説明

土壌薫蒸剤含有固形物

本発明の目的は土壌薫蒸剤含量が高く、且つ、土壌薫蒸剤使用時には土壌薫蒸剤の放出が極めて抑制されていて、且つ、土壌に施用後に短期間の土壌薫蒸を可能にする製剤及び方法を提供することである。 本発明は土壌薫蒸剤を60重量%以上85重量%以下、ゼラチンを0.5重量%以上15重量%以下、無機鉱物を0%以上10重量%以下、2価以上の金属塩と反応してゲル化する多糖類を1重量%以上15重量%以下、水を0.5重量%以上20重量%以下の量を含有することを特徴とする土壌薫蒸剤含有固形物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、土壌薫蒸剤含有量固形物及びその製造方法に関し、且つ、農家が使用時に刺激臭を感じない程度に土壌薫蒸剤の放出が極度に抑制された固形物であり、更に、土壌に処理すると速やかに土壌薫蒸剤を放出する固形物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
クロルピクリンやDDに代表される土壌薫蒸剤は蒸気圧が高く、通常の使用条件では、ガス化しやすい。特に、クロルピクリンは刺激臭を有しており、使用時には、保護眼鏡、保護マスク、手袋を着用して、特殊な灌注器具を使って、土壌に灌注し、灌注後に土壌表面をガスバリアー性のフィルムで被覆する方法で土壌を薫蒸している。
【0003】
クロルピクリンの無臭化製剤として、クロルピクリンをデキストリンに吸着させた後、ポリビニルアルコールのフィルム袋に密封した製剤あるいはクロルピクリンを直接ポリビニルアルコールのフィルム袋に密封した製剤が開発されている(米国特許第5846904号公報、特開平7−324002号公報)。
【0004】
クロルピクリン類などの土壌薫蒸剤は作物の栽培団地化地域、特産地化地域の連作障害防止に広く使用されており、収穫後から次の作付けまでの合間に処理されている。1年間の作物の作付け回数を多くするために、土壌薫蒸期間は短いほど好ましい。一般には、平均地温が15℃〜25℃の時に、土壌薫蒸に要する期間は10日〜15日である。
【0005】
香料や農薬などの作用物質をアルギン酸ナトリウムやローメトキシルペクチンの水溶液に対して、20重量%以下の量を使用して、同作用物質を分散させ、その後、2価以上の金属塩を反応させて、多孔質構造のゲル化物中に作用物質を含有させたゲル化物は知られている。(特開昭55−25456号公報)また、同文献には、得られたゲル化物を乾燥することにより、作用物質の放出を抑制できることも開示されている。クロルピクリンに代表される土壌薫蒸剤は農家が施用する時には、農家が刺激臭を感じないほど、土壌薫蒸剤の放出が極度に抑制されていることが好ましいが、反面、施用すると短期間に土壌薫蒸を完了することが必要である。この相反する要求性能に対して、前記文献には作用性物質の放出を抑制する方法は開示されているが、短期間に作用物質を放出することについては何ら開示されていない。更に、クロルピクリンは比重が1.67と極めて重いため、界面活性剤の存在下に、クロルピクリンとアルギン酸ナトリウムやローメトキシルペクチンの水溶液と攪拌しても、高いクロルピクリン濃度のO/W型エマルジョン液は得られなかった。高いクロルピクリン濃度のO/W型エマルジョン液を得るために、界面活性剤の使用量を増やせば、アルギン酸ナトリウムやローメトキシルペクチンの水溶液から固形物の析出を引き起こし、均一なエマルジョン液は得られなかった。そのため、界面活性剤の存在下に、クロルピクリンとアルギン酸ナトリウムやローメトキシルペクチンの水溶液を攪拌して、クロルピクリンの分散液を得るためには、クロルピクリンの使用量を極端に少なくする必要があり、クロルピクリン濃度が5重量%以下の分散液しか得られなかった。低いクロルピクリン濃度の分散液から得られたゲル化物は、クロルピクリン含有量が低く、クロルピクリンの放出を極度に抑制するために、乾燥工程で、該ゲル化物から多量の水を除去しなければならず、乾燥時の負荷が大きいことも問題であった。
【特許文献1】米国特許第5846904号公報

【特許文献2】特開平7−324002号公報

【特許文献3】特開昭55−25456号公報

【非特許文献1】インターネット上のwebサイト

http://village.infoweb.ne.jp/〜chlopic/siryou/ekizai/ekizai.htm
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、土壌薫蒸剤の含有量が高い土壌薫蒸剤含有固形物及びその製剤の製造方法を提供することであり、本発明の他の課題は、農家が当該固形物を使用する際に土壌薫蒸剤の刺激臭を感じない程度に、土壌薫蒸剤の放出が極度に抑制された土壌薫蒸剤含有固形物及びその製剤の製造方法を提供することであり、更に、本発明の他の課題は土壌に処理すると速やかに土壌薫蒸剤を放出し、短期間の土壌薫蒸を完了する土壌薫蒸剤含有固形物及びその製剤の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、クロルピクリンを用いて、アルギン酸ナトリウムやローメトキシルペクチンの水溶液とのエマルジョン化を鋭意検討した結果、界面活性剤を使用する従来の方法ではクロルピクリン含量の高いO/W型のエマルジョン液が得られなかったのに対して、クロルピクリン中にゼラチンを共存させることにより、極めて容易にO/W型エマルジョン液が得られることを見出した。その結果、該エマルジョン液を2価以上の金属塩と反応させて、クロルピクリン含量が高いゲル化物が得られ、その後、該ゲル化物を乾燥すると、農家が刺激臭を感じない、すなわち、クロルピクリンの放出が極度に抑制され、しかも高いクロルピクリン含有量の土壌薫蒸剤含有固形物を得た。該土壌薫蒸剤含有固形物はクロルピクリンの放出が極度に抑制されているにも関わらず、土壌に施用すれば、速やかにクロルピクリンを放出し、短期間で土壌薫蒸が完了できることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
[1]土壌薫蒸剤を60重量%以上85重量%以下、ゼラチンを0.5重量%以上15重量%以下、無機鉱物を0重量%以上10重量%以下、2価以上の金属塩と反応してゲル化する多糖類を1重量%以上15重量%以下、水を0.5重量%以上20重量%以下の量を含有することを特徴とする土壌薫蒸剤含有固形物。
[2]土壌薫蒸剤が沸点が40℃以上で且つ、蒸気圧が70Pa/20℃以上である土壌薫蒸剤であることを特徴とする[1]に記載の土壌薫蒸剤含有固形物。
[3]土壌薫蒸剤がクロルピクリン、D−D、及びイソチアン酸アリルから選ばれる1種以上の土壌薫蒸剤であることを特徴とする[2]記載の土壌薫蒸剤含有固形物。
[4]2価以上の金属塩と反応してゲル化する多糖類が水可溶性のアルギン酸塩、ローメトキシルペクチン、及びカッパーカラギーナンから選ばれる1種以上であることを特徴とする[1]〜[3]のいずれか一項に記載の土壌薫蒸剤含有固形物。
[5]以下の(a)〜(c)の工程を通して製造されることを特徴とする[1]記載の土壌薫蒸剤含有固形物の製造法。
(a)2価以上の金属塩と反応してゲル化する多糖類の水溶液と土壌薫蒸剤、ゼラチン、及び無機鉱物を攪拌して、10重量%以上85重量%以下の土壌薫蒸剤を含有するO/W型エマルジョン液を製造する、
(b)工程(a)で得られたエマルジョン液を2価以上の金属塩と反応させて、ゲル化物を製造する、
(c)工程(b)で得られたゲル化物を乾燥させて土壌薫蒸剤含有固形物を製造する。
・土壌薫蒸剤がクロルピクリン、D−D、及びイソチアン酸アリルから選ばれる1種以上の土壌薫蒸剤であることを特徴とする[5]記載の土壌薫蒸剤含有固形物の製造法。
[7]2価以上の金属塩と反応してゲル化する多糖類を土壌薫蒸剤に対して、1重量%以上15重量%以下の量を使用することを特徴とする[5]、[6]のいずれか一項に記載の土壌薫蒸剤含有固形物の製造法。
[8]2価以上の金属塩と反応してゲル化する多糖類が水可溶性のアルギン酸塩、ローメトキシルペクチン、及びカッパーカラギーナンから選ばれる1種以上であることを特徴とする[5]〜[7]のいずれか一項に記載の土壌薫蒸剤含有固形物の製造法。
[9]ゼラチンを土壌薫蒸剤に対して、0.5重量%以上15重量%以下の量を使用することを特徴とする[5]〜[8]のいずれか一項に記載の土壌薫蒸剤含有固形物の製造法。
[10]無機鉱物を土壌薫蒸剤に対して、0%以上10重量%以下の量を使用することを特徴とする[5]〜[9]のいずれか一項に記載の土壌薫蒸剤含有固形物の製造法。
[11]工程(b)で得られるゲル化物を乾燥させて、水を土壌薫蒸剤含有固形物に対して、0.5重量%以上20重量%以下の量にすることを特徴とする[5]〜[10]のいずれか一項に記載に記載の土壌薫蒸剤含有固形物の製造法。
[12][5]〜[11]のいずれか一項に記載の工程(c)の方法により製造される土壌薫蒸剤含有固形物。
[13][5]〜[10]のいずれか一項に記載の工程(b)の方法で製造されるゲル化物。
[14][5]〜[10]のいずれか一項に記載の工程(a)の方法で製造されるO/W型エマルジョン液。
【発明の効果】
【0009】
本発明の土壌薫蒸剤含有固形物は土壌薫蒸剤の濃度の高いO/W型エマルジョン液から製造しているため、乾燥時の負荷が小さく、且つ、土壌薫蒸剤の含有量の高い土壌薫蒸剤含有固形物である。本固形物は人が土壌薫蒸剤の臭気を感じないほど、土壌薫蒸剤の放出が極度に制御されているため、農家が簡便に取り扱うことが可能である。また、本固形物を土壌に処理すると、速やかに土壌薫蒸剤を放出し、短期間で土壌を薫蒸することができ、1年間の作物の作付け回数を減じることがなく、作物生産において有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の土壌薫蒸剤含有固形物は以下の工程を経由して製造する。すなわち、(a)2価以上の金属塩と反応してゲル化する多糖類の水溶液と土壌薫蒸剤、ゼラチン、及び無機鉱物を攪拌してO/W型エマルジョン液を製造する工程、(b)工程(a)で得られたエマルジョン液を2価以上の金属塩と反応させて、土壌薫蒸剤を含有するゲル化物を製造する工程、(c)工程(b)で得られたゲル化物を乾燥して土壌薫蒸剤含有固形物を製造する工程、である。本発明で言うゲル化物は(b)工程で得られる固形物であり、土壌薫蒸剤含有固形物は(c)工程で得られる固形物である。
【0011】
先ず、工程(a)について説明する。工程(a)においては2価以上の金属塩と反応してゲル化する多糖類の水溶液と土壌薫蒸剤組成物、ゼラチン、及び無機鉱物を攪拌して10重量%以上85重量%以下の土壌薫蒸剤を含有するO/W型エマルジョン液を製造する。
【0012】
本発明で使用される土壌薫蒸剤は、土壌中の病害虫の防除を目的として薫蒸して使用される薬剤であり、好ましくは沸点が40℃以上で且つ、蒸気圧が70Pa/20℃以上である土壌薫蒸剤であり、好適なものとしてクロルピクリン、D−D(1,3−ジクロルプロペン)、イソチアン酸アリルが例示される。本発明の土壌薫蒸剤はクロルピクリン、D−D、イソチアン酸アリルを単独で、あるいは両者の混合物として使用しても良い。また、クロルピクリン、D−D、イソチアン酸アリルに他の農薬を混合させて、より機能的な土壌薫蒸剤含有固形物を製造することもできる。具体的には、ホスチアゼート、ピラクロホス、ジクロロジイソプロピルエーテル、メチルイソチオシアネートなどの他の農薬などとの混合農薬とすることもできる。クロルピクリン及び/またはD−Dに他の農薬を混合させて得られる混合農薬も本発明の土壌薫蒸剤含有固形物に含まれる。
【0013】
本発明で使用する多糖類は、2価以上の金属塩と反応して、ゲル化する多糖類である。(本発明に係る2価以上の金属塩と反応してゲル化する多糖類は本明細書を通して単に多糖類ということもある。)この性質を有する多糖類としては、アルギン酸塩、ローメトキシルペクチン、あるいはカッパーカラギーナン(κ−カラギーナン)が例示される。アルギン酸塩としては、例えばアルギン酸のナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩、その他アルギン酸を出発原料とした水可溶性の塩が使用できる。一般に、安価で食品分野での使用量が多い、アルギン酸ナトリウムが好ましい。ローメトキシルペクチンはエステル化度が50%以下のペクチンをいう。カッパーカラギーナンはカッパ型に分類されるカラギーナンであり、必ずしも精製されたものでなくても良く、粗抽出物でも良い。これらの多糖類は単独で、あるいは2種以上を混合して使用してもよい。
【0014】
本発明において、多糖類の使用量は土壌薫蒸剤の臭気の抑制や土壌薫蒸剤含有固形物の耐衝撃性に影響する。すなわち、多糖類の使用量が土壌薫蒸剤に対して少なければ、土壌薫蒸剤含有固形物の臭気の抑制が不十分であったり、また、土壌薫蒸剤固形物の耐衝撃性が小さくなる。そのため、多糖類は土壌薫蒸剤に対して、1重量%以上を使用する。多糖類の使用量の上限は経済的な観点から適宜決定されるが、土壌薫蒸剤に対して15重量%以下であればよい。これらの多糖類は0.5重量%以上15重量%以下の濃度の水溶液として使用される。
【0015】
本発明の土壌薫蒸剤含有固形物は、土壌薫蒸剤と多糖類の水溶液を攪拌して、O/W型のエマルジョン液を製造するためにゼラチンを必要とする。多糖類を含有する水溶液にゼラチンを溶解し、その後、土壌薫蒸剤と攪拌してもO/W型のエマルジョン液は得られない。土壌薫蒸剤中にゼラチンを加えて、その後、多糖類を含有する水溶液と攪拌して、初めて土壌薫蒸剤の濃度の高いO/W型のエマルジョン液が得られる。
【0016】
本発明で使用されるゼラチンは粉末状が好ましい。ゼラチン粉末は粒径が大きくなると均一なエマルジョン液が得られなくなるため、微粒子状のものを使用するのが好ましい。好ましい粒径として3mm以下、好ましくは1mm以下の粒径のゼラチン粉末がよく、これに適するものとして「R微粉」(新田ゼラチン社製品)などが挙げられる。
【0017】
ゼラチンの使用量は土壌薫蒸剤に対して、0.5重量%以上15重量%以下、好ましくは、1.0重量%以上15重量%以下である。
【0018】
かくして、土壌薫蒸剤、ゼラチン、及び、多糖類の水溶液を攪拌すれば、容易に、O/W型のエマルジョン液を製造することができる。本発明で言うO/W型のエマルジョン液は、攪拌を止めて10分間放置しても、2相分離していない状態、すなわち、土壌薫蒸剤の液滴が目視で認められない状態のものを言う。
【0019】
本発明のO/W型のエマルジョン液は土壌薫蒸剤、ゼラチン、及び多糖類の水溶液を攪拌するだけで製造することができるが、更に、土壌薫蒸剤中に無機鉱物を加えると、O/W型のエマルジョン液の生成は一層早まる。
本発明で使用される無機鉱物はゼオライト、ホワイトカーボン、タルク、クレーなどが挙げられ、その粒径が200μ以下の微粒子であればよい。入手し易い微粒子状の無機鉱物として、ホワイトカーボン、クレー紛がある。無機鉱物は土壌薫蒸剤に対して、0重量%以上10重量%以下の量で使用すればよい。
【0020】
本発明のO/W型のエマルジョン液は土壌薫蒸剤、ゼラチン、2価以上の金属塩と反応してゲル化する多糖類、水、及び必要に応じて無機鉱物で構成されるが、O/W型のエマルジョン液の生成を妨げない程度に紫外線吸収剤、防腐剤、着色剤などを更に添加してもよい。
【0021】
かくして、工程(a)では、10重量%以上85重量%以下の濃度の土壌薫蒸剤を含有するO/W型エマルジョン液を製造することができる。その中で、エマルジョン液の操作性や工程(c)の乾燥時の負荷軽減から、30重量%以上80重量%以下の濃度の土壌薫蒸剤を含有するエマルジョン液が好ましい。
【0022】
次に、工程(b)について説明する。工程(b)においてはO/W型のエマルジョン液を2価以上の金属塩と反応させて、土壌薫蒸剤を含有するゲル化物を製造する。
【0023】
本発明で使用する2価以上の金属塩は、そのカチオンとして、カルシウム、マグネシウム、バリウム、亜鉛、ニッケル、銅、鉛等のカチオンであり、該カチオンを含有する水溶液としては、塩化カルシウム、硝酸カルシウム、乳酸カルシウム、クエン酸カルシウム等のカルシウム塩、塩化マグネシウム等のマグネシウム塩、塩化バリウム等のバリウム塩、塩化亜鉛、硝酸亜鉛、硫酸亜鉛等の亜鉛塩、塩化ニッケル等のニッケル塩、硫酸銅等の銅塩、酢酸鉛等の鉛塩、硝酸銀等の銀塩などの水溶液が挙げられる。中でも、塩化カルシウムが安価であり、経済的に好ましい。これらの金属塩は多糖類の使用量に対して、1重量倍以上使用すればよい。また、0.1重量%〜飽和濃度の水溶液として使用すればよい。
【0024】
O/W型のエマルジョン液を2価以上の金属塩と反応させる方法は、該エマルジョン液の液滴を2価以上の金属塩を含有する水溶液中に落とし込む方法や該エマルジョンの液滴に該2価以上の金属塩を含有する水溶液を噴霧する方法などで行うことができる。
【0025】
本発明のO/W型のエマルジョン液は2価以上の金属塩を含有する水溶液と接触すると、瞬時にゲル化物が得られ、得られたゲル化物中の土壌薫蒸剤の含有量はO/W型エマルジョン液中の土壌薫蒸剤の濃度とほぼ同じ値を示す。本発明ではエマルジョン液中の土壌薫蒸剤の濃度が高いため、ゲル化物中の土壌薫蒸剤含量も高くなる。かくして工程(b)により10重量%以上85重量%以下、好ましくは、30重量%以上80重量%以下の土壌薫蒸剤を含有するゲル化物が製造される。
【0026】
工程(b)で得られたゲル化物は土壌薫蒸剤の放出が土壌薫蒸剤に対して抑制されているが、土壌薫蒸剤の臭気は感じる。農家が使用時に土壌薫蒸剤の刺激臭を感じないために、工程(c)でゲル化物の乾燥を行う。すなわち、工程(b)で得られたゲル化物を乾燥して、本発明の土壌薫蒸剤含有固形物を製造する。
【0027】
最後に工程(c)について説明する。工程(c)において、乾燥方法は土壌薫蒸剤の沸点以下の温度で、一般的な乾燥方法、例えば、温風乾燥、減圧乾燥、風乾の乾燥方法いずれでも行うことができるが、常圧下での乾燥が好ましい。土壌薫蒸剤含有固形物中の水分量が0.5重量%以上20重量%以下、好ましくは1.0重量%以上20重量%以下になるまで乾燥を行う。かくして得られる土壌薫蒸剤含有固形物は土壌薫蒸剤を60重量%以上85重量%以下、ゼラチンを0.5重量%以上15重量%以下、無機鉱物を0%以上10重量%以下、2価以上の金属塩と反応してゲル化する多糖類を1重量%以上15重量%以下、水を0.5重量%以上20重量%以下の量を含有している。本発明で言う、土壌薫蒸剤含有固形物に対する土壌薫蒸剤の含有量はガスクロマトグラフィーや高速液体クロマトグラフィーなどの分析機器で土壌薫蒸剤量を分析した値を使用し、土壌薫蒸剤含有固形物に対するゼラチン、無機鉱物、及び2価以上の金属塩と反応してゲル化する多糖類の含有量は、各原料の使用量を土壌薫蒸剤含有固形物の重量で割った値である。また、水の含有量は土壌薫蒸剤含有固形物から、土壌薫蒸剤、ゼラチン、無機鉱物、及び2価以上の金属塩と反応してゲル化する多糖類の含有量を減じた値である。
工程(c)で得られる土壌薫蒸剤含有固形物は土壌薫蒸剤の臭気を感じないほど、土壌薫蒸剤の放出が極度に抑制されている。
【0028】
土壌薫蒸剤含有固形物から土壌薫蒸剤の放出を促進させるために、土壌薫蒸剤含有固形物を土壌に混和、あるいは土壌中に埋設するだけでよい。本発明の更なる特徴は土壌薫蒸剤の放出が極度に抑制されている土壌薫蒸剤含有固形物を土壌中に処理すると、速やかに土壌薫蒸剤を土壌中に放出することである。従来のクロルピクリン剤が処理できる土壌であれば、土壌薫蒸剤含有固形物はクロルピクリン剤と同様に、土壌薫蒸剤を土壌に放出し、土壌薫蒸期間もほぼ同じである。本発明の土壌薫蒸剤含有固形物は、土壌薫蒸剤含有固形物の粒径、及び地温にもよるが、一般に土壌薫蒸剤含有固形物の粒径が2〜30mm、地温が15℃〜25℃で、土壌薫蒸が10日〜15日で完了する。土壌薫蒸剤含有固形物の施用にあたって、土壌薫蒸剤含有固形物を手撒きや肥料散粒機などを使って土壌表面に散布後に土壌混和する方法や、苗植え付け個所に溝を堀り、該溝に土壌薫蒸剤含有固形物を散布して土壌被覆する方法などで処理すればよい。
【0029】
従来、土壌薫蒸剤の臭気があるが故に、固形肥料、殺虫剤、殺菌剤、及び/または除草剤の固形製剤と土壌薫蒸剤を同時に処理することは考えられなかった。本発明の土壌薫蒸剤含有固形物は土壌薫蒸剤の放出が極端に抑制されている固形物であるため、上記の固形製剤と同時に処理することができる。土壌薫蒸剤含有固形物を土壌表面に散布した後、上記の固形製剤を散布してもよく、上記の固形製剤を散布後、土壌薫蒸剤含有固形物を散布してもよく、あるいは、土壌薫蒸剤含有固形物と上記の固形製剤を予め混合して、混合粒剤として散布してもよい。
従来のクロルピクリン剤と同様に、土壌薫蒸効果を高めるために土壌薫蒸剤含有固形物を土壌に処理した後、ガスバリアー性フィルムで土壌表面を被覆する。
【0030】
以下に、実施例により、本発明を更に詳述する。
【実施例1】
【0031】
土壌薫蒸剤を含有するO/W型エマルジョン液(エマルジョン液番号A)の製造
300mlの四つ口フラスコにクロルピクリン(99.5%品、49g)及びゼラチン粉末(新田ゼラチン社製R微粉、0.9g)を装入した。アルギン酸ナトリウム(キミカ社製)の1.5%水溶液(48g)を加え、攪拌羽の周速が66m/分の条件で攪拌した。攪拌を開始してから5分でO/W型エマルジョン液が得られた。
【実施例2】
【0032】
土壌薫蒸剤を含有するO/W型エマルジョン液(エマルジョン液番号B)の製造
300mlの四つ口フラスコにクロルピクリン(99.5%品、49g)、ゼラチン粉末(新田ゼラチン社製R微粉、0.9g)、及びホワイトカーボン(0・9g)を装入した。アルギン酸ナトリウム(キミカ社製)の1.5%水溶液(48g)を加え、攪拌羽の周速が66m/分の条件で攪拌した。攪拌を開始してから2分でO/W型エマルジョン液が得られた。
【実施例3】
【0033】
土壌薫蒸剤を含有するO/W型エマルジョン液(エマルジョン液番号C〜K)の製造
実施例1または実施例2の方法に準じて、表−1記載の条件で土壌薫蒸剤を含有するO/W型エマルジョン液が生成する時間、及び、該エマルジョン液が得られてから、攪拌を止め、10分間放置して、相分離の有無を調べた。その結果を表−1に示した。尚、表中の略号、及び記号は以下の意味である。
【0034】
CP:クロルピクリン(三井化学(株)製品)
SO:ソイリーン(三井化学(株)製品、クロルピクリン40重量%、D−D52重量%の混合物)
D−D:1,3−ジクロルプロペン(アグロカネショウ株式会社製品、92重量%品)
無機鉱物:ホワイトカーボンを使用した。
【0035】
ARG:アルギン酸ナトリウム(キミカ社製品)
PEC:ローメトキシルペクチン(新田ゼラチン社製品)
無 :攪拌を止めて10分間静置しても相分離が起こらなかった。
有 :攪拌を止めて10分間静置した場合、相分離が起こった、またはO/W型のエマルジョン液が得られなかった。
【0036】
【表1】

【0037】
以上の結果から、ゼラチンの使用により、土壌薫蒸剤の高濃度のO/W型エマルジョン液が製造できることがわかった。更に、無機鉱物を添加すると、O/W型エマルジョン液の生成が促進されることがわかった。
【実施例4】
【0038】
土壌薫蒸剤含有のゲル化物(ゲル化物番号(a))の製造
実施例1で製造したO/W型エマルジョン液A(97g)を塩化カルシウムの1.5%水溶液(200g)に滴下し、クロルピクリンを含有するゲル化物(a)を98g(クロルピクリン含有量、49重量%)を得た。
【0039】
同様にして、実施例2〜3記載のエマルジョン液(B)〜(K)から、それぞれ、ゲル化物(b)〜(K)を得た。結果を表−2に示した。
【0040】
【表2】

【0041】
以上の結果より土壌薫蒸剤の含有量の高いゲル化物が製造できるのがわかった。
【実施例5】
【0042】
土壌薫蒸剤含有固形物(土壌薫蒸剤含有固形物番号、(A−a))の製造
実施例4で製造したゲル化物(a)90gを室温で48時間、風乾を行い、土壌薫蒸剤含有固形物(A−a)を39g(クロルピクリン含有量、80%)を得た。
【0043】
上記実施例4で得られたゲル化物(b)〜(k)を表−3記載の条件で乾燥して、それぞれ土壌薫蒸剤含有固形物(B−b)〜(K−k)を得た。
【0044】
【表3】

【0045】
以上の結果より土壌薫蒸剤含量の高い土壌薫蒸剤含有固形物が製造できるのがわかった。また、得られた土壌薫蒸剤含有固形物は土壌薫蒸剤の臭気は認められなかった。
【0046】
[参考例1]
土壌薫蒸剤含有固形物中の土壌薫蒸剤量の分析
メタノール−水(9−1、容積−容積)の溶液20mlを予め精秤したシリコン共栓付き50ml試験管に入れて、精秤した。この溶液に土壌薫蒸剤含有固形物(A−a)1粒を入れて、精秤した。6日間室温で保存した後、溶液中の土壌薫蒸剤量を高速液体クロマトグラフィーで測定した。溶液中の土壌薫蒸剤量から、土壌薫蒸剤含有固形物中に含有する土壌薫蒸剤量を算出した。
【実施例6】
【0047】
土壌薫蒸剤含有固形物の臭気の測定
実施例4、5で得られたゲル化物、土壌薫蒸剤含有固形物をクロルピクリン量に換算にして、5gを500mlポリ容器に入れ、密封して室温で24時間保存した。気相部の空気を200ml採取し、メタノール10mlに吸収させた。メタノール液中のクロルピクリン量を高速液体クロマトグラフィーで測定した。
【0048】
【表4】

【0049】
以上の結果より土壌薫蒸剤含有固形物は土壌薫蒸剤及びゲル化物に対して、極度に土壌薫蒸剤の放出が抑制されていた。
【実施例7】
【0050】
300mlの四つ口フラスコにクロルピクリン(99.5%品、37g)、ホスチアゼート(商品名、ネマトリン、12g)を装入して混合した。その混合液にゼラチン粉末(新田ゼラチン社製R微粉、0.9g)、及びホワイトカーボン(0.9g)を装入した。アルギン酸ナトリウム(キミカ社製)の1.5%水溶液(48g)を加え、攪拌羽の周速が66m/分の条件で攪拌して、O/W型エマルジョン液を製造した。該エマルジョン液(97g)を塩化カルシウムの1.5%水溶液(200g)に滴下し、クロルピクリンとホスチアゼートを含有するゲル化物を98g(クロルピクリン含有量、37重量%、ホスチアゼート含有量、12%)を得た。同ゲル化物(90g)を48時間、風乾して、クロルピクリンとホスチアゼートを含有する固形物を45g(クロルピクリン含有量、55重量%、ホスチアゼート含有量、26重量%)を得た。クロルピクリン臭はしなかった。この結果から、クロルピクリンと他の農薬の混合農薬においても、土壌薫蒸剤含有固形物が得られることがわかった。
【実施例8】
【0051】
土壌薫蒸剤含有固形物の土壌処理試験
62.2L容積のコンテナに茂原市近郊の土壌(土壌水分、15重量%)を41L充填した。コンテナの中央部に実施例5で得られた土壌薫蒸剤固形物A−a、B−b、F−f、G−g、J−jをクロルピクリン量に換算して3gを深さ10cmに埋設した。同様に、下記の比較製剤X、Yを埋設した。埋設後、上面を0.05mmの農業用ビニールシートで被覆した。30分、1時間、3時間、7時間、24時間、48時間、72時間、96時間、168時間、240時間後に気相部の空気を200ml採取し、メタノール10mlに吸収させた。メタノール液をHPLC分析して、クロルピクリン量を調べた。
【0052】
比較製剤X:クロルピクリン3gを4cm×9cmのポリビニルアルコールフィルム(日本合成化学工業社製、ハイセロンS400C)袋に入れ、密封した製剤。
【0053】
比較製剤Y:ソイリーン(三井化学株式会社製品)3gを4cm×9cmのポリビニルアルコールフィルム(日本合成化学工業社製、ハイセロンS400C)袋に入れ、密封した製剤。
【0054】
【表5】

【0055】
以上の結果より土壌薫蒸剤含有固形物を土壌に処理すると、比較剤の土壌薫蒸剤と同様に土壌薫蒸を行うことができるのがわかった。
【実施例9】
【0056】
キュウリつる割れ病に対する効果
キュウリつる割れ病菌(Fusarium oxysporum f.sp.cucumerinum)に汚染された圃場をトラクターにて耕耘砕土し、幅120cm、長さ600cmを一つの試験区とした。実施例5で得られた土壌薫蒸剤含有固形物I−i(55g)を全面に散布し、その後、土壌混和した。土壌混和後、土壌表面を厚さ0.05mmのポリエチレンフィルムで被覆した。比較剤として、クロルピクリン(三井化学製品)を深さ15cmのところに30cm間隔で、1穴当たり3mlずつ注入し覆土し、ポリエチレンフィルムで被覆した。処理20日後にポリエチレンフィルム被覆を除去し、キュウリ苗を1区当たり40本植え付けた。移植40日後に地際部の導管の褐変程度でキュウリつる割れ病の罹病程度を調べた。
【0057】
【表6】

【0058】
表−6から、土壌薫蒸剤含有固形物I−iは比較剤のクロルピクリン剤と同様の効果を示した。すなわち、土壌薫蒸剤含有固形物は比較剤の土壌薫蒸剤と同様の薫蒸効果を有することがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明の土壌薫蒸剤含有固形物は土壌薫蒸剤の高濃度エマルジョン液から製造しているため、乾燥時の負荷の少ない高い含有量の土壌薫蒸剤含有固形物である。本固形物は人が土壌薫蒸剤の臭気を感じないほど、土壌薫蒸剤の放出が極度に制御されているため、農家が簡便に取り扱うことが可能である。また、同固形物を土壌に処理すると、速やかに、且つ、短期間で土壌を薫蒸することができ、1年間の作物の作付け回数を減じることがなく、作物生産において有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
土壌薫蒸剤を60重量%以上85重量%以下、ゼラチンを0.5重量%以上15重量%以下、無機鉱物を0重量%以上10重量%以下、2価以上の金属塩と反応してゲル化する多糖類を1重量%以上15重量%以下、水を0.5重量%以上20重量%以下の量を含有することを特徴とする土壌薫蒸剤含有固形物。
【請求項2】
土壌薫蒸剤が沸点が40℃以上で且つ、蒸気圧が70Pa/20℃以上である土壌薫蒸剤であることを特徴とする請求項1項に記載の土壌薫蒸剤含有固形物。
【請求項3】
土壌薫蒸剤がクロルピクリン、D−D、及びイソチアン酸アリルから選ばれる1種以上の土壌薫蒸剤であることを特徴とする請求項2記載の土壌薫蒸剤含有固形物。
【請求項4】
2価以上の金属塩と反応してゲル化する多糖類が水可溶性のアルギン酸塩、ローメトキシルペクチン、及びカッパーカラギーナンから選ばれる1種以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の土壌薫蒸剤含有固形物。
【請求項5】
以下の(a)〜(c)の工程を通して製造されることを特徴とする請求項1記載の土壌薫蒸剤含有固形物の製造法。
(a)2価以上の金属塩と反応してゲル化する多糖類の水溶液と土壌薫蒸剤、ゼラチン、及び無機鉱物を攪拌して、10重量%以上85重量%以下の土壌薫蒸剤を含有するO/W型エマルジョン液を製造する、
(b)工程(a)で得られたエマルジョン液を2価以上の金属塩と反応させて、ゲル化物を製造する、
(c)工程(b)で得られたゲル化物を乾燥させて土壌薫蒸剤含有固形物を製造する。
【請求項6】
土壌薫蒸剤がクロルピクリン、D−D、及びイソチアン酸アリルから選ばれる1種以上の土壌薫蒸剤であることを特徴とする請求項5記載の土壌薫蒸剤含有固形物の製造法。
【請求項7】
2価以上の金属塩と反応してゲル化する多糖類を土壌薫蒸剤に対して、1重量%以上15重量%以下の量を使用することを特徴とする請求項5、6のいずれか一項に記載の土壌薫蒸剤含有固形物の製造法。
【請求項8】
2価以上の金属塩と反応してゲル化する多糖類が水可溶性のアルギン酸塩、ローメトキシルペクチン、及びカッパーカラギーナンから選ばれる1種以上であることを特徴とする請求項5〜7のいずれか一項に記載の土壌薫蒸剤含有固形物の製造法。
【請求項9】
ゼラチンを土壌薫蒸剤に対して、0.5重量%以上15重量%以下の量を使用することを特徴とする請求項5〜8のいずれか一項に記載の土壌薫蒸剤含有固形物の製造法。
【請求項10】
無機鉱物を土壌薫蒸剤に対して、0%以上10重量%以下の量を使用することを特徴とする請求項5〜9のいずれか一項に記載の土壌薫蒸剤含有固形物の製造法。
【請求項11】
工程(b)で得られるゲル化物を乾燥させて、水を土壌薫蒸剤含有固形物に対して、0.5重量%以上20重量%以下の量にすることを特徴とする請求項5〜10のいずれか一項に記載に記載の土壌薫蒸剤含有固形物の製造法。
【請求項12】
請求項5〜11のいずれか一項に記載の工程(c)の方法により製造される土壌薫蒸剤含有固形物。
【請求項13】
請求項5〜10いずれか一項に記載の工程(b)の方法で製造されるゲル化物。
【請求項14】
請求項5〜10いずれか一項に記載の工程(a)の方法で製造されるO/W型エマルジョン液。

【国際公開番号】WO2005/044003
【国際公開日】平成17年5月19日(2005.5.19)
【発行日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−515286(P2005−515286)
【国際出願番号】PCT/JP2004/016234
【国際出願日】平成16年11月1日(2004.11.1)
【出願人】(000005887)三井化学株式会社 (2,318)
【Fターム(参考)】