説明

土壌汚染除去および土質工学のための方法

土壌、堆積物またはスラリーの所定の領域を横切って電界を印加してpHおよびEhの勾配を生成し、それによって安定な鉄分豊富帯の原位置沈降を促進させることを含む地下水保護、土壌汚染除去および土質工学のための動電学的方法。
本発明は、土壌、堆積物および/またはスラリーの安定化および/または戦略的脱水化/再水和化、土質工学的目的の土壌および堆積物の物理学的特性の改善、汚染浸出液の強制的で方向付けられた移動、および/または非極性汚染物質の電気浸透的排除のために実施され得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地下水保護、土壌汚染除去および土質工学のための動電学的方法に関し、より詳細には、土壌、堆積物およびスラリー中に鉄分豊富な障壁(iron-rich barrier)を戦略として動電学的に配置することを含む方法に関する。
【背景技術】
【0002】
産業廃棄物の処分場および流出現場の汚染した土壌および地下水は、深刻な環境問題である。粘土および沈泥(silt)は大量の重金属、放射性核種および特定の有機汚濁物質(organic pollutant)(Kovalick 1995)を隔絶する傾向にあるが、粘土および沈泥は、低い透水係数のため、伝統的技術(例えば、汲み上げおよび処理、土壌洗浄)では比較的汚染除去し難い。このことが、低透過性で高粘土含量の土壌を汚染除去するために使用できる対費用効果の高い原位置で用いられる技法についての相当量の研究を刺激している。多くの注目を集めている1つの新興の技術は、動電学的汚染除去である。動電学は、印加した電界の影響下で、飽和または不飽和の粘土に富む土壌、スラッジおよび堆積物から、重金属、放射性核種、ならびに有機、無機、BTEXおよび放射性の汚染物質(contaminant)を分離および抽出するプロセスである。実験により、種々の有機、無機および放射性の廃棄物への適用可能性が示されている(Acarら、1993;Kovalick 1995;Virkutyteら、2002)。
【0003】
動電学的プロセスは、汚染した土壌塊の各側で地中に埋め込まれた電極対を横切って低強度の直流(DC)を印加することを含む。DC電界が地中に配置した電極を介して汚染土壌に印加されると、荷電イオンの移動が生じる。陽イオンは負に荷電したカソードに向かって移動し、他方、陰イオンは正に荷電したアノードに引き付けられる。非イオン性の種は、電気浸透的に誘導された水流に沿って輸送されることが示されている。動電学的汚染除去は、飽和および不飽和の両方の土壌で可能である。
【0004】
動電学的プロセスの間に電極で生じる優勢で最も重要な電子移動反応は、水の電気分解である。地下水は次の反応により電極で分解される:
H2O → 2H+ + 1/2O2(気体) + 2e- (アノード)
2H2O + 2e → 2OH- + H2(気体) (カソード)
これにより、アノードの周囲で(過剰のH+イオンに起因して)酸性前面領域(acid front)が生じ、カソードでは(過剰のOH-イオンに起因して)アルカリ前面領域(alkaline front)が生じる。
【0005】
電流は電気浸透およびイオン移動を引き起こし、これらは、地表下の水および水相の汚染物質の両方を、一方の電極から他方の電極へ移動させる。電流はまた、電気泳動を引き起こし、これによりコロイド状画分の移動が生じる。収着、沈降および分解が反応に付随する。水相の汚染物質、および土壌粒子から脱着した汚染物質は、その電荷に依存してアノードまたはカソードへ向けて輸送される。現行の商業的な動電学システムでは、汚染物質は、通常、二次回収システムにより抽出するか、または電極に析出させる。電極に移動した汚染物質の回収方法には、電着、沈降/共沈、電極付近での汲み出し、またはイオン交換樹脂での錯化が含まれる。汚染物質の移動を補助するために、界面活性剤、錯化剤および他の試薬がしばしば使用される(Acarら、1993;Virkutyteら、2002)。しかし、ほとんどの汚染した現場は、単一の汚染物質よりむしろ廃棄物の混合物を含み、そのことが汚染除去をより複雑にする。
【0006】
現在、標準化された汎用の土壌/堆積物汚染除去アプローチは存在しない。代わりに、それぞれが独自の操作上および設計上の要件および制限を有する多くの技術(例えば、Lasagna(商標)、Electro-Klean(商標)、電気化学的地質酸化(electrochemical geooxidation))が存在する(Virkutyteら、2002)。これらの技術の多くは、技術的に複雑でエネルギー大量消費型であり、非常に特別な分野または実験ベースの条件下で、特定の汚染物質の90%以上の除去を意図されている。しかし、現実の環境中では、ローテク、低エネルギーの汚染物質還元/封じ込め技法が、より適切であり、現実的であり得る。
【0007】
アノード分解に不活性である電極が、従来から、動電学的土壌汚染除去で使用されている。これらは、黒鉛、白金、金および銀電極を含むが、チタン、ステンレス鋼およびプラスチックから作成されたより安価な電極もまた用いられる。鉛、クロム、カドミウム、銅、ウラン、水銀および亜鉛のような金属、ならびにポリ塩素化ビフェニル、フェノール、クロロフェノール、トルエン、トリクロロエタンおよび酢酸は、動電学的汚染除去および回収に適切である。
【0008】
全体プロセスに影響する主要パラメータは、土質、汚染の深度およびタイプ、電極を収容し処理域を設定する費用、浄化期間、および人件費である(Virkutyteら、2002)。動電学的汚染除去プロセスの費用に影響を与える要素は、土壌特性および土壌水分、汚染物質の濃度、非標的イオンの濃度および孔隙水(pore water)の導電性、汚染除去する土壌の深度、現場の準備要件、および電気代である(van Cauwenberghe 1997)。商業的システムに関して電極間の費用最適化距離は、ほとんどの土壌で3〜6mである(Lagerman 1993;Hoら、1999)。汚染物質の移動速度を約2〜3cm/日とすると、2〜3mの間隔の電極間の汚染除去に成功する時間枠は、100日のオーダーであるが、通常はカチオン選択性膜および他の技術を用いて汚染除去期間を10〜20日に削減する(van Cauwenberghe 1997)。動電学的汚染除去プログラムに関連する費用内訳は、電極建設に約40%、電気代に10〜15%、人件費に17%、材料に17%、そしてライセンスおよび他の固定費に16%までである(Hoら、1997)。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0009】
適用が低コスト、効率的および柔軟である、地下水保護、土壌汚染除去および土質工学のための改善された動電学的方法を提供することが本発明の目的である。この方法は:
・必要な幾何学的形状への鉄分豊富な障壁の戦略的で遠隔性の動電学的配置(これは、汚染物質に対する物理的および/または化学的障壁を提供し、土壌および堆積物(汚染されているかまたはそうでないか)の工学的性質を改善する);
・pH/Eh勾配を生成し、土壌、堆積物およびスラリー内の汚染物質を再集結させそして/または捕捉する;そして
・土壌/堆積物/スラリーの安定化および戦略的な脱水化/再水和化、汚染した浸出水の強制的で方向付けられた移動、および非極性汚染物質の電気浸透的排除
を含む。
【0010】
現行の動電学的技法とは異なり、本発明の方法は、汚染物質の還元および封じ込めへの強力で非選択性の低エネルギーアプローチを提供し、表面近辺の環境で生じる自然の鉄分の無機物化プロセスに基づく。加えて、このシステムは自然を模倣し(例えば、鉄鍋の形成)、鉄は、岩および土壌系で一般的な主要元素であり、比較的無毒であるので、環境上の影響は最小である。さらに、鉄自体は、文献に十分に記載された汚染物質捕捉特性を有する。
【0011】
本発明によれば、地下水保護、土壌汚染除去および土質工学のための動電学的方法が提供され、この方法は、土壌、堆積物またはスラリーの一定領域を横切って電界を印加して、pHおよびEhの勾配を生成し、それにより安定な鉄分豊富帯(iron-rich band)の原位置沈降(in situ precipitation)を促進することを含む。
【0012】
本発明の方法は、電荷の印加を通じて汚染物質の移動性および溶解性を増大させ、同時に、処理中の領域内で沈降する電気化学的に生じた鉄分帯に固定することによるかまたは付与されたEh/pHフィールド内での強制的な沈降を介してのいずれかで移動を停止させることにより特徴付けられる。このアプローチは他の汚染除去技法とは異なる。なぜならば、このアプローチが、カソードとアノードとの間の原位置に鉄分帯を意図的に生じさせることに適合され(この鉄分帯は、同時に、物理的および化学的障壁を提供する)、土壌および堆積物内に強力なEh/pH勾配を生成するために、代表的には1cmの電極間距離あたり0.5ボルト未満の低電圧を用い(低エネルギー要求性);低コストの犠牲カソードおよびアノード材料を用い;差動脱水化(differential dewatering)を通じて、制御された差動沈下および透過性低減を生じさせることができ;これは天然および工業的材料で実験室レベルの時間尺度にわたって生じさせることができる、からである。対照的に、現在の商業的技法は、より高いオーダーの大きさのエネルギーを必要とし、土壌または堆積物内でのpH勾配の生成および鉄分または汚染物質の沈降を積極的に回避し(例えば、現在の動電学的技法)、または別の場所での浄化/処分を使用し、またはハードの工学技術(例えば透過性の反応性障壁)を使用する。
【0013】
本発明は、低電圧(<0.5V/cm、ほとんどの場合で0.2V/cm未満)の電気化学ベースの技法であり、これは動電学を使用して土壌、堆積物およびスラッジ中に強力なpH勾配(代表的にはpH2〜pH13)およびEh勾配を生成し、無機物を不安定化/溶解し、安定な鉄分豊富帯を強制的に原位置沈降させる。本発明の方法で使用する規模の内部電界は、通常、岩および土壌の集合体中で自然に発生し、種々の条件から生じることがある。この現象の一般的な結果は、固まっていない堆積物中で鉄鉱石帯が電気的に生じることである(例えばJacobら、1996)。このような帯(これらは多くの地質学的系で見出されている)は、水の電気分解が、酸性イオン(pH2.0〜2.5)により特徴付けられるアノード域およびアルカリイオン(pH10.5〜11.5)により特徴付けられるカソード域の生成を伴って起こるときに結果として生じ得る。電位差の結果、その域内で2.5から8への急激なpH変化が起きる急峻な境界域が生成する。十分な鉄分がその系に存在する場合、不溶性の金属(主に鉄)水酸化物および酸化物の自発的な沈降が、このpH「ジャンプ」の地点で起きる(Jacobら、1996)。少量の本来(native)(すなわち0価)の鉄もまた存在することがある。天然の設定では、このような第二鉄豊富帯は、通常、結晶性が乏しいかまたは非晶質である(例えばHopkinsonら、1998)。
【0014】
本発明の方法は、このように、これら自然の鉄III無機物化プロセスを模倣しているが、直流電位を電極に印加して堆積物および土壌カラム(sediment and soil column)中に鉄III無機物相帯を成長させそして吸着特性を利用して、印加した動電学的フィールド中を移動する間に、水性相からの汚染物質を捕捉もしくは破壊するかまたは土壌粒子から抽出することによって、地質学的時間尺度よりむしろ実験的時間尺度で模倣する。新たに沈降した非晶質かまたは結晶性に乏しいFeに富む固体(本方法により生じるタイプのもの)は、種々の環境中の一定の重金属、放射性核種および有機汚濁物質の極めて効果的な捕捉剤である(Bendell-YoungおよびHarvey 1992,CundyおよびCroudace 1995)。0価鉄は、それ自体、毒性塩素化脂肪族化合物の脱塩素化のための重要な触媒である(Haranら、1996)。さらに、この方法は、アノードで強酸条件を生じ、カソードで強アルカリ条件を生じるので、土壌または堆積物の粒子に付着した汚染物質(例えば放射性核種および重金属)(これらは酸性または塩基性条件下のいずれかで可溶である)は、可溶化され、適切な電極に向かって強制的に移動させられ、そこで沈降するかまたは鉄分帯と共沈する。要するに、本発明は、汚染した堆積物の粒子から汚染物質を「洗い流し」、次いでそれらを鉄分帯中またはその近傍で再補足および濃縮する機会を提供する。これは、汚染した土壌、堆積物およびスラッジを原位置で浄化する潜在能力を提供する。電極間の土壌の大きな塊全体の浄化を達成することが可能であり、単に規則的な間隔で電極の極性を反転させることにより、カソード上への汚染物質の電着を回避できる。
【0015】
本発明の方法で具現化したアプローチは、本システムが、単に溶液から汚染物質を隔絶するというよりはむしろ、実際に汚染物質を溶液中に集結させた後、続いて反応性帯/付与されたEh/pH勾配により捕捉し、したがって汚染土壌および地下水を浄化する点で、現行の原位置汚染除去技術(例えば透過性反応性障壁)とは異なる。本発明のアプローチは、現行の動電学的技法とは、低コスト電極(例えば、鋳鉄、屑鉄、ステンレス鋼または他の鉄分豊富な材料から作製された電極)を使用すること、低エネルギーを必要とする点で異なり、最も顕著には、処理する材料中に収着性の鉄分帯を意図的に生成する点で異なる。
【0016】
したがって、本明細書に記載の動電学的技法は、革新的であり、他の動電学的処理システムとは明らかに区別される。しかし、沈降した鉄分帯は、酸化−還元およびpH反応により堆積物カラムから遊離した毒性の汚染物質のための単なる化学シンクにとどまらない。鉄分帯形成をトリガーする動電学的プロセスはまた、粘土の差動脱水化および鉄分帯生成を通じて、土壌および堆積物の工学的特性を向上させ、そして土壌および堆積物の透過性を大いに減少させるために使用され得る。したがって、動電学的な第二鉄の沈降は、廃棄物流出物を物理的に封じ込める手段であり、(例えば、廃棄物処分場の基底ライナーを浸透した浸出物を物理的に捕捉し吸着することにおいて)電流の周期的印加により再封止および強化できる液体廃棄物流出物に対する反応性障壁を提供する。加えて、本方法は、土壌および堆積物の戦略的脱水化または再水和化ならびに鉄分帯生成を通じて、土木工学応用のために(例えば建築工事において)、土壌を再水和化および安定化する潜在的能力を提供する。現行の脱水化技法は、大量のスラリーの完全な脱水化(例えばLamont-Black 2001)を含む一方、本技術は、数区画の土壌(parcels of soil)を戦略的に再水和化または脱水化するため、および数区画の土壌の工学的特性を強化または概ね向上させるために、原位置で適用され、そのため、一定の土木工学への適用(例えば沈下の対処)の可能性を有する。
【0017】
本発明の方法は、埋立てライナーと透過性反応性障壁技術と漏斗およびゲートシステムとの統合性、制御された差動沈下、土壌および堆積物の工学的特性の改善、汚染した土地(土壌および堆積物)の汚染除去、および汚染した産業スラッジおよびスラリーの浄化に関連して、直接の適用可能性を有し得る。結果的に、本発明の方法は、広範囲の機関(例えば環境当局、水道会社、埋立て業者、土木工事および環境コンサルタント、および核燃料会社)にとって非常に興味深いものであり、潜在的に有益である。
【0018】
したがって、本発明の方法は、他の商業的技法と比べて、多くの驚くべき顕著な有益性を有する。透過性反応性障壁技術と比較して、本発明の方法は、再封止可能な鉄分豊富な障壁を提供する。この再封止可能な鉄分豊富な障壁は、地表下の汚濁物質の移動を物理的および化学的に阻止するために、作業中の現場および基礎構造を有する場所に(工事することなく)遠隔的に配置することができ、地表下の汚濁物質の流れの方向を変えることができる。商業的な動電学的汚染除去の技法と比較して、本発明の方法は、より低いオーダーの大きさのエネルギーしか必要とせず、電極費用がより低いオーダーであり、毒性である可能性がある改質溶液(conditioning solution)の使用を含まず、土壌相から汚染物質を再集結させると同時に液相に汚染物質を捕捉し含有させることができ、作業中の現場または基礎構造を含む場所で適用可能である。
【0019】
使用する電圧が低いことは、複数の低費用電極の使用により提供される柔軟性と併せて、個々の電極間の距離が数メートルを越えない一連の電極アレイで、汚染した土地を逐次的に処理することができることを意味する。加えて、電流は、土壌の加熱および電極での大規模なガス発生を回避するに十分に低い。電極の幾何形状が調整可能であることは、この技法が、場所に特異的な条件に合うように適応可能であり、広面積の土地を逐次的に処理可能であることを意味する。鉄分は、2以上の電極の間で沈降して、不透過性の密集帯か、土壌/堆積物粒子を固める被覆か、または無機物の粒に散在する被覆を形成し得ることが理解される。処理後、鉄分帯は、密集塊として単に掘り出すか、または長期間不活性で電流の再印加により再封止可能な障壁を提供するために原位置に残すことができる。
【0020】
本発明の方法は、地下水保護および土壌汚染除去のための維持可能で対費用効果の高い原位置動電学的技術を提供する。この技術は、現行の土地汚染除去技術と組み合わせて、またはその代替手段として実施することができる。本技術は、小さな場所にもより広い領域の汚染した土地にも適用可能であり、人工建造物が存在する土地または土地活用(site activity)が継続中の土地で実施することができる。
【0021】
ここで、本発明の方法を、以下の実施例および添付の図面により説明する:
図1は、鋳鉄電極間に1.5Vの電位差を30時間印加した後の、水で飽和した砂で生成したほぼ垂直な1cm厚のFe豊富帯を示す。
図2aは、本発明の方法を使用して粘土土壌媒体中でのFe帯の生成を示す。
図2bは、基礎のシルト粒子と共に、本明細書で概説した技術を使用して鉄で被覆し固めた珪藻(海洋微生物)を示す。
図3a〜dは、スパイクしたサウザンプトンの水泥を使用した炭化水素排除実験のデータに関する。図3aは、堆積物をスパイクするために使用した元のエンジンオイルについての中間IRスペクトル示す。図3b、cおよびdは、それぞれ、実験の5日目、12日目および13日目にカソード区画から排出された排出液についてのFT-IRスペクトルを示す。炭化水素および海水の吸収線に印を付していることに留意すべきである。また、FT-IRに活性なディーゼル油の線の数およびそれらの全体強度は、実験時間と共に増大した(例えば、13日目で1376.66cm-1にCH3ベンドが現れる)。このことは、カソード域の排出液内のディーゼル油が実験時間と共に次第に濃縮されたことを示す。
図4aおよびbは、処理したラベングラス(Ravenglass)河口の泥についての60CoおよびAsデータを示す。Fe帯はアノードから5cmに位置していた。y軸単位が、60CoについてはBq/g(または原子核崩壊/秒/グラム)と、Asについてはppmと変わることに注意すべきである。Asデータについての誤差バーは、用いた菱形印よりも小さい。カソード区画でAsのおよそ〜40%の減少、狭い鉄分帯での約〜100%の富化に注目すべきである。60Coの減少は目立たないが、アノード域で依然として30%を超えている(未処理材料と比較して)。未処理材料と比較して、鉄分帯における〜50%の富化(これはアノード域にわたる60Coの〜110%富化に相当する)もまた観察されている。
【実施例】
【0022】
パイロット研究を、25×2×15cmおよび30×50×40cmの上方開放型のパースペクス槽中(すなわち、事実上二次元および三次元空間中)で実験室規模にて適用した。すべての実験を5ボルト未満で、犠牲鋳鉄電極を使用して行なった。25mm直径の鋳鉄棒(Grade 250)(組成:C 3.48%、Si 2.87%、Mn 0.812%、S 0.099%、P 0.364%、Fe 残り)から電極を製作した。実験を、地下水および海水の間隙性孔隙水(interstitial pore water)を有する種々の汚染泥について、不飽和および飽和条件下で行なった。時間尺度は3〜400時間の範囲である。
【0023】
砂を使用した実験では、砂の最初の透過性は0.48×10-5m/sであり、処理後の透過性(鉄分帯中)は、0.19×10-5m/sと記録された。泥の実験では、最初の透過性は、代表的には、〜0.29×10-7であった一方、処理した材料の透過性(鉄分帯中)は、10-9以下と記録された(すなわち、事実上は影響なし)。加えて、アノード周囲の堆積物では明白な脱水化が、カソード周囲では再水和化が首尾一貫して観察された。
【0024】
すべての場合で、強酸域がアノードの周囲に生じ(約pH2)、アルカリ域がカソードの周囲に生じた(約pH13)。急激なpH変化の地点(カソードとアノードとの間のほぼ等距離の地点)で、中程度に石化した砂石(または英国南部で最も強力なチョーク)に匹敵する略一軸性の圧縮強度を有する1〜4cm厚の密集鉄鉱石が沈降した(図1)。生成した鉄鉱石は、非晶質の鉄分帯(図2aを参照)からなるか、または砂質堆積物では、無機物の粒を固める0価鉄および酸化鉄の被覆からなる。Fe豊富帯中に0価鉄が存在することは注目すべきである。なぜならば、汚染現場で用いられる透過性反応性障壁の高い割合のものが、地下水に溶解した塩素化脂肪族化合物の強力な化学還元剤として作用させるために0価鉄を使用することに基づいている(Younger、2002)からである。単にFe帯が完全に生成する前に電流のスイッチをオフにすることによって、空隙性を著しく損なうことなく、予め規定した領域の土壌に、散在する収着性の鉄の被覆を迅速に生成することもまた可能である(図2b)。このようなアプローチは、鉄の収着特性が、地下水中の特定の汚染物質(例えば砒素(As))の濃度を減少させることに活用することができる状況で、所望され得る。
【0025】
本発明の方法が、浸出液および溶解した相汚染物質を封じ込め、汚染した土地を汚染除去することに適用可能であり、その能力を有することを説明する2つの具体的な研究をここで提供する。
【0026】
1. 炭化水素および重金属で汚染された堆積物(サウザンプトンの水)
A) すぐ近くのフォーレイ(Fawley)石油精製所からおよび地域海運による排出物からの、銅(Cu)および石油炭化水素で汚染された河口の泥サンプルを、2Vの電圧を用いて、三次元槽中で、矩形電極アレイを使用して処理した。3cm厚までの連続する鉄分帯が電極点源から生じた。処理前および処理後のCu濃度についてのデータは、動電学的処理により、16.3日でアノード域のCu汚染物質が約61%減少したことを示す(低い割合のCuは、安定な無機物の結晶格子内に保持された天然のバックグランドのCuであることに留意すべきである。この天然に存在するCuは動電学的プロセスにより影響されない)。
特に、液体の炭化水素に富む排出液を、堆積物から(電気浸透的排除により)追い出し、カソード区画の表面から約10ml/日で水路を通して排出した。本実験に関してエネルギー必要量は10.9kW/m3であった。これらの値は、他の動電学的汚染除去システムについて通常引用されるエネルギー必要量(例えば、金属汚染物質の100%除去について500kW/m3)(Virkutyteら、2002)と比べて好ましい。堆積物からの銅の除染および炭化水素排除についての時間尺度は、期間が、相当高価なカチオン選択性膜を用いる現行の技術に匹敵する(Van Cauwenberghe、1997)。(金被覆、白金または黒鉛電極に対して)鋳鉄電極の使用は、実験系がエネルギー、材料および電極構築に関して低費用であることを意味する。これらは、代表的には、任意の動電学的汚染除去システムに関連する費用の〜70%を構成する(Hoら、1997)。
【0027】
B) 本発明の方法による炭化水素除染を試験するため、海水で飽和したソレント(Solent)の泥サンプルを、0.4リットルの新鮮な15W/40(Halfords)エンジンオイルでスパイクし、2Vで13日間処理した。少量の清浄な海水をアノード電極の周囲に加えて堆積物の乾燥を防いだ。排出液を、カソード区画に掘った深さ1cmの溝からピペットにより断続的に取り出した。排出液サンプルをフーリエ変換中間赤外(FT-IR)分光により分析した。得られたFT-IRスペクトルは、添加した清浄な海水(すなわち、入力溶液)と比較して、排出液(すなわち、出力溶液)の炭化水素に富む性質を明らかに示す。本質的に、泥に富む堆積物中に含まれる炭化水素(この場合、エンジンオイル)は、アノードからカソードへの水の電気浸透性の流れを介して、押出されるかまたは排除されて、清浄な海水が置き換わる(図3a〜d)。
【0028】
未処理の堆積物の自然水分含有量は、カソード域からの排除された炭化水素に富む排出液の抽出およびアノード域からカソード域への水の電気浸透性の流れと一致してアノード域およびカソード域についてそれぞれ69%および88%であるのに対し、97%であった。カソード域の嵩密度は、1.47Mg/m3(湿潤)、0.78Mg/m3(乾燥)、比重2.59と記録された。アノード域の嵩密度は、1.49/m3(湿潤)、0.88Mg(乾燥)、比重2.62と記録された。アノード域とカソード域との間の物理学的特性におけるこれらの差は、本実験の間のアノード域堆積物への鉄分の付加と一致する。アノード堆積物の手羽根剪断強度(hand Vane shear strength)は、カソード域および未処理堆積物の0に対して、2.45KPaである。このことは、沈降に伴い、電気浸透的脱水化の結果として、アノード域堆積物の工学特性の顕著な改善を示す。
【0029】
2. 放射能汚染堆積物(カンブリア州ラベングラス)
(人工の放射性核種でわずかに汚染した)粘土に富む堆積物サンプルを、カンブリア州ラベングラス河口から採集し、1.5Vで410時間、二次元パースペクス槽中で、17cm離した電極を使用して処理した。17mm厚のFe豊富帯が、アノードから5cmのpHの大きな段差(pH2からpH13へ)が生じる点に生じた。処理した堆積物の地球化学的分析および放射測定分析(図4を参照)により、槽のアノード域からの放射性コバルト(60Co)の明白な除去および鉄分豊富帯上の再集結した60Coの沈降が示される。これは、代表的には20〜100日の期間を超えて行なわれる商業的システムと比較して、短い17日の時間尺度で達成された。
【0030】
マンガン(Mn)、カルシウム(Ca)およびストロンチウム(Sr)もまた、アノード域から再集結し、鉄分帯上またはその周囲に沈降した。可溶性イオン(例えばヨウ素(I)、臭素(Br)およびナトリウム(Na))は適切に荷電した電極に向けて移動した。特に、これらの堆積物中に微量の汚染物質として存在するAsは、処理に対して高度に影響を受けやすく、脱離がカソード域の高pHで生じた。Asの100%富化が鉄分豊富帯で生じた(図4を参照)。これは、非晶質の沈降したFeに関してのAsの強い親和性を反映している。この堆積物中に上昇した活性で存在する高度に粒子反応性の放射性核種プルトニウム(Pu)およびアメリシウム(Am)は、使用した時間尺度では顕著には再集結しなかった。しかし、本発明の方法は、依然として、地下水流に対する障壁としてのFe帯の作用、PuおよびAmと新たに沈降した非晶質の酸化鉄の相との強力な会合、ならびに印加した電界の作用(これは、イオン種およびコロイド種を適切に荷電した電極へ向けて強制的に移動させる)に起因して、これら放射性核種で汚染した浸出液を封じ込めるために使用することができる。
【0031】
要約すると、2つの電極間の土壌塊中の無機物および塩の沈降を積極的に回避する現行の動電学的技法とは異なり、本発明の方法は、カソードとアノードとの間の原位置で鉄分豊富帯を生成することを特に意図している。この鉄分帯は、同時に、浸出液の移動に対する物理的および化学的障壁を提供する。本方法はまた、低電圧(低いエネルギー必要量)を用いて、土壌および堆積物内に強力なpH勾配を生成し、一定範囲の極性およびイオン性の汚染物質を脱離させることができる。本方法は、低費用の犠牲カソードおよびアノード材料を使用し、差動脱水化を通じて、水の移動および非極性有機汚染物質の電気浸透的排除を行なうことができる。
【0032】
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【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】鋳鉄電極間に1.5Vの電位差を30時間印加した後の、水で飽和した砂で生成したほぼ垂直な1cm厚のFe豊富帯を示す。
【図2】図2aは、本発明の方法を使用して粘土土壌媒体中でのFe帯の生成を示す。図2bは、基礎のシルト粒子と共に、本明細書で概説した技術を使用して鉄で被覆し固めた珪藻(海洋微生物)を示す。
【図3a】スパイクしたサウザンプトンの水泥を使用した炭化水素排除実験のデータに関する。堆積物をスパイクするために使用した元のエンジンオイルについての中間IRスペクトル示す。
【図3b】スパイクしたサウザンプトンの水泥を使用した炭化水素排除実験のデータに関する。実験の5日目にカソード区画から排出された排出液についてのFT-IRスペクトルを示す。
【図3c】スパイクしたサウザンプトンの水泥を使用した炭化水素排除実験のデータに関する。実験の12日目にカソード区画から排出された排出液についてのFT-IRスペクトルを示す。
【図3d】スパイクしたサウザンプトンの水泥を使用した炭化水素排除実験のデータに関する。実験の13日目にカソード区画から排出された排出液についてのFT-IRスペクトルを示す。
【図4】処理したラベングラス(Ravenglass)河口の泥についての60CoおよびAsデータを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
土壌、堆積物またはスラリーの一定領域を横切って電界を印加して、pHおよびEhの勾配を生成し、それにより安定な鉄分豊富帯の原位置沈降を促進させることを含む地下水保護、土壌汚染除去および土質工学のための動電学的方法。
【請求項2】
pH勾配がpH2からpH13までである請求項1に記載の方法。
【請求項3】
電流が、土壌、堆積物またはスラリーの領域に挿入された一対以上の電極間に印加される請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
電極が、鋳鉄、屑鉄、ステンレス鋼または他の鉄分豊富な材料から作製される請求項3に記載の方法。
【請求項5】
用いられる電圧が、一対の電極間の距離1cmあたり0.5ボルト未満である請求項3または4に記載の方法。
【請求項6】
土壌、堆積物またはスラリーが有機、無機および/または放射性の汚染物質を含む請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
鉄分豊富帯が、土壌、堆積物またはスラリー中に存在する汚染物質に対する物理的および/または化学的障壁として作用する請求項1〜6に記載の方法。
【請求項8】
鉄分が沈降して、2以上の電極の間で、不透過性密集帯、または土壌/堆積物粒子を固める被覆、または無機物粒に散在する被覆を形成する請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
pH/Eh勾配の生成が、土壌、堆積物またはスラリー中に存在する汚染物質を集結、再集結および/または捕捉する請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
土壌、堆積物および/またはスラリーの安定化および/または戦略的脱水化/再水和化、土壌工学目的の土壌および堆積物の物理学的特性の改善、汚染浸出液の強制的で方向付けられた移動、および/または非極性汚染物質の電気浸透的排除を目的として実施される請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水分を含む土壌、堆積物またはスラリーの一定領域に埋め込んだ鉄分豊富な犠牲電極間に電界を印加して、酸性条件からアルカリ条件までの急激なpHおよびEhの勾配を生成し、安定な鉄分豊富帯の自発的な原位置沈降を酸性域とアルカリ域との間の境界で生じさせることを含む地下水保護、土壌汚染除去および/または土質工学のための動電学的方法。
【請求項2】
pH勾配がpH2からpH13までである請求項1に記載の方法。
【請求項3】
電流が、土壌、堆積物またはスラリーの領域に挿入された一対以上の電極間に印加される請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
電極が、鋳鉄、屑鉄、ステンレス鋼または他の鉄分豊富な材料から作製される請求項3に記載の方法。
【請求項5】
用いられる電圧が、一対の電極間の距離1cmあたり0.5ボルト未満である請求項3または4に記載の方法。
【請求項6】
土壌、堆積物またはスラリーが有機、無機および/または放射性の汚染物質を含む請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
鉄分豊富帯が、土壌、堆積物またはスラリー中に存在する汚染物質に対する物理的および/または化学的障壁として作用する請求項1〜6に記載の方法。
【請求項8】
鉄分が沈降して、2以上の電極の間で、不透過性密集帯、または土壌/堆積物粒子を固める被覆、または無機物粒に散在する被覆を形成する請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
pH/Eh勾配の生成が、土壌、堆積物またはスラリー中に存在する汚染物質を集結、再集結および/または捕捉する請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
土壌、堆積物および/またはスラリーの安定化および/または戦略的脱水化/再水和化、土壌工学目的の土壌および堆積物の物理学的特性の改善、汚染浸出液の強制的で方向付けられた移動、および/または非極性汚染物質の電気浸透的排除を目的として実施される請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法。

【図1】
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【図3a】
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【図3b】
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【図3c】
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【図3d】
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【図4】
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【公表番号】特表2006−500210(P2006−500210A)
【公表日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−539234(P2004−539234)
【出願日】平成15年9月26日(2003.9.26)
【国際出願番号】PCT/GB2003/004181
【国際公開番号】WO2004/028717
【国際公開日】平成16年4月8日(2004.4.8)
【出願人】(503218861)ユニヴァーシティ オブ ブライトン (3)
【出願人】(502096808)ザ ユニバーシティ オブ サセックス (5)
【Fターム(参考)】