通常、触媒層と拡散層の二層構造を取るが、触媒層のみによって構成される場合もある。電極が触媒層と拡散層の二層構造を取る場合、電極は、触媒層を介して電解質膜に接合される。
【0028】
触媒層は、電極反応の反応場となる部分であり、電極触媒又は電極触媒を担持した担体と、その周囲を被覆する触媒層内電解質とを備えている。一般に、電極触媒には、MEAの使用目的、使用条件等に応じて最適なものが用いられる。固体高分子型燃料電池の場合、電極触媒には、白金、パラジウム、ルテニウム、ロジウム、イリジウム等若しくはこれらの合金、又は、Pt等の貴金属とコバルト、鉄、ニッケル等の遷移金属元素との合金が用いられる。触媒層に含まれる電極触媒の量は、MEAの用途、使用条件等に応じて最適な量が選択される。
【0029】
触媒担体は、微粒の電極触媒を担持すると同時に、触媒層における電子の授受を行うためのものである。触媒担体には、一般に、カーボン、活性炭、フラーレン、カーボンナノフォーン、カーボンナノチューブ等が用いられる。触媒担体表面への電極触媒の担持量は、電極触媒及び触媒担体の材質、MEAの用途、使用条件等に応じて最適な担持量が選択される。
【0030】
触媒層内電解質は、固体高分子電解質膜と電極との間でプロトンの授受を行うためのものである。触媒層内電解質には、通常、固体高分子電解質膜を構成する材料と同一の材料が用いられるが、異なる材料を用いても良い。触媒層内電解質の量は、MEAの用途、使用条件等に応じて最適な量が選択される。
触媒層内電解質は、フッ素系電解質であっても良く、あるいは、炭化水素系電解質であっても良い。特に、触媒層内電解質が炭化水素系電解質である電極に対して本発明を適用すると、高い効果が得られる。触媒層内電解質に関するその他の点は、固体高分子電解質膜と同様であるので、説明を省略する。
【0031】
拡散層は、触媒層との間で電子の授受を行うと同時に、反応ガスを触媒層に供給するためのものである。拡散層には、一般に、カーボンペーパ、カーボンクロス等が用いられる。また、撥水性を高めるために、カーボンペーパ等の表面に、ポリテトラフルオロエチレン等の撥水性高分子の粉末とカーボンの粉末との混合物(撥水層)をコーティングしたものを拡散層として用いても良い。
【0032】
[1.2. 可溶性Feイオン]
「可溶性鉄イオン」とは、電解質1g当たり0.3Lの1+10塩酸(塩酸1:水10の溶液)に室温で1日間浸漬したときに溶液中に溶出するFeイオンの量をいう。「可溶性」とは、実際の燃料電池の作動中に鉄元素が電解質内部でイオンとして存在しており、容易に電解質内部で移動しうる状態になっていることを言う。
本発明において、膜電極接合体は、可溶性鉄イオンの量が電解質重量当たり10ppm以下である必要がある。「電解質重量当たり」とは、電解質膜及び触媒層内電解質に含まれるすべての電解質の重量に対する可溶性鉄イオンの量をいう。
【0033】
[2. 固体高分子型燃料電池の製造方法]
本発明に係る固体高分子型燃料電池の製造方法は、膜電極接合体又はその構成要素の還元処理及び酸洗処理を、この順で又は同時に行い、膜電極接合体に含まれる可溶性鉄イオンの量を電解質重量当たり10ppm以下にする還元・酸洗工程を備えている。
「還元処理」とは、還元雰囲気においてMEA又はその構成要素を処理することをいう。また、「還元雰囲気」とは、大気中又は大気と平衡にある溶液中に比べて還元性である(酸素分圧が小さいか、あるいは平衡電位がより卑である)雰囲気をいう。還元処理は、気相中での処理と液相中での処理に分けられる。
【0034】
鉄化合物中のFeの状態は、+2価と+3価を取ることが知られている。また、場合によっては、これらの混合原子価の化合物や中間原子価の化合物があることも知られている。その中でも、Fe2+イオンの化合物に比べて、Fe3+イオンの化合物は、難溶性であり、酸洗浄では除去し難い。還元処理は、難溶性のFe3+イオンを可溶性のFe2+イオンに還元し、酸洗浄による除去を容易化するために行う。
【0035】
[2.1. 処理対象]
MEAは、一般に、電極触媒を含む触媒層を電解質膜に転写し、必要に応じて触媒層の外側に拡散層を圧着することにより製造される。還元処理及び酸洗処理は、MEAの状態で行っても良い。あるいは、電解質膜、電極等のMEAの構成要素に対して還元処理及び酸洗処理を行い、処理後の構成要素を用いてMEAを製造しても良い。最終的にMEAに含まれる可溶性鉄イオンの量が所定量以下になっていれば良いので、処理対象は、出発原料の種類や純度に応じて、適宜選択することができる。
【0036】
[2.2. 具体例]
[2.2.1. 第1の具体例]
還元・酸洗工程の第1の具体例は、
膜電極接合体又はその構成要素を気相中で還元する還元工程と、
膜電極接合体又はその構成要素を酸洗する酸洗工程と
を備えている。
【0037】
[A. 還元工程]
気相中での還元処理とは、大気中の酸素分圧以下での熱処理をいう。気相中での還元処理は、液相中での還元処理と異なり、廃液処理や液管理の必要がないという利点がある。
気相中での還元処理としては、具体的には、
(1)真空中での熱処理、
(2)Ar、N2等の不活性ガス中での熱処理、
(3)H2、NH3、CO、CH4等の還元性ガス中での熱処理、
などがある。
これらの中でも、H2雰囲気での熱処理は、Fe3+→Fe2+への還元が容易であるので、還元方法として特に好適である。
【0038】
還元は、可溶性鉄イオンの濃度が10ppmとなるような条件下で行う。
電解質膜、触媒層、又はMEAに対して還元処理を行う場合、還元処理温度が高くなるほど、還元反応速度を速めることができる。
しかしながら、還元処理温度が高すぎると、
(a)高分子のガラス転位温度を超えてMEAが変形する、
(b)高分子電解質から脱スルホン化が生じ、電池性能が低下する、
という問題がある。
従って、電解質膜、触媒層又はMEAに対して還元処理を行う場合、還元処理温度は、120℃以下が好ましい。
【0039】
なお、Na+、K+、Rb+、Cs+、NH4+、テトラブチルアンモニウムイオン、Mg2+、Ca2+、Sr2+、Ba2+からなる群から選択される少なくとも1つのイオンで電解質の酸基の50%以上をイオン交換した後還元処理を行い、次いで酸洗により電解質をH体に戻しても良い。この場合、還元処理温度が120℃を超えても、短時間であれば還元処理が可能な場合がある。但し、この場合は、酸基を安定にするために導入されたカチオンが廃棄されるので、コストアップとなり好ましくない。
また、電解質を含まない電極触媒や拡散層については、120℃を超える温度で還元処理をしてもかまわない。
【0040】
還元処理時間は、Fe3+イオンがFe2+イオンに十分還元される時間であれば良い。還元処理時間は、30分以上が好ましく、さらに好ましくは1時間以上である。
高温で還元処理した後、室温に冷却する前に還元雰囲気から一気に大気開放することは、Fe2+へ還元された鉄化合物が大気中の酸素により再酸化され、再びFe3+の化合物となりやすい。また、水素ガス用いて還元した場合には、残留した水素ガスによる爆発の危険性もある。従って、還元処理後に、必要に応じてN2、Ar等の不活性ガスで十分に置換し、冷却してから直ちに酸洗を行うのが好ましい。
【0041】
[B. 酸洗工程]
還元処理後、酸水溶液で酸洗を行う。酸洗用の酸水溶液は、還元処理によって可溶化したFe化合物を溶解し、あるいはFeイオンを無害化することが可能な酸を含む水溶液であれば良い。
酸洗に用いる酸としては、具体的には、
(1)塩酸、硝酸、リン酸、過塩素酸、硫酸などの無機酸、
(2)ギ酸、ヒドロキシカルボン酸、アスコルビン酸などの有機酸、
(3)ヘテロポリ酸、
などがある。これらは、いずれか1種を用いても良く、あるいは、2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0042】
[B.1. 無機酸]
塩酸や硝酸は、Fe化合物を溶解させることができる。但し、これらの酸を後述する電解還元に用いると、対極で塩素ガスやNOxガスが発生し、作業環境が悪化しやすいので好ましくない。
硫酸や過塩素酸は、可溶化したFe化合物を溶解させることができ、しかも電解還元を行っても有害ガスは発生しない。しかしながら、これらの酸はいずれも高沸点化合物であるため、MEAに残留しやすいという問題がある。そのため、これらの酸は、腐食や触媒被毒の観点から注意が必要であり、その後の水洗を十分に行う必要がある。
【0043】
[B.2. 有機酸]
ギ酸は、有機酸の中でも強酸でかつ還元力を持ち、鉄等の遷移金属とで作る塩は溶解度が大きい。そのため、少量の使用でpHを低下させ、Feイオンを効果的に除去できる。また、MEAに残留したとしても、硫酸、塩酸、リン酸、硝酸等の無機酸に比べて、それ自身の触媒被毒作用は小さい。しかも、酸化還元電位が卑であるために、電極に残留しても分解除去されやすく、電圧降下が比較的小さい。さらに、ギ酸は、過酸化水素と反応して最終的には無害のCO2とH2Oになり、電解質を保護する犠牲剤として働く。そのため、ギ酸は、酸洗に用いる酸として好適である。
但し、ギ酸は、遷移金属とのキレート能力や還元力にやや劣る。従って、可溶性鉄イオンの除去にギ酸を用いるときには、予め還元処理を施すか、あるいは、後述するように各種の還元剤(例えば、ヒドロキシカルボン酸やヘテロポリ酸などのキレート作用がある還元剤、アスコルビン酸などの還元作用が大きい還元剤、水素化ホウ素ナトリウムやジメチルアミンボランなどの水素を発生させる還元剤など)と併用するのが好ましい。
【0044】
ヒドロキシカルボン酸(例えば、グリコール酸、グルコン酸、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸など)及びアスコルビン酸は、Fe化合物を溶解させるだけでなく、遷移金属イオン(例えば、Fe2+イオン)と錯イオンを形成しやすい。そのため、酸性下で水に易溶である鉄イオンを効果的に除去できる。また、鉄の酸化物等の難溶性化合物を溶解できる。さらに、アスコルビン酸には、Fe3+をFe2+に還元する作用がある。
ヒドロキシカルボン酸及びアスコルビン酸は、万一残留したとしても腐食性は無機酸より弱い。また、これらは、過酸化水素と反応して最終的には無害のCO2とH2Oになり、電解質を保護する犠牲剤として働く。さらに、これらは、電極被毒のおそれも塩酸や硫酸に比べて格段に小さい。
なお、ヒドロキシカルボン酸及びアスコルビン酸は、酸としての解離度が相対的に小さいので、これら単独では電解質をH+体に戻すことが困難な場合がある。その場合には、酸としての解離度が大きい酸と併用するのが好ましい。特に、ヒドロキシカルボン酸又はアスコルビン酸をギ酸と併用すると、ヒドロキシカルボン酸及びアスコルビン酸は、いずれも酸としてよりもむしろ還元剤として作用する。そのため、Feイオンを効率的に除去することができる。
【0045】
[B.3. ヘテロポリ酸]
ヘテロポリ酸とは、Mo、W、又は、Vを中心元素Mとする酸素酸アニオンと、P、Si、Ge、Ti、Zr、Sn、Ce、又は、Thを中心元素Xとする酸素酸アニオンとが結合した多元素のポリアニオンをいい、ポリオキソメタレートと総称される。これらは、一般に多量の水を水和していることが多く、ポリアニオンの分子量は、800以上になる場合がある。
【0046】
例えば、酸素が40個結合したヘテロポリ酸イオンは、Xを中心元素、Mをポリ酸を構成する原子とすると、M=Mo、X=P5+、As5+、Si4+、Ge4+、Ti4+、Zr4+、Sn4+の時、アニオン構造として[Xn+1240]-10+nを取る。
X=Ce4+、Th4+、Sn4+では、アニオン構造として[Xn+1240]-12+nを取る。
X:M=1:11であり、X=P5+、As5+、Fe3+、Ce4+では、アニオン構造として[Xn+1139]-12+nを取る。
X:M=1:10であり、X=P5+、As5+、Pt4+では、アニオン構造として[Xn+10x]-2x+60+nを取る。
X:M=1:9であり、X=Mn4+、Co4+、Ni4+では、アニオン構造として[Xn+932]-10+nを取る。
X:M=2:18であり、X=P5+、As5+では、アニオン構造として[X2n+1856]-16+2nを取る。
X:M=2:17であり、X=P5+、As5+では、アニオン構造として[X2n+17x]-2x+10+2nを取る。
X:M=2:12であり、X=Co3+、Al3+、Cr3+、Fe3+、Rh3+では、アニオン構造として[X2n+1242]-12+2nを取る。
X:M=1:6であり、X=Ni2+、Co2+、Mn2+、Cu2+、Se4+、P3+、As3+、P5+では、アニオン構造として[Xn+6x]-2x+36+nを取る。
【0047】
これらの中でも、X:M=1:12では、熱的に安定ないわゆるケギン構造([Xn+1240]-8+n)が代表的なものである。例えば、水和水を除外して表すと、H4SiW1240(けいタングステン酸)、H3PW1240(りんタングステン酸)、H4SiMo1240(けいモリブデン酸)、H3PMo1240(りんモリブデン酸)が挙げられる。
また、これらのW、Moの一部がVで置換された複合ヘテロポリ酸(例えば、H3PMo12-xx40、H3PW12-xx40等)も知られている。
さらに、これらの酸は、プロトン、タングステン又はモリブデンの一部が1価カチオン、2価カチオン、又は遷移金属カチオンと置換し、塩を形成することが知られている。
また、ケギン構造とは別のポリアニオンであるドーソン構造([X21262]n-)のようなサンドイッチ構造イオンや、アンダーソン構造のイソポリアニオンMo7246-をベースにしたヘテロポリアニオンCo(III)Mo62463-、及びNi(II)Mo62464-等も比較的安定な遷移金属元素を含んだヘテロポリアニオンとして知られている。
【0048】
これらヘテロポリ酸は、種々のカチオンとプロトンとが交換(配位)し、そのカチオンはフリーの状態とは異なり、安定化される。例えば、フェントン活性のあるFe2+、Cu2+、Pd2+等の遷移金属イオンは、ヘテロポリアニオンとの共存でフェントン活性が失活する。従って、遷移金属で汚染された電解質(例えば、遷移金属の重合触媒残渣がある電解質)であっても、電解質の過酸化水素耐性を大きくすることが可能である。
これらヘテロポリ酸で電解質を洗浄した場合、ヘテロポリ酸アニオンは、遷移金属イオンと難溶性の塩を形成し、あるいはヘテロポリ酸のまま電解質に一部残留し、過酸化水素耐性の向上に寄与すると考えられる。
【0049】
[B.4. 酸洗条件]
酸洗は、可溶性鉄イオンの濃度が10ppm以下となるような条件下で行う。
例えば、酸がギ酸、ヒドロキシカルボン酸、又はアスコルビン酸である場合、酸の濃度は、0.05〜1M/Lが好ましい。酸の濃度が低すぎると、pHが高くなり、鉄イオン等の不純物イオンの除去が困難となる。一方、酸の濃度が高すぎると、薬液コストが高くなり、すすぎに要する純水の量も増えるので、経済的ではない。
【0050】
また、例えば、酸がギ酸とヒドロキシカルボン酸又はアスコルビン酸との混酸である場合、ギ酸とヒドロキシカルボン酸又はアスコルビン酸とのモル濃度比は、1:0.1〜1:2が好ましく、特に、1:1が好ましい。ヒドロキシカルボン酸又はアスコルビン酸の濃度が低すぎると、Fe2+イオンのキレート作用が見られない。一方、ヒドロキシカルボン酸又はアスコルビン酸の濃度が高すぎると、pHが高くなり、Fe2+イオンの除去能力が低下する。
【0051】
また、例えば、酸がヘテロポリ酸である場合、酸の濃度は、0.01〜10g/Lが好ましい。酸の濃度が低すぎると、pHが高くなり、鉄イオン等の不純物イオンの除去が困難となる。一方、酸の濃度が高すぎると、薬液コストが高くなり、すすぎに要する純水の量も増えるので、経済的ではない。また、ヘテロポリ酸は、若干の酸化触媒作用を有しているため、すすぎで除去できずに残留したヘテロポリ酸が電解質(特に、炭化水素系電解質)を酸化劣化させることがある。そのため、高濃度での洗浄は薦められない。
【0052】
酸洗の温度は40℃以上、時間は30分以上かけることが好ましい。必要に応じて、膜内部まで酸を浸透させるために、超音波を照射しても良い。酸洗後に温純水で十分すすいで、水溶性のイオン性成分を除去することが好ましい。
【0053】
[C. 脱脂工程]
還元処理を行う前に、有機物汚れを除去するために、MEAやその構成要素の脱脂を行っても良い。脱脂方法としては、
(1)アルカリ水溶液(例えば、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、水酸化ナトリウム、ケイ酸ナトリウムなど。以下同じ。)にMEAやその構成要素を浸漬する方法、
(2)MEAやその構成要素にアルカリ水溶液をスプレーする方法、
(3)アルカリ水溶液中においてMEAやその構成要素を電解脱脂する方法、
などがある。
【0054】
[2.2.2. 第2の具体例]
還元・酸洗工程の第2の具体例は、MEA又は触媒層、拡散層などの電子伝導性がある構成要素を酸水溶液中に浸漬し、MEA又はその構成要素を水素発生電位よりも卑な電位に保ち、水素を発生させながら通電する方法(電解還元処理法)である。この方法により、還元と同時に酸洗を行うことができる。
【0055】
[A. 電解還元処理]
[A.1. 電解還元処理溶液]
電解還元処理に用いられる酸水溶液(電解還元処理溶液)は、電解還元処理によって可溶化したFe化合物を溶解し、あるいはFeイオンを無害化することが可能な酸を含む水溶液であれば良い。
電解還元処理溶液に含まれる酸としては、具体的には、
(1)塩酸、硝酸、リン酸、過塩素酸、硫酸などの無機酸、
(2)ギ酸、ヒドロキシカルボン酸、アスコルビン酸などの有機酸、
(3)ヘテロポリ酸、
などがある。これらは、いずれか1種を用いても良く、あるいは、2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0056】
これらの中でも、電解還元処理溶液に含まれる酸としては、
(1)ギ酸、ヒドロキシカルボン酸、アスコルビン酸、ヘテロポリ酸、
(2)ギ酸とヒドロキシカルボン酸の混合物、ギ酸とアスコルビン酸の混合物、
などが好適である。
酸に関するその他の点は、第1の具体例と同様であるので、説明を省略する。
【0057】
[A.2. 電解条件]
電解は、可溶性鉄イオンの濃度が10ppm以下となるような条件下で行う。
電解還元時の浴温度は、60℃以上が好ましい。電流密度は、水素ガスの発生を目視で十分に確認できるように、0.01A/cm2以上とするのが好ましい。
被処理物(作用極、陰極)は、PtやTiからなる不溶性のメッシュで挟んでリードを取るのが好ましい。対極(陽極)は、不溶性陽極としてのPt、Au、C、フェライト等を用いても良く、あるいは、被処理物を用いても良い。
電解還元処理は、被処理物を常時陰極として用いて行っても良く、あるいは、適宜極性を反転させる、いわゆるPR電解処理を行っても良い。特に、対極に被処理物を用いてPR電解を行うと、一度に2つの被処理物を還元及び酸洗できるという利点がある。
【0058】
[B. 脱脂工程]
電解還元処理を行う前に、MEA又はその構成要素の脱脂を行っても良い。脱脂工程の詳細は、第1の具体例と同様であるので、説明を省略する。
【0059】
[2.2.3. 第3の具体例]
還元・酸洗工程の第3の具体例は、
膜電極接合体又はその構成要素を液相中で還元する還元工程と、
膜電極接合体又はその構成要素を酸洗する酸洗工程と、
を備えている。
【0060】
[A. 還元工程]
[A.1. 還元剤溶液]
液相中での還元は、還元剤溶液を用いて行う。還元剤溶液には、具体的には以下のようなものがある。
還元剤溶液の第1の具体例は、水に水素ガスを飽和させた水素ガス飽和水溶液である。水素ガス飽和水溶液は、例えば、
(1)純水に水素ガスをバブリングする方法、
(2)純水の電気分解を行い、カソード側から発生する水素を飽和したカソード水を用いる方法、
などにより製造することができる。
【0061】
還元剤溶液の第2の具体例は、水素を発生させる還元剤を溶解させた還元性水溶液である。水素を発生させる還元剤としては、水素化ホウ素化合物がある。水素化ホウ素化合物は、水に溶けて分解して水素ガスを発生する。
水素化ホウ素化合物は、水素化ホウ素リチウム、水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素カリウムなどの無機水素化ホウ素化合物であっても良く、あるいは、ジメチルアミンボラン、シアノメチルアミンボランなどの有機水素化ホウ素化合物でも良い。これらの中でも、水素化ホウ素ナトリウム及びジメチルアミンボランは、いずれも大気中でも比較的安定であり、水との反応も穏やかであるため、還元剤として特に好ましい。
水素化ホウ素化合物は、ヒドリドイオン(BH4-)の存在により、水素ガス飽和水溶液よりもさらに還元電位の卑な状態に保つことができる。そのため、単にH2ガスを接触させた場合よりも、MEA又はその構成要素に含まれるFe3+のFe2+への還元をスムーズに行うことができる。
【0062】
[A.2. 還元条件]
還元は、可溶性鉄イオンの濃度が10ppm以下となるような条件下で行う。
還元剤溶液とMEA又はその構成要素との接触は、浸漬、スプレー、スピンコートなどの方法により行うことができる。この方法は、通電不可能な構成要素(例えば、電解質膜)に含まれるFeイオンを除去するのに有効である。
還元剤溶液が水素ガス飽和水溶液である場合、その処理温度及び処理時間は、Fe3+イオンがFe2+イオンに十分還元される温度及び時間であれば良い。
【0063】
水素化ホウ素化合物を溶解させた還元性水溶液を用いて触媒層又はMEAを処理する場合、比表面積の大きな電極触媒により水素化ホウ素化合物が分解し、発熱とH2ガス発生が著しい。そのため、水素化ホウ素化合物の濃厚溶液で処理することは危険である。
水素化ホウ素化合物の濃度は、0.1モル/L以下が好ましく、さらに好ましくは0.01〜0.5モル/Lである。また、水素化ホウ素化合物に加えて、NaOH、KOH、NH3等のアルカリを加え、pHを10以上に調製すると、処理溶液の還元力が高まり、処理時間を短縮することができる。
【0064】
水素化ホウ素化合物を溶解させた還元性水溶液への浸漬時間は5〜30分、温度は室温〜90℃で十分である。室温では、還元反応速度が遅く、長時間を要する。90℃を超える高温では還元反応速度が速くなるものの、処理溶液の蒸発量が多くなり、プロセス制御がしづらいために、コストアップになりやすい。標準的な処理条件は、例えば、80℃で1hrである。
【0065】
[B. 酸洗工程]
還元処理後、MEA又はその構成要素の酸洗処理を行う。酸洗工程の詳細は、第1の具体例と同様であるので、説明を省略する。
なお、水素化ホウ素化合物を用いてMEA又はその構成要素を還元処理した後、酸洗を行う場合、酸洗の際に、水素化ホウ素化合物によって電解質に導入されたカチオンが100%プロトンに置き換わらなくても良い。残留したアンモニウム、ナトリウム、カリウム等のカチオンは、過酸化水素の分解触媒として働き、酸基を安定化することができるためである。
【0066】
[C. 脱脂工程]
還元剤溶液による還元処理前に、MEA又はその構成要素脱脂を行っても良い。脱脂工程の詳細は、第1の具体例と同様であるので、説明を省略する。
なお、アルカリ性の還元剤溶液(例えば、水素化ホウ素化合物の水溶液)を用いて還元処理する場合、脱脂と還元が同時に行われるので、必ずしも前もって脱脂処理をする必要はない。
【0067】
[2.2.4. 第4の具体例]
還元・酸洗工程の第4の具体例は、酸性の還元剤溶液を用いて膜電極接合体又はその構成要素の還元と同時に酸洗を行う方法である。
【0068】
[A. 還元酸洗工程]
[A.1 還元剤溶液]
還元処理に用いられる酸性の還元剤溶液としては、
(1)酸水溶液に水素ガスをバブリングさせた酸性の水素ガス飽和水溶液、
(2)ギ酸等の酸性溶液を2室あるいは3室の電解槽で電解することにより得られる水素飽和の電解カソード水、
(3)相対的に解離度の高い強酸(例えば、ギ酸など)と、キレート作用がある相対的に解離度の低い弱酸(例えば、ヒドロキシカルボン酸、アスコルビン酸、ヘテロポリ酸など)との混合物、
などがある。
酸に関するその他の点については、第1の具体例と同様であるので、説明を省略する。
【0069】
[A.2 還元酸洗条件]
還元酸洗は、可溶性鉄イオンの濃度が10ppm以下となるような条件下で行う。
還元剤溶液とMEA又はその構成要素との接触は、浸漬、スプレー、スピンコートなどの方法により行うことができる。この方法は、通電不可能な構成要素(例えば、電解質膜)に含まれるFeイオンを除去するのに有効である。
還元剤溶液が酸性の水素ガス飽和水溶液である場合、その処理温度及び処理時間は、
Fe3+イオンがFe2+イオンに十分還元される温度及び時間であれば良い。
【0070】
また、例えば、還元剤溶液に含まれる酸がギ酸とヒドロキシカルボン酸又はアスコルビン酸との混酸である場合、ギ酸とヒドロキシカルボン酸又はアスコルビン酸とのモル濃度比は、1:0.1〜1:2が好ましく、特に、1:1が好ましい。ヒドロキシカルボン酸又はアスコルビン酸の濃度が低すぎると、Fe2+イオンのキレート作用が見られない。一方、ヒドロキシカルボン酸又はアスコルビン酸の濃度が高すぎると、pHが高くなり、
Fe2+イオンの除去能力が低下する。
【0071】
また、例えば、還元剤溶液にヘテロポリ酸が含まれる場合、ヘテロポリ酸の濃度は、0.01〜10g/Lが好ましい。ヘテロポリ酸の濃度が低すぎると、十分なキレート効果が得られない。一方、ヘテロポリ酸の濃度が高すぎると、薬液コストが高くなり、すすぎに要する純水の量も増えるので、経済的ではない。また、ヘテロポリ酸は、若干の酸化触媒作用を有しているため、すすぎで除去できずに残留したヘテロポリ酸が電解質(特に、炭化水素系電解質)を酸化劣化させることがある。そのため、高濃度での洗浄は薦められない。
【0072】
還元処理の温度は40℃以上、時間は30分以上かけることが好ましい。必要に応じて、膜内部まで還元剤溶液を浸透させるために、超音波を照射しても良い。還元処理後に温純水で十分すすいで、水溶性のイオン性成分を除去することが好ましい。
【0073】
[B. 脱脂工程]
還元剤溶液による還元処理前に、MEA又はその構成要素の脱脂を行っても良い。脱脂工程の詳細は、第1の具体例と同様であるので、説明を省略する。
【0074】
[3. 固体高分子型燃料電池及びその製造方法の作用]
Fe総含有量とは、MEA若しくはその構成要素、又はこれらを灰化したものを、王水中で煮沸処理して抽出される鉄イオンの総量をいう。耐久上問題となるのは、Fe総含有量ではなく、可溶性鉄イオンの濃度である。すなわち、Fe総含有量が10ppmを超えていたとしても、Feが難溶性の鉄化合物(例えば、リン酸鉄、タングステン酸鉄、酸化鉄(Fe−Ni−Cr−O等の複合酸化物を含む)等)の形に固定されていると、これらの鉄化合物は、過酸化水素をラジカル的に分解するフェントン活性を示さず、逆に過酸化水素を鉄化合物の表面で2H22→2H2O+O2と非ラジカル的に分解(イオン分解、接触分解)する。すなわち、過酸化水素が無害化されるため、高分子の劣化は抑制される。従って、Fe総含有量とMEAの耐久性には相関がない場合がある。
【0075】
一方、可溶性Feイオンは、高いフェントン活性を示す。そのため、電解質中の可溶性Feイオン量を10ppm以下にすることができれば、燃料電池の耐久性を向上させることができる。しかしながら、鉄化合物中のFeの状態は、+2価と+3価を取ることが知られている。また、鉄化合物の中でもFe3+イオン化合物は、難溶性であり、酸洗浄のみで除去するのは難しい。
これに対し、酸洗浄の前又は酸洗浄と同時に還元処理を行うと、難溶性のFe3+イオンが可溶性のFe2+イオンとなる。そのため、酸洗浄によって容易に除去することができ、可溶性鉄イオン量を容易に10ppm以下にすることができる。
【0076】
図1に、パーフルオロ系電解質膜と炭化水素系電解質膜を種々の濃度の硫酸鉄(Fe2+)水溶液に80℃×8hr浸漬し、Fe2+をイオン交換した後に過酸化水素蒸気暴露試験(3wt%H22、120℃×5hr)を行った場合の膜重量変化を示す。図1からわかるように、炭化水素系電解質膜の過酸化水素蒸気耐性はFe濃度に大きく依存し、しかもパーフルオロ系電解質膜に見られる過剰の鉄イオンによる劣化抑制作用が見られない。これは、パーフルオロ系電解質膜に比べて、炭化水素系電解質膜は、基本骨格が脆弱なため、・OHラジカルがFe2+イオンによってOH-イオンへ還元される前に、フェントン反応により生成した・OHラジカルによって膜が劣化してしまうことを示している。
すなわち、炭化水素系電解質膜においては、パーフルオロ系電解質膜以上に可溶性鉄イオンの量を制限する必要がある。従って、還元処理と酸洗浄の組み合わせによって、徹底的に可溶性鉄イオンを除去することは、特に炭化水素系電解質に対して効果がある。
【実施例】
【0077】
(実施例1〜3、比較例1〜3)
[1. 試料の作製]
大きさ60mm×60mm、厚さ50μmのフッ素系電解質膜1枚を、PP(ポリプロピレン)製容器に入れた0.05M/Lの濃度のNaBH4水溶液120mLに浸漬し、80℃×2hr攪拌処理した。その後、十分水洗した。
次に、PP製容器に入れた0.1M/Lの濃度のギ酸水溶液120mLに膜を浸漬し、80℃×8hr処理し、膜をH体に戻した。
さらに、PP製容器に入れた超純水120mLに膜を浸漬して80℃×2hrのすすぎを4回繰り返し、余剰のギ酸を除いた(実施例1)。
【0078】
また、別に同上の大きさの膜1枚を、0.1M/L濃度のギ酸と0.1M/Lの濃度のアスコルビン酸とを溶かした120mLの水溶液で80℃×8hr処理し、膜から鉄イオンを還元処理しながら酸洗浄して除いた。
その後、PP製容器に入れた超純水120mLに膜を浸漬して80℃×2hrのすすぎを4回繰り返し、余剰のギ酸イオンとアスコルビン酸イオンを除いた(実施例2)。
【0079】
同上の膜を、PP製容器に入れた0.05M/Lの濃度のNaBH4水溶液120mLに浸漬し、80℃×2hr攪拌処理した。その後、十分水洗した。
次に、PP製容器に入れた0.1M/Lの濃度の硫酸水溶液120mLに膜を浸漬し、80℃×8hr処理し、膜をH体に戻した。
さらに、PP製容器に入れた超純水120mLに膜を浸漬して80℃×2hrのすすぎを4回繰り返し、余剰の硫酸を除いた(実施例3)。
【0080】
比較として、入手のままの膜(比較例1)、還元処理を行わずにギ酸だけで洗浄した膜(比較例2)、及び硫酸だけで洗浄した膜(比較例3)を用意した。
【0081】
[2. 試験方法]
[2.1. ドライフェントン試験]
これらの膜に対して過酸化水素水蒸気の暴露試験を120℃×5hrの条件で行った。
まず、試験前の膜について80℃×2hrの真空乾燥処理を行い、膜重量W1を求めた。
次に、1wt%の過酸化水素水を0.12mL/minの速さで120℃に加熱したPTFE製の蒸発器に滴下し、全量を気化させた。これにN2を0.3L/min加えて希釈した。本条件で、120℃における相対湿度は、約31%と計算された。試験膜は、PTFE製の網に固定し、120℃に加熱したPTFE製の内筒内に置いた。
暴露試験後、80℃×2hrの真空乾燥処理を行い、膜重量W2を求めた。さらに、膜重量W1、W2から、重量変化ΔW(=(W1−W2)/W1×100)を算出した。
【0082】
試料を通過した過酸化水素蒸気を、PE(ポリエチレン)製容器(周りを氷冷却)に入れた超純水100mLにバブリングして回収した。その回収水中に検出されたF-の量をオリオン社製のイオン選択性電極で計測し、試験膜面積と試験時間から単位時間、単位面積当たりのF-排出速度FRR(μg/cm2/hr)を求めた。
回収水(約120mL)の導電率を簡易導電率計((株)堀場製作所製;Twin cond B-173)で計測した。また、回収水のpHをpHメータ((株)堀場製作所製;F−7、緩衝溶液pH4.0とpH2.0で更正)で調べた。
【0083】
[2.2. 可溶性鉄イオン量及び鉄総含有量]
還元・酸洗処理後の膜を1+10HCl溶液に浸漬し、可溶性鉄イオンを抽出した。また、比較例1の膜及び実施例3の膜については、可溶性鉄イオン抽出後の膜を王水20mLに入れ、100℃×2hrの抽出処理を行った。試験後の溶液のICP分析を行い、溶液中に抽出されたFeイオン量を測定した。
【0084】
[3. 結果]
表1に、結果を示す。実施例1〜3は、いずれも回収水の導電率が未処理膜(比較例1)や還元処理を行わずに酸洗浄のみの膜(比較例2、3)よりも小さく、膜劣化の程度(イオン成分の排出)が小さい。また、実施例1〜3では、pHが比較例より高く、かつF-排出速度(FRR)も比較例よりも小さく、フッ化水素酸の生成が抑制されていた。
【0085】
実施例1〜3では、可溶性鉄イオンの量は、いずれも10ppm以下であった。一方、比較例1の膜及び実施例3の膜について、王水による抽出処理を行ったところ、それぞれ25ppm及び28ppmの難溶性鉄分を検出した。すなわち、鉄総含有量は、比較例1で45ppm、実施例3で31ppmであった。総鉄含有量は、いずれも100ppm以下で大差ないにもかかわらず、過酸化水素耐性に大きな差が生じた。
なお、可溶性鉄イオンの分析と同時にNaの分析を行ったところ、比較例1では20ppm、実施例3では690ppmであった。
【0086】
【表1】

【0087】
(実施例4〜6、比較例4〜6)
[1. 試料の作製]
大きさ60mm×60mm、厚さ10μmの炭化水素系電解質膜1枚を、PP製容器に入れた0.05M ジメチルアミンボラン(DMAB)水溶液120mLに浸漬し、80℃×1hr攪拌処理した。その後、十分水洗した。
次に、PP製容器に入れた0.1M ギ酸水溶液120mLに膜を浸漬し、80℃×8hr処理し、膜をH体に戻した。さらに、80℃×2hrのすすぎを4回繰り返し、余剰のイオンを除いた(実施例1)。
【0088】
また、ジメチルアミンボランに代えて、
(1)NaBH4 0.05M処理+ギ酸洗浄+すすぎを行った膜(実施例5)、
(2)NaBH4還元処理+リンタングステン酸(HPA)1g/L溶液120mLでの洗浄+すすぎを行った膜(実施例6)、
(3)入手のままの膜(比較例4)、
(4)0.1M硫酸洗浄+すすぎを行った膜(比較例5)、及び
(5)0.1Mギ酸洗浄+すすぎを行った膜(比較例6)、
を用意した。
【0089】
[2. 試験方法]
実施例1〜3と同一条件下で、ドライフェントン試験及び可溶性鉄イオン量の測定を行った。また、ドライフェントン試験後の膜形状を目視で評価した。膜形状が良好で割れが生じていないものを「○」、割れが生じたものを「×」とした。
【0090】
[3. 結果]
表2に、その結果を示す。未処理膜(比較例4)は、ドライフェントン試験後、真空乾燥した時に割れが生じた。一方、酸洗処理のみの膜(比較例5、6)及び還元処理+酸洗処理を行った膜(実施例4〜6)は、いずれも割れが生じなかった。さらに、実施例4〜6では、いずれも可溶性鉄イオン量は10ppm以下であった。
なお、1+10HCl抽出におけるICP分析でNaを分析した結果、比較例4では80ppmであった。一方、実施例4、5、6では、Naは、それぞれ、330ppm、580ppm、870ppm存在していた。さらに、実施例6の膜を王水で抽出し、Wを分析した結果、0.24wt%のWが膜内に残留していた。
【0091】
【表2】

【0092】
(実施例7、比較例7〜8)
[1. 試料の作製]
実施例1、比較例1及び比較例2と同様の処理をしたフッ素系電解質膜を用意し、両面に触媒層を形成した。触媒Ptの担持量は、空気極:0.5mg/cm2、燃料極:0.3mg/cm2とし、面圧:0.2MPa、120℃×10分のホットプレスを行った(実施例7及び比較例7〜8)。
【0093】
[2. 試験方法]
得られたMEAを用いて開回路試験を行った。試験条件は、アノードガス:H2(100mL/min)、カソードガス:Air(100mL/min)、セル温度:80℃、加湿器温度:60℃(アノード側、カソード側ともに)とした。
[3. 結果]
実施例1の膜を用いたMEA(実施例7)の場合、300hr後の電圧は、0.92Vであった。一方、比較例1又は比較例2の膜を用いたMEA(比較例7、8)の場合、300hr後の電圧は、それぞれ、0.82V及び0.90Vであった。
【0094】
(実施例8〜9、比較例9〜10)
[1. 試料の作製]
実施例4、実施例6、比較例4及び比較例6と同様の処理をした炭化水素系電解質膜を用意し、両面に触媒層を形成した。触媒Ptの担持量は、空気極:0.5mg/cm2、燃料極:0.3mg/cm2とし、面圧:0.2MPa、120℃×10分のホットプレスを行った(実施例8〜9、及び比較例9〜10)。
【0095】
[2. 試験方法]
得られたMEAを用いて開回路試験を行った。試験条件は、実施例7と同一とした。
[3. 結果]
実施例4又は実施例6の膜を用いたMEA(実施例8、9)の場合、144hr後の電圧は、それぞれ、0.89V及び0.90Vであった。一方、比較例4又は比較例6の膜を用いたMEA(比較例9、10)の場合、144hr後の電圧は、それぞれ、0.83V及び0.85Vであった。
【0096】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の改変が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0097】
本発明に係る固体高分子型燃料電池は、車載用動力源、定置型小型発電器、コジェネレーションシステム等に適用することができる。
また、可溶性鉄イオン量の少ない固体高分子電解質の用途は、固体高分子型燃料電池の電解質膜あるいは触媒層内電解質に限定されるものではなく、水電解装置、ハロゲン化水素酸電解装置、食塩電解装置、酸素及び/又は水素濃縮器、湿度センサ、ガスセンサ等の各種電気化学デバイスに用いられる電解質膜、電極材料等としても用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質膜の両面に電極が接合された膜電極接合体を備え、
前記膜電極接合体は、可溶性鉄イオンの量が電解質重量当たり10ppm以下である
固体高分子型燃料電池。
【請求項2】
前記電解質膜及び前記電極に含まれる触媒層内電解質の少なくとも一方は、炭化水素系電解質である請求項1に記載の固体高分子型燃料電池。
【請求項3】
膜電極接合体又はその構成要素の還元処理及び酸洗処理を、この順で又は同時に行い、前記膜電極接合体に含まれる可溶性鉄イオンの量を電解質重量当たり10ppm以下にする還元・酸洗工程を備えた固体高分子型燃料電池の製造方法。
【請求項4】
前記還元・酸洗工程は、
前記膜電極接合体又はその構成要素を気相中で還元する還元工程と、
前記膜電極接合体又はその構成要素を酸洗する酸洗工程と
を備えている請求項3に記載の固体高分子型燃料電池の製造方法。
【請求項5】
前記還元工程は、前記膜電極接合体又はその構成要素を水素ガス雰囲気下において、120℃以下の温度で熱処理するものである請求項4に記載の固体高分子型燃料電池の製造方法。
【請求項6】
前記還元・酸洗工程は、
前記膜電極接合体又は電子伝導性がある前記膜電極接合体の構成要素を酸水溶液中に浸漬し、前記膜電極接合体又は前記構成要素を水素発生電位よりも卑な電位に保ち、水素を発生させながら通電するものである請求項3に記載の固体高分子型燃料電池の製造方法。
【請求項7】
前記還元・酸洗工程は、
前記膜電極接合体又はその構成要素を液相中で還元する還元工程と、
前記膜電極接合体又はその構成要素を酸洗する酸洗工程と、
を備えている請求項3に記載の固体高分子型燃料電池の製造方法。
【請求項8】
前記還元工程は、水素化ホウ素化合物を含む還元性溶液を用いて前記膜電極接合体又はその構成要素を還元するものであり、
前記酸洗工程は、硫酸、ギ酸、又はヘテロポリ酸を含む酸水溶液を用いて前記膜電極接合体又はその構成要素を酸洗するものである
請求項7に記載の固体高分子型燃料電池の製造方法。
【請求項9】
前記還元・酸洗工程は、酸性の還元剤溶液を用いて前記膜電極接合体又はその構成要素の還元と同時に酸洗を行うものである
請求項3に記載の固体高分子型燃料電池の製造方法。
【請求項10】
前記還元剤溶液は、ギ酸とヒドロキシカルボン酸との混合物、ギ酸とアスコルビン酸との混合物、又は、ギ酸とヘテロポリ酸との混合物を含む
請求項9に記載の固体高分子型燃料電池の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−34738(P2011−34738A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−178474(P2009−178474)
【出願日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】