説明

固体高分子形燃料電池

【課題】電池特性を低下させることなく、反応生成水を効率よく排水できる固体高分子形燃料電池を提供すること。
【解決手段】固体高分子電解質膜と、前記固体高分子電解質膜の両面に配置した電極触媒層と、前記電極触媒層の外側にそれぞれ配置した多孔質ガス拡散層とで構成される膜電極接合体を、前記多孔質ガス拡散層に接する面にガス流路が成形された一対のセパレータで挟持してなる固体高分子形燃料電池において、
カソード側多孔質ガス拡散層のセパレータと接する面のガス流路に対応する少なくとも一部に親水性領域が形成され、残りの部分に撥水性領域が形成されており、前記親水性領域が、セパレータ側から電極触媒層側に向かって狭くなることを特徴とする固体高分子形燃料電池である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体高分子形燃料電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、環境問題に関する意識の高まりからエネルギー効率が高く、汚染物質の排出が少ないクリーンな発電システムが要求され、そのシステムの一つとして燃料電池が注目されている。燃料電池には、使用される電解質の種類によって、リン酸形、溶融炭酸塩形、固体電解質形、固体高分子形などに分類さているが、中でも発電温度が比較的低く、起動停止が容易に行え、コンパクトなシステムを構築できる点で優位な固体高分子形燃料電池システムの研究開発が盛んに進められている。
【0003】
固体高分子形燃料電池内における反応を効率よく継続的に行うには、イオン伝導抵抗を低下させることと、両電極の触媒層にガスを連続的に供給することが重要である。イオン伝導抵抗を低下させるには固体高分子電解質膜を常に水で湿潤状態にしておけばよい。一方、カソード電極で生成した水が触媒層の表面に滞留して多孔質ガス拡散層内部の空孔部が水で閉塞されると、ガスと触媒層との接触が妨げられるので、生成した水は連続的に排出する必要がある。多孔質ガス拡散層中の空孔部が水で閉塞することを回避するために、フッ素系樹脂などを用いて電極材料を撥水化することが広く行われている。特に、多孔質ガス拡散層は、ガス流路から供給されたガスを触媒層に到達させる供給経路であり、一般的に撥水化されている。しかしながら、このような撥水化を行うと多孔質ガス拡散層中に水が滞留することは回避できるが、触媒層表面の水が多孔質ガス拡散層へ移動することを妨げ、触媒層表面に水が滞留し触媒層にガスを連続的に供給することが困難になる。
【0004】
上述したように、固体高分子形燃料電池においては、固体高分子電解質膜が水分を多く含んでいるほどイオン伝導抵抗が低下して性能が向上する。そのため、ガスをあらかじめ外部加湿器で加湿して供給し、固体高分子電解質膜を湿潤状態に保持することが行われている。ガスを加湿するために液体の水を気化させると、蒸発潜熱をエネルギーとして消費する。従って固体高分子形燃料電池の性能を向上させることを目的として、加湿の度合を高くすればするほど消費エネルギーが大きくなり、また、加湿器本体や加湿器から固体高分子形燃料電池までのガス配管での放熱による熱損失も増大してしまうという問題があった。このような課題を抜本的に解決するには、より低いガス加湿量で固体高分子形燃料電池を運転する必要がある。しかし、通常の構成の固体高分子形燃料電池を低加湿領域で運転すると、固体高分子電解質膜の含水量が低下して性能が大幅に低下する。低加湿領域で固体高分子形燃料電池を運転するには固体高分子電解質膜を湿潤に保つ工夫が必要になる。その方法としては、以下のような技術が公知になっている。
【0005】
特許文献1には、セル面内に格子状の親水化領域と撥水化領域を分布させて、生成した液体の水を効率的に排水し、かつガス流路からのガスの拡散経路を確保する技術が開示されている。
特許文献2は、カソード側に関するもので、相対湿度の低いガス入口付近のガス拡散層を親水化し、反応生成水が蓄積するガス出口付近を撥水化するという分布形態が記述されている。特に、親水化については、ガス流路側と触媒層側とを貫通する親水ポア領域の形成技術が示されている。
特許文献3には、ガス拡散層厚み方向の中央部を親水化とし、その両側を撥水化する技術が開示されている。
特許文献4には、シリカ、アルミナ等の親水性酸化物をガス拡散層に薄くコーティングする親水化技術が開示されている。
【0006】
【特許文献1】特開平6−103983号公報
【特許文献2】特開2007−323874号公報
【特許文献3】特開2002−298859号公報
【特許文献4】特開2004−31325号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来のガス拡散層部分親水化技術では、撥水性領域と親水性領域を、セル平面において入口と出口で分布させている。また、ガス流路形状に沿ったパターンで分布させるなど、比較的大きな分布パターンである。この場合、2つの問題が生じる。1つは電極触媒利用率の低下である。ガス拡散層内に存在する親水性領域は、凝縮した液体の水を排出するためのものであるが、一方でガス拡散の障壁となり、物質移動律速のためセル面内に発電に寄与しない触媒領域が発生する。また、撥水性領域及び親水性領域の形成後にセル面内に触媒層及び導電性集電多孔層を形成した場合、表面の凹凸が原因で固体高分子電解質膜との接合界面に未接触部位が形成されるという課題がある。
従って、本発明は、上記のような実情に鑑みてなされたものであり、電池特性を低下させることなく、反応生成水を効率よく排水できる固体高分子形燃料電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そこで、本発明者らは、上記のような課題を解決すべく、多孔質ガス拡散層内において、フラッディングを防ぐために反応生成水をガス流路側へ移動させる親水パス部分と、水素などの燃料及び空気などの酸化剤ガスを電極触媒層へ迅速に移動させる撥水部分とをどのように配置すべきか検討した。まず、本発明者らは、電極触媒層近傍は、電極反応熱によって周辺より相対的に高温になるため、水分の多くは水蒸気として排出され、水を排出するための親水パスは殆ど必要ないと考え、生成水が発生する電極触媒層付近の多孔質ガス拡散層内は撥水性領域の割合を多くし、ガス拡散性を優先した。一方、水蒸気は高温の電極触媒層から離れ、相対的に温度の低い酸化剤ガスや燃料ガスの流れと接触する多孔質ガス拡散層内で凝縮して液体の水に戻るので、多孔質ガス拡散層内部の凝縮開始領域の親水性領域の割合を多くし、排水の効率を向上させた。
即ち、本発明は、固体高分子電解質膜と、前記固体高分子電解質膜の両面に配置した電極触媒層と、前記電極触媒層の外側にそれぞれ配置した多孔質ガス拡散層とで構成される膜電極接合体を、前記多孔質ガス拡散層に接する面にガス流路が成形された一対のセパレータで挟持してなる固体高分子形燃料電池において、カソード側多孔質ガス拡散層のセパレータと接する面のガス流路に対応する少なくとも一部に親水性領域が形成され、残りの部分に撥水性領域が形成されており、前記親水性領域が、セパレータ側から電極触媒層側に向かって狭くなることを特徴とする固体高分子形燃料電池である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、電池特性を低下させることなく、反応生成水を効率よく排水できる固体高分子形燃料電池を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1に係る固体高分子形燃料電池を説明するための模式断面図であり、図2は、実施の形態1に係る固体高分子形燃料電池のカソード側を拡大して示す模式断面図である。
図1において、実施の形態1に係る固体高分子形燃料電池1は、プロトン伝導性の固体高分子電解質膜2と、固体高分子電解質膜2の両面に配置されたアノード電極3及びカソード電極4と、両電極にガスを供給するためのガス流路5a,5bが形成されたセパレータ6a,6bとを備えている。アノード電極3は、固体高分子電解質膜2と接するアノード電極触媒層7と、ガス流路5aから供給されたガスをアノード電極触媒層7に拡散するアノード側多孔質ガス拡散層8と、アノード側導電性集電多孔層9とからなる。同様に、カソード電極4は、固体高分子電解質膜2と接するカソード電極触媒層10と、ガス流路5bから供給されたガスをカソード電極触媒層10に拡散するカソード側多孔質ガス拡散層11と、カソード側導電性集電多孔層12とからなる。なお、ガス流路5a,5bは、セパレータ6a,6bにそれぞれ凹部を複数箇所設けることにより形成されている。固体高分子形燃料電池1では、図2に示されるように、カソード側多孔質ガス拡散層11のセパレータ6bと接する面のガス流路5bに対応する少なくとも一部に親水性領域13が形成され、残りの部分に撥水性領域14が形成されている。更に、親水性領域13は、セパレータ6b側からカソード電極触媒層10側に向かって狭くなるように形成されている。
この親水性領域13は、反応生成水をより効率よく排水するため、カソード側多孔質ガス拡散層11のセパレータ6bと接する面において1%以上22%以下の面積割合で形成されていることが好ましい。親水性領域13の面積割合が22%を超えると、親水部の水分がガス透過性を阻害して、性能が低下する場合がある。一方、親水性領域13の面積割合が1%未満であると、効果が低下する場合がある。
また、親水性領域13は、カソード側多孔質ガス拡散層のセパレータと接する面において、例えば、海島状、格子状或いは帯状に形成してもよいし、撥水性領域14は、例えば、水玉状或いは格子状に形成してもよい。
また、先に述べたように、カソード電極触媒層10近傍では水分の多くが水蒸気として排出されるので、カソード側多孔質ガス拡散層11のカソード電極触媒層10と接する面には、親水性領域13を殆ど形成しなくてもよい。カソード側多孔質ガス拡散層11のカソード側導電性集電多孔層12と接する面において、9.0%以下の面積割合で形成されていることが好ましい。
【0011】
このように構成された固体高分子形燃料電池1は、アノード電極3に燃料ガス(例えば、水素ガス)を供給すると共に、カソード電極4に酸化剤(例えば、空気又は酸素ガス)を供給し、両電極を外部回路で接続することにより、燃料電池として作動することが可能となる。具体的には、まず、セパレータ6aに形成されたガス流路5aから、アノード電極3に例えば水素ガスが供給される。続いて、水素ガスはアノード側多孔質ガス拡散層8を通過することによりアノード電極触媒層7に向かって拡散していく。アノード電極触媒層7に達した水素ガスは、触媒による酸化反応によりプロトンと電子を発生する。このプロトンは、固体高分子電解質膜2を通過してカソード電極4に移動する。一方、電子は、外部回路を通ってカソード電極4に到達する。カソード電極4では、固体高分子電解質膜2中を通過してきたプロトン、外部回路から送られてきた電子及びセパレータ6bに形成されたガス流路5bからカソード側多孔質ガス拡散層11を介して供給される例えば酸素ガスが、カソード電極触媒層10により反応し、水に変換される。その際、電極間に発生する起電力として電気エネルギーを取り出すことが可能となる。
【0012】
次に、親水性領域13と撥水性領域14とが形成されたカソード側多孔質ガス拡散層11の作製方法について説明する。
カソード側多孔質ガス拡散層11は、多孔質ガス拡散層基材に撥水処理を行った後、親水化処理を行うか、あるいは親水化処理を行った後、撥水処理を行う二段階処理法で作製することができる。
【0013】
撥水性領域14を形成する方法としては、所定の模様(方形、格子、水玉、縞状等)が設けられたスクリーン印刷版又はロータリー印刷版を用いて撥水剤をカーボンペーパー、有機繊維を織って炭化したカーボンクロス等の多孔質ガス拡散層基材に塗布するか、あるいは、インクジェット法で所定の模様に撥水剤を塗布すればよい。スクリーン印刷又はロータリー印刷の場合、撥水剤としては、例えば、PTFEディスパージョン(旭硝子株式会社製 AD911L 固形分濃度60%)10質量%、アクリル増粘剤(大日本インキ化学工業株式会社製 ボンコート(登録商標)HV−E 固形分濃度31%)1質量%及び蒸留水89質量%を含むものを使用することができる。この撥水剤の粘度は、10Pa・s以上200Pa・s以下であることが好ましく、10Pa・s以上50Pa・s以下であることが更に好ましい。撥水剤の粘度が10Pa・s未満であると、撥水剤が裏漏れしてしまい、所定の領域に所定の量を付与することができない場合があり、また、200Pa・sを超えると、基材の極表面近傍にのみ撥水剤が付与されて、片面のみの付与になってしまい、3次元的に撥水パスを形成することができない場合がある。撥水剤の粘度は、増粘剤(アクリル樹脂系、多糖類系など)を添加することにより調整可能である。インクジェット法の場合は、撥水剤として、撥水性樹脂の水分散液あるいは撥水性樹脂溶液(水、有機溶媒)を使用することができる。
次いで、撥水剤が塗布された多孔質ガス拡散層基材を必要に応じて乾燥させ、焼成して増粘剤を除去し、撥水性樹脂を定着させる。撥水性樹脂としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、フッ素化エチレンプロピレン(FEP)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)等のフッ素系樹脂が挙げられる。
【0014】
親水性領域13を形成する方法としては、多孔質ガス拡散層基材の内部まで親水化できる方法であれば特に制限されず、公知の各種方法を採用することができる。中でも、多孔質ガス拡散層基材の内部まで十分に親水化することができ、長期間にわたって親水性を維持することができるものとして、六フッ化チタン酸アンモニウムを含む水溶液に多孔質ガス拡散層基材を浸漬して酸化チタンを親水性となるべき領域に析出させる方法が好ましい。また、酸化チタンは、チタンアルコキシド、チタンキレートを加水分解し、熱処理することで得ることも可能である。また、酸化チタンに限らず、酸化アルミニウムや二酸化珪素等の金属酸化物を析出させる方法も好ましい。なお、プラズマ処理、コロナ処理、陽極酸化処理により炭素含有基材の表面に親水基を形成する方法が知られているが、この方法は多孔質ガス拡散層基材の内部まで十分に親水化することができないという欠点があるので好ましくない。
【0015】
なお、電極触媒層及び導電性集電多孔層は、当該技術分野で公知の方法により形成することができる。
【0016】
本実施の形態1では、カソード側多孔質ガス拡散層11のセパレータ6bと接する面のガス流路5bに対応する少なくとも一部に親水性領域13が形成され、残りの部分に撥水性領域14が形成されており、親水性領域13が、セパレータ6b側からカソード電極触媒層10側に向かって狭くなるように構成したので、電池特性を低下させることなく、反応生成水を効率よく排水することができる。
【実施例】
【0017】
以下、本発明を実施例及び比較例により具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
<実施例1>
(多孔質ガス拡散層の作製)
カーボンペーパー(東レ株式会社製TGP−H―090)上に、増粘剤で粘度を調整したPTFE10質量%懸濁液(粘度100Pa・s)を海−島(四角)模様のスクリーンを用いてスクリーン印刷した。その後、350℃で5分間焼成し、カーボン繊維表面を撥水化した。このカーボンペーパーを、0.1モル/Lの六フッ化チタン酸アンモニウム及び0.2モル/Lのホウ酸を含む水溶液に浸漬し、常温で24時間保持した後、カーボンペーパーを取り出して乾燥させ、多孔質ガス拡散層を得た。得られた多孔質ガス拡散層は、図3に示されるように、PTFE懸濁液をスクリーン印刷したカーボンペーパー表面に、PTFEを含む撥水性領域14が海状に形成され、酸化チタンを含む親水性領域13が四角い島状に形成されていた(面積割合9.0%)。一方、PTFE懸濁液をスクリーン印刷していない面には(反対面)、面積で7.2%の親水性領域13が形成されていた(あるいは、92.8%の撥水性領域14が形成された)。
【0018】
(触媒層の形成)
カソード触媒としては、アセチレンブラック上に白金を50質量%担持したもの、アノード触媒としては、アセチレンブラック上に白金−ルテニウム系金属を50質量%担持したものを用いた。それぞれの触媒粒子1質量部に対して、パーフルオロスルホン酸系高分子電解質9質量%溶液を5質量部及び水1質量部を添加し、撹拌混合して均一な状態の触媒ぺーストを得た。これらの触媒ペーストを厚さ25μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム上にそれぞれスクリーン印刷した後、乾燥した。これらの触媒層付フィルムで固体高分子電解質膜(旭化成ケミカルズ株式会社製アシプレックス(登録商標))を挟み、150℃で2分間ホットプレスしてPETフィルムを除去することで固体高分子電解質膜上にアノード電極触媒層及びカソード電極触媒層を形成した。触媒層は縦横50mmの正方形状に形成した。
【0019】
(導電性集電多孔層の形成)
カーボンブラック粉末にPTFE分散液を加えて混練したものを、先に作製した多孔質ガス拡散層の触媒層形成面にスクリーン印刷によって塗布し、110℃で乾燥した後、350℃で焼成して、導電性集電多孔層が形成された多孔質ガス拡散層を得た。
【0020】
(単セルの組み立て及び運転結果)
上記のように作製された多孔質ガス拡散層と両面に触媒層を形成した固体高分子電解質膜を重ねあわせ、固体高分子電解質膜のガラス転移温度付近の温度でホットプレスし、燃料側多孔質ガス拡散層及び空気側多孔質ガス拡散層を触媒層付固体高分子電解質膜と熱融着した。それぞれの両側に、ガス流路が形成されたカーボン製セパレータを配置し、固体高分子形燃料電池を組み立てた。有効電極面積は25cm2とし、組み立てた単セルを75℃までロッドヒータで20℃/時間で加温した。燃料側にガス加湿のためバブラーを通して水素を供給し、酸化剤ガス側はバブラーを通した空気を供給した。電流密度は0.25A/cm2(6.25A)になるように定電流で発電した。固体高分子電解質膜及び電極触媒層の安定化のため、発電開始から24時間後に燃料ガスを水素からメタン改質ガスを想定した一酸化炭素10ppm含む水素、二酸化炭素混合ガスに切り替えて電池特性を評価した。
【0021】
<実施例2>
カーボンペーパー(東レ株式会社製TGP−H―090)上に、増粘剤で粘度を調整したPTFE10質量%懸濁液(粘度100Pa・s)を格子模様のスクリーンを用いてスクリーン印刷した。その後、350℃で5分間焼成し、カーボン繊維表面を撥水化した。このカーボンペーパーを、0.1モル/Lの六フッ化チタン酸アンモニウム及び0.2モル/Lのホウ酸を含む水溶液に浸漬し、常温で24時間保持した後、カーボンペーパーを取り出して乾燥させ、多孔質ガス拡散層を得た。得られた多孔質ガス拡散層は、図4に示されるように、PTFE懸濁液をスクリーン印刷したカーボンペーパー表面に、酸化チタンを含む親水性領域13が四角い島状に形成されていた(面積割合5.6%)。一方、PTFE懸濁液をスクリーン印刷していない面(反対面)には、面積で4.5%の親水性領域13が形成された(あるいは95.5%の撥水性領域14が形成されていた)。このようにして得られた多孔質ガス拡散層を用いる以外は実施例1と同様にして単セルを組み立て、電池特性を評価した。
【0022】
<実施例3>
カーボンペーパー(東レ株式会社製TGP−H―090)を、0.1モル/Lの六フッ化チタン酸アンモニウム及び0.2モル/Lのホウ酸を含む水溶液に浸漬し、常温で24時間保持した後、カーボンペーパーを取り出して乾燥させた。このカーボンペーパー上に、増粘剤で粘度を調整したPTFE10質量%懸濁液(粘度100Pa・s)を水玉模様のスクリーンを用いてスクリーン印刷した。その後、350℃で5分間焼成し、カーボン繊維表面を撥水化して、多孔質ガス拡散層を得た。得られた多孔質ガス拡散層は、図5に示されるように、PTFE懸濁液をスクリーン印刷したカーボンペーパー表面に、PTFEを含む撥水性領域14が水玉状に形成され、酸化チタンを含む親水性領域13が撥水性領域を取り囲むように形成させた(面積割合21.5%)。一方、PTFE懸濁液をスクリーン印刷していない面(反対面)には、面積で18%の親水性領域13が形成されていた(あるいは82.0%の撥水性領域14が形成されていた)。このようにして得られた多孔質ガス拡散層を用いる以外は実施例1と同様にして単セルを組み立て、電池特性を評価した。
【0023】
<実施例4>
カーボンペーパー(東レ株式会社製TGP−H―090)を、0.1モル/Lの六フッ化チタン酸アンモニウム及び0.2モル/Lのホウ酸を含む水溶液に浸漬し、常温で24時間保持した後、カーボンペーパーを取り出して乾燥させた。このカーボンペーパー上に、増粘剤で粘度を調整したPTFE10質量%懸濁液(粘度100Pa・s)を0.5mm幅と4mm幅の縞模様のスクリーンを用いてスクリーン印刷した。得られた多孔質ガス拡散層は、図6に示されるように、PTFE懸濁液をスクリーン印刷したカーボンペーパー表面に、酸化チタンを含む親水性領域13が四角い島状に形成されていた(面積割合8.0%)。一方、PTFE懸濁液をスクリーン印刷していない面(反対面)には、面積で6.5%の親水性領域13が形成されていた(あるいは、93.5%の撥水性領木14が形成されていた)。このようにして得られた多孔質ガス拡散層を用いる以外は実施例1と同様にして単セルを組み立て、電池特性を評価した。
【0024】
<比較例1>
カーボンペーパー(東レ株式会社製TGP−H―090)をPTFE10質量%懸濁液に浸漬して、ゴムマングルで余剰分を取り除き、105℃で乾燥して、その後、350℃で5分間焼成を行い、多孔質ガス拡散層を得た。なお、焼成後のPTFE量は、カーボンペーパーに対して10質量%であった。このようにして得られた多孔質ガス拡散層を用いる以外は実施例1と同様にして単セルを組み立て、電池特性を評価した。
【0025】
<比較例2>
カーボンペーパー(東レ株式会社製TGP−H―090)を、0.1モル/Lの六フッ化チタン酸アンモニウム及び0.2モル/Lのホウ酸を含む水溶液に浸漬し、脱泡後に常温で24時間保持した後、カーボンペーパーを取り出して乾燥させ、多孔質ガス拡散層を得た。このようにして得られた多孔質ガス拡散層を用いる以外は実施例1と同様にして単セルを組み立て、電池特性を評価した。
【0026】
比較例1の単セルでは、加湿露点75℃の飽和加湿条件において0.70Vの電圧特性が得られた。しかし、比較例2では加湿露点75℃の飽和加湿条件ではフラッディングにより、ほとんど特性がとれなかった。これは、多孔質ガス拡散層全域が親水化されており、生成水がガス拡散の障壁になっているためである。一方、実施例1では飽和加湿条件において0.72Vの電圧特性を示し、実施例2でも0.73Vの特性が得られ、均一な撥水化ガス拡散層の比較例1より高い電圧特性を得た。
【0027】
また、セル温度に比べて加湿露点温度の低い低加湿運転において、比較例1の単セルは、電解質膜の乾燥に伴う電解質膜抵抗の経時的上昇が進行して電圧特性が低下したが、実施例3の単セルでは、加湿露点がセル温度より10℃低い低加湿条件においても0.70Vの特性が得られ、同加湿条件における比較例1の電圧特性0.65Vより高い特性を示した。さらに、実施例4の単セルでは、0.69Vの高い特性が得られ、実施例3と同等の低加湿特性を得ることができた。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】実施の形態1による固体高分子形燃料電池を説明するための断面模式図である。
【図2】実施の形態1に係る固体高分子形燃料電池のカソード側を拡大して示す模式断面図である。
【図3】実施例1で作製した多孔質ガス拡散層のガス流路に接する側の平面模式図である。
【図4】実施例2で作製した多孔質ガス拡散層のガス流路に接する側の平面模式図である。
【図5】実施例3で作製した多孔質ガス拡散層のガス流路に接する側の平面模式図である。
【図6】実施例4で作製した多孔質ガス拡散層のガス流路に接する側の平面模式図である。
【符号の説明】
【0029】
1 固体高分子形燃料電池、2 固体高分子電解質膜、3 アノード電極、4 カソード電極、5a,5b ガス流路、6a,6b セパレータ、7 アノード電極触媒層、8 アノード側多孔質ガス拡散層、9 アノード側導電性集電多孔層、10 カソード電極触媒層、11 カソード側多孔質ガス拡散層、12 カソード側導電性集電多孔層、13 親水性領域、14 撥水性領域。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体高分子電解質膜と、前記固体高分子電解質膜の両面に配置した電極触媒層と、前記電極触媒層の外側にそれぞれ配置した多孔質ガス拡散層とで構成される膜電極接合体を、前記多孔質ガス拡散層に接する面にガス流路が成形された一対のセパレータで挟持してなる固体高分子形燃料電池において、
カソード側多孔質ガス拡散層のセパレータと接する面のガス流路に対応する少なくとも一部に親水性領域が形成され、残りの部分に撥水性領域が形成されており、前記親水性領域が、セパレータ側から電極触媒層側に向かって狭くなることを特徴とする固体高分子形燃料電池。
【請求項2】
前記カソード側多孔質ガス拡散層のセパレータと接する面において、前記親水性領域が1%以上22%以下の面積割合で形成されていることを特徴とする請求項1に記載の固体高分子形燃料電池。
【請求項3】
前記カソード側多孔質ガス拡散層のセパレータと接する面において、前記親水性領域が、海島状、格子状又は帯状に形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の固体高分子形燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−61966(P2010−61966A)
【公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−225926(P2008−225926)
【出願日】平成20年9月3日(2008.9.3)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【出願人】(000107907)セーレン株式会社 (462)
【出願人】(390013815)学校法人金井学園 (20)
【Fターム(参考)】