説明

固定部材および固定部材セット

【課題】骨同士、骨と骨補填材、または骨補填材同士の固定を、複雑な工程を経ることなく短時間に、強固にかつ低侵襲で行うことができる固定部材およびかかる固定部材を複数備える固定部材セットを提供する。
【解決手段】固定部材1は、枠体10と、この枠体10の4角にそれぞれ形成された貫通孔15とを有している。これら貫通孔15は、頭蓋骨38と骨補填材43との境界線34を跨いで、これらに貫通孔15が2つずつ位置するように配置したとき、境界線34方向に長い長円で構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固定部材および固定部材セット、特に、骨同士、骨と骨補填材、または骨補填材同士を固定するために用いられる固定部材およびかかる固定部材を複数備える固定部材セットに関する。
【背景技術】
【0002】
交通事故、工事現場等の事故や、脳梗塞、脳腫瘍等の手術により、頭蓋骨、頬骨等を損傷、欠損した場合、医療現場では、骨補填材を用いて骨欠損部を補填する治療(手術)が行なわれる。
【0003】
この治療は、例えば、骨欠損部の形状に一致する骨補填材を用意し、かかる骨補填材を骨欠損部に補填した後、固定部材を用いて固定することで行われる。
【0004】
このような骨補填材の骨欠損部への固定、すなわち骨と骨補填材との固定は、各種固定部材を用いたものについて検討がなされている(例えば、特許文献1、2参照。)。
【0005】
しかしながら、これらの固定部材を用いた骨補填材の骨欠損部への固定では、複雑な工程を経ることなく短時間で固定するのが困難であったり、骨内への侵襲が低くかつ強固に固定させることが困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平9−206311号公報
【特許文献2】特開2002−224130号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、骨同士、骨と骨補填材、または骨補填材同士の固定を、複雑な工程を経ることなく短時間に、強固にかつ低侵襲で行うことができる固定部材およびかかる固定部材を複数備える固定部材セットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
このような目的は、下記(1)〜(9)の本発明により達成される。
(1) 骨同士、骨と骨補填材、または骨補填材同士を固定するために用いられる固定部材であって、
それぞれ1つの貫通孔を備える4つ以上の固定部と、該固定部同士を連結する連結部とを有し、
少なくとも1つの前記貫通孔は、当該固定部材を前記骨同士、前記骨と前記骨補填材、または前記骨補填材同士の境界線を跨いで、これらに前記固定部が少なくとも2つずつ位置するように配置したとき、前記境界線方向に長い長円で構成されていることを特徴とする固定部材。
【0009】
かかる構成の固定部材を用いて、骨同士、骨と骨補填材、または骨補填材同士の固定を行えば、これらの固定を、複雑な工程を経ることなく短時間に、強固にかつ低侵襲で実施することができる。
【0010】
(2) 前記連結部は、その全体形状が四角形の枠状をなし、前記固定部は、4つであり、それぞれ前記連結部の4角に配置されている上記(1)に記載の固定部材。
【0011】
かかる構成の固定部材を用いて、骨同士、骨と骨補填材、または骨補填材同士の固定を行えば、これらの固定を、複雑な工程を経ることなく短時間に、強固にかつ低侵襲で実施することができる。
【0012】
(3) 前記四角形は長方形であり、該長方形の長辺が前記境界線を跨ぐ上記(2)に記載の固定部材。
【0013】
かかる構成の固定部材を用いて、骨同士、骨と骨補填材、または骨補填材同士の固定を行えば、これらの固定を、複雑な工程を経ることなく短時間に、強固にかつ低侵襲で実施することができる。
【0014】
(4) 前記貫通孔は、該貫通孔を備える前記固定部に連結する前記連結部の軸線上に位置する上記(2)または(3)に記載の固定部材。
【0015】
これにより、固定部材に、骨同士、骨と骨補填材、または骨補填材同士を固定するのに十分な強度を付与することができる。
【0016】
(5) 前記骨と前記骨補填材、または前記骨補填材同士を固定するために用いられ、予め前記骨補填材に形成された挿入孔に対応するように、前記固定部が有する前記貫通孔を配置し、前記固定部が介在した状態で、前記挿入孔にスクリューネジを螺入することで前記骨補填材に固定される上記(1)ないし(4)のいずれかに記載の固定部材。
これにより、固定部材を骨補填材に強固に固定することができる。
【0017】
(6) 前記境界線と前記挿入孔との最短距離は、8〜10mmである上記(5)に記載の固定部材。
【0018】
これにより、境界線から貫通孔までの離間距離を充分に確保することができる。そのため、たとえ固定部材に外部応力が作用したとしても、固定部材が撓むことにより、貫通孔に挿通されたスクリューネジに大きな力がかかり、これに起因して、スクリューネジが螺入された挿入孔に亀裂が生じてしまうのを的確に抑制または防止することができる。
【0019】
(7) 前記貫通孔は、その内面が前記骨または前記骨補填材側からその反対側に向かってその孔径が漸増するテーパ面を構成する上記(1)ないし(6)のいずれかに記載の固定部材。
【0020】
これにより、スクリューネジの頭部が固定部材から突出するのを抑制または防止することができる。
【0021】
(8) 上記(1)ないし(7)のいずれかに記載の固定部材を複数個備えていることを特徴とする固定部材セット。
【0022】
(9) 前記固定部材の少なくとも1つは、他の前記固定部材と比較して、前記境界線を跨ぐ前記固定部同士の離間距離が異なっている上記(8)に記載の固定部材セット。
【0023】
これにより、頭蓋骨面の凹凸形状により、適当な長さの固定部材を選定することが可能となる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、複雑な工程を経ることなく、骨欠損部に骨補填材を固定することができる。したがって、骨欠損部への骨補填材の固定を短時間で行うことができる。また、かかる固定を、強固にかつ低侵襲で行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の固定部材の実施形態を示す平面図である。
【図2】図1中のA−A線における縦断面図である。
【図3】損傷を受けた頭蓋骨の一例を示す斜視図である。
【図4】骨欠損部に補填する骨補填材の一例を示す上面図である。
【図5】骨欠損部に骨補填材を補填した状態を示す斜視図である。
【図6】本発明の固定部材を用いて骨欠損部に骨補填材を固定した状態を示す斜視図である。
【図7】図6中のB−B線における縦断面図である。
【図8】本発明の固定部材の他の構成を示す平面図である。
【図9】本発明の固定部材の他の構成を示す平面図である。
【図10】本発明の固定部材の他の構成を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の固定部材および固定部材セットを添付図面に示す好適実施形態に基づいて詳細に説明する。
【0027】
図1は、本発明の固定部材の実施形態を示す平面図、図2は、図1中のA−A線における縦断面図である。なお、以下の説明では、図1中の上側を「上」、下側を「下」という。
【0028】
本実施形態では、図1に示す固定部材1は、その全体形状が四角形(長方形)の枠状をなす枠体10と、この枠体10の4角にそれぞれ形成された貫通孔15とを有している。
【0029】
枠体10は、2つの短辺11と2つの長辺12とで構成されることにより長方形状をなしている。また、枠体10の4角、すなわち各短辺11と各長辺12との交差点には、それぞれ、平面視において、円弧状をなす膨出部16が形成され、この膨出部16の中心部に貫通孔15がその底面に対してほぼ垂直に設けられている。
【0030】
また、貫通孔15は、この貫通孔15を備える膨出部16に連結する短辺11および長辺12の双方の軸線上に位置する。これにより、固定部材1に、骨同士、骨と骨補填材、または骨補填材同士を固定するのに十分な強度を付与することができる。
【0031】
この貫通孔15は、その平面視形状は、長円状(楕円状)をなし、短辺11方向に対して長く、長辺12方向に短くなっており、さらに、横断面形状は、ロート状(すり鉢状)をなしている。すなわち、貫通孔15の内面は、貫通孔15の下側から上側に向かってその孔径が漸増するテーパ面17を構成する。
【0032】
かかる構成の固定部材1において、2つの短辺11および2つの長辺12により、全体形状が四角形の枠体をなす連結部が構成され、1つの貫通孔15を備える膨出部16により固定部が構成され、4つの膨出部16が連結部により連結される構成となっている。換言すれば、固定部材1において、連結部は、2つの短辺11および2つの長辺12で構成される全体形状が四角形形状の枠体10をなし、4つの膨出部16は、それぞれ枠体10の4角に配置される構成となっている。
【0033】
このような固定部材1において、短辺11の長さL1は、特に限定されないが、5〜14mm程度であるのが好ましく、8〜12mm程度であるのがより好ましい。また、長辺12の長さL2は、特に限定されないが、15〜30mm程度であるのが好ましく、18〜22mm程度であるのがより好ましい。
【0034】
また、短辺11および長辺12の幅W1、W2は、それぞれ、特に限定されないが、1.0〜1.8mm程度であるのが好ましく、1.4mm程度であるのがより好ましい。
【0035】
さらに、短辺11および長辺12の厚さT1、T2は、それぞれ、特に限定されないが、0.2〜1.0mm程度であるのが好ましく、0.5mm程度であるのがより好ましい。
【0036】
固定部材1を上記のような長さL1、L2等を有するものとすることにより、この固定部材1を用いて、骨同士、骨と骨補填材、または骨補填材同士を、十分な強度で確実に固定することができるようになる。
【0037】
また、貫通孔15は、前述したように、短辺11方向に対して長く長辺12方向に短い長円であり、その下面における短径D1は、特に限定されないが、1.5〜2.2mm程度であるのが好ましく、1.9mm程度であるのがより好ましい。さらに、貫通孔15の下面における長径D2は、特に限定されないが、2.0〜2.5mm程度であるのが好ましく、2.1mm程度であるのがより好ましい。さらに、短径D1と長径D2の長さの比率は、1:1.03〜1.6程度であることが好ましく、1:1.1〜1.3程度であることがより好ましい。この比率の範囲内であれば、貫通孔(挿入孔)15の縁部とスクリューネジ45の皿部が3箇所以上で接触するため、固定部材1を強固に固定することができる。また、上記比率は、各貫通孔15によってそれぞれ異なっていてもよい。本発明では、この貫通孔15が長円をなすことに特徴を有しており、貫通孔15の大きさを上記の範囲内に設定することにより、貫通孔15を長円とすることの効果をより顕著に発揮させることができるが、かかる効果については後に詳述する。
【0038】
また、固定部材1の下面とテーパ面17とのなす角度θ1は、スクリューネジ45の皿部の角度が通常60°程度に設定されるため、かかる角度と等しいかあるいは若干狭く設定されているのが好ましく、具体的には、30〜60°程度であるのが好ましく、40〜50°程度であるのがより好ましい。
【0039】
このような固定部材1は、骨同士、骨と骨補填材、または骨補填材同士を固定した際に、これら同士を強固に固定し得るような強度を有する材料で構成されていることが好ましい。また、固定部材1は、EOG(エチレンオキサイドガス)滅菌、オートクレーブ滅菌(湿熱滅菌)、γ線滅菌等の滅菌処理が可能な材料で構成されていることが好ましい。これにより、固定部材1に対して滅菌処理を施した場合に、固定部材1(固定部材1の構成材料)が変質、劣化することが防止される。このような材料としては、例えば、SUS316L、SUS304のようなステンレス鋼、チタンまたはチタン合金等が挙げられる。
【0040】
次に、固定部材1を用いた、骨に形成された骨欠損部への骨補填材の固定方法を図3〜図7に基づいて説明する。
【0041】
すなわち、骨と骨補填材とを固定部材1を用いて固定する固定方法を図3〜図7に基づいて説明する。
【0042】
なお、以下に示す固定方法では、図3に示すような頭蓋骨38の骨欠損部31に骨補填材43を固定部材1で固定する場合を一例に説明する。
【0043】
[1] まず、図4に示すように、頭蓋骨38に形成された骨欠損部31の形状に一致し、さらに、挿入孔44が予め形成された骨補填材43を用意する。
【0044】
なお、本実施形態では、骨補填材43の縁部を囲むように12箇所に挿入孔44が設けられており、後工程[3]において、これらのうち任意の隣接する2つの挿入孔44に対応するように1つの固定部材1が固定される。
【0045】
骨補填材43は、セラミックス材料を主材料として構成されたものが好ましい。セラミックス材料は加工性に優れているため、骨補填材43の形状に容易に成形することができる。
【0046】
また、セラミックス材料としては、各種のものが挙げられるが、特に、アルミナ、ジルコニア、リン酸カルシウム系化合物等のバイオセラミックスが好ましい。なかでもリン酸カルシウム系化合物は、優れた生体親和性を備えているため、骨補填材43の構成材料として特に好ましい。
【0047】
リン酸カルシウム系化合物としては、例えば、ハイドロキシアパタイト、フッ素アパタイト、炭酸アパタイト等のアパタイト類、リン酸二カルシウム、リン酸三カルシウム、リン酸四カルシウム、リン酸八カルシウム等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。また、これらのリン酸カルシウム系化合物のなかでもCa/P比が1.0〜2.0のものが好ましく用いられる。
【0048】
このようなリン酸カルシウム系化合物のうち、ハイドロキシアパタイトがより好ましい。ハイドロキシアパタイトは、骨の無機質主成分と同様の構造であるため、優れた生体適合性を有している。また、骨補填材43と頭蓋骨38との癒合を期待することもできる。
【0049】
また、ハイドロキシアパタイトは、優れた強度を有するため、後述するように、挿入孔44にスクリューネジ45を螺入することで、固定部材1を固定したとしても、挿入孔44の周辺で亀裂が生じ難く、固定部材1を固定しやすい。
【0050】
また、骨補填材43は、緻密体であっても、多孔質体であってもよいが、多孔質体であるのが好ましい。骨補填材43を多孔質体で構成することにより、骨補填材43内への骨芽細胞の侵入を可能とし、骨補填材43内において骨新生を行うことができ、特に、骨補填材43をハイドロキシアパタイトを主材料として構成する場合、骨補填材43自体と頭蓋骨38との癒合を確実に期待することができる。
【0051】
この骨補填材43の形成方法としては、特に限定されないが、例えば、骨補填材43がセラミックス材料を主材料として構成される場合、まず、セラミックス原料粉末を含むスラリーを調製し、このものを型内に充填した状態で乾燥することでブロック体を得、さらに、このブロック体を骨欠損部31の形状データに基づき機械加工して成形体を得る。そして、この成形体に挿入孔44を形成した後に、例えば炉等で成形体を焼成して焼結することにより骨補填材43が得られる。
【0052】
なお、これら挿入孔44は、骨補填材43の端部からの最短距離が、8〜10mm程度の位置に形成されているのが好ましい。挿入孔44をかかる位置に形成することにより得られる効果は、後に説明する。
【0053】
[2] 次に、得られた骨補填材43に滅菌処理を施した後、図5に示すように、骨補填材43を骨欠損部31に嵌め込む。すなわち、頭蓋骨38および骨補填材43の端面同士を突き合わせるようにする。これにより、頭蓋骨38の骨欠損部31は、骨補填材43で補填される。
【0054】
ここで、頭蓋骨38および骨補填材43の端面が当接面を構成し、これらが突き合わされた端面同士の間に境界線34が形成される。
【0055】
[3] 次に、図6に示すように、固定部材1の長辺12が、頭蓋骨38と骨補填材43との間の境界線34を跨ぐようにして、固定部材1を配置した後、頭蓋骨38と骨補填材43との双方を固定部材1で固定する。これにより、骨補填材43が骨欠損部31に固定部材1により固定される。
【0056】
このような頭蓋骨38と骨補填材43との固定に、固定部材1を適用すると、複雑な工程を経ることなく短時間に、強固にかつ低侵襲でこれらを固定することができるが、この点について、以下に示す具体的な固定部材1を用いた固定方法において説明する。
【0057】
[3−1] まず、固定部材1を、その長辺12が境界線34を跨ぐように配置する。
これにより、境界線34を跨いで、頭蓋骨38および骨補填材43の双方に、それぞれ、膨出部(固定部)16が2つずつ位置することとなる。その結果、貫通孔15は、その短径D1が境界線34の垂直方向とほぼ平行となり、長径D2が境界線34方向(境界線34と平行な方向)とほぼ平行となっている。すなわち、貫通孔15は、境界線34方向に長くなっている。
【0058】
ただし、このとき、貫通孔15の孔径が下側から上側に向かって漸増するように配置するともに、骨補填材43側に位置する膨出部16が備える貫通孔15が、挿入孔44に対応するように配置する。なお、本実施形態では、12個の挿入孔44のうち隣接する2つの挿入孔44に、2つの貫通孔15が対応するように配置する。
【0059】
この際、固定部材1の下面は、凹凸面で構成されているのが好ましい。これにより、固定部材1の上面と下面とを間違えて、貫通孔15の孔径が下側から上側に向かって漸減するように配置してしまうのを、確実に防止することができる。さらに、後工程[3−2]〜[3−3]において、固定部材1を頭蓋骨38または骨補填材43に固定する際に、凹凸面は、固定部材1が位置ズレするのを防止する滑り止め効果を発揮する。なお、このような凹凸面は、固定部材1の下面に、例えば、梨地加工またはショットブラスト加工等を施すことで容易に形成することができる。
【0060】
また、本実施形態では、固定部材1は枠体10が長方形状をなし、各長辺12の中点同士を結ぶ線分に対して線対称な形状をなしている。そのため、その長辺12が境界線34を跨ぐように配置すればよく、膨出部16のいずれの2つを頭蓋骨38または骨補填材43側に配置するかについては考慮する必要がない。
【0061】
[3−2] 次に、前記工程[3−1]の状態を保持したまま、スクリューネジ45を、骨補填材43側に位置する膨出部16が備える貫通孔15に挿通し、さらに挿入孔44に螺入する。
【0062】
すなわち、予め形成された挿入孔44に対応するように、膨出部16が有する貫通孔15を配置し、膨出部16が介在した状態で、挿入孔44にスクリューネジ45を螺入する。
これにより、固定部材1が骨補填材43に固定される。
【0063】
ここで、本工程[3−2]において、固定部材1を骨補填材43に固定する際に、上記のように、予め形成された挿入孔44に対応するように、膨出部16が有する貫通孔15を配置する必要がある。この際、骨補填材43がセラミックス材料を主材料として構成される場合、骨補填材43が備える挿入孔44は、骨補填材43の焼成前に、成形体に対して形成されている。そのため、骨補填材43が備える挿入孔44は、成形体に形成した挿入孔44に対して若干の位置ズレが生じている。
【0064】
しかしながら、本実施形態では、骨補填材43に対応するように配置された膨出部16が有する貫通孔15が上述したような長円をなしている。そのため、骨補填材43における挿入孔44の位置に若干の位置ズレが生じたとしても、挿入孔44の開口部に対応して、貫通孔15の開口部を確実に配置させることができる。したがって、スクリューネジ45を、貫通孔15に挿通した状態で、挿入孔44に螺入することで、固定部材1を骨補填材43に強固に固定することができる。
【0065】
[3−3] 次に、スクリューネジ45を、頭蓋骨38側に位置する膨出部16が備える貫通孔15に挿通した状態で、頭蓋骨38に螺入する。
【0066】
これにより、固定部材1が頭蓋骨38に固定される。その結果、前記工程[3−2]において、固定部材1が骨補填材43に固定されているため、固定部材1により、頭蓋骨38と骨補填材43とが固定される。
【0067】
特に、このような固定部材1の位置ズレは、境界線34方向に対してより高い確率で生じるため、本発明のように、貫通孔15を境界線34方向に長い長円とすることで、前記効果をより顕著に発揮させることができる。
【0068】
さらに、図7に示すように、頭蓋骨38および骨補填材43は、湾曲凸面を構成しているが、その曲率は、骨欠損部31の位置によって異なっている。そのため、骨欠損部31が形成されている位置に応じて、固定部材1を湾曲させて頭蓋骨38および骨補填材43の形状に対応させる必要がある。このように個々の症例に応じて、固定部材1を変形させる場合においても、本発明では、貫通孔15が長円で構成されているため、挿入孔44の開口部に対応して、貫通孔15の開口部を確実に配置させることができる。
【0069】
また、上述したように、挿入孔44が形成されている位置が、骨補填材43の端部すなわち境界線34からの最短距離が8〜10mm程度の大きさとなる位置に設定されている場合、境界線34から貫通孔15までの最短距離L3も同様に8〜10mm程度の大きさとなる。境界線34から貫通孔15までの最短距離L3、すなわち境界線34と貫通孔15との離間距離をかかる範囲内に設定することにより、境界線34から貫通孔15までの離間距離を充分に確保することができる。そのため、たとえ固定部材1に外部応力が作用したとしても、固定部材1の長辺12が撓み、亀裂が生じてしまうことを防止することができる。
【0070】
なお、本実施形態では、上述したように、貫通孔15の内面は、貫通孔15の下側から上側に向かってその孔径が漸増するテーパ面17を構成している。そのため、前記工程[3−2]および本工程[3−3]において、それぞれ、スクリューネジ45を貫通孔15に挿入した状態で頭蓋骨38および骨補填材43に螺入した際に、スクリューネジ45の皿部(頭部)が貫通孔15内に嵌入されることで、固定部材1が頭蓋骨38および骨補填材43に固定される。これにより、スクリューネジ45の頭部が固定部材1から突出してしまうのを抑制または防止することができる。
【0071】
また、本実施形態では、12個の挿入孔44のうち隣接する2つの挿入孔44を選択し、これらの挿入孔44に対応して固定部材1を固定することとしたが、本実施形態のように2つの固定部材1を固定する場合には、少なくとも4つの挿入孔44が骨補填材43に設けられていればよい。
【0072】
以上のような工程を経て、骨欠損部31に充填された骨補填材43が固定部材1を用いて頭蓋骨38に固定される。
【0073】
上記のように、固定部材1を用いた頭蓋骨38と骨補填材43との固定は、固定部材1が備える貫通孔15にスクリューネジ45を挿入した状態で、このものを頭蓋骨38および骨補填材43に螺入するという比較的単純な操作(工程)で行うことができる。そのため、固定部材1の固定のために要する時間が短時間となるため、患者の負担を低減させることができる。
【0074】
さらに、固定部材1およびスクリューネジ45の双方が、頭蓋骨38の内側、すなわち脳側に位置することなく、低侵襲で骨補填材43の頭蓋骨38への固定を実施することができるので、かかる観点からも、患者の負担を低減させることができる。
【0075】
なお、本実施形態では、各貫通孔15が長円(楕円)をなし、2つの焦点を結ぶ線分と境界線34方向とがほぼ平行である場合について説明したが、かかる場合に限定されず、各貫通孔15は、前記線分と境界線34方向とがズレており、そのなす角度θ2が10〜20°程度となっているものであってもよい。
【0076】
この場合、各貫通孔15における2つの焦点を結ぶ線分と境界線34方向とがズレる方向の組み合わせは、特に限定されず、例えば、図8(a)に示すように、頭蓋骨38側に位置する2つの膨出部16および骨補填材43側に位置する2つの膨出部16の双方が備える貫通孔15において、枠体10の内側に位置する焦点が枠体10の内側に向かってズレている場合や、図8(b)に示すように、頭蓋骨38側に位置する2つの膨出部16および骨補填材43側に位置する2つの膨出部16の双方が備える貫通孔15において、枠体10の内側に位置する焦点が枠体10の外側に向かってズレている場合が挙げられる。
【0077】
さらに、各貫通孔15は、長円状をなしていればよく、本実施形態のように、楕円状をなすものの他、例えば、図9に示すように、円弧状に湾曲した長円状をなすものであってもよい。
【0078】
なお、長円の形状およびこのものをずらす方向は一例であり、目的に応じて、これらを組み合わせることができる。
【0079】
また、本実施形態では、4つの貫通孔15が全て長円(楕円)をなす場合について説明したが、かかる場合に限定されず、少なくとも1つの貫通孔15が、長円をなしていればよく、他の貫通孔15は真円であってもよい。
【0080】
この場合、長円と真円との組み合わせは、例えば、図10に示すように、頭蓋骨38側に位置する2つの膨出部16が備える貫通孔15が真円であり、さらに骨補填材43側に位置する2つの膨出部16が備える貫通孔15のうち1つが真円であり1つが長円である場合が挙げられる。すなわち、骨補填材43側に位置する1つの膨出部16が備える貫通孔15のみが長円である場合が挙げられる。かかる構成とすることにより、長円をなす貫通孔15によって位置ズレを吸収できるとともに、3つの真円をなす貫通孔15ではスクリューネジ45との間で遊びが生じないため、経時的な固定部材1の緩みを的確に抑制または防止することができる。
【0081】
さらに、本実施形態では、4つの膨出部16が備える貫通孔15で、頭蓋骨38に骨補填材43を固定することとしたが、貫通孔15は、4つ以上であればよく、6つや8つの膨出部16が備える貫通孔15で、頭蓋骨38と骨補填材43とを固定するようにしてもよい。
【0082】
また、骨補填材43を頭蓋骨38に固定する術場には、固定部材1を複数個備えている固定部材セット(本発明の固定部材セット)を準備しておくのが好ましい。さらに、この場合、複数の固定部材1のうちの少なくとも1つは、他の固定部材1と比較して、長辺12の長さ、すなわち、境界線34を跨ぐ膨出部16同士の離間距離が異なっているのが好ましい。これにより、頭蓋骨38面の凹凸形状に応じて、適当な長さの固定部材1を選定することが可能となる。その結果、いかなる状況下においても、頭蓋骨38と骨補填材43との固定を、強固にかつ低侵襲で行うことができる。
【0083】
以上の固定方法では、骨補填材を補填する骨の代表として頭蓋骨を例に説明したが、本発明の固定部材を用いて骨補填材が固定される骨は、上記頭蓋骨に限らず、頬骨、顎骨等の他の骨にも適用することができる。
【0084】
さらに、以上の固定方法では、骨と骨補填材とを固定する場合について説明したが、本発明の固定部材を用いて固定されるものの組み合わせは、かかる場合に限定されず、骨同士の組み合わせや、骨補填材同士の組み合わせであってもよい。
【0085】
以上のように、本発明の固定部材および固定部材セットを添付図面に示す好適実施形態に基づいて詳細に説明したが、本発明は、これに限定されるものではない。
【0086】
例えば、上記の実施形態では、連結部は、その全体形状は、長方形の枠状をなしていたが、四角形の枠状をなしていればよく、例えば、正方形や台形の枠状をなしていてもよい。
【0087】
また、上記の実施形態では、骨補填材に予め挿入孔が形成されていることとしたが、かかる場合に限定されず、挿入孔は、術場において術者が直接骨補填材に形成するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0088】
1 固定部材
10 枠体
11 短辺
12 長辺
15 貫通孔
16 膨出部
17 テーパ面
31 骨欠損部
34 境界線
38 頭蓋骨
43 骨補填材
44 挿入孔
45 スクリューネジ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
骨同士、骨と骨補填材、または骨補填材同士を固定するために用いられる固定部材であって、
それぞれ1つの貫通孔を備える4つ以上の固定部と、該固定部同士を連結する連結部とを有し、
少なくとも1つの前記貫通孔は、当該固定部材を前記骨同士、前記骨と前記骨補填材、または前記骨補填材同士の境界線を跨いで、これらに前記固定部が少なくとも2つずつ位置するように配置したとき、前記境界線方向に長い長円で構成されていることを特徴とする固定部材。
【請求項2】
前記連結部は、その全体形状が四角形の枠状をなし、前記固定部は、4つであり、それぞれ前記連結部の4角に配置されている請求項1に記載の固定部材。
【請求項3】
前記四角形は長方形であり、該長方形の長辺が前記境界線を跨ぐ請求項2に記載の固定部材。
【請求項4】
前記貫通孔は、該貫通孔を備える前記固定部に連結する前記連結部の軸線上に位置する請求項2または3に記載の固定部材。
【請求項5】
前記骨と前記骨補填材、または前記骨補填材同士を固定するために用いられ、予め前記骨補填材に形成された挿入孔に対応するように、前記固定部が有する前記貫通孔を配置し、前記固定部が介在した状態で、前記挿入孔にスクリューネジを螺入することで前記骨補填材に固定される請求項1ないし4のいずれかに記載の固定部材。
【請求項6】
前記境界線と前記挿入孔との最短距離は、8〜10mmである請求項5に記載の固定部材。
【請求項7】
前記貫通孔は、その内面が前記骨または前記骨補填材側からその反対側に向かってその孔径が漸増するテーパ面を構成する請求項1ないし6のいずれかに記載の固定部材。
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれかに記載の固定部材を複数個備えていることを特徴とする固定部材セット。
【請求項9】
前記固定部材の少なくとも1つは、他の前記固定部材と比較して、前記境界線を跨ぐ前記固定部同士の離間距離が異なっている請求項8に記載の固定部材セット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−217768(P2011−217768A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−86391(P2010−86391)
【出願日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【出願人】(000113263)HOYA株式会社 (3,820)
【Fターム(参考)】