説明

固相重合によるポリオキサミド樹脂の製造方法

【課題】本発明が解決しようとする課題は、ポリオキサミド樹脂を製造する際の後重合工程において分解や着色を抑え、固相重合により、還元粘度が1.3〜5.0のポリオキサミド樹脂を効果的に製造する方法を提供することにある。
【解決手段】シュウ酸ジエステルと1,5−ペンタンジアミンからポリオキサミド樹脂を得る製造法において、前記シュウ酸ジエステルと前記1,5−ペンタンジアミンを用いて前重合工程でプレポリマーを合成し、次いで、得られた前記プレポリマーのパウダーを横型回転式反応器を用いて固相重合することを特徴とするポリオキサミド樹脂の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固相重合によるポリオキサミド樹脂の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリオキサミド樹脂は、アミド結合と炭化水素が同じ比率の他のポリアミド樹脂と比較して吸水率が低いことが知られている(特許文献1)。
【0003】
ポリオキサミド樹脂は、シュウ酸もしくはシュウ酸ジエステルと、脂肪族、脂環族もしくは芳香族ジアミンとの重縮合反応により得られる。しかしながら、シュウ酸は180℃を超えると熱分解するため、原料としてシュウ酸を用いた場合に高分子量のポリオキサミド樹脂が得られることはなく、合成例も無い。
【0004】
一方、シュウ酸ジアルキルのようなシュウ酸ジエステルをモノマーとして用いた場合は、種々のジアミンとの重縮合反応によるポリオキサミド樹脂が提案されている。例えば、ジアミン成分として1,10−デカンジアミン、1,9−ノナンジアミン、1,8−オクタンジアミンを用いたポリオキサミド樹脂(いずれも特許文献2)や1,6−ヘキサンジアミンを用いたポリオキサミド樹脂(非特許文献1)など数多くのポリオキサミド樹脂が提案されている。
【0005】
ポリオキサミド樹脂は、シュウ酸ジエステルとジアミンとをトルエンなどの溶媒中で重縮合反応させる前重合工程と、溶媒を留去して得られたプレポリマーを溶融重合もしくは固相重合して高分子量のポリマーを得る後重合工程の2段階の重合工程によって製造される。
【0006】
固相重合の例として、シュウ酸ジエチルとテトラメチレンジアミンから得られたプレポリマーを、流動床型の反応槽を用いて270〜290℃の温度範囲で重縮合反応させた例が知られている。得られたポリオキサミド樹脂は黄色または薄茶色に着色しており、従来技術では着色を抑えることができないという問題点があった(非特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−57033
【特許文献2】特表平5−506466
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】S.W.Shalaby.,J.Polym.Sci.,11,1(1973)
【非特許文献2】R.J.Gaymans.,J.Polym.Sci.,22,6(1984)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明が解決しようとする課題は、ポリオキサミド樹脂を製造する際の後重合工程において分解や着色を抑え、固相重合により、還元粘度が1.3〜5.0のポリオキサミド樹脂を効果的に製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは上記の課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、後重合工程において横型回転式反応器を用いることにより、分解や着色を抑えることができ、還元粘度が1.3〜5.0のポリオキサミド樹脂を製造できることを見出して、本発明を完成した。
【発明の効果】
【0011】
横型回転式反応器の中の反応槽にプレポリマーのパウダーを仕込むと、パウダーが薄く広がり表面積が大きくなる。さらに反応槽が回転することにより、反応槽壁面で持ち上げられたパウダーが重力により落下することで、表面更新が効果的に行われる。これにより、重縮合反応の進行に伴って生成するアルコールの留去が容易になり、より高分子量化しやすくなった。本製造方法により、より短時間の固相重合で、還元粘度が1.3〜5.0であり、着色が抑えられたポリオキサミド樹脂の製造が可能となった。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明者は、上記問題点を解決するために、鋭意検討した結果を以下に示す。
[1]シュウ酸ジエステルと1,5−ペンタンジアミンからポリオキサミド樹脂を得る製造法において、前記シュウ酸ジエステルと前記1,5−ペンタンジアミンを用いて前重合工程でプレポリマーを合成し、次いで、得られた前記プレポリマーのパウダーを横型回転式反応器を用いて固相重合することを特徴とするポリオキサミド樹脂の製造方法。
【0013】
また以下の態様も好ましい。
[2]還元粘度が1.3〜5.0である、請求項1に記載の製造方法により製造されるポリオキサミド樹脂。
【0014】
以下に本発明を詳細に説明する。
【0015】
(1)ポリオキサミド樹脂の構成成分
本発明で製造対象となるポリオキサミド樹脂の原料のシュウ酸としては、シュウ酸ジエステルが用いられ、これはアミノ基との反応性を有するものであれば特に制限はなく、シュウ酸ジメチル、シュウ酸ジエチル、シュウ酸ジn−(またはi−)プロピル、シュウ酸ジn−(またはi−、またはt−)ブチル等の脂肪族1価アルコールのシュウ酸ジエステル、シュウ酸ジシクロヘキシル等の脂環式アルコールのシュウ酸ジエステル、シュウ酸ジフェニル等の芳香族アルコールのシュウ酸ジエステル等が挙げられる。これらのうち、固相重合温度において、完全に取り除くことができるアルコールを生成するシュウ酸ジエステルが好ましく用いられる。このようなシュウ酸ジエステルの例としては、シュウ酸ジメチル、シュウ酸ジエチル、シュウ酸ジn−(またはi−)プロピル、シュウ酸ジn−(またはi−、またはt−)ブチルを挙げることができる。
【0016】
(2)ポリオキサミド樹脂のプレポリマーの製造法
以下、本発明の製造方法を具体的に説明する。まず撹拌器、還流管および窒素導入ラインを備えた反応容器に、原料である1,5−ペンタンジアミンとトルエン等の溶媒を仕込み、窒素気流下で50〜100℃に加熱し、撹拌混合する。次いで、容器内のジアミン溶液にシュウ酸ジエステルを注入し、窒素気流下ではげしく撹拌させる。混合するジアミンとシュウ酸ジエステルの比率は、ジアミン/シュウ酸ジエステル(モル比)で、0.8〜1.2、好ましくは0.91〜1.09、更に好ましくは0.98〜1.02である。原料を混合する温度は50℃以上190℃未満の範囲が好ましい。190℃より高い温度で混合した場合は、原料中および反応系中の水分とアルコキシ基の反応、または、アミノ基とアルコキシ基の反応により分子鎖末端に生成するホルムアミド基の濃度が高くなるため、得られるポリオキサミド樹脂の数平均分子量が低くなって物性が低下するために好ましくない。ホルムアミド基の生成については後述する。最後に、トルエン等の溶媒や重縮合反応に伴って生成するアルコールを留去させ、プレポリマーのパウダーを得る。
【0017】
(3)横型回転式反応器を用いた固相重合
次に、上記により得られたポリオキサミド樹脂のプレポリマーのパウダーを横型回転式反応器の反応槽に仕込み、ポリオキサミド樹脂の融点以下に昇温し、常圧窒素気流下もしくは減圧下において固相重合を行う。減圧下で固相重合を行う場合の好ましい最終到達圧力は760〜0.1Torrである。重合温度は、得られるポリオキサミド樹脂の融点に応じて変化させることができるが、融点−150〜−5℃、好ましくは融点-100〜-10℃である。上記範囲にある場合には、ポリオキサミドの熱分解、あるいは熱による変性が起こる可能性は小さい。重縮合反応に伴い生成するアルコールは、コンデンサで冷却して凝縮させ回収する。
【0018】
横型回転式反応器の反応槽としては、直径が30mmφ〜65mmφのものがよく、ボトル型、球型、円筒型等を用いることができる。反応槽は、その回転により仕込んだプレポリマーのパウダーが反応槽壁面で持ち上げられやすくするために、反応槽の外側から凹みを設けておいてもよい。このようにして反応槽の内壁面に設けられた突起により、プレポリマーのパウダーは、反応槽の回転に伴い持ち上げられ、反応槽が90度以上回転したところで重力により落ちる。この突起の高さは0.5mm〜3mmが良い。この範囲のときは反応槽を回転させた際にパウダーを流動させやすくし、効果的に表面更新ができる。回転速度は1rpm〜20rpm、好ましくは5〜15rpm、更に好ましくは8〜12rpmである。上記範囲にある場合には、プレポリマーのパウダーは表面更新を頻繁に行うので、短時間での高分子量化が可能になる。さらに短時間の重合により、着色や分解を抑えることも可能である。
【0019】
必要に応じて重合触媒を添加することができる。重合触媒としては、リン酸、ピロリン酸、ポリリン酸などのリン化合物、ヒ素、アンチモンなど周期表V族元素の酸化物およびハロゲン化物、例えば、フッ化アンチモン、三酸化二ヒ素などが挙げられる。また触媒と耐熱剤の両方の効果をねらって、亜リン酸、次亜リン酸、及びこれらのアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩などの無機系リン化合物を添加することもできる。重合触媒は、プレポリマーの製造のとき反応容器にジアミンを仕込んだ後に添加し、シュウ酸ジエステルを添加する前にあらかじめ均一に混合しておくのが望ましい。添加量は、通常、仕込み原料に対して50〜3000ppmである。
【0020】
(4)ポリオキサミドの性状および物性
本発明により得られるポリオキサミドの粘度に特別の制限はないが、還元粘度が1.3〜5.0の範囲内が好ましく、さらに還元粘度が1.5〜4.0の範囲内がより好ましい。還元粘度が1.3より低いと成形物が脆くなり物性が低下する。一方、還元粘度が5.0より高いと溶融粘度が高くなり、成形加工性が悪くなる。また、本発明により得られるポリオキサミド樹脂の末端基は、アミノ基、アルコキシ基、ホルムアミド基のうちのいずれかである。ホルムアミド基は下記化学式1で示される末端基で、下記化学式2に示されるように、原料中および反応系中の(1)水分とアルコキシ基の反応、または、(2)アミノ基とアルコキシ基の反応により生成する。
【0021】
【化1】

【0022】
ホルムアミド基生成反応式
(1)水とアルコキシ基の反応
【0023】
【化2】

式中のR1はポリマーの残基、または脂肪族ジアミン、脂環族ジアミン、芳香族ジアミンのアミノ基を1つ除いた残基のうちいずれかを示し、R2はアルキル基、シクロアルキル基、アリール基のうちいずれかを示す。
【0024】
(2)アミノ基とアルコキシ基の反応
【0025】
【化3】

式中のR3およびR4はポリマーの残基、または脂肪族ジアミン、脂環族ジアミン、芳香族ジアミンのアミノ基を1つ除いた残基のうちいずれかを示し、R5はアルキル基、シクロアルキル基、アリール基のうちいずれかを示す。
【0026】
(5)ポリオキサミド樹脂に配合できる成分
本発明により得られるポリオキサミド樹脂には、本発明の効果を損なわない範囲で、他のポリオキサミドや、芳香族ポリアミド、脂肪族ポリアミド、脂環式ポリアミドなどのポリアミド樹脂類を混合することが可能である。更に、ポリアミド樹脂以外の熱可塑性ポリマー、エラストマー、フィラーや、補強繊維、各種添加剤を配合することができる。
【0027】
さらに、本発明により得られるポリオキサミド樹脂には必要に応じて、銅化合物などの安定剤、着色剤、紫外線吸収剤、光安定化剤、酸化防止剤、帯電防止剤、難燃剤、結晶化促進剤、ガラス繊維、可塑剤、潤滑剤などを、その製造時、または製造後に添加することもできる。
【0028】
(6)ポリオキサミド樹脂の成形加工
本発明により得られるポリオキサミド樹脂の成形方法としては、射出、押出、中空、プレス、ロール、発泡、真空・圧空、延伸などポリアミドに適用できる公知の成形加工法はすべて可能であり、これらの成形法によってフィルム、シート、成形品、繊維などに加工することができる。
【0029】
(7)ポリオキサミド成形物の用途
本発明によって得られるポリオキサミドの成形物は、従来ポリアミド成形物が用いられてきた各種成形品、シート、フィルム、パイプ、チューブ、モノフィラメント、繊維、容器等として自動車部材、コンピューター及び関連機器、光学機器部材、電気・電子機器、情報・通信機器、精密機器、土木・建築用品、医療用品、家庭用品など広範な用途に使用できる。
【実施例】
【0030】
[評価方法]
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらにより何ら制限されるものではない。なお、実施例中の還元粘度の測定は以下の方法により行った。
【0031】
[還元粘度(ηsp/c)]
還元粘度は、96%硫酸に、ポリオキサミド樹脂を濃度1.0g/dlになるように溶解させ、オストワルド型粘度計を用いて25℃で測定した。還元粘度の算出は、式1に従って行った。ここで96%硫酸の流下時間をη、ポリオキサミド樹脂の硫酸溶液の流下時間をηとした。
(式1)

【0032】
[実施例1]
1,5−ペンタンジアミン34.15g(0.3342モル)とトルエン400mLを、撹拌器、還流管および窒素導入ラインを備えた1Lセパラブルフラスコに仕込み撹拌した。このセパラブルフラスコを50℃に昇温した後、回転数300rpmで激しく撹拌させながらシュウ酸ジブチル67.60g(0.3342モル)を30秒間かけて仕込んだ。その後セパラブルフラスコを130℃に昇温させ、4時間撹拌した。なお、原料仕込みから反応終了までの全ての操作は、純度99.9999%の窒素気流下(50mL/分)で行った。反応終了後にトルエンを留去させ、110℃、減圧下にて24時間乾燥させ
プレポリマーのパウダーを得た。
【0033】
上記操作によって得られたプレポリマーのパウダーを、横型回転式反応器を用いて固相重合した。プレポリマー約5gを、直径約45mmφ、ボトル型、ガラス製で2mmの突起を有する反応槽に仕込んだ。次に、反応槽内を圧力13.3Paにまで減圧し次いで純度99.9999%の窒素ガスで復圧する操作(窒素置換)を5回繰り返した。その後、回転速度10rpmで反応槽を回転させながら、圧力13.3Paの減圧下で室温から280℃まで昇温し、2、4、7および11時間の固相重合を行った。その後ヒーターを止め、回転させながら室温まで冷却してポリオキサミド樹脂を得た。得られたものは白色または淡黄色のパウダー状であった。
【0034】
[比較例1]
実施例1と同様の方法で得られたプレポリマー約1.5gを、アンカー型撹拌羽根を持つ撹拌機、空冷管、窒素導入ラインを備えた直径約35mmφの縦型ガラス製反応管に仕込んだ。実施例1と同様に窒素置換した後、撹拌の回転数を30rpm、50mL/分の窒素気流下で280℃で固相重合した他は、実施例1と同様の操作を行いポリオキサミド樹脂を得た。得られたものは白色または淡黄色のパウダー状であった。
【0035】
実施例1及び比較例1で得られた生成物を、還元粘度を測定した。
【0036】
実施例1及び比較例1によって得られたポリオキサミド樹脂の還元粘度(ηsp/c)を表1に示す。
【0037】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0038】
以上詳述したように、本発明の製造方法により、還元粘度が1.3〜5.0であり、かつ着色を抑えたポリオキサミド樹脂を製造することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シュウ酸ジエステルと1,5−ペンタンジアミンからポリオキサミド樹脂を得る製造法において、前記シュウ酸ジエステルと前記1,5−ペンタンジアミンを用いて前重合工程でプレポリマーを合成し、次いで、得られた前記プレポリマーのパウダーを横型回転式反応器を用いて固相重合することを特徴とするポリオキサミド樹脂の製造方法。
【請求項2】
還元粘度が1.3〜5.0である、請求項1に記載の製造方法により製造されるポリオキサミド樹脂。

【公開番号】特開2011−236387(P2011−236387A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−111090(P2010−111090)
【出願日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】