固定キャリアの製造方法
【課題】 損傷しやすい被搭載物品を適切に輸送等できる製造の容易な固定キャリアの製造方法を提供する。
【解決手段】 剛性を有する平面円形の基材1と、基材1の表面に積層被覆されて半導体ウェーハを着脱自在に粘着保持する変形可能な保持層とを備え、基材1に、複数の突起4を所定の間隔で突出形成して保持層の裏面に接触させるとともに、複数の突起4と保持層との間の区画空間に連通する給排孔を穿孔した固定キャリアの製造方法であって、熱可塑性樹脂シート2にスタンパ60の凹凸面61を圧接して加熱加圧する。そしてその後、加圧状態下で冷却することにより、基材1、複数の突起4、及び給排孔6を一体成形する。
【解決手段】 剛性を有する平面円形の基材1と、基材1の表面に積層被覆されて半導体ウェーハを着脱自在に粘着保持する変形可能な保持層とを備え、基材1に、複数の突起4を所定の間隔で突出形成して保持層の裏面に接触させるとともに、複数の突起4と保持層との間の区画空間に連通する給排孔を穿孔した固定キャリアの製造方法であって、熱可塑性樹脂シート2にスタンパ60の凹凸面61を圧接して加熱加圧する。そしてその後、加圧状態下で冷却することにより、基材1、複数の突起4、及び給排孔6を一体成形する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体ウェーハや石英ガラスに代表される基板やプリント配線板、チップ部品、その他単独ではハンドリングが困難な部材、工程上一時固定を有する部材等を着脱自在に保持する固定キャリアの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体ウェーハの口径は200mmから300mmに拡大してきているが、この300mmタイプの半導体ウェーハは、表面に回路が形成され、回路の形成面にバックグラインドテープが粘着された後、積層構造のパッケージ要求等に鑑み裏面が薄くバックグラインドされる。
こうしてバックグラインドテープの粘着された半導体ウェーハは、他の工場に輸送されてICチップ化され、専用のキャリアに搭載された状態でボンディングや封止等の加工が施される(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開昭59−227195号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
従来における半導体ウェーハやチップの加工は以上のようになされ、バックグラインドされた半導体ウェーハが非常に割れやすく、反りやすいので、他の工場に傷付けることな
く適切に輸送することがきわめて困難であるという大きな問題がある。この問題を解消す
る手段としては、上記した専用のキャリアを使用するという方法が考えられるが、このキ
ャリアはあくまで工場内の搬送に使用される専用品であり、過酷な輸送条件等を何ら考慮
したものではない。したがって、工場から工場への長時間の輸送に使用することはできな
い。
【0004】
さらに、従来においては、工場から工場への輸送時にバックグラインドテープが長時間粘着していると、回路のバンプにバックグラインドテープの粘着剤が転写してしまうおそれが少なくない。
【0005】
本発明は上記に鑑みなされたもので、損傷しやすい被搭載物品や固定を要する部材を適切に輸送等することのできる製造の容易な固定キャリアの製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明においては上記課題を解決するため、基材と、この基材に重ね設けられて被搭載物品を着脱自在に保持する変形可能な保持層とを備え、基材に、複数の突起を設けて保持層に接触させるとともに、複数の突起と保持層との間の区画空間に連なる給排孔を設けたものの製造方法であって、
熱可塑性樹脂シートにスタンパの凹凸面を接触させて加熱加圧し、その後、加圧状態下で冷却することにより、複数の突起を成形することを特徴としている。
【0007】
なお、熱可塑性樹脂シートのガラス転移温度から50℃上昇するまでの温度範囲で加熱加圧し、ガラス転移温度から20℃以上低下した温度で冷却することが好ましい。
また、各突起を0.05mm以上の高さとすることが好ましい。
さらに、熱可塑性樹脂シートにスタンパの凹凸面を接触させて加熱加圧し、その後、加圧状態下で冷却することにより、基材、複数の突起、及び給排孔のうち、少なくとも基材と複数の突起とを一体成形することを特徴としても良い。
【0008】
ここで、特許請求の範囲における基材や固定キャリアは、平面略円形、略楕円形、略矩形、略多角形等に形成することができ、基板用の収納容器に収納されるものでも良いし、そうでなくても良い。また、被搭載物品には、少なくとも単数複数の精密基板、液晶ガラス、石英ガラス、フォトマスク、回路基板、チップ部品、検査用のリードフレーム、各種の用紙、薄い電子部品等が含まれる。この被搭載物品が精密基板の場合には、口径300mm、400mm、450mmの半導体ウェーハ(SiウェーハやGaPウェーハ)が含まれる。
【0009】
保持層には、可撓性を有する各種のエラストマーやゴムを用いることができる。また、突起は、円柱形、角柱形、円錐台形、角錐台形等に形成することができ、中空、中実を特に問うものではない。給排孔は単数複数いずれでも良い。さらに、本発明に係る固定キャリアは、工場から他の工場への輸送の際だけではなく、工場内で被搭載物品を搬送する場合等にも使用することができる。
【0010】
本発明によれば、固定キャリアの保持層に被搭載物品を搭載して押せば、基材上の保持層に被搭載物品を保持させることができる。この際、被搭載物品は、固定キャリアに密着するので、例え薄くても下方に撓んで反ることが少ない。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、損傷しやすい被搭載物品を適切に移動、運搬、搬送、輸送等することができるという効果がある。また、型の転写作用を利用して複数の突起を一度に成形するので、固定キャリアを容易に製造することができるという効果がある。
また、熱可塑性樹脂シートのガラス転移温度から50℃上昇するまでの温度範囲で加熱加圧し、ガラス転移温度から20℃以上低下した温度で冷却すれば、欠損が生じたり、厚さにばらつきが生じるのを抑制することができるので、良好な成形が期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、図面を参照して本発明の好ましい実施の形態を説明すると、本実施形態における固定キャリアは、図1ないし図15に示すように、剛性を有する平面円形の基材1と、この基材1の表面に積層被覆されて口径300mm(12インチ)タイプの薄い半導体ウェーハ20を着脱自在に粘着保持する凹凸に弾性変形可能な保持層10とを備え、半導体ウェーハ用の基板収納容器30に収納される。
【0013】
固定キャリアの全体の厚さは、0.3〜2.5mmの範囲、好ましくは0.5〜1.2mmの範囲が良い。これは固定キャリアの厚さが係る範囲内であれば、半導体ウェーハ20に関する補強性を十分に確保することができるし、基板収納容器30に収納したり取り出す際、図示しない専用のロボットのフォークの挿入間隔を十分に確保することができるからである。また、固定キャリアの軽量化をも図ることができるからである。
【0014】
基材1は、図1ないし図4に示すように、基板収納容器30に確実に収納することができるよう、熱可塑性能樹脂シート2を用いたスタンパ60により剛性を有する薄板に成形され、半導体ウェーハ20と同じ大きさか、あるいは僅かに拡径の円板とされる。基材1の材料となる熱可塑性能樹脂シート2としては、特に限定されるものではないが、例えば耐熱性、耐衝撃性、透明性に優れる柔軟なポリカーボネート、ポリプロピレン、ポリエチレン、アクリル樹脂、塩ビ等からなるシートが使用される。
【0015】
基材1の周縁部3を除く表面は浅く凹み形成され、この凹んだ表面から複数の突起4が間隔をおき上方に突出してその平坦な先端面を保持層10の裏面に接触させており、これら複数の突起4と保持層10の裏面との間には、空気流動用の区画空間5が形成される(図3参照)。複数の突起4は、基材1の周縁部3と略同じ0.05mm以上の高さに揃えられ、各突起4が剛性の円柱形あるいは円錐台形に形成されており、半導体ウェーハ20を保持層10を介し間接的に支持する。突起4の高さは0.05mm以上とされるが、これは、高さが0.05mm未満の場合には、十分な区画空間5を形成することができず、保持層10の変形に支障を来たすおそれがあるからである。
【0016】
基材1の厚さ方向には、区画空間5に連通する半導体ウェーハ20取り外し用の給排孔6が一体的に穿孔され、この複数の突起4間に位置する給排孔6には、図3や図4に示すバキューム装置7が着脱自在に接続される。そして、このバキューム装置7が動作し、保持層10が複数の突起4のパターンに応じて凸凹に変形するとともに、この凸凹の保持層10と半導体ウェーハ20との間に空気流入用の隙間が生じることにより、保持層10に粘着保持された半導体ウェーハ20が取り外し可能となる(図4参照)。
【0017】
保持層10は、例えば可撓性、柔軟性、耐熱性、弾性、粘着性等に優れるフッ素系やシリコーン系の薄いエラストマーを使用して基材1と略同径の平面円形に形成され、基材1の表面の周縁部3に接着剤を介して貼着されており、半導体ウェーハ20の裏面を着脱自在に粘着保持する。この保持層10のエラストマーには、成形時に補強性フィラーや疎水性シリカ等が必要に応じて添加される。
【0018】
保持層10の各突起4の先端面と接触する接触部表面11は、砥石ローラ等により物理的に粗く形成されて非粘着面とすることができ、JIS B0601‐2001に規定されている表面の算術平均粗さRaが1.6a以上、好ましくは1.6〜12.5aの範囲とされる。接触部表面11の算術平均粗さRaが1.6a以上、好ましくは1.6〜12.5aの範囲なのは、この範囲の粗面化であれば、保持層10の劣化を招くことがなく、非粘着化が可能であり、しかも、半導体ウェーハ20の取り外しの容易化を図ることができるからである。
【0019】
半導体ウェーハ20は、図5や図6に示すように、基本的には丸いシリコンウェーハからなり、鏡面である表面に回路が形成され、裏面がバックグラインドテープを介し薄くバックグラインドされており、ロボットにより保持層10の表面に粘着保持される。この半導体ウェーハ20の周縁部には、図5に示すように、結晶方位の判別や位置合わせ用のオリフラ(orientation flat)21やノッチ22が適宜形成される。
【0020】
基板収納容器30は、図8ないし図15等に示すように、固定キャリアを収納する容器本体31と、この容器本体31の正面を開閉する着脱自在の蓋体50とを備えたフロントオープンボックスタイプに構成される。容器本体31は、ポリカーボネート等からなる所定の樹脂を使用して透明のフロントオープンボックスに成形され、複数枚(25枚又は26枚)の固定キャリアを上下方向に並べて整列収納するよう機能する。
【0021】
容器本体31の開口した正面は、図8ないし図10に示すように、外方向に断面略L字形に屈曲形成されて横長のリム部32を形成し、このリム部32の内周面の上下両側には、蓋体施錠用の係止穴33がそれぞれ凹み形成される。また、容器本体31の背面壁の内面には、基材1の後部周縁を保持溝を介し保持する複数のリヤリテーナ34が所定の間隔をおいて上下方向に並設され、容器本体31の両側壁の内面には、基材1を水平に支持するティース35がそれぞれ突出形成されており、この左右一対のティース35が所定の間隔をおいて上下方向に並設される。
【0022】
各ティース35は、図12等に示すように、平面略く字形あるいは半円弧形に形成されて基材1の側部周縁に沿う平板36と、この平板36の前部内側に一体形成されて基材1を支持する略平坦な前部中肉領域37と、平板36の前部外側に一体形成されて前部中肉領域37の外側、換言すれば、容器本体31の側壁寄りに位置する前部厚肉領域38と、平板36の後部に形成されて基材1を支持する後部中肉領域39と、平板36の後部に形成されて後部中肉領域39の前方に位置し、容器本体31の側壁寄りに僅かな面積で位置する平坦な後部厚肉領域40とを備えて形成される。
【0023】
ティース35の前部中肉領域37と前部厚肉領域38との間には、基材1の側部周縁に接触する垂直の段差41が僅かに形成される。前部厚肉領域38は、固定キャリアの厚さに半導体ウェーハ20の厚さを加えた高さ、具体的には0.3〜2.5mm程度の高さに形成され、蓋体50の取り外し時に基材1が容器本体31から前方に飛び出すのをストッパとして防止するよう機能する。また、前部中肉領域37と後部中肉領域39との間には、僅かに凹んだ薄肉領域が形成され、この薄肉領域が基材1の側部周縁に僅かな隙間を介して対向する。このような構成のティース35は、平坦な前部中肉領域37と後部中肉領域39とに、基材裏面の側部周縁を高精度を維持しつつ水平に支持する。
【0024】
容器本体31の底面の前部両側と後部中央には図14に示すように、基板収納容器30を搭載する加工装置の位置決めピンに嵌合する位置決め具42が配設され、容器本体31の底面の略中央部には、平面略Y字形のボトムプレート43が着脱自在に装着されており、このボトムプレート43の後部に着脱自在に嵌合された識別体が加工装置のセンサに検知されることにより、基板収納容器30の種類や半導体ウェーハ20の枚数等が把握される。
【0025】
容器本体31の天井の中央部には、自動搬送機に把持される平面略矩形のロボティックフランジ44が着脱自在に装着され、容器本体31の両側壁外面には、肉厚の円柱形あるいは略U字形のハンドル45がそれぞれ着脱自在に装着されており、この一対のハンドル45が作業者に握持されることにより基板収納容器30が搬送される。
【0026】
蓋体50は、図8、図9、図15に示すように、容器本体31のリム部32に着脱自在に嵌合される断面略皿形の筐体51と、この筐体51の表面を被覆する正面略矩形のカバー52と、これら筐体51とカバー52との間に介在され、容器本体31の正面に嵌合された蓋体50を施錠する左右一対の施錠機構53とを備えて構成される。
【0027】
筐体51は、四隅部が面取りされた正面略矩形に形成され、裏面の中央部には、基材1の前部周縁を挟持溝を介し挟持する弾性のフロントリテーナが上下方向に並設される。この筐体51の周壁には、容器本体31のリム部32に圧接されるエンドレスのシールガスケットが変形可能に嵌合されるとともに、周壁の上下両側には、容器本体31の係止穴33に対応する貫通孔がそれぞれ穿孔される。
【0028】
各施錠機構53は、図15に示すように、例えば筐体51の表面側部に支持されて加工装置の蓋体開閉装置のカバー52を貫通した操作キーにより回転操作される回転プレート54と、この回転プレート54の外周に穿孔された一対の溝孔に挿入され、回転プレート54の回転に伴い蓋体50の内外上下方向に直線的にスライドする一対の進退動プレート55と、各進退動プレート55の先端部に連結支持され、回転プレート54の回転に伴い蓋体50の貫通孔から出没して容器本体31の係止穴33に嵌合係止する係止爪56とを備えて構成される。
【0029】
上記において、固定キャリアを製造する場合には、先ず、用意した熱可塑性樹脂シート2にスタンパ60の凹凸面61を圧接して加熱加圧(図7参照)し、熱可塑性樹脂シート2を加圧状態下で冷却することにより、基材1、0.05mm以上の高さを有する複数の突起4、及び給排孔6を図2に示すように一体成形し、その後、基材1の不要部分を除去する。型として機能するスタンパ60には、基材1、複数の突起4、及び給排孔6を一度に成形する凹凸面61、換言すれば、キャビティ面が予め形成される。
【0030】
成形作業に際しては、熱可塑性樹脂シート2のガラス転移温度Tg〜Tg+50℃の温度範囲で加熱加圧し、ガラス転移温度Tg〜Tg−20℃以下の温度で冷却することが好ましい。これは、係る範囲で加熱加圧したり、冷却しないと、熱可塑性樹脂シート2の樹脂が完全に溶融してエア圧に負け、エアを巻き込んで基材1や突起4に欠損が生じたり、基材1や突起4の厚さにばらつきが生じるからである。
【0031】
次いで、基材1の表面の少なくとも周縁部3に薄膜の保持層10を接着して複数の突起4の先端面を覆い、これら複数の突起4と保持層10との間に区画空間5を形成する。保持層10の製造方法としては、特に限定されるものではないが、例えばカレンダー法、プレス法、コーティング法、印刷法等により層を成形し、この層を基材1の周縁部3に貼着して製造する方法等があげられる。
【0032】
複数の突起4と保持層10の間に区画空間5を形成したら、基材1の給排孔6にバキューム装置7を接続して吸引動作させ、保持層10を複数の突起4に応じて凸凹に変形させた後、各突起4の先端面と接触する変形状態の保持層10の接触部表面11を砥石ローラ等により粗らして非粘着処理すれば、固定キャリアを製造することができる。
【0033】
上記において、バックグラインドされた半導体ウェーハ20を他の工場に輸送する場合には、先ず、固定キャリアの保持層10に半導体ウェーハ20をロボットにより押圧して密着保持させ、この固定キャリアを基板収納容器30の容器本体31にロボットを介して収納し、容器本体31の正面に蓋体50を嵌合し、その後、施錠機構53を作動させて蓋体50を施錠すれば、バックグラインドされた半導体ウェーハ20を他の工場に輸送することができる。
【0034】
上記収納の際、半導体ウェーハ20は、固定キャリアに隙間なく密着して搭載されているので、薄くても下方に撓んで反ることがなく、基板収納容器30の容器本体31に確実に収納される。
【0035】
次に、輸送された半導体ウェーハ20を取り出してボンディングや封止の加工を施したい場合には、先ず、蓋体50の施錠機構53を解錠作動させて容器本体31から蓋体50を取り外し、容器本体31から固定キャリアをロボットを介して取り出した後、固定キャリアの給排孔6にバキューム装置7を接続して吸引動作させれば、固定キャリアの変形した保持層10から半導体ウェーハ20をロボットにより簡単に吸着して取り外すことができる。
【0036】
上記構成によれば、割れやすく、反りやすく、脆い半導体ウェーハ20を容器本体31に直接収納するのではなく、固定キャリアに保持させて間接的に収納するので、他の工場に安全、かつ適切に輸送することができる。特に、固定キャリアが強度や剛性に優れ、気圧変化等の過酷な輸送条件にも十分耐えることができるので、例え工場から工場への輸送に長時間を要しても、安全に輸送することができる。
【0037】
また、バックグラインドテープの粘着時間を短縮したり、省略することができるので、回路のバンプにバックグラインドテープの粘着剤が転写してしまうおそれが非常に少ない。また、基材1の表面に複数の突起4をサンドブラスト法等により時間をかけて形成するのではなく、基材1と複数の突起4とを一体成形するので、生産性や量産性の著しい向上を図ることができ、しかも、突起4の高さを高精度に揃えることができる。
【0038】
また、複数の突起4と接触する保持層10の接触部表面11をコーティングやUV処理により非粘着面とする場合には、突起数(例えば、口径300mmの半導体ウェーハ20の場合には、突起数が約7万個にもなる)に応じてマスクの製造コストが向上し、しかも、マスクの位置決めがきわめて困難であるが、本実施形態によれば、保持層10の接触部表面11を粗らして非粘着面とするので、マスクの製造コストを低減したり、マスクの位置決め作業を省略することができ、あらゆる突起4のパターンに対応することが可能になる。
【0039】
また、バックグラインドされた半導体ウェーハ20に固定キャリアを使用する場合、固定キャリアの保持層10に高精度の平面性が要求されるが、保持層自体や接着剤の厚さばらつきにより高精度の平面性を維持することはきわめて困難である。この平面性を確保するためには、保持層10を薄くすれば良いが、そうすると、保持層10の耐久性が著しく低下したり、基材1の周縁部3に保持層10を接着する際の作業性や加工性が大幅に悪化するという大きな問題が新たに生じることとなる。
【0040】
これに対し、本実施形態によれば、高精度の砥石ローラ等を使用し、保持層10の接触部表面11を高精度に加工することができるので、耐久性を維持しつつ保持層10に高精度の平面性を簡単に付与することが可能になる。さらに、ティース35の前部中肉領域37と後部中肉領域39とに固定キャリア裏面の側部周縁を高い精度を維持しつつ水平に支持させるので、固定キャリアが上下方向に傾斜してロボットのフォークによる出し入れが困難になるのを防止することが可能になる。
【0041】
さらにまた、固定キャリアやその基材1が半導体ウェーハ20と略同サイズで薄いから、バックグラインドされていない半導体ウェーハ20の収納を前提とした既存の基板収納容器30の寸法や形状等を特に変更することなく、自動的に収納したり、取り出すことができる。
【0042】
なお、上記実施形態では基材1、複数の突起4、及び給排孔6を一体成形したが、何らこれに限定されるものではない。例えば、基材1と複数の突起4とを一体成形した後、給排孔6をドリル等で穿孔することもできる。また、基材1の周縁部3と各突起4の先端面とに保持層10を接着しても良い。また、基材1と保持層10とは、同径の大きさでも良いし、そうでなくても良い。さらに、保持層10は、微粘着性でも良いし、そうでなくても良い。さらにまた、突起4と接触する保持層10の接触部表面11を非粘着面ではなく、接着面や粘着面とすることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明に係る固定キャリアの製造方法の実施形態における固定キャリアを示す平面説明図である。
【図2】本発明に係る固定キャリアの製造方法の実施形態における固定キャリアを示す部分断面図である。
【図3】本発明に係る固定キャリアの製造方法の実施形態における固定キャリアの使用状態を示す部分断面図である。
【図4】本発明に係る固定キャリアの製造方法の実施形態における固定キャリアの保持層の変形状態を示す断面説明図である。
【図5】本発明に係る固定キャリアの製造方法の実施形態における半導体ウェーハを示す平面説明図である。
【図6】図1の固定キャリアに半導体ウェーハを粘着保持させた状態を示す平面説明図である。
【図7】本発明に係る固定キャリアの製造方法の実施形態を模式的に示す断面説明図である。
【図8】本発明に係る固定キャリアの製造方法の実施形態における基板収納容器を示す全体斜視図である。
【図9】本発明に係る固定キャリアの製造方法の実施形態における基板収納容器を示す正面説明図である。
【図10】本発明に係る固定キャリアの製造方法の実施形態における基板収納容器の容器本体を示す断面側面図である。
【図11】本発明に係る固定キャリアの製造方法の実施形態における基板収納容器の容器本体に固定キャリアを収納した状態を示す断面説明図である。
【図12】本発明に係る固定キャリアの製造方法の実施形態における基板収納容器の容器本体を示す断面説明図である。
【図13】本発明に係る固定キャリアの製造方法の実施形態における基板収納容器のティースを示す斜視説明図である。
【図14】本発明に係る固定キャリアの製造方法の実施形態における基板収納容器の容器本体を示す底面説明図である。
【図15】本発明に係る固定キャリアの製造方法の実施形態における基板収納容器の施錠機構を示す説明図である。
【符号の説明】
【0044】
1 基材
2 熱可塑性樹脂シート
3 周縁部
4 突起
5 区画空間
6 給排孔
10 保持層
20 半導体ウェーハ(被搭載物品)
30 基板収納容器
31 容器本体
50 蓋体
60 スタンパ
61 凹凸面
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体ウェーハや石英ガラスに代表される基板やプリント配線板、チップ部品、その他単独ではハンドリングが困難な部材、工程上一時固定を有する部材等を着脱自在に保持する固定キャリアの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体ウェーハの口径は200mmから300mmに拡大してきているが、この300mmタイプの半導体ウェーハは、表面に回路が形成され、回路の形成面にバックグラインドテープが粘着された後、積層構造のパッケージ要求等に鑑み裏面が薄くバックグラインドされる。
こうしてバックグラインドテープの粘着された半導体ウェーハは、他の工場に輸送されてICチップ化され、専用のキャリアに搭載された状態でボンディングや封止等の加工が施される(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開昭59−227195号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
従来における半導体ウェーハやチップの加工は以上のようになされ、バックグラインドされた半導体ウェーハが非常に割れやすく、反りやすいので、他の工場に傷付けることな
く適切に輸送することがきわめて困難であるという大きな問題がある。この問題を解消す
る手段としては、上記した専用のキャリアを使用するという方法が考えられるが、このキ
ャリアはあくまで工場内の搬送に使用される専用品であり、過酷な輸送条件等を何ら考慮
したものではない。したがって、工場から工場への長時間の輸送に使用することはできな
い。
【0004】
さらに、従来においては、工場から工場への輸送時にバックグラインドテープが長時間粘着していると、回路のバンプにバックグラインドテープの粘着剤が転写してしまうおそれが少なくない。
【0005】
本発明は上記に鑑みなされたもので、損傷しやすい被搭載物品や固定を要する部材を適切に輸送等することのできる製造の容易な固定キャリアの製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明においては上記課題を解決するため、基材と、この基材に重ね設けられて被搭載物品を着脱自在に保持する変形可能な保持層とを備え、基材に、複数の突起を設けて保持層に接触させるとともに、複数の突起と保持層との間の区画空間に連なる給排孔を設けたものの製造方法であって、
熱可塑性樹脂シートにスタンパの凹凸面を接触させて加熱加圧し、その後、加圧状態下で冷却することにより、複数の突起を成形することを特徴としている。
【0007】
なお、熱可塑性樹脂シートのガラス転移温度から50℃上昇するまでの温度範囲で加熱加圧し、ガラス転移温度から20℃以上低下した温度で冷却することが好ましい。
また、各突起を0.05mm以上の高さとすることが好ましい。
さらに、熱可塑性樹脂シートにスタンパの凹凸面を接触させて加熱加圧し、その後、加圧状態下で冷却することにより、基材、複数の突起、及び給排孔のうち、少なくとも基材と複数の突起とを一体成形することを特徴としても良い。
【0008】
ここで、特許請求の範囲における基材や固定キャリアは、平面略円形、略楕円形、略矩形、略多角形等に形成することができ、基板用の収納容器に収納されるものでも良いし、そうでなくても良い。また、被搭載物品には、少なくとも単数複数の精密基板、液晶ガラス、石英ガラス、フォトマスク、回路基板、チップ部品、検査用のリードフレーム、各種の用紙、薄い電子部品等が含まれる。この被搭載物品が精密基板の場合には、口径300mm、400mm、450mmの半導体ウェーハ(SiウェーハやGaPウェーハ)が含まれる。
【0009】
保持層には、可撓性を有する各種のエラストマーやゴムを用いることができる。また、突起は、円柱形、角柱形、円錐台形、角錐台形等に形成することができ、中空、中実を特に問うものではない。給排孔は単数複数いずれでも良い。さらに、本発明に係る固定キャリアは、工場から他の工場への輸送の際だけではなく、工場内で被搭載物品を搬送する場合等にも使用することができる。
【0010】
本発明によれば、固定キャリアの保持層に被搭載物品を搭載して押せば、基材上の保持層に被搭載物品を保持させることができる。この際、被搭載物品は、固定キャリアに密着するので、例え薄くても下方に撓んで反ることが少ない。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、損傷しやすい被搭載物品を適切に移動、運搬、搬送、輸送等することができるという効果がある。また、型の転写作用を利用して複数の突起を一度に成形するので、固定キャリアを容易に製造することができるという効果がある。
また、熱可塑性樹脂シートのガラス転移温度から50℃上昇するまでの温度範囲で加熱加圧し、ガラス転移温度から20℃以上低下した温度で冷却すれば、欠損が生じたり、厚さにばらつきが生じるのを抑制することができるので、良好な成形が期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、図面を参照して本発明の好ましい実施の形態を説明すると、本実施形態における固定キャリアは、図1ないし図15に示すように、剛性を有する平面円形の基材1と、この基材1の表面に積層被覆されて口径300mm(12インチ)タイプの薄い半導体ウェーハ20を着脱自在に粘着保持する凹凸に弾性変形可能な保持層10とを備え、半導体ウェーハ用の基板収納容器30に収納される。
【0013】
固定キャリアの全体の厚さは、0.3〜2.5mmの範囲、好ましくは0.5〜1.2mmの範囲が良い。これは固定キャリアの厚さが係る範囲内であれば、半導体ウェーハ20に関する補強性を十分に確保することができるし、基板収納容器30に収納したり取り出す際、図示しない専用のロボットのフォークの挿入間隔を十分に確保することができるからである。また、固定キャリアの軽量化をも図ることができるからである。
【0014】
基材1は、図1ないし図4に示すように、基板収納容器30に確実に収納することができるよう、熱可塑性能樹脂シート2を用いたスタンパ60により剛性を有する薄板に成形され、半導体ウェーハ20と同じ大きさか、あるいは僅かに拡径の円板とされる。基材1の材料となる熱可塑性能樹脂シート2としては、特に限定されるものではないが、例えば耐熱性、耐衝撃性、透明性に優れる柔軟なポリカーボネート、ポリプロピレン、ポリエチレン、アクリル樹脂、塩ビ等からなるシートが使用される。
【0015】
基材1の周縁部3を除く表面は浅く凹み形成され、この凹んだ表面から複数の突起4が間隔をおき上方に突出してその平坦な先端面を保持層10の裏面に接触させており、これら複数の突起4と保持層10の裏面との間には、空気流動用の区画空間5が形成される(図3参照)。複数の突起4は、基材1の周縁部3と略同じ0.05mm以上の高さに揃えられ、各突起4が剛性の円柱形あるいは円錐台形に形成されており、半導体ウェーハ20を保持層10を介し間接的に支持する。突起4の高さは0.05mm以上とされるが、これは、高さが0.05mm未満の場合には、十分な区画空間5を形成することができず、保持層10の変形に支障を来たすおそれがあるからである。
【0016】
基材1の厚さ方向には、区画空間5に連通する半導体ウェーハ20取り外し用の給排孔6が一体的に穿孔され、この複数の突起4間に位置する給排孔6には、図3や図4に示すバキューム装置7が着脱自在に接続される。そして、このバキューム装置7が動作し、保持層10が複数の突起4のパターンに応じて凸凹に変形するとともに、この凸凹の保持層10と半導体ウェーハ20との間に空気流入用の隙間が生じることにより、保持層10に粘着保持された半導体ウェーハ20が取り外し可能となる(図4参照)。
【0017】
保持層10は、例えば可撓性、柔軟性、耐熱性、弾性、粘着性等に優れるフッ素系やシリコーン系の薄いエラストマーを使用して基材1と略同径の平面円形に形成され、基材1の表面の周縁部3に接着剤を介して貼着されており、半導体ウェーハ20の裏面を着脱自在に粘着保持する。この保持層10のエラストマーには、成形時に補強性フィラーや疎水性シリカ等が必要に応じて添加される。
【0018】
保持層10の各突起4の先端面と接触する接触部表面11は、砥石ローラ等により物理的に粗く形成されて非粘着面とすることができ、JIS B0601‐2001に規定されている表面の算術平均粗さRaが1.6a以上、好ましくは1.6〜12.5aの範囲とされる。接触部表面11の算術平均粗さRaが1.6a以上、好ましくは1.6〜12.5aの範囲なのは、この範囲の粗面化であれば、保持層10の劣化を招くことがなく、非粘着化が可能であり、しかも、半導体ウェーハ20の取り外しの容易化を図ることができるからである。
【0019】
半導体ウェーハ20は、図5や図6に示すように、基本的には丸いシリコンウェーハからなり、鏡面である表面に回路が形成され、裏面がバックグラインドテープを介し薄くバックグラインドされており、ロボットにより保持層10の表面に粘着保持される。この半導体ウェーハ20の周縁部には、図5に示すように、結晶方位の判別や位置合わせ用のオリフラ(orientation flat)21やノッチ22が適宜形成される。
【0020】
基板収納容器30は、図8ないし図15等に示すように、固定キャリアを収納する容器本体31と、この容器本体31の正面を開閉する着脱自在の蓋体50とを備えたフロントオープンボックスタイプに構成される。容器本体31は、ポリカーボネート等からなる所定の樹脂を使用して透明のフロントオープンボックスに成形され、複数枚(25枚又は26枚)の固定キャリアを上下方向に並べて整列収納するよう機能する。
【0021】
容器本体31の開口した正面は、図8ないし図10に示すように、外方向に断面略L字形に屈曲形成されて横長のリム部32を形成し、このリム部32の内周面の上下両側には、蓋体施錠用の係止穴33がそれぞれ凹み形成される。また、容器本体31の背面壁の内面には、基材1の後部周縁を保持溝を介し保持する複数のリヤリテーナ34が所定の間隔をおいて上下方向に並設され、容器本体31の両側壁の内面には、基材1を水平に支持するティース35がそれぞれ突出形成されており、この左右一対のティース35が所定の間隔をおいて上下方向に並設される。
【0022】
各ティース35は、図12等に示すように、平面略く字形あるいは半円弧形に形成されて基材1の側部周縁に沿う平板36と、この平板36の前部内側に一体形成されて基材1を支持する略平坦な前部中肉領域37と、平板36の前部外側に一体形成されて前部中肉領域37の外側、換言すれば、容器本体31の側壁寄りに位置する前部厚肉領域38と、平板36の後部に形成されて基材1を支持する後部中肉領域39と、平板36の後部に形成されて後部中肉領域39の前方に位置し、容器本体31の側壁寄りに僅かな面積で位置する平坦な後部厚肉領域40とを備えて形成される。
【0023】
ティース35の前部中肉領域37と前部厚肉領域38との間には、基材1の側部周縁に接触する垂直の段差41が僅かに形成される。前部厚肉領域38は、固定キャリアの厚さに半導体ウェーハ20の厚さを加えた高さ、具体的には0.3〜2.5mm程度の高さに形成され、蓋体50の取り外し時に基材1が容器本体31から前方に飛び出すのをストッパとして防止するよう機能する。また、前部中肉領域37と後部中肉領域39との間には、僅かに凹んだ薄肉領域が形成され、この薄肉領域が基材1の側部周縁に僅かな隙間を介して対向する。このような構成のティース35は、平坦な前部中肉領域37と後部中肉領域39とに、基材裏面の側部周縁を高精度を維持しつつ水平に支持する。
【0024】
容器本体31の底面の前部両側と後部中央には図14に示すように、基板収納容器30を搭載する加工装置の位置決めピンに嵌合する位置決め具42が配設され、容器本体31の底面の略中央部には、平面略Y字形のボトムプレート43が着脱自在に装着されており、このボトムプレート43の後部に着脱自在に嵌合された識別体が加工装置のセンサに検知されることにより、基板収納容器30の種類や半導体ウェーハ20の枚数等が把握される。
【0025】
容器本体31の天井の中央部には、自動搬送機に把持される平面略矩形のロボティックフランジ44が着脱自在に装着され、容器本体31の両側壁外面には、肉厚の円柱形あるいは略U字形のハンドル45がそれぞれ着脱自在に装着されており、この一対のハンドル45が作業者に握持されることにより基板収納容器30が搬送される。
【0026】
蓋体50は、図8、図9、図15に示すように、容器本体31のリム部32に着脱自在に嵌合される断面略皿形の筐体51と、この筐体51の表面を被覆する正面略矩形のカバー52と、これら筐体51とカバー52との間に介在され、容器本体31の正面に嵌合された蓋体50を施錠する左右一対の施錠機構53とを備えて構成される。
【0027】
筐体51は、四隅部が面取りされた正面略矩形に形成され、裏面の中央部には、基材1の前部周縁を挟持溝を介し挟持する弾性のフロントリテーナが上下方向に並設される。この筐体51の周壁には、容器本体31のリム部32に圧接されるエンドレスのシールガスケットが変形可能に嵌合されるとともに、周壁の上下両側には、容器本体31の係止穴33に対応する貫通孔がそれぞれ穿孔される。
【0028】
各施錠機構53は、図15に示すように、例えば筐体51の表面側部に支持されて加工装置の蓋体開閉装置のカバー52を貫通した操作キーにより回転操作される回転プレート54と、この回転プレート54の外周に穿孔された一対の溝孔に挿入され、回転プレート54の回転に伴い蓋体50の内外上下方向に直線的にスライドする一対の進退動プレート55と、各進退動プレート55の先端部に連結支持され、回転プレート54の回転に伴い蓋体50の貫通孔から出没して容器本体31の係止穴33に嵌合係止する係止爪56とを備えて構成される。
【0029】
上記において、固定キャリアを製造する場合には、先ず、用意した熱可塑性樹脂シート2にスタンパ60の凹凸面61を圧接して加熱加圧(図7参照)し、熱可塑性樹脂シート2を加圧状態下で冷却することにより、基材1、0.05mm以上の高さを有する複数の突起4、及び給排孔6を図2に示すように一体成形し、その後、基材1の不要部分を除去する。型として機能するスタンパ60には、基材1、複数の突起4、及び給排孔6を一度に成形する凹凸面61、換言すれば、キャビティ面が予め形成される。
【0030】
成形作業に際しては、熱可塑性樹脂シート2のガラス転移温度Tg〜Tg+50℃の温度範囲で加熱加圧し、ガラス転移温度Tg〜Tg−20℃以下の温度で冷却することが好ましい。これは、係る範囲で加熱加圧したり、冷却しないと、熱可塑性樹脂シート2の樹脂が完全に溶融してエア圧に負け、エアを巻き込んで基材1や突起4に欠損が生じたり、基材1や突起4の厚さにばらつきが生じるからである。
【0031】
次いで、基材1の表面の少なくとも周縁部3に薄膜の保持層10を接着して複数の突起4の先端面を覆い、これら複数の突起4と保持層10との間に区画空間5を形成する。保持層10の製造方法としては、特に限定されるものではないが、例えばカレンダー法、プレス法、コーティング法、印刷法等により層を成形し、この層を基材1の周縁部3に貼着して製造する方法等があげられる。
【0032】
複数の突起4と保持層10の間に区画空間5を形成したら、基材1の給排孔6にバキューム装置7を接続して吸引動作させ、保持層10を複数の突起4に応じて凸凹に変形させた後、各突起4の先端面と接触する変形状態の保持層10の接触部表面11を砥石ローラ等により粗らして非粘着処理すれば、固定キャリアを製造することができる。
【0033】
上記において、バックグラインドされた半導体ウェーハ20を他の工場に輸送する場合には、先ず、固定キャリアの保持層10に半導体ウェーハ20をロボットにより押圧して密着保持させ、この固定キャリアを基板収納容器30の容器本体31にロボットを介して収納し、容器本体31の正面に蓋体50を嵌合し、その後、施錠機構53を作動させて蓋体50を施錠すれば、バックグラインドされた半導体ウェーハ20を他の工場に輸送することができる。
【0034】
上記収納の際、半導体ウェーハ20は、固定キャリアに隙間なく密着して搭載されているので、薄くても下方に撓んで反ることがなく、基板収納容器30の容器本体31に確実に収納される。
【0035】
次に、輸送された半導体ウェーハ20を取り出してボンディングや封止の加工を施したい場合には、先ず、蓋体50の施錠機構53を解錠作動させて容器本体31から蓋体50を取り外し、容器本体31から固定キャリアをロボットを介して取り出した後、固定キャリアの給排孔6にバキューム装置7を接続して吸引動作させれば、固定キャリアの変形した保持層10から半導体ウェーハ20をロボットにより簡単に吸着して取り外すことができる。
【0036】
上記構成によれば、割れやすく、反りやすく、脆い半導体ウェーハ20を容器本体31に直接収納するのではなく、固定キャリアに保持させて間接的に収納するので、他の工場に安全、かつ適切に輸送することができる。特に、固定キャリアが強度や剛性に優れ、気圧変化等の過酷な輸送条件にも十分耐えることができるので、例え工場から工場への輸送に長時間を要しても、安全に輸送することができる。
【0037】
また、バックグラインドテープの粘着時間を短縮したり、省略することができるので、回路のバンプにバックグラインドテープの粘着剤が転写してしまうおそれが非常に少ない。また、基材1の表面に複数の突起4をサンドブラスト法等により時間をかけて形成するのではなく、基材1と複数の突起4とを一体成形するので、生産性や量産性の著しい向上を図ることができ、しかも、突起4の高さを高精度に揃えることができる。
【0038】
また、複数の突起4と接触する保持層10の接触部表面11をコーティングやUV処理により非粘着面とする場合には、突起数(例えば、口径300mmの半導体ウェーハ20の場合には、突起数が約7万個にもなる)に応じてマスクの製造コストが向上し、しかも、マスクの位置決めがきわめて困難であるが、本実施形態によれば、保持層10の接触部表面11を粗らして非粘着面とするので、マスクの製造コストを低減したり、マスクの位置決め作業を省略することができ、あらゆる突起4のパターンに対応することが可能になる。
【0039】
また、バックグラインドされた半導体ウェーハ20に固定キャリアを使用する場合、固定キャリアの保持層10に高精度の平面性が要求されるが、保持層自体や接着剤の厚さばらつきにより高精度の平面性を維持することはきわめて困難である。この平面性を確保するためには、保持層10を薄くすれば良いが、そうすると、保持層10の耐久性が著しく低下したり、基材1の周縁部3に保持層10を接着する際の作業性や加工性が大幅に悪化するという大きな問題が新たに生じることとなる。
【0040】
これに対し、本実施形態によれば、高精度の砥石ローラ等を使用し、保持層10の接触部表面11を高精度に加工することができるので、耐久性を維持しつつ保持層10に高精度の平面性を簡単に付与することが可能になる。さらに、ティース35の前部中肉領域37と後部中肉領域39とに固定キャリア裏面の側部周縁を高い精度を維持しつつ水平に支持させるので、固定キャリアが上下方向に傾斜してロボットのフォークによる出し入れが困難になるのを防止することが可能になる。
【0041】
さらにまた、固定キャリアやその基材1が半導体ウェーハ20と略同サイズで薄いから、バックグラインドされていない半導体ウェーハ20の収納を前提とした既存の基板収納容器30の寸法や形状等を特に変更することなく、自動的に収納したり、取り出すことができる。
【0042】
なお、上記実施形態では基材1、複数の突起4、及び給排孔6を一体成形したが、何らこれに限定されるものではない。例えば、基材1と複数の突起4とを一体成形した後、給排孔6をドリル等で穿孔することもできる。また、基材1の周縁部3と各突起4の先端面とに保持層10を接着しても良い。また、基材1と保持層10とは、同径の大きさでも良いし、そうでなくても良い。さらに、保持層10は、微粘着性でも良いし、そうでなくても良い。さらにまた、突起4と接触する保持層10の接触部表面11を非粘着面ではなく、接着面や粘着面とすることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明に係る固定キャリアの製造方法の実施形態における固定キャリアを示す平面説明図である。
【図2】本発明に係る固定キャリアの製造方法の実施形態における固定キャリアを示す部分断面図である。
【図3】本発明に係る固定キャリアの製造方法の実施形態における固定キャリアの使用状態を示す部分断面図である。
【図4】本発明に係る固定キャリアの製造方法の実施形態における固定キャリアの保持層の変形状態を示す断面説明図である。
【図5】本発明に係る固定キャリアの製造方法の実施形態における半導体ウェーハを示す平面説明図である。
【図6】図1の固定キャリアに半導体ウェーハを粘着保持させた状態を示す平面説明図である。
【図7】本発明に係る固定キャリアの製造方法の実施形態を模式的に示す断面説明図である。
【図8】本発明に係る固定キャリアの製造方法の実施形態における基板収納容器を示す全体斜視図である。
【図9】本発明に係る固定キャリアの製造方法の実施形態における基板収納容器を示す正面説明図である。
【図10】本発明に係る固定キャリアの製造方法の実施形態における基板収納容器の容器本体を示す断面側面図である。
【図11】本発明に係る固定キャリアの製造方法の実施形態における基板収納容器の容器本体に固定キャリアを収納した状態を示す断面説明図である。
【図12】本発明に係る固定キャリアの製造方法の実施形態における基板収納容器の容器本体を示す断面説明図である。
【図13】本発明に係る固定キャリアの製造方法の実施形態における基板収納容器のティースを示す斜視説明図である。
【図14】本発明に係る固定キャリアの製造方法の実施形態における基板収納容器の容器本体を示す底面説明図である。
【図15】本発明に係る固定キャリアの製造方法の実施形態における基板収納容器の施錠機構を示す説明図である。
【符号の説明】
【0044】
1 基材
2 熱可塑性樹脂シート
3 周縁部
4 突起
5 区画空間
6 給排孔
10 保持層
20 半導体ウェーハ(被搭載物品)
30 基板収納容器
31 容器本体
50 蓋体
60 スタンパ
61 凹凸面
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、この基材に重ね設けられて被搭載物品を着脱自在に保持する変形可能な保持層とを備え、基材に、複数の突起を設けて保持層に接触させるとともに、複数の突起と保持層との間の区画空間に連なる給排孔を設けた固定キャリアの製造方法であって、
熱可塑性樹脂シートにスタンパの凹凸面を接触させて加熱加圧し、その後、加圧状態下で冷却することにより、複数の突起を成形することを特徴とする固定キャリアの製造方法。
【請求項2】
熱可塑性樹脂シートのガラス転移温度から50℃上昇するまでの温度範囲で加熱加圧し、ガラス転移温度から20℃以上低下した温度で冷却する請求項1記載の固定キャリアの製造方法。
【請求項3】
各突起を0.05mm以上の高さとする請求項1又は2記載の固定キャリアの製造方法。
【請求項1】
基材と、この基材に重ね設けられて被搭載物品を着脱自在に保持する変形可能な保持層とを備え、基材に、複数の突起を設けて保持層に接触させるとともに、複数の突起と保持層との間の区画空間に連なる給排孔を設けた固定キャリアの製造方法であって、
熱可塑性樹脂シートにスタンパの凹凸面を接触させて加熱加圧し、その後、加圧状態下で冷却することにより、複数の突起を成形することを特徴とする固定キャリアの製造方法。
【請求項2】
熱可塑性樹脂シートのガラス転移温度から50℃上昇するまでの温度範囲で加熱加圧し、ガラス転移温度から20℃以上低下した温度で冷却する請求項1記載の固定キャリアの製造方法。
【請求項3】
各突起を0.05mm以上の高さとする請求項1又は2記載の固定キャリアの製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2006−310616(P2006−310616A)
【公開日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−132385(P2005−132385)
【出願日】平成17年4月28日(2005.4.28)
【出願人】(000190116)信越ポリマー株式会社 (1,394)
【公開日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年4月28日(2005.4.28)
【出願人】(000190116)信越ポリマー株式会社 (1,394)
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