説明

固形粉末化粧料の成形方法

【課題】固形粉末化粧料の耐衝撃性の向上を図る成形方法を提供する。
【解決手段】充填皿1とプレス板3との間に伸縮性を有するプレス用補助具4を介在させた状態で、プレス板3を押し下げ、充填皿1に充填された充填物をプレスする。このプレス用補助具4は、充填皿1の内周とプレス板3の外周との間に形成されるクリアランスを全周に亘って塞ぐ厚みを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固形粉末化粧料の成形方法に係り、特に、充填皿内の充填物をプレスする際に用いられるプレス用補助具に関する。
【背景技術】
【0002】
ファンデーションやアイシャドウといった固形粉末化粧料には、乾式成形化粧料と、湿式成形化粧料とが存在する。乾式成形化粧料は、化粧料の粉体を圧縮打型して固化したものであり、湿式成形化粧料は、スラリー(化粧料の流動体)中の揮発成分を吸収・乾燥させて固化したものである。湿式成形化粧料は、乾式成形化粧料と比べて粒子密度が疎であることに起因して、しっとりサラサラした使用感が得られるという特性を有する。
【0003】
一般に、固形粉末化粧料のプレス工程では、充填皿に傷が付くことを防止するため、或いは、生産性の向上を図るためといった理由で、プレス板(雄型)と充填皿(雌型)との間にクリアランスを設け、ここにシート状のプレス用補助具を介在させた上でプレスが行われる。プレス板の外周と充填皿の内周との差(距離)に相当するクリアランスに関して、その具体的な値は、充填皿内に充填される充填物の特性を含む様々なファクターを考慮して設定される。従来、プレス用補助具としては、クリアランスよりも小さい厚みを有するものか、これとほぼ同じ厚みを有するものが用いられていた。
【0004】
なお、特許文献1には、凹凸模様を形成された紋板を乾式成形化粧料の表面にプレスする際、充填皿と紋板との間にプレス用補助具(薄葉紙)を介在させた上で、これを行う方法が開示されている。また、特許文献2には、充填皿内に充填されたスラリーをプレス板によって圧縮吸引する際、充填皿とプレス板の間にプレス用補助具(吸収シート)を介在させた上で、これを行う方法が開示されている。これらの特許文献1,2には、プレス用補助具の具体的な厚さについては開示・示唆されていない。
【0005】
【特許文献1】特開平8−154732号公報
【特許文献2】特開2005−143606号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した従来のプレス用補助具を用いて成形された固形粉末化粧料では、充填皿の四隅で化粧料のひび割れやヒケが生じたり、四隅とそれ以外とで化粧料の硬度にバラツキが生じたりすることがあった。特に、湿式充填では、溶剤の抜けにより化粧料が痩せてひびが入りやすい。これらの問題は、製品の品質の一つである耐衝撃性を低下させる要因になる。また、従来のプレス用補助具を用いて湿式成形を行った場合、クリアランスからスラリーが漏れ出して、充填皿の外側面を汚してしまうといった問題が生じることがあった。本発明者は、これらの問題を解決するために実験や検討を重ねた結果、これを簡易かつ低コストで解決できる解決策を見い出すに至った。
【0007】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、固形粉末化粧料の耐衝撃性の向上を図ることである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の発明は、充填皿内に充填物を充填するステップと、充填皿とプレス板との間に、伸縮性を有するプレス用補助具を介在させた状態で、プレス板を押し下げることによって、充填皿に充填された充填物をプレスするステップとを有する固形粉末化粧料の製造方法を提供する。ここで、プレス用補助具は、充填皿の内周とプレス板の外周との間に形成されるクリアランスを全周に亘って塞ぐ。
【0009】
第2の発明は、充填皿内に充填物を充填するステップと、充填皿とプレス板との間に、伸縮性を有するプレス用補助具を介在させた状態で、プレス板を押し下げることによって、充填皿に充填された充填物をプレスするステップとを有する固形粉末化粧料の製造方法を提供する。ここで、プレス用補助具は、充填皿の内周とプレス板の外周との間に形成されるクリアランス全周のうち、最も大きなクリアランスよりも大きな厚みを有する。
【0010】
ここで、第1または第2の発明において、プレス用補助具の厚みは、屈折したコーナー部位における、充填皿の内周とプレス板の外周との間の距離よりも大きいことが好ましい。
【0011】
また、第1または第2の発明において、充填皿の内周およびプレス板の外周のそれぞれが矩形形状を有する形態において、プレス用補助具の厚みは、直線状に延在する直線部位における、充填皿の内周とプレス板の外周との間の距離に√2を乗じた値よりも大きいことが好ましい。
【0012】
さらに、第1または第2の発明において、充填物は、湿式成形化粧料を形成するために用いられる、化粧料基材と揮発性溶剤とを混合したスラリーであってもよいし、乾式成形化粧料を形成するために用いられる化粧料粉状体であってもよい。
【発明の効果】
【0013】
第1の発明によれば、プレス用補助具によって、充填皿とプレス板との間のクリアランスが全周に亘って塞がれる。これにより、コーナー部位の充填物に対するプレス不足が緩和され、充填物の表面に加わるプレス圧が全体に亘ってほぼ均一になる。したがって、プレス不足に起因した耐衝撃性の低下を有効に抑制することが可能になる。
【0014】
また、第2の発明によれば、プレス用補助具は、充填皿とプレス板との間のクリアランスのうち、最も大きなクリアランスよりも大きな厚みを有する。クリアランスが狭い部位は、プレス用補助具の変形によって塞がれる。これにより、コーナー部位の充填物に対するプレス不足が緩和され、充填物の表面に加わるプレス圧が全体に亘ってほぼ均一になる。したがって、プレス不足に起因した耐衝撃性の低下を有効に抑制することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、ファンデーションやアイシャドウといった固形粉末化粧料を成形する方法について、図1および図2を参照しつつ説明する。
【0016】
図1は、充填工程の説明図である。まず、充填皿1を用意する。この充填皿1は、矩形形状を有し、その上部が開口している。つぎに、この充填皿1の開口部を成形ヘッド2で覆う。この成形ヘッド2は、矩形プレート状のヘッド部2aと、中空状の供給管2bとを主体に構成され、充填物となるスラリーを充填する成形ヘッドとして用いられる。ヘッド部2aおよび供給管2bは共に金属製であり、両者は強固に一体化されている。このヘッド部2aの下方には、水平かつ平坦な擦切平面が形成されている。この擦切平面は、2つの役割を担っている。一つは、充填皿1の開口部を覆って、スラリーの充填空間を形成するという役割である。そして、もう一つは、充填空間に充填されたスラリーを擦り切るという役割である。一方、供給管2bは、ヘッド部2aの上方において左側にオフセットした位置に溶接等によって取り付けられている。この供給管2bは、外部から供給されたスラリーをヘッド部2aに導くために用いられる。スラリーは、ファンデーション、フェイスパウダー、アイシャドウといった固形粉末化粧料の化粧料基材と、エタノール、水、流動パラフィン、イソパラフィン、イソプロピルアルコール等の揮発性溶剤とを混合したものである。なお、ヘッド部2aの下面には、供給管2bと連通した注入孔(図示せず)が設けられている。供給管2b内を加圧することによって、注入孔より吐出されたスラリーが充填皿1に注入される。
【0017】
スラリーの充填が完了すると、成形ヘッド2を降下させた状態のまま、充填皿1を成形ヘッド2に対して水平方向に相対移動させる。これによって、充填皿1に充填されたスラリーは、ヘッド部2aの擦切平面によって擦り切られる。この擦り切りによって、スラリー表面の高さは、充填皿1の上縁相当の高さ相当になる。
【0018】
なお、スラリーの充填は、上述したようなフロント充填ではなく、バック充填によって行ってもよい。バック充填の場合、充填皿1の開口部を塞いだ状態で、充填皿1の底部に設けられた注入口を介して、スラリーが充填皿1内に充填される。
【0019】
図2は、プレス工程の説明図である。充填皿1の上縁相当に擦り切られたスラリーは、矩形形状を有するプレス板3によって上方よりプレスされる。この工程では、スラリーの揮発成分を除去するために、例えば、プレス板3として多孔性の部材を用いてもよい。プレス板3と充填皿1との間には、シート状のプレス用補助具4を介在させる。プレス用補助具4は、伸縮性を有するとともに、後述する厚みDを有する。このようなプレス用補助具4としては、繊維シート、スポンジシート、コットンシート等を用いることができる。繊維としては、天然繊維、合成繊維、これらの混紡、混織、不織布等が挙げられる。それ以外にも、ウレタンゴム、シリコンゴム等を素材としたゴムシートや、紙シートを用いてもよい。なお、プレス用補助具4が溶剤を吸収しない素材の場合、溶剤を吸収可能なシートを併用してもよく、また、ゴム板の場合には、これに吸引孔を設けてもよい。なお、上記厚みDは、複数のシートを重ね合わせた結果として達成されてもよい。
【0020】
プレス用補助具4が介在した状態で、プレス板3を押し下げることによって、充填皿1に充填されたスラリーがプレスされる。その際、充填物より滲み出た揮発性溶剤は、充填皿1とプレス板3の間に介在するプレス用補助具4によって吸収されるとともに、プレス板3に形成された吸引孔に吸引される。吸引孔に吸引された揮発性溶剤は、プレス板3内のチャンバ(図示せず)を経て、外部に放出される。なお、揮発性溶剤の除去は、吸引孔による吸引ではなく、プレス用補助具4のみで行ってもよい。その後、充填物内の残存揮発成分を乾燥除去することで、固形粉末化粧料の製品が完成する。
【0021】
本実施形態の特徴は、プレス用補助具4の厚みDを適切に設定することで、充填皿1の内周と、プレス板3の外周との間に形成されるクリアランスを全周に亘って塞いだ点にある。この点を図3から図5を参照しつつ説明する。
【0022】
図3は、プレス工程において、押し下げられたプレス板3と、充填皿1との間の状態を示す要部拡大図である。充填皿1(雌型)の内周と、プレス板3(雄型)の外周との間には、所定の隙間、すなわちクリアランスが形成されている。これを形成する理由は、プレス工程で充填皿1に傷が付くことを防止するため、および、プレス工程での型抜きをよくして、生産性の向上を図るためである。ここで、直線状に延在する直線部位におけるクリアランスをC1とすると、このクリアランスC1は、充填皿1における直線状の内周と、プレス板3における直線状の外周との間の距離に相当する。クリアランスC1は、湿式成形ではC1=0.075〜0.15mm程度に設定されることが多い(乾式成形ではC1=0.15〜0.3mm程度)。一方、屈折したコーナー部位R(面取りされた屈曲したものも含む)におけるクリアランスをC2とすると、このクリアランスC2は、充填皿1における内周の角と、プレス板3における外周の角の間の距離に相当する。同図からわかるように、コーナー部位RのクリアランスC2は、直線部位のクリアランスC1よりも大きい。充填皿1およびプレス板3の双方が矩形状の場合、直角二等辺三角形の各辺の比(1:1:√2)の関係から、クリアランスC2は、クリアランスC1に√2を乗じた値となる。
【0023】
図4は、プレス工程において、プレス用補助具4によってクリアランスが塞がれた状態を示す図である。クリアランスを全周に亘って塞ぐためには、全周のクリアランスのうちで最も大きな値よりも、プレス用補助具4の厚みDが大きければよい。充填皿1およびプレス板3の双方が矩形状の場合、最大クリアランスはコーナー部位RのクリアランスC2になる。したがって、クリアランスC2よりも大きな厚みDのプレス用補助具4を用いれば、クリアランスを全周に亘って塞ぐことができる。その際、クリアランスが狭い直線部位は、伸縮性を有するプレス用補助具4の縮み変形によって有効に塞がれる。
【0024】
このように、本実施形態では、プレス用補助具4として、充填皿1の内周とプレス板3の外周との間に形成されるクリアランスを全周に亘って塞ぐような厚みDを有するものを用いる。これによって、固形粉末化粧料の耐衝撃性の低下を有効に抑制できる。図5に示した比較例のように、D≦C1のプレス用補助具4’を用いて、固形粉末化粧料の成形を行った場合、コーナー部位Rのクリアランスを完全に塞ぐことができず、一部に隙間が生じてしまう。この場合、この隙間に対応する充填物にプレス圧が十分に加わらず、コーナー部位Rで化粧料のひび割れやヒケが生じたり、コーナー部位Rとそれ以外とで化粧料の硬度にバラツキが生じてしまう。これに対して、本実施形態によれば、コーナー部位Rにおけるプレス圧の逃げ道を有効に塞ぐことで、コーナー部位Rの充填物に対するプレス不足を緩和でき、充填物の表面に加わるプレス圧を全体に亘ってほぼ均一化できる。その結果、製造装置を改良したり、新たな工程を追加したりすることなく、プレス用補助具4の変更といった簡易な修正だけで、製品に要求される耐衝撃性を確保することが可能となる。
【0025】
また、本実施形態によれば、上記クリアランスの全周がプレス用補助具4によって塞がれるので、充填皿1に充填したスラリーがプレスの際に漏れてしまうことを有効に防止することができる。したがって、充填皿1の外側面を汚してしまうといった事態を未然に防げるので、これを拭き取るといった作業が不要になり、生産性の向上を図ることできるといった効果もある。
【0026】
通常、プレス板3(雄型)にはフラットな剛体が用いられるため、これによって加圧成形された化粧料の最表面の状態は、粉体が密に配列している。使用開始時の粉の取れは、使用を重ねた際の表面からのものより少なく、硬い印象を受ける。本実施形態では、プレス板3と充填物との間に所定厚D以上のプレス補助具4,4’を介在させるため、プレス板3(剛体)の硬さ・形状などの特徴が薄れ、化粧料の最表面もソフトに成型される。
【0027】
なお、上述した実施形態では、充填皿1およびプレス板3の双方が矩形状のものを例に説明した。しかしながら、本発明はこれに限定されるものではなく、クリアランス全周のうちで最大の値よりも大きな厚みDを有するプレス用補助具4を用いることを条件として、円状、その他の複雑な形状を含めて各種の形状に適用可能である。なお、プレス用補助具4の厚みDに関する上限値には、特段の制約はなく、プレス用補助具4の伸縮特性(弾力特性)や、雄型であるプレス板3の型抜きのし易さ等を考慮して、適宜決定すれば足りる。
【0028】
また、上述した実施形態では、湿式成形を例に説明した。湿式成形は、溶剤の抜けにより化粧料が痩せてひびが入りやすいので、本発明の最も適した適用例であるが化粧料粉状体をプレスする乾式成形に対しても、本発明を適用可能である。
【0029】
さらに、上述した実施形態では、プレス用補助具4,4’として、雄型、雌型よりも大面積で比較的薄くて変形自在なシート状部材を想定しているが、雄型、雌型と同等程度の面積で厚みのある弾性部材を用いてもよい。この場合、弾性部材を厚み方向に押圧すると、弾性部材が面方向に拡がり、これによって、雄型と雌型との間のクリアランスを塞ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】充填工程の説明図
【図2】プレス工程の説明図
【図3】プレス板と充填皿との間の状態を示す要部拡大図
【図4】本実施形態におけるクリアランスが塞がれた状態を示す図
【図5】比較例におけるクリアランスが塞がれた状態を示す図
【符号の説明】
【0031】
1 充填皿
2 成形ヘッド
2a ヘッド部
2b 供給管
3 プレス板
4,4’ プレス用補助具

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固形粉末化粧料の成形方法において、
充填皿内に充填物を充填するステップと、
前記充填皿とプレス板との間に、伸縮性を有するプレス用補助具を介在させた状態で、前記プレス板を押し下げることによって、前記充填皿に充填された前記充填物をプレスするステップとを有し、
前記プレス用補助具は、前記充填皿の内周と前記プレス板の外周との間に形成されるクリアランスを全周に亘って塞ぐことを特徴とする固形粉末化粧料の成形方法。
【請求項2】
固形粉末化粧料の成形方法において、
充填皿内に充填物を充填するステップと、
前記充填皿とプレス板との間に、伸縮性を有するプレス用補助具を介在させた状態で、前記プレス板を押し下げることによって、前記充填皿に充填された前記充填物をプレスするステップとを有し、
前記プレス用補助具は、前記充填皿の内周と前記プレス板の外周との間に形成されるクリアランス全周のうち、最も大きなクリアランスよりも大きな厚みを有することを特徴とする固形粉末化粧料の成形方法。
【請求項3】
前記プレス用補助具の厚みは、屈折したコーナー部位における、前記充填皿の内周と前記プレス板の外周との間の距離よりも大きいことを特徴とする請求項1または2に記載された固形粉末化粧料の成形方法。
【請求項4】
前記充填皿の内周および前記プレス板の外周のそれぞれは、矩形形状を有し、
前記プレス用補助具の厚みは、直線状に延在する直線部位における、前記充填皿の内周と前記プレス板の外周との間の距離に√2を乗じた値よりも大きいことを特徴とする請求項1または2に記載された固形粉末化粧料の成形方法。
【請求項5】
前記充填物は、湿式成形化粧料を形成するために用いられる、化粧料基材と、揮発性溶剤とを混合したスラリーであることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載された固形粉末化粧料の成形方法。
【請求項6】
前記充填物は、乾式成形化粧料を形成するために用いられる化粧料粉状体であることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載された固形粉末化粧料の成形方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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