説明

固形医薬組成物及び医薬製剤

【課題】プロピオン酸系又は酢酸系の非ステロイド性抗炎症薬が、低温保存時において結晶化することを抑制し、溶出性が低温保存後でも維持された固形医薬組成物を提供する。
【解決手段】(A)プロピオン酸系又は酢酸系の非ステロイド性抗炎症薬と、(B)アミノアルキルメタアクリレートコポリマーEと、(C)乾燥水酸化アルミニウムゲル又はメタケイ酸アルミン酸マグネシウムとを含有する固形医薬組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロピオン酸系又は酢酸系の非ステロイド性抗炎症薬を含有する固形医薬組成物及び医薬製剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
カルボキシル基を有する酸性非ステロイド性抗炎症薬(イブプロフェンやロキソプロフェン等のプロピオン酸系、インドメタシンやジクロフェナク酢酸系)には、水への溶解性が低い難溶性薬物が多い。難溶性薬物の溶解性を向上させ溶出速度を高める技術として、難溶性薬物と高分子化合物とを含有する組成物とする技術が知られている(特許文献1:特開平3−83922号公報、特許文献2:特開平8−291063号公報)。
【0003】
例えば、特許文献2:特開平8−291063号公報には、カルボキシル基を含有する難溶性薬物、特定のアミノ基含有高分子化合物及び賦形剤を含む易吸収性製剤が提案されている。しかしながら、この易吸収性製剤は、経時的に、特に低温下での保存において難溶性薬物の結晶化が進み、溶解性の低下が生じる。このことから、プロピオン酸系又は酢酸系の非ステロイド性抗炎症薬が、低温保存時において結晶化することを抑制し、溶出性が低温保存後でも維持される低温安定化が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平3−83922号公報
【特許文献2】特開平8−291063号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記事情に鑑みなされたもので、非晶質のプロピオン酸系又は酢酸系の非ステロイド性抗炎症薬が、低温保存時において再結晶化することを抑制し、上記成分の溶出性が低温保存後でも維持された固形医薬組成物及び医薬製剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討した結果、(A)プロピオン酸系又は酢酸系の非ステロイド性抗炎症薬と、(B)アミノアルキルメタアクリレートコポリマーEと、(C)水酸化アルミニウム又はメタケイ酸アルミン酸マグネシウムとを併用することで、(A)成分が低温保存時において再結晶化することを抑制し、溶出性が低温保存後でも維持されることを知見し、本発明をなすに至ったものである。
【0007】
従って、本発明は、下記固形医薬組成物及び医薬製剤を提供する。
[1].(A)プロピオン酸系又は酢酸系の非ステロイド性抗炎症薬と、(B)アミノアルキルメタアクリレートコポリマーEと、(C)水酸化アルミニウム又はメタケイ酸アルミン酸マグネシウムとを含有する固形医薬組成物。
[2].(B)/(A)で表される、(A)成分に対する(B)成分の含有質量比が0.3〜3であり、(C)/(A)で表される、(A)成分に対する(C)成分の含有質量比が0.3〜5である、[1]記載の固形医薬組成物。
[3].(A)プロピオン酸系又は酢酸系の非ステロイド性抗炎症薬と、(B)アミノアルキルメタアクリレートコポリマーEとの加熱混合物と、(C)水酸化アルミニウム又はメタケイ酸アルミン酸マグネシウムとを含有する固形医薬組成物。
[4].[1]〜[3]のいずれかに記載の固形医薬組成物を配合してなり、錠剤、粒状剤、細粒剤又はカプセル剤である医薬製剤。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、非晶質のプロピオン酸系又は酢酸系の非ステロイド性抗炎症薬が、低温保存時において再結晶化することを抑制し、溶出性が低温保存後でも維持された固形医薬組成物及び医薬製剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明について詳細に説明する。
(I)固形医薬組成物
本発明の固形医薬組成物は、(A)プロピオン酸系又は酢酸系の非ステロイド性抗炎症薬と、(B)アミノアルキルメタアクリレートコポリマーEと、(C)水酸化アルミニウム又はメタケイ酸アルミン酸マグネシウムとを含有するものである。
【0010】
(A)プロピオン酸系又は酢酸系の非ステロイド性抗炎症薬
プロピオン酸系、酢酸系とは、それぞれプロピオン酸基、酢酸基を有するものをいい、1種単独で又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。非ステロイド性抗炎症薬としては公知のものが挙げられ、例えば、プロピオン酸系非ステロイド性抗炎症薬としては、イブプロフェン、ケトプロフェン、ナプロキセン、フルルビプロフェン、ロキソプロフェンナトリウム等が挙げられる。酢酸系非ステロイド性抗炎症薬としては、ジクロフェナク、ジクロフェナクナトリウム、インドメタシン、フェルビナク等が挙げられる。中でも、イブプロフェンが好ましい。(A)成分を配合することで解熱鎮痛効果を得ることができる。
【0011】
(A)成分の含有量は内服薬への配合許容範囲内(医薬品承認基準量)であれば、特に限定されない。OTC医薬品とする場合、例えば、イブプロフェン1日量として200〜600mgが好ましく、390〜450mgがより好ましい。また、固形医薬組成物中に1〜57質量%が好ましく、5〜50質量%がより好ましく、10〜50質量%がさらに好ましい。
【0012】
(B)アミノアルキルメタアクリレートコポリマーE
アミノアルキルメタアクリレートコポリマーEは、化学名:メタアクリル酸メチル・メタアクリル酸ブチル・メタアクリル酸ジメチルアミノエチルコポリマーであり、医薬品添加物規格又は日本薬局方外医薬品成分規格に記載された成分である。上記(B)成分としては、市販のものを用いることができ、例えば、エボニック社のオイドラギットE100、オイドラギットEPO(モノマーモル比;メタクリル酸メチル1:メタクリル酸ブチル1:メタクリル酸ジメチルアミノエチル2、いずれも商品名)等が挙げられ、1種単独で又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。
【0013】
(A)成分は水難溶性の薬物で、溶出性の改善が課題であるが、(A)成分と(B)成分とを混合し複合化することで、(A)成分の溶出性が向上する。そのメカニズムは不明であるが、(A)プロピオン酸系又は酢酸系の非ステロイド性抗炎症薬が有するカルボキシ基と、(B)成分の(メタアクリル酸ジメチルアミノエチル)のアミノ基とで、(A)成分と(B)成分とが複合化するものと予想される。複合化は(A)成分が非晶質化(非結晶化)することにより確認することができる。(A)成分の非晶質化は、例えば、DSCやXRD等での(A)成分のピークにより確認することができる。
【0014】
(B)成分の含有量は内服薬として許容される範囲内(医薬品使用前例量)であれば、特に限定されないが、1日量としては60〜1800mgが好ましく、100〜1200mgがより好ましい。また、(B)/(A)で表される、(A)成分に対する(B)成分の含有質量比が0.3〜3が好ましい。上記比率を0.3以上とすることで、(A)成分の溶出性向上、経時での凝集固化抑制という、本発明の効果がより良好となり、3を超えると、混合機や打錠機等の製造機器への付着が生じ、均一混合、打錠が困難となるといった製造上の課題を生じるおそれがある。さらに、溶出性の点から下限は0.4以上がより好ましく、0.5以上がさらに好ましい。また、製造のしやすさから、上限は2.5以下がより好ましく、2以下がさらに好ましい。特に好ましい範囲は0.5〜1.5であり、最も好ましい範囲は0.8〜1.0である。なお、本発明の効果は、(B)成分の含有量よりも、(A)成分に対する(B)成分の含有質量比の影響が大きく、(B)成分の含有量は特に限定されないが、固形医薬組成物中に0.1〜50質量%が好ましく、1〜50質量%がより好ましく、1〜30質量%がさらに好ましい。
【0015】
(C)水酸化アルミニウム又はメタケイ酸アルミン酸マグネシウム
水酸化アルミニウム、メタケイ酸アルミン酸マグネシウムは制酸剤であるが、これらの成分を配合することで、非晶質の(A)成分が、低温保存時において再結晶化することを抑制し、溶出性が低温保存後でも維持される。
【0016】
(C)成分の含有量は内服薬として許容される範囲内(医薬品承認基準量)であれば、特に限定されないが、1日量としては200〜1500mgが好ましく、200〜1300mgがより好ましい。また、(C)/(A)で表される、(A)成分に対する(C)成分の含有質量比は0.3〜5が好ましい。具体的には、再結晶化抑制の点から、0.3以上が好ましく、さらに(A)成分の溶出性の点から、0.5以上がより好ましい。また、上記比率が高すぎると、組成配合量が多くなり、服用性低下、経済的でない等の課題が生じるおそれがあるため、5以下とすることが好ましく、4以下がより好ましい。
なお、本発明の効果は、(A)成分に対する(C)成分の含有質量比の影響が大きく、(C)成分の含有量は特に限定されないが、固形医薬組成物中に1〜50質量%が好ましく、10〜30質量%がより好ましく、15〜20質量%がさらに好ましい。
【0017】
(D)ヒドロキシプロピルセルロース
上記(A)〜(C)成分を湿式造粒する場合、バインダーとしてヒドロキシプロピルセルロースを用いることにより、イブプロフェン造粒物の固化を防止し、高溶出状態に保つことができ、溶出性を向上させることができる。
【0018】
(D)成分の含有量は、内服薬として許容される範囲内であれば特に限定されないが、湿式造粒のバインダーとして使用する場合、被造粒物100質量%に対するヒドロキシプロピルセルロースの量は特に限定されないが、0.1〜20質量%が好ましく、1〜10質量%がより好ましい。ヒドロキシプロピルセルロースとしては、市販のものを用いることができ、例えば、日本曹達社のHPC−SSL、HPC−SL、HPC−L、HPC−M、HPC−H等が好適に使用できる。
【0019】
本発明の固形医薬組成物には、上記成分以外に本発明の効果を損なわない範囲で、(E)アセトアミノフェンを配合することが好ましい。アセトアミノフェンは、解熱鎮痛薬又は鎮痛補助薬であるが、驚くべきことに、(A)成分と(B)成分とを含有する組成物に、(E)成分を配合することにより、経時での凝集固化がより抑制され、経時でも溶出性が維持される。
【0020】
(E)成分の含有量は内服薬として許容される範囲内であれば、特に限定されないが、アセトアミノフェンの1日量としては60〜1800mgが好ましく、100〜1200mgがより好ましい。
【0021】
また、(E)/(A)で表される、(A)成分に対する(E)成分の含有質量比が0.3〜3が好ましい。上記比率を0.3以上とすることで、(A)成分の溶出性向上、経時での凝集固化抑制という、本発明の効果がより良好となり、3を超えると、混合機や打錠機等の製造機器への付着が生じ、均一混合、打錠が困難となるといった製造上の課題を生じるおそれがある。さらに、溶出性の点から下限は0.4以上がより好ましく、0.5以上がさらに好ましい。また、製造のしやすさから、上限は2.5以下がより好ましく、2以下がさらに好ましい。なお、本発明の効果は、(A)成分に対する(E)成分の含有質量比の影響が大きく、(E)成分の含有量は特に限定されないが、固形医薬組成物中に1〜70質量%が好ましく、5〜60質量%がより好ましく、5〜50質量%がさらに好ましい。
【0022】
本発明の固形医薬組成物には、上記成分以外に本発明の効果を損なわない範囲で、他の成分を適量配合することができる。これらは1種単独で又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。その他の成分としては、例えば、上記成分以外の医薬品の有効成分や機能性食品の機能成分等の生理活性成分、結合剤、崩壊剤等の賦形剤、滑沢剤、香料、矯味剤(甘味料、酸味料等)、界面活性剤等が挙げられる。なお、(A)成分の溶出性を向上させ、組成物の凝集を抑制する点から、二酸化珪素をさらに配合するとよい。
【0023】
具体的には、生理活性成分としては、アスピリン、アセトアミノフェン、エトドラック、メフェナミック、メクロフェナミック、ピロキシカム、イソプロピルアンチピリン、トラネキサム酸等の(A)成分以外の抗炎症剤;ニトラゼパム、トリアゾラム、フェノバルビタール、アミバルビタ−ル、アリルイソプロピルアセチル尿素、ブロムワレニル尿素等の催眠・鎮静剤;フェニトイン、メタルビタール、プリミドン、クロナゼパム、カルバマゼピン、バルプロ酸等の抗てんかん剤;塩酸メクリジン、ジメンヒドリナート等の鎮うん剤;イミプラニン、ノキシプチリン、フェネルジン等の抗うつ剤;ハロペリドール、メプロバメート、クロルジアゼポキシド、ジアゼバム、オキサゼバム、スルピリド等の精神神経用剤;パパベリン、アトロピン、エトミドリン等の鎮けい剤;ジゴキシン、ジギトキシン、メチルジゴキシン、ユビデカレノン等の強心剤;ピンドロール、アジマリン、ジソピラミド等の不整脈剤;ヒドロクロロチアジド、スピロノラクトン、トリアムテレン、フロセミド、ブメタニド等の利尿剤;レセルピン、メシル酸ジヒドロエルゴトキシン、塩酸プラゾシン、メトプロロール、プロプラノロール、アテノロール等の抗高血圧剤;ニトログリセリン、硝酸イソソルビド、ジルチアゼム、ニフェジピン、ジピリダモール等の冠血管拡張剤;ノスカピン、サルブタモール、プロカテロール、ツロプテロール、トラニラスト、臭化水素酸デキストロメトルファン、リン酸ジヒドロコデイン等の鎮咳剤;ブロムヘキシン塩酸塩、アンブロキソール塩酸塩、グアイフェネシン等の去痰剤;ニカルジピン、ピンポセチン等の脳循環改善剤;塩酸メチルエフェドリン等の交感神経興奮剤;エリスロマイシン、ジョサマイシン、クロラムフェニコール、テトラサイクリン、リファンピシン、グリセオフルビン等の抗生物質;ジフェンヒドラミン、プロメタジン、メキタジン、クレマスチンフマル酸塩等の抗ヒスタミン剤;トリアムシノロン、デキサメタゾン、ベタメタゾン、プレドニソロン、ダナゾール、メチルテストステロン、酢酸クロルマジノン等のステロイド剤;ビタミンA類、ビタミンB類、ビタミンC類(アスコルビン酸等)、ビタミンD類、ビタミンE類、ビタミンK類、葉酸(ビタミンM類)等のビタミン剤;ジメチコン、ファモチジン、ラニチジン、シメチジン、ニザチジン、メトクロプラミド、ファモチジン、オメプラゾール、スルピリド、トレピブトン、スクラルファート、制酸剤(合成ヒドロタルサイト、酸化マグネシウム等)等の消化器系疾患治療剤;カフェイン、ジクマロール、シンナリジン、クロフィブラート、ゲファルナート、ブロベネシド、メルカプトプリン、メトトレキサート、ウルソデスオキシコール酸、メシル酸ジヒドロエルゴタミン、グルクロノラクトン、γ−アミノ酪酸、コンドロイチン、コンドロイチン硫酸ナトリウム、ラクトフェリン、乳性タンパク、システイン、コラーゲン等が挙げられる。
【0024】
結合剤としては、例えば、澱粉、α化デンプン、ショ糖、ゼラチン、アラビアゴム末、メチルセルロース、カルメロース、カルメロースカルシウム、カルメロースナトリウム、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、プルラン、デキストリン等を用いることができる。
【0025】
賦形剤としては、例えば、カルメロース、カルメロースカルシウム、カルメロースナトリウム、クロスカルメロースナトリウム、カルボキシメチルセルロースカルシウム、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、クロスポビドン等の崩壊剤;乳糖、コーンスターチ、タルク、結晶セルロース、粉糖、マンニトール、軽質無水ケイ酸、炭酸カルシウム、L−システイン等を用いることができる。
【0026】
滑沢剤としては、例えば、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ポリエチレングリコール、タルク、ステアリン酸、ショ糖脂肪酸エステル等を用いることができる。香料としては、例えば、メントール、リモネン、植物精油(ハッカ油、ミント油、ライチ油、オレンジ油、レモン油等)等が挙げられる。
【0027】
甘味料としては、例えば、サッカリンナトリウム、アスパルテーム、ステビア、グリチルリチン酸二カリウム、アセスルファムカリウム、ソーマチン、スクラロース、果糖等が挙げられる。
酸味料としては、例えば、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸、コハク酸、フマル酸、乳酸又はそれらの塩等が挙げられる。
界面活性剤としては、ノニオン界面活性剤、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、両性界面活性剤等が挙げられる。
【0028】
本発明の固形医薬組成物は、例えば下記方法で得ることができる。
(1).(A)、(B)及び(C)成分、必要に応じて(E)成分や他の任意成分を、ボーレ型混合機、V型混合機等にて混合し、室温付近で1晩熟成する。
(2).(A)、(B)及び(C)成分、必要に応じて(E)成分や他の任意成分を、流動層造粒、撹拌造粒、押出造粒等を用いて湿式造粒する。バインダーは上記(D)成分の液をバインダー液として添加することが好ましい。
(3).(A)、(B)及び(C)成分、必要に応じて(E)成分や他の任意成分を、ローラーコンパクター等にて乾式造粒することもできる。造粒条件によっては室温付近で1晩熟成が必要な場合がある。
(4).(A)、(B)及び(C)成分、必要に応じて(E)成分や他の任意成分を、ピンミルやボールミル等にて混合粉砕する。この場合は熟成不要である。
また、さらに、振動篩やコーミル、フラッシュミル、パワーミル等にて粉砕・解砕・整粒することができる。
(A)成分と(B)成分との混合は室温(20℃)以上であれば、特に限定されず、(B)成分により(A)成分が非晶質化される。
【0029】
本発明においては、(A)プロピオン酸系又は酢酸系の非ステロイド性抗炎症薬と、(B)アミノアルキルメタアクリレートコポリマーEとの加熱混合物を用いることが好ましい。本発明において、加熱混合物とは、(A)成分と(B)成分とを加熱混合し、冷却して固体としたものをいう。なお、加熱混合の温度は40℃以上が好ましく、50℃以上がより好ましく、70℃以上がさらに好ましい。上限は、変色等の安定性の点から100℃以下とすることが好ましい。冷却の温度は35℃以下が好ましく、30℃以下がより好ましく、放冷で常温にしてもよい。本発明は(C)成分を用いるため製法による影響は少ないが、加熱混合物とすることで、(B)成分により非晶質化した(A)成分が、低温保存時に再結晶化することを抑制し、低温保存後の溶出性が維持されやすい。
【0030】
加熱混合物を用いる方法としては、(A)成分と(B)成分とを上記加熱混合温度の範囲で加熱混合する工程を含むものであり、例えば、下記の方法が挙げられる。
(5).(A)、(B)及び(C)成分、必要に応じて任意成分を、上記加熱混合温度の範囲で加熱混合する方法。
(6).(A)及び(B)成分を上記加熱混合温度の範囲で加熱混合し、得られた加熱混合物と、(C)成分と、必要に応じて任意成分を、流動層造粒、撹拌造粒、押出造粒等を用いて湿式造粒する。バインダーは上記(D)成分の液をバインダー液として添加することが好ましい。
(7).(A)及び(B)成分を上記加熱混合温度の範囲で加熱混合し、得られた加熱混合物と、(C)成分と、必要に応じて任意成分を、ローラーコンパクター等にて乾式造粒することもできる。
(8).(A)及び(B)成分を上記加熱混合温度の範囲で加熱混合し、得られた加熱混合物と、(C)成分と、必要に応じて任意成分を混合する。
また、加熱後は環境温度、例えば、室温(20℃)への冷却工程や、振動篩やコーミル、フラッシュミル、パワーミル等にて粉砕・解砕・整粒する工程を含むこともできる。(E)成分を配合する場合は、特に制限されないが、(A)及び(B)成分を加熱混合する工程で添加することが好ましい。
【0031】
上述したように、本発明の固形医薬組成物は、(A)成分が非晶質化したもので、(A)成分と(B)成分とが複合した複合物である。本発明の固形医薬組成物の構造は、例えば、(A)成分が非晶質化し、共溶融した(A)成分と(B)成分とからなる複合物の表面に(C)成分が付着したり、複合物中に(C)成分が混在したり、その製法によって異なる。
【0032】
固形医薬組成物の平均粒径は20〜1000μmが好ましく、50〜850μmがより好ましく、80〜600μmがさらに好ましい。なお、平均粒径はレーザー回折散乱式粒度分布測定器(乾式)によるメジアン径(D50)である。
【0033】
(II)医薬製剤
固形医薬組成物は内服用とすることができ、そのまま(この場合は固形医薬組成物と医薬製剤は同じ組成である)、又は他の任意成分と混合して医薬製剤とすることができる。例えば、粒状剤(顆粒剤、細粒剤、散剤)としたり、さらに必要に応じて打錠して錠剤、カプセル剤等の内服用固形医薬製剤にしたりすることができる。固形医薬組成物の含有量は、60〜100質量%が好ましく、80〜100質量%がより好ましい。
【0034】
医薬製剤には、固形医薬組成物以外の任意成分を適量配合することができる。任意成分としては、錠剤、粒状剤、カプセル剤に配合される成分を、本発明の効果を損なわない範囲で配合することができる。これらの成分は1種単独で又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができ、その適量を配合することができる。任意成分としては、下記のものが挙げられる。なお、医薬製剤には、上記(C)成分を、固形医薬組成物とは別に配合することができる。医薬製剤中の(C)成分の含有量はOTC医薬品として許容される配合量であれば特に限定されないが、通常10〜60質量%が好ましい。
【0035】
具体的には、生理活性成分としては、アスピリン、アセトアミノフェン、エトドラック、メフェナミック、メクロフェナミック、ピロキシカム、イソプロピルアンチピリン、トラネキサム酸等の(A)成分以外の抗炎症剤;ニトラゼパム、トリアゾラム、フェノバルビタール、アミバルビタ−ル、アリルイソプロピルアセチル尿素、ブロムワレニル尿素等の催眠・鎮静剤;フェニトイン、メタルビタール、プリミドン、クロナゼパム、カルバマゼピン、バルプロ酸等の抗てんかん剤;塩酸メクリジン、ジメンヒドリナート等の鎮うん剤;イミプラニン、ノキシプチリン、フェネルジン等の抗うつ剤;ハロペリドール、メプロバメート、クロルジアゼポキシド、ジアゼバム、オキサゼバム、スルピリド等の精神神経用剤;パパベリン、アトロピン、エトミドリン等の鎮けい剤;ジゴキシン、ジギトキシン、メチルジゴキシン、ユビデカレノン等の強心剤;ピンドロール、アジマリン、ジソピラミド等の不整脈剤;ヒドロクロロチアジド、スピロノラクトン、トリアムテレン、フロセミド、ブメタニド等の利尿剤;レセルピン、メシル酸ジヒドロエルゴトキシン、塩酸プラゾシン、メトプロロール、プロプラノロール、アテノロール等の抗高血圧剤;ニトログリセリン、硝酸イソソルビド、ジルチアゼム、ニフェジピン、ジピリダモール等の冠血管拡張剤;ノスカピン、サルブタモール、プロカテロール、ツロプテロール、トラニラスト、臭化水素酸デキストロメトルファン、リン酸ジヒドロコデイン等の鎮咳剤;ブロムヘキシン塩酸塩、アンブロキソール塩酸塩、グアイフェネシン等の去痰剤;ニカルジピン、ピンポセチン等の脳循環改善剤;塩酸メチルエフェドリン等の交感神経興奮剤;エリスロマイシン、ジョサマイシン、クロラムフェニコール、テトラサイクリン、リファンピシン、グリセオフルビン等の抗生物質;ジフェンヒドラミン、プロメタジン、メキタジン、クレマスチンフマル酸塩等の抗ヒスタミン剤;トリアムシノロン、デキサメタゾン、ベタメタゾン、プレドニソロン、ダナゾール、メチルテストステロン、酢酸クロルマジノン等のステロイド剤;ビタミンA類、ビタミンB類、ビタミンC類(アスコルビン酸等)、ビタミンD類、ビタミンE類、ビタミンK類、葉酸(ビタミンM類)等のビタミン剤;ジメチコン、ファモチジン、ラニチジン、シメチジン、ニザチジン、メトクロプラミド、ファモチジン、オメプラゾール、スルピリド、トレピブトン、スクラルファート、制酸剤(合成ヒドロタルサイト、酸化マグネシウム等)等の消化器系疾患治療剤;カフェイン、ジクマロール、シンナリジン、クロフィブラート、ゲファルナート、ブロベネシド、メルカプトプリン、メトトレキサート、ウルソデスオキシコール酸、メシル酸ジヒドロエルゴタミン、グルクロノラクトン、γ−アミノ酪酸、コンドロイチン、コンドロイチン硫酸ナトリウム、ラクトフェリン、乳性タンパク、システイン、コラーゲン等が挙げられる。
【0036】
結合剤としては、例えば、澱粉、α化デンプン、ショ糖、ゼラチン、アラビアゴム末、メチルセルロース、カルメロース、カルメロースカルシウム、カルメロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、プルラン、デキストリン等を用いることができる。
【0037】
賦形剤としては、例えば、カルメロース、カルメロースカルシウム、カルメロースナトリウム、クロスカルメロースナトリウム、カルボキシメチルセルロースカルシウム、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、クロスポビドン等の崩壊剤;乳糖、コーンスターチ、タルク、結晶セルロース、粉糖、マンニトール、軽質無水ケイ酸、炭酸カルシウム、L−システイン等を用いることができる。
【0038】
滑沢剤としては、例えば、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ポリエチレングリコール、タルク、ステアリン酸、ショ糖脂肪酸エステル等を用いることができる。香料としては、例えば、メントール、リモネン、植物精油(ハッカ油、ミント油、ライチ油、オレンジ油、レモン油等)等が挙げられる。
【0039】
甘味料としては、例えば、サッカリンナトリウム、アスパルテーム、ステビア、グリチルリチン酸二カリウム、アセスルファムカリウム、ソーマチン、スクラロース、果糖等が挙げられる。
酸味料としては、例えば、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸、コハク酸、フマル酸、乳酸又はそれらの塩等が挙げられる。
界面活性剤としては、ノニオン界面活性剤、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、両性界面活性剤等が挙げられる。
【実施例】
【0040】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。下記の例において特に明記のない場合は、比率は質量比を示す。
【0041】
[実施例1〜4、6〜9、比較例1〜4]
表1記載の各成分を、80℃で10分間粉体混合した(溶融法)。その後、室温(20℃)まで冷却した。得られた混合物を5℃で3ヶ月間保存した。初期と保存後の混合物について、下記評価を行った。なお、実施例は、組成物が製造装置へ付着がなく、製造性も良好であった。実施例9は1回に服用する量が多くなった。
【0042】
[溶出率]
イブプロフェンの溶出試験は日本薬局方の溶出試験で確認した。試験液にはpH4.5の酢酸緩衝液を用い、130mg/900mLの条件で測定した(5分後の溶出性)。結果は溶出率(%)から下記基準で示す。
<溶出性>
++++:85%以上
+++ :80%以上85%未満
++ :75%以上80%未満
+ :75%未満
【0043】
[非晶質性]
(A)成分の非晶質性(再結晶化抑制)については、DSC((株)リガク製,DSC−8230D)にて評価を行った。基準は、下記のとおりである。
<基準>
○:非晶質
△:極めて低結晶(ピークの絶対値として0.5mW/mg以内)
×:結晶
【0044】
[実施例5]
表1記載の(A)〜(C)成分を、ハイスピードミキサー(深江パウテック(株)製,LFS−2型)にて50℃で10分間攪拌混合し、できた混合物をパウレック(株)製MP−01流動層造粒機を用い、常法に従い湿式造粒した。バインダー液にはヒドロキシプロピルセルロース(日本曹達(株)HPC−SSL)の8質量%水溶液を用い、固形分が混合物の10質量%となるよう噴霧した。得られた造粒物について、5℃で3ヶ月間保存した。初期と保存後の造粒物について、上記実施例と同様の評価を行った。なお、実施例5は、組成物が製造装置へ付着がなく、製造性も良好であった。なお、実施例の平均粒径(レーザー回折散乱式粒度分布測定器(乾式)によるメジアン径(D50))は80〜600μmであった。
【0045】
【表1】

【0046】
【表2】

【0047】
【表3】

【0048】
[実施例9]
下記組成をハイスピードミキサー(深江パウテック(株)製,LFS−2型)にて50℃で攪拌混合し、できた混合物を打錠(菊水製作所(製),リブラ)した。
組成
イブプロフェン 130g
オイドラギットEPO 115g
乾燥水酸化アルミニウムゲル 70g
結晶セルロース 30g
(A)成分の溶出性は高く、5℃における経時での結晶化も抑制できた。
【0049】
上記例で使用した原料を下記に示す。なお、特に明記がない限り、表中の各成分の量は純分換算量である。
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)プロピオン酸系又は酢酸系の非ステロイド性抗炎症薬と、(B)アミノアルキルメタアクリレートコポリマーEと、(C)水酸化アルミニウム又はメタケイ酸アルミン酸マグネシウムとを含有する固形医薬組成物。
【請求項2】
(B)/(A)で表される、(A)成分に対する(B)成分の含有質量比が0.3〜3であり、(C)/(A)で表される、(A)成分に対する(C)成分の含有質量比が0.3〜5である、請求項1記載の固形医薬組成物。
【請求項3】
(A)プロピオン酸系又は酢酸系の非ステロイド性抗炎症薬と、(B)アミノアルキルメタアクリレートコポリマーEとの加熱混合物と、(C)水酸化アルミニウム又はメタケイ酸アルミン酸マグネシウムとを含有する固形医薬組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項記載の固形医薬組成物を配合してなり、錠剤、粒状剤、細粒剤又はカプセル剤である医薬製剤。

【公開番号】特開2012−184171(P2012−184171A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−46360(P2011−46360)
【出願日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【出願人】(000006769)ライオン株式会社 (1,816)
【Fターム(参考)】