説明

園芸用保湿バッグ

【課題】太陽光線の当たる野外でも、紫外線による吸水性高分子の分解を効果的に防止し、土壌の良好な保湿効果を長期間にわたり発揮できる園芸用保湿バッグを提供する。
【解決手段】保湿バッグ1を、長方形状の2枚の上面シート3及び下面シート4の間に、含水前の保湿材である高分子粉体10を一定量(乾燥重量で0.5g程度)充填し、両シート3、4の周囲4方を周縁部30、40でシールして内部封止した構成とする。使用時には高分子粉体10を吸水させて含水ゲル10xとし、保湿バッグ1を土壌表面に適量数載置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は園芸用保湿バッグに関し、特に吸水性高分子の紫外線分解の防止技術に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリビニルアルコール(PVA)やポリアクリル酸塩(PA)に代表される吸水性高分子は、自重の数十倍から数百倍以上の水分を吸収でき、紙おむつや生理用品等に広く利用されている。最近では、吸水した含水ゲル状の吸水性高分子が、比較的長期にわたり水分徐放性を呈する性質に着目し、環境周囲への保湿・保冷手段として普及しつつある(特許文献1)。
【0003】
この新しい用途では、加工食料品を収納する搬送コンテナや、建築資材、衣料品等へ適用されているほか、園芸用途としても用いられている(特許文献2)。園芸用としては、土壌に保湿効果を付与するために土壌に直接混ぜ込んで使用したり(特許文献3)、吸水性高分子を通気性のある外装体で包装し、含水させた保湿バッグの形態で、土壌表面に載置して用いられる。
【特許文献1】特表平11-505468号公報
【特許文献2】特開2005‐270958号公報
【特許文献3】特開平9-252664号公報
【特許文献4】特許第3336037号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら前記吸水性高分子は、紫外線に対する耐性が弱く、前記保湿バッグを園芸用途で野外で使用する場合に耐久性の問題が存在する。土壌表面に載置された保湿バッグが太陽光線に長期間曝露されると、太陽光線中の各波長域の紫外線(UV、VUV等)による作用を受け、高分子構造の架橋部分が分解される。
吸水性高分子が分解されると含水量が減少し、十分な吸水性及びこれによる保湿効果を発揮することができなくなる。また、吸水性高分子の架橋構造が崩れると低分子が発生し、低分子が保湿バッグ表面の孔から外部に漏出してしまう問題がある。
【0005】
このような問題は、使用開始からわずか数日で生じうる。従って、比較的紫外線強度が高い地域や季節での使用や、太陽光線が長期にわたり当たる環境で園芸用保湿バッグを利用する場合には、特に解決すべき問題である。
本発明は以上の課題に鑑みてなされたものであって、野外での使用でも、紫外線による吸水性高分子の分解を効果的に防止することにより、土壌の良好な保湿効果を長期間にわたり発揮することの可能な園芸用保湿バッグを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明は、通気性を有する袋体に吸水性高分子の含有材料を封入してなる園芸用保湿バッグであって、前記袋体の少なくとも一方の面が、紫外線の入射を遮断するUVカットシートで構成され、他方の面が水分透過性を有している構成とした。
ここで、「一方の面」とは、袋体の外観が封筒状等の扁平な形状の場合には、そのいずれかの一方の面を指すものとする。また、袋体の外観が球状等のボリュームがある形状の場合は、任意の一方向から見える面を指すものとする。
【0007】
また、「UVカット」とは、UV透過率を60%以上遮断する機能を指すものとする。
また、前記UVカットシートが気密性及び液密性を有している構成とすることもできる。
さらに、前記UVカットシートは、樹脂成分に対し、紫外線遮断材料が混合または表面に積層するように配設されてなる構成とすることも可能である。紫外線遮断材料は、カーボン、アルミ、酸化チタンの少なくとも何れかが好適である。
【0008】
或いは前記UVカットシートは、着色された織布又は不織布で構成すれば、安価に本発明を実現できる。
なお本発明は、通気性を有する袋体に吸水性高分子の含有材料を封入してなる園芸用保湿バッグであって、前記含有材料には、吸水性高分子の紫外線分解を防止するための分解防止剤が含まれている構成とすることもできる。
【0009】
この場合、前記分解防止剤は、ベンゾトリアゾール系化合物、ベンゾフェノン系化合物、サリチレート系化合物等の少なくとも何れかを用いることが可能である。
本発明において、前記吸水性高分子は、ポリアクリル酸塩、ポリビニルアルコール、ポリイソプロピルアミドの少なくとも何れかとすることができる。
また、本発明は、上記園芸用保湿バッグを土壌に載置することにより、前記土壌に植えられた植物に水分を供給する植物体の栽培方法とした。
【発明の効果】
【0010】
以上の構成を有する本発明では、保湿バッグを使用する場合にはUVカットシートを上面側にし、水分透過性を有する面を下面側にして土壌表面等に載置する。これにより太陽光線中の紫外線は、UVカットシートで遮断され、保湿バッグの内部に入射しないので、含水ゲルを構成する吸水性高分子が従来のように紫外線照射を受けて、架橋構造が分解されるのが防止できる。従って、野外でも安定した高分子構造が保たれ、水分の徐放性が継続的に発揮される。よって、たとえ太陽光線下での使用を継続しても、吸水性高分子による良好な土壌の保湿効果が期待できる。また、乾いた保湿バッグを定期的に吸水させることで、何度でも使用初期と同様の保湿効果が発揮でき、極めて有用性の高い保湿バッグが実現される。
【0011】
さらに本発明では、前記袋体の一方の面に気密性及び液密性を与え、他方の面に水分透過性を与えることによって、保湿バッグの水分蒸発領域を制御することができる。すなわち、水分透過性のある面を土壌側に向け、他方の面を上面側に配置することにより、土壌の保湿に不必要な上面側からの水分の蒸発を防止できる。このため、保湿させたい土壌のみに水分を与えることが可能となり、効率の良い水分徐放性が発揮される。これにより、日の当たる暖かい場所でも長期にわたって保湿バッグによる保湿効果を期待できるものである。
【0012】
また本発明では、UVカットシートにカーボン等の黒い紫外線遮断材料を用いると、太陽光線を受けて若干の蓄熱作用がなされるので、土壌表面を暖める効果も奏される。この場合は、いわゆるマルチシートと同様に、比較的低温に弱い作物を生育させる場合等において有益である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に本発明の各実施の形態を説明するが、当然ながら本発明はこれらの実施形式に限定されるものではなく、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更して実施することができる。
また各実施の形態は、矛盾しない範囲で互いに組み合わせることも勿論可能である。
<実施の形態1>
図1は、本発明の実施の形態1である園芸用保湿バッグ(以下、「保湿バッグ1」と称する。)の構成を示す図である。図1(a)は保湿バッグの外観図、図1(b)は保湿バッグの組図をそれぞれ示す。
【0014】
保湿バッグ1は、袋体をなす長方形状の2枚の上面シート3及び下面シート4の間に、含水前の保湿材である高分子粉体10を一定量(乾燥重量で0.5g程度)充填し、両シート3、4の周囲4方を周縁部30、40で熱圧着でシールして内部封止した構成を有する。当該保湿バッグ1の乾燥時のサイズは、長辺12cm×短辺6cm×厚み1mm程度とすることができる。高分子粉体10は、平均粒径が100〜200μm程度が好適であり、その使用量は含水時の膨張体積を考慮して設定する。
【0015】
上面シート3は、厚み(100μm)程度の気密性及び液密性に優れる非透明性の樹脂フィルムであって、主成分のポリエチレンに対し、外部から入射する紫外線を遮断する効果を持つカーボンブラックを分散させたUVカットシートである。当該フィルムの気密性及び液密性は、当該上面シート3の表面からの無駄な水分蒸発を防止し、吸水性高分子が吸水した水を効率よく下面シート4側に案内させるものである。また、カーボンブラックは、保湿バッグ1を太陽光線の当たる野外等で使用した場合において、ポリアクリル酸ナトリウムが紫外線照射を受けて分解するのを防止するために用いられる。
【0016】
なお、当該カーボンブラックは必須ではなく、当該上面シート3にその他の公知のUVカット手段を適用しても良い。例えば、ポリエチレンフィルムの少なくとも何れかの表面にアルミ蒸着膜を積層することもできる。また、ポリエチレンフィルム中に外部からの入射光を散乱させる酸化チタン等の金属酸化物を分散させてもよい。その他、公知の透明なUVカットフィルム(市販製品の一例としてガルワレ社製の「熱線遮断フィルムRS」シリーズ)を用いることも可能である。
【0017】
透明なフィルムを用いたり、ポリエチレンフィルムへの不純物の分散量を比較的少なくすることで、調湿バッグ1内部の吸水性高分子の含水状態が視認できるメリットがある。
さらに上面シート3の主成分には、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ナイロン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート(PC)等、保湿バッグの強度や柔らかさ等を考慮して、各種樹脂材料を用いることも可能である。
【0018】
下面シート4は、通気性且つ透水性に優れ、且つ、一定の機械的強度を有するシート体であって、例えばセルロース系繊維或いは脂肪族炭化水素系繊維からなる不織布、または高分子材料を加工した多孔性フィルムで構成されている。繊維間隙のサイズ(孔径)は、乾燥状態の高分子粉体10が外部に漏出しないサイズに設定する。
下面シート4の通気性及び透水性は、吸水した吸水性高分子の水分を土壌側に良好に案内させるために付与するものである。
【0019】
高分子粉体10は、ここではポリアクリル酸ナトリウムを主成分として構成される。粉体粒子の平均粒径は100〜200μm程度であり、球状、楕円状、もしくはそれらに準ずる形状に形成されている。なお、ポリアクリル酸ナトリウムは高吸水性高分子であり、カルボン酸イオンが親水基として作用し、自重の数百倍の質量に及ぶ吸水性を呈する。吸水後は、一定期間にわたり、吸い込んだ水を周囲に徐放し、緩やかな可逆性を呈する。この作用を利用して、保湿バッグ1では植物体に水分を補給し、保湿効果を発揮するようになっている。
【0020】
高分子粉体10に用いる吸水性高分子は、ポリアクリル酸塩、ポリビニルアルコール、ポリイソプロピルアミドの少なくとも何れかを用いることが可能であるが、本発明は特に、保湿バッグ1の用途において、紫外線による分解対策が求められるポリアクリル酸ナトリウム等のポリアクリル酸塩に有用である。
以上の構成を有する保湿バッグ1は、使用時には予め水を満たしたバットやバケツに投入し、高分子粉体10を吸水させて含水ゲル10xとする(図3)。このように処理を施した状態で、土壌の適所に載置する。このとき、上面シート3が上面、下面シート4が下面になるようにする。
【0021】
なお、乾燥状態の保湿バッグ1を土壌の適所に載置した後、放水して含水させることも可能である。但し、上面シート3は前述の通り液密性により水を通さないので、十分な水を与え、下面シート4側から高分子粉体10を含水させるように留意する。
図2は、鉢植えの観葉植物に保湿バッグ1を適用し、植物体を栽培する方法を示す。この使用例では、常に土壌の保湿状態が必要であり、且つ、窓辺やベランダ等、太陽光線が直接当たる場所での生育が求められる植物種を想定している。このような植物は、通常は管理者が日当たり具合が不十分にならないように調整しつつ、土壌が乾かないように比較的頻繁に水やりを行う必要がある。
【0022】
このような植物体に対しは、従来型の保湿バッグを適用することで、一定期間保湿効果を得ることも可能である。しかしながら図13に示すように、従来の保湿バッグでは両面から水分が徐放され、含水ゲル中の水分が比較的早期に失われてしまう。このため、保湿バッグを利用しても継続して保湿効果が期待できない。
さらに、太陽光線に保湿バッグが曝され続けると、紫外線を受けた吸水性高分子の架橋構造が分解され、吸水性が損なわれる。このため、次第に吸水量が減少するほか、バッグ表面から低分子化した高分子が漏出してしまうおそれもある。この問題は繰り返し保湿バッグを利用する際に顕著であり、発明者らの実験によれば2回の繰り返し使用が限度である。
【0023】
このような問題に対し、保湿バッグ1を用いた栽培方法では以下の各効果を発揮する。
第一の効果として、保湿バッグ1では従来よりも長期間にわたり保湿効果が発揮される。保湿バッグ1の上面シート3は気密性及び液密性を有しているため、保湿バッグ1の上面から水分は蒸発しない。従って、土壌の保湿に不必要な水分蒸発をなくすことができ、その分、通気性のある下面シート4側から土壌に対して水分徐放性が効率的に発揮される(図3)。これにより、一度保湿バッグ1を吸水させて使用する場合には、太陽光線の当たる暖かい場所でも長期にわたり、保湿バッグ1による保湿効果を期待できる。
【0024】
第二の効果として、保湿バッグ1では従来よりも吸水性高分子の劣化を防止でき、保湿バッグを長期間にわたり良好に使用できる。保湿バッグ1では図3に示すように、上面シート3に配されたカーボンブラックにより、外部から入射する太陽光線中の紫外線(VUV、UV等)が遮断され、吸水性高分子の含水ゲル10xの架橋構造が分解されるのが防止される。このため、含水ゲル10xは安定して水和形態を維持することができ、その水分を徐放し続ける。これにより管理者は保湿バッグ1を適宜吸水させることで、何度でも使用初期と同様の保湿効果を得ることができる。また、吸水させる回数も従来よりも少なくてすむ。このため本発明の保湿バッグ1は、図2の使用例のように、比較的太陽光線に曝されるような環境での栽培において、極めて有用性の高い構成となっている。
【0025】
なお、上面シート3はカーボンブラックにより黒く構成されているため、太陽光線が当たると若干蓄熱して、土壌を暖める効果も奏される。これにより、比較的低温に弱い植物体を生育させる場合等において、マルチシートと同様の効果も期待できるようになっている。
また、植物種によっては、蜜柑やレモンを含む柑橘類など、豊富な太陽光線を必要とする暖地系の作物を、比較的水やりの行いにくい急斜面の土地で栽培する場合がある。本発明の保湿バッグは、このような作付畑に直接配設することも可能であり、長期間にわたる保湿効果と紫外線耐久性を発揮することにより、高い有用性が期待できる。
【0026】
なお、ポリアクリル酸ナトリウムは肌の保湿用化粧品としても利用され、その際、紫外線を吸収すると分解する性質を利用して、日焼け止め化粧品としても使用されている。このため従来は、積極的にポリアクリル酸ナトリウムの紫外線分解を防止するといった技術思想は存在せず、その点においても本願発明は新規な効果を奏するものである。
<実施の形態2>
実施の形態1では、長方形状主面を持つ保湿バッグ1の構成を例示したが、本発明はこの形状に限定されない。保湿バッグの主面形状は使用用途に合わせて、正方形状やその他の多角形状、または丸形、ドーナツ型等の各形状とすることができる。
【0027】
例えば植木鉢等に保湿バッグを適用する場合、植物の種類(球根が露出しているもの)や植えてある位置、或いは植木鉢のサイズにより、長方形状の保湿バッグをそのまま使用しづらいことがある。この場合は図4に示すように、適度なサイズの扇形主面の保湿バッグ1aを作製し、土壌スペースに併せて植物を取り囲むように配設することが可能である。この場合も、上面シート3aが上を向くように配設させる。
【0028】
以上の構成を持つ保湿バッグ1aにおいても、実施の形態1の保湿バッグ1と同様の効果が奏される。
<実施の形態3>
本発明の保湿バッグは、上面及び下面シートを一体的な部材で構成することも可能である。以下、このような構成を持つ実施の形態3を説明する。
【0029】
図5は、本発明の実施の形態3に係る保湿バッグ1bの構成を示す図である。図5(a)は外観図、図5(b)は組図をそれぞれ示す。
保湿バッグ1bの特徴は、顔料により着色された不織布からなる帯状の外装シート5を折り曲げ、その内部に高分子粉体10を挟んで3方周囲の周縁部50において内部封止した構成にある。サイズ例は長辺9.8cm×短辺8.0cm×厚み3.0mmとし、高分子粉体10を0.5g使用している。
【0030】
外装シート5をなす不織布は、下面シート4と同様の構成であって、ここでは茶色の顔料で着色されている。着色する色は限定されないが、茶色の他、黒色、紺色、緑色等、比較的濃い色が好適である。着色方法は染料により染めたり、不織布の外表面を塗布してもよい。
この保湿バッグ1bは、土壌に接しない上面からの水分蒸発がそれほど問題とならない場合において、より簡単な構成で本発明の紫外線対策を施した保湿バッグを実現するものである。
【0031】
すなわち、保湿バッグ1bの使用時においては、保湿バッグを予め水につけるか、上から放水することにより、高分子粉体10を吸水させる。そして、これを土壌表面の適所に配置する。これにより、保湿バッグ1b中の含水ゲル10xは、保湿バッグ1bの両面から周囲に水分を徐放する。この作用によって、土壌及び保湿バッグの上面側に位置する植物の茎、枝、葉等に対して、経時的に良好な保湿効果が発揮される。
【0032】
また、保湿バッグ1bでは、着色された不織布が太陽光線中の紫外線を遮断するので、実施の形態1、2と同様に保湿バッグ1bを太陽光線に曝される屋外で使用しても吸水性高分子の架橋構造が分解防止できる。よって、良好な含水ゲル10xによる安定した保湿特性を繰り返し得ることができる。
なお保湿バッグ1bでは、外装シート5の全体が下面シート4と同様の材料で一体的に形成されているので、上面シート3の別途用意が不要であり、高分子粉体10を比較的簡単な構成の不織布からなる外装シート5の中に入れて封止するだけで構成できる。従って、本発明を低コストで実現できるメリットも有している。よって植木鉢へ適用する他、比較的作付け面積の広い畑に対して大量に適用することも可能である。また、上下面の区別がないので、土壌への配置も容易に行うことができる。
【0033】
なお、外装シート5の構成は不織布に限定されず、編成された織布を用いることもできる。
<性能測定実験>
本発明の保湿バッグの実際的性能を確認するべく、以下の各性能測定実験を行った。
(実験1)
本発明の保湿バッグについて、紫外線に対する耐久性の確認実験を、吸水能力の面から以下の手順で行った。
【0034】
実施例1として、実施の形態3に示す着色不織布(白色)の外装シートを利用した保湿バッグ1bを作製した。サイズは長辺4.9cm×短辺8.0cm×厚み3.0mmとし、高分子粉体10を0.3g使用した。
一方、従来構成の比較例1として、無着色不織布(白色)の外装シートを利用した保湿バッグを作製した。サイズ例は長辺9.8cm×短辺8.0cm×厚み3.0mmとし、高分子粉体を0.5g使用した。
【0035】
実施例1及び比較例1は、いずれも保湿バッグの両面が通気性を有する形態である。
以上用意した各保湿バッグを、水を満たしたバットに約半日投入し、吸水性高分子を十分に給水させて含水ゲルを形成させた。そして、吸水処理後の保湿バッグを図2に示すような態様で植木鉢の土壌表面に複数載置し、植木鉢を室内の採光窓付近に置いた。この状態で、経時的に各保湿バッグの重量を測定して重量変化を調べた。重量変化は朝方と日中又は夕方に行い、約半月間にわたり調査した。乾燥した保湿バッグへの給水は、比較例1の重量が15%未満程度に至ったタイミングに合わせて適宜行った。
【0036】
当該実験結果を図6に示す。実施例1については、比較例1と比較しやすいように重量を比例換算したものを合わせて表記した。図7は、図6中の比較例1の吸水直後の重量変化値を多項式関数(二次関数)でカーブフィッティングした曲線を示す。図8〜図10は、いずれも当該実験を実施した室内における環境湿度及び環境温度の変化を示すグラフである。
【0037】
また、実験中の各保湿バッグの重量と吸水量の測定値を表1に示す。
【表1】

まず、図6に示されるように、比較例1は実施例1に比べ、バッグ重量の減少勾配が大きく、早期に補給が必要なレベルまでに達することが分かった。さらに給水4回目(試験開始から半月)経過後には、比較例1は表1に示すように、給水直後でも当初の給水直後重量の18%にしかならず、ほとんど吸水させることができなくなった。
【0038】
一方、実施例1(比例換算)のバッグ重量変化は、比較例1よりも明らかに小さな減少勾配になっており、比較例1の1度目の給水時までの重量変化は、当初重量の半分程度に抑えられている。
さらに比較例1では、給水直後における重量が、給水操作を繰り返す毎に減少しているのが確認できる(図6の点線、図7の勾配曲線)。この理由は、長期間にわたる太陽光線の下での使用により、吸水性高分子の架橋構造が紫外線で分解してしまい、給水特性が損なわれたほか、分解により低分子化した含水ゲルの一部が外装シートの隙間から外部に漏出してしまったことが原因と考えられる。検証したところ、比較例1で実用に耐えられる回数は、2回目までであった。
【0039】
一方、実施例1では、比較例1に見られた上記問題はほぼ解消されている。当該実験中においては、4度にわたる給水操作を行っても、各操作直後の重量はほぼ一定であり(図6中の実線)、安定した性能が維持されている。これは、UVカット機能を有する上面シートによって紫外線の入射が防止され、吸水性高分子の架橋構造が紫外線照射による分解から効果的に保護された結果であると考えられる。
【0040】
なお、当該実験を実施した季節は晩秋であり、実験中の環境温度は18℃台から26℃台の範囲、環境湿度は22%台から59%台に収まっている(図8、図9を参照)。しかしながら、当該実施例1及び比較例1の特性の違いは、給水回数に多少の違いはあっても、季節によってさほど影響を受けることはないものと考えられる。
(実験2)
次に、保湿バッグの保湿効果の持続性について確認実験を行った。
【0041】
実施例2として、実施の形態1に示す保湿バッグ1を複数個作製した。サイズは(長辺4.9cm×短辺8.0cm×厚み3.0mm)とした。
また、上記した比較例1の保湿バッグを複数個用意した。これらの保湿バッグを水を満たしたバットに漬け、十分に含水ゲルを形成した。その後、各保湿バッグを並べて空気中に載置し、水分蒸発に伴う重量変化を調べた。各重量変化は、実施例2及び比較例1の各サンプルの平均値として算出した。
【0042】
当該実験結果を図11に示す。
図11では、給水直後の比較例1の重量は、実施例2よりも重くなっている。これは測定に供したサンプル間の重量バラツキの他、外装体の素材特性(吸水性等)の違いに起因すると考えられる。
実施例2の保湿バッグ重量は、試験期間の全体にわたり非常に緩やかな下降線を辿っており、150.0gを中心にほぼ安定している。これは、下面シートから水分が良好に徐放されつつ、且つ、上面シートからの余分な徐放が抑制され、吸水性高分子の含水量が保たれたものと考えられる。
【0043】
一方、比較例1の保湿バッグ重量は、実施例2に比べて急激に減少し、試験終了直後には当初の1/3程度にまで減少している。これにより、比較例1の構成では水分蒸発が活発であり、継続的な保湿効果を優先するためには実施例2の構成が適していることが確認できる。
(実験3)
保湿バッグを配置した土壌の保湿効果について、植木鉢の重量変化を元に確認実験を行った。サンプルとしては、前記実施例1及び2の他、透明ポリエチレンフィルム(紫外線透過性フィルム)を上面シート、不織布を下面シートとする比較例2(実施例2との対比用)と、保湿バッグを用いない植木鉢(比較例3)とを用意した。植木鉢の土(市販品の園芸用腐葉土)はすべて同量に調節し、各植木鉢を同一条件の位置に載置した。そして、保湿バッグを乗せる前、及び、保湿バッグを一定時間載せた場合の各々の植木鉢の重量(保湿バッグを除いた重量)をそれぞれ測定した。
【0044】
当該実験結果を図12に示す。左端の重量は、試験開始直前の各植木鉢の重量を示す。
まず、比較例3の植木鉢は、セット後4日目で80g程度の重量減少が見られた。この重量減少量が植木鉢からの水分蒸発によるものと推定される。
比較例2の重量減少量は、同一条件で約45gであった。これにより、少なくとも保湿バッグを用いれば、用いない場合に比べて水分減少量を半分程度にまで抑えられることが分かった。
【0045】
これに対し、上面及び下面シートがいずれも通気性を呈する実施例1では、上面が気密・液密なポリエチレンフィルムで構成された比較例2よりも良好な水分保持性が発揮されている。これは実施例1が比較例2より広い水分蒸発面積を有しているにもかかわらず、含水ゲルによる水分徐放性が安定して行われた結果であると考えられる。その理由は、外装シートが着色されており、外部から保湿バッグ内部への紫外線の入射が防止され、吸水性高分子の架橋構造が良好に保持された結果であると考えられる。
【0046】
さらに、上面シートが気密・液密性であり、且つ、紫外線遮断効果を有する実施例2では、実施例1よりもさらに安定した水分保持性を有するのが確認できる。これは実施例1の性能に加え、上面シート側からの不要な水分蒸発が抑制された結果であると考えられる。また、カーボンを混入させたポリエチレンフィルムを用いても、良好に吸水性高分子の紫外線分解を防止できることが確認できる。さらに実施例2では、柔軟な不織布と剛性を有するポリエチレンフィルムの採用により、含水させた保湿バッグがポリエチレンフィルムによる「ひきつれ」の応力を受けて、不織布側から内部の水分が効果的に土壌に供給されたことも考えられる。
【0047】
なお当図では示していないが、実施例1及び2について継続的に重量変化を追うと、互いの重量値が逆転する時点が現れる。これは、実施例2が気密・液密なポリエチレンフィルム製の上面シートを有しており、水分保持特性が特に良好なことを表している。
以上の各実験から、本発明の優位性が確認された。
<その他の事項>
上記実施の形態では、吸水性高分子としてポリアクリル酸塩を用いた構成を示したが、これは例示に過ぎず、その他の吸水性高分子(ポリビニルアルコール(PVA)、ポリイソプロピルアクリルアミド(P-NIPAM)等)を用いることも可能である。
【0048】
また、本発明の保湿バッグは植木鉢の土壌表面に配設するほか、作付畑における畝の配設するマルチシートとしても適用できる。また、所謂トンネル作付用の覆いとして用いるビニール又は不織布の代替品として利用することも可能である。
さらに、高分子粉体10は、吸水性高分子としてポリアクリル酸ナトリウムを主成分とする構成を例示したが、本発明ではこの粉体に別途、紫外線分解防止剤(紫外線吸収剤とも称される)を混合することも可能である。具体的には吸水性高分子が劣化を受けやすい、波長320nm〜350nm程度の紫外線を代わりに吸収する材料であって、ベンゾトリアゾール系化合物、ベンゾフェノン系化合物、サリチレート系化合物等の少なくとも何れかが好適である。
【0049】
ベンゾトリアゾール系化合物の市販製品としては、株式会社チバガイギー製「チヌビン(登録商標)」シリーズを利用することができる。ベンゾフェノン系化合物としては、2-ヒドロキシー4-メトキシベンゾフェノン、2,2,4,4-テトラヒドロキシベンゾフェノン等も好適である。このような紫外線分解防止剤若しくは紫外線吸収剤を用いると、上面シート3又は外装シート5との組み合わせにより、吸水性高分子の架橋構造を紫外線分解から保護することができる。なお、紫外線分解防止剤若しくは紫外線吸収剤を用いる場合には、上面シートや外装シートに別途紫外線遮断機能を付与しなくても、吸水性高分子に対して十分な紫外線対策が図れる利点がある。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明の園芸用保湿バッグは、比較的乾燥に弱い観賞用、農業用作物を太陽光線下で生育する場合において、園芸土壌を継続して保湿させる手段として用いることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の実施の形態1における園芸用保湿バッグの構成を示す図である。
【図2】保湿バッグの適用例を示す図である。
【図3】保湿バッグの効果を説明するための断面図である。
【図4】実施の形態2における園芸用保湿バッグの適用例を示す図である。
【図5】実施の形態3の保湿バッグの構成を示す図である。
【図6】紫外線による保湿バッグの給水能力変化を示すグラフである。
【図7】比較例の紫外線による保水能力変化を示すグラフである。
【図8】実験環境の湿度変化と温度変化を示すグラフである。
【図9】実験環境の湿度変化と温度変化を示すグラフである。
【図10】実験環境の湿度変化と温度変化を示すグラフである。
【図11】保湿バッグの重量変化を示すグラフである。
【図12】保湿バッグを適用した植木鉢の重量変化を示すグラフである。
【図13】従来の保湿バッグにおける問題を説明するための断面図である。
【符号の説明】
【0052】
1、1a、1b 保湿バッグ
3、3a 上面シート
4 下面シート
5 外装シート
10 高分子粉体
10x 吸水後の高分子粉体(含水ゲル)
30、40、50 周縁部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
通気性を有する袋体に吸水性高分子の含有材料を封入してなる園芸用保湿バッグであって、
前記袋体の少なくとも一方の面が、紫外線の入射を遮断するUVカットシートで構成され、
他方の面が水分透過性を有している
ことを特徴とする園芸用保湿バッグ。
【請求項2】
前記UVカットシートが気密性及び液密性を有している
ことを特徴とする請求項1に記載の園芸用保湿バッグ。
【請求項3】
前記UVカットシートは、樹脂成分に対し、紫外線遮断材料が混合または表面に積層するように配設されてなる
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の園芸用保湿バッグ。
【請求項4】
紫外線遮断材料は、カーボン、アルミ、酸化チタンの少なくとも何れかである
ことを特徴とする請求項3に記載の園芸用保湿バッグ。
【請求項5】
前記UVカットシートは、着色された織布又は不織布である
ことを特徴とする請求項1に記載の園芸用保湿バッグ。
【請求項6】
通気性を有する袋体に吸水性高分子の含有材料を封入してなる園芸用保湿バッグであって、
前記含有材料には、吸水性高分子の紫外線分解を防止するための分解防止剤が含まれている
ことを特徴とする園芸用保湿バッグ。
【請求項7】
前記分解防止剤は、ベンゾトリアゾール系化合物、ベンゾフェノン系化合物、サリチレート系化合物等の少なくとも何れかである
ことを特徴とする請求項6に記載の園芸用保湿バッグ。
【請求項8】
前記吸水性高分子は、ポリアクリル酸塩、ポリビニルアルコール、ポリイソプロピルアミドの少なくとも何れかである
ことを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の園芸用保湿バッグ。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の園芸用保湿バッグを土壌に載置することにより、前記土壌に植えられた植物に水分を供給する
ことを特徴とする植物体の栽培方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2009−171849(P2009−171849A)
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−10761(P2008−10761)
【出願日】平成20年1月21日(2008.1.21)
【出願人】(505042365)株式会社大河 (3)
【Fターム(参考)】