説明

土砂捕捉構造物および砂防堰堤

【課題】温度変化によって各部材の結合部に発生するモーメントや軸力を抑えながら、十分な施工スペースが確保できる土砂捕捉構造物と砂防堰堤を提供する。
【解決手段】土砂捕捉構造物1000は、基礎9に固定される骨組み構造100とこれに設置された複数の横桟6とを有す。骨組み構造100は、鉛直に立設された上流側支柱1と、上流側に傾斜した中間支柱2および下流側支柱3と、これらに固定された上流側の水平梁4および下流側の傾斜梁5とを有し、水平梁4と傾斜梁5とが接合する屈曲部45が上流側支柱1と中間支柱2との間に位置している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は土砂捕捉構造物および砂防堰堤、特に、土石流により河川を流下する砂礫、土砂および流木を捕捉する土砂捕捉構造物および該土砂捕捉構造物を有する砂防堰堤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、河川を流下する砂礫及び細粒分の土砂を含む土石流〜掃流を捕捉する土砂捕捉用砂防堰堤として、基礎部と、流水を阻害しない透過形状の格子部を有する本堤と、本堤よりも下流側に設けられた副堤と、を有する発明が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特開2006−328658号公報(第4−6頁、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示された発明は、副堤によって発生させた堰上げによって、本堤の上流に達する湛水域を形成するものである。そうすると、かかる湛水域において堆砂肩(土砂や砂礫の堆積物)が形成されるものの、かかる堆砂肩は格子部の横桟に引っ掛かるため、下流への進行が停止されることになる。すなわち、まず、最下段に配置された横桟と基礎との隙間が堆砂肩によって閉塞され、その後、より高段の横桟同士の隙間が堆砂肩によって閉塞される。このとき、最下段に配置された横桟を複数本にして、上流側に張り出すように配置すると、堆砂肩の抜け出しがさらに抑制されるものである。
【0005】
しかしながら、最下段に配置された横桟と基礎との距離を近づけて、上流側に張り出すように配置しようとすると、かかる複数本の横桟の端部が固定される構造物を、それぞれ鋼管によって形成された支柱と梁との骨組み構造とした場合、前記最下段に配置された横桟(上流側に張り出すように配置される)が固定される水平梁部分は、比較的短尺であって、かかる水平梁部分の両端を支持する一対の支柱も、比較的短尺で、しかも、遠く離れないで平行に立設されるため、以下のような問題があった。
(あ)季節に応じた温度変化によって各部材の結合部に、大きなモーメント、引張力や圧縮力による軸力が発生するため、部材のサイズアップ(鋼管径や管厚)や材質変更(成分調整や熱処理の追加)が必要となり、製造コストを押し上げる一因になる。
(い)水平梁部分を2部材によって構成し、これらを機械的に接合(フランジ同士をボルト接合)しようとしても、十分な施工スペースが確保できないため、施工に時間を要したり、接合形態を変更したりする必要が生じ、施工コストを押し上げる一因になる。
(う)水平梁部分を支持する支柱が鉛直に立設されるため、中小洪水で流出する土砂や 礫の衝突を受けやすく、修理等の維持管理コストが上昇する一因になる。
【0006】
本発明は、前記問題を解決するものであって、季節に応じた温度変化によって各部材の結合部に発生するモーメントや軸力を抑えながら、十分な施工スペースが確保でき、さらに、土砂や礫の衝突による損傷を軽減することができる土砂捕捉構造物と、該土砂捕捉構造物を有する砂防堰堤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)本発明に係る土砂捕捉構造物は、通水自在な間隔を空けて配置された複数の横桟と、該複数の横桟が設置される複数の骨組み部分とを有し、河床に設置された基礎に固定されるものであって、
前記基礎に鉛直に立設された上流側支柱と、
該上流側支柱よりも下流側において前記基礎に立設された中間支柱と、
該中間支柱よりも下流側において前記基礎に立設された下流側支柱と、
所定の間隔を空けて配置された複数の横桟と、
前記上流側支柱の上部に固定され、前記複数の横桟の一部が設置される水平梁と、
前記中間支柱の上部および前記下流側支柱の上部に固定されて、下流側になるほど高くなるように傾斜した、前記複数の横桟の一部が設置される傾斜梁と、
を有し、
前記水平梁の端部と前記傾斜梁の端部とが、前記上流側支柱と前記中間支柱との間において接合されていることを特徴とする。
【0008】
(2)前記(1)において、前記傾斜梁が鉛直に対して、45°以上の角度を形成して傾斜していることを特徴とする。
(3)前記(1)または(2)において、前記傾斜梁が、前記水平梁に冶金的(溶接)に接合された上流側傾斜部分と、前記中間支柱に固定された下流側傾斜部分と、から構成され、
前記上流側傾斜部分と前記下流側傾斜部分とがフランジ継手によって機械的(ボルト接合)に接合されていることを特徴とする。
【0009】
(4)前記(1)において、前記傾斜梁が中間傾斜部分と下流側傾斜部分とから構成され、前記下流側傾斜部分が鉛直に対してなす角度が、前記中間傾斜部分が鉛直に対してなす角度よりも小さいことを特徴とする。
(5)前記(4)において、前記中間傾斜部分が鉛直に対して、45°以上の角度を形成して傾斜していることを特徴とする。
(6)前記(4)または(5)において、前記中間傾斜部分が、前記水平梁に冶金的に接合された上流側中間部分と、前記中間支柱に固定された下流側中間部分とから構成され、
前記上流側中間部分と前記下流側中間部分とがフランジ継手によって機械的に接合されていることを特徴とする。
【0010】
(7)前記(1)乃至(6)の何れかにおいて、前記中間支柱が、上端の方が下端よりも上流側になるように傾斜していることを特徴とする。
(8)前記(1)乃至(7)の何れかにおいて、前記上流側支柱が鉛直に代えて、上端の方が下端よりも下流側になるように傾斜していることを特徴とする。
【0011】
(9)本発明に係る砂防堰堤は、河床に設置された本堤と、該本堤よりも下流側において河床に設置された副堤と、を有する砂防堰堤であって、
前記本堤は、河床に設置された基礎と、該基礎に固定された請求項1乃至8の何れかに記載の土砂捕捉構造物と、前記土砂捕捉構造物の両側部にそれぞれ対向して河床に設置された本堤本体と、を有し、
前記副堤により堰上げした場合に、少なくとも前記複数の横桟のうち最も上流側にある横桟の下面が、堰上げした水中に没することを特徴とする。
(10)前記(9)において、 前記副堤には、通水自在な複数の縦スリットが形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
(i)本発明に係る土砂捕捉構造物は、水平梁の端部と傾斜梁の端部とが接合された位置である屈曲部が、上流側支柱と中間支柱との間に位置しているから、上流側支柱および中間支柱の高さが低い(長さが短いに同じ)場合であっても、上流側支柱と基礎との結合部あるいは中間支柱と基礎との結合部に発生する温度変化に伴う曲げモーメントおよび軸力が低減される。よって、当該土砂捕捉構造物を形成する部材をサイズダウン(小径化、薄肉化)したり、高い強度を有する材料を用いることがなく、製造コストを低減することができる。
また、当該土砂捕捉構造物は水平梁を具備するから、かかる水平梁に設置された横桟は水平に配置されるため、堰上げによって形成された湛水域の水中に当該横桟が水没した際、堆積した土砂の下流端である堆砂肩の当該横桟と基礎面との間からの抜け出しが抑制される。
なお、本発明において、河床とは、常時流水のある河川の底に限定するものではなく、降雨時あるいは梅雨期に限って水流や土石流が形成される地面(傾斜地盤や水平地盤の表面)を含むものである。
【0013】
(ii)また、傾斜梁が鉛直に対して、45°以上の角度を形成して傾斜しているから、かかる傾斜梁に設置された横桟は、横スリット状開口部を具備するなだらかな傾斜面を形成するから、当該横スリット状開口部を水は抜けるものの、砂礫、土砂および流木等は引っ掛かり堆積することになる。
(iii)また、傾斜梁が、上流側傾斜部分と下流側傾斜部分とから構成されるから、上流側支柱と中間支柱との距離が拡大し、この間における機械的な接合が容易になる。よって、施工が迅速化し、施工コストを低減することができる。
【0014】
(iv)また、傾斜梁が中間傾斜部分と、これよりも傾斜が小さい下流側傾斜部分とから構成されるから、水平梁の上流側端部と、下流側傾斜部分の下流側端部との距離が短縮されるため、下流側支柱と上流側支柱との距離も短縮され、当該土砂捕捉構造物が固定される基礎を小さくすることが可能になる。よって、製造コストおよび施工コストを低減することができる。
(v)中間傾斜部分が鉛直に対して、45°以上の角度を形成して傾斜しているから、前記(ii)のように土砂の堆積を促進することができる。
(vi)また、中間傾斜部分が上流側中間部分と下流側中間部分とから構成されるから、上流側支柱と中間支柱との距離が拡大し、この間における機械的な接合が容易になる。よって、施工が迅速化し、施工コストを低減することができる。
【0015】
(vii)また、中間支柱が上流側に向かって傾斜しているから、中間支柱に生じる曲げモーメントが低減される。よって、当該土砂捕捉構造物を形成する部材をサイズダウン(小径化、薄肉化)したり、高い強度を有する材料を用いることがなくなったりするから、製造コストを低減することができる。
(viii)また、上流側支柱が下流側に向かって傾斜しているから、土砂や礫等の衝突による損傷を低減することができる。よって、補修や改修等の保全コストを低減することができる。
【0016】
(ix)さらに、本発明に係る砂防堰堤は、前記土砂捕捉構造物が設置された本堤と、副堤とを有するから、副堤によって堰上げされ、湛水域の水中に上流側に配置された横桟が水没するため、堆積した土砂の下流端である堆砂肩が当該横桟と基礎面との間から抜け出すことが抑制される。よって、諸コストを低減することができる、流下する砂礫及び細粒分の土砂を含む土石流を捕捉する砂防堰堤が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
[実施形態1:土砂捕捉構造物]
図1は本発明の実施形態1に係る土砂捕捉構造物を説明するものであって、模式的に示す側面図である。
図1において、紙面の右側を「上流側」および紙面の左側を「下流側」としている。
図1において、土砂捕捉構造物1000は、河床(図示しない)に設置された基礎9に固定されるものであって、基礎9に立設された複数の骨組み構造100と、骨組み構造100に設置された複数の横桟6と、を有している。なお、図1は模式的に示されているため、各部材のアスペクト比(長さと外径との割合)や各部材間の長さ比、横桟6の本数、あるいはフランジ継手の位置や数量(有無を含む)は、図示するものに限定するものではない。
【0018】
(支柱)
骨組み構造100は、上流側支柱1と、上流側支柱1よりも下流側において基礎9に立設された中間支柱2と、中間支柱2よりも下流側において基礎9に立設された下流側支柱3と、とを有している。このとき、上流側支柱1と中間支柱2と下流側支柱3とは、同一面内に位置している。
なお、本発明は、上流側支柱1、中間支柱2および下流側支柱3を鋼管に限定するものではなく、形状は、H形鋼や山形鋼のような形鋼など何れであっもよく、また、材質は問わない。さらに、下流側支柱3の本数は複数であってもよい。
【0019】
(梁)
上流側支柱1の上部に水平梁4が固定され、中間支柱2の上部および下流側支柱3の上部に傾斜梁5が固定されている。
このとき、傾斜梁5は、上流側の上流側傾斜部分5aと、中間の中間傾斜部分5bと、下流側の下流側傾斜部分5cと、から構成され、上流側傾斜部分5aと中間傾斜部分5bとがフランジ継手55aによって結合され、中間傾斜部分5bと下流側傾斜部分5cとがフランジ継手55bによって結合されている。
そして、水平梁4の下流側端部と、傾斜梁5の上流側傾斜部分5aの上流側端部とが、結合部(屈曲点に同じ)45において結合されている。
【0020】
(骨組み構造)
上流側支柱1は、結合部19において基礎9に固定され、結合部14において水平梁4に冶金的(溶接)に接合されている。
中間支柱2は、下側の基礎寄り中間支柱2aと、上側の横桟寄り中間支柱2bとから構成され、両者はフランジ継手22によって接合されている。そして、横桟寄り中間支柱2bが結合部25において中間傾斜部分5bに接合されている。
下流側支柱3は、下側の基礎寄り下流側支柱3aと、上側の横桟寄り下流側支柱3bとから構成され、両者はフランジ継手33によって接合されている。そして、横桟寄り下流側支柱3bが結合部35において下流側傾斜部分5cに接合されている。
【0021】
(横桟)
横桟6は、上流側支柱1と中間支柱2と下流側支柱3とが形成する面に垂直(河川の横断方向であって、紙面の奥行き方向に同じ)に、水平梁4および傾斜梁5に設置されるものである。すなわち、横桟6同士が形成する横スリット状の開口部は、水が通過自在であって、土砂等は通過不能な間隔になっている。なお、個々の横桟6は、1本の鋼管であってもよいし、複数本の鋼管が機械的または冶金的に接合されたものであってもよい。
なお、本発明は、水平梁4および傾斜梁5を鋼管に限定するものではなく、形状は、H形鋼や山形鋼のような形鋼など何れであっもよく、また、材質は問わない。
【0022】
(実施例)
図2は、図1に示す土砂捕捉構造物における骨組み構造の一実施例について、温度を30℃上昇した際の構造解析結果であって、(a)は発生した曲げモーメントを示す曲げモーメント図、(b)は発生した軸力を数値で示す軸力表示図である。また、比較のため、従来タイプの骨組み構造900(水平梁と傾斜梁との結合部に中間支柱が接合されている)の構造解析結果を、図2に準じて図3に示す。
【0023】
なお、いずれも、外径508mm、肉厚9.5mmの鋼管であって上流側支柱1の長さは500mm、中間支柱2の長さは1700mm、下流側支柱3の長さは4808mm、水平梁4の長さは2250mm、傾斜梁5の長さは7071mmである。また、中間支柱2が鉛直となす角度は11°、下流側支柱3が鉛直となす角度は11°であるから、傾斜梁5が鉛直となす角度は45°になっている。
なお、図3における比較する骨組み構造900は、中間支柱2に代えて、鉛直の中間支柱90が結合部45に接合されたものであって、その他は骨組み構造100に同じである。以下、説明の便宜上、中間支柱90と基礎9との結合部を結合部909と、中間支柱90と結合部45との結合部を結合部945と称す。
【0024】
曲げモーメントについて図2の(a)と図3の(a)とを比較すると、基礎9との結合部において、骨組み構造900では結合部19が「−243[kN・m]」で、結合部909が「+221[kN・m]」であるのに対し、骨組み構造100では結合部19が「−48[kN・m]」で、結合部29が「−142[kN・m]」と、大幅に小さな値になっている。
軸力について図2の(b)と図3の(b)とを比較すると、骨組み構造900では水平梁4において「−586[kN]の圧縮力が発生するのに対し、骨組み構造100では水平梁4において「−171[kN」で、傾斜梁5の結合部45において「−149[kN]」と、大幅に小さな値になっている。
【0025】
すなわち、骨組み構造900では、水平梁4の伸びが、共に鉛直に立設された上流側支柱1と中間支柱90とによって拘束されるから、水平梁4の軸方向の力(軸力)が大きくなる。このとき、結合部14、19、909、945から形成される矩形は、台形になろうとするものの、かかる台形の高さが低いため、結合部19、909には、大きな曲げモーメントが発生している。
一方、骨組み構造100では、水平梁4の伸びは、傾斜梁5の傾斜方向に変換され、傾斜梁5の圧縮量として吸収されるため、水平梁4の軸力が大幅に減少している。
また、上流側支柱1と中間支柱2との距離が大きいから、結合部25(中間支柱2の上端に同じ)に作用する力は小さくなり、さらに、中間支柱2自体も長くなっているから、結合部29(中間支柱2の下端に同じ)に発生する曲げモーメントも小さくなる。
【0026】
以上より、骨組み構造100は、骨組み構造900に比較して、これを構成する鋼管のサイズダウン(外径の縮小、肉厚の減少)や機械的性質(機械強度等)の低減が可能になり、製造コストが安価になる。
また、水平梁4と基礎9との距離を縮めることができるから、堰上げによって形成された湛水域の水中に横桟6が水没した際、堆積した土砂の下流端である堆砂肩の横桟6と基礎9との間からの抜け出しが抑制される。
さらに、上流側支柱1と中間支柱2との距離が大きいから、この間において、水平梁4同士あるいは傾斜梁5同士をフランジ継手によって接合することが容易になる。よって、施工コストが安価になる。
なお、傾斜梁5の鉛直とのなす角度は45°以上である(45°よりもより水平に近づく)ことが望ましい。かかる角度を45°未満にして大きく立ち上げる(勾配を大きくする)と、対向する横桟6同士が形成する横スリット状の開口部の鉛直方向への投影長さが長くなり、土砂の抜け出しが生じることになる。
【0027】
[実施形態2:土砂捕捉構造物]
図4は本発明の実施形態2に係る土砂捕捉構造物を説明するものであって、模式的に示す側面図である。なお、実施の形態1と同じ部分または相当する部分には同じ符号を付し、一部の説明を省略する。
図4において、土砂捕捉構造物2000は、河床(図示しない)に設置された基礎9に固定されるものであって、基礎9に立設された複数の骨組み構造200と、骨組み構造200に設置された複数の横桟6と、を有している。
【0028】
(傾斜梁)
傾斜梁7は、上流側の中間傾斜部分7aと、下流側の下流側傾斜部分7bと、から構成され、両者が結合部77においてフランジ継手によって接合されている。このとき、下流側傾斜部分7bが鉛直に対してなす角度が、中間傾斜部分7aが鉛直に対してなす角度よりも小さくなるように、両者は冶金的に結合されている。そして、中間支柱2の上部が結合部27において中間傾斜部分7aに冶金的に接合され、下流側支柱3の上部が結合部37において下流側傾斜部分7bと冶金的に接合されている。
したがって、水平梁4の上流側端部と下流側傾斜部分7bの下流側端部との距離が短くなるから、上流側支柱1と下流側支柱3との距離も短縮される。よって、基礎9の流れ方向の距離が短縮され、基礎9が小型になるから、製造コストが安価になる。
なお、図4ではフランジ継手の記載を省略している。
【0029】
(実施例)
図5は、図4に示す土砂捕捉構造物における骨組み構造の一実施例について、温度を30℃上昇した際の構造解析結果であって、(a)は発生した曲げモーメントを示す曲げモーメント図、(b)は発生した軸力を数値で示す軸力表示図である。なお、解析要領や図示要領は実施の形態1(図2)に同じである。
【0030】
なお、傾斜梁7の中間傾斜部分7aの長さは2121mm、下流側傾斜部分7bの長さは3913mm、である。また、中間傾斜部分7aが鉛直となす角度は11°、下流側傾斜部分7bが鉛直となす角度は11°であるから、中間支柱2と中間傾斜部分7aとの結合部27は、水平梁4と中間傾斜部分7aとの結合部47から、1650mmの位置になっている。
【0031】
曲げモーメントについて図5の(a)と図2の(a)とを比較すると、基礎9との結合部において、骨組み構造200では結合部19が「−48[kN・m]」で、結合部79が「−143[kN・m]」であるのに対し、骨組み構造100では結合部19が「−48[kN・m]」で、結合部29が「−142[kN・m]」であるから、両者は略同じ値である。
軸力について図5の(b)と図2の(b)とを比較すると、骨組み構造200では水平梁4において「−169[kN]」で傾斜梁5の結合部45において「−147[kN]」であるのに対し、骨組み構造100では水平梁4において「−171[kN]」で、傾斜梁5の結合部45において「−149[kN]」と、両者は略同じ値である。
よって、骨組み構造200は、骨組み構造100と力学的に同様の作用効果があり、形態的に、基礎9を小型化する効果があるということができる。
【0032】
[実施形態3:土砂捕捉構造物]
図6は本発明の実施形態3に係る土砂捕捉構造物を説明するものであって、模式的に示す側面図である。なお、実施の形態1と同じ部分または相当する部分には同じ符号を付し、一部の説明を省略する。
図6において、土砂捕捉構造物3000は、河床(図示しない)に設置された基礎9に固定されるものであって、基礎9に鉛直に立設された複数の骨組み構造300と、骨組み構造300に設置された複数の横桟6と、を有している。
このとき、上流側支柱8は、上端が下端よりも下流側に傾斜したものであって、これを除く部材は骨組み構造100に同じである。
したがって、土砂や礫等の衝突による損傷を低減することができる。よって、補修や改修等の保全コストを低減することができる。
【0033】
(実施例)
図7は、図6に示す土砂捕捉構造物における骨組み構造の一実施例について、温度を30℃上昇した際の構造解析結果であって、(a)は発生した曲げモーメントを示す曲げモーメント図、(b)は発生した軸力を数値で示す軸力表示図である。なお、解析要領や図示要領は実施の形態1(図2)に同じである。
なお、上流側支柱8が鉛直となす角度は45°であって、これを除く部材の大きさや配置は骨組み構造100に同じである。
【0034】
骨組み構造300は、接合部(屈曲部に同じ)45が上流側支柱8と中間支柱2との間に位置していることから、図7の(a)と図3の(a)とを比較すると、従来構造である骨組み構造900に対して曲げモーメントが大幅に低減している。また、図7の(a)と図2の(a)とを比較すると、骨組み構造100と略同程度の曲げモーメントが発生している。なお、正確には、曲げモーメントについて骨組み構造100と比較すると、上流側支柱8の基礎9との結合部89において僅かに減少するものの、中間支柱2と基礎9との接合部29、中間支柱2と傾斜梁5との接合部25、および水平梁4と傾斜梁5との接合部45、においては少し増加している。
一方、図7の(b)と図2の(b)および図3の(b)とを比較すると、骨組み構造100および骨組み構造900よりも、骨組み構造300では上流側支柱8に大きな軸力が発生している。すなわち、上流側支柱8が水平梁4に鈍角を形成して結合される(直交していない)ため、水平梁4の伸びに伴う軸力の分力が、上流側支柱8の軸力に加わるためと考えられる。
【0035】
[実施形態4:砂防堰堤]
図8は本発明の実施形態4に係る砂防堰堤を説明するものであって、模式的に示す斜視図である。なお、実施の形態1と同じ部分または相当する部分には同じ符号を付し、一部の説明を省略する。
図8において、砂防堰堤4000は、河床に設置された本堤4100と、本提4100よりも下流側において河床に設置された副堤4200と、を有している。
【0036】
本堤4100は、河床(図示しない)に設置された基礎4110と、基礎4110に固定された土砂捕捉構造物1000と、土砂捕捉構造物1000の両側部にそれぞれ対向して河床に設置された本堤本体(袖に同じ)4120a、4120bと、を有している。
一方、副堤4200は、副堤基礎4210に副堤本体4220が一体的に形成され、幅方向の略中央に縦長で、上方が開口して縦スリット4230が形成されている。
また、副堤本体4220の鉛直方向の高さは、土砂捕捉構造物1000の水平梁4に設置された横桟6の最下端の鉛直方向の高さより高くなっている。このため、副堤4200によって流水を堰上げた場合、形成される湛水域の水中に横桟6の最下端が水没することになる。
【0037】
(作用)
以上の構成から成る砂防堰堤4000の作用を以下に簡単に説明する(詳細な説明については特許文献1参照)。本堤4100は、土石流堆積区間から掃流区間における巨礫を含まない土石流(巨礫が本堤の前面部に集中しないような状態の土砂や砂礫の移動)を対象とするものである。
河川の水の流れにより、副堤4200によって水流の下流側への流出を制限し、堰上げを発生させ、副堤4200から本堤4100の上流に至る湛水域が形成される。そして、この湛水域に土砂が流入してくると、土砂の流入速度が低下することで堆砂肩(土砂や砂礫の堆積物)が形成され、土砂の流入量に応じて堆砂肩が下流に進行する。
【0038】
やがて、堆砂肩が本堤4100まで到達すると、土石流により河川を流下する砂礫、土砂および流木が横桟6に引っ掛かり、堆砂肩の下流への進行が停止し、基礎9と最下段の横桟6との隙間が堆砂肩で閉塞することになる。すなわち、堆砂肩の下流への進行は停止し、堆砂が横桟6に沿って高さ方向に進み、徐々にせり上がることになるから、土砂が効果的に捕捉されることになる。
【0039】
このとき、砂防堰堤4000は土砂捕捉構造物1000を有するから、土砂捕捉構造物1000の奏する前記効果によって、製造コスト、施工コストや保全コストを安価にすると共に、土砂の捕捉効果および構造物の寿命延長によって長期間にわたる地球環境に与える負荷を軽減することができる。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明に係る土砂捕捉構造物は、土砂の捕捉効果と共に、製造コスト、施工コストや保全コストを安価にするから、様々な設置場所における各種型式の砂防手段として、広く利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の実施形態1に係る土砂捕捉構造物を模式的に示す側面図。
【図2】図1に示す土砂捕捉構造物における骨組み構造の一実施例について、温度を30℃上昇した際の構造解析結果を示す曲げモーメント図と軸力表示図。
【図3】従来タイプの骨組み構造について温度を30℃上昇した際の構造解析結果を示す曲げモーメント図と軸力表示図。
【図4】本発明の実施形態1に係る土砂捕捉構造物を模式的に示す側面図。
【図5】図4に示す土砂捕捉構造物における骨組み構造の一実施例について、温度を30℃上昇した際の構造解析結果を示す曲げモーメント図と軸力表示図。
【図6】本発明の実施形態3に係る土砂捕捉構造物を模式的に示す側面図。
【図7】図6に示す土砂捕捉構造物における骨組み構造の一実施例について、温度を30℃上昇した際の構造解析結果を示す曲げモーメント図と軸力表示図。
【図8】本発明の実施形態4に係る砂防堰堤を模式的に示す斜視図。
【符号の説明】
【0042】
1 上流側支柱
2 中間支柱
2a 基礎寄り中間支柱
2b 横桟寄り中間支柱
3 下流側支柱
3a 基礎寄り下流側支柱
3b 横桟寄り下流側支柱
4 水平梁
5 傾斜梁
5a 上流側傾斜部分
5b 中間傾斜部分
5c 下流側傾斜部分
6 横桟
7 傾斜梁
7a 中間傾斜部分
7b 下流側傾斜部分
8 上流側支柱
9 基礎
14 結合部
19 結合部
22 フランジ継手
25 結合部
27 結合部
29 結合部
33 フランジ継手
35 結合部
37 結合部
45 結合部
55a フランジ継手
55b フランジ継手
77 結合部
90 支柱
100 骨組み構造(実施の形態1)
200 骨組み構造(実施の形態2)
300 骨組み構造(実施の形態3)
1000 土砂捕捉構造物(実施の形態1)
2000 土砂捕捉構造物(実施の形態2)
3000 土砂捕捉構造物(実施の形態3)
4000 砂防堰堤(実施の形態4)
4100 本堤
4110 基礎
4120a 本堤本体
4120b 本堤本体
4200 副堤
4210 副堤基礎
4220 副堤本体
4230 縦スリット


【特許請求の範囲】
【請求項1】
通水自在な間隔を空けて配置された複数の横桟と、該複数の横桟が設置される複数の骨組み部分とを有し、河床に設置された基礎に固定される土砂捕捉構造物であって、
前記基礎に鉛直に立設された上流側支柱と、
該上流側支柱よりも下流側において前記基礎に立設された中間支柱と、
該中間支柱よりも下流側において前記基礎に立設された下流側支柱と、
所定の間隔を空けて配置された複数の横桟と、
前記上流側支柱の上部に固定され、前記複数の横桟の一部が設置される水平梁と、
前記中間支柱の上部および前記下流側支柱の上部に固定されて、下流側になるほど高くなるように傾斜した、前記複数の横桟の一部が設置される傾斜梁と、
を有し、
前記水平梁の端部と前記傾斜梁の端部とが、前記上流側支柱と前記中間支柱との間において接合されていることを特徴とする土砂捕捉構造物。
【請求項2】
前記傾斜梁が鉛直に対して、45°以上の角度を形成して傾斜していることを特徴とする請求項1記載の土砂捕捉構造物。
【請求項3】
前記傾斜梁が、前記水平梁に冶金的に接合された上流側傾斜部分と、前記中間支柱に固定された下流側傾斜部分と、から構成され、
前記上流側傾斜部分と前記下流側傾斜部分とがフランジ継手によって機械的に接合されていることを特徴とする請求項1または2記載の土砂捕捉構造物。
【請求項4】
前記傾斜梁が中間傾斜部分と下流側傾斜部分とから構成され、
前記下流側傾斜部分が鉛直に対してなす角度が、前記中間傾斜部分が鉛直に対してなす角度よりも小さいことを特徴とする請求項1記載の土砂捕捉構造物。
【請求項5】
前記中間傾斜部分が鉛直に対して、45°以上の角度を形成して傾斜していることを特徴とする請求項4記載の土砂捕捉構造物。
【請求項6】
前記中間傾斜部分が、前記水平梁に冶金的に接合された上流側中間部分と、前記中間支柱に固定された下流側中間部分とから構成され、
前記上流側中間部分と前記下流側中間部分とがフランジ継手によって機械的に接合されていることを特徴とする請求項4または5記載の土砂捕捉構造物。
【請求項7】
前記中間支柱が、上端の方が下端よりも上流側になるように傾斜していることを特徴とする請求項1乃至6の何れかに記載の土砂捕捉構造物。
【請求項8】
前記上流側支柱が鉛直に代えて、上端の方が下端よりも下流側になるように傾斜していることを特徴とする請求項1乃至7の何れかに記載の土砂捕捉構造物。
【請求項9】
河床に設置された本堤と、該本堤よりも下流側において河床に設置された副堤と、を有する砂防堰堤であって、
前記本堤は、河床に設置された基礎と、該基礎に固定された請求項1乃至8の何れかに記載の土砂捕捉構造物と、前記土砂捕捉構造物の両側部にそれぞれ対向して河床に設置された本堤本体と、を有し、
前記副堤により堰上げした場合に、少なくとも前記複数の横桟のうち最も上流側にある横桟の下面が、堰上げした水中に没することを特徴とする砂防堰堤。
【請求項10】
前記副堤には、通水自在な複数の縦スリットが形成されていることを特徴とする請求項9記載の砂防堰堤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−243196(P2009−243196A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−92494(P2008−92494)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【出願人】(000173681)財団法人砂防・地すべり技術センター (10)
【出願人】(000231110)JFE建材株式会社 (150)