説明

固相反応による粉末の製造方法

【課題】従来の製造方法に比較し所望の物性又は優れた性能を有するセラミックス粉末などを得ることができる、より効果的なマイクロ波加熱を使用した固相反応による粉末の製造方法を提供する。
【解決手段】原料粉末を充填してなる粉体層にマイクロ波を照射し固相反応により粉末を製造する方法において、粉体層を流動化させ、かつ流動時の粉体層の充填率が所定の充填率になるように流動化ガスを供給しながらマイクロ波加熱する。流動化ガスを送り粉体層を流動化させることで粉体層の充填率が低下しかつ粉体層が混合され、結果、マイクロ波の吸収効率が高まり粉体層の温度が上昇する。これにより反応が促進され短時間内に所望の物性又は性能を有する粉末を得ることができる。このような製造方法は、酸化インジウムスズなど金属酸化物又は複合酸化物の製造に好適に使用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固相反応により粉末を製造する方法に関し、特に原料粉末を充填してなる粉体層をマイクロ波加熱し固相反応により粉末を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
化学種の異なる2種以上の粉末を混合、加熱し粉末を生成させる固相反応は、セラミックス粉末の製造等に多く使用されている。例えば、高い導電性と可視光透過性からFPD(Flat Panel Display)等の電極用材料として多用されている酸化インジウムスズ(ITO:Indium Tin Oxide)は、酸化インジウム(In)に数%の酸化スズ(SnO)を添加した化合物であり、ITO微粉末、ITO焼結体は、一般的にIn、SnOの微粉末を高温で熱処理して反応させる固相反応により製造される。
【0003】
従来から一般的に行われている固相反応を用いた微粉末の製造方法においては、2種以上の原料微粉末を均一に混合した後、外部熱源により1000℃以上に加熱し、さらに反応時間も数時間を要することからエネルギー効率の良い製造方法が求められていた。これに対してITO焼結体など導電性セラミックスの焼結体の製造に、マイクロ波などの電磁波で原料微粉末を加熱し焼結体を得る方法が提案されている(例えば特許文献1参照)。マイクロ波加熱の利用に関しては、分散性の優れた混合粉末の製造にマイクロ波加熱を使用し、さらにこれらから結晶組織の微細なセラミックス焼結体を得る方法が提案されている(例えば特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−223852号公報
【特許文献2】特開2007−84352号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
外部加熱方式とは異なりマイクロ波加熱方式の場合、粒子はマイクロ波を吸収することで内部から加熱される。このためセラミックス粉末の製造にマイクロ波加熱を使用する場合、外部加熱方式に比較し短時間内に高温まで加熱することが可能であり、焼成時間が短く、かつ焼成に必要なエネルギーも小さくなる。このようにマイクロ波加熱を用いたセラミックス粉末の製造は効率のよい製造方法と言えるが、マイクロ波加熱は、加熱むらが生じやすく均質なセラミックス粒子、所望の物性又は優れた性能を有するセラミックス粉末を得るためには、加熱条件等を適正に設定する必要がある。さらにマイクロ波加熱を用いたセラミックス粉末の製造において、エネルギー効率を高めるためには効率的にマイクロ波を照射し、吸収させることがポイントとなるが、マイクロ波加熱を使用した固相反応による粉末の製造方法において、これまでに加熱方法を含め製造方法は十分に検討されておらず、効果的な加熱方法、製造方法の開発が待たれている。
【0006】
本発明の目的は、従来の製造方法に比較し所望の物性又は優れた性能を有するセラミックス粉末などを得ることができる、より効果的なマイクロ波加熱を使用した固相反応による粉末の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、所望の物性又は優れた性能を有するセラミックス粉末を得るべく鋭意研究を重ねた結果、原料粉末を充填してなる粉体層をマイクロ波加熱し固相反応によりセラミックス粉末を製造するとき、粉体層の温度は場所によって異なること、粉体層の温度は粉体層の充填率に大きく影響を受けること、さらに粉体層の混合が所望の物性又は優れた性能を有するセラミックス粉末の生成に大きく寄与することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち本発明は、原料粉末を充填してなる粉体層にマイクロ波を照射し固相反応により粉末を製造する方法において、粉体層を流動化させ、かつ流動時の粉体層の充填率が所定の充填率になるように流動化ガスを供給しながらマイクロ波加熱することを特徴とする固相反応による粉末の製造方法である。
【0009】
また本発明は、前記固相反応による粉末の製造方法において、前記所定の充填率が、粉体層の到達温度が最高到達温度又は略最高到達温度となる充填率であることを特徴とする。
【0010】
また本発明は、前記固相反応による粉末の製造方法において、得られる粉末が金属酸化物又は複合酸化物であることを特徴とする。
【0011】
また本発明は、前記固相反応による粉末の製造方法において、得られる粉末が酸化インジウムスズ粉末であり、流動時の粉体層の充填率をφ、圧密及び流動化させることなく原料粉末を充填したときの粉体層の充填率をφとしたとき、φ/φ=0.75〜0.86としマイクロ波加熱することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る固相反応による粉末の製造方法は、原料粉末を充填してなる粉体層にマイクロ波を照射し固相反応により粉末を製造する方法において、マイクロ波加熱時に流動化ガスを送り粉体層を流動化させるので、圧密及び流動化させることなく単に原料粉末を充填したときの粉体層の充填率に比較し充填率が低下し、かつ粉体層が混合される。流動時の粉体層の充填率を所定の充填率とすることでマイクロ波の吸収効率が高まり、粉体層の温度が上昇する。セラミックス粉末など粉末の物性又は性能は、焼成時の温度に大きく依存するので、本発明に係る固相反応による粉末の製造方法を用いることで短時間内に所望の物性又は優れた性能を有する粉末を得ることができる。このような製造方法は、酸化インジウムスズなど金属酸化物又は複合酸化物の製造に好適に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施例1〜4で使用したマイクロ波加熱によりITO粉末の製造を行ったときの実験装置の概要的構成を示す図である。
【図2】図1の実験装置の反応部1の構造図である。
【図3】実施例1〜4及び比較例1〜8で得られたITO粉末の電気伝導度の測定結果を示す図である。
【図4】実施例1〜4及び比較例1〜8の粉体層の最高到達温度の測定結果を示す図である。
【図5】実施例2及び比較例1の実験において、粉体層を中心部と周辺部とに分け、各々のITO粉末の電気伝導度を測定した結果を示す図である。
【図6】実施例2及び比較例1の実験において、粉体層を中心部と周辺部とに分け、各々の粉体層の温度を測定した結果を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明に係る固相反応による粉末の製造方法は、原料粉末を充填してなる粉体層にマイクロ波を照射し固相反応により粉末を製造する方法において、粉体層を流動化させ、かつ流動時の粉体層の充填率が所定の充填率になるように流動化ガスを供給しながらマイクロ波加熱することを特徴とする。
【0015】
本発明に係る固相反応による粉末の製造方法は、特定の粉末に限定されるものではなくマイクロ波を吸収可能で固相反応により製造される粉末、例えば酸化亜鉛などの金属酸化物、ITOなど金属複合酸化物などの製造に使用することができる。またカーボン、CuO、Feなどはマイクロ波加熱により短時間内に温度が上昇するため、これらを原料粉末に使用する粉末の製造に好適に使用することができる。さらに焼成温度により物性、性能が大きく異なり、焼成温度を所定の温度に調節することが好ましいセラミックス粉末などの製造に好適に使用することができる。このようなセラミックス粉末として、ITOが例示される。以下、2種の原料粉末をマイクロ波加熱し固相反応よりセラミックス粉末を製造する場合を例として、本発明に係る固相反応による粉末の製造方法を詳細に説明する。
【0016】
2種の原料粉末を混合、充填した粉体層にマイクロ波を照射し固相反応によりセラミックス粉末を製造する方法は、粉体層を短時間内に所定の温度とすることが可能であるが、焼成時、静置状態の粉体層各所の温度は必ずしも同一ではない。後述の実施例で示すように、粉体層の温度は半径方向で温度が異なり、中心部に比較し周辺部の温度が低い。このため周辺部では十分に反応が進まず、全体として所望の物性又は性能を有するセラミックス粉末を得ることができない。これに対して本発明に係る固相反応による粉末の製造方法では、粉体層を流動化させ、かつ流動時の粉体層の充填率が所定の充填率になるように流動化ガスを供給しながらマイクロ波加熱するので、焼成中、粉体層の充填率が低下し、かつ粉体層が混合される。この結果、マイクロ波の吸収効率が高まり中心部のみならず周辺部の粉体層の温度が高まる。温度上昇と粉体層の混合により反応が促進され所望の物性又は性能を有するセラミックス粉末を得ることができる。
【0017】
流動化ガスを送り粉体層を流動化させる方法は、通常の流動層と同様、フィルタなどの分散板上に原料粉末を充填し、下方よりガスを供給することで簡単に流動化させることができる。流動化ガスを送り粉体層を流動化させるとき、粉体層の充填率が所定の充填率になるように流動化ガスを供給することが重要である。ここで所定の充填率とは、圧密することなく単に原料粉末を充填し静置させた状態で固相反応させて得られるセラミックス粉末以上の物性を有するセラミックス粉末を得ることができる充填率を言う。後述の実施例で言えば、所定の充填率は、0.09〜0.14である。好ましい粉体層の充填率は、粉体層の温度が一番高くなるような充填率であり、後述の実施例で言えば、充填率0.105〜0.12である。セラミックス粉末の物性は焼成温度の影響を大きく受け、一般的に焼成温度を高めることで反応も十分に進行し、さらにこのような充填率は、照射したマイクロ波が十分に吸収されるのでエネルギー効率の点からも好ましい。
【0018】
粉体層は、供給する流動化ガス量を多くするに従って激しく流動化し、層高も高くなり充填率が低下する。粉体層を激しく流動化させると、粉体層全体を均一の温度とすることができる一方で、マイクロ波加熱の場合、直接、原料粉末が加熱されるため空隙率が大きくなり過ぎると粉体層の温度が低下してしまう。セラミックス粉末の物性又は性能は焼成温度に大きく影響されるため、必要以上に粉体層の充填率を低下させた状態で反応させると高い物性値を有するセラミックス粉末を得ることができない。さらに粉体層を激しく流動化させ充填率を低下させ過ぎると、原料粉末同士の接触が不十分となり固相反応が十分に進まないことに注意が必要である。
【0019】
後述の実施例で示すように、粉体層の中心部の最高到達温度は粉体層の充填率の影響を大きく受ける。粉体層の最高到達温度は、粉体層を圧密し充填率を高くすると低下し、逆に粉体層を流動化させ充填率を低下させると上昇する。粉体層の最高到達温度は、流動化>単なる充填>圧密の順になるが、ある充填率を境界にさらに充填率を低下させると粉体層の最高到達温度は逆に低下する。つまり粉体層の最高到達温度は、ある充填率で極大値を示す。これまでセラミックスの製造にはホットプレス、HIP、CIP等より粉末を圧密させた状態で焼成する方法が多く用いられているが、マイクロ波加熱によりセラミックス粉末を製造する場合には、粉末を圧密させることは好ましくない。
【0020】
後述の実施例で示すように粉体層に流動化ガスを送り粉体層が最高到達温度となるように調整した充填率において、焼成時に粉体層の中心部と周辺部には比較的大きな温度差があった。この温度差は、粉体層を流動化させない場合と殆ど差がなかった。これから分かるように粉体層の流動化状態は比較的穏やかであり、粉体層全体が均一に混合されるほど激しく流動化していない。後述の実施例で単に原料粉末を充填し静置させた状態で固相反応させて得られるセラミックス粉末以上の物性を有するセラミックス粒子を得ることができる充填率は、0.09〜0.14であり、これを粉体層の層高比に換算すると、単に原料粉末を充填し静置させたときの粉体層の層高を1としたとき1.0〜1.56に過ぎない。
【0021】
粉体層の中心部の最高到達温度が極大となる充填率φは、後述の実施例で示すように圧密、タッピングすることなく単に原料粉末を充填したときの充填率φから僅かに小さい充填である。後述の実施例では、φ/φ=0.75〜0.86であった。このため粉体層の中心部の最高到達温度が極大となる充填率を求めるには、圧密することなく単に原料粉末を充填した状態の粉体層に流動化ガスを送り、順次流動化ガス量を増加させながら粉体層の中心部の温度を測定することで簡単に求めることができる。
【0022】
粉体層を流動化ガスを用いて所定の充填率となるように流動化させながらマイクロ波加熱することで、マイクロ波の吸収効率が高まり粉体層の温度が上昇し、さらに粉体層が混合されることで反応が十分に進行する。粉体層を攪拌装置で攪拌、混合する操作とマイクロ波加熱操作とを交互に繰り返しながら反応させることでも同様の作用効果が発揮され、高い物性値を有するセラミックス粉末を得ることができることは実験で確認済みであるが、操作の容易性、工業的規模での実用化を考えれば粉体層を流動化ガスを用いて流動化させながらマイクロ波加熱する方法が好ましい。
【0023】
粉体層を流動化させる流動化ガスは、特に限定されるものでなく製造するセラミックス粉末の種類に応じて適宜選択して使用すればよく、例えば空気、窒素ガス、酸素と窒素の混合ガスなどを用いることができる。さらに流動化ガスに固相反応に適したガスを積極的に使用することで所望の物性又は高い性能を有するセラミックス粉末を得ることができる。
【実施例】
【0024】
実施例1〜4
マイクロ波感受性の高いInとSnOとを原料とし、次の要領で固相反応によりITO粉末の製造を行った。図1に実験装置の概要を、反応部1の概要を図2に示した。反応部1は耐熱性とマイクロ波透過性に優れる石英ガラスを使用した。上下2つのフランジ付き石英ガラス管3、5(内径17.5mm)でステンレス製のフィルタ7を挟み込み反応管1を形成し、フィルタ7上に原料粉末を充填した。原料粉末にはIn粉末3.0g(中位径4.5μm)とSnO粉末0.3g(中位径0.5μm)とをミルで十分に混合したものを用いた。この反応管1をマイクロ波発生装置(発信周波数2.45GHz,高周波出力750〜100W相当)9内にセットし、下の石英ガラス管5には空気供給ライン11を接続した。空気供給ライン11は、粉体層の充填率を調整するための空気を送るためのラインであり、空気圧縮機13と接続し、ラインの途中には流量計15、弁17が設けられている。粉体層の充填率は、空気供給ライン11から空気を供給することで調整した。粉体層の温度は、上部から熱電対19を挿入し測定し、温度データはオンラインでデータロガー21に取り込んだ。マイクロ波の出力は750W一定、照射時間は5分間とし、バッチ操作でITO粉末の製造を行った。実施例1〜4で粉体層の充填率を変化させた実験を行った。なお、実施例2については、焼成時間を20分とし、粉体層を中心部と周辺部とに分け、各々の電気伝導度及び粉体層の温度を測定した実験も併せて行った。
【0025】
充填率φは式(1)により求めた。式(1)において、原料粉末の体積Vpは、In粉末及びSnO粉末の充填量をそれぞれの粉末の密度で徐算した後に積算し算出し、全体積Vは、粉体層の層高を測定しこれと反応部1の断面積を乗算し求めた。
充填率φ=原料粉末の体積Vp/全体積V・・・(1)
【0026】
生成したITO粉末は、高い電気伝導性を示すことから、ITOの生成を電気伝導率によって評価した。具体的には、上下2枚の電極板に製造したITO粉末を挟み、上部より一定圧力40kPaで加圧した状態で低抵抗計により抵抗値を測定し、得られた抵抗値から電気伝導率を求めた。なお、粉体層の充填率は0.50でほぼ一定とした。
【0027】
比較例1
実施例1〜4と同様の原料粉末を用い、これに荷重を加えることなく又タッピングすることなく反応部1に充填した。このときの充填率は、0.14であった。以降、空気を供給することなく静置した状態でマイクロ波を照射した。他の実験要領、評価要領は実施例1〜4と同じである。また焼成時間を20分とし、粉体層を中心部と周辺部とに分け、各々の電気伝導度及び粉体層の温度を測定した実験も併せて行った。
【0028】
比較例2〜7
実施例1〜4と同様の原料粉末を用い、これを反応部1に充填した後、上部から荷重を加え圧密した。以降、空気を供給することなく静置した状態でマイクロ波を照射した。他の実験要領、評価要領は実施例1〜4と同じである。
【0029】
比較例8
空気を送り充填率を0.085としてITO粉末の製造を行った。他の条件は、実施例1〜4と同じである。
【0030】
比較例9
実施例1と同じ原料粉末を蒸発皿に入れ、これを電気炉(卓上型プログラム電気炉,消費電力1.45kW,最高使用温度1300℃)を用い、焼成温度1200℃、焼成時間15時間の条件でITO粉末の製造を行った。製造したITO粉末の評価方法は、実施例1〜5と同じである。
【0031】
実験条件、結果を表1に示した。図3は、粉体層の充填率と得られたITO粉末の電気伝導度との関係を示す図である。図4は、粉体層の充填率と粉体層の最高到達温度との関係を示す図である。図5及び図6は、実施例2及び比較例1の実験において、粉体層を中心部と周辺部とに分け、各々の電気伝導度及び粉体層の温度を測定した結果を示す図である。表1中、充填率比φ/φ及び粉体層層高比は、比較例1の充填率及び層高を1.0とし表したものである。
【0032】
【表1】

【0033】
得られたITO粉末の電気伝導度は、図3に示すように充填率により大きく異なり、空気を供給せず圧密によって充填率を増加させた場合、充填率の増加と共に電気伝導率は低下した。一方、空気を供給した場合、充填率の低下と共に電気伝導度は上昇し、充填率0.105〜0.12で極大となった。このときの電気伝導度は、約4.5S/cmであり、市販のITO粉末の電気伝導度、外部加熱方式で合成したITOの電気伝導度を上回った。空気量を増加させ粉体層の充填率をさらに低下させると、充填率の低下と共にITO粉末の電気伝導率は低下した。特に粉体層の充填率が約0.09を下回ると、得られたITO粉末は原料粉末を単に充填しただけの状態で製造したITO粉末よりも電気伝導度が低かった。
【0034】
粉体層の中心部の最高到達温度は、図4に示すように充填率により大きく異なり、空気を供給せず圧密によって充填率を増加させた場合、充填率の増加と共に最高到達温度は低下した。一方、空気を供給した場合、充填率の低下と共に最高到達温度は上昇し、充填率0.105〜0.12で極大となった。このときの充填率比φ/φは0.75〜0.86であり、最高到達温度は約1360℃であった。空気量を増加させ粉体層の充填率をさらに低下させると、充填率の低下と共に最高到達温度は低下した。粉体層の充填率が0.09の場合、最高到達温度は約1080℃であり、原料粉末を単に充填しただけの状態の充填率0.14の最高到達温度約1240℃を下回った。図3と図4を比較すると、非常に似通った曲線となっており、得られるITO粉末の電気伝導度と焼成時の最高到達温度が密接に関係していることが伺えた。
【0035】
図6に示すように粉体層に空気を送り粉体層を流動化させた実施例2において、焼成時の最高到達温度は、中心部(r=0〜6mm)で約1360℃、周辺部(r=6〜8.75mm)で900℃で温度差は約460℃であった。一方、原料粉末を充填しただけの比較例1において、焼成時の最高到達温度は、中心部で約1240℃、周辺部で約800℃で温度差は約440℃であった。この結果から、粉体層に空気を送り粉体層を流動化させると、粉体層全体の温度が上昇する一方で、中心部と周辺部との温度差は殆ど改善されないことが分かった。
【0036】
得られたITO粉末の電気伝導度を中心部(r=0〜6mm)と周辺部(r=6〜8.75mm)とに分けて測定すると、図5に示すように粉体層に空気を送り粉体層を流動化させた実施例2及び原料粉末を充填しただけの比較例1とも周辺部に比べ中央部の方が電気伝導度が高かった。粉体層を流動化させた実施例2の周辺部のITO粉末の電気伝導度は、温度が原料粉末を充填しただけの比較例1の中心部のITO粉末の最高到達温度に比べ約340℃低いにも係わらず、比較例1の中心部のITO粉末の電気伝導度を上回った。また実施例2と比較例1とを比較すると、実施例2の方が中心部と周辺部のITO粉末の電気伝導度の差が小さいことから、粉体層が混合、反応が促進されITO粉末の電気伝導度が上昇したものと推察される。
【符号の説明】
【0037】
1 反応管
3 石英ガラス管
5 石英ガラス管
7 フィルタ
9 マイクロ波発生装置
11 空気供給ライン
13 空気圧縮機
15 流量計
17 弁
19 熱電対

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料粉末を充填してなる粉体層にマイクロ波を照射し固相反応により粉末を製造する方法において、
粉体層を流動化させ、かつ流動時の粉体層の充填率が所定の充填率になるように流動化ガスを供給しながらマイクロ波加熱することを特徴とする固相反応による粉末の製造方法。
【請求項2】
前記所定の充填率が、粉体層の到達温度が最高到達温度又は略最高到達温度となる充填率であることを特徴とする請求項1に記載の固相反応による粉末の製造方法。
【請求項3】
得られる粉末が金属酸化物又は複合酸化物であることを特徴とする請求項1又は2に記載の固相反応による粉末の製造方法。
【請求項4】
得られる粉末が酸化インジウムスズ粉末であり、流動時の粉体層の充填率をφ、圧密及び流動化させることなく原料粉末を充填したときの粉体層の充填率をφとしたとき、φ/φ=0.75〜0.86としマイクロ波加熱することを特徴とする請求項1から3のいずれか1に記載の固相反応による粉末の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−246305(P2011−246305A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−120401(P2010−120401)
【出願日】平成22年5月26日(2010.5.26)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 化学工学会第75年会研究発表講演要旨集,2010年2月18日
【出願人】(504136568)国立大学法人広島大学 (924)
【Fターム(参考)】