説明

土壌に含まれる有機炭化水素成分の原位置処理による分解方法

【課題】分解されにくいベンゼンを含む有機炭化水素成分を原位置処理によって嫌気的に分解することができる方法を提供すること。
【解決手段】低分子油成分その他の有機炭化水素成分を含む土壌3に、土壌に構築した注入井戸2を通して、硫酸イオン、アンモニウムイオン及びリン酸イオン生成物質、易分解性有機物並びにエキス成分を添加して硫酸還元菌を増殖させることにより、有機炭化水素成分を分解するようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、土壌中で硫酸還元菌を増殖させることにより、土壌に含まれる有機炭化水素成分を原位置処理により分解する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、硫酸還元菌等の菌を活性化させることにより、土壌に含まれる有機炭化水素成分を分解する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
しかし、特許文献1に開示される方法では、低分子油成分に対しては、好気的微生物分解が採用されており、嫌気処理と好気処理の切り替えや好気状態の維持に手数やコストを要するという問題があり、また、好気処理を行った後に、再度、嫌気処理を行う必要が生じた場合には、嫌気状態の回復に時間を要するという問題があった。
【0003】
また特許文献1に開示される方法のほかにも提案されたものがあるが、従来提案されたものとしては、室内試験のみによりその効果を確認したものが多く、土壌に含まれる有機炭化水素成分の原位置処理により具体的にその効果を確認したものは少なかった。
これは、土壌の性状等によって、有機炭化水素成分によって汚染された土壌の分布は不均一になりがちで、確認のしにくさとも相俟って、確実性のある原位置処理によって土壌に含まれる有機炭化水素成分を分解する方法の評価が定まっていなかったため、原位置処理による効果を確認できなかったことにもよると考えられる。
【0004】
また、従来提案されたものには、分解されにくいベンゼンを硫酸イオンを供給して嫌気的に分解する方法やベンゼンが嫌気性原位置処理によって分解されることを確認したものは存在しなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−230606号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記従来提案されている土壌に含まれる有機炭化水素成分を分解する方法の実情に鑑み、分解されにくいベンゼンを含む有機炭化水素成分を原位置処理によって嫌気的に分解することができる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の土壌に含まれる有機炭化水素成分の原位置処理による分解方法は、低分子油成分その他の有機炭化水素成分を含む土壌に、土壌に構築した注入井戸を通して、硫酸イオン、アンモニウムイオン及びリン酸イオン生成物質、易分解性有機物並びにエキス成分を添加して硫酸還元菌を増殖させることにより、前記有機炭化水素成分を分解することを特徴とする。
【0008】
この場合において、硫酸イオン、アンモニウムイオン及びリン酸イオン生成物質、易分解性有機物並びにエキス成分を、地下水中の硫酸イオンが0.05〜10mM、アンモニウムイオンが0.5〜50mM、リン酸イオンが0.05〜10mM、全有機炭素(TOC)が1〜50mM、エキス成分が前記易分解性有機物の1/10〜同重量の規定量となるように土壌に供給するようにすることができる。
【0009】
また、予め土壌に含まれる硫酸イオン、アンモニウムイオン、リン酸イオン生成物質、易分解性有機物及びエキス成分の量を測定し、前記規定量と測定した量との差分を土壌に供給するようにすることができる。
【0010】
また、定期的に土壌に含まれる硫酸イオン、アンモニウムイオン、リン酸イオン生成物質、易分解性有機物及びエキス成分の量を測定し、前記規定量と測定した量との差分を土壌に供給するようにすることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明の土壌に含まれる有機炭化水素成分の原位置処理による分解方法によれば、土壌に構築した注入井戸を通して、硫酸イオン、アンモニウムイオン及びリン酸イオン生成物質、易分解性有機物並びにエキス成分を添加するようにすることにより、硫酸還元菌の良好な増殖環境を維持し、有機炭化水素成分、特に分解されにくいベンゼン等の低分子油成分を原位置処理による嫌気的微生物分解のみによって分解することができる。
【0012】
また、硫酸イオン、アンモニウムイオン及びリン酸イオン生成物質、易分解性有機物並びにエキス成分を、地下水中の硫酸イオンが0.05〜10mM、アンモニウムイオンが0.5〜50mM、リン酸イオンが0.05〜10mM、全有機炭素(TOC)が1〜50mM、エキス成分が前記易分解性有機物の1/10〜同重量の規定量となるように土壌に供給するようにすることにより、硫酸還元菌の良好な増殖環境を整わせることができ、分解されにくいベンゼン等の低分子油成分を原位置処理による嫌気的微生物分解のみによって確実に分解することができる。
【0013】
また、予め土壌に含まれる硫酸イオン、アンモニウムイオン、リン酸イオン生成物質、易分解性有機物及びエキス成分の量を測定し、前記規定量と測定した量との差分を土壌に供給するようにすることにより、過剰な成分の無駄な使用を防止できるとともに、過剰な成分の供給による環境の悪化を防止し、硫酸還元菌の良好な増殖環境を整わせることができる。
【0014】
また、定期的に土壌に含まれる硫酸イオン、アンモニウムイオン、リン酸イオン生成物質、易分解性有機物及びエキス成分の量を測定し、前記規定量と測定した量との差分を土壌に供給するようにすることにより、硫酸還元菌の良好な増殖環境を維持することができ、分解されにくいベンゼン等の低分子油成分を原位置処理による嫌気的微生物分解のみによって一層確実かつ速やかに分解することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の土壌に含まれる有機炭化水素成分の原位置処理による分解方法の実証試験の実施サイトを示す説明図で、(a)は断面図、(b)は平面図である。
【図2】地下水中の全菌数の変化を示すグラフ図である。
【図3】土壌中のBTXの含有量の変化を示すグラフ図である。
【図4】土壌中のTPHの含有量の変化を示すグラフ図である。
【図5】土壌中のTPHの成分構成の変化を示すグラフ図である。
【図6】土壌中の全菌数の変化を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の土壌に含まれる有機炭化水素成分の原位置処理による分解方法について、その実施の形態を説明する。
【0017】
本発明の土壌に含まれる有機炭化水素成分の原位置処理による分解方法は、低分子油成分その他の有機炭化水素成分を含む土壌に、土壌に構築した注入井戸を通して、硫酸イオン、アンモニウムイオン及びリン酸イオン生成物質、易分解性有機物並びにエキス成分を添加して硫酸還元菌を増殖させることにより、有機炭化水素成分、特に分解されにくいベンゼン等の低分子油成分を原位置処理による嫌気的微生物分解のみによって分解するものである。
【0018】
以下、本発明の土壌に含まれる有機炭化水素成分の原位置処理による分解方法について、原位置処理の実証試験を通して具体的にその効果を確認したので、その内容及び結果について記載する。
【0019】
1.方法
実証試験の実施サイトの土壌は、砂質土、シルト、粘性土の互層から構成され、有機炭化水素成分として、重質油やベンゼン等の有機炭化水素成分の存在が確認されている。
処理システムは、図1に示すように、地上に設置したプラント1で調製した表1に示す成分からなる硫酸塩を含む栄養塩溶液を、注入井戸2から土壌3中に供給するものである。
地下水位はGL−0.5m付近で、処理は半径5m×層厚4.5mの飽和帯水層を対象として実施した。
栄養塩溶液の注入は、対象範囲の土壌間隙量を2回置換するような条件で行った。
具体的には、注入量を2L/minに設定し、80日間で210m3の注入を行った。
このとき、地下水の流れは栄養塩の滞留に重大な影響を及ぼす程度ではなく、地下水温は、実施期間中、注入水の影響を受け、13〜30℃の変動幅があり、またpHは中性付近であった。
【0020】
ところで、現地試験は、上記の栄養塩溶液の注入に加え、合計3回(3期間)の約8ヶ月に及ぶ注入を行ったが、その注入濃度を2回目から変更した(表2に硫酸塩を含む栄養塩溶液の成分を示す。)。
ここで、1回目の注入期間における地下水及び土壌の分析結果により、アンモニウムイオン及びリン酸イオン濃度に関して、注入液の影響と地盤由来の影響を区別することが困難であったため、2回目の注入期間からは、窒素及びリンの供給量を10倍程度増加させた。窒素の供給濃度に関しては、硫酸アンモニウムによる硫酸イオンが過剰となることを考慮して、新たに塩化アンモニウムを加えることで濃度調整を行った。
2回目の注入より、トレーサーの役割を担う臭素イオン(Br-)を添加するために、臭化カリウムを混入した。臭素イオンは土壌への吸着性が低く、微生物による消費の影響も受けにくいことから、注入液の拡散状況を判断する指標とした。
また、弱酸性である第一リン酸カリウムの添加量を10倍に増加させたことで、濃縮液のpHに著しい低下が見られたため、水酸化ナトリウムによるpHの調整を行った。
【0021】
【表1】

【0022】
【表2】

【0023】
2.結果・考察
9ヶ月間の栄養塩溶液の供給の結果、半径5mの範囲では栄養塩の到達が確認された。
アンモニウムイオン、リン酸イオン及び硫酸イオン並びにトレーサーとしての臭素イオンについても同様の挙動を示した。
酸化還元電位(ORP)については、−400〜−50mVの変動幅があったが、嫌気的環境は維持されていたと判断できる。この変動の原因としては、降雨による涵養や、注入水の溶存酸素等の影響が考えられる。
アクリジンオレンジ染色/顕鏡法による地下水における全菌数は、図2に示すように、106cells/mL程度存在しており、処理期間中で10倍前後の増加が確認された。
土壌について、地点と深度の異なる16箇所を選定し、初期の有機炭化水素成分を1%で分類し、処理前後の増減を評価した。
BTX(ベンゼン、トルエン、キシレン)の含有量は、表3及び図3に示すように、全体としては、初期から37〜60%の低減が得られた。
TPH(全石油系炭化水素)は、図4に示すように、汚染レベルに関係なく、初期から60%程度が低減した。
図5のTPHの成分構成からは、軽質分であるガソリン留分(C6−C12)の低減が顕著で、生分解の影響が示唆された。また、同時に、残渣留分(C28−C44)の低減と軽油留分(C12−C28)の増大が確認され、これは高分子成分が微生物分解により低分子化している過程と考えられる。
土壌の全菌数は、図6に示すように、107cells/mL程度が存在しており、10倍程度の増加が確認された。
【0024】
【表3】

【0025】
上記原位置処理の実証試験から、土壌に構築した注入井戸を利用して硫酸イオン、アンモニウムイオン及びリン酸イオン生成物質、易分解性有機物並びにエキス成分を添加することにより、硫酸還元菌の良好な増殖環境を整わせ、ベンゼン等の低分子油成分をはじめとする有機炭化水素成分を原位置処理によって分解することができることを確認した。
このように、本発明の土壌に含まれる有機炭化水素成分の原位置処理による分解方法は、分解されにくいベンゼンを含む有機炭化水素成分を原位置処理によって嫌気的に分解することができものであるが、分解する対象となる有機炭化水素成分には、上記物質の外、動植物油、農薬(第3種特定有害物質)等も含まれる。
【0026】
以上、本発明の土壌に含まれる有機炭化水素成分の原位置処理による分解方法について、原位置処理の実証試験に基づいて説明したが、本発明は、上記記載の内容に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において適宜その構成を変更することができるものである。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明の土壌に含まれる有機炭化水素成分の原位置処理による分解方法は、分解されにくいベンゼンを含む有機炭化水素成分を原位置処理によって嫌気的に分解することができることから、ベンゼン等の低分子油成分をはじめとする有機炭化水素成分によって汚染された土壌を原位置処理する用途に好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0028】
1 プラント
2 注入井戸
3 土壌


【特許請求の範囲】
【請求項1】
低分子油成分その他の有機炭化水素成分を含む土壌に、土壌に構築した注入井戸を通して、硫酸イオン、アンモニウムイオン及びリン酸イオン生成物質、易分解性有機物並びにエキス成分を添加して硫酸還元菌を増殖させることにより、前記有機炭化水素成分を分解することを特徴とする土壌に含まれる有機炭化水素成分の原位置処理による分解方法。
【請求項2】
硫酸イオン、アンモニウムイオン及びリン酸イオン生成物質、易分解性有機物並びにエキス成分を、地下水中の硫酸イオンが0.05〜10mM、アンモニウムイオンが0.5〜50mM、リン酸イオンが0.05〜10mM、全有機炭素(TOC)が1〜50mM、エキス成分が前記易分解性有機物の1/10〜同重量の規定量となるように土壌に供給することを特徴とする請求項1記載の土壌に含まれる有機炭化水素成分の原位置処理による分解方法。
【請求項3】
予め土壌に含まれる硫酸イオン、アンモニウムイオン、リン酸イオン生成物質、易分解性有機物及びエキス成分の量を測定し、前記規定量と測定した量との差分を土壌に供給することを特徴とする請求項2記載の土壌に含まれる有機炭化水素成分の原位置処理による分解方法。
【請求項4】
定期的に土壌に含まれる硫酸イオン、アンモニウムイオン、リン酸イオン生成物質、易分解性有機物及びエキス成分の量を測定し、前記規定量と測定した量との差分を土壌に供給することを特徴とする請求項2記載の土壌に含まれる有機炭化水素成分の原位置処理による分解方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−223717(P2012−223717A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−94251(P2011−94251)
【出願日】平成23年4月20日(2011.4.20)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成22年10月29日 社団法人日本生物工学会主催の「2010年 日本生物工学会大会」において文書をもって発表
【出願人】(000000284)大阪瓦斯株式会社 (2,453)
【出願人】(390036515)株式会社鴻池組 (41)
【Fターム(参考)】