説明

固相抽出の異常判定方法、及び固相抽出装置

【課題】固相抽出時の異常を高精度に判定すると共に、信頼性の高い固相抽出装置を提供する。
【解決手段】固相抽出材が充填されている固相抽出カートリッジ9へ試料を分注し、この分注した試料をポンプ25で加圧して固相抽出するものにおいて、前記固相抽出時の圧力波形を圧力センサ26で取得し、かつ、標準試料による圧力波形と波形比較(区間1の加圧段階、区間2の定圧段階、及び区間3の降圧段階)することで、固相抽出時の異常を高精度に判定すると共に、斯かる異常判定手段を装着することで高信頼度の固相抽出装置を実現する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固相抽出に係り、特に加圧して固相抽出する場合の異常判定方法、及び固相
抽出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
固相抽出処理は、固相抽出材の疎水性、親水性等の選択的吸着とその後の溶出処理で使用する溶出液での選択的溶出を組み合わせて処理することにより、試料中の抽出成分を選択的に溶出液中に取り出すか、または、試料中の不要な成分を選択的に固相抽出材へ吸着させることを目的とした処理である。
【0003】
このような固相抽出処理を用いることで、試料中の目的成分の測定および検出をより高精度に行うことが可能となる。
【0004】
しかし、固相抽出処理は、試料毎に取り扱いが異なることや、抽出状態を注意深く行う必要があることから、用手キットや部分的な処理を自動化した用具を用いて、半自動化で処理を行う場合が多い。
【0005】
ここで、固相抽出処理での抽出性能は、抽出材の材料で決定される要素もあるが、抽出の工程も重要な性能決定の要素となる。例えば、試料が抽出材を通過する速度に関しては、試料が抽出材を通過する速度が早いと試料中の目的成分を抽出する性能が低下する傾向にある。
【0006】
一般的に抽出処理は、固相抽出材が充填された部材に試料を通過させることで実施される。このとき、通過させるために圧力差を用いることが多い。ただし、圧力差が一定である場合、試料が抽出材を通過する速度は、例えば、試料の成分や粘性、抽出材の種類や物性により異なる。よって、同じ抽出材を用いたとしても、試料性状が異なった場合に、通液速度が変化して、抽出性能に影響を与える場合がある。
【0007】
さらに、試料が抽出材を通過する速度は、抽出材の封入状態にも影響される。例えば、抽出材が容器中に均等に封入されておらず、抽出材による試料の通液抵抗に偏りがあると、試料は通液抵抗の低い部分を集中して通過することになる。その場合、試料が通液された部分のみで抽出が行われるため、試料が均一に通液した場合と異なった抽出性能となる。このため、固相抽出処理が常に安定した状態で行われるように、試料の抽出状態を監視、管理して、性能を維持する必要がある。
【0008】
このような、固相抽出処理を自動で行う固相抽出装置としては、例えば特許文献1が知られている。ここでは、固相抽出材が封入された複数の容器へ抽出を行う試料を分注し、複数の容器に対して試料の流出部以外からの空気の流出を遮断して減圧することで、同時に試料の通液処理を実施し、抽出対象を抽出材に吸着させ、その後、洗浄液および溶出液を分注した後に、同様に減圧吸引して洗浄・溶出処理を行う抽出処理機構が記載されている。
【0009】
また、固相抽出材に試料を通液させる処理において、試料分注側から加圧することで固相抽出する機構が特許文献2、3および4に提案されている。この特許文献2、3および4では、抽出容器内部の圧力を監視する圧力センサを備え、この圧力センサで取得される圧力を用いて抽出状態を監視することも記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特許第2832586号公報
【特許文献2】特開2005−95159号公報
【特許文献3】特開2005−110670号公報
【特許文献4】特開2005−278438号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記特許文献1に記載されている抽出機構は、同時に複数を処理できる構造となっているが、複数対象に全く同一の条件で処理を行う必要性がある。さらに、たとえ同一の条件であったとしても、いずれかの抽出が先行してしまうと大気開放状態になってしまうため、他の抽出に影響を与えるといった問題が有る。
【0012】
さらに、この特許文献1の方式は、バッチ処理となる必要があり、一定のサイクル時間で連続処理するには適さない。さらにまた、最大時間を要する対象への処理により、先行して抽出処理を終了した他の試料が次の工程にも進めないといった問題点がある。
【0013】
また、特許文献2および3で提案されている抽出処理装置では、同時に複数処理する場合に、エアの供給時間が単数の場合と複数の場合とで異なるといった問題がある。
【0014】
また、複数同時に空気を供給した場合には、各流路に対して同一の速度、または、圧力で空気を供給できる保障がない。
【0015】
一方、特許文献4で提案されている抽出装置では、抽出状態の監視方法として、抽出状態の圧力波形が示す最大値および速度変化とその時間等で異常状態を判断しているが、抽出状態の異常が抽出材の封入された消耗品の不良によるものか、または、抽出する試料によるものか等を高精度に判断することができず、装置の経時的変化を長期に管理することも考慮されていない。
【0016】
本発明はこのような固相抽出の現状に鑑みてなされたもので、その主な目的は、固相抽出の異常を高精度に判定可能な異常判定方法を提供することにある。
【0017】
本発明の他の目的は、上記異常判定方法を利用して信頼性の高い固相抽出装置を提供すること、更にはこれらの目的を高い精度で実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記主な目的を達成するための本発明の特徴は、固相抽出材が充填されている固相抽出カートリッジへ試料を分注し、当該分注した試料を加圧して抽出材を通過させる固相抽出の異常を判定する方法において、前記固相抽出時の圧力波形を取得し、かつ、この圧力波形を他の固相抽出によって得られる圧力波形と比較することにより、前記固相抽出の異常を波形比較で判定することにある。
【0019】
前記他の目的を達成するための本発明の特徴は、固相抽出材が充填されている抽出カートリッジへ試料を分注し、当該分注した試料を加圧して抽出材を通過させることにより固相抽出する固相抽出装置において、前記加圧するための空気を供給するシリンジポンプと、該シリンジポンプから前記抽出カートリッジにいたる流路内部の圧力を検出する圧力センサと、特定試料の圧力波形を記憶する記憶手段と、前記シリンジポンプを作動して固相抽出時の前記圧力センサの出力波形と前記記憶手段に記憶された圧力波形とを比較して異常判定する手段とを備えることにより、高精度の異常判定に裏付けられた固相抽出を可能にしたところにある。
【0020】
更なる本発明の特徴については、以下述べる発明の実施の形態で明らかとなる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、固相抽出の異常を圧力波形の比較で判定するので、固相抽出の異常状態を高い精度で判定することができる。さらに、例えば、試料種別による試料性状に従った波形比較を行うことで、試料毎に適切な判断処理を行うことができる。加えて、斯かる異常判定手法を固相抽出装置に組み込むことで信頼性の高い装置を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の一実施例に係る固相抽出装置の構成図。
【図2】本発明の一実施例に係る抽出処理部の流路構成図。
【図3】固相抽出処理の概要説明図。
【図4A】本発明の一実施例に係る抽出カートリッジの構成図。
【図4B】本発明の一実施例に係る抽出カートリッジの変形例の構成図。
【図5】本発明の一実施例に係る抽出処理判定のフロー図。
【図6】本発明の一実施例に係る固相抽出の異常判定処理のフロー図。
【図7】抽出圧力波形例のグラフ。
【図8】試料粘度による圧力波形の変化例のグラフ。
【図9】本発明の一実施例における波形比較パラメータの説明図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に本発明の実施の形態を、図面を用いて説明する。
【実施例】
【0024】
まず、図3を用いて固相抽出の一連の処理について説明する。試料容器7中の試料は試料分注機構15で吸引され、抽出カートリッジ9に吐出される。固相抽出装置で使用する抽出カートリッジ9には、内部に固相抽出材34が封入されている。試料は、固相抽出処理部の抽出ノズル31からの空気の供給により、該固相抽出材34を通過し、試料中の測定対象が抽出され、また、不要物が廃液される。
【0025】
抽出カートリッジ9は、測定対象を固相抽出材34に保持した状態で、必要に応じて洗浄処理を受け、最終的に抽出カートリッジ9に溶出液を分注し、上記試料の通液処理と同様の処理で通液させて、測定対象を溶出させ、抽出試料液となった液体を下方の抽出容器10で受ける。
【0026】
このような、一連の抽出処理により、測定対象を含有した抽出試料液を得ることができる。一般的に当該固相抽出処理により、試料中の不要物を排除した抽出試料液を光度計等の計測器で測定することで、測定対象の含有量を計測する。
【0027】
次に、本発明の実施例に係る固相抽出装置について、図1を用いて説明する。図1は特に抽出処理部の構成を示しており、本発明に関係しない構成要素は省略している。図1において、固相抽出装置101は、表示部1、入力部2、計算処理部3、記憶部4、外部との通信処理を行う外部通信インターフェース部5、印字出力部6、抽出処理を受ける試料が分注された試料容器7が配置される試料設置部8、抽出カートリッジ9および抽出容器10といった消耗品の設置部11、抽出カートリッジを用いて順次処理を行う処理部12、抽出処理に使用する洗浄液や溶出液等の各種試薬容器13を配置する試薬配置部14、これら試料、薬品を固相抽出カートリッジに分注する試料分注機構15、試薬分注機構16、抽出処理を行う固相抽出処理部17、抽出容器が配置される抽出容器設置部18、抽出試料液の分注を行う抽出試料液分注機構19とこれら機構要素を制御する制御部20により構成される。
【0028】
さらに、試料容器7に付けられている試料情報を読み取る試料情報読み取り部21、抽出カートリッジ9に付けられている抽出カートリッジ9の製造情報を読み取る抽出カートリッジ情報読み取り部22、試薬容器に付けられている試薬情報を読み取る試薬情報読み取り部23が備えられている。
【0029】
さらに本実施例では、固相抽出を行った抽出処理試料を用いて測定対象を測定する検出部24を組み合わせている。ここで、検出部24は対象を測定するために適用できる検出器であって、光度計、又はその他の検出器でも良い。
【0030】
次に、図1における装置の固相抽出処理動作について説明する。なお、以下に説明する固相抽出処理は、実際の測定対象としての試料の外、装置の抽出状態を管理するための標準試料、又はコントロール試料に対しても共通する処理動作である。
【0031】
試料は、後に詳述するように、該試料を特定できる情報が記載されたバーコードラベル、または、RFID又はICチップが取り付けられた試料容器7に納められている。この試料情報は、試料設置部8に配置されている試料情報読み取り部20により読み取られる。さらに、抽出カートリッジ9にもバーコードラベル、または、RFID又はICチップが取付けられており、この情報は抽出カートリッジ情報読み取り部21により読み取られる。
【0032】
ここで、試料情報等の装置への取り込みは、上記のように読み取り部を備えて自動的に情報取り込みを実施する方法以外にも、装置の入力部2によりオペレータが手入力で入力しても良い。この場合、試料および抽出カートリッジの情報読み取り部を備える必要は無くなる。
【0033】
抽出カートリッジ9が設置された処理部12の移動により抽出カートリッジ9を順次移動し、装置内部に入力、設定、記憶されている抽出条件に従った分注量で、試料分注機構15により試料を抽出カートリッジ9へ分注する。試料の分注を受けた抽出カートリッジ9は、抽出部処理17に移動する。尚、本実施例では、処理部12を円形のテーブル状としているため、移動は回転運動で行う。
【0034】
抽出部処理17では、抽出カートリッジ9へ抽出ノズル31(図3)を接合し、抽出処理を行う。試料を抽出した後に、試薬分注機構16により、洗浄液の添加および洗浄液の排出を行う。その後、同様にして溶出液を分注して、測定対象を溶出させた抽出試料液を抽出容器10に抽出する。
【0035】
抽出容器10は、抽出容器設置部18の移動により、抽出容器10を抽出試料液分注機構19の位置へ移動し、抽出容器10内の抽出試料液が検出部24に送られて、検出部24で測定対象の検出を行う。検出器24の出力は、計算処理部3で濃度計算、単位変換処理等を受けて所望の測定結果として表示部1へ表示されると共に、当該試料の情報と共に記憶部4に保存される。なお、オペレータは、必要に応じて測定結果を印字出力部6から出力、もしくは外部通信インターフェース部5を介して、上位コンピュータへ送信する。
【0036】
次に、図2を用いて抽出処理の詳細を説明する。なお、図2は一つの流路構成のみを記載しているが、複数並行処理を行う場合には、これらの流路を複数準備することで対応することができる。
【0037】
抽出カートリッジ9に送気するアクチュエータとして、定量可能なシリンジポンプ25を用いる。なお、シリンジポンプ25の駆動は、速度制御可能なパルスモータを用いる。さらに、シリンジポンプ25の吐出側の流路配管途中に圧力センサ26を配置する。当該流路には、抽出カートリッジ9の流路と大気開放流路とを切り替える3方電磁弁27が設けられ、大気開放側の流路にはフィルタ28を設ける。
【0038】
さらに、シリンジポンプ25の後段には、エアポンプ29を配置し、かつエアポンプ29とシリンジポンプ25の流路に2方電磁弁30を設ける。エアポンプ29の空気吸引側には、フィルタ28を設ける。これらの流路構成部品の動作は、制御部20で行われる。このための電気的制御信号および回路信号を点線33で示し、空気配管流路は実線32で表現している。
【0039】
3方電磁弁27は、フィルタ28が設けられている空気開放側の流路に接続した状態とし、抽出ノズル31側流路を遮断する。この状態でシリンジポンプ25は、あらかじめ設定されている試料の抽出条件に従って、空気吸引・吐出を行う。シリンジポンプ25で発生する内部圧力は、吸引・吐出する体積で変化させることができるため、各抽出条件に従った圧力が発生できる。シリンジポンプ25で空気の吸引後、3方電磁弁27を切り替え、大気開放側を遮断し、抽出ノズル31側の流路に接続して空気を吐出することにより、抽出処理に使用する圧力で抽出カートリッジ9内の試料を加圧し、抽出を行う。
【0040】
抽出終了後には、抽出ノズル31内部を空気洗浄する目的で、シリンジポンプ24の後段にあるエアポンプ29を作動させ、かつ2方電磁弁30を開動作させることで、シリンジポンプ24を含む流路内の空気を置換することができる。
【0041】
更にまた、抽出中、例えば抽出終了にあわせて、エアポンプ29を作動させることにより、当初シリンジポンプ25で発生させた内圧が下がっている状態から再度内圧を上昇させることができる。このような動作は、抽出終了時に水滴となっている試料他を強制的に排出できるため、不要な箇所での滴下を防止できる。
【0042】
ここで一例として、シリンジポンプ25が吸引・吐出した体積で流路内部体積を圧縮し、内部圧力を上昇させた場合の内部圧力について説明する。
【0043】
シリンジポンプ25が停止している状態での抽出カートリッジ9までの配管流路32の初期体積は、装置に固有である。これを流路初期体積V0とする。また、流路内の初期圧力は大気圧P0である。このとき、シリンジポンプ25が吸引した体積をV1とし、流路内部が閉塞した空間とすると、シリンジ吐出動作後の理想的流路内部圧力P2は、
P2×V0=P1×(V0+V1) …(1)
で求めることができる。よって、理想的流路内部圧力P2は、
P2=P1×(V0/V1)/V0 …(2)
となる。
【0044】
なお、実際に装置上の実流路では、配管の変形他で損失が生じる。よって、係数αを用
いて、実際の装置で発生する圧力P2’が求まる。
P2’=α×P1×(V0/V1)/V0 …(3)
【0045】
この係数αは、実際の装置で測定を行うことにより求める。
【0046】
上記計算により求めた圧力が、既述のシリンジポンプ25の吐出により発生し、この圧力の発生にかかる時間はシリンジポンプ25の吐出動作時間による。
【0047】
このようにして加圧される配管流路32の圧力を圧力センサー26で測定し、その圧力波形の一例を図7に示す。シリンジポンプ25の吐出動作時間が、試料の固相抽出材料の通過時間より十分に早い時間であれば、内部圧力は最大圧力値P2’を一定時間維持する。この圧力維持時間は、試料の固相抽出材の通過が終了し、圧縮された空気が大気側に開放
されるまで継続される。
【0048】
この圧力波形は、同じ抽出カートリッジ9を使用し、かつ、同一の試料で、送気するシリンジポンプ25の動作が同一であれば、正常波形AとBのように基本的に同一波形となる。
【0049】
また、シリンジポンプ25の動作が同一である場合、内部圧力の上昇値(最大値)は、式(3)の結果にて、試料に関係なく同じ値となる。
【0050】
従って、抽出カートリッジ9の固相抽出材の封入異常、材料の不良がある場合や抽出される試料の粘度の高低、試料の分注不良などの試料異常が生じている場合には、正常な抽出カートリッジ9と標準的な試料による正常処理で得られた圧力波形と比べて、異常波形AおよびBのように異なる形状となる。
【0051】
図8に試料粘度を変えた場合の抽出波形の比較図を示す。試料粘度を変化させるために、水、グリセリン水溶液の濃度を変化させた場合の圧力波形を示している。グリセリン濃度の上昇により粘度が上昇すると、図8に示すように、シリンジポンプ25の動作が同一であるため圧力の立ち上がりは同一であるが、最大圧力維持時間が延長される傾向にあるこ
とが判る。
【0052】
従って、予め試料種別、試料量や抽出材種類などの条件に従って単数もしくは複数の標準試料を用いた処理の圧力波形を求めて記憶しておき、各測定条件で行われる実試料における圧力波形と同条件の標準試料の圧力波形と比較するか、もしくは、測定条件の上限、下限というような複数の圧力波形と比較することで、抽出カートリッジ9の不良もしくは試料の異常判定を、高精度に行うことが可能となる。
【0053】
ここで、本発明の特徴の一つを成す波形比較による異常判定方法及びそのための比較パラメータの一例を、図9を用いて説明する。
【0054】
図9において、区間1は、ポンプの加圧により、抽出カートリッジの内圧が上昇する加圧段階である。区間2は、試料の抽出が終了するまでの過程であり、微少な圧力降下を示すが、ほぼ一定の定圧段階となる。また、区間3は、抽出が終了し、加圧に使用された空気が抽出材を通過する降圧段階となる。
【0055】
ここで、区間1で示される圧力上昇速度は、シリンジポンプが動作することにより発生する圧力であるため、一定の圧力上昇速度を示し、かつ、動作終了時点で抽出が終了していなければ、標準波形と同一の波形となる。
【0056】
よって、区間1の単位時間当たりの圧力上昇量と最大圧力値が標準波形と異なる場合には、シリンジポンプの動作異常、試料分注量が正規量で無いと判断できる。この状態を標準波形と比較することにより、加圧段階での異常を判断することができる。
【0057】
また、区間2で示された区間は、抽出を受ける試料が固相抽出材を通過する時間に相当する。この区間の波形は、微少な圧力降下を示すが、基本的には最大圧力値が維持されなければならない。さらに、区間2で示される時間は、試料の量、試料の粘性により変化する。試料量が少ない、または、試料の粘性が低い場合に区間2で示される時間は短くなる。これとは逆に、試料量が多い、または、粘性が高い場合には、区間2の時間が延長される。
【0058】
従って、区間2の定圧段階では、定圧の継続時間を標準波形と比較することにより、試料分注量の不良、または、試料の粘性が抽出処理の適正範囲内であるかが判断できる。さらに言えば、一定時間を経過しても圧力低下が行われない場合には、抽出が完全に実施できていないと判断できる。
【0059】
区間3の降圧段階では、単位時間あたりの圧力下降量を用いて、標準波形との比較を行う。圧力下降速度が標準波形との差において許容範囲に無い場合には、試料が完全に通液していない可能性があるため、抽出不十分と判断することができる。
【0060】
このように圧力波形の比較を複数の段階に別け、段階ごとに特徴的なパラメータを決めて比較することで、非常に高い精度で固相抽出の異常を判定することができる。このような複数の段階に別けた場合の比較手法としては、波形が示す面積を比較する方法もある。区間1の面積は、異常が無い限り標準波形で求められた面積に一致しなければならない。一致しない場合は、異常と判断できる。更に、区間2および3の標準波形で求められた面積との差が許容範囲に無い場合には、異常と判断する。
【0061】
図4A、4Bに抽出カートリッジ9の例を示す。抽出カートリッジ9は、カートリッジ容器38、固相抽出材34、固相抽出材の上下に固相抽出材粒子径より細かな流路径のフィルタ39から構成される。このような抽出カートリッジ9において、本実施例では抽出カートリッジ9を識別するため、図4Aには抽出カートリッジ9の製造情報を示すバーコードラベル35を付した例、図4BにはICチップ36(または、RFID37)を取り付けた例を示す。本実施例では、この抽出カートリッジ9に付けたバーコードラベル35又はICチップ36の情報を読み取ることで、個々の固相抽出のパラメータ設定及び抽出波形のデータ管理に利用する。
【0062】
次に図5のフロー図を用いて、本発明の一実施例に係る抽出処理判定フローを説明する。オペレータは、抽出処理に入る前に先ず、測定する試料、抽出カートリッジ種別、抽出圧力等の抽出パラメータを、予め抽出パラメータDBに格納する(ステップ500、501)。
【0063】
処理を開始すると(ステップ503)、試料番号を読み取る(ステップ504)ことで試料の種別を認識し、抽出パラメータDBに格納されている試料量、抽出カートリッジ、抽出圧力などの抽出パラメータを参照し(ステップ505)、抽出カートリッジ9の識別情報を読み取り(ステップ506)、ポンプ吸引・吐出の体積を計算(ステップ507)した後に、抽出処理を実行する(ステップ508)。
【0064】
ここで、ステップ504の試料番号から試料情報を入手し、当該試料が、標準試料ないしは装置状態もしくは抽出カートリッジ等の性能評価用の試料であるか否かを認識しておく。標準試料等であれば、その抽出処理によって得られる圧力波形を比較参照用の波形として圧力波形保存DBに保存しておくためである。他の方法としては、試料設置部8に複数の試料設置部を設け、試料設置部の特定位置を標準試料の専用配置位置40とすることで、標準試料と認識する方式でも良い。また、標準試料では、複数の標準試料を用いる場合や同一試料を複数の抽出条件で抽出する場合があり、その場合には条件毎に抽出処理を実施し、夫々の圧力波形を保存しておく。
【0065】
抽出処理(ステップ508)では、前記式(1)〜(3)に基づいて、ポンプの動作による圧縮体積を計算し、抽出圧力波形との比較による、波形判定処理を行う(ステップ509)。計算値内の値であれば正常と判断し、その圧力波形を、試料、抽出カートリッジの製造情報および抽出条件が特定できる情報と共に圧力波形保存DB502に保存する(ステップ512)。
【0066】
圧力波形が計算値と比較して異常と判断された場合は、アラーム処理を行なってオペレータに知らせるとともに(ステップ510)、必要あれば装置を停止し(ステップ511)、その時の波形も、関連情報と合わせて圧力波形保存DB502に保存する(ステップ512)。
【0067】
この図5の処理端(A)は図6に示すフロー図の処理の先端(A)に繋がっており、引き続き図6の波形比較による異常判定フローの処理を実行する。従って、前記したように、標準試料等の比較用波形の作成ないしは異常波形の場合は図5までの処理で終了し、実試料による固相抽出時に図6を引き続き実行する。
【0068】
図6において、図5に示す実試料の抽出処理を実行した後、圧力波形保存DB502に保存されている標準試料の圧力波形から、当該試料と比較するための圧力波形を選択、参照し(ステップ601)、実試料の圧力波形と比較して異常判定を行なう(ステップ602)。
【0069】
この異常判定(ステップ602)は、図9で説明した比較パラメータで、区間1〜3ごとに標準試料との波形比較により行なう。即ち、区間1の加圧段階は単位時間当たりの圧力上昇量と最大圧力値、区間2の定圧段階は定圧の継続時間、区間3の降圧段階は単位時間当たりの圧力下降量を比較し、異常判定を行なう。
【0070】
この時の異常判断は、抽出処理の性能を確保できる許容幅を持って行う。例えば、圧力の上昇波形形状は、何らかの機構の動作不良や、流路からの空気漏れが生じない限り、最大圧力に至るまでの形状および最終的な最大圧力値はほぼ一定となる。よって、標準試料の圧力波形に対して、圧力センサによる検出誤差の許容範囲とする。
【0071】
また、最大圧力値の継続時間は、試料量および試料粘度によって変化する。例えば、標準試料と同一の試料量で有る場合、該継続時間は、試料粘度が高くなれば延長される。よって、該抽出処理における抽出性能が一定の範囲に収束する時間の変動許容範囲、または、処理の時間に制限が有る場合には、処理許容時間以下とする。さらに、圧力降下の波形形状では、標準試料の大気圧降下に至る形状または最終到達圧力値と比較し、この許容範囲とする。
【0072】
以上の異常判定処理(ステップ602)で、異常が認められない場合には、以降の洗浄、溶出といった抽出処理を継続して行い(ステップ603)、次試料が有れば(ステップ613)、図5の先端(B)に戻って、全試料について抽出、異常判定を行なう。
【0073】
異常が認められた場合は、アラーム処理(ステップ604)した後、その試料の抽出処理に関しては処理を中止する(ステップ605)。図6ではさらに同じ試料で同様の異常が複数回(N=2以上)発生したか否かを判定し(ステップ606)、N回以上発生した場合にはアラームを発生し、その試料での他の抽出を停止する処理を行っている(ステップ607、608)。この時のN回の判断処理は、連続2回以上としても良い。
【0074】
また、試料抽出に使用した抽出カートリッジに対して、例えば同一Lot番号の抽出で他の試料でも抽出異常が認められる場合には、そのLot番号の抽出カートリッジに対しての使用注意を装置としてアラーム表示し(ステップ609)、その抽出カートリッジの使用を停止する処理を行っている(ステップ611)。この場合、さらに別のLotの抽出カートリッジが準備できないときには、処理を終了する(ステップ612、614)。
【0075】
これにより、試料の問題や抽出カートリッジの製造単位での不良を判断し、かつ、それによる抽出処理の不良を頻発させることを防止し、試薬、抽出カートリッジなどの消耗品や試料を無駄に消費することを未然に防止できる。
【0076】
また、標準試料による装置状態の診断として、装置が正常に取り扱える範囲の粘度の標準試料を用いた装置状態の確認を実施することも可能である。例えば、装置許容範囲下限粘度および上限粘度の試料を用いて、抽出処理中の最大圧力値および抽出時間が許容範囲内であるかを判断し、異常が有る場合には、抽出カートリッジの問題、または、圧力センサの検出に異常が有ると判断できる。
【0077】
さらに、上記の標準試料の抽出時の圧力波形を抽出条件毎に時系列で表示する機能を装置に持たせれば、オペレータは抽出時の圧力波形の経時的変化をモニタして、装置状態を管理することができる。
【0078】
さらに本実施例では、標準試料との圧力波形の比較で異常判断しているので、装置内部の固定値でのみ判断する処理に比べて、試料および抽出条件に従った異常状態の抽出と判断処理を行うことができる。しかしながら、比較用の波形は標準試料に限るものではなく、特定の比較試料或いは連続抽出する場合の先行する抽出波形であっても実施することができる。
【符号の説明】
【0079】
1… 表示部
2… 入力部
3… 計算処理部
4… 記憶部
5… 外部通信インターフェース
6… 印字出力部
7… 試料容器
8… 試料容器設置部
9… 抽出カートリッジ
10… 抽出容器
11… 消耗品設置部
12… 処理部
13… 試薬容器
14… 試薬容器設置部
15… 試料分注機構
16… 試薬分注機構
17… 抽出処理部
18… 抽出容器設置部
19… 抽出試料液分注機構
20… 制御部
21… 試料情報読み取り部
22… 抽出カートリッジ情報読み取り部
23… 試薬情報読み取り部
24… 検出部
25… シリンジポンプ
26… 圧力センサ
27… 3方電磁弁
28… フィルタ
29… エアポンプ
30… 2方電磁弁
31… 抽出ノズル
32… 抽出流路配管
33… 制御回路
34… 固相抽出材
35… バーコード
36… ICチップ
37… RFID
38… カートリッジ容器
39… フィルタ
101…固相抽出装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固相抽出材が充填されている固相抽出カートリッジへ試料を分注し、当該分注した試料を加圧して抽出材を通過させる固相抽出の異常を判定する方法において、
前記固相抽出時の圧力波形を取得し、
該圧力波形を他の固相抽出の圧力波形と比較して、前記固相抽出の異常を判定する
ことを特徴とする固相抽出の異常判定方法。
【請求項2】
請求項1記載の固相抽出の異常判定方法において、
前記他の圧力波形として単一もしくは複数の特定試料の圧力波形を、前記他の固相抽出の圧力波形として予め記憶し、
当該特定試料の単一もしくは複数の圧力波形と前記取得した圧力波形の波形とを比較して異常判定する
ことを特徴とする固相抽出の異常判定方法。
【請求項3】
請求項2記載の固相抽出の異常判定方法において、
前記特定試料は標準試料とし、
当該標準試料を固相抽出して得られる圧力波形を比較用の圧力波形として予め記憶し、
取り扱う試料種類、試料濃度、固相抽出材または固相抽出する装置を含む条件により、異なる標準試料が存在する場合には、それら複数の標準試料毎に圧力波形を記憶する
ことを特徴とする固相抽出の異常判定方法。
【請求項4】
請求項1記載の固相抽出の異常判定方法において、
前記圧力波形を加圧段階と定圧段階と降圧段階とに区分し、
前記取得した圧力波形と他の圧力波形との比較は、前記加圧段階と定圧段階と降圧段階とに分けて比較する
ことを特徴とする固相抽出の異常判定方法。
【請求項5】
請求項4記載の固相抽出の異常判定方法において、
前記取得した圧力波形と他の圧力波形との比較は、前記加圧段階は単位時間当たりの圧力上昇量と最大圧力値、定圧段階は定圧の継続時間、降圧段階は単位時間当たりの圧力下降量のいずれか又は全てを比較し、異常判定する
ことを特徴とする固相抽出の異常判定方法。
【請求項6】
請求項1記載の固相抽出の異常判定方法において、
シリンジポンプと、該シリンジポンプからの加圧空気を前記抽出カートリッジに供給する流路を備え、
前記シリンジポンプの内容積と、前記抽出カートリッジの抽出材通過までの流路総体積と、前記シリンジポンプが供給する空気体積による圧縮比とから、前記流路内部の上昇圧力を計算により求め、
当該計算値と前記取得した圧力波形とを比較して前記圧力波形の異常を判定する
ことを特徴とする固相抽出の異常判定方法。
【請求項7】
請求項6記載の固相抽出の異常判定方法において、
圧力波形保存DBを備え、
抽出処理により取得された圧力波形を前記圧力波形保存DBに保存し、
当該圧力波形保存DBに保存された圧力波形と前記他の固相抽出によって得られる圧力波形とを比較して、前記固相抽出の異常を判定する
ことを特徴とする固相抽出の異常判定方法。
【請求項8】
請求項1又は6記載の固相抽出の異常判定方法において、
前記異常判定により異常と判定したときは、次の固相抽出を停止し、前記異常の発生を表示する
ことを特徴とする固相抽出の異常判定方法。
【請求項9】
固相抽出材が充填されている抽出カートリッジへ試料を分注し、当該分注した試料を加圧して抽出材を通過させることにより固相抽出する固相抽出装置において、
前記加圧するための空気を供給するシリンジポンプと、該シリンジポンプから前記抽出カートリッジにいたる流路内部の圧力を検出する圧力センサと、特定試料の圧力波形を記憶する記憶手段と、前記シリンジポンプを作動して固相抽出時の前記圧力センサの出力波形と前記記憶手段に記憶された圧力波形とを比較して異常判定する手段とを備えたことを特徴とする固相抽出装置。
【請求項10】
請求項9記載の固相抽出装置において、前記シリンジポンプと前記抽出カートリッジとの間の流路に3方電磁弁を備え、当該3方電磁弁は、一つの流路を大気開放とし、他の流路を前記シリンジポンプから前記抽出カートリッジへ加圧空気を供給する流路とすることを特徴とする固相抽出装置。
【請求項11】
請求項9又は10記載の固相抽出装置において、前記シリンジポンプから前記抽出カートリッジまでの流路に対して強制的に空気を供給するエアポンプを備え、前記エアポンプから供給される空気を前記抽出カートリッジ側へ送気されるように流路を制御することにより、前記エアポンプから抽出流路への空気供給を可能にすることを特徴とする固相抽出装置。
【請求項12】
請求項9記載の固相抽出装置において、前記異常判定手段の異常判定に応じて、当該異常判定された試料又は当該異常判定に使用された抽出カートリッジによる固相抽出を停止する手段を備えたことを特徴とする固相抽出装置。
【請求項13】
請求項9記載の固相抽出装置において、前記試料の識別情報及び前記抽出カートリッジの識別情報を読み取る手段を備え、前記試料及び抽出カートリッジの識別情報と前記異常判定された圧力波形とを関連付けて記憶する記憶手段を備えたことを特徴とする固相抽出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−154917(P2012−154917A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−255946(P2011−255946)
【出願日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)