説明

固液接触装置および方法

【課題】固液流れの均一性が良くて接触効率が高く、しかも構造が簡単で、スケールアップ容易であることにより、化学工業における単位操作に幅広く適用可能な連続多段攪拌室型の固液接触装置ならびにこれを用いる効率的な固液接触装置方法を提供する。
【解決手段】連通口を有する仕切板により互いに区画されて垂直方向に連設された複数の攪拌室を備え、各攪拌室には半径方向吐出型の攪拌翼と垂直方向に延長するように内側側壁に固着された一以上のバッフルとをそれぞれ該攪拌室の下方に偏在させて設け、上部および下部には液体入口および固体入口を設けてなる縦型固液接触装置。該装置は最大負荷近傍で運転すると、特に良い固液接触効率を示す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として化学工業において、固体と液体とを接触させて、洗浄、精製、抽出、含浸、反応、溶解等の操作を行うための固液接触(または固−液接触)装置に関し、特に固液接触効率が高い連続多段攪拌型固液接触装置およびこれを用いる固液接触方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、固体またはスラリー中の固体粒子と処理液とを接触処理させる(固−液接触処理を行う)方法としては、接触効率の高い向流連続接触方式が有利であるとされている。少量の固液接触量で均一かつ高効率の処理を行うには、それぞれの流れのデッドゾーンやショートパスをなくすとともに固液界面の表面更新が促進されるよう固液の混合を良くすることが望ましいが、一方で混合を良くすると固液流れの軸方向にも逆混合が発生し、これが接触効率を大幅に悪化させることにもなり、両者を両立することは困難であった。
【0003】
良好な固液混合状態を保ちつつ逆混合を減らす手法としては、室内の流路を仕切板で複数室に仕切ることにより多段化を行うこともあるが、各室間において対向する流れによっても逆混合が発生するため思うようには接触効率が良くならない。逆混合を減らすには各室間の流路断面積を小さくすることで室間の移動量を減らすことも効果的であるが、他方処理能力が減るため現実的ではない。
【0004】
これらを改善すべく、接触を充分行うための混合(ミキサー)部と、これを分離してそれぞれの対向流を均一に保つ分離(セトラー)部とに分離したミキサー・セトラー型抽出装置が広く一般に知られているが、機能が分離されたそれぞれの部分に必要容積を確保するので装置が大きくなる。特許文献1に記載されているように縦型多段式にするなどして装置容積を小型化する手法も数多く紹介されている。しかしこの方式の装置は、どうしてもセトラー部の流れに不均一な部分を生じやすく、結果として固体側の処理が一定になりにくいため、特に固体が目的生成物となる、洗浄や含浸の操作を行う装置には不向きであった。
【0005】
他にも固液抽出操作では、固体側はベルト、バスケット、スクリューなどのコンベアによる移動層を形成して、液を向流方式あるいは十字流方式にて幾度も固体移動層を貫流させるという方式が一般的に採用されているが、やはり固体側の均一な処理が難しく、固体の洗浄、含浸といった固体側が製品となるような場合は懸念が残る。
【0006】
装置内デッドゾーンやショートパスを防止する方法としては特許文献2において、多段槽の各槽に上下運動可能の攪拌翼を設けることが記載されているが、その一方で逆混合を少なくすることには特に配慮されていない。
【0007】
また特許文献3〜5には、攪拌多段室型接触装置において環状仕切板と攪拌翼あるいはディスクを備えた攪拌軸との間あるいは攪拌軸に固定された回転ディスクの間を室間開口とし、かつ軸方向に厚みをとることで軸方向流れの逆混合防止する方法が記載されているが、いずれも各槽間流れが阻害される形であり、処理量を犠牲にして逆混合を防止していると言える。
【0008】
このように均一かつ高効率の固液接触処理を行うべく、固液の混合を良くする一方で、逆混合を少なくし、かつ処理流量を減らさない工業規模で利用できる固液接触装置については今まであまり検討されてこなかった。
【特許文献1】特公昭54−12265号公報
【特許文献2】特公昭36−13059号公報
【特許文献3】特公昭49−41029号公報
【特許文献4】特公昭50−8713号公報
【特許文献5】特公昭51−18903号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、接触効率が高い連続多段攪拌室型固液接触装置を提供することを主要な目的とする。
【0010】
本発明の別の目的は、固液流れの均一性が高く、構造が簡単でスケール・アップが容易な固液接触装置を提供することにある。
【0011】
本発明の更なる別の目的は、上記固液接触装置を用いる効率的な固液接触方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の縦型固液接触装置は、上述の目的を達成するために開発されたものであり、連通口を有する仕切板により互いに区画されて垂直方向に連設された複数の攪拌室を備え、各攪拌室には半径方向吐出型の攪拌翼と垂直方向に延長するように内側側壁に固着された一以上のバッフルとをそれぞれ該攪拌室の下方に偏在させて設け、上部および下部には液体入口および固体入口を設けてなることを特徴とするものである。
【0013】
本発明の固液接触装置においては、各攪拌室を上下に非対称に構成し、各攪拌室において、固液接触効率の改善に寄与する下側の攪拌領域と上側の整流領域とを設けることにより、軸方向流れの逆混合を防止しつつ固液接触効率の改善に成功したものである。
【0014】
また、本発明の固液接触方法は、上記固液接触装置を用いて固液接触を行うに際して、攪拌時の固液混合物のレイノルズ数(Re)が500〜500000の範囲となるように攪拌し、装置の最大負荷に対して60%以上の負荷率で固体流を供給することを特徴とするものであり、負荷率が上昇するにつれて、固液接触効率が改善されるという実験結果に基づいている(後記実施例参照)。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
図1は、本発明の縦型(ないし塔型)向流固液接触装置の一実施例の模式縦断面図であり、図2は、図1のII−II線矢視方向断面図である。この例では、通常の系がそうであるように密度が相対的に大である固体粒子(あるいはこれを含むスラリー)と密度が相対的に小なる液体との固液接触用に設計されている。
【0016】
図1を参照して、該装置は、概ね塔頂部1、本体部2および塔底部3からなる。本体部2は、複数の攪拌室、この例では4つの攪拌室21〜24に分割され、各攪拌室間は中央に開口4を設けた仕切板5により区画されている。また各攪拌室21〜24には、その下側に偏在する形態で、好ましくは各攪拌室の下半分の領域内に入る形態で、平パドル攪拌翼6およびバッフル7が配置されている。各攪拌室21〜24に配置された半径方向吐出型攪拌翼の一例としての平パドル攪拌翼6は、塔頂部1および本体部2を貫通する共通攪拌軸8に回転可能に固着されており、バッフル7(この例では4枚で、円周方向に互いに等間隔に配置されている)は、高さ方向に延長するように攪拌室内壁に固着されている。
【0017】
塔頂部1には、固体(スラリー)入口配管91および液体出口配管94が、塔底部3には液体入口配管92および固体(スラリー)出口配管93が設けられている。塔頂部1は、配管91から導入された固体(スラリー)が配管94から排出される液体流による軸方向逆混合を受け難いように、必要に応じて、本体部2に比べて約1〜4倍に拡大された流路面積とされている。
【0018】
このような構成の装置において、配管91から塔頂部1に導入された固体(スラリー)は、本質的な逆混合を受けることなく、第1の攪拌室21に導入され、攪拌室21の下方に偏在した平パドル攪拌翼6に吸引されて、半径方向に吐出され、同様に攪拌室下方に偏在してその内壁に固着されたバッフル7の作用により分割されて翼取付位置の上側では上昇流が生じ、下側では下降流が生ずる。より詳しくは、上記のように下方に偏在して、攪拌翼6およびバッフル7を設けた結果、攪拌翼6に吸引された固体(スラリー)を主とする流れは、図中に矢印で示すように翼の下側では小さな循環流、翼のすぐ上では下側よりは相対的に大きな循環流を形成し、攪拌室21の天井部では相対的に固体粒子濃度が(わずかではあるが)小さい穏やかな流れを形成する。このため、仕切板5の中央開口4の外周近傍では、固体粒子濃度の大な下降流が、また攪拌軸8の周囲の開口4の中心部では、液体入口92から導入された液体に富む上昇流が生じ、この上昇流は翼6に吸引されて、翼上方から導入された固体(スラリー)との攪拌混合を受ける。これら一連の流体作用により、攪拌室21内において、配管91から導入された固体(スラリー)と配管92から導入された液体との固液接触が軸方向逆混合を抑制した状態で効果的に達成される。
【0019】
次いで、攪拌室21から攪拌室22へ導入された固体粒子に富む流れは、(攪拌室21中と同様に)比較的穏やかな流れの攪拌室22の天井部領域(いわば整流域)において本質的な軸方向逆混合を受けることなく、室下方に設けられた平パドル翼6およびバッフル7による半径方向吐出流攪拌および整流作用下に、配管92から導入された液体との効率的な固液接触処理を受ける。
【0020】
更に同様な固液接触処理は、攪拌室23,24においても繰り返され、このような軸方向逆混合を抑制した状態での効率的な固液接触処理の繰り返しにより、全体として高い固液接触効率が達成されるものと解される。
【0021】
上記した攪拌室21〜24を含む本体部2中においては、配管92から導入される液体に比べて、配管91が導入される固体(スラリー)中の固体粒子は密度が大であるため、相対的に大なる重力の作用下での沈降作用と攪拌翼6による相対的に大なる動圧の作用下での下降流形成により、下方へと推進移動される。この作用および逆混合の抑制が、本発明の装置においては、容積当りの処理効率が高い理由であると考えられる。
【0022】
本発明の装置は、上述のように固体と液体の密度差を利用しているので、攪拌槽(室)内における固体と液体の密度に差があることが必要である。その意味において、固液密度比、即ち、([固体の見掛け密度]/[液体の密度])または([液体の密度]/[固体の見掛け密度])は、1.03〜20.0、好ましくは1.05〜10.0、更に好ましくは1.10〜5.0、である。固液密度比が1.03より小さい場合、固液の分離は不良となり、また固液密度比が20.0を越える場合、固液の接触効率が低下する。
【0023】
次いで、本体部2で固液接触を受けた固体(スラリー)は、次いで塔底部3において、本質的な逆混合を伴わない状態で配管92より導入された液体と接触し、その底部配管93から固体(スラリー)として排出される。
【0024】
他方、配管92から導入された液体は、配管91から導入された固体(スラリー)との間で、塔底部3での穏やかな固液接触、本体部2での攪拌を伴う固液接触、塔頂部1での穏やかな固液接触を受けた後、塔頂部1の上部配管94から排出される。
【0025】
なお上記説明における各攪拌室21〜24における翼6の下部での比較的小さな循環流、翼6の上部での比較的大きな循環流、開口4の外周部での下降流、および開口4の中心での上昇流などの存在は、透明な本体部2を形成することにより、その外側からの流体観察の結果として確認されている。
【0026】
図1の装置は、配管91から固体(スラリー)が導入され、配管92から液体が導入されて装置内で固液接触が行われる任意の単位操作に適用可能であり、その具体例には、洗浄、精製、抽出、含浸、反応、溶解が含まれる。
【0027】
本発明の固液接触装置を良好な固液接触効率で運転するためには、各攪拌室内の固液混合物に適切な混合状態を与えることが好ましく、これは実験的に攪拌レイノルズ数(Re)が500〜500000、より好ましくは800〜100000、特に好ましくは1200〜30000の範囲内であることが確認されている。すなわち、各攪拌室内における固液接触効率(段効率)は一般にReの増大とともに増大するが、Reが一定値を超えて増大すると、隣接攪拌室間での逆混合が多くなり段効率が低下するという実験事実に基づく。攪拌レイノルズ数(Re)は、例えば化学工学会編「化学工学便覧(第6版)」(丸善(株)発行)にも記載されるように
[数1]
Re=ρnd/μ …… (1)
で表わされるものであり、ここでρ:攪拌室内スラリー液の平均密度[kg/m]、n:攪拌回転数[1/s]、d:攪拌翼径[m]、μ:攪拌室内スラリー液の粘度[Pa・s]である。例えば、直接測定による、あるいは日本化学会編「化学便覧(第4版)」(丸善(株)発行)等の文献に記載の、ρ,μ等の物性値を用いてReを計算することができ、その計算の一例は、後記実施例1に詳細に記載する通りである。
【0028】
また、図1で代表される本発明の固液接触装置は、装置の最大負荷の近傍で運転することにより良好な固液接触効果が得られることが確認されている。通常は装置への負荷が増えると滞留時間が減少し、また逆混合流も増えるので、装置の効率は低下する。しかし本発明装置の場合、負荷の増加に比較して逆混合流の増加が極めて少ないために、滞留時間の減少による負の効果を上回り、負荷の増加によって装置の効率はむしろ上昇するものと考えられる。より具体的には装置の許容処理流量の最大値を最大負荷として、その60%以上、より好ましくは80%以上、更に好ましくは90%以上の処理流量で運転することが好ましい。ここで、最大負荷すなわち処理流量の最大値は実験的に以下のようにして決定することができる。
【0029】
(処理流量の最大値)
(イ)配管91から供給される固体流量のほぼ全量が配管93から排出される場合(例えば、固体の液体による洗浄、精製、抽出、含浸)。
【0030】
図1の装置において、まず処理する個体と液体の処理比率を固液比として決める。次に攪拌翼6を1200≦Re≦30000となる攪拌速度で回転させながら、配管91からの固体供給流量と配管92からの液体供給流量との比を、先に決めた固液比となるように固体と液体の供給流量を漸次増加していく。配管91からの固体供給流量が配管93からの固体排出流量を越える時が、その液体供給量と固体供給流量とがそれぞれの最大値であり、その合計値を最大処理流量とする。
【0031】
(ロ)配管91から供給される固体が装置内を流れる間に漸減する場合(例えば、固体の溶解)。
【0032】
図1の装置において、まず液排出口94における溶解した固体濃度の目標値(C(g/ml)と固体の溶解率の目標値(S(%))を設定する。また、固体が全量溶解した時に液排出口での濃度が目標値(C)になるように固体供給流量(Fs)と液体供給流量(Fl)の比率(Fs/Fl)を設定し、その比率で固体供給流量(Fs)と液体供給流量(Fl)を少ない量から次第に増量していく。最初は、供給した固体の全量が溶解しているが、固体供給速度が固体の溶解速度を越えた時に固体排出口93から固体が排出される。この時点で、装置内部の固体は装置上部の攪拌室21には大量に、装置下部の攪拌室24には少量分布しているので、液体供給量をそのままにして固体供給量だけを増やせば、装置下部の攪拌室24での固体の分布量が増え、その結果装置全体での固液接触面積が増え、液排出口における溶解した固体の濃度は上昇する。つまり固体供給流量(Fs)と液体供給流量(F1)の比率(Fs/Fl)を高めれば液排出口における固体濃度を高めることができる。但し、固体の排出流量は漸増する。従って、固体供給流量を増やして上記比率(Fs/Fl)を高めながらかつ液体供給流量を増加した時、液排出口の濃度の目標値(C)または固体の溶解率の目標値(S)のいずれかが安定的に維持できなくなった時点が、固体供給量の最大値であり、その時の固体排出量が、固体排出量の上限である。
【0033】
上記(ロ)の操作は、供給する固体と供給する液体を反応させて固体の一部あるいは全部が液体との反応に伴い漸減し液体排出口から排出する場合にも適用できる。
【0034】
上記した、主として固体供給流量によって規定される図1の固液接触装置の最大負荷および固液接触効率は、主として、各攪拌室21〜24の寸法および各攪拌室間の仕切板5の開口比に依存する。
【0035】
本発明者等の知見によれば、攪拌室21〜24の各々の高さ(H)と内径(D)との比(H/D)が0.1〜3.0、特に0.25〜1.5とし、仕切板5の位置での攪拌室の断面積に対する連通口4の占める開口面積(連通口4を複数設ける場合はそれらの開口面積の合計)の割合が0.2〜20%、特に1〜10%、とすることが好ましく、これにより攪拌室内での逆混合を抑制しつつ、効率の良い固液接触が可能になる。固液密度比の大きい系で操作する場合、(H/D)は比較的小さくすることができ、装置全体の高さを低くすることができるが、固液密度比の小さい系で操作する場合は(H/D)を大きくして、室内上側の整流部形成を促すようにした方がよい。
【0036】
配管91から供給する固体(スラリー)を、固体粒子のみとするか、スラリーとするかは目的とする固液接触の種類および固体粒子単独での供給の容易性による。一般には固液接触の目的が許容するならば、スラリーの方が装置への供給は容易である。この場合の、スラリー化のための固/液比は、主としてスラリーの供給の容易性の観点で定まり、一般には大なる(スラリー化のための液の使用量が少ない)程好ましい。また、スラリー中の液は、できるだけ速やかに固体粒子から分離されて(また配管92から導入される液との混合なしに)、配管94から排出されることが好ましい。このためにも塔頂部1の断面積を本体部2よりも大として層流状態に近い状態を形成することが好ましい。
【0037】
本発明を適用するための、攪拌室内における液体の粘度は、平パドルやディスクタービンなどの攪拌翼を使用する場合、0.01×10−3〜1.0Pa・s、好ましくは0.05×10−3〜0.5Pa・s、更に好ましくは0.1×10−3〜0.1Pa・sである。1Pa・sを超える高粘度域または0.01×10−3より低い低粘度域では、室内下部攪拌領域の攪拌混合状態が悪化し、固液接触効率が低下する。
【0038】
配管91から導入されるスラリー化のための液体と、配管92から導入される液体は同一であることが好ましい場合が多いが固液接触の用途によっては異なり得る。また異なる液体は互いに非相溶性であってもよいが、隣接する攪拌室間の整流性等の観点からは互いに相溶性であることが好ましい。
【0039】
また配管93からの排出流を、固体粒子のみとするか、スラリーとするかも目的とする固液接触の種類および後工程との適合性による。流動性の良いスラリーが望ましい場合も多いが、この場合にもスラリー中の液は、配管92から塔底部3に導入された液があまり内部で混合されることなく、配管93へと導かれて、固体粒子とともにスラリーとして排出されることが好ましい。すなわち、塔底部3内では、層流状態として主として固体粒子のみが液とは逆行して下方に流動する形態が好ましい。
【0040】
上記図1の装置で代表される本発明の固液接触装置は、単位容積当りの処理能力が大きいという長所に加えて、スケールアップが容易であるという長所がある。
【0041】
攪拌操作において小規模攪拌槽において得た流れの状況を維持するようにスケールアップを行う方法として攪拌翼先端速度一定や単位容積あたりの攪拌動力一定を基準にする方法、あるいは攪拌のレイノルズ数一定を基準にする方法が知られている。また固液系攪拌操作において粒子浮遊限界攪拌速度を維持するために、攪拌槽と攪拌翼や邪魔板などの槽内形状が相似で取り扱う固液状況も同じであるとき、単位容積あたりの攪拌動力が一定になるような回転数にすれば良いことも知られている。
【0042】
しかしこれらの方法は、多段攪拌槽(室)型固液接触装置をスケールアップする際、槽(室)間の逆混合を予測することが困難であり、設計どおりの接触効率を精度よく得ることは困難であった。本発明においては、単にReを一定(の範囲)に規定するだけではなく、「攪拌室内における攪拌翼及びバッフルの位置の規定」と「Reを一定の範囲に規定」の両者を適切に組みあわせることによって、室間の逆混合流を抑制することに成功した。その結果、小スケールの実験で求めた接触効率が、スケールアップする際に精度よく使えることになり、設計精度が高まった。
【0043】
(比較装置)
上述した本発明装置の本質的な効果は、各攪拌室において攪拌翼が、ほぼ中央の位置に配置され、且つバッフルが攪拌室高さのほぼ全域に亘って延長する従来型の連続多段攪拌型固液接触装置によっては得られない。
【0044】
例えば図3は、このような従来型装置の一例の模式縦断面図であり、図4は、図3のIV−IV線矢視方向断面図である。図3および図4の装置は、図1および図2の装置と比べて、各攪拌室21〜24において、攪拌翼36がほぼ中央に位置し、バッフル37がほぼ全高さに亘って設けられている点のみが異なる。このような装置では、各攪拌室天井部近傍に整流域が形成されず、対応して隣接する攪拌室間の仕切板の中央開口において、下降流と上昇流の形成が阻害されて逆混合が生ずるために、本発明装置の本質的効果は失われてしまう。
【0045】
(変形例)
上記において図1および図2を参照しつつ、本発明の縦型向流固液接触装置の好ましい一例について説明した。しかし、本発明の範囲内において、図1および図2の装置は各種変形が可能であることは当業者には容易に理解できよう。
【0046】
例えば装置を構成する攪拌室数は図示の4に限らず、必要な理論固液接触段数に応じて、例えば2〜400の範囲で変更可能であり、また配管93からの固体(スラリー)を、更に図1と同様な構成の固液接触装置の配管91に導入して処理する直列複数塔型固液接触装置とすることもできる。
【0047】
また攪拌翼は、半径方向吐出型であれば、図示の平パドル翼に限らず、ディスクタービン翼など任意の翼形のものが用いられる。更に1攪拌室あたりのバッフルの数も、上記例の4に限らず、一般に1〜12のバッフルが用いられるが、好ましくは、2〜8である。バッフルは、攪拌室内壁に垂直に設けることが一般的である。
【0048】
本発明の連続多段攪拌室型固液接触装置においては、隣接攪拌室間の仕切板に設けた開口を通して、固体流と液体流とが整然として対向流(下向流と上昇流)として行き交うことを特徴とする。そして、図1の例では、この対向流は、仕切板中央に設けた単一の開口の円周部と中心部とに形成させているが、開口は単一に限らず複数設けてもよい。例えば、図1の例においては、上昇流を通すべき中央開口に加えて、下降流を主として通すべき開口を、内壁側に移動した複数の開口あるいは単一の環状開口として設けてもよい。
【0049】
また図1の装置は、固体の密度が液体のそれより大である固液接触系の装置であるが、配管92から固体(スラリー)を、配管91から液体を導入すれば、図1の装置は液体より小さい密度の固体(例えば中空発泡粒子)と液体との固液接触に用いることもできる。この際には、当然配管94が固体(スラリー)排出口に、配管93が重流体排出口として機能する。また、塔頂部1および塔底部3の本体部2に対する相対的寸法変更等も望ましい場合が多いであろう。
【0050】
(本発明装置の利用)
本発明の連続多段攪拌室型向流式固液接触装置は、茶、コーヒー、砂糖、香料、油脂、微量天然成分など固体中の有用成分の液体への抽出操作、精肉・魚肉などの水さらし、合成樹脂の重合溶媒回収や樹脂粒子や成形ペレットの洗浄、リサイクルプラスチックなどの洗浄固体中不要成分の洗浄操作、固体と液体との反応や液体と液体の反応により固体を生成する重合などの反応操作、液体成分の固体への含浸や固体表面リンス処理操作、固体の液体への溶解操作やコロイド沈殿の解膠操作などに幅広く使用することができる。
【0051】
本発明の固液接触装置の好ましい利用例として、PAS(ポリアリーレンスルフィド)重合スラリーからの重合溶媒回収のためのPAS樹脂粒子の洗浄あるいはその後の精製のための樹脂粒子の洗浄のための固液接触装置としての使用がある。
【0052】
すなわち特開昭61−255933号公報には重合工程で得られた粒子PASを含む重合体スラリーの処理方法が記述されている。この処理方法では(1)ポリアリーレンスルフィド粒子、副生した結晶及び溶解塩化アルカリ並びにアリーレンスルフィドオリゴマーを含み液成分が主としてN−メチルピロリドンである重合スラリーを篩別によってポリアリーレンスルフィド粒子と結晶塩化アルカリ含有スラリーとに分離する工程、(2)該結晶塩化アルカリ含有スラリーを固液分離に付して、結晶塩化アルカリを得るとともに液成分を蒸留してN−メチルピロリドンを回収する工程、(3)該ポリアリーレンスルフィド粒子をアセトン等の有機溶媒および水で洗浄する工程、および(4)有機溶剤洗浄液より溶媒を蒸留回収する工程が記述されているが、本発明の固液接触装置は、上記(3)の工程の連続洗浄装置としても好適に利用できる。
【実施例】
【0053】
以下、実施例および比較例により、本発明を更に具体的に説明する。
【0054】
(実施例1)
図1(および2)に示す構成の固液接触装置に、配管91からPPS(ポリフェニレンスルフィド)スラリーを25kg/h、また配管92から洗浄液として水を37.5kg/hの割合で供給して連続固液接触処理を行った。装置の処理流量はスラリーと水の供給量の合計で62.5kg/hとなる。該PPSスラリーの内訳は、PPS粒子(乾燥基準)5kg/h、水16kg/h、アセトン4kg/hであり、従ってPPS粒子を除いた液中アセトン濃度が20重量%(スラリー中アセトン濃度が16重量%)、スラリー中PPS粒子濃度が20重量%となる。また洗浄液とスラリー中のPPS粒子の比で定まる洗浄浴比L/Pは7.5(=37.5/(25×0.2))となる。
【0055】
該装置は、アクリル樹脂板製の内部が透視可能な4の攪拌室21〜24を有し、その各々は、内径D=104mm、高さH=125mm、攪拌軸8外径20mm、開口4内径32mmを有する仕切板5、したがって仕切板開口率5.8%であった。また、各攪拌室には、攪拌翼径(2枚の合計として)60mm(すなわちd=0.06m)、翼幅20mm(b=0.02m)の寸法の4枚の平パドル翼6を、互いに90°の間隔でそれぞれ仕切板5の上方22mm〜42mmに亘って攪拌軸8に固着し、また内壁の90°間隔の4個所には、横幅15mm、高さ63mmのバッフル7の計4枚を仕切板5の上方0mm〜63mmに亘って高さ方向に延長するように固着した。
【0056】
上記において、攪拌軸8を攪拌回転数200rpm(すなわちn=200/60=10/3(1/s)、後記計算に示すように、攪拌室内平均攪拌レイノルズ数Re=6.84×10に相当する)で回転させた。この攪拌状態で上記の通り、配管91からPPSスラリーを25kg/h、配管92から水を37.5kg/hの割合で供給したところ、各攪拌室の下方部分にのみ設けた平パドル翼6およびバッフル7の作用により、例えば攪拌室21について図1に矢印で示すように、翼6下側での比較的小さな循環流、翼6の上側での比較的大きな循環流、開口4の外周部での下降流および開口4の中心での上昇流、更に攪拌室上部での穏やかな流れ状態(矢印なし)で特徴付けられる流動状態が確認された。また、配管94から廃液を37.5kg/hで排出し、底部配管93から洗浄済スラリーを、スラリー中粒子濃度20重量%が維持されるように25kg/hで排出した。この結果、排出スラリー中アセトン濃度(出口アセトン濃度)は0.22重量%であった。
【0057】
なお、上記装置において、洗浄浴比L/P=7.5を維持したまま、配管91へのスラリー供給量および配管92への水供給量を増大していき、その合計値である処理量が66kg/h(PPS粒子として5.3kg/h)に到達した後は、これ以上処理量を増大しても、配管93からのスラリー排出量は増大せず、攪拌室内部に固体が滞留する現象が見られたため、これを最大処理量と確認した。
【0058】
従って、上記処理量62.5kg/h(PPS粒子として5kg/h)は最大負荷の95%に相当する。
【0059】
上記で示した攪拌室内平均攪拌レイノルズ数Reの計算方法は以下の通りである。
【0060】
前記したようにReは下記(1)式により求めることができる。(参考文献:化工便覧6版、化学便覧4版):
[数2]
Re=ρnd/μ …… (1)
ここで、ρ:攪拌室内スラリー液の平均密度[kg/m]、n:攪拌回転数[l/s]、d:翼径[m]、攪拌室内スラリー液の粘度[Pa・s]である。次ぎに、ρとμの求め方について示す。
【0061】
(i)スラリー液の平均密度ρ[kg/m
ρは(2)式により求めることができる:
[数3]
ρ=φρs+(1−φ)ρ1 …… (2)
ここで、ρ1:液体密度[kg/m]、ρs:固体のみかけ密度[kg/m]、φ:固体体積濃度[−]である。
【0062】
(2)式のρ1は液体の体積と質量を精密に測定し、その質量を体積で除することにより求められるが、純物質やその混合物のときは便覧等に記載されているデータを用いてもよい。ρsを求めるためには、まず固体の真密度ρstをピクノメーター法により測定する。次にその固体をスラリー形成液体に浸漬させたのち液から引き上げ、直ぐその湿潤質量Ww[kg]を測定した後、液を除去して再度乾燥固体の質量Wd[kg]を測定し、(3)式により求められる:
[数4]
ρs=ρ1×((Ww−Wd)/Ww)+ρst×(1−(Ww−Wd)/Ww)
…… (3)
ρs,ρ1は装置内の各部、特に軸方向に異なるので、最上段と最下段(ここでは第1段と第4段)について求めて、これを算術平均する。
【0063】
φ(固体容積率)は、例えば装置の定常操作中に操作を停止して、装置内のスラリーを全量排出し、次にスラリーから固体を引き上げ、直ぐその質量Wsを測定し、(4)式により求める。ここで、V1は装置内容積である:
[数5]
φ=(Ws/ρs)/V1 …… (4)。
【0064】
これら特性値を、実施例1については、以下のようにして求めた。
【0065】
まず(3)式により、第1段と第4段におけるρsを求めた。化学便覧4版のデータより、20℃で、水の密度(ρw):998(kg/m)、アセトンの密度(ρac):791(kg/m)、また第1段アセトン濃度(Cac1):4.5(重量%)、第4段アセトン濃度(Cac2):0.43(重量%)の測定値をガスクロ法により得た。従って第1段水濃度(Cw1):95.5(重量%)、第4段水濃度(Cw2):99.57(重量%)。これよりρ1を求めた。
【0066】
まず、各段のアセトン濃度の重量%(Cac1、Cac2)を容量%(Fac1、Fac2)に換算した:
[数6]
第1段のアセトン濃度(容量%)(Fac1)
=100*(Cac1/ρac)/(Cac1/ρac+Cw1/ρw)
=(100)(4.5/791)/(4.5/791+95.5/998)
=5.61
第4段のアセトン濃度(容量%)(Fac2)
=100*(Cac2/ρac)/(Cac2/ρac+Cw2/ρw)
=(100)(0.43/791)/(0.43/791+99.57/998)
=0.54
従って、
第1段における液体密度ρ11
=(Fac1/100)*(ρac)+((100−Fac1)/100)*(ρw)
=(0.0561)(791)+(1−0.0561)(998)=986kg/m
第4段における液体密度ρ12
=(Fac2/100)*(ρac)+((100−Fac2)/100)*(ρw)
=(0.0054)(792)+(1−0.0054)(998)=997kg/m
以上より、装置内の平均の液密度ρ1=(986+997)/2=992kg/mを得た。
【0067】
次に実測により、Ww=1kg、Wd=0.5kg、ρsrは1300kg/mであった。これを(3)式に代入すると、第1段と第4段におけるρs1及びρs2は、
ρs1=(986)(0.5)+(1300)(0.5)=1143kg/m
ρs2=(997)(0.5)+(1300)(0.5)=1149kg/m
以上より、平均の固体密度ρs=(1143+1149)/2=1146kg/mを得た。
【0068】
次に(4)式により、以下のようにしてφを求めた:
[数7]
装置内容積V1
=(室数)*(室内径)*(3.14/4)*(室高さ)
=(4)(0.104)^2(0.785)(0.125)=0.00425m
Wsを測定したところ1kgであった。ρsav=1146kg/mであるので、これを(4)式に代入して、
φ=(1/1146)/(0.00425)=0.2。
【0069】
(2)式に第1段と第4段の液密度及び固体密度に対応する平均値を代入することによってスラリーの密度ρが得られた:
ρ=(0.2)(1146)+(1−0.2)(992)=1022kg/m
【0070】
(ii)平均粘度μ[Pa・s]
[数8]
μ=μ1[1−(φ/0.62)](−1.55)
ここで、μ1[Pa・s]は液粘度で各種粘度測定装置により測定できるが、純物質やその混合物のときは便覧等に記載されているデータを用いてもよい。
【0071】
実施例1の場合
20℃で化学便覧4版のデータより、20℃で水1.0×10−3Pa・s、アセトン0.4×10−3Pa・s
[数9]
第1段では μ11=(0.0561)(0.4×10−3)+(1−0.0561)(10−3)=0.966×10−3
μ1=0.966×10−3[(1−0.2/0.62)](−1.55)=1.8×10−3
第4段では μ12=(0.0054)(0.4×10−3)+(1−0.0054)(10−3)=1.0×10−3
μ2=1.0×10−3[(1−0.2/0.62)(−1.55)=1.8×10−3
故にμ=(μ1+μ2)/2=1.8×10−3Pa・s
従って実施例1における攪拌レイノルズ数Reは以下のように計算される:
[数10]
Re=ρnd/μ=1022×(10/3)×(0.06)/(1.8×10−3)=6.8×10
【0072】
装置、運転条件および運転結果の概容を、下記例のものとともに後記表1にまとめて示す。
【0073】
(参考例1)
上記実施例1と同じ攪拌状況を維持し、また洗浄浴比L/P=7.5を維持しながら、配管91へのスラリー供給量と配管92への水供給量の合計値である処理量を37.5kg/h(PPS粒子として3kg/h)まで減少させた。このときの出口アセトン濃度は0.60重量%であった。装置内平均攪拌レイノルズ数Reは6.82×10であり、処理量37.5kg/hは最大負荷の57%に相当する。
【0074】
(参考例2)
参考例1の攪拌回転数を4rpmまで減少させた。このとき装置内平均攪拌レイノルズ数Reが1.37×10となる。この攪拌状態で、洗浄浴比L/P=7.5を維持しながら、配管91へのスラリー供給量と配管92への水供給量の合計値である処理量を37.5kg/h(PPS粒子として3kg/h)としたとき出口アセトン濃度は1.40重量%であった。
【0075】
なお、上記装置において、攪拌状況と洗浄浴比L/P=7.5を維持したまま、配管91へのスラリー供給量および配管92への水供給量を増大していき、その合計値である処理量が40kg/hに到達した後は、これ以上処理量が増大しても、配管93からのスラリー排出量は増大せず、攪拌室内部に固体が滞留する現象が見られたため、これを最大処理量として確認した。したがって上記処理量37.5kg/h(PPS粒子として3kg/h)は最大負荷の95%に相当する。
【0076】
(参考例3)
参考例2の仕切板開口4内径を52mmに増大し、仕切板開口率を21%とした装置を用いたところ、最大処理量が66kg/h(PPS粒子として5.3kg/h)に増大した。このとき装置内平均攪拌レイノルズ数Reが1.38×10となる。そこで洗浄浴比L/P=7.5のまま、処理量を最大負荷の95%に相当する62.5kg/h(PPS粒子として5kg/h)として固液接触処理を行った。このとき出口アセトン濃度は3.60重量%であった。
【0077】
(実施例2)
実施例1と同様に、図1に示す構成を示すが、但し、攪拌室内径D=104mm、攪拌室高さH=63mm、攪拌軸8外径20mm、仕切板開口4内径32mm、従って仕切板開口率5.8%と高さHを実施例1の半分にした装置を用いて固液接触操作を行った。また各攪拌室には、攪拌翼径60mm、翼幅20mmの4枚の平パドル翼6を、それぞれ仕切板5の上方6mm〜26mmに亘って攪拌軸8に固着し、また内壁の90°間隔の4個所には横幅15mm、高さ32mmのバッフル7の計4枚を仕切板5の上方0mm〜32mmに亘って高さ方向に延長するように固着した。
【0078】
上記において、攪拌軸8を200rpm(Re=6.8×10)で回転させた。この攪拌状態で、配管91から実施例1と同一組成のPPSスラリーを14kg/h、配管92から水を21kg/hの割合で供給し、すなわち合計処理量が35kg/h(PPS粒子として2.8kg/h)で接触を行った。この結果、排出スラリー中アセトン濃度(出口アセトン濃度)は0.32重量%であった。
【0079】
なお、上記装置において、攪拌状況と洗浄浴比L/P=7.5を維持したまま、配管91へのスラリー供給量および配管92への水供給量を増大していき、その合計値である処理量が37kg/hに到達した後は、これ以上処理量が増大しても、配管93からのスラリー排出量は増大せず、攪拌室内部に固体が滞留する現象が見られたため、これを最大処理量と確認した。したがって上記処理量35kg/h(PPS粒子として2.8kg/h)は最大負荷の95%に相当する。
【0080】
(参考例4)
上記実施例2と同じ攪拌状況を維持し、スラリー供給量および水供給量を洗浄浴比L/P=7.5を維持しながら、配管91へのスラリー供給量と配管92への水供給量の合計値である処理量を26.3kg/h(PPS粒子として2.1kg/h)まで減少させた。このときの出口アセトン濃度は0.47重量%であった。装置内平均攪拌レイノルズ数Reは6.8×10であり、処理量26.3kg/hは最大負荷の72%に相当する。
【0081】
(比較例1)
図1の代りに図3に示す装置を用いて、実施例1と同様な固液接触操作を行った。
【0082】
図3の装置は、各攪拌室21〜24において、図1の攪拌翼6と実質的に同じ平パドル翼36を、但し、各攪拌室の中央に位置させ、またバッフル7の代りに幅15mm、高さ125mmのバッフル37をほぼ攪拌室の全高に亘って延長するように配置したものであり、その他の構成は図1とほぼ同様である。
【0083】
この装置に、洗浄浴比L/P=7.5で実施例1と同じPPS粒子スラリーおよび水を供給し、攪拌翼36を実施例1と同じく200回転(Re=6.8×10)で回転させたところ、図3の攪拌室21内に矢印で示すように、各攪拌室内においては攪拌翼の上下に同じ大きさの循環流が生じ、仕切板5の中央開口4近傍では隣接する攪拌室内の循環流がせめぎ合う形となり、図1のような中央開口4をまたぐ下降流および上昇流の形成は認められなかった。
【0084】
実施例1と同様に洗浄浴比L/P=7.5を維持すると最大処理量は79kg/h(PPS粒子として6.3kg/h)程度と判定され、その95%にあたる75kg/h(PPSとして6kg/h)の処理量で、固液接触を行うと、出口アセトン濃度は0.62重量%であった。
【0085】
(比較例2)
比較例1の4枚のバッフル37の各々を図1のバッフル7のように、横幅15mm、高さ63mmの寸法とし、仕切板5の上方0mm〜63mmに亘って高さ方向に延長するように固着した以外は比較例1と同じとした。攪拌翼を比較例1と同じく、200rpmで回転させたところ装置内平均攪拌レイノルズ数Reは6.8×10であった。
【0086】
最大処理量は66kg/h(PPS粒子として5.3kg/h)に減少した。洗浄浴比L/P=7.5のまま、処理量を最大負荷の95%に相当する62.5kg/h(PPS粒子として5kg/h)として固液接触処理を行った。このとき出口アセトン濃度は0.57重量%であった。
【0087】
(比較例3)
比較例1の攪拌翼36を、図1の攪拌翼6のように、高さ32mmに縮小し、仕切板5の上方22mm〜42mmに亘って攪拌軸8に固着した以外は比較例1と同じとした。攪拌翼を比較例5と同じく、200rpmで回転させたところ室平均攪拌レイノルズ数Reは6.8×10であった。
【0088】
最大処理量は79kg/h(PPS粒子として6.3kg/h)となった。洗浄浴比L/P=7.5のまま、処理量を最大負荷の95%に相当する75kg/h(PPS粒子として6kg/h)として固液接触処理を行った。このとき出口アセトン濃度は0.56重量%であった。
【0089】
(実施例3)
実施例1と同様に、図1に示す構成を示すが、但し、攪拌室内径D=311mm、高さH=156mm、攪拌軸8外径20mm、仕切板開口4内径75mm、従って仕切板開口率5.4%とスケールアップした装置を用いて固液接触操作を行った。また各攪拌室には、攪拌翼径150mm、翼幅30mmの4枚の平パドル翼6を、それぞれ仕切板5の上方24mm〜54mmに亘って攪拌軸8に固着し、また内壁の90°間隔の4個所には横幅42mm、高さ78mmのバッフル7の計4枚を仕切板5の上方0mm〜78mmに亘って高さ方向に延長するように固着した。
【0090】
上記において、攪拌軸8を攪拌回転数50rpmで回転させた。このとき室内平均攪拌レイノルズ数Reが1.1×10となる。この攪拌状態で、配管91から実施例1と同じPPSスラリーを250kg/h、配管92から水を375kg/hの割合で供給し、合計処理量が625kg/h(PPS粒子として50kg/h)のところで固液接触処理を行った。このとき、排出スラリー中アセトン濃度(出口アセトン濃度)は0.16重量%であった。
【0091】
なお、上記装置において、攪拌状況と洗浄浴比L/P=7.5を維持したまま、配管91へのスラリー供給量および配管92への水供給量を増大していき、その合計値である処理量が658kg/h(PPS粒子として52.6kg/h)に到達した後は、これ以上処理量が増大しても、配管93からのスラリー排出量は増大せず、攪拌室内部に固体が滞留する現象が見られたため、これを最大処理量と確認した。したがって上記処理量625g/h(PPS粒子として50kg/h)は最大負荷の95%に相当する。
【0092】
(実施例4)
実施例3の装置攪拌回転数を30rpmまで減少させて運転した。このとき装置内平均攪拌レイノルズ数Reが6.4×10となる。この攪拌状態で、処理量を625kg/h(PPS粒子として50kg/h)に維持して実施例3と同様に固液接触操作を行った。このとき出口アセトン濃度は0.32重量%であった。このときの最大処理量は658kg/h(PPS粒子として52.6kg/h)であった。
【0093】
上記実施例、参考例、比較例での固液接触条件および結果の概要をまとめて下表1に記す。
【表1】

【0094】
上記表1に示すように、実施例1では、処理量が高く、且つ固液接触効率が高い(出口アセトン濃度が低く段効率が高い)。参考例1は、負荷率を低下すると却って固液接触効率が低下することを示す。参考例2ではReが低いため、処理量および固液接触効率が低い。参考例3では開口率を増大することによりReが低くても処理量は増大しているが、固液接触効率は一段と低下している。図3の装置を用いる比較例1、バッフル位置のみ本発明に従う比較例2および攪拌翼位置のみ本発明に従う比較例3では、いずれも固液接触効率が低い。実施例2は攪拌室高さを単純に減少しているが、ある程度良好な固液接触効率が得られている。また実施例3および4は、スケールアップして処理量を増大しても良好な固液接触効率が得られることを示している。
【産業上の利用可能性】
【0095】
上述したように、本発明によれば、固液流れの均一性が良くて接触効率が高く、しかも構造が簡単で、スケールアップ容易な連続多段攪拌室型の(向流)固液接触装置ならびにこれを用いる効率的な固液接触方法が提供される。この装置は、洗浄、精製、抽出、含浸、反応、溶解等の主として化学工業における単位操作に幅広く適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0096】
【図1】本発明の縦型固液接触装置の一実施例の模式縦断面図。
【図2】図1のII−II線矢視方向断面図。
【図3】従来の縦型固液接触装置の一例の模式縦断面図。
【図4】図3のIV−IV線矢視方向断面図。
【符号の説明】
【0097】
1 塔頂部
2 本体部(21〜24:攪拌室)
3 塔底部
4,4a 開口部
5 仕切板
6,36 半径方向吐出型攪拌翼(平パドル翼)
7,37 バッフル
8 攪拌軸
91 固体(スラリー)入口配管
92 液体入口配管
93 固体(スラリー)出口配管
94 液体出口配管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
連通口を有する仕切板により互いに区画されて垂直方向に連設された複数の攪拌室を備え、各攪拌室には半径方向吐出型の攪拌翼と垂直方向に延長するように内側側壁に固着された一以上のバッフルとをそれぞれ該攪拌室の下方に偏在させて設け、上部および下部には液体入口および固体入口を設けてなる縦型固液接触装置。
【請求項2】
該攪拌翼およびバッフルは、各攪拌室の概ね下半分の領域内に配置される請求項1に記載の装置。
【請求項3】
該攪拌翼が平パドル翼である請求項1または2に記載の装置。
【請求項4】
該攪拌翼がディスク・タービン翼である請求項1または2に記載の装置。
【請求項5】
該仕切板の連通口が、複数の攪拌室の攪拌翼の共通攪拌軸の周囲に開口されている請求項1〜4のいずれかに記載の装置。
【請求項6】
装置の上部に固体入口を固体スラリー入口として設け、装置の下部に液体入口を設けてなる請求項1〜5のいずれかに記載の装置。
【請求項7】
各攪拌室の高さ(H)と内径(D)との比(H/D)が0.1〜3.0の範囲である請求項1〜6のいずれかに記載の装置。
【請求項8】
仕切板位置での攪拌室の断面積に対する連通口の開口面積の割合が0.2〜20%である請求項1〜7のいずれかに記載の装置。
【請求項9】
上記請求項1〜8のいずれかに記載の固液接触装置を用いて固液接触を行うに際して、攪拌時の固液混合物のレイノルズ数(Re)が500〜500000の範囲となるように攪拌し、装置の最大負荷に対して60%以上の負荷率で固体流を供給する固液接触方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2008−513186(P2008−513186A)
【公表日】平成20年5月1日(2008.5.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−511140(P2007−511140)
【出願日】平成17年7月27日(2005.7.27)
【国際出願番号】PCT/JP2005/014141
【国際公開番号】WO2006/030588
【国際公開日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【出願人】(000001100)株式会社クレハ (477)
【Fターム(参考)】