説明

圧力センサ素子およびこれを備えた圧力センサ

【課題】 外来振動に対して圧電体の破損が起こりにくく、耐久性に優れた圧力センサ素子およびこれを備えた圧力センサを提供する。
【解決手段】
本発明は、平板状の電極2と圧電膜3とが積層された圧力センサ素子であって、少なくとも1つの電極が他の電極22とは異なる形状の電極21であることを特徴とするものである。これによって、振動波が乱反射されるようになり、外来振動による共振を抑制し、共振による圧電膜の破損を防止することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気体、液体等の圧力、特に自動車用エンジンの燃焼圧力を計測するための圧力センサ素子およびこれを備えた圧力センサに関する。
【背景技術】
【0002】
図3および図4に示すように、圧力センサ素子51として、平板状の電極52と圧電膜53とを交互に積層した形態のものが知られている。また、上記の圧力センサ素子51を筐体(素子ケース54および素子ケースキャップ55)の内部に収納して封止し、例えば圧力センサ素子51を構成する電極52のうち正負一方の極側の電極と筐体(素子ケース54および素子ケースキャップ55)とを、また他方の極側の電極と出力用ケーブルの信号線(図示せず)とを、それぞれ電気的に接続させて、圧力センサ50が構成されている。なお、図では、圧力センサ素子51を構成する電極52および圧電膜53は円環状に形成され、圧力センサ素子51を収納する圧力センサ50の内部空間も圧力センサ素子51の積層方向から見て円環状となっている。
【0003】
この圧力センサ50は、圧力センサ素子51の積層方向に対して上下となる上下面に印加された圧力を電荷に変換する機能を有し、電気信号による圧力計測を可能とするものである。
【0004】
そして、例えば、自動車エンジンのシリンダヘッドに取り付けられた点火プラグや燃料インジェクタなどの装置の座面に上記の圧力センサ50を挿入することにより、自動車エンジンのシリンダ内の圧力が計測できるようになる(例えば特許文献1、2を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002-231413号公報
【特許文献2】特開2008-128805号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、圧力センサに外来振動(外部からのノイズ)が加わって、この外来振動に電極52が共振してしまう場合がある。特に、自動車エンジンにおいては、外来振動が多いことから、共振によって圧電膜53に大きな歪みが生じて破損してしまうおそれがある。
【0007】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、外来振動による圧電膜の破損が起こりにくく、耐久性に優れた圧電センサ素子およびこれを備えた圧力センサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の圧力センサ素子は、平板状の電極と圧電膜とが積層された圧力センサ素子であって、少なくとも1つの電極が他の電極とは異なる形状の電極であることを特徴とする。
【0009】
ここで、本発明の圧力センサ素子は、上記構成において、前記電極が円環状であることが好ましい。
【0010】
また、前記他の電極とは異なる形状の電極は、側面に突起が形成されていることが好ま
しい。
【0011】
さらに、前記他の電極とは異なる形状の電極は、内側の側面に突起が形成されていることが好ましい。
【0012】
さらに、前記突起が2個以上あることが好ましい。
【0013】
さらに、前記突起が等間隔に配置されていることが好ましい。
【0014】
さらに、前記突起の厚さが、その他の部位の厚さよりも薄いことが好ましい。
【0015】
さらに、前記他の電極とは異なる形状の電極における側面と前記突起の先端面とが平行であることが好ましい。
【0016】
さらに、前記他の電極とは異なる形状の電極は、側面の少なくとも一部を覆うように圧電膜が回り込んでいることが好ましい。
【0017】
さらに、前記他の電極とは異なる形状の電極は、前記側面に形成された前記突起を覆うように圧電膜が回り込んでいることが好ましい。
【0018】
さらに、前記圧電膜が2重に形成されていることが好ましい。
【0019】
また、本発明の圧力センサは、上記いずれかの圧力センサ素子と、該圧力センサ素子を収容し前記電極のうち正負一方の極側の電極と電気的に接続された筐体とを備えたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0020】
本発明の圧力センサ素子は、少なくとも1つの電極が他の電極とは異なる形状の電極であることによって、振動波が乱反射されるようになり、外来振動による共振を抑制し、共振による圧電膜の破損を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の圧力センサ素子および圧力センサの実施の形態の一例を示す上方透視図である。
【図2】図1に示す圧力センサ素子および圧力センサのA−A線断面図である。
【図3】従来の圧力センサ素子および圧力センサの一例を示す上方透視図である。
【図4】図3の圧力センサ素子および圧力センサのB−B線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の圧力センサ素子および圧力センサの実施の形態の例について、図面を参照して詳細に説明する。
【0023】
図1は、本発明の圧力センサ素子および圧力センサの実施の形態の一例を示す上方透過図である。また、図2は、図1の圧力センサ素子および圧力センサのA−A線断面図である。
【0024】
図1および図2に示す圧力センサ素子1は、平板状の電極2と圧電膜3が交互に積層されて構成された積層体である。この圧力センサ素子1は、例えば自動車エンジンの点火プラグ取付部に実装してエンジンのシリンダ内圧を測定するために使用する場合、直径12〜25mm程度、高さ0.5〜6mm程度の大きさとされる。
【0025】
平板状の電極2は、ステンレス、銅、インコネルなどの金属からなる。図1および図2に示すように、平板状の電極2は例えば円環状に形成されたものであり、外周の直径が10〜25mm、外周の半径と内周の半径との差が0.2〜7.5mm、厚みが0.02〜5mmとなっている。電極2には正極と負極とが含まれていて、例えば正極と負極とが交互に配置されていてもよく、交互ではなく一定の規則性をもたせた配置になっていてもよい。また、電極2における正極同士または負極同士は直接電気的に接続されていてもよく、分岐させた信号線がそれぞれの電極2に接続されていてもよい。
【0026】
なお、平板状の電極2としては、その用途に応じて円板状や矩形板状のものなどを採用することもできるが、本例のように円環状であることによって、中央の穴が外来振動の電極2の内部での伝播及び圧力センサ素子1(電極2と圧電膜3との積層体)の内部での伝播を妨げ、振動波の往復により生じる共振が発生しにくい構造となる。
【0027】
圧電膜3は、膜の厚さ方向に圧電性を有する圧電材料、例えば水晶、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)、ランガサイト、窒化アルミニウム(AlN)などからなり、0.3μm〜100μm程度の厚みに形成されたものである。この圧電膜3に圧力が伝達されると、その圧電的性質により印加された圧力に応じた量だけ圧電膜3の両面に電荷が発生するようになっている。圧電膜3としては、膜の厚さ方向に特に大きな圧電定数を有する結晶方向で配向されていることが好ましい。ただし、その組織形態は単結晶、多結晶のいずれでもよく、なんら限定されるものではない。なお、図1に示す電極2は、表面に圧電膜3が被覆された電極(電極21)と圧電膜の被覆されていない電極(電極22)とが交互に配置された例を示しているが、このような配置に限定されない。また、圧電膜3は、電極21の表面全体を被覆するように設けられた膜であるが、このような形態に限られず、例えば電極2と同様に平板状のものであってもよい。
【0028】
そして、電極2のうち、少なくとも1つの電極が他の電極とは異なる形状の電極となっている。本例では、電極22を他の電極とし、電極21を他の電極とは異なる形状の電極としている。
【0029】
少なくとも1つの電極が他の電極とは異なる形状の電極であることによって、電極の積層構造の周期性、対称性が失われ、外来振動の振動波が乱反射されて共振が起こりにくくなる。そして、外来振動による共振が起こりにくくなることで、電極2ひいては圧電膜3に大きな歪みが発生しにくく、圧電膜3の破損がおきにくくなる。
【0030】
ここで、他の電極22とは異なる形状の電極21としては、図1および図2に示すように、側面に突起23が形成されているのが好ましい。側面に突起23が形成されていることによって、突起23の部分が他の部分に比べて振動しやすいことから、圧力センサ素子1の振動をより大きく乱すことができる。したがって、外来振動による共振がさらに起きにくくなって圧電膜3に大きな歪が生じにくくなり、圧電膜3の破損もより起きにくくなる。なお、突起23の形状としては、例えば電極21が円環状であって後述する圧力センサ10を構成する筐体4(素子ケース41および素子ケースキャップ42)の内部の空間(圧力センサ素子1の収容空間)も同様に積層方向から見て円環状である場合は、図1に示すように、薄く張り出した形状であるのがよい。
【0031】
また、電極2が円環状のものである場合において、他の電極22とは異なる形状の電極21は、内側の側面に突起23が形成されていることが好ましい。突起23が内側の側面に形成されていることによって、外来振動が圧力センサ素子1の内側で乱反射され、共振振動がさらに起こりにくく、圧電膜3の破損もより起こりにくくなる。また、突起23が内側の側面に形成されていることによって、圧力センサ素子1の内側の空間の温度と圧力
センサ素子1自身の温度とが均一に近づくようになり、外部の温度変化の影響を受けないことから、圧力センサ素子1の温度変化が小さく抑えられる。したがって、外部の温度変化によって発生する各部材の熱歪みまたは圧電センサ素子1を保持する予荷重の変動に伴う非感圧性のセンサ出力(測定対象である気体、液体の圧力とは無関係のセンサ出力)が小さく抑えられ、圧力の測定精度を改善できる。
【0032】
また、突起23は、他の電極22とは異なる形状の電極21(一つの電極)において2個以上あるのが好ましい。一つの電極に突起23が2個以上あることによって、圧力センサ素子1の内側の空間の温度と圧力センサ素子1自身の温度との均一性がより高められ、圧力センサ素子1の温度変化がさらに小さく抑えられる。したがって、熱歪みや予荷重の変動に伴う非感圧性のセンサ出力がより小さく抑えられて、圧力の測定精度がより改善される。さらに、バランスがよくなって振動時の重心変動が抑制されることから、圧力センサ素子1の重心変動に伴う加速度を低減でき、加速度に起因する非感圧性の出力が小さく抑えられて、圧力測定精度をより改善できる。なお、突起の数としては3個以上あると、重心変動抑制効果が電極全周でより確実に発揮されるため、より好ましい。
【0033】
また、突起23は、図1に示す例のように円周方向に等間隔に配置されていることが好ましい。突起23が円周方向に等間隔に配置されていることによって、吸放熱が圧力センサ素子1の円環形状全周にわたって温度分布が均一となり、熱歪みが小さく抑えられる。したがって、熱歪みに伴う非感圧性の出力がより小さく抑えられ、圧力測定精度をさらに改善できる。なお、突起23間の代表半径上での曲線距離が同じ半径上での各突起23の幅(円周方向の幅)の3倍以下であると、圧力センサ素子1の温度分布が円環形状全周ほぼ均一となることから、より好ましい。
【0034】
さらに、突起23の厚さがその他の部位の厚さよりも薄いことが好ましい。突起23の厚さが、電極21におけるその他の部位の厚さよりも薄いことによって、電極21における他の部位に比べて突起23の剛性が低くなり、振動時の歪みが突起23に集中して、電極21の他の部位の歪みが小さく抑えられる。したがって、振動時の電極2の積層領域の圧電膜3の歪みを小さくでき、圧電膜3の破損をより起こりにくくすることができる。このとき、突起23の表面に圧電膜3があることで、曲率半径の小さな歪みが発生しにくく、歪みの大きな突起23と歪みの小さな積層領域との間は歪みが緩やかに変化するため、これらの境界近傍でも歪みが小さく抑えられる。なお、望ましくは、振動による疲労破壊を生じさせにくく、歪みを突起23に集中させる点で効果的な範囲として、突起23の厚さがその他の部位の厚さ(電極21厚さ)の20〜85%の厚さであるのがよい。
【0035】
さらに、他の電極22とは異なる形状の電極21における側面と突起23の先端面とが平行であることが好ましい。他の電極22とは異なる形状の電極21における側面と突起23の先端面とが平行であることによって、突起23の全幅にわたって均一な温度勾配になる。結果として、電極周方向の温度分布が小さく抑えられ、熱歪みが小さくなり、誤差要因である測定対象の圧力変動以外の歪みによる圧電膜3の電荷発生(熱歪みに伴う非感圧性の出力)がさらに小さく抑えられ、圧力測定精度をより改善できる。
【0036】
さらに、他の電極22とは異なる形状の電極21は、側面の少なくとも一部を覆うように圧電膜3が回り込んでいることが好ましく、特に側面の全域を覆うように圧電膜3が回り込んでいることが好ましい。ここで、側面の少なくとも一部を覆うように圧電膜3が回り込んでいるとは、例えば図2に示すように圧電膜3の回り込み領域31が形成されていることを意味している。他の電極とは異なる形状の電極21は、側面の少なくとも一部を覆うように圧電膜3が回り込んでいることによって、電極21の厚み方向の剛性が増して厚み振動(厚みが変化するような振動)が抑制される。したがって、振動に伴って発生する圧電膜3の歪みをさらに低減できる。結果として、外来振動に対する共振がさらに起こ
りにくくなり、圧電膜3の破損もよりおきにくくすることができる。
【0037】
さらに、他の電極22とは異なる形状の電極21は、側面に形成された突起23を覆うように圧電膜3が回り込んでいることが好ましい。上下に隣接する電極21または電極22で厚さ方向の変位が拘束されていないため、特に厚み振動が発生しやすい突起23の側面に圧電膜3を設けることで、厚み振動の抑制効果が最大限に発現される。結果として、外来振動に対して共振がより起こりにくく、圧電膜3の破損もさらにおきにくくできる。
【0038】
さらに、他の電極22とは異なる形状の電極21における側面の少なくとも一部(好ましくは全域)を覆うように圧電膜3が回り込んでいる場合において、圧電膜3が2重に形成されていることが好ましい。圧電膜3が2重になっていることによって、電極21の厚み方向の剛性がさらに高められ突起23における厚み振動がより抑制される。よって振動に伴って発生する圧電膜3の歪みをより効果的に低減できる。結果として、外来振動に対する共振がさらに抑えられ、圧電膜3の破損をさらに起こりにくくできる。
【0039】
図1および図2に示す圧力センサ10は、上述の圧力センサ素子1を筐体4(素子ケース41および素子ケースキャップ42)の内部に収納して封止している。
【0040】
筐体4は、例えばステンレス、インコネル、コバール、銅またはその合金などの金属で形成されている。ここで、筐体4(素子ケース41および素子ケースキャップ42)は、図に示す例では、圧力センサ素子1を収容する内部空間が、圧力センサ素子1と同様に積層方向から見て円環状の空間となっている。なお、図示しないが、筐体4は圧力センサ素子1を収容する円環状の空間を設ける形状のみならず、積層方向から見て円環状の形状の一部を外側に張り出すようにした形状として、後述する信号線を配置するなどしてもよい。
【0041】
圧力センサ10では、上下面いずれか一方から圧力が印加されると、素子ケース41の底面または素子ケースキャップ42を介して、圧力センサ素子1に圧力が伝達される。そして、圧力センサ素子1の内部では、電極2を介して圧電膜3に圧力が伝達される。また、圧電膜3で発生した正負おのおのの電荷は圧電膜3に接触した電極21または電極22に集められる。
【0042】
電極21または電極22に集められた電荷は、例えば分岐された信号線や筐体4(素子ケース41および素子ケースキャップ42)に接続された同軸ケーブルの信号線、GND線(図示せず)を介して、圧力センサ10の外部へと出力される。圧力センサ10の外部に出力された電荷は、アンプにより電圧信号に変換されるなどして、印加された圧力の測定に供する。
【0043】
このような圧力センサ10においては、素子ケース41と素子ケースキャップ42により圧力センサ素子1の封止構造が形成されるが、この構造により、圧力センサ素子1が、外来の異物接触による破損や、水分をはじめとする液体や気体による腐食や絶縁不良などの不具合から保護される。また、電磁気的にシールドされた状態とし、外来の電磁的ノイズの影響による圧力センサとしての精度低下を最小化する機能も有する。なお、これらの機能のいずれかあるいは全てを有し、かつ圧力センサ素子1に圧力を伝達できるものであれば、素子ケース41と素子ケースキャップ42の形態は図1、図2に示されたものになんら限定されることはない。
【0044】
なお、素子ケース41の底面および素子ケースキャップ42が電極2の機能を兼ねても良い。すなわち、積層された圧電膜3のうち少なくとも1枚が、素子ケース41の底面および素子ケースキャップ42のいずれか一方または両方と隣接するように積層され、圧電
膜3の表面に発生した電荷を集める機能を併せ持ってもよい。
【0045】
次に、図1および図2に示す本発明の圧力センサ素子1および圧力センサ10の製造方法の例を説明する。
【0046】
電極2(電極22および電極22と異なる形状の電極21)は、例えば、圧延加工された金属材を金型打ち抜き加工やエッチング加工で所望の形状に成形することで得られる。
【0047】
圧電膜3は、蒸着法、スパッタリング法、ディッピング法、スピンコート法などの成膜法によって電極21に直接形成するほか、原材料を成膜後、焼成工程などの熱処理を経て所望の圧電体とすることによって製造することもできる。
【0048】
また、多結晶性の材料においては、圧電膜3の圧電感度を高めるため、膜の厚さ方向に電圧を印加することで結晶配向性を高くすることもできる。また、前記のような圧電膜3を電極21および電極22とは別に製作し、密着機で貼り合わせたり、積層機で電極21や電極22とともに積層したりするなどしてもよい。
【0049】
圧力センサ素子1は、これらの部材を位置決め機能を有する積層機で所望の順序に積層することにより得られる。位置決めは金型やジグにより電極21、電極22および圧電膜3の側面を整列させることのほか、必要に応じて突起23の位置を所望の位置に合わせることなどを含む。
【0050】
また、電極2のうちの正極側同士および負極側同士を、例えば側面をワイヤボンディングで直接接続したり、信号線を各電極板に抵抗溶接や熱固化性あるいは反応固化性の導電ペーストで接続したりすることで、圧電膜3に発生し電極21、電極22に集められた電荷を、同軸ケーブルなどで圧力センサ素子1の外部に出力することが可能な圧力センサ素子1が得られる。
【0051】
次に、図1および図2に示した本発明の圧力センサ10は、上記の方法で製作された圧力センサ素子1を、素子ケース41に収納し、素子ケースキャップ42で封止することによって製作できる。
【0052】
素子ケース41と素子ケースキャップ42の接合により圧力センサ素子1の封止構造が形成されるが、その方法は、抵抗溶接、レーザー溶接のような溶着法でも、半田付けやロー付け、金属導体入りペースト材塗布のように第3の金属材料を介した接合方法でも構わない。また、特定の周波数範囲など、限定されたシールド特性のみ要求される場合は、ゴム、シリコーン、ポリテトラフルオロエチレン、ガラスなどの非金属材により封止しても構わない。
【0053】
以上のような形態、製造方法で製作された本発明の圧力センサ素子1および圧力センサ10は、例えば、内燃機関の気筒(シリンダ)の燃焼室に挿入される、点火プラグ、燃料噴射装置等の装置の取り付け部分に配置される。これらの装置はネジの締め込みやバネなどの弾性材による押さえ込みにより内燃機関の気筒(シリンダ)に固定されている。この固定力は、気筒(シリンダ)内における、ピストンの運動による燃焼室体積の変動、燃料の爆発による燃焼室内ガスの膨張、給排気などに伴う圧力変化により変動する。圧力センサ10はそれを挿入された装置の固定力変動に伴って電荷を生じるため、結果的に間接的に内燃機関の燃焼室内の圧力を計測することが可能となる。なお、内燃機関とは、前述の気筒(シリンダ)、点火プラグ、燃料噴射装置、ピストンのほか、グロープラグ、燃料供給や給排気のためのバルブなどを有するものである。具体的には、自動車等の乗物あるいは貨物運搬車両等に用いられるガソリンエンジン、アルコール混合ガソリンエンジン、デ
ィーゼルエンジン、アルコールエンジンまたは水素ガスエンジン等である。
【0054】
本発明の圧力センサ素子1および圧力センサ10は、内燃機関の燃焼室の圧力を測定する燃焼圧センサとして機能し、内燃機関のピストン運動により生じる振動や自動車等の乗物等として動作したときの振動の影響を受けにくく、高い測定精度と優れた耐久性を有するものであるので、内燃機関の制御特性ひいては燃焼特性を高めることができ、また耐久性に優れたものである。
【実施例】
【0055】
φ30mm、厚さ0.5mmの平板状の電極22を1枚、ステンレス材(SUS304)から切り出して作製した。
【0056】
また同様の方法で、φ30mm、厚さ0.5mmで側面に円周方向の長さ10mm、径方向の幅1mmの突起23を1つ設け、電極22とは異なる形状とした電極21を1枚作製した。さらに、電極21の一方の面には鏡面加工処理を施し、面粗さRa0.02μmに仕上げた。
【0057】
次に、電極21の鏡面処理面を基板として、高周波マグネトロンスパッタリング法にて、ターゲットにはφ50の高純度セラミックスPZT板を用い、基板温度750℃、到達真空度2×10−4Paで予熱を行った後、アルゴンガス導入し、成膜圧力3.0Pa、電流密度70W/mで10hr成膜し、膜厚1μmのチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)薄膜を製作し、圧電膜3とした。
【0058】
次に、電極21、圧電膜3、電極22の順になるよう積層し、さらに電極21と電極22の間に直流電圧60Vを印加し、圧電膜3に分極処理を施して、本発明の圧力センサ素子1を作製した。
【0059】
圧電特性は、圧力センサ素子1に油圧プレス装置で荷重1000Nを印加したときの発生電荷を測定して確認し、102pC/Nを得た。
【0060】
同様に従来の圧力センサ素子51を、2枚の平板状の電極52を作製、うち1枚の一方の面に鏡面加工処理を施した後、高周波マグネトロンスパッタリング法にて膜厚1μmのチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)薄膜(圧電膜53)を製作、圧電膜53が中間層となるような順番で積層後、60Vの電圧を印加して製作した。圧電特性は、103pC/Nであった。
【0061】
これらの圧力センサ素子1、51について、長時間振動試験を行い、耐久性を評価した。評価条件は、5〜5000Hz、20Gの振動数スイープ試験を200時間実施した。
【0062】
この結果、従来の圧力センサ素子51は電極間がショートし、圧電特性の計測が不可能となった。分解したところ、圧電膜53にクラックが生じていた。
【0063】
これに対し、本発明の圧力センサ素子1ではショートは発生せず、圧電特性は試験前と同じ102pC/Nであった。
【符号の説明】
【0064】
1:圧力センサ素子
2、21、22:電極
23:突起
3:圧電膜
31:回り込み領域
4:筐体
41:素子ケース
42:素子ケースキャップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平板状の電極と圧電膜とが積層された圧力センサ素子であって、少なくとも1つの電極が他の電極とは異なる形状の電極であることを特徴とする圧力センサ素子。
【請求項2】
前記電極は円環状であることを特徴とする請求項1に記載の圧力センサ素子。
【請求項3】
前記他の電極とは異なる形状の電極は、側面に突起があることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の圧力センサ素子。
【請求項4】
前記他の電極とは異なる形状の電極は、内側の側面に突起があることを特徴とする請求項3に記載の圧力センサ素子。
【請求項5】
前記突起が2個以上あることを特徴とする請求項3または請求項4に記載の圧力センサ素子。
【請求項6】
前記突起が等間隔に配置されていることを特徴とする請求項5に記載の圧力センサ素子。
【請求項7】
前記突起の厚さが、その他の部位の厚さよりも薄いことを特徴とする請求項3乃至請求項6のいずれかに記載の圧力センサ素子。
【請求項8】
前記他の電極とは異なる形状の電極における側面と前記突起の先端面とが平行であることを特徴とする請求項3乃至請求項7のいずれかに記載の圧力センサ素子。
【請求項9】
前記他の電極とは異なる形状の電極は、側面の少なくとも一部を覆うように圧電膜が回り込んでいることを特徴とする請求項1乃至請求項8のいずれかに記載の圧力センサ素子。
【請求項10】
前記他の電極とは異なる形状の電極は、前記側面に形成された前記突起を覆うように圧電膜が回り込んでいることを特徴とする請求項3乃至請求項8のいずれかに記載の圧力センサ素子。
【請求項11】
前記圧電膜が2重に形成されていることを特徴とする請求項9または請求項10に記載の圧力センサ素子。
【請求項12】
請求項1に記載の圧力センサ素子と、該圧力センサ素子を収容し前記電極のうち正負一方の極側の電極と電気的に接続された筐体とを備えた圧力センサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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