説明

土壌中の化学物質測定方法及び装置

【課題】 土壌の間隙水中に含まれる金属イオン等の化学物質を、電極反応により原位置で簡便かつ連続的に検出・定量する測定手法及び装置の提供。
【解決手段】 土壌の間隙水中に存在する、測定対象となる化学物質において、その酸化または還元反応に伴い生じる酸化還元電流が、当該間隙水中の化学物質濃度に比例することを用い、測定対象の化学物質を含む土壌中に導電性の電極を配置し、この電極の電位を、この土壌の間隙水中に含まれる当該化学物質の酸化反応の平衡電位より貴な電位、または還元反応の平衡電位より卑な電位に保ち、そのとき当該電極表面で進行する酸化または還元反応に伴い生じる酸化または還元電流を測定することにより、当該化学物質を検出しその濃度を定量する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、土壌中の間隙水中に含まれる金属イオン等の化学物質測定方法及び装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
土壌中の金属成分の分析は各方面で検討され、以下の開発が行われてきた。
土壌中に含まれる侵入要素に、溶媒を導入させる要素、侵入液を通した状態で電圧差を測定することにより化学成分を検出するシステムが知られている(特許文献1)。
又抽出液からイオン透過膜により抽出する電気透析することも知られている(特許文献2)。
土壌中に含まれる金属イオン濃度を定量する方法として、土壌を採取した後、目的とする金属イオンを化学的に抽出しうる抽出剤を加えた水溶液中にこれを分散させ、この金属イオンを水溶液中に抽出・溶解させた後、この水溶液を湿式分析やイオンセンサー、イオンクロマトグラフ等を用いる機器分析により金属イオンの分析を行う手法が通常、広く用いられていた。かかる従来例として、水酸化バリウム水溶液を用いてカリウム、カルシウム、マグネシウム濃度を測定する手法がある(特許文献3)。
この手法はまず、分析する土壌を採取し水酸化バリウム水溶液中に分散させ、往復振とう機により振とうした後、遠心分離、濾過し、土壌中のカリウム、カルシウム、マグネシウムイオンを抽出した抽出液を作成する。さらにこの抽出液に硫酸水溶液を加え、中和すると共に水溶液中のバリウムイオンを難溶性の硫酸バリウムとして析出させ濾過し、水溶液中のバリウムを除去したカリウム、カルシウム、マグネシウムイオン水溶液とする。これをマルチイオンメータで測定し、カリウム、カルシウム、マグネシウム濃度を同時に測定するものである。
又、複数個の土壌サンプルからイオン化成分を抽出する成分を抽出して、イオン化成分を測定する自動化装置が開発されている(特許文献4、5)。
【0003】
上記のように土壌中の金属イオン濃度を測定する際に、サンプルを採取して水溶媒抽出してこれを測定する際に自動化を行うにしても大掛かりな装置であり、多くの工程を経て測定されるものとなっている。このようなことから土中に水を供給してセンサーを挿入しイオン濃度を検出することも知られている(特許文献6)。
これは土壌中にセンサーを挿入して測定をおこなうものの、土壌に注水するため土壌の間隙水中の化学物質濃度をそのまま定量するものではなく、また、測定対象は所謂土壌の肥沃さなどを対象とする測定対象物質に限られる。
【0004】
近年、土壌汚染の拡大及び深刻化に伴い、土壌の間隙水中に含まれる重金属イオン等の有害な化学物質を検出・定量し、その汚染状況を評価・監視することに対する需要が増大している。また、放射性廃棄物の地層処分技術において、地下処分場は還元性の雰囲気に管理されることが必要である(非特許文献1)。処分場が還元性環境にあることを確認する一つの方法として、この処分場内部に充填される粘土(ベントナイト)の間隙水中に含まれ、酸化状態により濃度が変化する金属イオン(鉄イオン等)の濃度を測定して評価する測定技術の開発が要求され、期待されている。
【特許文献1】特開2−203264号公報
【特許文献2】特開4−34362号公報
【特許文献3】特開平11−37996号公報
【特許文献4】特開2000−55909号公報
【特許文献5】特開2000−55910号公報
【特許文献6】特開平10−14402号公報
【非特許文献1】“わが国における高レベル放射性廃棄物地層処分の技術的信頼性−地層処分研究開発第2次取りまとめ−総論レポート”、核燃料サイクル開発機構、IV−19(1999)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、土壌の間隙水に含まれる金属成分の検出に関し、また、特定条件下に汚染された土壌の間隙水に含まれる金属成分の検出に関し、土壌中にセンサーを直接挿入することにより土壌の間隙水に含まれる金属成分の検出・定量する手法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、土壌中で、複数の物質が存在し、特定の物質の個々の状況を分析することは困難であると予想されるにもかかわらず、土壌の間隙水に注目し、土壌の間隙水中に含まれる重金属イオン等の有害な化学物質を検出・定量する場合、及び処分場が還元性環境にあることを確認する際に、この処分場内部に充填される粘土(ベントナイト)の間隙水中に含まれ、酸化状態により濃度が変化する金属イオン(鉄イオン等)の濃度を測定する場合には、基準電極を囲んで、導電性の電極(測定用電極8)及び対極7が設けられている検出手段を組み立てて、測定対象の化学物質の酸化還元反応に伴う酸化還元電流を測定すると、土壌の間隙水の化学物質濃度に比例するということを新たに見出した。
【0007】
具体的には、土壌の間隙水を含む土壌中に基準電極を囲んで、導電性の電極(測定用電極)及び対極が設けられている検出手段を配置し、この電極の電位を、この土壌の間隙水中で含まれる化学物質の酸化電位より貴な電位、または還元電位より卑な電位に保ち、そのとき当該電極表面で進行する酸化または還元反応に伴い生じる酸化または還元電流を測定することにより、当該化学物質を検出し、その濃度を定量することを見出した。
【0008】
また、前記の場合に測定対象とする化学物質以外にも複数の化学物質が存在する場合には、それぞれの化学物質の酸化・還元反応が異なる電位で進行することに着目し、この複数の化学物質を含む土壌中に導電性の電極を配置し、この電極の電位を自然電位より貴方向に、測定対象とする化学物質の酸化電位より貴な電位まで上昇させてこのとき当該電極表面に生じる酸化電流を測定し、この測定対象とする化学物質の酸化電位より貴な電位領域における電流より、当該酸化電位以下かつ当該酸化電位傍における酸化電流を減じ、この差に相当する電流値から当該測定対象とする化学物質を検出し濃度を定量するか、或いはこの電極の電位を自然電位より卑方向に、測定対象とする化学物質の還元電位より卑な電位まで降下させてこのとき当該電極表面に生じる還元電流を測定し、この測定対象とする化学物質の還元電位より卑な電位領域における電流から、当該還元電位以下かつ当該還元電位傍における還元電流を減じ、この差に相当する電流値から当該測定対象とする化学物質を検出し濃度を定量することができることを見出した。
【0009】
又、土壌の間隙水中に含まれる重金属イオン等の有害な化学物質を検出・定量する場合、及び処分場が還元性環境にあることを確認する際に、この処分場内部に充填される粘土(ベントナイト)の間隙水中に含まれ、酸化状態により濃度が変化する金属イオン(鉄イオン等)の濃度を測定する場合には、測定対象の化学物質を含む土壌中に、導電性の電極を配置し、この電極の電位を、この土壌の間隙水中に含まれる当該化学物質の酸化電位より貴な電位、または還元電位より卑な電位に保ち、そのとき当該電極表面で進行する酸化または還元反応に伴い生じる酸化または還元電流を測定することにより、当該化学物質を検出し濃度を定量することができる化学物質測定装置が提供できることを見出した。
【0010】
又、土壌の間隙水中に含まれる重金属イオン等の有害な化学物質を検出・定量する場合、及び処分場が還元性環境にあることを確認する際に、この処分場内部に充填される粘土(ベントナイト)の間隙水中に含まれ、酸化状態により濃度が変化する金属イオン(鉄イオン等)の濃度を測定する場合に、複数の化学物質を含む土壌中に導電性の電極を配置し、この電極の電位を自然電位より貴方向に、測定対象とする化学物質の酸化電位より貴な電位まで上昇させてこのとき当該電極表面に生じる酸化電流を測定し、この測定対象とする化学物質の酸化電位より貴な電位領域における電流より、当該酸化電位以下かつ当該酸化電位傍における酸化電流を減じ、この差に相当する電流値から当該測定対象とする化学物質を検出し濃度を定量するか、或いはこの電極の電位を自然電位より卑方向に、測定対象とする化学物質の還元電位より卑な電位まで降下させてこのとき当該電極表面に生じる還元電流を測定し、この測定対象とする化学物質の還元電位より卑な電位領域における電流から、当該還元電位以下かつ当該還元電位傍における還元電流を減じ、この差に相当する電流値から当該測定対象とする化学物質を検出し濃度を定量する化学物質測定装置が提供できることを見出した。
【発明の効果】
【0011】
本発明の方法及び装置によれば、土壌中の間隙水中に含まれる金属イオン等の化学物質を、電極反応を利用して土壌中の測定しようとする原位置に電極を固定し、連続的に検出・定量することができる。具体的には、土壌中の測定しようとする原位置に電極を固定し測定し、連続的に検出・定量することができる。測定装置として電極を固定したことにより一定の条件下に土壌中の状態として均一な測定をおこなうことができる。土壌の間隙水中に含まれる重金属イオン等の有害な化学物質を検出・定量し、その汚染状況を評価・監視するために使用できる。また、放射性廃棄物の地層処分技術において、この処分場内部に充填される粘土(ベントナイト)の間隙水中に含まれ、酸化状態により濃度が変化する金属イオン(鉄イオン等)の濃度を測定することにより処分場が還元性環境にあることを確認することに適用できる。
また、土壌(砂、粘土等も含む)のほか、水溶液を含む汚泥、粉体試料等の内部に検出器本体を埋設して使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明について詳細に説明する。
図1は、一成分の化学物質の測定装置を説明する図を示す。
本発明の測定装置は、検出器本体6の内部を貫通して基準電極5が設けられており、その一方の端部には基準電極5を囲んで、導電性の電極(測定用電極8及び対極7が設けられている検出手段、基準電極5と目的の電位に保ち、電極表面に流れる酸化・還元電流を測定する電源及び信号処理装置2を結線する導線1により構成される測定手段から構成される。
同図では検出器は円筒状になっており、内部の空洞に基準電極が配置されているが、基準電極は検出器外部の測定用電極近傍に配置されてもよい。
この構成とは逆に測定用電極及び対極、或いはそのいずれか一方のみが検出器の円筒内面に配置されてもよい。この際、基準電極は円筒型検出器の内部、外部のいずれにおかれてもよい。
電極表面に流れる酸化・還元電流を測定する電源及び信号処理装置2は、さらに、記録手段によって測定結果を記録することができる。
検出器本体6は電気絶縁性の材料で構成される。
測定に際しては、この基準電極の先端、及び測定用電極、対極は同図に示すように、土壌9中に挿入される。同図では検出器は円筒状になっており、内部の空洞に基準電極が配置されているが、基準電極は検出器外部の測定用電極近傍に配置されてもよい。
【0013】
図4は、二成分の化学物質を測定する測定装置を説明する図を示す。
本発明の測定装置は、検出器本体6の内部を貫通して基準電極5、14が設けられており、その一方の端部には基準電極5、基準電極B14を囲んで、導電性の電極(測定用電極8及び対極7)及び導電性の電極(測定用電極B15及び対極B13)が設けられている検出手段、基準電極5と目的の電位に保ち、電極表面に流れる酸化・還元電流を測定する電源及び信号処理装置2を結線する導線1により構成される測定手段、基準電極B14と目的の電位に保ち、電極表面に流れる酸化・還元電流を測定する電源及び信号処理装置10を結線する導線1により構成される測定手段から構成されている。
この構成とは逆に測定用電極及び対極、或いはそのいずれか一方のみが検出器の円筒内面に配置されてもよい。この際、基準電極は円筒型検出器の内部、外部のいずれにおかれてもよい。
電極表面に流れる酸化・還元電流を測定する電源及び信号処理装置2は、さらに、記録手段によって測定結果を記録することができる。
検出器本体6は電気絶縁性の材料で構成される。
測定に際しては、この基準電極の先端、及び測定用電極、対極は同図に示すように、土壌9中に挿入される。同図では検出器は円筒状になっており、内部の空洞に基準電極が配置されているが、基準電極は検出器外部の測定用電極近傍に配置されてもよい。
【0014】
ここで言う間隙水とは土壌中に存在する吸着水及び自由水を示している。吸着水は土壌溶液とも呼ばれ、土壌を構成する粒子間に毛管力、吸着力(土壌粒子−水分子間の分子間力や土壌粒子の荷電と双極子としての水の間に働く静電気力等に起因する)によりゆるく結合し保有される水である。自由水は土壌粒子とは結合・吸着していない水で、土壌構造内にできた割れ目など比較的大きな隙間に存在する水である。土壌粒子の結晶構造中に含まれる結晶水、沸石水等は含まない。本発明はこの吸着水・自由水中に溶解する化学物質を測定の対象とするものである。金属イオン等の可溶な化学物質はこの中に溶解しており、また、土壌粒子に固体として含まれる化学物質も平衡濃度としてこの中に溶出すると思われるので、上記間隙水中の化学物質濃度を測定することによりこの土壌の汚染状況を把握することができると考えられる。
【0015】
土壌の間隙水に含まれ得る土壌中の成分としては、以下の成分が測定対象となる。
R(酸化を受ける化学物質の意味である)としては、金属及び、その金属化合物イオンとして、Co2+、Ag+、Mn2+、Tl+、Hg22+、Sn2+、Cu+、Tl+、Cr2+、U3+、等が、金属化合物以外のイオンとしてCl-、ClO3-、Br-、CNS-、I-、SO32-、CN-、等がある。
また、電荷を持たない溶存分子としてI2、H2O2、H2、等がある。
O(還元を受ける化学物質の意味である)としては、金属及び、その金属化合物イオンとして、Mn3+、MnO4-、Au3+、Cl2、Cr2O7-、PdCl62-、AuCl4-、Pd2+、Hg2+、Ag+、PtCl42-、PtCl62-、PdCl42-、UO2+、BrO3-、Cu+、Cu2+、Sn4+、Co(NH3)63+、UO22+、Sn2+、Pb2+、Ni2+、V3+、Co2+、Tl+、In3+、Cd2+、Cr3+、Fe2+、Ga3+、U4+、Zn2+、Cd(CN)42-、Mn2+、Zr4+、Ti2+、Al3+、等がある。金属化合物以外のイオンとしてClO3-、ClO3-、ClO4-、IO3-、ClO2-、I3-、ClO4-、NO3-、SO32-、SO42-、AsO2-、等がある。また、電荷を持たない溶存分子としてCl2、Br2、O2、H2O2、I2、CO2、等がある。
【0016】
測定に当たっては、この測定用電極が基準電極に対し、電源及び信号処理手段により、測定対象とする化学物質の酸化電位より貴な電位または還元電位より卑な電位に保たれる。
この時の電位は電圧計4で測定され、監視される。この際、電極表面には式(1)のような酸化反応、及び式(2)のような還元反応が進行し、それぞれ式(3)、及び式(4)に示すような、電極表面の化学物質濃度に比例した電流が生じ、対極との間に電流が流れる。
R → R+ + e- (1)
O + e- → O- (2)
I1=AC1・exp{B(E-E1)/KT} (3)
I2=DC2・exp{-G(E-E2)/KT} (4)
ここに、Rは前記酸化を受ける化学物質、Rは前記その酸化により生成した化学物質、Oは還元を受ける化学物質、O-はその還元により生成した化学物質である。上記の化学物質には、各種イオンのほか、水中に溶解しているH2O2、O2、H 2等の本来電荷を持たない化学種も含まれる。
また、I1は上記式(1)の酸化反応により電極表面に発生する電流、A、Bは定数、C1は電極表面におけるRの濃度、Eは電極電位、E1は式(1)の反応に対する平衡電位(酸化電位)、Kは気体定数、Tは温度である。また、I2は上記式(2)の還元反応により電極表面に発生する電流、D、Gは定数、C2は電極表面におけるOの濃度、Eは電極電位、E2は式(2)の反応に対する平衡電位(還元電位)である。
【0017】
従って、式(1)の酸化反応においてはその平衡電位においては電流が生じず、またこの平衡電位では式(1)の逆反応も進行しているが、電極電位をこれより十分貴にすると、式(1)の酸化反応のみが支配的となり、式(2)に示す電極表面の化学物質濃度に比例した電流が流れるようになる。この電流を電流計3で測定することにより土壌の間隙水中の化学物質濃度を検出・定量することが可能になる。また、電極電位を貴にするほど電流は大きくなって高感度で測定をすることが可能になる。この模様を模式的に図2に示した。同図において、平衡電位をV1で示してある。なお、電極電位が平衡電位より極めて高い(貴な)場合、電流は式(2)に示す電極反応ではなく、間隙水内部から電極表面に化学物質が拡散する速度によって支配されるようになるため、電流は電極電位に依存せず一定になる場合があるが、この拡散速度は間隙水中の化学物質濃度に比例するため、この場合もこの電位領域の電流から、化学物質濃度を測定することができる。
【0018】
同様に、式(2)の還元反応においては、電極電位を式(2)の反応の平衡電位より卑にすると、電極表面の化学物質濃度に比例した電流が流れるようになり、この電流を測定することにより土壌の間隙水中の化学物質濃度が検出・定量される。また、電極電位を卑にするほど電流は大きくなって高感度で測定をすることが可能になる。
【0019】
式(1)の酸化反応では、例えば式(5)、式(6)の反応により、間隙水中のI-イオンやSn2+イオンが検出・定量できる。
2I- → I2 + 2e- (5)
Sn2+ → Sn4+ + 2e- (6)
また、式(2)の還元反応では、例えば式(7)、式(8)の反応により、間隙水中のFe2+イオンやO2が検出・定量できる。
Fe2+ + 2e- → Fe (7)
O2 + 2H2O + 4e- → 4OH- (8)
【0020】
土壌の間隙水中に、測定対象の化学物質以外に複数の化学物質が含まれる場合、それぞれの化学物質に対し、その酸化反応の平衡電位が卑である順に式(1)に相当する酸化反応が進行し、式(3)に相当する酸化電流が流れる。
この模様を模式的に図3に示す。同図は最も卑な平衡電位を持つ化学物質1(平衡電位:V1)、次に卑な平衡電位を持つ化学物質2(平衡電位:V2)、最も貴な平衡電位を持つ化学物質3(平衡電位:V3)が間隙水中に存在する例を示すものである。
この場合、電極電位がV1においては電流が流れない(複数の化学物質が存在する場合、この電流が流れない電位V1は自然電位と呼ばれる)が、これより貴な電位とすると同図に示す如く酸化電流が流れるようになる。この電流は式(3)に従い増大し、電極電位がV2に達すると化学物質2による酸化反応も進行して同図の様にこの反応による電流も加わり、測定電流は増大する。
同様に電位がV3に達するとこの最も貴な平衡電位を持つ化学物質3の酸化反応による電流も加わり、測定電流は増大する。測定対象物質が化学物質2の場合には電流を測定しながら電位をV1より上昇させ、電位がV2に達したときの電流I2を測定する。さらに電位を上昇させ、このときの測定電流IをIとすると、V2とV3の間の電位領域においてはIとI2との差I-I2が式(3)に従うので、この値を求めることにより、間隙水中の測定対象化学物質濃度を検出・定量することができる。上記は酸化反応に基づき説明したが、これは還元反応においても同様に適用できる。
【0021】
図1の検出器本体は、好適にはシリカ、アルミナ、ジルコニア、チッ化珪素等のセラミック或いはポリエチレン樹脂、フッ素樹脂、塩化ビニール樹脂、アクリル樹脂等の樹脂で製作されるが、これはガラス、岩石など、他の絶縁性に優れた材料を使用して製作することも可能である。導線には金属、導電性樹脂、炭素材料等、好適には銅、金、銀、白金、カーボンファイバー等が用いられるが、これは導電性に優れたこれ以外の材料で製作することも可能である。導線の表面は絶縁のため、絶縁性材料で被覆される。好適にはガラス、或いはフッ素樹脂等の樹脂が用いられるが、これは絶縁性に優れた他の材料でも良い。測定用電極、対極には、好適には、金、白金、銀等の貴金属が用いられるが、これは銅、鉄、ニッケル、アルミニウム、亜鉛、鉛、チタン等の他の導電性金属、ステンレス鋼等の鉄鋼、真ちゅうなど導電性の合金で製作しても良い。またこの他、グラファイト等の炭素材料や、導電性高分子を用いることも可能である。基準電極には好適には硫酸銅電極(Cu/CuSO4)、甘こう電極、塩化銀電極(Ag/AgCl)、臭化銀電極(Ag/AgBr)、ヨウ化銀電極(Ag/Ag)、或いはアルミニウム、亜鉛やその合金の粉末等が用いられるが、これは安定した電位を示す他の電極でも良い。
【0022】
図1では円筒形の検出器に測定用電極、対極が装置されているが、これは矩形、楕円形その他の他の形状の断面を持つ、棒の外表面または管の外表面、内表面に配置されても良く、また、単に土壌中に測定用電極、対極、基準電極をそれぞれ別個に差し込んだものでも良い。また、基準電極が対極を兼ねることも可能である。また、検出器本体と基準電極を一体の構造としても良い。
【0023】
図4に本発明の別の実施形態を示す。この例は、土壌中に測定対象とする化学物質が2種類存在する場合に使用するものである。
この例では、図1と同様に、検出器に、第1の化学物質を測定するための電源及び信号処理装置、基準電極、対極が装置されている他、もう一組、第2の化学物質を測定するための電源及び信号処理装置B 10、電流計B 11、電圧計B 12、対極B 13、基準電極B 14、測定用電極B 15が装置されている。測定に際してはこのそれぞれの測定用電極を、それぞれの基準電極に対し別個に、各化学物質の酸化反応の平衡電位より貴または還元反応の平衡電位より卑な電位に保ち、各々独立に測定された電流から、それぞれの化学物質を検出・定量する。図4の例では電源及び信号処理装置及び電極系が2組装置されているが、測定対象とする化学物質の種類が更に多い場合は、その化学物質の数に応じて電源及び信号処理装置、電極系の数を増やせば良い。
【0024】
以下に実施例により更に詳細に発明の内容を説明する。本発明はこれにより限定を受けるものではない。
【実施例1】
【0025】
粘土(ベントナイト)の間隙水中に含まれるFe2+の測定
図1の装置を用いて粘土(ベントナイト)の間隙水中に含まれるFe2+イオン濃度の測定を行った。
Fe2+イオンを間隙水中に含むベントナイト(間隙水中のFe2+イオン濃度:1.8x10-3mol/kg;重量含水率:98%)中に、図1の検出器を挿入し、電位を平衡電位から卑方向に掃引する際にして流れる電流を測定した。
測定用電極及び対極として白金板、基準電極として塩化銀電極(Ag/AgCl)を使用した。
粘土(ベントナイト)の間隙水中に含まれるFe2+イオン還元に伴う電流−電位曲線の実際の測定結果を図5に示した。-600mVより卑な電位、好適には-700mV以下に測定用電極を保ち、その時流れる電流を測定したものであり、平衡電位(約-600mV)より卑な電位領域で前記式(7)の還元反応による還元電流が観測された結果を示すものである。
以上の結果から、ベントナイトの間隙水中に溶解しているFe2+イオンを検出・定量分析することができることがわかった。
【0026】
図6は、図5の測定に用いたものと同じ検出器を用いて、測定用電極電位を基準電極に対し-950mVに保ち、ベントナイト(重量含水率98%)の間隙水中のFe2+イオン濃度を変化させて、Fe2+イオン濃度とその濃度において実測された電流(Fe2+イオンの還元電流)との関係を示したものである。同図に示されるようにFe2+イオン濃度と電流密度との間に直線関係が見られ、測定される電流値から、間隙水内部のFe2+イオン濃度を定量することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明における好適な測定装置の実施形態を説明する図である。
【図2】本発明の測定原理を説明する、土壌の間隙水中に単一の化学物質を含む場合の電流−電位曲線である。
【図3】本発明の測定原理を説明する、土壌の間隙水中に複数の化学物質を含む場合の電流−電位曲線である。
【図4】複数の成分を測定するための、複数の電極系及び電源・信号処理装置を設けた本発明の他の実施形態を示す説明図である。
【図5】粘土(ベントナイト)の間隙水中に含まれるFe2+イオン還元に伴う電流−電位曲線の実際の測定結果を示す図である。
【図6】本発明の実施例による粘土(ベントナイト)の間隙水中に含まれるFe2+イオン濃度測定結果を示す図である。
【符号の説明】
【0028】
1 導線
2 電源及び信号処理装置
3 電流計
4 電圧計
5 基準電極
6 検出器本体
7 対極
8 測定用電極
9 土壌
10 電源及び信号処理装置B
11 電流計B
12 電圧計B
13 対極B
14 基準電極B
15 測定用電極B

【特許請求の範囲】
【請求項1】
土壌の間隙水中に含まれる一種類の化学物質を検出・定量する方法において、測定対象の土壌の間隙水を含む土壌中に、導電性の電極を配置し、この電極の電位を、この土壌の間隙水中に含まれる当該化学物質の酸化反応の平衡電位(以下、酸化電位と呼ぶ)より貴な電位、または還元反応の平衡電位(以下、還元電位と呼ぶ)より卑な電位に保ち、そのとき当該電極表面で進行する酸化または還元反応に伴い生じる酸化または還元電流を測定することにより、当該化学物質を検出し濃度を定量することを特徴とする土壌の間隙水中に含まれる化学物質を検出・定量する方法。
【請求項2】
土壌の間隙水中に含まれる二種類の化学物質を検出・定量する方法において、測定対象の土壌の間隙水を含む土壌中に導電性の電極を配置し、この電極の電位を自然電位より貴方向に、測定対象とする化学物質の酸化電位より貴な電位まで上昇させてこのとき当該電極表面に生じる酸化電流を測定し、測定対象とする化学物質の酸化電位より貴な電位領域における電流より、当該酸化電位以下かつ当該酸化電位傍における酸化電流を減じ、この差に相当する電流値から当該測定対象とする化学物質を検出し濃度を定量するか、或いはこの電極の電位を自然電位より卑方向に、測定対象とする化学物質の還元電位より卑な電位まで降下させてこのとき当該電極表面に生じる還元電流を測定し、測定対象とする化学物質の還元電位より卑な電位領域における電流から、当該還元電位以上かつ当該還元電位傍における還元電流を減じ、この差に相当する電流値から当該測定対象とする化学物質を検出し濃度を定量することを特徴とする土壌の間隙水中に含まれる化学物質を検出・定量する方法。
【請求項3】
土壌の間隙水中に含まれる一種類の化学物質を検出・定量する装置において、検出器本体6の内部を貫通して測定対象の土壌の間隙水を含む土壌中に接触する基準電極5が設けられており、その一方の端部には前記基準電極5を囲んで、測定対象の土壌の間隙水を含む土壌中に接触する導電性の電極(測定用電極8及び対極7)が設けられている検出手段、基準電極5と目的の電位に保ち、電極表面に流れる酸化・還元電流を測定する電源及び信号処理装置2を結線する導線1により構成される測定手段から構成される検出器であることを特徴とする土壌の間隙水中に含まれる化学物質を検出・定量する装置。
【請求項4】
土壌の間隙水中に含まれる二種類の化学物質を検出・定量する装置において、検出器本体6の内部を貫通して測定対象の土壌の間隙水を含む土壌中に接触する基準電極5、14が設けられており、その一方の端部には前記基準電極5、基準電極B14を囲んで、測定対象の土壌の間隙水を含む土壌中に接触する導電性の電極(測定用電極8及び対極7)及び測定対象の土壌の間隙水を含む土壌中に接触する導電性の電極(測定用電極B15及び対極B13)が設けられている検出手段、基準電極5と目的の電位に保ち、電極表面に流れる酸化・還元電流を測定する電源及び信号処理装置2を結線する導線1により構成される測定手段、基準電極B14と目的の電位に保ち、電極表面に流れる酸化・還元電流を測定する電源及び信号処理装置10を結線する導線1により構成される測定手段から構成され検出器であることを特徴とする土壌の間隙水中に含まれる二成分化学物質を検出・定量する装置。
【請求項5】
測定対象とする化学物質が土壌中のFe2+イオンであり、導電性電極電位をの電位を塩化銀電極(Ag/AgCl)電位に対し-600mVより卑とした電位領域に設定し、このとき生じる還元電流からFe2+イオンを検出・定量することを特徴とする請求項1記載の化学物質測定方法。
【請求項6】
測定対象とする化学物質が土壌中のFe2+イオンであり、導電性電極電位の電位を塩化銀電極(Ag/AgCl)電位に対し-600mVより卑とした電位領域に設定し、このとき生じる還元電流からFe2+イオンを検出・定量することを特徴とする請求項3記載の化学物質測定装置。
【請求項7】
測定対象とする土壌が放射性廃棄物の地層処分技術において地下処分場に充填されるベントナイトであり、かつ測定対象とする化学物質が当該ベントナイト中のFe2+イオンであり、導電性電極電位をの電位を塩化銀電極(Ag/AgCl)電位に対し-600mVより卑とした電位領域に設定し、このとき生じる還元電流からFe2+イオンを検出・定量することを特徴とする請求項1記載の化学物質測定方法。
【請求項8】
測定対象とする土壌が放射性廃棄物の地層処分技術において地下処分場に充填されるベントナイトであり、かつ測定対象とする化学物質が当該ベントナイト中のFe2+イオンであり、導電性電極電位の電位を塩化銀電極(Ag/AgCl)電位に対し-600mVより卑とした電位領域に設定し、このとき生じる還元電流からFe2+イオンを検出・定量することを特徴とする請求項3記載の化学物質測定装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−263616(P2007−263616A)
【公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−86057(P2006−86057)
【出願日】平成18年3月27日(2006.3.27)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成17年度、経済産業省、「原子力試験研究委託費 放射性廃棄物処分施設の長期安定型センシング技術に関する研究」委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)