土壌の浄化方法
【課題】土壌微生物数を増加及び維持することにより効率化された土壌の浄化方法を提供する。
【解決手段】土壌中の全炭素、全窒素及び全リンの重量比を100:[5〜24]:[0.1〜14]の範囲に調整することを特徴とする土壌の浄化方法であって、当該調整前の土壌中の全炭素の含有量が15,000 mg/kg未満の場合は炭素源として堆肥を土壌に添加する、浄化方法。
【解決手段】土壌中の全炭素、全窒素及び全リンの重量比を100:[5〜24]:[0.1〜14]の範囲に調整することを特徴とする土壌の浄化方法であって、当該調整前の土壌中の全炭素の含有量が15,000 mg/kg未満の場合は炭素源として堆肥を土壌に添加する、浄化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は土壌の浄化方法に関する。より詳細には、土壌微生物数を増加及び維持することによる炭化水素汚染土壌の浄化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
石油を運搬する際の事故や工場からの漏洩などに起因する「石油系炭化水素による土壌汚染」が従来から問題となっており、法整備や漏洩対策が進められている。石油系炭化水素汚染土壌対策の法律としては、まずアメリカが1980年に「スーパーファンド法」を制定した。この法律では土壌汚染に関わった当事者全てに浄化費用等の負担を求め、土壌中の全石油系炭化水素(TPH)濃度を1,000 mg/kg以下にすることが義務付けられている。
【0003】
日本では2002年に「土壌汚染対策法」が制定されたが、石油系炭化水素汚染への対策が十分に整っていないことを理由に石油を汚染物質の対象としていなかった。その後、2006年に「油汚染対策ガイドライン〜鉱油類を含む土壌に起因する油臭・油膜問題への土地所有者等による対応の考え方〜」が発表され、石油系炭化水素汚染土壌の浄化では「油臭の解消」と「土壌中の油分濃度の低減」が必要となった。さらに、2010年4月からは「土壌汚染対策法」の改正により汚染土壌の運搬が制限され、出来る限り原位置で汚染土壌を浄化することが求められるようになった。
【0004】
現在、石油系炭化水素汚染土壌の浄化には主に重油を利用した焼却処理や加熱分解処理が行われている。これらの方法では、まず汚染土壌を掘り起こし、処理場まで運搬しなければならない。しかしながら、土壌汚染対策法の改正により汚染土壌の運搬が制限されることとなったため、本処理方法は適さない。また、焼却処理では汚染油分の10倍もの燃料が必要となり、石油価格によってコストが大きく変動するという課題がある。さらに、焼却後の土壌は微生物を含め有機物がなくなることから、土壌の再利用が難しい。
【0005】
そこで近年、微生物機能により汚染を浄化するバイオレメディエーションの研究が進んでいる。バイオレメディエーションは焼却処理や洗浄処理に比べて省資源であり、土壌が再利用できる利点がある。さらに、原位置で土壌を浄化出来ることから、今後の土壌汚染対策法の改正で更なる普及が見込まれる。しかし、バイオレメディエーションは従来の方法と比較し、浄化に時間がかかるなどの欠点がある。
【0006】
バイオレメディエーションには、微生物の栄養分を投与して土着の微生物を活性化するバイオスティミュレーション(biostimulation)と、汚染物質の分解能を有する微生物を外部から投入するバイオオーグメンテーション(bioaugmentation)がある。
【0007】
バイオスティミュレーションでは、栄養塩を投与することで土壌中の微生物を増加させ、油分分解が促進される。しかし、微生物の石油系炭化水素分解活性の維持が難しく、処理時間の短縮に課題が残る。バイオオーグメンテーションでは、外部から栄養塩と微生物を投与することで、土壌に残留しやすい石油成分である長鎖直鎖状アルカン、芳香族、長鎖環状アルカンなどを分解出来る。しかし、投与する微生物の安全性や有害な中間生成物の有無などを確認する必要があるため、バイオオーグメンテーションの普及に向けてはさまざまな課題が残っている。
【0008】
本発明者らは、これまでに石油汚染土壌のバイオレメディエーションの効率化のために、難分解性の炭化水素を分解できる微生物の単離(特許文献1)や、微生物の石油分解活性の向上を目指した栄養塩を検討してきた。これまで栄養塩としては石油分解菌を液体培養するための培地組成を利用してきた。また、微生物の挙動を解析するために浄化中の土壌バクテリア数を短時間で把握できるeDNA解析法も確立した(特許文献2)。さらに、土壌混練装置を用いて石油系炭化水素分解菌、栄養塩、汚染土壌を均一に混合することで、バイオレメディエーションの効率化を図ってきた(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2007-135425号公報
【特許文献2】特開2009-254358号公報
【特許文献3】特開2008-296094号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明者らが開発した上記の技術を利用してバイオレメディエーションを行ったところ、図1に示すように土壌バクテリア数が増加することで油分濃度が減少したが、3日目以降は土壌バクテリア数の減少に伴って油分分解が進みにくくなっていた。この理由としては、浄化中に微生物が利用できる栄養源が不足したことなどが考えられた。
【0011】
土壌バクテリア数を増加させ、且つ長期間高く維持出来れば、バイオレメディエーションの更なる効率化が期待できることから、土壌バクテリア数が十分に増加・維持出来る栄養源を作製する必要がある。
【0012】
また、これまでのバイオレメディエーションでは、油分の除去のみが注目され、浄化後の植生や微生物生態系の回復については考慮されていなかった。しかしながら、土壌浄化後の植生や微生物生態系の回復も視野に入れたバイオレメディエーション(= 第3世代のバイオレメディエーション)の確立も重要である。
【0013】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、土壌微生物数を増加及び維持することにより効率化された土壌の浄化方法を提供することである。更に、本発明は、土壌浄化後の植生の回復を考慮した土壌の浄化方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明では、微生物数を更に高く維持できる新たな栄養源を検討した。微生物が増殖するためには、栄養源として主に炭素源、窒素源、リン源が必要あり、バイオレメディエーションを行うと、浄化に伴ってこれらの栄養源が消費される。しかし、微生物の増殖のために栄養源として窒素源やリン源を単一に投与するだけでは効果はなく、共に投与することでバランスを考慮することが重要である。
【0015】
本発明者らは、これまでに栄養源として液体培養で使用する培地を土壌にも応用し投与していた。しかし、土壌中には元々C、N、Pや微量金属などが存在しており、浄化のための費用面などを考慮しても、今後は安価で簡便、且つ微生物が生育に必要とする栄養成分のバランスを考えて栄養源を調製・投与することが重要である。特に、Pの原料であるリン鉱石の価格は近年高騰しており、使用量を出来る限り減らすことがコスト面で有利となる。
【0016】
本発明者らは、土壌中の栄養成分を考慮して、栄養成分(Total-C・Total-N・Total-P)の重量比を特定の範囲に調整することにより、土壌微生物(特に土壌バクテリア)数を増加・維持し、油分分解を促進できるという知見を得た。更に、Total-C、Total-N、Total-Pに加えてTotal-Kの重量比も調整することにより、植生の回復も可能になるという知見を得た。本発明は、これら知見に基づき、更に検討を重ねて完成されたものであり、次の土壌の浄化方法を提供するものである。
【0017】
項1.汚染土壌の浄化方法であって、
汚染土壌中の全炭素の含有量を15,000 mg/kg以上に、且つ汚染土壌中の全炭素、全窒素及び全リンの重量比を100:[5〜24]:[0.1〜14]の範囲に調整することを特徴とし、但し当該調整前の汚染土壌中の全炭素の含有量が上記値に満たない場合は汚染土壌に炭素源として堆肥を補う、浄化方法。
【0018】
項2.汚染土壌中の全炭素、全窒素及び全リンの重量比を前記範囲に調整するために、窒素及び/又はリンを含む副原料を汚染土壌に添加することを特徴とする、項1に記載の方法。
【0019】
項3.汚染土壌中の全炭素、全窒素及び全リンの重量比を前記範囲に調整するために、1種類以上の堆肥を汚染土壌に添加することを特徴とする、項1に記載の方法。
【0020】
項4.前記堆肥中の全炭素、全窒素及び全リンの重量比が100:[5〜16]:[3〜20]であることを特徴とする、項1又は3に記載の方法。
【0021】
項5.更に、堆肥中の全炭素及び全カリウムの重量比が100:[7〜31]であることを特徴とする、項4に記載の方法。
【0022】
項6.更に、汚染土壌中の全炭素、全窒素、全リンの含有量をそれぞれ15,000〜60,000 mg/kg、2,000〜12,000 mg/kg、1,000〜7,000 mg/kgの範囲に、且つ汚染土壌中の全炭素と全窒素の重量比を5〜10の範囲に調整することを特徴とする、項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【0023】
項7.前記汚染土壌が炭化水素で汚染された土壌であることを特徴とする、項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【0024】
項8.更に、汚染土壌中の全炭素及び全カリウムの重量比を100:[6〜14]の範囲に調整することを特徴とする、項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【0025】
項9.更に、汚染土壌中の全カリウムの含有量を1,000〜5,000 mg/kgの範囲に調整することを特徴とする、項8に記載の方法。
【発明の効果】
【0026】
本発明の土壌の浄化方法によれば、全炭素、全窒素及び全リンの重量比を調整することで土壌微生物数を増加及び維持することにより効率的に土壌を浄化することが可能となる。また、浄化後の微生物生態系の回復も可能となる。更には、本発明の土壌の浄化方法によれば、上記に加えカリウムの重量比も調整することで土壌浄化後の植生の回復が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】土壌中の油分濃度及び土壌バクテリア数の変化を示すグラフである。◆:油分濃度 ●:土壌バクテリア数
【図2】石油汚染土壌と一般土壌のバクテリア数を示すグラフである。
【図3】土壌バクテリア数と窒素循環(硝化)活性の関係を示すグラフである(土壌バクテリア数が約2×108 cells/g-soil以上のときに硝化活性が変動)。
【図4】C:N:P比と油分残存率の関係を示すグラフである。
【図5】各土性でのC:N:P比と油分残存率の関係を示すグラフである。
【図6】各土性でのC:N:P比と土壌バクテリア数増加率の関係を示すグラフである。
【図7】2週間浄化処理したときの油分残存率を示すグラフである。
【図8】供試土壌の窒素循環活性評価(1.6点)を表す図である。
【図9】2週間浄化処理したときの油分残存率を示すグラフである。
【図10】2週間浄化処理したときの土壌バクテリア数の増加率を示すグラフである。
【図11】2週間浄化処理したときの油分残存率を示すグラフである。
【図12】堆肥を用いて2週間浄化処理したときの油分残存率を示すグラフである。
【図13】浄化・回復後の土壌で生育するイチゴを表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の土壌の浄化方法について詳細に説明する。
【0029】
本発明の汚染土壌の浄化方法は、汚染土壌中の全炭素の含有量を15,000 mg/kg以上に、且つ汚染土壌中の全炭素、全窒素及び全リンの重量比を100:[5〜24]:[0.1〜14]の範囲に調整することを特徴とし、但し当該調整前の汚染土壌中の全炭素の含有量が上記値に満たない場合は汚染土壌に炭素源として堆肥を補うことも特徴とする。
【0030】
本発明により、全炭素、全窒素及び全リンの重量比並びに全炭素の含有量を上記範囲に調整することで、土壌微生物数を増加及び維持することが可能となる。本発明により、バクテリア数を汚染土壌の浄化が可能となる2×108 cells/g以上、より好ましくは8×108 cells/g以上に増加させることが可能となる。
【0031】
水田や畑などの農地等の土壌では、土壌微生物数が多い程、農作物生育が良好であり、収穫量が多くなるという傾向が見られる。また汚染土壌では、汚染の程度が高い程、土壌微生物数が少ない傾向にある。
【0032】
汚染土壌中のバクテリア数は、汚染土壌から採取した試料単位重量当たりに存在するDNA量に基づいて求めることができる(特開2004-337027号公報参照)。単位重量が1gである場合、その数は、汚染土壌の単位重量あたりの数(cells/g-soil又はcells/g-sample)の単位で表すことができる。なお、ここでいうDNA量とは、汚染土壌から採取した試料単位重量当たりに存在するDNAの量を示す。土壌バクテリア数は、汚染土壌から採取した試料単位重量当たりに存在するDNA量を、適当な手法で換算することにより求めることができる。例えば、顕微鏡等の測定手段を用いて、予め土壌中の土壌バクテリアの数とDNA量との相関関係を求めておき、採取した試料から測定されたDNA量を該相関関係に照合することによって求めることができる。
【0033】
本発明により土壌微生物数を増加及び維持する結果として、効率的に土壌を浄化することが可能となる。また、全炭素、全窒素及び全リンの重量比並びに全炭素の含有量を上記範囲に調整することで、微生物の増殖に適した土壌とすることができるので、浄化後の微生物生態系の回復も可能となる。
【0034】
汚染土壌
本発明における汚染土壌としては、本発明の方法により浄化が可能である汚染土壌であれば特に限定されないが、本発明は炭化水素で汚染された土壌に特に有効である。本発明における浄化対象の炭化水素としては、具体的には、シクロプロパン、シクロブタン、シクロペンタン、シクロヘプタン、シクロヘキサン、シクロオクタン、デカリン等のシクロアルカン;ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、キシレン、フェノール、クレゾール等の単環芳香族炭化水素;ナフタレン、アントラセン、フエナンスレン、ビフェニル、フェノールフタレイン、トリフェニルメタン等の多環芳香族炭化水素;1,1-ジクロロエタン、クロロホルム、1,2-ジクロロプロパン、ジブロモクロロメタン、1,1,2-トリクロロエタン、2-クロロエチルビニルエーテル、テトラクロロエテン(PCE)、クロロベンゼン、1,2-ジクロロエタン、1,1,1-トリクロロエタン、ブロモジクロロメタン、トランス-1,3-ジクロロプロペン、シス-1,3-ジクロロプロペン、ブロモホルム、クロロメタン、ブロモメタン、塩化ビニル、クロロエタン、1,1-ジクロロエテン、トランス-1,2-ジクロロエテン、トリクロロエテン(TCE)、ジクロロベンゼン、シス-1,2-ジクロロエテン、ジブロモエタン、1,4-ジクロロブタン、1,2,3-トリクロロプロパン、ブロモクロロメタン、2,2-ジクロロプロパン、1,2-ジブロモメタン、1,3-ジクロロプロパン等の含ハロゲン炭化水素等が例示される。
【0035】
上記炭化水素で汚染された土壌としては、例えば、ガソリン、灯油、原油、軽油、重油、潤滑油、エンジンオイル等で汚染された土壌が挙げられる。また、炭化水素に構造が類似した食品の動植物油等で汚染された土壌も挙げられる。そのような土壌としては、工場跡地、工場敷地、ガソリンスタンド跡地、焼却場等における土壌等が挙げられる。
【0036】
浄化方法
本発明における浄化方法としては、汚染土壌に微生物の栄養源を投与して土着の微生物を活性化する方法、又は微生物の栄養源に加えて汚染物質の分解能を有する微生物を外部から投入する方法のいずれであっても良いが、微生物を投与する工程を省略できるという点から汚染土壌に微生物の栄養源のみを投与する方法の方が好ましい。
【0037】
分解能を有する微生物としては炭化水素分解能を有する微生物が好ましく、炭化水素分解能を有する微生物としては、上記炭化水素に対して分解能を有するものであれば特に制限されない。このような微生物として、具体的には、エスケリキア属(Escherichia)、ゴルドニア属(Gordonia)、ロドコッカス属(Rhodococcus)、アシネトバクター属(Acinetobacter)、バチルス属(Bacillus)、シュードモナス属(Pseudomonas)、アクロモバクター属(Achromobacter)、アルカリゲネス属(Alcaligenes)、ミコバクテリウム属(Mycobacterium)、スフィンゴモナス属(Sphingomonas)、ラルストニア属(Ralstonia)等の細菌;サッカロマイセス属(Saccharomyces)、キャンディダ属(Candida)、ロドトルラ属(Rhodotorula)等の酵母が例示される。また、これら微生物の内、炭化水素で汚染された土壌又は水から単離されたものは、一般的に炭化水素の分解能が高いため好適である。
【0038】
本発明の浄化方法により汚染土壌を浄化するのに必要な日数は、通常14日以上、好ましくは28〜84日程度である。
【0039】
全炭素の含有量
本発明の汚染土壌の浄化方法では、汚染土壌中の全炭素の含有量を15,000 mg/kg以上に調整する。汚染土壌中の全炭素、全窒素及び全リンの重量比を特定の範囲に調整した上に、汚染土壌中の全炭素の含有量を上記範囲に調整することにより、土壌微生物を増加及び維持することが可能となる。汚染土壌中の全炭素の含有量は、好ましくは20,000 mg/kg以上であり、より好ましくは30,000 mg/kg以上である。
【0040】
本発明において全炭素(本明細書においてTotal-Cと呼ぶこともある)とは、土壌中の無機態及び有機態炭素の総和を意味する。全炭素は全有機炭素計(TOC-VCPH、島津製作所、京都)により測定することができる。
【0041】
上記調整においては、汚染土壌中の全炭素の含有量を計測し、汚染土壌中の全炭素の含有量が上記範囲を満たしていなければ、汚染土壌に炭素源として堆肥を投与する。このような全炭素の含有量が15,000 mg/kg未満となる汚染土壌としては、例えば粘土質土壌が挙げられる。
【0042】
反対に、汚染土壌中の全炭素の含有量が上記範囲を満たしていれば、特に堆肥や炭素源を含む副原料を汚染土壌に投与する必要はなく、窒素を含む成分及び/又はリンを含む副原料を汚染土壌に添加するのみで良い。
【0043】
全炭素、全窒素及び全リンの重量比の調整
本発明の汚染土壌の浄化方法では、汚染土壌中の全炭素、全窒素及び全リンの重量比(本明細書において、Total-C : Total-N : Total-P比やC : N : P比と呼ぶこともある)を100:[5〜24]:[0.1〜14]の範囲に調整する。汚染土壌中の全炭素の絶対量を特定の範囲に調整した上に、汚染土壌中の全炭素、全窒素及び全リンの重量比を上記範囲に調整することにより、土壌微生物を増加及び維持することが可能となる。汚染土壌中の全炭素、全窒素及び全リンの重量比は、好ましくは100:[7〜20]:[0.5〜10]、より好ましくは100:[10〜15]:[1〜5]である。
【0044】
本発明における全窒素(本明細書においてTotal-Nと呼ぶこともある)とは、土壌中の無機態及び有機態窒素の総和を意味する。全窒素はペルオキソ二硫酸カリウム分解−吸光光度法等により測定することが出来る。
【0045】
本発明における全リン(本明細書においてTotal-Pと呼ぶこともある)とは、土壌中の無機態及び有機態リンの総和を意味する。全リンは過塩素酸分解−モリブデン青吸光光度法等により測定することが出来る。
【0046】
上記調整においては、例えば、汚染土壌と添加する副原料のそれぞれの全炭素、全窒素及び全リンの含有量を計測した後に、汚染土壌と副原料を混合した後の全炭素、全窒素及び全リンの重量比が上記範囲となるような混合比を求めて、当該混合比で汚染土壌に副原料を添加する。
【0047】
上記副原料としては、これらに限定されるものでは無いが、堆肥、窒素及び/又はリン含有肥料などが挙げられる。これらは1種単独で使用しても良く、2種以上であっても良い。中でも、堆肥を添加することは有機土壌を作製できるため好ましい。当該堆肥としては、バーク堆肥などの植物堆肥、馬糞堆肥、鶏糞堆肥、牛糞堆肥、豚糞堆肥などの家畜堆肥、及び海藻堆肥が挙げられる。
【0048】
全炭素が不足している場合は、全窒素及び全リンと比べて全炭素の含有量が多い副原料を添加することが望ましく、そのような副原料としては例えば、稻ワラ、籾殻などが挙げられる。全窒素が不足している場合は、全炭素及び全リンと比べて全窒素の含有量が多い副原料を添加することが望ましく、そのような副原料としては例えば、尿素、硝酸アンモニウム、硝酸苦土アンモニウム、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、リン酸アンモニウム、硝酸ソーダ、硝酸カルシウム、硝酸カリウム、石灰窒素、大豆カス、魚粉などが挙げられる。全リンが不足している場合は、全炭素及び全窒素と比べて全リンの含有量が多い副原料を添加することが望ましく、そのような副原料としては例えば、過リン酸石灰、重過リン酸石灰、苦土過リン酸、苦土リン酸、硫リン安、リン硝安カリウム、塩リン安、活性汚泥炭化物などが挙げられる。
【0049】
更に汚染土壌中の全炭素、全窒素、全リンの含有量をそれぞれ15,000〜60,000 mg/kg、2,000〜12,000 mg/kg、1,000〜7,000 mg/kgの範囲に調整することが望ましい。当該範囲に調整することで、より効率的な汚染土壌の浄化が可能となる。全炭素の含有量は、好ましくは20,000〜50,000 mg/kg、より好ましくは30,000〜40,000 mg/kgである。全窒素の含有量は、好ましくは4,000〜10,000 mg/kg、より好ましくは6,000〜8,000 mg/kgである。全リンの含有量は、好ましくは2,000〜6,000 mg/kg、より好ましくは3,000〜5,000 mg/kgである。
【0050】
更に汚染土壌中の全炭素と全窒素の重量比を5〜10の範囲に調整することが望ましい。当該範囲に調整することで、より効率的な汚染土壌の浄化が可能となる。全炭素と全窒素の重量比は、好ましくは5.5〜9、より好ましくは6〜8である。
【0051】
堆肥
本発明の土壌の浄化方法では、汚染土壌中の全炭素の含有量が15,000 mg/kg未満である場合に、当該汚染土壌に炭素源として堆肥を補うことを特徴とする。
【0052】
炭素源として堆肥を使用した場合、堆肥は石油成分等の汚染物質よりも資化され難いので、汚染物質が優先的に消費されるため、堆肥が炭素源として好適に使用される。反対に、炭素源としてグルコース、糖液、ペプチド液などを使用した場合、これらは石油成分等の汚染物質よりも優先的に消費されるために十分な汚染土壌の浄化の効果が得られない。
【0053】
1種類以上の堆肥を汚染土壌に添加することにより、全炭素の含有量を上記範囲に調整するだけでなく、汚染土壌中の全炭素、全窒素及び全リンの重量比を上記範囲に調整しても良いし、堆肥に加えて窒素及び/又はリンを含む副原料を添加して当該重量比を上記範囲に調整しても良い。
【0054】
堆肥としては、バーク堆肥などの植物堆肥、馬糞堆肥、鶏糞堆肥、牛糞堆肥、豚糞堆肥などの家畜堆肥、及び海藻堆肥が挙げられる。
【0055】
堆肥中の全炭素、全窒素及び全リンの重量比は、好ましくは100:[5〜16]:[3〜20]、より好ましくは100:[7〜13]:[5〜15]である。更に、堆肥中の全炭素及び全カリウムの重量比は、好ましくは100:[7〜31]、より好ましくは100:[10〜20]である。
【0056】
本発明において全カリウム(本明細書においてTotal-Kと呼ぶこともある)とは、土壌中の土壌中の水溶性、交換態及び固定カリウムの総和を意味する。全カリウムは過塩素酸分解−原子吸光光度法等により測定することができる。
【0057】
上記調整においては、例えば、汚染土壌と添加する堆肥のそれぞれの全炭素の含有量を計測した後に、汚染土壌と堆肥を混合した後の全炭素の含有量が上記範囲となるような混合比を求めて、当該混合比で汚染土壌に堆肥を添加する。
【0058】
全炭素及び全カリウムの重量比の調整
本発明では、更に汚染土壌中の全炭素及び全カリウムの重量比を100:[6〜14]の範囲に調整することが望ましい。
【0059】
全炭素、全窒素及び全リンに加え、全カリウムの重量比も調整することで土壌浄化後の植生の回復も可能となる。また、本発明により浄化された土壌は、土壌微生物の生育に適し、浄化後の微生物生態系の回復も可能なことから、物質循環(アンモニア酸化活性、亜硝酸酸化活性など)が促進され、有機物が効率よく植物が利用できる形態に変換されるという点からも、植物の生育に適している。汚染土壌中の全炭素及び全カリウムの重量比は、好ましくは100:[8〜12]、より好ましくは100:[9〜11]である。
【0060】
上記調整においては、例えば、汚染土壌と添加する副原料のそれぞれの全炭素及び全カリウムの含有量を計測した後に、汚染土壌と副原料を混合した後の全炭素及び全カリウムの重量比が上記範囲となるような混合比を求めて、当該混合比で汚染土壌に副原料を添加する。
【0061】
上記副原料としては、これに限定されるものでは無いが、堆肥、カリウム含有肥料などが挙げられる。
【0062】
全炭素と比べて全カリウムが不足している場合は、全炭素と比べて全カリウムの含有量が多い副原料を添加することが望ましく、そのような副原料としては例えば、塩化カリウム、硫酸カリウム、硫酸カリソーダ、硫酸カリ苦土、重炭酸カリウム、リン酸カリウムなどが挙げられる。
【0063】
更に、汚染土壌中の全カリウムの含有量を1,000〜5,000 mg/kgの範囲に調整することが望ましい。当該範囲に調整することで、より植生に適した土壌となる。全カリウムの含有量は、好ましくは2,000〜4,000 mg/kg、より好ましくは2,500〜3,500 mg/kgである。
【0064】
汚染土壌には、上記以外の植物の肥料を添加しても良く、そのような肥料としては、ケイ酸質肥料(ケイ酸カルシウム等)、マグネシウム質肥料(硫酸マグネシウム、塩化マグネシウム等)、カルシウム質肥料(生石灰、消石灰、炭酸カルシウム等)、マンガン質肥料(硫酸マンガン、硫酸苦土マンガン、鉱さいマンガン等)、ホウ素質肥料(ホウ酸、ホウ酸塩等)等が挙げられる。
【実施例】
【0065】
以下、本発明を更に詳しく説明するため実施例を挙げる。しかし、本発明はこれら実施例等になんら限定されるものではない。
【0066】
環境DNA解析方法
50 ml容遠沈管に土壌1.0 gを量り取り、表1に示すDNA抽出緩衝液(pH 8.0)を8.0 ml、20 %(w/v)ドデシル硫酸ナトリウム溶液を1.0 ml加え、1,500 rpm、室温で20分間撹拌した。撹拌後、50 ml容遠沈管から滅菌済み1.5 mlマイクロチューブに1.5 ml分取し、16℃、8,000 rpmで10分間遠心分離した。水層を新たなマイクロチューブに700μl分取し、クロロホルム・イソアミルアルコール(24:1、v/v)を700μl加えて混和した後、16℃、13,000 rpmで10分遠心分離した。遠心分離後、水層を新たなマイクロチューブに500μl分取し、2-プロパノールを300μl加えて緩やかに混和し、16℃、13,000 rpmで15分遠心分離した。遠心分離後、上清を除去し、70 %(v/v)エタノールを500μl加え16℃、13,000 rpmで5分遠心分離した。遠心分離後、上清を除去しアスピレーターで30分間減圧乾燥させた。これに表2に示すTE 10:1緩衝液(pH 8.0)を50μl加えよく溶解させ、これをeDNA溶液とした。アガロース2.0 g、表3に示す50×TAE緩衝液(pH 8.0)4.0 ml及び0.1 mMエチジウムブロマイド溶液20μlに蒸留水を加えて200 mlとし、1.0 %アガロースゲルを作製した。eDNA溶液5.0μlにローディングダイ(東洋紡、大阪)1.0μlを混合し、全量6.0 μl、既知量のDNAを含むスマートラダー(ニッポンジーン、富山)1.5μlをアガロースゲルにアプライした。これを100 Vで40分間電気泳動を行った後アガロースゲルにUV照射し、DNAバンドを確認した。KODAK 1D Image Analysis software(KODAK、NY、USA)を用いてスマートラダーのDNAバンドを解析し、蛍光強度に対するDNA量の検量線を作成した。この検量線を用いて、各サンプルDNA溶液のDNAバンドの蛍光強度からDNA量を求め、各土壌1.0 g当たりのeDNA量を算出した。
【0067】
eDNA量をDAPI染色による土壌バクテリア数に換算する検量線によって土壌バクテリア数を求めた。定量したeDNA量を関係式
【0068】
【数1】
【0069】
を用いて土壌バクテリア数を算出した。
【0070】
【表1】
【0071】
【表2】
【0072】
【表3】
【0073】
窒素循環(硝化)活性の測定方法
a)硝化能の評価
土壌10 gをガラスシャーレに量り取り、110℃で2時間乾燥後、重量減少量から含水率を算出した。2 mmメッシュのふるいにかけた乾燥重量15 gの土壌を50 ml容UMサンプル瓶に入れ、カゼインを4 mg/g-soilとなるように添加した。土壌をよくかき混ぜた後、25℃、含水率一定(30%)で4日間静置した。1及び4日目の土壌中の無機態窒素を後述(b)の抽出方法により抽出し、後述(c〜e)の解析方法によりアンモニア態窒素、亜硝酸態窒素、及び硝酸態窒素をそれぞれ定量した。アンモニア態窒素、亜硝酸態窒素、及び硝酸態窒素の測定値から、1日当たりのカゼインから硝酸態窒素への変換量を算出し、窒素循環(硝化)活性として評価した。
【0074】
b)土壌からの無機態窒素の抽出
50 ml容遠心チューブに土壌サンプル2.0 gと1 M塩化カリウム水溶液20 mlを加え懸濁し、100 rpmで1時間振とうした。振とう後、10,000 rpmで5分間遠心分離し、その上清を無機態窒素抽出液とした。
【0075】
c)インドフェノール法によるアンモニア態窒素の定量
土壌から抽出した無機態窒素抽出液1.0 mlを2.0 ml容マイクロチューブに分注し、表4に示す次亜塩素酸ナトリウム溶液500μlを加えて撹拌し、室温で5分間静置した。静置後、表5に示すフェノール・ニトロプルシッドナトリウム溶液500μlを加えて撹拌し、30℃で60分間静置した。静置後、640 nmの吸光度を測定した。吸光度測定時にアンモニア態窒素標準液を用いて検量線を作成し、得られた関係式を用いてアンモニア態窒素量(NH4+-N)を測定した。
【0076】
【表4】
【0077】
【表5】
【0078】
d)ナフチルエチレンジアミン法による亜硝酸態窒素の定量法
土壌から抽出した無機態窒素抽出液1.0 mlを1.5 ml容マイクロチューブに分注し、表6に示すジアゾ化剤100μlを加えて撹拌した。室温で5分間静置した後、表7に示すカップリング剤100μlを加えて再び室温で20分間静置し、540 nmの吸光度を測定した。亜硝酸態窒素標準液を用いて作成した検量線から亜硝酸態窒素量(NO2--N)を測定した。
【0079】
【表6】
【0080】
【表7】
【0081】
e)ブルシン・スルファニル酸法による硝酸態窒素の定量
土壌から抽出した無機態窒素抽出液800μlと、表8に示すブルシン・スルファニル酸溶液400μlを試験管に分注し、硫酸溶液(硫酸:水 = 20:3)4.0 mlを加えて撹拌した。冷暗所で40分間静置後、410 nmの吸光度を測定した。吸光度測定時に硝酸態窒素標準液を用いて検量線を作成し、得られた関係式を用いて硝酸態窒素量(NO3--N)を測定した。
【0082】
【表8】
【0083】
油分残存率の測定方法
土壌2.0 g、無水硫酸ナトリウム約0.4 g、シリカゲル約0.8 gを50 ml容共栓三角フラスコに採取しH997抽出液(堀場製作所、京都)を10 ml加えた。マグネチックスターラーで1時間撹拌した。撹拌後抽出液をろ過し、これを油分抽出サンプルとした。油分抽出サンプルを油分濃度計の測定範囲に入るように、適宜希釈した。ろ液約6.5 mlを吸収セルに入れ油分濃度計(OCMA-350、堀場製作所、東京)を用いて測定を行った。測定条件を表9に示す。(1)式により測定値を油分濃度に換算した。
【0084】
【表9】
【0085】
【数2】
【0086】
土壌成分の分析方法
・Total-C
Total-Cは全有機炭素計(TOC-VCPH、島津製作所、京都)及び固体試料燃焼装置(SSM-5000A、島津製作所、京都)を用いて測定した。サンプルボートに土壌を適量量り取り、固体試料燃焼装置にサンプルボートを挿入し、表10の条件で土壌を燃焼した。得られたピーク面積から、グルコースを用いて作成した検量線に基づいて、総炭素量(Total-C)を算出した。
【0087】
【表10】
【0088】
・Total-N
土壌試料を100 mL容分解びんに少量(0.01〜0.1 g程度)取り、精秤した。これに蒸留水50 mLと水酸化ナトリウム-ペルオキソ二硫酸カリウム溶液(表11)を10 ml加え、密栓して混合した。この分解びんをオートクレーブに入れ、120℃で30分間加熱分解した。ここで得られた上清を全窒素抽出液とした。放冷後、全窒素抽出液5 mlを試験管に取り、塩酸水溶液(塩酸:蒸留水=1:16)を1 ml加えた。この溶液を、全有機炭素計(TOC-VCPH、島津製作所、京都)を拡張した全窒素計(TNM-1、島津製作所、京都)に供し、得られたピーク面積から、硝酸を用いて作成した検量線に基づいて、総窒素量(Total-N)を算出した。
【0089】
【表11】
【0090】
・Total-P
乾燥土壌1.0 g相当の土壌サンプル、濃硝酸20.0 ml、濃硫酸1.0 mlを200 ml容コニカルビーカーに入れ、時計皿をかぶせてホットプレート上で140℃で加熱した。煙の色が茶色から白色になるまでおよそ3時間加熱した後、放冷した。放冷後、過塩素酸10.0 mlを加え、時計皿をかぶせてホットプレート上で180℃で加熱した。試料溶液がほぼ無色になるまでおよそ4時間加熱した後、放冷した。試料溶液をろ過し、100 mlメスフラスコへ入れ、蒸留水で定容し、これを全リン抽出液とした。
【0091】
全リン酸抽出液1.0 mlを2.0 ml容マイクロチューブに分注し、モリブデンブルー溶液(表12)100μlを加えて撹拌し、30℃で30分間静置した。静置後、710 nmにおける吸光度を測定した。吸光度測定時にリン酸標準液を用いて検量線を作成し、得られた関係式から土壌中の全リンを定量した。
【0092】
【表12】
【0093】
・Soluble-P
200 mL容ポリビンに乾燥土壌および試料サンプル1.0 gと蒸留水200 mlを加え懸濁し、165 rpmで30分間振とうした。振とう後、10,000 rpmで5分間遠心分離し、その上清を水溶性リン(Soluble-P)抽出液とした。
【0094】
水溶性リン酸抽出液1.0 mlを2.0 ml容マイクロチューブに分注し、前述のモリブデンブルー溶液(表12)100μlを加えて撹拌し、30℃で30分間静置した。静置後、710 nmにおける吸光度を測定した。吸光度測定時にリン酸標準液を用いて検量線を作成し、得られた関係式から土壌中の水溶性リンを定量した。
【0095】
・Total-K
乾燥土壌1.0 g相当の土壌サンプル、濃硝酸20.0 ml、濃硫酸1.0 mlを200 ml容コニカルビーカーに入れ、時計皿をかぶせてホットプレート上で140℃で加熱した。煙の色が茶色から白色になるまでおよそ3時間加熱した後、放冷した。放冷後、過塩素酸10.0 mlを加え、時計皿をかぶせてホットプレート上で180℃で加熱した。試料溶液がほぼ無色になるまでおよそ4時間加熱した後、放冷した。試料溶液をろ過し、100 mlメスフラスコへ入れ、蒸留水で定容し、これを全カリウム抽出液とした。
【0096】
全カリウム抽出液を、原子吸光光度計(Z-2300、日立ハイテクノロジーズ、東京)を用いて表13に示す条件で測定した。測定毎にカリウム標準液(ナカライテスク、京都)を用いて検量線を作成し、抽出液中のカリウム濃度(mg/ml)に換算した。さらに、抽出液中のカリウム濃度(mg/ml)を(2)式を用いて土壌中のカリウム量(mg/g-sample)に換算した。
【0097】
【数3】
【0098】
【表13】
【0099】
・Soluble-K
200 mL容ポリビンに乾燥土壌および試料サンプル1.0 gと蒸留水200 mlを加え懸濁し、165 rpmで30分間振とうした。振とう後、10,000 rpmで5分間遠心分離し、その上清を水溶性カリウム(Soluble-K)抽出液とした。
【0100】
水溶性カリウム抽出液を原子吸光光度計(Z-2300、日立ハイテクノロジーズ、東京)を用いて上述の表13に示す条件で測定した。測定毎にカリウム標準液(ナカライテスク、京都)を用いて検量線を作成し、抽出液中のカリウム濃度(mg/ml)に換算した。さらに、抽出液中のカリウム濃度(mg/ml)を(2)式を用いて土壌中のカリウム量(mg/g-sample)に換算した。
【0101】
窒素循環活性評価
土壌10 gをガラスシャーレに量り取り、110℃で2時間乾燥後、重量減少量から含水率を算出した。2 mmメッシュのふるいにかけた乾燥重量15 gの土壌を50 ml容UMサンプル瓶に入れ、硫酸アンモニウム水溶液(0.080 mM)もしくは亜硝酸カリウム水溶液(0.16 mM)をそれぞれ60μg-N/g-dry soilとなるように添加した。土壌をよくかき混ぜた後、25℃、含水率一定で3日間静置した。1及び3日目の土壌中の無機態窒素を前述(b)の抽出方法(=「窒素循環(硝化能)活性の測定方法」の項を参照)により抽出し、同(c〜e)の解析方法によりアンモニア態窒素、亜硝酸態窒素、及び硝酸態窒素をそれぞれ定量した。アンモニア態窒素の減少量と硝酸態窒素の増加量から、1日当たりのアンモニア態窒素から硝酸態窒素への変換量を算出した。
【0102】
前述及び上述の方法により得られた土壌バクテリア数、アンモニア減少率、亜硝酸減少率の3項目に基づき、土壌における窒素循環活性を評価するために、チャートを作成した。
【0103】
ここで、土壌バクテリア数は、農地土壌における土壌バクテリア数の平均値3.25×109 cells/g-soilを100とする場合の、各サンプルの土壌バクテリア数の割合、即ち、バクテリア量を示す。
【0104】
また、アンモニア減少率は、60μg-N/g-dry soilのアンモニア化合物を3日間で100 %減少する活性を100とする場合の、各サンプルのアンモニア減少率の割合を示す。
【0105】
また、亜硝酸減少率は、60μg-N/g-dry soilの亜硝酸化合物を3日間で100 %減少する活性を100とする場合の、各サンプルの亜硝酸減少率の割合を示す。
【0106】
更に、チャートにおけるすべての頂点が100の三角形の面積を100とした際の内部の三角形の面積の相対値を、各サンプルについての窒素循環指標として算出した。
【0107】
試験例1.石油汚染土壌のバクテリア数の解析
バクテリアは環境の影響を受けやすいことが知られており、環境の状態が変わるとその数や種類が大きく変動する。そのため、土壌中のバクテリア数は土壌環境の状態を示す指標の一つと捉えることができる。本願出願人は環境中のDNA(eDNA)を抽出・定量し、土壌バクテリア数を推定する「環境DNA解析法」を独自に構築し、これまでに様々な土壌を解析してきた。その結果、石油汚染土壌ではバクテリア数が抑えられ一般土壌と比べて少ないことが分かった(図2)。
【0108】
また、土壌バクテリア数と窒素循環(硝化)活性の関係を解析すると、約2×108cells/g-soil以上の土壌バクテリア数がいないと硝化が進まないことが分かった(図3)。約2×108cells/g-soil未満ではタンパク質(カゼイン)の硝化がほとんど進まず、硝化活性が非常に低かった。これらの結果から、一定数のバクテリアがいないと土壌中の窒素成分が植物が利用できる形に効率良く変換されないことを明らかにした。
【0109】
実施例1.油分濃度(Total-C)に対して無機成分を整えたバイオレメディエーション(1)
(Total-C:Total-N:Total-P = 100:10:1に調整した砂質の石油汚染土壌のバイオスティミュレーション)
【0110】
【表14】
【0111】
バイオレメディエーションでは土壌バクテリア数が減少すると油分分解が進みにくくなる。更なるバイオレメディエーションの効率化のためには、土壌バクテリア数を維持することが重要である。土壌バクテリア数を維持するには、微生物の増殖・維持に適した栄養塩の投入が必要であると考えられる。そこで土壌バクテリア数が増加し、更なる油分分解の効率化を図れるような栄養塩の最適C:N:P比を検討するために、種々のC:N:P比に調整した栄養塩を作製した。C源は汚染基質(n−ヘキサデカン、3,000 mg/kg-soil)とし、N源には尿素、P源にはリン酸水素二アンモニウムを用いた。14日後の油分残存率を図4に示す。
【0112】
従来から使用していた栄養塩のTotal-C:Total-N:Total-P比は100:0.34:2や100:0.32:2など、種々の値であった。しかしながら、本実施例の結果では、Total-C:Total-N:Total-P = 100:10:1に調整した栄養塩の方が約2倍分解が進んでいた。NやPの比をこれ以上高めても油分分解量がほとんど変わらなかったことから、油分分解に適したTotal-C:Total-N:Total-P比は100:10:1であると新規に決定した。
【0113】
実施例2.油分濃度(Total-C)に対して無機成分を整えたバイオレメディエーション(2)
(Total-C:Total-N:Total-P = 100:10:1に調整した砂質、シルト質、粘土質の石油汚染土壌のバイオスティミュレーション)
【0114】
【表15】
【0115】
そこで、この比率の適用可能条件を解析するために、土性が異なる3つの模擬汚染土壌(土性:砂質、シルト質、粘土質。汚染源:n−ヘキサデカン、3,000 mg/kg-soil)を作製し、バイオレメディエーションを行った。浄化処理の条件を表16に示す。各条件とも、油分残存率を経時的に解析した。その後、土壌バクテリア数の増加・維持を解析した。
【0116】
【表16】
【0117】
その結果、いずれの土性でもTotal-C:Total-N:Total-P比が100:10:1になるように調整した条件3で最も14日後の油分残存率が低く、油分分解が進んでいた(図5)。従って、Total-C(全油分)に対してTotal-C:Total-N:Total-P=100:10:1となるように無機成分のN、Pを投与することで、土壌バクテリア数が増加し、油分分解が効率良く進むと考えられた。ただし、粘土質の土壌ではその効果が比較的低い結果であった。
【0118】
次に、14日後の土壌バクテリア数の解析結果を図6に示す。いずれの条件でも、栄養塩を加えることによって浄化処理前と比べて土壌バクテリア数が増加していた。特に、砂質やシルト質の土壌では、Total-C:Total-N:Total-P比が100:10:1になるように調整した条件3で最も増加率が高かった。従って、微生物の増殖に適した栄養源バランス(Total-C:Total-N:Total-P=100:10:1)となるように栄養塩を調製したことで、土壌中の微生物が生育しやすい環境となったことが考えられた。
【0119】
比較例1.油分濃度(Total-C)に対して無機成分を整えたバイオレメディエーション(3)
(栄養成分が極端に少ない粘土質土壌のバイオスティミュレーション)
【0120】
【表17】
【0121】
実施例2では、C:N:P=100:10:1となるように栄養塩を調製・投与することで、土壌バクテリア数が増加し、油分分解が効率良く進むことが分かったが、粘土質土壌ではその効果が比較的低かった。
【0122】
そこで、別の粘土質土壌を用いて模擬汚染土壌を作製し、2週間のバイオレメディエーションを行った。ここでは上記の表17に示すように難分解性の自動車用エンジンオイル(ベースオイル)を汚染物質として投与した。浄化試験の結果、油分分解は全く進まなかった(図7)。また、土壌バクテリア数は2週間を通して検出限界(3×107cells/g-soil)以下であり、増加しなかった。
【0123】
油分分解が進まなかった原因として、土壌中に含まれる栄養成分が極端に少なかったことが考えられた。そこで、土壌の栄養成分を分析したところ、Total-Cは一般的な土壌の1/20程度、Total-NやTotal-Pはさらに低い値であり、元々の土壌中の栄養成分が非常に少ないことが分かった(表18)。この土壌について窒素循環活性を評価したところ、評価値は僅か1.6点しかなかった(図8)。
【0124】
【表18】
【0125】
以上の結果から、この粘土質土壌でバイオレメディエーションは進まなかったのは、元々の土壌中の栄養成分が極端に少なく、土壌バクテリアが十分に増加・維持されなかったためであると考えられた。従って、石油汚染土壌のバイオレメディエーションでは、土壌中に元々含まれる栄養成分を考慮した上で、栄養塩を調製・投与することが重要であると言える。
【0126】
比較例2.有機物を用いたバイオレメディエーション(1)
(栄養塩とグルコースを投与しても油分分解が進まなかったバイオスティミュレーションの例)
【0127】
【表19】
【0128】
前項では、土壌中の栄養成分が極端に少ない粘土質土壌で模擬汚染土壌を作製し、C:N:P=100:10:1となるように栄養塩を調製・投与してバイオレメディエーションを行ったが、土壌バクテリア数は増加せず、油分分解がまったく進まなかった。この原因として、元々の土壌に含まれる栄養成分(特にC源)が極端に少ないことが考えられた。
【0129】
そこで、本項では土壌中のC源を補充すべく、栄養塩と共にグルコースを投与し、バイオレメディエーションを実施した。グルコースと栄養塩を投与した後の土壌中の栄養成分はTotal-C:41,000 g/kg(= 元の土壌の約20倍)、C/N比:3.7であった。グルコースの形でC源を補うことで土壌バクテリア数は約1.6倍に増加した。一方、油分分解は進み難くなった。2週間浄化処理後の油分残存率を図9に示す。この結果は、油分よりも優先的にグルコースが消費されたためであると考えられた。従って、C源を栄養成分として補充する場合は、石油成分よりも資化され難い形で投与することが重要であると言える。
【0130】
比較例3.有機物を用いたバイオレメディエーション(2)
(栄養塩と糖液・ペプチド液を投与しても油分分解が進まなかったバイオスティミュレーションの例)
【0131】
【表20】
【0132】
比較例2では、栄養塩と共にグルコースをC源として補充し、バイオレメディエーションを行った。その結果、土壌バクテリア数は増加したが、グルコースが石油成分よりも資化され難い形であったために油分分解は進み難くなった。
【0133】
そこで、本項ではグルコースよりも資化速度が遅いと考えられる有機物の糖液及びペプチド液を供試試料とし、同様の実験を行った。投与効果を明確に確認するために、砂質の模擬汚染土壌を用いてバイオレメディエーションを行った。2週間浄化処理したときの土壌バクテリアの増加率を図10に示す。栄養塩と糖液を共に加えた場合に、土壌バクテリア数が若干高くなった。一方、ペプチド液を加えると土壌バクテリア数は増加し難くなった。
【0134】
このときの油分残存率を図11に示す。糖液やペプチド液などの有機物を栄養塩と共に加えても、油分残存率は栄養塩のみを投与したときが最も良かった。また、糖液やペプチド液を加えることで油分分解も若干阻害された。従って、有機物を加える場合は、糖液やペプチド液よりもさらに資化速度の遅い堆肥などが有効ではないかと考えられた。
【0135】
試験例2.汚染浄化後に植生を回復させるための望ましい土壌環境の解析
(土壌および堆肥中の栄養成分の解析)
比較例1〜3の結果から、石油汚染土壌の元々の栄養成分が少ない場合は、石油成分よりも資化速度の遅い有機物を投与することで土壌バクテリア数が増加し、油分分解も進みやすくなると考えられる。しかし、土壌中の栄養成分濃度の目標値が不明であるため、有機物の最適な投与量が決定できていない。また、本発明では石油成分の分解・除去だけでなく、石油汚染が浄化できた後に植生も回復させることを目指している。そこで、微生物の増加・維持や植生の回復にとって望ましい土壌環境(土壌中の栄養成分濃度)を把握するために、土壌21サンプルおよび堆肥8サンプルの各種成分を分析した。結果を表21及び22に示す。この解析結果に基づいて土壌・堆肥中の主要栄養成分の好適範囲を決定した(表23及び24)。
【0136】
決定した好適範囲になるように有機物を栄養塩と共に投与することで、石油汚染土壌のバクテリアが増加・維持され、油分分解活性が向上し、浄化処理が進みやすくなると考えられる。
【0137】
【表21】
【0138】
【表22】
【0139】
【表23】
【0140】
【表24】
【0141】
実施例3.有機物を用いたバイオレメディエーション(3)
(堆肥を用いることで油分分解が進んだバイオスティミュレーションの例)
【0142】
【表25】
【0143】
前項までの結果から、有機物を栄養塩と共に投与することで、石油汚染土壌のバクテリアが増加・維持され、油分分解活性が向上し、浄化処理が進みやすくなると考えられた。そこで、汚染土壌に有機物として鶏糞堆肥を投与し、バイオレメディエーションを行った。堆肥を投与しない場合は全く油分分解が進まなかったが、Total-C:Total-N:Total-P比を考慮して堆肥を投与した場合には2週間後の油分残存率が約73 %まで低下しており、浄化が進むことが分かった(図12)。
【0144】
また、石油汚染土壌にイチゴを定植したところ全く成長は認められなかったが、浄化後の土壌にイチゴを定植したところ、枯死することなく生長した(図13)。
【技術分野】
【0001】
本発明は土壌の浄化方法に関する。より詳細には、土壌微生物数を増加及び維持することによる炭化水素汚染土壌の浄化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
石油を運搬する際の事故や工場からの漏洩などに起因する「石油系炭化水素による土壌汚染」が従来から問題となっており、法整備や漏洩対策が進められている。石油系炭化水素汚染土壌対策の法律としては、まずアメリカが1980年に「スーパーファンド法」を制定した。この法律では土壌汚染に関わった当事者全てに浄化費用等の負担を求め、土壌中の全石油系炭化水素(TPH)濃度を1,000 mg/kg以下にすることが義務付けられている。
【0003】
日本では2002年に「土壌汚染対策法」が制定されたが、石油系炭化水素汚染への対策が十分に整っていないことを理由に石油を汚染物質の対象としていなかった。その後、2006年に「油汚染対策ガイドライン〜鉱油類を含む土壌に起因する油臭・油膜問題への土地所有者等による対応の考え方〜」が発表され、石油系炭化水素汚染土壌の浄化では「油臭の解消」と「土壌中の油分濃度の低減」が必要となった。さらに、2010年4月からは「土壌汚染対策法」の改正により汚染土壌の運搬が制限され、出来る限り原位置で汚染土壌を浄化することが求められるようになった。
【0004】
現在、石油系炭化水素汚染土壌の浄化には主に重油を利用した焼却処理や加熱分解処理が行われている。これらの方法では、まず汚染土壌を掘り起こし、処理場まで運搬しなければならない。しかしながら、土壌汚染対策法の改正により汚染土壌の運搬が制限されることとなったため、本処理方法は適さない。また、焼却処理では汚染油分の10倍もの燃料が必要となり、石油価格によってコストが大きく変動するという課題がある。さらに、焼却後の土壌は微生物を含め有機物がなくなることから、土壌の再利用が難しい。
【0005】
そこで近年、微生物機能により汚染を浄化するバイオレメディエーションの研究が進んでいる。バイオレメディエーションは焼却処理や洗浄処理に比べて省資源であり、土壌が再利用できる利点がある。さらに、原位置で土壌を浄化出来ることから、今後の土壌汚染対策法の改正で更なる普及が見込まれる。しかし、バイオレメディエーションは従来の方法と比較し、浄化に時間がかかるなどの欠点がある。
【0006】
バイオレメディエーションには、微生物の栄養分を投与して土着の微生物を活性化するバイオスティミュレーション(biostimulation)と、汚染物質の分解能を有する微生物を外部から投入するバイオオーグメンテーション(bioaugmentation)がある。
【0007】
バイオスティミュレーションでは、栄養塩を投与することで土壌中の微生物を増加させ、油分分解が促進される。しかし、微生物の石油系炭化水素分解活性の維持が難しく、処理時間の短縮に課題が残る。バイオオーグメンテーションでは、外部から栄養塩と微生物を投与することで、土壌に残留しやすい石油成分である長鎖直鎖状アルカン、芳香族、長鎖環状アルカンなどを分解出来る。しかし、投与する微生物の安全性や有害な中間生成物の有無などを確認する必要があるため、バイオオーグメンテーションの普及に向けてはさまざまな課題が残っている。
【0008】
本発明者らは、これまでに石油汚染土壌のバイオレメディエーションの効率化のために、難分解性の炭化水素を分解できる微生物の単離(特許文献1)や、微生物の石油分解活性の向上を目指した栄養塩を検討してきた。これまで栄養塩としては石油分解菌を液体培養するための培地組成を利用してきた。また、微生物の挙動を解析するために浄化中の土壌バクテリア数を短時間で把握できるeDNA解析法も確立した(特許文献2)。さらに、土壌混練装置を用いて石油系炭化水素分解菌、栄養塩、汚染土壌を均一に混合することで、バイオレメディエーションの効率化を図ってきた(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2007-135425号公報
【特許文献2】特開2009-254358号公報
【特許文献3】特開2008-296094号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明者らが開発した上記の技術を利用してバイオレメディエーションを行ったところ、図1に示すように土壌バクテリア数が増加することで油分濃度が減少したが、3日目以降は土壌バクテリア数の減少に伴って油分分解が進みにくくなっていた。この理由としては、浄化中に微生物が利用できる栄養源が不足したことなどが考えられた。
【0011】
土壌バクテリア数を増加させ、且つ長期間高く維持出来れば、バイオレメディエーションの更なる効率化が期待できることから、土壌バクテリア数が十分に増加・維持出来る栄養源を作製する必要がある。
【0012】
また、これまでのバイオレメディエーションでは、油分の除去のみが注目され、浄化後の植生や微生物生態系の回復については考慮されていなかった。しかしながら、土壌浄化後の植生や微生物生態系の回復も視野に入れたバイオレメディエーション(= 第3世代のバイオレメディエーション)の確立も重要である。
【0013】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、土壌微生物数を増加及び維持することにより効率化された土壌の浄化方法を提供することである。更に、本発明は、土壌浄化後の植生の回復を考慮した土壌の浄化方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明では、微生物数を更に高く維持できる新たな栄養源を検討した。微生物が増殖するためには、栄養源として主に炭素源、窒素源、リン源が必要あり、バイオレメディエーションを行うと、浄化に伴ってこれらの栄養源が消費される。しかし、微生物の増殖のために栄養源として窒素源やリン源を単一に投与するだけでは効果はなく、共に投与することでバランスを考慮することが重要である。
【0015】
本発明者らは、これまでに栄養源として液体培養で使用する培地を土壌にも応用し投与していた。しかし、土壌中には元々C、N、Pや微量金属などが存在しており、浄化のための費用面などを考慮しても、今後は安価で簡便、且つ微生物が生育に必要とする栄養成分のバランスを考えて栄養源を調製・投与することが重要である。特に、Pの原料であるリン鉱石の価格は近年高騰しており、使用量を出来る限り減らすことがコスト面で有利となる。
【0016】
本発明者らは、土壌中の栄養成分を考慮して、栄養成分(Total-C・Total-N・Total-P)の重量比を特定の範囲に調整することにより、土壌微生物(特に土壌バクテリア)数を増加・維持し、油分分解を促進できるという知見を得た。更に、Total-C、Total-N、Total-Pに加えてTotal-Kの重量比も調整することにより、植生の回復も可能になるという知見を得た。本発明は、これら知見に基づき、更に検討を重ねて完成されたものであり、次の土壌の浄化方法を提供するものである。
【0017】
項1.汚染土壌の浄化方法であって、
汚染土壌中の全炭素の含有量を15,000 mg/kg以上に、且つ汚染土壌中の全炭素、全窒素及び全リンの重量比を100:[5〜24]:[0.1〜14]の範囲に調整することを特徴とし、但し当該調整前の汚染土壌中の全炭素の含有量が上記値に満たない場合は汚染土壌に炭素源として堆肥を補う、浄化方法。
【0018】
項2.汚染土壌中の全炭素、全窒素及び全リンの重量比を前記範囲に調整するために、窒素及び/又はリンを含む副原料を汚染土壌に添加することを特徴とする、項1に記載の方法。
【0019】
項3.汚染土壌中の全炭素、全窒素及び全リンの重量比を前記範囲に調整するために、1種類以上の堆肥を汚染土壌に添加することを特徴とする、項1に記載の方法。
【0020】
項4.前記堆肥中の全炭素、全窒素及び全リンの重量比が100:[5〜16]:[3〜20]であることを特徴とする、項1又は3に記載の方法。
【0021】
項5.更に、堆肥中の全炭素及び全カリウムの重量比が100:[7〜31]であることを特徴とする、項4に記載の方法。
【0022】
項6.更に、汚染土壌中の全炭素、全窒素、全リンの含有量をそれぞれ15,000〜60,000 mg/kg、2,000〜12,000 mg/kg、1,000〜7,000 mg/kgの範囲に、且つ汚染土壌中の全炭素と全窒素の重量比を5〜10の範囲に調整することを特徴とする、項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【0023】
項7.前記汚染土壌が炭化水素で汚染された土壌であることを特徴とする、項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【0024】
項8.更に、汚染土壌中の全炭素及び全カリウムの重量比を100:[6〜14]の範囲に調整することを特徴とする、項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【0025】
項9.更に、汚染土壌中の全カリウムの含有量を1,000〜5,000 mg/kgの範囲に調整することを特徴とする、項8に記載の方法。
【発明の効果】
【0026】
本発明の土壌の浄化方法によれば、全炭素、全窒素及び全リンの重量比を調整することで土壌微生物数を増加及び維持することにより効率的に土壌を浄化することが可能となる。また、浄化後の微生物生態系の回復も可能となる。更には、本発明の土壌の浄化方法によれば、上記に加えカリウムの重量比も調整することで土壌浄化後の植生の回復が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】土壌中の油分濃度及び土壌バクテリア数の変化を示すグラフである。◆:油分濃度 ●:土壌バクテリア数
【図2】石油汚染土壌と一般土壌のバクテリア数を示すグラフである。
【図3】土壌バクテリア数と窒素循環(硝化)活性の関係を示すグラフである(土壌バクテリア数が約2×108 cells/g-soil以上のときに硝化活性が変動)。
【図4】C:N:P比と油分残存率の関係を示すグラフである。
【図5】各土性でのC:N:P比と油分残存率の関係を示すグラフである。
【図6】各土性でのC:N:P比と土壌バクテリア数増加率の関係を示すグラフである。
【図7】2週間浄化処理したときの油分残存率を示すグラフである。
【図8】供試土壌の窒素循環活性評価(1.6点)を表す図である。
【図9】2週間浄化処理したときの油分残存率を示すグラフである。
【図10】2週間浄化処理したときの土壌バクテリア数の増加率を示すグラフである。
【図11】2週間浄化処理したときの油分残存率を示すグラフである。
【図12】堆肥を用いて2週間浄化処理したときの油分残存率を示すグラフである。
【図13】浄化・回復後の土壌で生育するイチゴを表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の土壌の浄化方法について詳細に説明する。
【0029】
本発明の汚染土壌の浄化方法は、汚染土壌中の全炭素の含有量を15,000 mg/kg以上に、且つ汚染土壌中の全炭素、全窒素及び全リンの重量比を100:[5〜24]:[0.1〜14]の範囲に調整することを特徴とし、但し当該調整前の汚染土壌中の全炭素の含有量が上記値に満たない場合は汚染土壌に炭素源として堆肥を補うことも特徴とする。
【0030】
本発明により、全炭素、全窒素及び全リンの重量比並びに全炭素の含有量を上記範囲に調整することで、土壌微生物数を増加及び維持することが可能となる。本発明により、バクテリア数を汚染土壌の浄化が可能となる2×108 cells/g以上、より好ましくは8×108 cells/g以上に増加させることが可能となる。
【0031】
水田や畑などの農地等の土壌では、土壌微生物数が多い程、農作物生育が良好であり、収穫量が多くなるという傾向が見られる。また汚染土壌では、汚染の程度が高い程、土壌微生物数が少ない傾向にある。
【0032】
汚染土壌中のバクテリア数は、汚染土壌から採取した試料単位重量当たりに存在するDNA量に基づいて求めることができる(特開2004-337027号公報参照)。単位重量が1gである場合、その数は、汚染土壌の単位重量あたりの数(cells/g-soil又はcells/g-sample)の単位で表すことができる。なお、ここでいうDNA量とは、汚染土壌から採取した試料単位重量当たりに存在するDNAの量を示す。土壌バクテリア数は、汚染土壌から採取した試料単位重量当たりに存在するDNA量を、適当な手法で換算することにより求めることができる。例えば、顕微鏡等の測定手段を用いて、予め土壌中の土壌バクテリアの数とDNA量との相関関係を求めておき、採取した試料から測定されたDNA量を該相関関係に照合することによって求めることができる。
【0033】
本発明により土壌微生物数を増加及び維持する結果として、効率的に土壌を浄化することが可能となる。また、全炭素、全窒素及び全リンの重量比並びに全炭素の含有量を上記範囲に調整することで、微生物の増殖に適した土壌とすることができるので、浄化後の微生物生態系の回復も可能となる。
【0034】
汚染土壌
本発明における汚染土壌としては、本発明の方法により浄化が可能である汚染土壌であれば特に限定されないが、本発明は炭化水素で汚染された土壌に特に有効である。本発明における浄化対象の炭化水素としては、具体的には、シクロプロパン、シクロブタン、シクロペンタン、シクロヘプタン、シクロヘキサン、シクロオクタン、デカリン等のシクロアルカン;ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、キシレン、フェノール、クレゾール等の単環芳香族炭化水素;ナフタレン、アントラセン、フエナンスレン、ビフェニル、フェノールフタレイン、トリフェニルメタン等の多環芳香族炭化水素;1,1-ジクロロエタン、クロロホルム、1,2-ジクロロプロパン、ジブロモクロロメタン、1,1,2-トリクロロエタン、2-クロロエチルビニルエーテル、テトラクロロエテン(PCE)、クロロベンゼン、1,2-ジクロロエタン、1,1,1-トリクロロエタン、ブロモジクロロメタン、トランス-1,3-ジクロロプロペン、シス-1,3-ジクロロプロペン、ブロモホルム、クロロメタン、ブロモメタン、塩化ビニル、クロロエタン、1,1-ジクロロエテン、トランス-1,2-ジクロロエテン、トリクロロエテン(TCE)、ジクロロベンゼン、シス-1,2-ジクロロエテン、ジブロモエタン、1,4-ジクロロブタン、1,2,3-トリクロロプロパン、ブロモクロロメタン、2,2-ジクロロプロパン、1,2-ジブロモメタン、1,3-ジクロロプロパン等の含ハロゲン炭化水素等が例示される。
【0035】
上記炭化水素で汚染された土壌としては、例えば、ガソリン、灯油、原油、軽油、重油、潤滑油、エンジンオイル等で汚染された土壌が挙げられる。また、炭化水素に構造が類似した食品の動植物油等で汚染された土壌も挙げられる。そのような土壌としては、工場跡地、工場敷地、ガソリンスタンド跡地、焼却場等における土壌等が挙げられる。
【0036】
浄化方法
本発明における浄化方法としては、汚染土壌に微生物の栄養源を投与して土着の微生物を活性化する方法、又は微生物の栄養源に加えて汚染物質の分解能を有する微生物を外部から投入する方法のいずれであっても良いが、微生物を投与する工程を省略できるという点から汚染土壌に微生物の栄養源のみを投与する方法の方が好ましい。
【0037】
分解能を有する微生物としては炭化水素分解能を有する微生物が好ましく、炭化水素分解能を有する微生物としては、上記炭化水素に対して分解能を有するものであれば特に制限されない。このような微生物として、具体的には、エスケリキア属(Escherichia)、ゴルドニア属(Gordonia)、ロドコッカス属(Rhodococcus)、アシネトバクター属(Acinetobacter)、バチルス属(Bacillus)、シュードモナス属(Pseudomonas)、アクロモバクター属(Achromobacter)、アルカリゲネス属(Alcaligenes)、ミコバクテリウム属(Mycobacterium)、スフィンゴモナス属(Sphingomonas)、ラルストニア属(Ralstonia)等の細菌;サッカロマイセス属(Saccharomyces)、キャンディダ属(Candida)、ロドトルラ属(Rhodotorula)等の酵母が例示される。また、これら微生物の内、炭化水素で汚染された土壌又は水から単離されたものは、一般的に炭化水素の分解能が高いため好適である。
【0038】
本発明の浄化方法により汚染土壌を浄化するのに必要な日数は、通常14日以上、好ましくは28〜84日程度である。
【0039】
全炭素の含有量
本発明の汚染土壌の浄化方法では、汚染土壌中の全炭素の含有量を15,000 mg/kg以上に調整する。汚染土壌中の全炭素、全窒素及び全リンの重量比を特定の範囲に調整した上に、汚染土壌中の全炭素の含有量を上記範囲に調整することにより、土壌微生物を増加及び維持することが可能となる。汚染土壌中の全炭素の含有量は、好ましくは20,000 mg/kg以上であり、より好ましくは30,000 mg/kg以上である。
【0040】
本発明において全炭素(本明細書においてTotal-Cと呼ぶこともある)とは、土壌中の無機態及び有機態炭素の総和を意味する。全炭素は全有機炭素計(TOC-VCPH、島津製作所、京都)により測定することができる。
【0041】
上記調整においては、汚染土壌中の全炭素の含有量を計測し、汚染土壌中の全炭素の含有量が上記範囲を満たしていなければ、汚染土壌に炭素源として堆肥を投与する。このような全炭素の含有量が15,000 mg/kg未満となる汚染土壌としては、例えば粘土質土壌が挙げられる。
【0042】
反対に、汚染土壌中の全炭素の含有量が上記範囲を満たしていれば、特に堆肥や炭素源を含む副原料を汚染土壌に投与する必要はなく、窒素を含む成分及び/又はリンを含む副原料を汚染土壌に添加するのみで良い。
【0043】
全炭素、全窒素及び全リンの重量比の調整
本発明の汚染土壌の浄化方法では、汚染土壌中の全炭素、全窒素及び全リンの重量比(本明細書において、Total-C : Total-N : Total-P比やC : N : P比と呼ぶこともある)を100:[5〜24]:[0.1〜14]の範囲に調整する。汚染土壌中の全炭素の絶対量を特定の範囲に調整した上に、汚染土壌中の全炭素、全窒素及び全リンの重量比を上記範囲に調整することにより、土壌微生物を増加及び維持することが可能となる。汚染土壌中の全炭素、全窒素及び全リンの重量比は、好ましくは100:[7〜20]:[0.5〜10]、より好ましくは100:[10〜15]:[1〜5]である。
【0044】
本発明における全窒素(本明細書においてTotal-Nと呼ぶこともある)とは、土壌中の無機態及び有機態窒素の総和を意味する。全窒素はペルオキソ二硫酸カリウム分解−吸光光度法等により測定することが出来る。
【0045】
本発明における全リン(本明細書においてTotal-Pと呼ぶこともある)とは、土壌中の無機態及び有機態リンの総和を意味する。全リンは過塩素酸分解−モリブデン青吸光光度法等により測定することが出来る。
【0046】
上記調整においては、例えば、汚染土壌と添加する副原料のそれぞれの全炭素、全窒素及び全リンの含有量を計測した後に、汚染土壌と副原料を混合した後の全炭素、全窒素及び全リンの重量比が上記範囲となるような混合比を求めて、当該混合比で汚染土壌に副原料を添加する。
【0047】
上記副原料としては、これらに限定されるものでは無いが、堆肥、窒素及び/又はリン含有肥料などが挙げられる。これらは1種単独で使用しても良く、2種以上であっても良い。中でも、堆肥を添加することは有機土壌を作製できるため好ましい。当該堆肥としては、バーク堆肥などの植物堆肥、馬糞堆肥、鶏糞堆肥、牛糞堆肥、豚糞堆肥などの家畜堆肥、及び海藻堆肥が挙げられる。
【0048】
全炭素が不足している場合は、全窒素及び全リンと比べて全炭素の含有量が多い副原料を添加することが望ましく、そのような副原料としては例えば、稻ワラ、籾殻などが挙げられる。全窒素が不足している場合は、全炭素及び全リンと比べて全窒素の含有量が多い副原料を添加することが望ましく、そのような副原料としては例えば、尿素、硝酸アンモニウム、硝酸苦土アンモニウム、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、リン酸アンモニウム、硝酸ソーダ、硝酸カルシウム、硝酸カリウム、石灰窒素、大豆カス、魚粉などが挙げられる。全リンが不足している場合は、全炭素及び全窒素と比べて全リンの含有量が多い副原料を添加することが望ましく、そのような副原料としては例えば、過リン酸石灰、重過リン酸石灰、苦土過リン酸、苦土リン酸、硫リン安、リン硝安カリウム、塩リン安、活性汚泥炭化物などが挙げられる。
【0049】
更に汚染土壌中の全炭素、全窒素、全リンの含有量をそれぞれ15,000〜60,000 mg/kg、2,000〜12,000 mg/kg、1,000〜7,000 mg/kgの範囲に調整することが望ましい。当該範囲に調整することで、より効率的な汚染土壌の浄化が可能となる。全炭素の含有量は、好ましくは20,000〜50,000 mg/kg、より好ましくは30,000〜40,000 mg/kgである。全窒素の含有量は、好ましくは4,000〜10,000 mg/kg、より好ましくは6,000〜8,000 mg/kgである。全リンの含有量は、好ましくは2,000〜6,000 mg/kg、より好ましくは3,000〜5,000 mg/kgである。
【0050】
更に汚染土壌中の全炭素と全窒素の重量比を5〜10の範囲に調整することが望ましい。当該範囲に調整することで、より効率的な汚染土壌の浄化が可能となる。全炭素と全窒素の重量比は、好ましくは5.5〜9、より好ましくは6〜8である。
【0051】
堆肥
本発明の土壌の浄化方法では、汚染土壌中の全炭素の含有量が15,000 mg/kg未満である場合に、当該汚染土壌に炭素源として堆肥を補うことを特徴とする。
【0052】
炭素源として堆肥を使用した場合、堆肥は石油成分等の汚染物質よりも資化され難いので、汚染物質が優先的に消費されるため、堆肥が炭素源として好適に使用される。反対に、炭素源としてグルコース、糖液、ペプチド液などを使用した場合、これらは石油成分等の汚染物質よりも優先的に消費されるために十分な汚染土壌の浄化の効果が得られない。
【0053】
1種類以上の堆肥を汚染土壌に添加することにより、全炭素の含有量を上記範囲に調整するだけでなく、汚染土壌中の全炭素、全窒素及び全リンの重量比を上記範囲に調整しても良いし、堆肥に加えて窒素及び/又はリンを含む副原料を添加して当該重量比を上記範囲に調整しても良い。
【0054】
堆肥としては、バーク堆肥などの植物堆肥、馬糞堆肥、鶏糞堆肥、牛糞堆肥、豚糞堆肥などの家畜堆肥、及び海藻堆肥が挙げられる。
【0055】
堆肥中の全炭素、全窒素及び全リンの重量比は、好ましくは100:[5〜16]:[3〜20]、より好ましくは100:[7〜13]:[5〜15]である。更に、堆肥中の全炭素及び全カリウムの重量比は、好ましくは100:[7〜31]、より好ましくは100:[10〜20]である。
【0056】
本発明において全カリウム(本明細書においてTotal-Kと呼ぶこともある)とは、土壌中の土壌中の水溶性、交換態及び固定カリウムの総和を意味する。全カリウムは過塩素酸分解−原子吸光光度法等により測定することができる。
【0057】
上記調整においては、例えば、汚染土壌と添加する堆肥のそれぞれの全炭素の含有量を計測した後に、汚染土壌と堆肥を混合した後の全炭素の含有量が上記範囲となるような混合比を求めて、当該混合比で汚染土壌に堆肥を添加する。
【0058】
全炭素及び全カリウムの重量比の調整
本発明では、更に汚染土壌中の全炭素及び全カリウムの重量比を100:[6〜14]の範囲に調整することが望ましい。
【0059】
全炭素、全窒素及び全リンに加え、全カリウムの重量比も調整することで土壌浄化後の植生の回復も可能となる。また、本発明により浄化された土壌は、土壌微生物の生育に適し、浄化後の微生物生態系の回復も可能なことから、物質循環(アンモニア酸化活性、亜硝酸酸化活性など)が促進され、有機物が効率よく植物が利用できる形態に変換されるという点からも、植物の生育に適している。汚染土壌中の全炭素及び全カリウムの重量比は、好ましくは100:[8〜12]、より好ましくは100:[9〜11]である。
【0060】
上記調整においては、例えば、汚染土壌と添加する副原料のそれぞれの全炭素及び全カリウムの含有量を計測した後に、汚染土壌と副原料を混合した後の全炭素及び全カリウムの重量比が上記範囲となるような混合比を求めて、当該混合比で汚染土壌に副原料を添加する。
【0061】
上記副原料としては、これに限定されるものでは無いが、堆肥、カリウム含有肥料などが挙げられる。
【0062】
全炭素と比べて全カリウムが不足している場合は、全炭素と比べて全カリウムの含有量が多い副原料を添加することが望ましく、そのような副原料としては例えば、塩化カリウム、硫酸カリウム、硫酸カリソーダ、硫酸カリ苦土、重炭酸カリウム、リン酸カリウムなどが挙げられる。
【0063】
更に、汚染土壌中の全カリウムの含有量を1,000〜5,000 mg/kgの範囲に調整することが望ましい。当該範囲に調整することで、より植生に適した土壌となる。全カリウムの含有量は、好ましくは2,000〜4,000 mg/kg、より好ましくは2,500〜3,500 mg/kgである。
【0064】
汚染土壌には、上記以外の植物の肥料を添加しても良く、そのような肥料としては、ケイ酸質肥料(ケイ酸カルシウム等)、マグネシウム質肥料(硫酸マグネシウム、塩化マグネシウム等)、カルシウム質肥料(生石灰、消石灰、炭酸カルシウム等)、マンガン質肥料(硫酸マンガン、硫酸苦土マンガン、鉱さいマンガン等)、ホウ素質肥料(ホウ酸、ホウ酸塩等)等が挙げられる。
【実施例】
【0065】
以下、本発明を更に詳しく説明するため実施例を挙げる。しかし、本発明はこれら実施例等になんら限定されるものではない。
【0066】
環境DNA解析方法
50 ml容遠沈管に土壌1.0 gを量り取り、表1に示すDNA抽出緩衝液(pH 8.0)を8.0 ml、20 %(w/v)ドデシル硫酸ナトリウム溶液を1.0 ml加え、1,500 rpm、室温で20分間撹拌した。撹拌後、50 ml容遠沈管から滅菌済み1.5 mlマイクロチューブに1.5 ml分取し、16℃、8,000 rpmで10分間遠心分離した。水層を新たなマイクロチューブに700μl分取し、クロロホルム・イソアミルアルコール(24:1、v/v)を700μl加えて混和した後、16℃、13,000 rpmで10分遠心分離した。遠心分離後、水層を新たなマイクロチューブに500μl分取し、2-プロパノールを300μl加えて緩やかに混和し、16℃、13,000 rpmで15分遠心分離した。遠心分離後、上清を除去し、70 %(v/v)エタノールを500μl加え16℃、13,000 rpmで5分遠心分離した。遠心分離後、上清を除去しアスピレーターで30分間減圧乾燥させた。これに表2に示すTE 10:1緩衝液(pH 8.0)を50μl加えよく溶解させ、これをeDNA溶液とした。アガロース2.0 g、表3に示す50×TAE緩衝液(pH 8.0)4.0 ml及び0.1 mMエチジウムブロマイド溶液20μlに蒸留水を加えて200 mlとし、1.0 %アガロースゲルを作製した。eDNA溶液5.0μlにローディングダイ(東洋紡、大阪)1.0μlを混合し、全量6.0 μl、既知量のDNAを含むスマートラダー(ニッポンジーン、富山)1.5μlをアガロースゲルにアプライした。これを100 Vで40分間電気泳動を行った後アガロースゲルにUV照射し、DNAバンドを確認した。KODAK 1D Image Analysis software(KODAK、NY、USA)を用いてスマートラダーのDNAバンドを解析し、蛍光強度に対するDNA量の検量線を作成した。この検量線を用いて、各サンプルDNA溶液のDNAバンドの蛍光強度からDNA量を求め、各土壌1.0 g当たりのeDNA量を算出した。
【0067】
eDNA量をDAPI染色による土壌バクテリア数に換算する検量線によって土壌バクテリア数を求めた。定量したeDNA量を関係式
【0068】
【数1】
【0069】
を用いて土壌バクテリア数を算出した。
【0070】
【表1】
【0071】
【表2】
【0072】
【表3】
【0073】
窒素循環(硝化)活性の測定方法
a)硝化能の評価
土壌10 gをガラスシャーレに量り取り、110℃で2時間乾燥後、重量減少量から含水率を算出した。2 mmメッシュのふるいにかけた乾燥重量15 gの土壌を50 ml容UMサンプル瓶に入れ、カゼインを4 mg/g-soilとなるように添加した。土壌をよくかき混ぜた後、25℃、含水率一定(30%)で4日間静置した。1及び4日目の土壌中の無機態窒素を後述(b)の抽出方法により抽出し、後述(c〜e)の解析方法によりアンモニア態窒素、亜硝酸態窒素、及び硝酸態窒素をそれぞれ定量した。アンモニア態窒素、亜硝酸態窒素、及び硝酸態窒素の測定値から、1日当たりのカゼインから硝酸態窒素への変換量を算出し、窒素循環(硝化)活性として評価した。
【0074】
b)土壌からの無機態窒素の抽出
50 ml容遠心チューブに土壌サンプル2.0 gと1 M塩化カリウム水溶液20 mlを加え懸濁し、100 rpmで1時間振とうした。振とう後、10,000 rpmで5分間遠心分離し、その上清を無機態窒素抽出液とした。
【0075】
c)インドフェノール法によるアンモニア態窒素の定量
土壌から抽出した無機態窒素抽出液1.0 mlを2.0 ml容マイクロチューブに分注し、表4に示す次亜塩素酸ナトリウム溶液500μlを加えて撹拌し、室温で5分間静置した。静置後、表5に示すフェノール・ニトロプルシッドナトリウム溶液500μlを加えて撹拌し、30℃で60分間静置した。静置後、640 nmの吸光度を測定した。吸光度測定時にアンモニア態窒素標準液を用いて検量線を作成し、得られた関係式を用いてアンモニア態窒素量(NH4+-N)を測定した。
【0076】
【表4】
【0077】
【表5】
【0078】
d)ナフチルエチレンジアミン法による亜硝酸態窒素の定量法
土壌から抽出した無機態窒素抽出液1.0 mlを1.5 ml容マイクロチューブに分注し、表6に示すジアゾ化剤100μlを加えて撹拌した。室温で5分間静置した後、表7に示すカップリング剤100μlを加えて再び室温で20分間静置し、540 nmの吸光度を測定した。亜硝酸態窒素標準液を用いて作成した検量線から亜硝酸態窒素量(NO2--N)を測定した。
【0079】
【表6】
【0080】
【表7】
【0081】
e)ブルシン・スルファニル酸法による硝酸態窒素の定量
土壌から抽出した無機態窒素抽出液800μlと、表8に示すブルシン・スルファニル酸溶液400μlを試験管に分注し、硫酸溶液(硫酸:水 = 20:3)4.0 mlを加えて撹拌した。冷暗所で40分間静置後、410 nmの吸光度を測定した。吸光度測定時に硝酸態窒素標準液を用いて検量線を作成し、得られた関係式を用いて硝酸態窒素量(NO3--N)を測定した。
【0082】
【表8】
【0083】
油分残存率の測定方法
土壌2.0 g、無水硫酸ナトリウム約0.4 g、シリカゲル約0.8 gを50 ml容共栓三角フラスコに採取しH997抽出液(堀場製作所、京都)を10 ml加えた。マグネチックスターラーで1時間撹拌した。撹拌後抽出液をろ過し、これを油分抽出サンプルとした。油分抽出サンプルを油分濃度計の測定範囲に入るように、適宜希釈した。ろ液約6.5 mlを吸収セルに入れ油分濃度計(OCMA-350、堀場製作所、東京)を用いて測定を行った。測定条件を表9に示す。(1)式により測定値を油分濃度に換算した。
【0084】
【表9】
【0085】
【数2】
【0086】
土壌成分の分析方法
・Total-C
Total-Cは全有機炭素計(TOC-VCPH、島津製作所、京都)及び固体試料燃焼装置(SSM-5000A、島津製作所、京都)を用いて測定した。サンプルボートに土壌を適量量り取り、固体試料燃焼装置にサンプルボートを挿入し、表10の条件で土壌を燃焼した。得られたピーク面積から、グルコースを用いて作成した検量線に基づいて、総炭素量(Total-C)を算出した。
【0087】
【表10】
【0088】
・Total-N
土壌試料を100 mL容分解びんに少量(0.01〜0.1 g程度)取り、精秤した。これに蒸留水50 mLと水酸化ナトリウム-ペルオキソ二硫酸カリウム溶液(表11)を10 ml加え、密栓して混合した。この分解びんをオートクレーブに入れ、120℃で30分間加熱分解した。ここで得られた上清を全窒素抽出液とした。放冷後、全窒素抽出液5 mlを試験管に取り、塩酸水溶液(塩酸:蒸留水=1:16)を1 ml加えた。この溶液を、全有機炭素計(TOC-VCPH、島津製作所、京都)を拡張した全窒素計(TNM-1、島津製作所、京都)に供し、得られたピーク面積から、硝酸を用いて作成した検量線に基づいて、総窒素量(Total-N)を算出した。
【0089】
【表11】
【0090】
・Total-P
乾燥土壌1.0 g相当の土壌サンプル、濃硝酸20.0 ml、濃硫酸1.0 mlを200 ml容コニカルビーカーに入れ、時計皿をかぶせてホットプレート上で140℃で加熱した。煙の色が茶色から白色になるまでおよそ3時間加熱した後、放冷した。放冷後、過塩素酸10.0 mlを加え、時計皿をかぶせてホットプレート上で180℃で加熱した。試料溶液がほぼ無色になるまでおよそ4時間加熱した後、放冷した。試料溶液をろ過し、100 mlメスフラスコへ入れ、蒸留水で定容し、これを全リン抽出液とした。
【0091】
全リン酸抽出液1.0 mlを2.0 ml容マイクロチューブに分注し、モリブデンブルー溶液(表12)100μlを加えて撹拌し、30℃で30分間静置した。静置後、710 nmにおける吸光度を測定した。吸光度測定時にリン酸標準液を用いて検量線を作成し、得られた関係式から土壌中の全リンを定量した。
【0092】
【表12】
【0093】
・Soluble-P
200 mL容ポリビンに乾燥土壌および試料サンプル1.0 gと蒸留水200 mlを加え懸濁し、165 rpmで30分間振とうした。振とう後、10,000 rpmで5分間遠心分離し、その上清を水溶性リン(Soluble-P)抽出液とした。
【0094】
水溶性リン酸抽出液1.0 mlを2.0 ml容マイクロチューブに分注し、前述のモリブデンブルー溶液(表12)100μlを加えて撹拌し、30℃で30分間静置した。静置後、710 nmにおける吸光度を測定した。吸光度測定時にリン酸標準液を用いて検量線を作成し、得られた関係式から土壌中の水溶性リンを定量した。
【0095】
・Total-K
乾燥土壌1.0 g相当の土壌サンプル、濃硝酸20.0 ml、濃硫酸1.0 mlを200 ml容コニカルビーカーに入れ、時計皿をかぶせてホットプレート上で140℃で加熱した。煙の色が茶色から白色になるまでおよそ3時間加熱した後、放冷した。放冷後、過塩素酸10.0 mlを加え、時計皿をかぶせてホットプレート上で180℃で加熱した。試料溶液がほぼ無色になるまでおよそ4時間加熱した後、放冷した。試料溶液をろ過し、100 mlメスフラスコへ入れ、蒸留水で定容し、これを全カリウム抽出液とした。
【0096】
全カリウム抽出液を、原子吸光光度計(Z-2300、日立ハイテクノロジーズ、東京)を用いて表13に示す条件で測定した。測定毎にカリウム標準液(ナカライテスク、京都)を用いて検量線を作成し、抽出液中のカリウム濃度(mg/ml)に換算した。さらに、抽出液中のカリウム濃度(mg/ml)を(2)式を用いて土壌中のカリウム量(mg/g-sample)に換算した。
【0097】
【数3】
【0098】
【表13】
【0099】
・Soluble-K
200 mL容ポリビンに乾燥土壌および試料サンプル1.0 gと蒸留水200 mlを加え懸濁し、165 rpmで30分間振とうした。振とう後、10,000 rpmで5分間遠心分離し、その上清を水溶性カリウム(Soluble-K)抽出液とした。
【0100】
水溶性カリウム抽出液を原子吸光光度計(Z-2300、日立ハイテクノロジーズ、東京)を用いて上述の表13に示す条件で測定した。測定毎にカリウム標準液(ナカライテスク、京都)を用いて検量線を作成し、抽出液中のカリウム濃度(mg/ml)に換算した。さらに、抽出液中のカリウム濃度(mg/ml)を(2)式を用いて土壌中のカリウム量(mg/g-sample)に換算した。
【0101】
窒素循環活性評価
土壌10 gをガラスシャーレに量り取り、110℃で2時間乾燥後、重量減少量から含水率を算出した。2 mmメッシュのふるいにかけた乾燥重量15 gの土壌を50 ml容UMサンプル瓶に入れ、硫酸アンモニウム水溶液(0.080 mM)もしくは亜硝酸カリウム水溶液(0.16 mM)をそれぞれ60μg-N/g-dry soilとなるように添加した。土壌をよくかき混ぜた後、25℃、含水率一定で3日間静置した。1及び3日目の土壌中の無機態窒素を前述(b)の抽出方法(=「窒素循環(硝化能)活性の測定方法」の項を参照)により抽出し、同(c〜e)の解析方法によりアンモニア態窒素、亜硝酸態窒素、及び硝酸態窒素をそれぞれ定量した。アンモニア態窒素の減少量と硝酸態窒素の増加量から、1日当たりのアンモニア態窒素から硝酸態窒素への変換量を算出した。
【0102】
前述及び上述の方法により得られた土壌バクテリア数、アンモニア減少率、亜硝酸減少率の3項目に基づき、土壌における窒素循環活性を評価するために、チャートを作成した。
【0103】
ここで、土壌バクテリア数は、農地土壌における土壌バクテリア数の平均値3.25×109 cells/g-soilを100とする場合の、各サンプルの土壌バクテリア数の割合、即ち、バクテリア量を示す。
【0104】
また、アンモニア減少率は、60μg-N/g-dry soilのアンモニア化合物を3日間で100 %減少する活性を100とする場合の、各サンプルのアンモニア減少率の割合を示す。
【0105】
また、亜硝酸減少率は、60μg-N/g-dry soilの亜硝酸化合物を3日間で100 %減少する活性を100とする場合の、各サンプルの亜硝酸減少率の割合を示す。
【0106】
更に、チャートにおけるすべての頂点が100の三角形の面積を100とした際の内部の三角形の面積の相対値を、各サンプルについての窒素循環指標として算出した。
【0107】
試験例1.石油汚染土壌のバクテリア数の解析
バクテリアは環境の影響を受けやすいことが知られており、環境の状態が変わるとその数や種類が大きく変動する。そのため、土壌中のバクテリア数は土壌環境の状態を示す指標の一つと捉えることができる。本願出願人は環境中のDNA(eDNA)を抽出・定量し、土壌バクテリア数を推定する「環境DNA解析法」を独自に構築し、これまでに様々な土壌を解析してきた。その結果、石油汚染土壌ではバクテリア数が抑えられ一般土壌と比べて少ないことが分かった(図2)。
【0108】
また、土壌バクテリア数と窒素循環(硝化)活性の関係を解析すると、約2×108cells/g-soil以上の土壌バクテリア数がいないと硝化が進まないことが分かった(図3)。約2×108cells/g-soil未満ではタンパク質(カゼイン)の硝化がほとんど進まず、硝化活性が非常に低かった。これらの結果から、一定数のバクテリアがいないと土壌中の窒素成分が植物が利用できる形に効率良く変換されないことを明らかにした。
【0109】
実施例1.油分濃度(Total-C)に対して無機成分を整えたバイオレメディエーション(1)
(Total-C:Total-N:Total-P = 100:10:1に調整した砂質の石油汚染土壌のバイオスティミュレーション)
【0110】
【表14】
【0111】
バイオレメディエーションでは土壌バクテリア数が減少すると油分分解が進みにくくなる。更なるバイオレメディエーションの効率化のためには、土壌バクテリア数を維持することが重要である。土壌バクテリア数を維持するには、微生物の増殖・維持に適した栄養塩の投入が必要であると考えられる。そこで土壌バクテリア数が増加し、更なる油分分解の効率化を図れるような栄養塩の最適C:N:P比を検討するために、種々のC:N:P比に調整した栄養塩を作製した。C源は汚染基質(n−ヘキサデカン、3,000 mg/kg-soil)とし、N源には尿素、P源にはリン酸水素二アンモニウムを用いた。14日後の油分残存率を図4に示す。
【0112】
従来から使用していた栄養塩のTotal-C:Total-N:Total-P比は100:0.34:2や100:0.32:2など、種々の値であった。しかしながら、本実施例の結果では、Total-C:Total-N:Total-P = 100:10:1に調整した栄養塩の方が約2倍分解が進んでいた。NやPの比をこれ以上高めても油分分解量がほとんど変わらなかったことから、油分分解に適したTotal-C:Total-N:Total-P比は100:10:1であると新規に決定した。
【0113】
実施例2.油分濃度(Total-C)に対して無機成分を整えたバイオレメディエーション(2)
(Total-C:Total-N:Total-P = 100:10:1に調整した砂質、シルト質、粘土質の石油汚染土壌のバイオスティミュレーション)
【0114】
【表15】
【0115】
そこで、この比率の適用可能条件を解析するために、土性が異なる3つの模擬汚染土壌(土性:砂質、シルト質、粘土質。汚染源:n−ヘキサデカン、3,000 mg/kg-soil)を作製し、バイオレメディエーションを行った。浄化処理の条件を表16に示す。各条件とも、油分残存率を経時的に解析した。その後、土壌バクテリア数の増加・維持を解析した。
【0116】
【表16】
【0117】
その結果、いずれの土性でもTotal-C:Total-N:Total-P比が100:10:1になるように調整した条件3で最も14日後の油分残存率が低く、油分分解が進んでいた(図5)。従って、Total-C(全油分)に対してTotal-C:Total-N:Total-P=100:10:1となるように無機成分のN、Pを投与することで、土壌バクテリア数が増加し、油分分解が効率良く進むと考えられた。ただし、粘土質の土壌ではその効果が比較的低い結果であった。
【0118】
次に、14日後の土壌バクテリア数の解析結果を図6に示す。いずれの条件でも、栄養塩を加えることによって浄化処理前と比べて土壌バクテリア数が増加していた。特に、砂質やシルト質の土壌では、Total-C:Total-N:Total-P比が100:10:1になるように調整した条件3で最も増加率が高かった。従って、微生物の増殖に適した栄養源バランス(Total-C:Total-N:Total-P=100:10:1)となるように栄養塩を調製したことで、土壌中の微生物が生育しやすい環境となったことが考えられた。
【0119】
比較例1.油分濃度(Total-C)に対して無機成分を整えたバイオレメディエーション(3)
(栄養成分が極端に少ない粘土質土壌のバイオスティミュレーション)
【0120】
【表17】
【0121】
実施例2では、C:N:P=100:10:1となるように栄養塩を調製・投与することで、土壌バクテリア数が増加し、油分分解が効率良く進むことが分かったが、粘土質土壌ではその効果が比較的低かった。
【0122】
そこで、別の粘土質土壌を用いて模擬汚染土壌を作製し、2週間のバイオレメディエーションを行った。ここでは上記の表17に示すように難分解性の自動車用エンジンオイル(ベースオイル)を汚染物質として投与した。浄化試験の結果、油分分解は全く進まなかった(図7)。また、土壌バクテリア数は2週間を通して検出限界(3×107cells/g-soil)以下であり、増加しなかった。
【0123】
油分分解が進まなかった原因として、土壌中に含まれる栄養成分が極端に少なかったことが考えられた。そこで、土壌の栄養成分を分析したところ、Total-Cは一般的な土壌の1/20程度、Total-NやTotal-Pはさらに低い値であり、元々の土壌中の栄養成分が非常に少ないことが分かった(表18)。この土壌について窒素循環活性を評価したところ、評価値は僅か1.6点しかなかった(図8)。
【0124】
【表18】
【0125】
以上の結果から、この粘土質土壌でバイオレメディエーションは進まなかったのは、元々の土壌中の栄養成分が極端に少なく、土壌バクテリアが十分に増加・維持されなかったためであると考えられた。従って、石油汚染土壌のバイオレメディエーションでは、土壌中に元々含まれる栄養成分を考慮した上で、栄養塩を調製・投与することが重要であると言える。
【0126】
比較例2.有機物を用いたバイオレメディエーション(1)
(栄養塩とグルコースを投与しても油分分解が進まなかったバイオスティミュレーションの例)
【0127】
【表19】
【0128】
前項では、土壌中の栄養成分が極端に少ない粘土質土壌で模擬汚染土壌を作製し、C:N:P=100:10:1となるように栄養塩を調製・投与してバイオレメディエーションを行ったが、土壌バクテリア数は増加せず、油分分解がまったく進まなかった。この原因として、元々の土壌に含まれる栄養成分(特にC源)が極端に少ないことが考えられた。
【0129】
そこで、本項では土壌中のC源を補充すべく、栄養塩と共にグルコースを投与し、バイオレメディエーションを実施した。グルコースと栄養塩を投与した後の土壌中の栄養成分はTotal-C:41,000 g/kg(= 元の土壌の約20倍)、C/N比:3.7であった。グルコースの形でC源を補うことで土壌バクテリア数は約1.6倍に増加した。一方、油分分解は進み難くなった。2週間浄化処理後の油分残存率を図9に示す。この結果は、油分よりも優先的にグルコースが消費されたためであると考えられた。従って、C源を栄養成分として補充する場合は、石油成分よりも資化され難い形で投与することが重要であると言える。
【0130】
比較例3.有機物を用いたバイオレメディエーション(2)
(栄養塩と糖液・ペプチド液を投与しても油分分解が進まなかったバイオスティミュレーションの例)
【0131】
【表20】
【0132】
比較例2では、栄養塩と共にグルコースをC源として補充し、バイオレメディエーションを行った。その結果、土壌バクテリア数は増加したが、グルコースが石油成分よりも資化され難い形であったために油分分解は進み難くなった。
【0133】
そこで、本項ではグルコースよりも資化速度が遅いと考えられる有機物の糖液及びペプチド液を供試試料とし、同様の実験を行った。投与効果を明確に確認するために、砂質の模擬汚染土壌を用いてバイオレメディエーションを行った。2週間浄化処理したときの土壌バクテリアの増加率を図10に示す。栄養塩と糖液を共に加えた場合に、土壌バクテリア数が若干高くなった。一方、ペプチド液を加えると土壌バクテリア数は増加し難くなった。
【0134】
このときの油分残存率を図11に示す。糖液やペプチド液などの有機物を栄養塩と共に加えても、油分残存率は栄養塩のみを投与したときが最も良かった。また、糖液やペプチド液を加えることで油分分解も若干阻害された。従って、有機物を加える場合は、糖液やペプチド液よりもさらに資化速度の遅い堆肥などが有効ではないかと考えられた。
【0135】
試験例2.汚染浄化後に植生を回復させるための望ましい土壌環境の解析
(土壌および堆肥中の栄養成分の解析)
比較例1〜3の結果から、石油汚染土壌の元々の栄養成分が少ない場合は、石油成分よりも資化速度の遅い有機物を投与することで土壌バクテリア数が増加し、油分分解も進みやすくなると考えられる。しかし、土壌中の栄養成分濃度の目標値が不明であるため、有機物の最適な投与量が決定できていない。また、本発明では石油成分の分解・除去だけでなく、石油汚染が浄化できた後に植生も回復させることを目指している。そこで、微生物の増加・維持や植生の回復にとって望ましい土壌環境(土壌中の栄養成分濃度)を把握するために、土壌21サンプルおよび堆肥8サンプルの各種成分を分析した。結果を表21及び22に示す。この解析結果に基づいて土壌・堆肥中の主要栄養成分の好適範囲を決定した(表23及び24)。
【0136】
決定した好適範囲になるように有機物を栄養塩と共に投与することで、石油汚染土壌のバクテリアが増加・維持され、油分分解活性が向上し、浄化処理が進みやすくなると考えられる。
【0137】
【表21】
【0138】
【表22】
【0139】
【表23】
【0140】
【表24】
【0141】
実施例3.有機物を用いたバイオレメディエーション(3)
(堆肥を用いることで油分分解が進んだバイオスティミュレーションの例)
【0142】
【表25】
【0143】
前項までの結果から、有機物を栄養塩と共に投与することで、石油汚染土壌のバクテリアが増加・維持され、油分分解活性が向上し、浄化処理が進みやすくなると考えられた。そこで、汚染土壌に有機物として鶏糞堆肥を投与し、バイオレメディエーションを行った。堆肥を投与しない場合は全く油分分解が進まなかったが、Total-C:Total-N:Total-P比を考慮して堆肥を投与した場合には2週間後の油分残存率が約73 %まで低下しており、浄化が進むことが分かった(図12)。
【0144】
また、石油汚染土壌にイチゴを定植したところ全く成長は認められなかったが、浄化後の土壌にイチゴを定植したところ、枯死することなく生長した(図13)。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
汚染土壌の浄化方法であって、
汚染土壌中の全炭素の含有量を15,000 mg/kg以上に、且つ汚染土壌中の全炭素、全窒素及び全リンの重量比を100:[5〜24]:[0.1〜14]の範囲に調整することを特徴とし、但し当該調整前の汚染土壌中の全炭素の含有量が上記値に満たない場合は汚染土壌に炭素源として堆肥を補う、浄化方法。
【請求項2】
汚染土壌中の全炭素、全窒素及び全リンの重量比を前記範囲に調整するために、窒素及び/又はリンを含む副原料を汚染土壌に添加することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
汚染土壌中の全炭素、全窒素及び全リンの重量比を前記範囲に調整するために、1種類以上の堆肥を汚染土壌に添加することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記堆肥中の全炭素、全窒素及び全リンの重量比が100:[5〜16]:[3〜20]であることを特徴とする、請求項1又は3に記載の方法。
【請求項5】
更に、堆肥中の全炭素及び全カリウムの重量比が100:[7〜31]であることを特徴とする、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
更に、汚染土壌中の全炭素、全窒素、全リンの含有量をそれぞれ15,000〜60,000 mg/kg、2,000〜12,000 mg/kg、1,000〜7,000 mg/kgの範囲に、且つ汚染土壌中の全炭素と全窒素の重量比を5〜10の範囲に調整することを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記汚染土壌が炭化水素で汚染された土壌であることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
更に、汚染土壌中の全炭素及び全カリウムの重量比を100:[6〜14]の範囲に調整することを特徴とする、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
更に、汚染土壌中の全カリウムの含有量を1,000〜5,000 mg/kgの範囲に調整することを特徴とする、請求項8に記載の方法。
【請求項1】
汚染土壌の浄化方法であって、
汚染土壌中の全炭素の含有量を15,000 mg/kg以上に、且つ汚染土壌中の全炭素、全窒素及び全リンの重量比を100:[5〜24]:[0.1〜14]の範囲に調整することを特徴とし、但し当該調整前の汚染土壌中の全炭素の含有量が上記値に満たない場合は汚染土壌に炭素源として堆肥を補う、浄化方法。
【請求項2】
汚染土壌中の全炭素、全窒素及び全リンの重量比を前記範囲に調整するために、窒素及び/又はリンを含む副原料を汚染土壌に添加することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
汚染土壌中の全炭素、全窒素及び全リンの重量比を前記範囲に調整するために、1種類以上の堆肥を汚染土壌に添加することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記堆肥中の全炭素、全窒素及び全リンの重量比が100:[5〜16]:[3〜20]であることを特徴とする、請求項1又は3に記載の方法。
【請求項5】
更に、堆肥中の全炭素及び全カリウムの重量比が100:[7〜31]であることを特徴とする、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
更に、汚染土壌中の全炭素、全窒素、全リンの含有量をそれぞれ15,000〜60,000 mg/kg、2,000〜12,000 mg/kg、1,000〜7,000 mg/kgの範囲に、且つ汚染土壌中の全炭素と全窒素の重量比を5〜10の範囲に調整することを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記汚染土壌が炭化水素で汚染された土壌であることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
更に、汚染土壌中の全炭素及び全カリウムの重量比を100:[6〜14]の範囲に調整することを特徴とする、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
更に、汚染土壌中の全カリウムの含有量を1,000〜5,000 mg/kgの範囲に調整することを特徴とする、請求項8に記載の方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2012−71255(P2012−71255A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−217930(P2010−217930)
【出願日】平成22年9月28日(2010.9.28)
【出願人】(593006630)学校法人立命館 (359)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年9月28日(2010.9.28)
【出願人】(593006630)学校法人立命館 (359)
【Fターム(参考)】
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