説明

圧力容器のノズルの先端形状および先端の肉盛溶接方法

【課題】 ノズルの内部に内管等の他の部材が配設されている場合であっても、該部材を撤去することなく、現行のものと類似の溶接トーチを用いて応力腐食割れの予防保全工事を行うことができる圧力容器のノズルの先端形状および先端の肉盛溶接方法を提供する。
【解決手段】 内管4は撤去することなく、セーフエンド8を切断し、ノズル1の先端部にクラッド溶接部2および肉盛溶接部3の一部に掛けて円錐状開先切削部Cを形成し、この円錐状開先切削部Cに溶接トーチ6をクラッド溶接部2の内面に対して5°〜60°の傾斜角で当接して、耐食性改善溶接部9を溶接形成した。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は内部に内管等の他の部材が配設され、ニッケル基合金肉盛溶接部を含む圧力容器のノズルの先端の内面に耐食性改善のための肉盛溶接を行うようにした圧力容器のノズルの先端形状および先端の肉盛溶接方法に関する。
【0002】
【従来の技術】原子炉圧力容器のノズルには内面に、ステンレス鋼等による内面クラッド溶接を施すと共に、先端部にはニッケル基合金を肉盛溶接して、ステンレス鋼製等のセーフエンドを取り付けた製品がある。この溶接接続構造を有したノズルに対して、例えば、ニッケル基合金肉盛溶接部の応力腐食割れ(SCC)の予防保全を施す場合に、前記セーフエンドを切断してニッケル基合金溶接内面に耐食性改善のクラッド溶接を施すことも行われている。
【0003】図6は一般的な原子炉圧力容器の縦断面図、図7はそのノズルの軸方向に沿った上側断面図である。原子炉圧力容器は円筒状の胴を有する圧力容器10と、その圧力容器10を密封する上蓋11とで構成されており、圧力容器10の側部には圧力容器10の内部に内管4などの構造物を入れるノズル1が設けられ、圧力容器10より絞り加工により突出形成されたノズル1は内管4を保持するセーフエンド8と突合せ溶接部7で溶接接合されている。このノズル1の内面には耐食性改善のクラッド溶接2が施されていて、さらにノズル1の先端部にニッケル基合金肉盛アーク溶接3を施した上で、ステンレス鋼製の接続管である前記セーフエンド8を取り付けている。
【0004】ところで、ノズル1の内部に内管4等の他の部材が配設されている場合は、通常は原子炉圧力容器の内部構造物の取替工事が行われる場合に合わせて、内管4等の他の部材を撤去した上で耐食性改善のクラッド溶接9を被覆している。つまり、上述の構成を有したノズル1では、ノズル1と内部構造物との隙間が狭くて破線で示した溶接トーチ(電極)6をノズル1内に挿入できない場合があり、このような場合は、原子炉圧力容器の内部構造物の取替工事が行われるまで、ノズル1内面の耐食性改善のクラッド溶接9の施工を保留しなければならない。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】従って、内部構造物の取替工事を行う必要がないノズル1が設置された原子炉炉圧力容器では、ノズル1周辺の予防保全を実施するだけのために、原子炉圧力容器の内部構造物の撤去作業という大掛かりな工事を施工しなければならないと言う不都合があった。そこで、溶接トーチ6を小型化して、ノズル1と内部構造物との隙間に挿入可能な大きさのものを開発することも試みられたが、前記隙間が10mm以下の場合もあり、クラッド溶接によりノズル1内面に耐食性改善の肉盛りが施されることから、前記隙間が一層狭くなることが想定されるので、現実的な技術開発としては、少なくとも現状では不可能に近い状況にある。
【0006】本発明は従来技術におけるかかる困難を克服すべく為されたものであり、ノズル1の内部に内管4等の他の部材が配設されている場合であっても、該部材を撤去することなく、現行のものと類似の溶接トーチ6を用いて応力腐食割れの予防保全工事を行うことができる圧力容器のノズルの先端形状および先端の肉盛溶接方法を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】上記課題を解決するために本発明は、圧力容器のノズルの先端形状はノズルの内面に少なくとも肉盛溶接部の内面を含んで、先端側に移行するに連れて厚さが薄くなるように切削した略円錐状を成す開先加工部を形成したものであり、例えば、開先加工部のノズル内面に対する傾斜角を5°〜60°に設定したり、ノズルの先端とは反対側の開先加工部の端縁に円環状凹溝を形成したり、開先加工部のノズル内面に対する傾斜角を、ノズルの先端とは反対側が大きく、ノズルの先端側が小さい複数段構成としたものであり、ノズルの先端の肉盛溶接方法は他の部材を撤去することなく、ノズルの内面に少なくとも前記肉盛溶接部の内面を含んで、ノズルの先端側に移行するに連れて厚さが薄くなるように内面を切削して略円錐状を成す開先加工を施した後、該開先加工面に肉盛溶接を行うようにしたものであり、例えば、溶接トーチの電極の向きをノズルの半径方向に対して10°〜90°傾けるように設定したものである。
【0008】
【発明の実施の形態】以下図面を参照して本発明の実施例を詳細に説明する。図1は本発明の実施例に係る圧力容器のノズルの耐食性改善溶接部を示す上側断面図、図2R>2は同じく、実施例の耐食性改善溶接工程手順図である。ノズル1の内面にはクラッド溶接部2が形成されており、ノズル1の先端側にはニッケル基合金の肉盛溶接部3が設けられ、クラッド溶接部2の内側には内管4が配設されている。クラッド溶接部2の先端と肉盛溶接部3の内面側には、ニッケル基合金からなる耐食性改善溶接部9が形成されている。そして、ノズル1の先端は突合せ溶接部7となっている。
【0009】また、図2(a)に示すように、予防保全工事を行う前のノズル1の内面にはクラッド溶接によるクラッド溶接部が施されており、その先端にはニッケル基合金の肉盛溶接部3が設けられている。この肉盛溶接部3より先端側と、相手となるセーフエンド8の先端に開先をとり、突合せ溶接されている。そこで、まず、内管4を撤去することなく、突合せ溶接部7を切断することによりセーフエンド8を除去する。次に、ノズル1の先端部にクラッド溶接部2の一部および肉盛溶接部3に掛けて円錐状開先切削部Cを形成する(b)。すなわち、内面テーパ加工をする。そして、この円錐状開先切削部Cに溶接トーチ6を斜め下方から当接して、耐食性改善溶接部9を溶接形成する(c)。これによって図1に示す耐食改善溶接部9が形成される。さらにノズル1の先端に開先をとり、同じく開先をとったセーフエンドと突合せ溶接することにより元のノズルを復旧できる。なお、耐食性改善溶接部9もニッケル基溶着金属で形成されている。
【0010】図3は円錐状開先切削部Cと溶接トーチ6の姿勢および動作方向の関係を示す概念図である。円錐状開先切削部Cはクラッド溶接部2の内面に対して5°〜60°の傾斜角θを成すように形成されている。傾斜角θが5°より小さいと、耐食性改善溶接部9の形成を容易にする効果が殆ど期待できず、傾斜角θが60°より大きいと、耐食性改善溶接部9の形成範囲が広くなり過ぎる。溶接トーチ6の電極の向きはノズル1の半径方向に対して10°〜90°に設定する。ノズル1の半径方向に対する電極の傾斜角φが10°より小さいと、ノズル1と内管4との間隔が狭過ぎて耐食性改善溶接部9の形成が難しくなる。
【0011】溶接アークの向きは溶接トーチ6の電極の向きと同じ方向となるように設定するが、溶接形状や溶接条件との関係により必ずしも同じにしなくても良い。溶接トーチ6には、ノズル1の軸方向および半径方向の何れの方向にも独立して移動できるような駆動機構が設けられている。円錐状開先切削部Cの形成範囲は基本的に少なくとも肉盛溶接部3の内周面を覆って耐食性改善溶接部9を形成できれば良いから、ほぼ5〜40mmの長さとする。
【0012】このように、本実施例では、ノズル1の先端部のクラッド溶接部2の一部および肉盛溶接部3の内側に、厚さが先端側に移行するに連れて薄くなるように切削した円錐状開先切削部Cを形成したので、ノズル1内面のクラッド溶接部2と撤去されずに存在する内管4との間隔が狭くても、先端側の円錐状開先切削部Cの下にはノズル1の径方向に拡張された溶接トーチ6受入用の空間が形成されるから、溶接トーチ6を用いた応力腐食割れ予防保全のための耐食性改善溶接部9の形成を容易に行える。また、溶接トーチ6の電極の向きをノズル1の半径方向に対して所定角度だけ傾けることにより、溶接トーチ6をそれ程小型化しなくても比較的容易に耐食性改善溶接を行うことができる。
【0013】図4は円錐状開先切削部Cが異なる形状をした他の実施例に係る圧力容器のノズルの耐食性改善溶接部を示す正面図(a)およびその部分拡大図(b)である。この実施例では、ノズル1の奥側、つまり、先端と反対側の円錐状開先切削部Cの端縁形状を周回する円環状切削部C′(円環状凹溝)としたものである。円錐状開先切削部Cの形状をこのように形成することにより、この円環状切削部C′の内側にやや広い間隙を形成することができるから、それだけ耐食性改善溶接を容易に行うことができる。
【0014】図5は円錐状開先切削部Cが異なる形状をした、さらに他の実施例に係るノズルの耐食性改善溶接部を示す正面図である。この例では、円錐状開先切削部Cの形状を奥側に形成された、クラッド溶接部2の内面に対してやや大きな傾斜角θ1を成した大傾斜切削部C1と、これに連設され、やや小さな傾斜角θ2を成した小傾斜切削部C2との2段構成となっている。円錐状開先切削部Cの形状をこのように形成することにより、耐食性改善溶接部9を形成するのに要する溶融金属量を節約することができる。
【0015】
【発明の効果】以上説明したように請求項1記載の発明によれば、肉盛溶接部の内面を含んで、先端側に移行するに連れて厚さが薄くなるように切削した略円錐状を成す開先加工部を形成したので、開先加工部の下にノズルの径方向に拡張された溶接トーチ受入用の空間が形成されるから、ノズル内に配設された他の部材を撤去することなく、現行のものと類似の溶接トーチを用いて溶接部の応力腐食割れの予防保全工事を行うことができる。
【0016】請求項2記載の発明によれば、開先加工部のノズル内面に対する傾斜角を5°〜60°に設定したので、現行のものと類似の溶接トーチを用いて耐食性改善溶接部を容易に形成することができる。
【0017】請求項3記載の発明によれば、ノズルの先端とは反対側の開先加工部の端縁に周回する円環状凹溝を形成したので、ノズルの先端内面の耐食性改善溶接をさらに容易に行うことができる。
【0018】請求項4記載の発明によれば、開先加工部のノズル内面に対する傾斜角を、ノズルの先端とは反対側が大きく、ノズルの先端側が小さい複数段屈折構成としたので、耐食性改善溶接部を形成するのに要する溶融金属量を節約することができる。
【0019】請求項5記載の発明によれば、ノズル内に配設された他の部材を撤去することなく、ノズルの先端側に移行するに連れて厚さが薄くなるように内面を切削して略円錐状を成す開先加工を施した後、該開先加工面に肉盛溶接を行うようにしたので、予防保全工事を簡便に行うことができるから、該工事に要する時間を短縮でき、費用を低減することができる。
【0020】請求項6記載の発明によれば、溶接トーチの電極の向きをノズルの半径方向に対して10°〜90°傾けるように設定したので、溶接トーチを用いた開先加工面に対する肉盛溶接を容易に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施例に係る圧力容器のノズルの耐食性改善溶接部を示す正面図である。
【図2】同じく、その耐食性改善溶接工程手順図である。
【図3】円錐状開先加工部と溶接トーチの姿勢および動作方向の関係を示す概念図である。
【図4】円錐状開先加工部が異なる形状をした他の実施例に係る圧力容器のノズルの耐食性改善溶接部を示す正面図(a)およびその部分拡大図(b)である。
【図5】円錐状開先加工部が異なる形状をした、さらに他の実施例に係る圧力容器のノズルの耐食性改善溶接部を示す正面図である。
【図6】一般的な原子炉圧力容器の縦断面図である。
【図7】同じく、そのノズルの軸方向に沿った上側断面図である。
【符号の説明】
1 ノズル
2 クラッド溶接部
3 肉盛溶接部
4 内管
6 溶接トーチ
7 突合せ溶接部
8 セーフエンド
9 耐食性改善溶接部
C 円錐状開先加工部

【特許請求の範囲】
【請求項1】 内部に内管等の他の部材が配設され、ニッケル基合金肉盛溶接部を含む先端部の内側に応力腐食割れ防止のための耐食性改善溶接部が形成された圧力容器のノズルの先端形状において、前記ノズルの内面に少なくとも前記肉盛溶接部の内面を含んで、先端側に移行するに連れて厚さが薄くなるように切削した略円錐状を成す開先加工部を形成し、そこに耐食性改善のクラッド溶接を施したことを特徴とする圧力容器のノズルの先端形状。
【請求項2】 開先加工部のノズル内面に対する傾斜角を5°〜60°に設定したことを特徴とする請求項1記載の圧力容器のノズルの先端形状。
【請求項3】 ノズルの先端とは反対側の開先加工部の端縁に周回する円環状凹溝を形成したことを特徴とする請求項1記載の圧力容器のノズルの先端形状。
【請求項4】 開先加工部のノズル内面に対する傾斜角を、ノズルの先端とは反対側が大きく、ノズルの先端側が小さい複数段屈折構成としたことを特徴とするノズルの先端形状。
【請求項5】 内部に内管等の他の部材が配設され、ニッケル基合金肉盛溶接部を含む圧力容器のノズルの先端の内面に耐食性改善のための肉盛溶接を行うようにした圧力容器のノズルの先端の肉盛溶接方法において、前記他の部材を撤去することなく、前記ノズルの内面に少なくとも前記肉盛溶接部の内面を含んで、前記ノズルの先端側に移行するに連れて厚さが薄くなるように内面を切削して略円錐状を成す開先加工を施した後、該開先加工面に肉盛溶接を行うようにしたことを特徴とする圧力容器のノズルの先端の肉盛溶接方法。
【請求項6】 溶接トーチの電極の向きをノズルの半径方向に対して10°〜90°傾けるように設定したことを特徴とする請求項5記載の圧力容器のノズルの先端の肉盛溶接方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2003−225763(P2003−225763A)
【公開日】平成15年8月12日(2003.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2002−27048(P2002−27048)
【出願日】平成14年2月4日(2002.2.4)
【出願人】(000005441)バブコック日立株式会社 (683)
【Fターム(参考)】