説明

固形マーキングペン

【課題】X線照射による検査に使用するペンとして、十分にX線を遮蔽する性質を備えるペンを得ること、さらに人体への安全性にも優れたX線識別性インキを提供する。
【解決手段】ビスマス及び/又はビスマス化合物を含有する固形マーキングペン。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、X線遮蔽ペンに関するものである。
【背景技術】
【0002】
異物混入や、内部の状況を知るためにX線透過による検査が一般になされている。
しかしながら、検査物に対して通常のペン等でマーキングした場合、通常のマーキングペンではX線を透過させるために、X線検査の画面では認識することができない。
【0003】
特許文献1には、X線により撮影及び識別することができる印刷面または塗装面を形成するためのX線識別性インキにおいて、前記X線識別性インキがX線不透過性の顔料とインキビヒクルからなることを特徴とするX線識別性インキであって、該X線不透過性の顔料がバリウム化合物であるインキが記載されている。
特許文献2には、タングステン微粉末100重量部当たり、樹脂分15〜5重量部と溶剤を含んでなる放射線遮蔽インキ、及び該インキはX線を遮蔽することが記載されている。
【0004】
このように、一般的に密度が大きい物質や原子番号の大きな物質がX線遮蔽性に優れると考えられることから、バリウム化合物やタングステン微粉末を含有した上記のインキを使用していたが、これらのインキはX線遮蔽の度合いが低いので、X線を照射して筆記部分を確認することが十分に行えなかった。さらに、バリウムは鉛に対して遮蔽性が小さく、遮蔽性が大きい鉛の場合には人体への悪影響を及ぼす恐れがあり、安全性に問題がある。
【0005】
また、バリウム化合物やビスマス化合物に関して、特許文献3に記載されているように、BaフェライトやMnBi磁性粉末を含有する磁気インキにより印刷を行うことによって、銀行券等の偽造防止を図ることや、特許文献4に記載されているように、医療用X線造影ガーゼ及び、衣類用の印刷インキにX線造影剤を配合してなるインキが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平03−009968号公報
【特許文献2】特開2001−081385号公報
【特許文献3】特開2002−063555号公報
【特許文献4】特開2003−093432号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記の従来技術において、ビスマス化合物を含有しないX線識別性インキやX線を遮蔽するインキを使用して、例えばX線透過による検査を行う場合には、X線遮蔽の度合いが低いために検査効率が低下する等の支障が生じていた。
またバリウム化合物やビスマス化合物等のX線遮蔽性材料を配合してなる印刷インキを使用するものであっても、銀行券等への印刷に使用する磁気インクや、医療用X線造影ガーゼである等、弱いながらもX線の遮蔽が認められればよい用途に使用されるのであって、これらの印刷インキは液体であるために、多くのインキを被印字部に供給することができないため、印字部には多量のX線遮蔽材料を含有させることが困難であり、ひいてはX線遮蔽効果を高くすることが困難であった。
【0008】
このため、X線照射による検査に使用するペンとして、十分にX線を遮蔽する性質を備えるペンを得ること、さらに人体への安全性にも優れたX線識別性インキを得ることが必要とされてきた。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために、本発明者が鋭意検討を重ねた結果、下記の手段を採用することにより、上記の課題が解決されることを見出した。
1.ビスマス及び/又はビスマス化合物を含有する固形マーキングペン。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、使用するX線遮蔽材料がより高いX線遮蔽効果を備えて、十分なX線遮蔽性を示す固形マーキングペンを得ることができ、且つ人体に安全なX線遮蔽材料を使用することができる。これによって、液体のインキよりも筆記部に十分な量のX線遮蔽材料を含有させることが可能であるために、X線検査時において該固形マーキングペンによる筆記部を十分に確認できるので、確認のために手間を取ることがなく検査を円滑に進めることができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明はビスマス及び/又はビスマス化合物を含有する固形マーキングペンであって、上記の効果を奏するためにビスマス及び/又はビスマス化合物を含有させることに特徴を有するものである。そこで、以下において順に説明する。
【0012】
[本発明のマーキングペンの形態]
本発明のマーキングペンの形態としては、クレヨン、クレパス等の固形の描画材と同程度の柔らかいものから、鉛筆の芯の程度の硬さのものまで、ビスマス及び/又はビスマス化合物以外の成分を調整することによって得ることができる。
【0013】
[ビスマス及び/又はビスマス化合物]
本発明におけるビスマス及び/又はビスマス化合物は顔料として使用されるものであり、金属ビスマス粉、酸化ビスマス、硝酸ビスマス、オキシ塩化ビスマス、ジ没食子酸ビスマス、サリチル酸ビスマス、炭酸ビスマス、チタン酸ビスマスナトリウムを使用することができ、中でも金属ビスマス粉、酸化ビスマス、オキシ塩化ビスマスが好ましい。
ビスマス及び/又はビスマス化合物の形状は球状でも良いが、鱗片状でも良い。
鱗片状の場合には、滑り性の向上と共に筆記性も向上し、さらに筆記部に鱗片状ビスマス及び/又はビスマス化合物が並び、筆記部を覆うので、さらに効率良くX線を遮蔽することが可能になる。
【0014】
本発明のマーキングペンにおけるビスマス及び/又はビスマス化合物の含有比率としては15〜80wt%であり、好ましくは40〜70wt%、特に好ましくは50〜60wt%である。
15wt%未満であると、筆記後のX線照射による筆記部の検知時において、X線遮蔽率が低下するために十分な検知が困難になる。一方80wt%を超えると、書き味が悪化したり、濃度が高すぎて製造が困難になる。
ビスマス及び/又はビスマス化合物の粒子径は、1〜30μmであり、好ましくは5〜20μmである。1μm未満では、X線を十分に遮蔽できない可能性があり、30μmを超えると筆記性が悪化する。
【0015】
[体質顔料]
本発明のマーキングペンにおいて使用できる体質顔料としては、周知の体質顔料を使用することができ、なかでも粒径が細かい体質顔料を使用することによって、筆記時の滑り性を向上させることが可能である。
本発明にて使用できる体質顔料としては、例えば、カオリン、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、含水ケイ酸、無水ケイ酸、水酸化アルミニウム、ケイ酸アルミ、硫酸バリウム等であり、中でも炭酸カルシウムや硫酸バリウムが好ましい。特に硫酸バリウムを使用する場合には、該硫酸バリウム自体にX線遮蔽性が備わっているので、筆記時の滑り性と共に本発明のマーキングペンによるX線遮蔽性をさらに向上させることが可能となる。
【0016】
本発明のマーキングペンにおける体質顔料の含有比率としては、5〜30wt%であり、20〜30wt%とすることがより好ましい。
5wt%未満であると、マーキングペンの柔軟性が低下して折れやすくなり、一方、30wt%を超えると書き味が悪化すると共に、マーキングペン自体が崩れやすくなる。
体質顔料の粒径は通常のマーキングペンにて使用する体質顔料の粒子径と変わることがなく、1〜30μm程度である。
【0017】
[ワックス]
本発明のマーキングペンにおいて使用できるワックスとしては、マーキングペン用に周知のワックスを使用することができる。例えば、木蝋、蜜蝋、カルナウバワックス、牛脂硬化油、α−オレフィン、ラード、パラフィンワックスを使用することができる。なかでもパラフィンワックス、牛脂硬化油、カルナウバワックスが好ましい。
本発明のマーキングペンにおけるワックスの含有比率は10〜80wt%、好ましくは10〜30wt%である。
10wt%よりも少ないと、マーキングペンの書き味が悪化する可能性があり、80wt%を超えると、マーキングペンの柔軟性が低下して折れやすくなり、また、固形分の量が減少するので、着色性が低下する可能性がある。
【0018】
[オイル]
本発明のマーキングペンにおいて使用できるオイルとしては、マーキングペン用に周知のオイルを使用することができる。例えば、流動パラフィン、スピンドルオイル、ヤシ油、ひまし油を使用することができる。なかでも流動パラフィンが好ましい。
本発明のマーキングペンにおけるオイルの含有比率は3〜20wt%、好ましくは5〜15wt%である。
この含有比率が3wt%よりも少ないと、マーキングペンによる着色性が低下する可能性があり、20wt%を超えると、耐熱性が低下すると共に、手にべたつく等の支障が発生する可能性がある。
【0019】
[その他の成分]
本発明のマーキングペンにおいて使用できるその他の成分として、着色剤として公知の染料や着色顔料を使用することができ、この着色剤によって本発明のマーキングペンを着色することによって、X線による検知のみならず、肉眼によっても、より明確に本発明のマーキングペンによる筆記部を確認することが可能となる。
染料としては、塩基性染料、直接染料、酸性染料等の各種の染料を使用でき、具体的にはフタロシアニン系、キナクリドン系、ジケトピロロピロール系、ハロゲン化フタロシアニン系、イソインドリノン系、アゾメチン金属錯体系、インダンスロン系、ペリレン系、ペリノン系、アントラキノン系、ジオキサジン系、ベンゾイミダゾロン系、縮合アゾ系、トリフェニルメタン系、キノフタロン系、アントラピリミジン系等の染料である。
顔料としては、無機顔料や有機顔料を使用することができ、例えば、酸化チタン、酸化鉄、亜鉛華、コバルトブルー、群青、黄鉛、カーボンブラック、フタロシアニン系、アンスラキノン系、アゾ系、キナクリドン系等が挙げられる。
さらに、樹脂、酸化防止剤、紫外線吸収剤、香料等の、固形のマーキングペンに配合される周知の材料を使用することが可能である。
【実施例】
【0020】
[固形マーキングペンの製造]
【0021】
下記の表に示す材料を用いて固形マーキングペンを製造した。実施例においては、ワックス1及び2を混合した上で加熱溶解し、その溶融物にオイル、炭酸カルシウム、酸化ビスマス、硫酸バリウムを混合して攪拌し、これを金型に流し込んだ後、冷却して金型から取り出すことによって固形マーキングペンを製造する方法を採用した。
(表1)

【0022】
[評価方法]
文字の認識は、紙やタイヤに文字を書き、これにX線を照射して透過させることによって評価を行った。具体的にはX線照射時の文字の認識度合いを評価した。
○:はっきりと認識可能
△:うっすらと認識可能
×:認識不可能
【0023】
表1に記載された結果によれば、ビスマス及び/又はビスマス化合物を使用しない比較例1の固形マーキングペンでは、紙に書いた文字はX照射によってはっきりと認識できたので、その文字部のX線透過率は文字部以外の箇所と比較して十分に小さいといえるが、タイヤに文字を書いた場合には、文字部と文字部以外のX線透過率の差が大きくないので、文字の認識が不可能であった。
この比較例の結果によれば、硫酸バリウム自体のX線遮蔽効果が小さいので、紙のようなX線を透過しやすい材料に固形マーキングペンを使用すると文字を認識できるが、よりX線を透過しないタイヤに使用すると、文字部のX線透過率と文字部以外のX線透過率に大きく差が表れないといえる。
これに対して、本発明による実施例1〜3に記載の固形マーキングペンは、紙及びタイヤのいずれに文字を書いた場合であっても、ビスマス化合物のX線遮蔽効果が大であるから、X線を透過させた際の文字の認識をはっきりとすることができるという効果を奏するのである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビスマス及び/又はビスマス化合物を含有する固形マーキングペン。

【公開番号】特開2012−126820(P2012−126820A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−279287(P2010−279287)
【出願日】平成22年12月15日(2010.12.15)
【出願人】(390039734)株式会社サクラクレパス (211)
【Fターム(参考)】