説明

土留め構造とその施工方法

【課題】土留め壁の変形抑制効果が高く、土留めの平面的な規模が広範囲となる場合でも床付け以深における地盤改良範囲を広範囲とする必要がなく、もって工費高騰の課題も生じ得ない、土留め構造とその施工方法を提供すること。
【解決手段】少なくとも掘削床付けT以深に粘性土を有する地盤Gに適用される土留め構造100であって、土留め壁10と、土留め壁10の掘削床付けT以深に造成された地盤改良体40と、からなり、平面視においてこの地盤改良体40は、土留め壁10に当接してこれに沿う方向に延設する帯部20と、該帯部20から掘削側に突出する複数の突出部30と、からなり、土留め壁背面からの土圧Paに抗する受働反力が、少なくとも帯部20が床付けT以深の粘性土Gから受ける地盤反力Pp1と、突出部30と床付けT以深の粘性土Gとの摩擦力Pfと、からなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも床付け以深に粘性土を有する地盤に適用される土留め壁と、この土留め壁を施工する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
地下構造物や半地下構造物などの施工においては、建設対象である原地盤を掘削して床付け面を形成し、底版を構築した後に順次上方に躯体を立上げていく施工方法が一般に適用されている。
【0003】
そして、原地盤の掘削に際しては、これに先行して鋼矢板や親杭横矢板、鋼管矢板、柱列式連続壁(ソイルセメント柱列壁、泥水固化壁、モルタル柱列壁など)、地中連続壁などからなる土留め壁を施工し、表層からの掘削に伴って所望レベルに腹起こしや切りばり、土留めアンカーなどの支保工を施工して掘削空間の安定的な確保を図っている。
【0004】
ところで、軟弱な地盤に上記する土留め壁を施工するに当たり、床付け以深で土留め壁の根入れ長程度の範囲においては、土留め壁の安定を担保するために各種の地盤改良がおこなわれ、床付け以深における、いわゆる「受働反力」の増加が図られている。
【0005】
土留め壁背面からの土圧(土水圧を含む)に対しては、土留め壁自体の剛性(曲げ剛性、せん断剛性等)と、上記する支保工反力(自立式で支保工なしの場合はこの反力はない)と、上記する床付け以深の受働反力と、からなる抵抗力で掘削空間を安定的に確保している。そして、この受働反力は、地盤掘削当初から床付けまでの掘削施工、そして構造物の構築に至る全施工期間に亘って、作用土圧に対する土留め壁の安定確保を図るために極めて重要な要素である。
【0006】
ここで、受働反力の増加が余儀なくされ、床付け以深に地盤改良が往々にして実施される「軟弱な地盤」とは、ボーリング調査によるN値が5程度かそれ以下で、圧密の可能性がある粘性地盤(粘性地盤には、粘土、シルト、腐植土、泥炭土などが含まれる)や、高い地下水位を有して液状化の可能性がある砂質地盤など、支持力が不足し、圧密沈下や液状化などが懸念される地盤のことを意味している。
【0007】
上記する地盤改良は、原地盤を掘削して床付け面を形成した後におこなう方法や、掘削に先行して地表から原地盤の所望深度範囲をターゲットとしておこなう方法などがある。また、その改良形態としては、薬剤やセメントなどを地盤内に注入して柱状やブロック状の改良体を造成する形態(固結方法)、地盤内に砂を圧入して締固めたり、地盤内に砂杭を造成して地盤の圧密と間隙水の強制排水をおこなう形態(締固め工法であって、バイブロフローテーション工法、サンドドレーン工法、ペーパードレーン工法などがある)などを挙げることができる。
【0008】
ここで、図4,5には、土留め壁と支保工、および床付け以深の地盤改良体からなる従来の土留め構造を示しており、図4はその縦断面図を、図5a,bはともに図4のV−V矢視図であって地盤改良体の2つの代表形態をそれぞれ示している。
【0009】
軟弱な原地盤Gには、たとえば平面視矩形で枠状(無端状)に土留め壁Yが施工され、対向する土留め壁Y,Y間を、腹起こしS1、S1を介して切梁S2で支保し、掘削してできた床付けT以深の土留め壁Yの根入れ長程度の範囲には、多数の柱状改良杭K1,…からなる地盤改良体Kが造成されて、土留め構造Dが形成されている。
【0010】
この土留め構造Dに関し、従来の地盤改良体は、図5a,bで示すように、対向する土留め壁Y,Y間を床付け以深で地中梁のように繋ぐように造成されており、この構造は、この地盤改良体による地中梁によって双方の土留め壁Y,Yから反力を取り、土留め壁Yの根入れの安定性を確保しようという設計思想に基づいている。
【0011】
具体的には、図4で示すように、土留め壁Yの背面から作用する土圧Paに対して、切梁反力Q1、土留め壁Yの剛性、および地盤改良体Kの受働反力Q2で抵抗する。この受働反力Q2に関し、これを十分に発揮させるには、対向する土留め壁Y,Y間を地盤改良体Kで繋いで地中梁を形成する必要がある、というのが従来の設計思想である。
【0012】
ここで、地盤改良体の形態に関し、図5aで示す地盤改良体Kは、床付け全面の下方に柱状改良杭K1を密に配置する形態であり、図5bで示す地盤改良体Kは、柱状改良杭K1を格子状に造成し、格子の一部が土留め壁Y,Y間を繋ぐ地中梁となっている形態である(各地中梁から反力Q2’が作用している)。
【0013】
図示するように、従来の土留め構造を形成する地盤改良体は、その全部もしくは一部が対向する土留め壁間に跨る地中梁として造成されている。したがって、掘削範囲が広範囲となり、土留め壁間距離が長くなる場合には自ずと地盤改良範囲が増大し、これは工費の高騰に直結する。また、土留め壁間距離がたとえば50m以上にも及ぶ場合において、この土留め壁間を繋ぐようにして地盤改良杭を連続させて地中梁を造成したとして、果たしてその地盤改良杭による地中梁が期待されるような梁機能、すなわち、土留め壁間を強固に繋いで該土留め壁から受ける反力を地中梁内に伝達させ、土留め壁の変形を十分に抑制するといった効果を発揮し得るものか否かは極めて疑問である。
【0014】
このように、従来の土留め構造を形成する地盤改良体の形態が、上記する工費高騰の原因となり得ること、および、特に土留め壁間距離が長い場合に、実際には期待される地中梁機能を十分に発揮できていない可能性が高いこと、などの課題に対し、本発明者等はこれらの課題を解消できる土留め構造の発案に至っている。
【0015】
ここで、土留め壁の構造や施工方法に関する従来の公開技術に目を転じるに、この公開技術は多岐に亘るが、その一つとして特許文献1に開示の山留め工法を挙げることができる。
【0016】
この土留め工法は、山留め壁の掘削面側にこの山留め壁に直交する控え壁を間隔をおいて複数設けるものであり、この控え壁は硬質地盤に対して未着底状態で施工された柱列状の地盤改良体から形成し、対向する控え壁間に残された未改良の原地盤と控え壁を、控え壁の表面に設けられた凹凸面によって一体化させるものであり、さらに、この控え壁は山留め壁に対して非結合の状態で設けられるものである。
【0017】
この工法によれば、地盤改良体からなる控え壁によって山留め壁の変形を抑制することができる、としている。しかし、地盤改良体が軟弱な粘性地盤に造成される場合には、控え壁の表面に凹凸面を設けたところで、対向する控え壁とその間の軟弱な原地盤が一体に挙動するとは到底考えられない。また、山留め壁から離して地盤改良体が造成されることから、山留め壁の初期変形を抑止することができず、したがって十分な変形抑止効果が得られるか否かは極めて疑問である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】特開2001−355237号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本発明は上記する問題に鑑みてなされたものであり、土留め壁の変形抑制効果が高く、土留めの平面的な規模が広範囲となる場合であっても床付け以深における地盤改良範囲を広範囲とする必要がなく、もって工費高騰の課題も生じ得ない、土留め構造とその施工方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0020】
前記目的を達成すべく、本発明による土留め構造は、少なくとも掘削床付け以深に粘性土を有する地盤に適用される土留め構造であって、土留め壁と、前記土留め壁の掘削床付け以深に造成された地盤改良体と、からなり、平面視において、前記地盤改良体は、前記土留め壁に当接してこれに沿う方向に延設する帯部と、該帯部から掘削側に突出する複数の突出部と、からなり、土留め壁背面からの土圧に抗する受働反力が、少なくとも前記帯部が床付け以深の粘性土から受ける地盤反力と、前記突出部と床付け以深の粘性土との摩擦力と、からなるものである。
【0021】
本発明の土留め構造は、その床付け以深に粘性土を有する地盤に適用されるものであり、床付け以深の粘性土と地盤改良体を構成する突出部との間の摩擦力もしくは粘着力を土留め壁背面からの土圧に抗する受働反力として発揮させること、言い換えれば、この摩擦力もしくは粘着力を設計時の受働反力に反映させて地盤改良範囲を設定し、従来の土留め構造に比して改良範囲を低減しようとするものである。
【0022】
床付け以深の粘性土の分布態様としては、床付け以深であって土留め壁の根入れ長の全範囲に粘性土が存在する地盤のみならず(表層から一様に粘性土が広がる地盤など)、その一部の範囲にのみ粘性土が存在するものであってもよい。たとえば、床付け以深であって土留め壁の根入れ範囲に粘性土層と砂質土層が積層している場合には、この粘性土層の厚み範囲において地盤改良体との間の摩擦力が設計時の受働反力として勘案される。
【0023】
ここで、「受働反力」とは、土留め壁の掘削側の床付け以深の地盤から該土留め壁に対して作用する反力のことであり、本土留め構造においては、土留め壁に当接する地盤改良体が原地盤から直接的に受働反力を受け、これを土留め壁に対して土圧抵抗反力として作用させることとなる。
【0024】
また、「粘性土」とは、軟弱地盤、硬質地盤を問わず、少なくとも粘着力を有して、地盤改良体との間で摩擦力を考慮できる地盤を意味しており、比較的硬質な粘土〜軟質な粘土やシルト、腐植土、泥炭土などがその対象である。尤も、土留め壁の根入れを地盤改良にて補強しようとすることに鑑みれば、ここで言う粘性土は一般に軟弱地盤がその対象となる。
【0025】
土留め壁は、延長の長い直線状であってもよいし、平面視で矩形、四角形、円形、楕円形等の枠状(無端状)の形態であってもよい。
【0026】
本発明の土留め構造を形成する地盤改良体は、土留め壁に当接してこれに沿う方向に延設する帯部と、この帯部から掘削側に突出する複数の突出部と、から構成されており、平面視でいわゆる櫛歯状を呈している。
【0027】
そして、この地盤改良体を構成する帯部および突出部は、たとえば、薬剤やセメントなどを地盤内に注入して柱状やブロック状に造成された改良体を隣接姿勢で形成することにより、あるいは、地盤内に砂を圧入し、締固める等して柱状やブロック状に造成された改良体を隣接姿勢で形成することにより、その全体が造成される。
【0028】
上記する帯部の径および高さ(改良高さ)、突出部の突出長と高さ、隣接する突出部間の離間(これは突出部の基数に関連する)は、作用土圧の大きさ、改良杭の仕様、粘性土の有する粘着力や必要となる摩擦力などによって適宜調整される。
【0029】
本土留め構造においては、土留め壁背面から土留め壁に作用する土圧に抗する受働反力として、土留め壁に直接当接する地盤改良体のうちの帯部が床付け以深の粘性土から受ける地盤反力のほかに、突出部と床付け以深の粘性土との間で作用する摩擦力を勘案するものである。すなわち、少なくともこの地盤反力と摩擦力が作用土圧に対する受働反力となる。
【0030】
本発明者等は、従来の土留め構造における設計思想、すなわち、土留め壁間を地盤改良体からなる地中梁で繋ぐことで土留め壁根入れ部の受働反力が得られるとする設計思想に代えて、地盤改良体を帯部と突出部とからなる構造とし、この突出部と粘性土との摩擦力を受働反力に加味するという新規な設計思想に想到し、この合理的な設計思想(技術思想)を前提として本発明の土留め構造に至っている。
【0031】
本発明の土留め構造によれば、特に土留めの平面的な規模が広範囲となる場合に、地盤改良範囲を可及的に小規模としながら、土留め壁根入れ部の受働反力を増大させ、これに起因して作用土圧による土留め壁の変形を効果的に抑制することができる。このことはまた、工期の短縮、騒音や振動等の低減による周辺環境に配慮された施工の実現にも繋がるものである。
【0032】
また、本発明による土留め構造のより好ましい形態として、土留め壁背面からの土圧に抗する受働反力として、前記突出部の先端面積が床付け以深の粘性土から受ける地盤反力がさらに加えられる土留め構造を挙げることができる。
【0033】
たとえば、床付け以深が一様な粘性土からなり、地盤改良体を構成する突出部がφ:Rcmの柱状に改良された改良杭の場合には、幅Rcmとその改良杭長:Lcmによって決定される面積が床付け以深の粘性土から地盤反力を受ける範囲となる。
【0034】
そこで、この地盤反力をも設計に反映させること、すなわち、帯部が床付け以深の粘性土から受ける地盤反力と、突出部と床付け以深の粘性土との間の摩擦力と、さらに、突出部の先端面積が床付け以深の粘性土から受ける地盤反力と、を作用土圧に対する受働反力とすることにより、地盤改良範囲をより一層狭小化することができ、地盤改良に要する工費の節減に繋がる。
【0035】
また、本発明による土留め構造の施工方法は、少なくとも掘削床付け以深に粘性土を有する地盤に対して土留め壁を構築し、床付けまで地盤の掘削をおこない、該地盤の掘削に先行して、もしくは地盤の掘削の後に少なくとも掘削床付け以深に地盤改良体を造成する、土留め構造の施工方法において、前記地盤改良体は帯部と突出部とからなり、土留め壁背面からの土圧に抗する受働反力が、少なくとも前記帯部が床付け以深の粘性土から受ける地盤反力と、前記突出部と床付け以深の粘性土との摩擦力と、からなるものであって、前記土留め壁に当接してこれに沿う方向に延設する該帯部を施工し、該帯部から掘削側へ突出する複数の該突出部を施工するものである。
【0036】
ここで、帯部を施工した後の複数箇所の突出部の施工は、その全部を一度に並行して施工してもよいし、順次施工してもよい。
【0037】
本発明の施工方法によれば、特に土留めの平面的な規模が広範囲となる場合に、従来の施工方法に比して地盤改良範囲を大幅に狭くでき、工期の短縮と工費節減の双方を実現することができる。
【発明の効果】
【0038】
以上の説明から理解できるように、本発明の土留め構造とその施工方法によれば、少なくとも掘削床付け以深に粘性土を有する地盤に対して、土留め壁に当接してこれに沿う方向に延設する帯部と、該帯部から掘削側に突出する複数の突出部と、からなる地盤改良体を造成し、この突出部と粘性土との間の摩擦力を作用土圧に対する受働反力に見込むことで、地盤改良範囲を低減しながら、作用土圧によって土留め壁が変形するのを効果的に抑制することができる。また、この受働反力として、突出部の先端面積が床付け以深の粘性土から受ける地盤反力をさらに見込むことで、地盤改良範囲をより一層低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の土留め構造の一実施の形態の平面図である。
【図2】(a)は図1のIIa−IIa矢視図であり、(b)は図1のIIb−IIb矢視図である。
【図3】(a)は図1のIII部において、作用土圧とこれに抗する受働反力を模式的に説明した平面図であり、(b)はその縦断図である。
【図4】従来の土留め構造を説明する縦断面図である。
【図5】(a)、(b)はそれぞれ、図4のV−V矢視図であって、従来の土留め構造を構成する地盤改良体の実施の形態を示した平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。なお、図示例は、土留め壁が平面視で矩形枠状に形成されたものであるが、造成される土留め壁の平面輪郭は、これ以外にも正方形、円形、楕円形などの無端状のほか、護岸工事などの場合に適用される直線状なども含むものである。また、図示例は、土留め範囲が比較的広範囲な土留め構造を示しているが、小規模な土留め範囲に対しても当然に本発明の土留め構造が適用でき、その効果が享受できる。
【0041】
図1は本発明の土留め構造の一実施の形態の平面図であり、図2aは図1のIIa−IIa矢視図であり、図2bは図1のIIb−IIb矢視図である。
【0042】
図示する土留め構造100は、表層から一様に粘性土が広がる地盤Gに対し、矩形枠状に造成された土留め壁10と、その掘削側の床付けT以深に造成された地盤改良体40と、から大略構成されている。
【0043】
図示する土留め壁100は、その長手方向の長さLが50m以上にも及ぶ平面規模の大きなものであり、その形態は、鋼矢板や親杭横矢板、鋼管矢板、柱列式連続壁、地中連続壁などのうちのいずれか一種からなる。
【0044】
また、地盤の掘削に応じて、図2a,b中、点線矢印50で示すような切梁等の支保工が所望レベルに施工されるが、土留め壁10の剛性が高く、地盤性状との関係で自立式土留めが可能な場合には支保工設置は不要となる。
【0045】
土留め壁10の掘削側の床付けT以深に造成される地盤改良体40は、図1で示す平面視において、土留め壁10に当接してこれに沿う方向に延設する帯部20と、この帯部20から掘削側に突出する複数の突出部30,…と、から構成される。
【0046】
そして、これら帯部20、突出部30は、薬剤やセメントなどを地盤内に注入し、地盤と攪拌してできる複数の柱状改良杭2,3が隣接姿勢で列状に造成されてそれらが構成されている。なお、地盤改良の形態はこれ以外にも、ブロック状の改良体を造成する形態や、地盤内に砂を圧入して締固め、砂杭を造成する形態など、他の公知の改良形態を適用することができる。
【0047】
図1からも明らかなように、地盤改良体40を構成する突出部30は、対向する土留め壁10,10間に跨る長尺形態ではなく、土留め壁10の平面的な辺長に比して極めて短いものとなっている。そして、土留め壁10を構成する矩形輪郭の4つの辺のいずれに対しても、それらの掘削側には、帯部20とこれから突出する複数の突出部30とからなる、いわゆる櫛歯状の地盤改良体40が造成されている。
【0048】
ここで、図3を参照して、地盤改良体40による受働反力と、土留め構造100を設計する際の設計思想について説明する。なお、図3aは図1のIII部において、作用土圧とこれに抗する受働反力を模式的に説明した平面図であり、図3bはその縦断図である。
【0049】
地盤改良体40は、粘性土地盤G内に造成されていることより、粘性土の土質性状によって粘着力が相違するものの、この粘性土Gとの間で摩擦力を見込むことができる。
【0050】
図3aで示すように、土留め壁10に対しては、まず、受働反力の一つとして、これに当接する地盤改良体のうちの帯部20がその背面の粘性土Gから受ける地盤反力Pp1が作用する。
【0051】
また、受働反力の他の一つとして、地盤改良体のうちの突出部30の側面と粘性土Gとの間の摩擦力Pfが土留め壁10に作用する。
【0052】
さらに、受働反力の他の一つとして、突出部30の先端面積が粘性土Gから受ける地盤反力Pp2が作用する。
【0053】
すなわち、土留め壁10に作用する土圧Paに抗する受働反力として、帯部20がその背面の粘性土Gから受ける地盤反力Pp1以外に、突出部30の側面と粘性土Gとの間の摩擦力Pfと、突出部30の先端面積が粘性土Gから受ける地盤反力Pp2を受働反力に含む設計思想であり、この設計思想を前提として図示する地盤改良体40の平面形状が形成されている。
【0054】
なお、柱状改良杭2,3の断面径や改良高さ、突出部30の突出長と改良高さ、隣接する突出部30,30間の離間(これは突出部30の基数に関連する)などは、作用土圧の大きさ、改良杭の仕様、粘性土の有する粘着力や必要となる摩擦力などによって適宜調整されるものである。
【0055】
図示する土留め構造100によれば、土留め壁10に当接してこれに沿う方向に延設する帯部20と、この帯部20から掘削側に突出する複数の突出部30,…と、から地盤改良体40を構成し、突出部30の側面と粘性土Gとの間の摩擦力Pfと、突出部30の先端面積が粘性土Gから受ける地盤反力Pp2を受働反力に含むことにより、土留めの平面規模が大きな場合でも、従来の土留め構造に比して地盤改良範囲を大幅に狭小化することができる。また、この地盤改良範囲の狭小化に伴い、工費の節減、工期の短縮などにも繋がる。さらに、帯部20は土留め壁10に当接した姿勢で造成されていることから、作用土圧による土留め壁10の初期変形を十分に抑制することができ、もって作用土圧による土留め壁10の全変形量の低減を図ることができる。
【0056】
以上、本発明の実施の形態を図面を用いて詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における設計変更等があっても、それらは本発明に含まれるものである。
【符号の説明】
【0057】
2,3…柱状改良杭、10…土留め壁、20…帯部、30…突出部、40…地盤改良体、100…土留め構造、G…粘性土(地盤)、T…床付け

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも掘削床付け以深に粘性土を有する地盤に適用される土留め構造であって、
土留め壁と、
前記土留め壁の掘削床付け以深に造成された地盤改良体と、からなり、
平面視において、前記地盤改良体は、前記土留め壁に当接してこれに沿う方向に延設する帯部と、該帯部から掘削側に突出する複数の突出部と、からなり、
土留め壁背面からの土圧に抗する受働反力が、少なくとも前記帯部が床付け以深の粘性土から受ける地盤反力と、前記突出部と床付け以深の粘性土との摩擦力と、からなる土留め構造。
【請求項2】
土留め壁背面からの土圧に抗する受働反力として、前記突出部の先端面積が床付け以深の粘性土から受ける地盤反力がさらに加えられる、請求項1に記載の土留め構造。
【請求項3】
平面視において、前記土留め壁が無端状を呈している、請求項1または2に記載の土留め構造。
【請求項4】
少なくとも掘削床付け以深に粘性土を有する地盤に対して土留め壁を構築し、床付けまで地盤の掘削をおこない、該地盤の掘削に先行して、もしくは地盤の掘削の後に少なくとも掘削床付け以深に地盤改良体を造成する、土留め構造の施工方法において、
前記地盤改良体は帯部と突出部とからなり、土留め壁背面からの土圧に抗する受働反力が、少なくとも前記帯部が床付け以深の粘性土から受ける地盤反力と、前記突出部と床付け以深の粘性土との摩擦力と、からなるものであって、
前記土留め壁に当接してこれに沿う方向に延設する該帯部を施工し、該帯部から掘削側へ突出する複数の該突出部を施工する、土留め構造の施工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−202373(P2011−202373A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−68507(P2010−68507)
【出願日】平成22年3月24日(2010.3.24)
【出願人】(000206211)大成建設株式会社 (1,602)
【Fターム(参考)】