説明

圧力脈動吸収体の製造方法

【課題】高圧管路中にインラインで容易に組み込むことができ、緻密且つ均一な気泡を均等に分布させることができる圧力脈動吸収体の製造方法を提供する。
【解決手段】円筒形の予備成型金型1の中央に円柱状心棒2を配置し、当該予備成型金型1内の空所1aに熱膨張性マイクロカプセル4を含むポリマー3を注入して予備成型し、予備成型金型1を脱型した後、該予備成型金型1より径が大である円筒形の本成型金型5内に、上記で得た予備成型品を前記円柱状心棒2と共に移し該円柱状心棒2が中心となるよう配置し、爾後加熱してマイクロカプセル発泡させて前記ポリマー3を膨張させ本成型し、本成型金型5を脱型し且つ円柱状心棒2を抜脱して圧力脈動吸収体6を得ることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高圧管路中にインラインで配置され、管路中を流れる流体の脈動を低減する為に使用される圧力脈動吸収体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、高圧管路中の圧力流体の脈動を抑制する手段として、インライン型アキュムレーターが用いられていたが、構造が複雑で高価であり、使用用途が限られる等の問題点があった。このような問題点を解消する為に、特許文献1は、高圧管路中に空部を設け、この空部に微小独立気泡を持つ弾性体を配置して、この弾性体を圧力流体内に浸漬するようにした脈動フィルターを提案している。この脈動フィルターは、構造が簡単且つ安価に供給でき、配管や機器の中にインラインで容易に組み込むことができ、また配管内での圧力流体の流れ抵抗が小さく、更に、高い周波数から低い周波数までの広い幅の周波数の脈動吸収が可能となる、等の優れた特性を有するものであり、広く採用されるに至っている。
【特許文献1】特開平8−240201号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
然るに、特許文献1に開示された発泡体による筒状の脈動フィルターを押出し法により製造する場合、緻密な独立気泡が得難く、また、配管と同形状に成型することも難しく配管に組み込んだ時、圧力損失を生じ易い。1方、型内で径方向に発泡させながら成型する場合、気泡の大小や粗密むらが生じ、均質な発泡体が得難く、特に長い筒状体の場合はその傾向が強くなる。
【0004】
本発明は、上記実情に鑑みなされたものであり、高圧管路中にインラインで容易に組み込むことができ、緻密且つ均一な気泡を均等に分布させることができる圧力脈動吸収体の製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1の発明に係る圧力脈動吸収体の製造方法は、高圧管路中に配置される圧力脈動吸収体の製造方法であって、円筒形の予備成型金型の中央に円柱状心棒を配置し、当該予備成型金型内の空所に熱膨張性マイクロカプセルを含むポリマーを注入して予備成型し、予備成型金型を脱型した後、該予備成型金型より径が大である円筒形の本成型金型内に、上記で得た予備成型品を前記円柱状心棒と共に移し該円柱状心棒が中心となるよう配置し、爾後加熱してマイクロカプセル発泡させて前記ポリマーを膨張させ本成型し、本成型金型を脱型し且つ円柱状心棒を抜脱して圧力脈動吸収体を得ることを特徴とする。
【0006】
請求項2の発明は、前記圧力脈動吸収体の製造方法において、外筒部材により外周部が一体的に被包された圧力脈動吸収体を得るために、前記本成型金型内に予め外筒部材をその内壁面に沿うよう内装しておくことを特徴とする。請求項3の発明は、これら圧力脈動吸収体の製造方法において、前記熱膨張性マイクロカプセルが、熱可塑性樹脂の殻内に液状ガスを封じ込めたものからなり、前記マイクロカプセル発泡が、前記加熱に伴う熱可塑性樹脂の軟化と液状ガスのガス化によりなされるものであることを特徴とする。また、請求項4の発明は、前記ポリマーが、ゴム組成物からなり、前記本成型時の加熱により加硫成型されるものであることを特徴とする。更に、請求項5の発明は、請求項2に記載の圧力脈動吸収体の製造方法において、前記外筒部材が、その両端に内向鍔部を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
請求項1の発明に係る圧力脈動吸収体の製造方法によれば、本成型時には、予備成型金型より径が大である円筒形の本成型金型内に、予備成型品を円柱状心棒と共に移し該円柱状心棒が中心となるよう配置し、爾後加熱してマイクロカプセル発泡させて前記ポリマーを膨張させて本成型がなされるから、マイクロカプセル発泡は、円柱状心棒によって求心方向が規制され、発泡による膨張が遠心方向に指向されることになり、得られる筒状発泡成型品の内筒径は一定となる。また、マイクロカプセル発泡によるから、緻密な気泡の形成が可能であり、これと上記遠心方向への発泡膨張が相乗して、均一な気泡を長手方向に均一に分布させることができ、高圧管路内に配置した場合の圧力脈動の均一な吸収性が向上する。また、請求項2の発明によれば、成型品外周部への外筒部材の一体的被包が簡易になされ、得られた吸収体の形状保持性が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下に本発明の最良の実施の形態について、図面に基づいて説明する。図1は本発明の第1の実施形態における圧力脈動吸収体の製造方法の概略的工程図、図2は第2の実施形態における圧力脈動吸収体の製造方法の概略的工程図、図3は第2の実施形態の変形例によって得た圧力脈動吸収体の縦断面図である。
【実施例1】
【0009】
図1の(a)は予備成型工程の状態を、(b)は予備成型品を本成型金型内に設置した状態を、(c)は本成型工程の状態を、(d)は本成型金型を脱型して得た圧力脈動吸収体の形状を、夫々示す。図1(a)において、予備成型金型1を構成する上金型11及び下金型12は、合体時に円筒形空所(キャビティ)1aを形成するよう半円筒形の凹所11a、12aを備え、更にその長手方向両端部には、円柱状心棒(中子)2を保持する為の同心小径の保持凹部11b、12bを有している。この保持凹部11b、12bに円柱状心棒2を横架するよう同心的に保持させた上で、円筒形空所1aの残った空所内に後記する熱膨張性マイクロカプセル4を含んだポリマー3を注入して予備成型がなされる。
【0010】
上記ポリマー3は、耐ブレーキ油性を有するゴム組成物からなり、具体的には、エチレンプロピレンゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム、水素化アクリロニトリルブタジエンゴムなどが使用可能である。このうち、フッ素ゴムとしては、フッ化ビニリデン、テトラフロロエチレン、ヘキサフロロプロピレンからなる3元素フッ素ゴム或いはこれらのモノマーと共重合可能なモノマーを共重合したフッ素ゴム或いはペルフルオロポリエーテル系フッ素ゴムなどが望ましく採用される。高圧管路中の流体としては、例えばエンジン油、ATF、ブレーキ油、機械油などの作動油、また、ガソリン燃料油などがあり、脈動吸収体を構成するポリマーとしては、これらの流体に耐性を有する例えば上記ポリマーなどが選定される。
【0011】
上記熱膨張性マイクロカプセル4は、液状ガスを熱可塑性樹脂の殻内に封じ込めて構成され、その粒径は2〜50ミクロンであり、これを加熱すると液状ガスがガス化し、また熱可塑性樹脂が軟化し、これにより、約5倍から100倍の体積に膨張するものである。液状ガスとしては、一般的に低分子量の炭化水素が用いられ、例えば、エタン、プロパン、ブタン、イソブタン、ペンタンなどが使用可能であり、また、殻を構成する熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、スチレン樹脂、アクリル樹脂、塩化ビニリデン樹脂、アクリロニトリル樹脂、PET、PBT、フッ素樹脂、ポリビニールアルコール樹脂、エチレンビニルアルコール共重合樹脂などが使用可能である。尚、好ましくはガスバリア性を有する樹脂、例えばPET、塩化ビニリデン樹脂、ポリビニールアルコール、エチレンビニルアルコール共重合樹脂を使用することができる。
【0012】
図1(a)の予備成型工程において、上記空所1a内に注入されたポリマー3はそのゴム組成物が未加硫若しくは半加硫状態で予備成型され、図1(b)の本成型金型5の円筒形空所(キャビティ)5a内に円柱状心棒2と共に設置される。この状態では熱膨張性マイクロカプセル4は未発泡の状態でポリマー3内に保持されている。本成型金型5は、上金型51及び下金型52から構成され、両金型51、52は、その合体時に、上記予備成型金型1の円筒形空所1aより大径の円筒形空所(キャビティ)5aを形成するよう半円筒形の凹所51a、52aを備えている。更にその長手方向両端部には、上記円柱状心棒2を保持する為の同心小径の保持凹部51b、52bを有している。この保持凹部51b、52bに円柱状心棒2を横架するよう同心的に保持させた上で、本成型金型5を閉じて全体を100〜200℃で2〜30分間加熱すると、予備成型されたポリマー3中の熱膨張性マイクロカプセル4内の液状ガスがガス化してその殻が膨張する。
【0013】
ポリマー3は、図1(c)に示すように、上記殻の膨張に伴い円筒形空所5a内を遠心方向に膨張してその内壁に至る。このようなガス化に伴う膨張をマイクロカプセル発泡と言う。同時に、ポリマー3はそのゴム組成物が熱により加硫され、上記の膨張した多数の殻を保持した状態で固定化され成型される。本成型金型5を脱型し、円柱状心棒2を抜脱すると図1(d)に示すような最終成型品としての圧力脈動吸収体6が得られる。この圧力脈動吸収体6は、その中心に円柱状心棒2の外径に相当する内径の内筒部6aを有する肉厚の円筒体とされ、壁部は多数の気泡を有する加硫硬化されたゴム組成物からなる。従って、高圧流体の管路にこの圧力脈動吸収体6を設置すれば、ゴム組成物の弾性と多数の気泡の存在とが相乗して高圧流体による脈動が吸収され、配管の振動等の発生が抑制される。そして、マイクロカプセル発泡によるから、緻密且つ均一な気泡が均等に分散した発泡体が得られる。更に、内筒部6aの内径は円柱状心棒2の外径に規制されるから、発泡成型時にその径の変化がなく、円柱状心棒2の外径の適宜選定により適用する高圧管路に応じた適正な内径の圧力脈動吸収体6が精度よく得られ、配管での圧力損失を惹起する懸念がない。
【0014】
上記ポリマー3と熱膨張性マイクロカプセル4との適正な組成比は、ポリマー100重量部に対して1〜30重量部とされる。また、熱膨張性マイクロカプセル4の上記液状ガスのガス化によって生じる圧力脈動吸収体6中の適正なガス含有率は20〜90容量%であり、好ましくは40〜80容量%である。ここに、ガス含有率が20容量%未満の場合は十分な脈動吸収効果が得られず、一方90容量%を超えると初期の脈動吸収特性に優れるものの耐久性が経時的に低下する。上記ポリマー3には、必要に応じ、補強剤、充填剤、滑剤、加工助剤、加硫剤などを任意に添加することができる。このような添加調製は、ニーダ、バンバリーミキサー、オープンロール等の通常の混練機によって混合することによりなされる。
【実施例2】
【0015】
図2に示す実施形態は、圧力脈動吸収体6の外周に金属その他剛性のある材料からなる外筒部材7を一体とする場合の製造方法を示すものである。即ち、図2(a)は、図1(a)と同様の予備成型の工程を示し、この予備成型工程によって得られた予備成型品は、図2(b)に示すように、予め外筒部材7を内壁面に沿うよう内装した本成型金型5の円筒形空所(キャビティ)5a内に円柱状心棒2と共に設置される。この状態では熱膨張性マイクロカプセル4は上記同様未発泡の状態でポリマー3内に保持されており、また本成型金型5内での円柱状心棒2の保持状態も上記と同様である。
【0016】
そして、本成型金型5を閉じて全体を100〜200℃で2〜30分間加熱すると、予備成型されたポリマー3中の熱膨張性マイクロカプセル4内の液状ガスがガス化してその殻が膨張する。ポリマー3は、図2(c)に示すように、上記殻の膨張に伴い円筒形空所5a内を遠心方向に膨張して外筒部材7の内壁に至る。同時に、ポリマー3はそのゴム組成物が熱により加硫され、上記の膨張した多数の殻を保持した状態で固定化され成型される。本成型金型5を脱型し、円柱状心棒2を抜脱すると図2(d)に示すような最終成型品としての圧力脈動吸収体6Aが得られる。この圧力脈動吸収体6は、ポリマー3の発泡体の外周部分が外筒部材7に覆われるから、その形状保持がなされ、輸送や組付け時の発泡体の毀損が防止されることになり、その実用価値が向上する。その他の構成は上記と同様であるので、共通部分には同一の符号を付しその説明を割愛する。
【0017】
図3に示す例は上記第2の実施形態の変形例を示すものであり、最終成型品としての圧力脈動吸収体6Bが、ポリマー3の発泡体の外周部分が両端開口部に内向鍔部7aを有する外筒部材7によって覆われてなるものである。このような内向鍔部7aを有する外筒部材7によってポリマー3の発泡体の外周部分及び端面部分が覆われることになり、より一層その形状保持性が向上する。そして、その製造方法は、図2(b)において、上記内向鍔部7aを有する外筒部材7を本成型金型5の内壁面に沿うよう内装する以外は上記と同様であるのでここではその説明を割愛する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の第1の実施形態における圧力脈動吸収体の製造方法の概略的工程図を示し、(a)は予備成型工程の状態を、(b)は予備成型品を本成型金型内に設置した状態を、(c)は本成型工程の状態を、(d)は本成型金型を脱型して得た圧力脈動吸収体の形状を、夫々示す。第2の実施形態の変形例によって得た圧力脈動吸収体の縦断面図である。
【図2】第2の実施形態における圧力脈動吸収体の製造方法の概略的工程図であり、図1と同様図である。
【図3】第2の実施形態の変形例によって得た圧力脈動吸収体の縦断面図である。
【符号の説明】
【0019】
1 予備成型金型
2 円柱状心棒
3 ポリマー
4 熱膨張性マイクロカプセル
5 本成型金型
6 圧力脈動吸収体
6A 圧力脈動吸収体
6B 圧力脈動吸収体
7 外筒部材
7a 内向鍔部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高圧管路中に配置される圧力脈動吸収体の製造方法であって、
円筒形の予備成型金型の中央に円柱状心棒を配置し、当該予備成型金型内の空所に熱膨張性マイクロカプセルを含むポリマーを注入して予備成型し、予備成型金型を脱型した後、該予備成型金型より径が大である円筒形の本成型金型内に、上記で得た予備成型品を前記円柱状心棒と共に移し該円柱状心棒が中心となるよう配置し、爾後加熱してマイクロカプセル発泡させて前記ポリマーを膨張させ本成型し、本成型金型を脱型し且つ円柱状心棒を抜脱して圧力脈動吸収体を得ることを特徴とする圧力脈動吸収体の製造方法。
【請求項2】
高圧管路中に配置される圧力脈動吸収体の製造方法であって、
円筒形の予備成型金型の中央に円柱状心棒を配置し、当該予備成型金型内の空所に熱膨張性マイクロカプセルを含むポリマーを注入して予備成型し、予備成型金型を脱型した後、予め外筒部材を内壁面に沿うよう内装した前記該予備成型金型より径が大である円筒形の本成型金型内に、上記で得た予備成型品を円柱状心棒と共に移し該円柱状心棒が中心となるよう配置し、爾後加熱してマイクロカプセル発泡させて前記ポリマーを膨張させ本成型し、本成型金型を脱型し且つ円柱状心棒を抜脱して前記外筒部材により外周部が一体的に被包された圧力脈動吸収体を得ることを特徴とする圧力脈動吸収体の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の圧力脈動吸収体の製造方法において、
前記熱膨張性マイクロカプセルが、熱可塑性樹脂の殻内に液状ガスを封じ込めたものからなり、前記マイクロカプセル発泡が、前記加熱に伴う熱可塑性樹脂の軟化と液状ガスのガス化によりなされるものであることを特徴とする圧力脈動吸収体の製造方法。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の圧力脈動吸収体の製造方法において、
前記ポリマーが、ゴム組成物からなり、前記本成型時の加熱により加硫成型されるものであることを特徴とする圧力脈動吸収体の製造方法。
【請求項5】
請求項2に記載の圧力脈動吸収体の製造方法において、
前記外筒部材が、その両端に内向鍔部を有することを特徴とする圧力脈動吸収体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−37969(P2006−37969A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−213813(P2004−213813)
【出願日】平成16年7月22日(2004.7.22)
【出願人】(000225359)内山工業株式会社 (204)
【Fターム(参考)】