説明

土壌の還元消毒方法

【課題】 安全性や環境汚染などの点で問題の多い土壌殺菌剤や土壌殺虫剤等の薬剤を使用する必要がなく、経費のかかる土壌加熱装置や土壌加熱用具等を使用する必要がなく、しかも土壌環境に左右されることがなく、安全性、簡便性、汎用性、作業性および低コスト性に優れる土壌消毒方法およびそのための土壌消毒材の提供。
【解決手段】 小麦フスマ及び/又は末粉から主としてなる造粒物を土壌に混合して発酵させ、還元状態にすることにより土壌を消毒する方法、並びに前記造粒物よりなる土壌消毒材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、土壌の消毒方法およびそれに用いる土壌消毒材に関する。より詳細には、本発明は、土壌環境や土壌面積などに左右されずに、良好な取り扱い性および作業性で、安全に実施することのできる土壌の消毒方法およびそれに用いる土壌消毒材に関する。本発明の消毒方法による場合は、安全性や環境汚染などの点で問題の多い土壌殺菌剤、土壌殺虫剤などの薬剤を使用せずに、更には経費のかかる土壌加熱装置などの使用を省略可能にしながら、良好な作業性で土壌を消毒して、土壌中の有害な微生物、昆虫、小動物などを死滅、防除して、土壌環境を植物の健全な生育に適したものにすることができる。
【背景技術】
【0002】
植物の生育にとって有害な土壌中微生物、土壌中昆虫やその幼虫、小動物を防除するために、従来、土壌殺菌剤や土壌殺虫剤などの薬剤が多用されてきた。しかしながら、これらの薬剤は、人や人以外の動物、植物などに対して有害なものが多く、また環境汚染の問題などがあり、かかる点から代表的な土壌消毒剤である臭化メチルの全廃が決定されている。
【0003】
そこで、薬剤を用いる代わりに、土壌に未分解有機物を投入し、灌水して、土壌表面を被覆した状態で土壌に温湯を供給して土壌の消毒を行う方法が提案されている(特許文献1を参照)。しかしながら、この方法では、土壌に温湯を供給するためのパイプなどを設置する必要があり、そのため設備費が高くつき、低コストで簡単に土壌の消毒を行うことができない。しかも、温水供給管を設置した土壌部分しか消毒できず、消毒できる土壌の広さや地域などが限られ、広面積の土壌や任意域の土壌の消毒を行うことが困難である。
【0004】
また、米ぬか、ふすま及び糖質、並びに糸状菌及び細菌に対して抗菌活性を有する微生物を土壌中に混入した後、灌水処理を施して土壌病害を防除する方法が提案されている(特許文献2を参照)。しかしながら、この方法は糖質を必要とし、しかも適用し得る病害が特定のものに限られるため汎用性に欠ける。その上、この方法の実施に当たっては、米ぬか、ふすま、糖質、並びに糸状菌及び細菌に対して抗菌活性を有する微生物という少なくとも4種類の成分を使用する必要があり、そのため繁雑で作業性に劣り、しかもコストが高くなり易い。
【0005】
また、土壌中に有機物を投入して発酵させることによって、土壌中の有害微生物を駆除する方法が知られている。しかし、この方法においては、土壌中に投入した有機物の発酵が不十分であると有機物が分解されずに土壌中に残留し、それに伴って逆に病原菌などが増殖し、病害がむしろ拡大することが知られており、発酵が不十分になる原因として、土壌における低水分(水分不足)、土壌のアルカリ性化(高pH)などが指摘されている。
【0006】
【特許文献1】特開2003−265050号公報
【特許文献2】特許第2533828号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、有害で、しかも環境汚染の問題などのある土壌殺菌剤や土壌殺虫剤などの薬剤を使用せずに、また土壌に温水を供給するためのパイプなどの特別の設備を使用しなくても、良好な取り扱い性および作業性で、安全に、且つ低コストで土壌中の有害な微生物を防除できる土壌の消毒方法、およびそのための土壌消毒材を提供することである。
さらに、本発明の目的は、土壌環境による制約が少なく、例えば、低水分や高アルカリ性の土壌であっても、良好な作業性で、安全に、低コストで土壌中の有害な微生物を防除できる土壌の消毒方法、およびそのための土壌消毒材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成すべく本発明者らは鋭意検討を重ねてきた。その結果、小麦フスマおよび/または末粉を造粒物の形態にし、その造粒物を土壌に混合して嫌気的に発酵させることにより、土壌が還元状態になり(還元化され)、その還元消毒作用によって土壌中の有害な微生物が防除され、且つ未分解の有機物が土壌に残留する問題も生じないことを見出した。
さらに、本発明者らは、小麦フスマおよび/または末粉からなる造粒物の発酵に伴う前記した還元消毒は、土壌環境によってあまり左右されず、アルカリ性土壌や低水分の土壌においても、また高温下でも円滑に行われることを見出した。
また、本発明者らは、小麦フスマおよび/または末粉からなる造粒物は、造粒されていない小麦フスマや末粉などに比べて、流動性および取り扱い性に優れるため、前記した土壌の消毒を極めて優れた取り扱い性および作業性で円滑に行えることを見出し、それらの種々の知見に基づいて本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は、
(1) 小麦フスマおよび/または末粉から主としてなる造粒物を土壌に混合して発酵させ、還元状態にすることにより土壌を消毒することを特徴とする土壌の還元消毒方法である。
【0010】
そして、本発明は、
(2) 小麦フスマおよび/または末粉から主としてなる造粒物の最大サイズ部分の寸法が2〜25mmの範囲内で、最小サイズ部分の寸法が1〜15mmの範囲内である前記(1)の還元消毒方法;
(3) 小麦フスマおよび/または末粉から主としてなる造粒物を、土壌の質量に基づいて0.1〜5質量%の割合で土壌に混合して発酵させる前記(1)または(2)の還元消毒方法;および、
(4) 土壌の水分含量を20質量%以上にして発酵させる前記(1)〜(3)のいずれかの還元消毒方法;
である。
【0011】
さらに、本発明は、
(5) 小麦フスマおよび/または末粉から主としてなる造粒物よりなることを特徴とする土壌消毒材である。
【発明の効果】
【0012】
本発明の土壌消毒方法による場合は、小麦フスマおよび/または末粉から主としてなる造粒物が、土壌中で速やかに嫌気的に発酵・分解されて、土壌が還元状態になり(還元化され)、その還元消毒作用によって土壌中の有害な微生物などを防除することができる。
本発明の土壌消毒方法は、土壌環境によってあまり左右されず、アルカリ性土壌や低水分の土壌に対しても有効であり、しかも高温下でも円滑に実施でき、土壌中の有害な微生物などを良好に防除することができる。
本発明で用いる小麦フスマおよび/または末粉から主としてなる造粒物は、造粒されていない小麦フスマや末粉などに比べて、流動性および取り扱い性に優れるため、前記した土壌の消毒を極めて優れた取り扱い性および作業性で円滑に行うことができる。
【0013】
本発明で用いる小麦フスマおよび/または末粉から主としてなる造粒物は、動物用飼料などとして従来から用いられていて安全性に極めて優れている小麦フスマおよび/または末粉を用いて製造されたものであるため、本発明の消毒方法による場合は、安全性や環境汚染などの点で問題の多い土壌殺菌剤や土壌殺虫剤などの薬剤を使用せずに、また経費のかかる土壌加熱装置や土壌加熱用具など使用したり設置しない場合であっても、土壌の健全性を保ちながら、土壌の消毒を簡単に且つ安全に、低コストで行うことができる。
本発明の消毒方法を施した土壌では、土壌中の有害な微生物、昆虫、小動物などが死滅、防除されているので、植物を健全に生育させることができる。
本発明の消毒方法は、土壌に小麦フスマおよび/または末粉から主としてなる造粒物を土壌に混合するだけでよく、特別の設備や用具の使用を省略することが可能であり、そのため、土壌の種類や場所などに制約されず、任意の土壌に対して、例えば、畑、水田、公園、花壇、その他の現場の任意の土壌のある場所で、さらにはポットや苗床に充填して用いる土壌に対して、消毒処理を行うことができる。特に、本発明の消毒方法は、定期的に消毒が必要であるビニールハウスや温室中の土壌消毒に適している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に本発明について詳細に説明する。
本発明では、小麦フスマおよび/または末粉から主としてなる造粒物(以下「小麦フスマ等造粒物」ということがある)を土壌に混合して発酵させ、還元状態にすることにより土壌を消毒する方法である。
ここで、本発明における「土壌の消毒」とは、土壌中の有害な微生物、昆虫、小動物などを死滅させたり、衰退させて防除することを意味する。
本発明で用いる小麦フスマ等造粒物は、小麦粉を製造する際の副産物である小麦フスマおよび末粉のうちの少なくとも一方を主体する造粒物である。一般に、小麦フスマの方が末粉に比べて低価格で流通量も多いため入手が容易にあり、しかも含まれるミネラル分が多いことから、主として小麦フスマからなる造粒物であることが好ましい。
【0015】
小麦フスマ等造粒物では、小麦フスマおよび/または末粉の含有量(小麦フスマと末粉の両方を含有する場合は合計含有量)が、乾物換算で(小麦フスマ等造粒物中の水分0%として)50質量%以上であることが好ましく、60質量%以上であることがより好ましく、80質量%以上であることが更に好ましい。
小麦フスマ等造粒物において、小麦フスマおよび/または末粉の含有量が少ないと、小麦フスマ等造粒物を土壌に混合したときに、発酵が円滑に進行しにくい。
【0016】
小麦フスマ等造粒物は、小麦フスマおよび/または末粉を主体とする限りは、必要に応じて、澱粉質材料、骨粉、魚粉、フミン酸、廃糖蜜などの他の成分の1種または2種以上を少量成分として含有していてもよい。
【0017】
小麦フスマ等造粒物の水分含量は特に制限されないが、保存安定性(変質・腐敗防止)、取り扱い性(変形・崩壊防止)などの点から、小麦フスマ等造粒物の全質量に基づいて、水分含量が14質量%以下であることが好ましい。
また、小麦フスマ等造粒物の水分含量は、混合する土壌中の水分含量、混合後の給水の有無などに応じて調整することができる。但し、土壌に混合する時点での小麦フスマ等造粒物の水分含量が高すぎると、土壌への混合時に小麦フスマ等造粒物の崩壊が生じて土壌への混合(散布・混合)が円滑に行われなくなり、一方小麦フスマ等造粒物の水分含量が少なすぎると土壌中での小麦フスマ等造粒物の発酵が円滑に行われなくなる。
【0018】
本発明で用いる小麦フスマ等造粒物の形状としては、例えば、円柱形のペレット状、楕円体形のペレット状、角柱状、球状、立方体状などを挙げることができ、そのうちでも円柱形のペレット状であることが、製造の容易性などの点から好ましい。
また、小麦フスマ等造粒物は、多孔質構造を有していることが好ましく、多孔質構造であると土壌中でより速やかに発酵して、土壌の還元化(還元消毒)を促進することができる。
【0019】
小麦フスマ等造粒物の大きさは、その最大サイズ部分の寸法が2〜25mmの範囲内、特に3〜20mmの範囲内であり、最小サイズ部分の寸法が1〜15mmの範囲内、特に1〜10mmの範囲内であることが、小麦フスマ等造粒物の製造の容易性、小麦フスマ等造粒物の土壌への混合(散布)の容易性、土壌中での発酵のし易さ、土壌の還元化作用などの点から好ましい。
ここで、小麦フスマ等造粒物において、「最大サイズ部分」とは1個の小麦フスマ等造粒物における最もサイズの大きな部分(例えば造粒物の長さ、径、辺などのうちのサイズの最も大きな部分)をいい、また「最小サイズ部分」とは1個の小麦フスマ等造粒物における最もサイズの小さな部分(例えば造粒物の長さ、径、辺などのうちのサイズの最も小さな部分)をいう。例えば、小麦フスマ等造粒物が円柱形のペレットであるときに、ペレットの直径の方が長さよりも小さい場合は、「最大サイズ部分」はペレットの長さを、「最小サイズ部分」はペレットの直径を意味し、逆にペレットの直径の方が長さよりも大きい場合は、「最大サイズ部分」はペレットの直径を、「最小サイズ部分」はペレットの長さを意味する。
【0020】
小麦フスマ等造粒物の製法は特に制限されず、従来から用いられている造粒装置、例えば、押し出し式ペレットマシーン、エキスパンダー、エクストルーダーなどの押し出し式造粒装置;圧縮造粒装置;転動式造粒装置などを用いて製造することができる。そのうちでも、造粒工程または造粒後に水蒸気の添加や湿熱蒸煮処理などを行って造粒用原料または造粒物を高温で加熱すると共に造粒物の多孔質構造化をもたらす造粒方法が好ましく採用される。小麦フスマ等造粒物の製造に当たっては、造粒用原料として、小麦フスマおよび/または末粉と共に、必要に応じて、前記した澱粉質材料、骨粉、魚粉、フミン酸、廃糖蜜などの他の成分の1種または2種以上を用いることができる。
【0021】
特に、前記した高温での加熱を伴って製造された小麦フスマ等造粒物では、一般生菌に対する耐熱性菌(温度80℃で20分間加熱後に生存している菌)の含有割合が相対的に高くなっており、それによって該小麦フスマ等造粒物を土壌に混合して発酵させたときに、発酵温度が高くなっても菌が死滅することなく発酵が行われる。
【0022】
土壌への小麦フスマ等造粒物の混合量は、土壌の種類、pH、土壌の含水量、土壌中に含まれることが予想される有害微生物の種類、小麦フスマ等造粒物の成分組成、粒径、多孔構造の有無などに応じて異なり得るが、一般的には、土壌の質量(外部から水分を供給する前の土壌質量)に対して0.1〜5質量%であることが好ましく、0.5〜2質量%以上であることがより好ましい。
小麦フスマ等造粒物の混合量が少なすぎると、小麦フスマ等造粒物の土壌中での発酵の程度が低く、土壌の消毒が十分に行われにくい。一方、小麦フスマ等造粒物の混合量が多くなり過ぎると、コストの上昇などを招き、場合によっては発酵不良を生ずることがある。
【0023】
本発明では、土壌に小麦フスマ等造粒物を単独で混合してもよいし、更に微生物資材や他の成分を混合してもよい。小麦フスマ等造粒物と共に微生物資材を混合した場合は、小麦フスマ等造粒物の発酵がより促進されるため、土壌の還元化およびそれに伴う土壌の消毒を一層促進することができる。
その際の微生物資材としては、土壌に混合した小麦フスマ等造粒物を資化し得る能力を有していて、しかも土壌で生育させようとする植物に対して無害であり、人やその他の動物などに対しても無害で、土壌温度が上昇しても死滅しない微生物または該微生物を含有する資材であればいずれでもよい。
【0024】
そのうちでも、微生物資材としては、小麦フスマ等造粒物を資化することができ、且つ80℃の温度で20分間処理した後でも生存可能な無害な耐熱性菌を含有する資材、例えば該処理後でも前記耐熱性菌を微生物資材1g当たり107CFU(Coloni Forming Unit)以上の割合で含有している微生物資材が好ましく用いられる。
前記した耐熱性菌の例としては、バチルス・サブチルス(Bacillus subtilis)、バチルス・コアギュランス(Bacillus coagulans)、バチルス・ステアロサーモフィラス(Bacillus stearothermophilus)などのバチルス属微生物、サーモアクチノミセス・ブルガリス(Thermoactinomyces vulgaris)、サーモモノスポーラ・カーバラ(Thermomonospora curvara)などの好温・好熱性の放線菌、フミコーラ・インソケンス(Humicola insokens)、タラロマイセス・デユポンティ(Talaromyces dupontii)などの好熱性の糸状菌などを挙げることができる。微生物資材は、これらの耐熱性菌の1種または2種以上を含有することができる。前記した耐熱性菌は、微生物製剤等として市販されており、市販のものをそのまま用いてもよい。また、場合によっては、前記した耐熱性菌を培養増殖して用いてもよい。これらの耐熱性菌の多くは、小麦フスマ等造粒物を分解する能力が高く、余分な酸素を迅速に消費して、土壌の還元化を促進することができる。
【0025】
土壌に小麦フスマ等造粒物と共に微生物資材を混合する場合には、微生物資材の混合量は、土壌1kgに対して、前記した耐熱性菌の添加量が105CFU以上、特に106CFU以上になるような割合で用いることが好ましい。
ここで、本発明でいう耐熱性菌の前記したCFUの値は、微生物資材を80℃で20分間処理した後に、30℃の恒温槽内で標準寒天培地を用いて48時間培養したときの、コロニー数をいい、その具体的な測定に当たっては、以下の試験例2における「(2)耐熱性菌数の測定:」と同じ測定方法により行う。
【0026】
さらに、本発明の土壌消毒を行うに当たっては、小麦フスマ等造粒物と共に、必要に応じて、例えばバーミキュライト、パーライト、ゼオライト、ケイソウ土などの鉱物、土壌改良材、普通肥料、特殊肥料などを更に土壌に混合してもよい。
【0027】
本発明では、消毒の対象である土壌の種類は特に制限されず、例えば、通常の黒土、赤土、砂質土壌、粘土質土壌、それらの混合物からなる土壌、またpHでいうと、酸性土壌、中性土壌、アルカリ性土壌のいずれに対しても適用できる。
【0028】
土壌の消毒に当たっては、土壌中に十分な水分を含有させた状態で小麦フスマ等造粒物を発酵させると、小麦フスマ等造粒物の発酵が円滑に行われて土壌の還元化が促進される。しかし、本発明で用いる小麦フスマ等造粒物は、造粒していない小麦フスマに比べて、保水能力が高く、多量の水分を小麦フスマ等造粒物中に保持することができるので、通常よりも水分含量の少ない土壌(例えば水分含量が20〜30質量%の土壌)の消毒にも有効である。
かかる点から、本発明の消毒方法を実施するに当たっては、土壌の水分含量を20質量%以上、好ましくは25質量%以上、より好ましくは35質量%以上にするのがよい。
土壌の水分含量が元々多い場合は、水を加えずに、小麦フスマ等造粒物だけを混合するか、または小麦フスマ等造粒物と他の成分を混合して消毒処理を行うことができる。
また、土壌に水を加えて消毒を行う場合には、水分の供給は、小麦フスマ等造粒物を土壌に混合する前、混合と同時、または混合した直後のいずれの時点で行ってもよい。
なお、本明細書でいう「土壌の水分含量」とは、土壌の質量(元々の土壌の質量または給水後の土壌の質量)をW1、前記土壌を105℃で5時間乾燥したときの質量をW0としたときに、下記の数式(i)から求めた値をいう。

土壌の水分含量(質量%)={(W1−W0)/W1}×100 (i)
【0029】
土壌への小麦フスマ等造粒物の混合方法は特に制限されず、小麦フスマ等造粒物を土壌中に均一に混合し得る方法であればいずれの方法で行ってもよい。
【0030】
本発明による土壌の消毒は、畑地、水田、公園、花壇などのような土壌が元々ある場所(現場)に出向いて行うことができる。その場合には、土壌を耕運機、鍬などで耕すと同時に、土壌に小麦フスマ等造粒物を混合するか、または場合によっては小麦フスマ等造粒物と共に微生物資材などの他の成分を混合することにより、土壌への小麦フスマ等造粒物等の混合作業を簡便に行うことができる。
【0031】
また、本発明による土壌の消毒は、土壌が元々ある畑地などの現場ではなくて、別途予め用意しておいた採取土壌や調整土壌などに対しても行うことができる。
その場合には、本発明の方法で消毒した土壌は、土壌中に含まれていた有害な微生物、昆虫類などの生物が死滅したり低減していて、植物の生育用土壌として有効に使用することができるので、有害生物の防除済みの土壌として、適当な容器に充填して流通、販売することもできる。
【0032】
本発明による土壌消毒法では、発酵熱による温度上昇が見込めるため、土壌温度を上昇させるための特別な設備や部材などを用いずに行うことができる。しかし、場合によっては、消毒効果を高めるために、消毒期間中に温度上昇策を講ずることもできる。例えば、発酵熱の見込めない場合に、ビニールハウスの閉め切りやシート被覆などの太陽熱による温度上昇策などを採用することが好ましい。
土壌温度が40℃以上であると、本発明による土壌消毒をより効果的に行うことができる。
【実施例】
【0033】
以下に実施例などにより本発明について具体的に説明するが、本発明は以下の例により何ら限定されるものではない。
【0034】
《製造例1》[小麦フスマペレットの製造]
市販の精選小麦フスマ(日清製粉株式会社製)200kgに、飽和水蒸気を5kg/hrの割合で吹き込みながら混合したものをペレットマシーン(上田鉄鋼株式会社製「PM−200」)に供給し、孔径3mmのダイスからストランド状に押し出した後、長さ約10mmに切断して、直径約3.2mm、長さ約10mmの円柱形の小麦フスマ造粒物(ペレット)にし、これを乾燥して小麦フスマペレット(水分含量13.4質量%)を製造した。
【0035】
《試験例1》[水分保持能力の測定]
(1) 上記の製造例1で製造した小麦フスマペレットおよび製造例1で用いた市販の精選小麦フスマ(日清製粉株式会社製)(未造粒)のそれぞれを約5gずつ採取し、それぞれを、下部に穴(孔径1mm)が約2mm間隔であいた容器(直径60mm)に入れ、容器の下に水分を含ませた布または紙を敷き、容器の穴を通して小麦フスマペレットおよび小麦フスマのそれぞれに吸水させた。十分に吸水させた後、下記の数式(ii)により吸水直後の水分含量を測定した。その結果を下記の表1に示す。

吸水直後の水分含量(質量%)={(Wa−Wb)/Wa}×100 (ii)

[式中、Waは上記した吸水直後の試料の質量(g)、Wbは吸水直後の試料を105℃で5時間乾燥させた時の質量(g)を示す。]

(2) 上記(1)で吸水させた試料を、25℃で48時間風乾させた後(非吸水性のプラスチックシート上に5〜10mmの厚さに広げた状態で風乾)、下記の数式(iii)により風乾直後の水分含量を測定した。その結果を下記の表1に示す。

風乾直後の水分含量(質量%)={(Wc−Wd)/Wc}×100 (iii)

[式中、Wcは25℃で48時間風乾させた試料の質量(g)、Wdは前記風乾させた試料を105℃で5時間乾燥させた時の質量(g)を示す。]
【0036】
【表1】

【0037】
上記の表1にみるように、小麦フスマペレットは、造粒していない小麦フスマに比べて、25℃で48時間風乾した後の水分含量が高く、水分の保持能力に優れている。このことは、土壌中の水分含量が低くて発酵が行われにくい土壌環境であっても、小麦フスマ造粒物自体の水分保持能力が高いことにより、土壌に混合したときには、未造粒の小麦フスマを土壌に混合した場合に比べて、発酵が行われ易く、それによって土壌の還元消毒がより行われ易いことを裏付けている。
【0038】
《試験例2》[耐熱性菌の含有割合]
(1)一般生菌数の測定:
(i) 製造例1で製造した小麦フスマペレット2gを採取し、滅菌水18mlで混釈した後、微生物菌数に応じて1万倍まで希釈した(平板希釈法)。次いで、希釈液を細菌数測定用培地[3M製「Petrifilm」(登録商標)]に塗沫し、30℃の恒温槽内で2日間培養し、培地上のコロニー数を数えて、小麦フスマペレット1g当たりの一般生菌数とした。その結果を下記の表2に示す。
(ii) 製造例1で使用したのと同じ市販の精選小麦フスマ(未造粒)2gを採取し、滅菌水18mlで混釈した後、微生物菌数に応じて上記(i)と同じようにして1000倍まで希釈した。次いで、希釈液を上記(i)と同様に2日間培養し、培地上のコロニー数を数えて、小麦フスマ1g当たりの一般生菌数とした。その結果を下記の表2に示す。
【0039】
(2)耐熱性菌数の測定:
(i) 製造例1で製造した小麦フスマペレット2gを採取し、滅菌水18mlで混釈した後、微生物菌数に応じて100倍まで希釈した(平板希釈法)。次いで、希釈液を80℃で20分間加熱処理した後、細菌数測定用培地[3M製「Petrifilm」(登録商標)]に塗沫し、30℃の恒温槽内で2日間培養し、培地上のコロニー数を数えて、小麦フスマペレット1g当たりの耐熱性菌数とした。その結果を下記の表2に示す。
(ii) 製造例1で使用したのと同じ市販の精選小麦フスマ2gを採取し、滅菌水18mlで混釈した後、微生物菌数に応じて上記(i)と同じようにして100倍まで希釈した。次いで、希釈液を80℃で20分間加熱処理した後、細菌数測定用培地[3M製「Petrifilm」(登録商標)]に塗沫し、30℃の恒温槽内で2日間培養し、培地上のコロニー数を数えて、小麦フスマ1g当たりの耐熱性菌数とした。その結果を下記の表2に示す。
【0040】
【表2】

【0041】
上記の表2にみるように、未造粒小麦フスマでは一般生菌数に対する耐熱性菌数の割合が1.2%と低いのに対して、製造例1で得られた小麦フスマペレットは一般生菌数に対する耐熱性菌数の割合が11.0%であり、耐熱性菌の割合が相対的に高くなっている。製造例1で得られた小麦フスマペレットでは、耐熱性菌の割合が相対的に高いことにより、高温下でも、小麦フスマペレットの発酵・分解が速やかに開始されて、土壌が速やかに還元消毒されることが予想される。
【0042】
《実施例1》[通常の水分含量の土壌での発酵]
(1)(i) 蓋付きのプラスチック容器(容量250ml)に、黒土100gを入れ、そこに製造例1の小麦フスマペレット1g(1質量%)を添加して均一に混合した後、加水して、水分含量が38.0質量%(ビニールハウス内の土壌の通常の水分含量に相当)である小麦フスマペレット含有加水黒土混合物(以下単に「黒土混合物」ということがある)を調製した。
(ii) 上記(i)調製した黒土混合物をプラスチック容器ごと温度50℃のインキュベーターに入れて(夏期に閉め切ったビニールハウス内の温度に相当)、16日間にわたって発酵させた。前記発酵中にプラスチック容器内の黒土混合物を経時的に採取し(当初、1日後、3日後、5日後、8日後および16日後に採取)、採取した黒土混合物の酸化還元電位(Eh)を以下の方法で測定した。その結果を下記の表3に示す。
(2) 小麦フスマペレットの代わりに製造例1で使用したのと同じ市販の精選小麦フスマ(未造粒)を使用した以外は、上記(1)の(i)と同様にして小麦フスマ含有加水黒土混合物を調製し、それを上記(1)の(ii)と同様にして発酵させ、発酵中に黒土混合物の一部を経時的に採取し(当初、1日後、3日後、5日後、8日後および16日後に採取)、採取した黒土混合物の酸化還元電位(Eh)を以下の方法で測定した。その結果を下記の表3に示す。
【0043】
[黒土混合物の酸化還元電位(Eh)の測定]
採取した黒土混合物はそのままでは酸化還元電位(Eh)の測定が困難であったので、採取した黒土混合物1質量部に対して水1.6質量部を混合し、その混合物の酸化還元電位(Eh)をpH測定装置(東亜ディーケーケー株式会社製「pHメーターHM−50S」)と「酸化還元電極」(東亜ディーケーケー株式会社製「PTS−5011C」)を用いて測定した。
【0044】
【表3】

【0045】
上記の表3の結果にみるように、小麦フスマペレットを混合した黒土混合物の方が、未造粒の小麦フスマを混合した場合に比べて、早く酸化還元電位(Eh)が低下し、土壌が還元化(還元消毒)されることがわかる。
【0046】
《実施例2》[低水分含量の土壌での発酵]
(1)(i) 蓋付きのプラスチック容器(容量250ml)に、黒土100gを入れ、そこに製造例1の小麦フスマペレット1g(1質量%)を添加して均一に混合した後、加水して、水分含量が26.8質量%の小麦フスマペレット含有加水黒土混合物(黒土混合物)を調製した。
(ii) 上記(i)調製した黒土混合物をプラスチック容器ごと温度50℃のインキュベーターに入れて8日間にわたって発酵させた。前記発酵中に黒土混合物を経時的に採取し(当初、1日後、3日後、5日後および8日後に採取)、実施例1と同様にして採取した黒土混合物の酸化還元電位(Eh)を測定したところ、下記の表4に示すとおりであった。
(2) 小麦フスマペレットの代わりに製造例1で使用した市販の精選小麦フスマ(未造粒)を使用した以外は、上記(1)の(i)と同様にして小麦フスマ含有加水黒土混合物を調製し、それを上記(1)の(ii)と同様にして発酵させ、発酵中に黒土混合物を経時的に採取し(当初、1日後、3日後、5日後および8日後に採取)、採取した黒土混合物の酸化還元電位(Eh)を実施例1と同様にして測定したところ、下記の表4に示すとおりであった。
【0047】
【表4】

【0048】
上記の表4の結果にみるように、水分含量の低い土壌では、未造粒小麦フスマを混合した場合には、土壌の酸化還元電位(Eh)の低下が小さい。
それに対して、小麦フスマペレットを用いた場合は、土壌の水分含量が低い場合であっても、土壌の酸化還元電位(Eh)がより早い時期に低下している。
かかる結果から、小麦フスマ等造粒物(小麦フスマペレットなど)を土壌に混合して土壌の消毒を行う本発明の方法による場合は、土壌中の水分が少ない場合であっても、土壌中で発酵が早期に進行して、土壌の還元消毒がなされることがわかる。
【0049】
《実施例3》[高アルカリ性土壌中での発酵]
(1)(i) 蓋付きのプラスチック容器(容量250ml)に、黒土100gを入れた後、消石灰を添加して土壌をアルカリ性(pH10.3)にし、そこに製造例1の小麦フスマペレット1g(1質量%)を添加して均一に混合した後、加水して、水分含量が38.0質量%である小麦フスマペレット含有加水黒土混合物(黒土混合物)を調製した。なお、土壌のpHは、前記黒土混合物の一部を採取し、該採取した土壌1質量部に対して水1.6質量部を混合し、その混合物のpHを前記したpH測定装置(東亜ディーケーケー株式会社製「pHメーターHM−50S」)を用いて測定した。
(ii) 上記(i)調製した黒土混合物をプラスチック容器ごと温度50℃のインキュベーターに入れて8日間にわたって発酵させた。前記発酵中に黒土混合物を経時的に採取し(当初、1日後、3日後、5日後および8日後に採取)、実施例1と同様にして採取した黒土混合物の酸化還元電位(Eh)を測定したところ、下記の表5に示すとおりであった。
(2) 小麦フスマペレットの代わりに製造例1で使用した市販の精選小麦フスマ(未造粒)を使用した以外は、上記(1)の(i)と同様にして小麦フスマ含有加水黒土混合物を調製し(土壌のpH10.3)、それを上記(1)の(ii)と同様にして発酵させ、発酵中に黒土混合物を経時的に採取し(当初、1日後、3日後、5日後および8日後に採取)、採取した黒土混合物の酸化還元電位(Eh)を実施例1と同様にして測定したところ、下記の表5に示すとおりであった。
【0050】
【表5】

【0051】
上記の表5の結果にみるように、高アルカリ性の土壌では、未造粒小麦フスマを混合した場合に、土壌の酸化還元電位(Eh)の低下が小さく、土壌中での小麦フスマの発酵が早期に進行しない。
それに対して、小麦フスマペレットを用いる本発明の方法による場合は、高アルカリ性の土壌においても、土壌の酸化還元電位(Eh)が速やかに低下している。
かかる結果から、小麦フスマ等造粒物を用いる本発明の土壌の消毒方法による場合は、土壌が高アルカリ性であっても、発酵が早期に円滑に行われて、土壌の還元消毒がなされることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明の土壌の消毒方法は、土壌殺菌剤や土壌殺虫剤などの薬剤を使用せずに、安全性に優れる小麦フスマおよび/または末粉をベースとする小麦フスマ等造粒物を用いて、土壌中の有害な微生物、昆虫、小動物などを防除できるので、安全性、簡便性、低コスト性に優れる土壌の消毒方法として有用である。
本発明の土壌の消毒方法は、土壌環境に左右されることが少なく、例えば、水分含量の少ない土壌、アルカリ性土壌などにおいても適用できるので、汎用性に優れる土壌の消毒方法として有用である。
本発明の消毒方法は、流動性および取り扱い性に優れる小麦フスマ等造粒物を土壌に単に混合して発酵させるだけでよく、特別の設備や用具の使用を省略でき、しかも土壌の種類や広さ、土壌の量、被処理土壌のある場所などを問わないため、かかる点からも汎用性および簡便性に優れる土壌の消毒方法として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
小麦フスマおよび/または末粉から主としてなる造粒物を土壌に混合して発酵させ、還元状態にすることにより土壌を消毒することを特徴とする土壌の還元消毒方法。
【請求項2】
小麦フスマおよび/または末粉から主としてなる造粒物の最大サイズ部分の寸法が2〜25mmの範囲内で、最小サイズ部分の寸法が1〜15mmの範囲内である請求項1に記載の還元消毒方法。
【請求項3】
小麦フスマおよび/または末粉から主としてなる造粒物を、土壌の質量に基づいて0.1〜5質量%の割合で土壌に混合して発酵させる請求項1または2に記載の還元消毒方法。
【請求項4】
土壌の水分含量を20質量%以上にして発酵させる請求項1〜3のいずれか1項に記載の還元消毒方法。
【請求項5】
小麦フスマおよび/または末粉から主としてなる造粒物よりなることを特徴とする土壌消毒材。

【公開番号】特開2006−61003(P2006−61003A)
【公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−243497(P2004−243497)
【出願日】平成16年8月24日(2004.8.24)
【出願人】(301049777)日清製粉株式会社 (128)
【Fターム(参考)】