説明

圧延機の制御方法および装置

【課題】圧延操業中に発生する10数〜20数Hzの振動を未然に防ぐ圧延機の制御方法および装置を提供すること。
【解決手段】圧延中に時々刻々と変化する圧延速度に基づいて圧延ロールの回転周波数を逐次演算し、圧延ロールの回転周波数がロール軸の固有振動周波数を中心とする予め定めた所定の帯域に入ったときに、圧延ロールの回転周波数を前記所定の帯域から外す圧延ロールの回転周波数の目標値を演算し、次いで、得られた圧延ロールの回転周波数の目標値に基づいて圧延速度の目標値を演算し、次いで、得られた圧延速度の目標値に基づいてミルモータの回転速度を制御して、圧延ロールが回転することによって生じる圧延ロールの振動とロール軸がねじれることによって生じるロール軸の振動との共振によって発生する圧延機の振動を未然に防ぐ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧延機の制御方法および装置に関し、特に、圧延機の振動を未然に防ぐための制御方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼板等の金属板を連続的に圧延する圧延機に異常な振動現象が確認された場合には、原因が不明のまま、オペレータが手動にて強制的に圧延速度を下げることで、当該振動現象に起因する板厚不良や圧延材の破断などのトラブルを回避している。このオペレータによる対応が遅れると、不良品の大量発生のみならず、圧延機自体の破壊に至るおそれもある。
【0003】
このため、従来から、圧延機が振動を開始する原因を解明して、これに基づいて圧延機が振動を開始する前に事前にこれを予測する方法、あるいは、圧延機の振動を未然に防ぐ方法が研究されてきた。
例えば、特許文献1では、タンデム圧延機の各圧延機におけるワークロールの上下振動と、その上下振動を隣接する圧延機に伝播させる圧延材中の張力振動とが、タンデム圧延機の振動の原因であるとしている。そして、各圧延機に備えられたワークロールの上下振動と、圧延中の圧延材の内部を伝播する張力振動とを考慮して作成した振動モデルによれば、タンデム圧延機の振動発生の有無を予測できるとしている。また、この振動モデルに基づいて各圧延機における圧延材張力および板厚からなる圧延制御量を算出し、当該算出した圧延制御量に基づいて各圧延機を制御すれば、タンデム圧延機の振動を未然に防ぐことができるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−297025号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、圧延機の振動には、様々な態様、振動モードがあり、種々の発生原因がある。圧延機の振動は、圧延速度、圧延荷重、圧延潤滑状態、圧延材張力、圧延機の固有振動数等の種々の要因が複雑に絡み合って、これらがある特定の条件に合致したときに振動現象として発現するものであり、たとえ同型の圧延機で発生する振動だからといえども同一の原因に基づく振動であるとは限らない。
したがって、圧延ロールの上下振動と圧延材中の張力振動とを原因とする振動については、特許文献1が開示する予測・防止方法によって当該原因に基づく振動を予測・防止できるが、前記のとおり圧延機の振動には様々な態様、振動モード、そして種々の発生原因があるために、特許文献1が開示する予測・防止方法では、前記原因に基づかない振動については予測・防止できない。
【0006】
本発明の解決すべき課題は、前記原因に基づかない振動、より具体的には、圧延操業中に発生する10数〜20数Hzの振動を未然に防ぐ圧延機の制御方法および装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、シングル圧延機とタンデム圧延機の双方において、圧延操業中に10数〜20数Hzの振動が発生することがあるので、この振動発生原因を究明した。その結果、圧延ロールの振動とロール軸の振動、より具体的には、圧延ロールが回転することによって生じる圧延ロールの振動とロール軸がねじれることによって生じるロール軸の振動とが共振することによって前記10数〜20数Hzの振動が発生するとの知見を得た。
そして、本発明者は、種々の理論的検討および実験的検討を重ねた結果、以下の技術的知見を得た。
【0008】
(a)まず、本発明の基本的原理に関する。圧延ロールの振動周波数である圧延ロールの回転周波数は時々刻々と変化するのに対し、ロール軸の振動周波数は不変・固有であり、圧延速度には依存しない。したがって、本発明では、可変である圧延ロールの回転周波数を、不変であるロール軸の固有振動周波数とずらす(シフトする)ことにより、圧延ロールの振動とロール軸の振動との共振を防ぐこととする。
【0009】
(b)次は、圧延ロールの回転周波数をシフトするタイミングに関する。圧延ロールの回転周波数がロール軸の固有振動周波数と一致してからの対処方法では、共振が発生して振動が拡大してしまうおそれがある。したがって、本発明では、圧延ロールの回転周波数がロール軸の固有振動周波数を中心とする予め定めた所定の帯域に入ったタイミングで圧延ロールの回転周波数をシフトすることで、圧延ロールの振動とロール軸の振動との共振を未然に防ぐ。
なお、圧延ロールの回転周波数については、圧延中に時々刻々と変化する圧延速度に基づいて逐次演算する。これにより、圧延ロールの回転周波数が前記所定の帯域に入ったか否かを高精度に判定でき、時々刻々と変化する圧延ロールの回転周波数の変動に柔軟に対処できる。
【0010】
(c)同じく、圧延ロールの回転周波数をシフトするタイミングに関する。圧延ロールの回転周波数は、圧延中に時々刻々と変化する圧延速度により決定されるので時々刻々と変化する。このため、ある瞬間には、圧延ロールの回転周波数がロール軸の固有振動周波数を中心とする予め定めた所定の帯域に入ったとしても、次の瞬間には、圧延ロールの回転周波数が前記所定の帯域から外れる場合がある。例えば、圧延速度を加減速しているときに、圧延ロールの回転周波数が前記所定の帯域を横切る場合である。このような場合には、圧延ロールの回転周波数がロール軸の固有振動周波数と一致したとしても次の瞬間には不一致となって共振が発生することはないので、積極的に圧延ロールの回転周波数をシフトする必要はない。もちろんこのような場合であっても、圧延ロールの回転周波数が前記所定の帯域に入ったタイミングでシフトしても構わないが、当該シフト操作は圧延制御を煩雑にするおそれがある。このため、無駄なシフト操作を排除すべく、圧延ロールの回転周波数がロール軸の固有振動周波数を中心とする予め定めた所定の帯域に入ったとき、かつ、当該所定の帯域に入っている時間が予め定めた所定の時間を超えるときに、圧延ロールの回転周波数をシフトするのがより好ましい。
【0011】
(d)次は、圧延ロールの回転周波数のシフト量に関する。前記のとおり、圧延ロールの回転周波数は、時々刻々と変化する。したがって、圧延ロールの回転周波数のシフト量が少なすぎると、時間の経過とともにロール軸の固有振動周波数と一致してしまうおそれがある。このため、共振の発生を完全に防ぐ観点から、本発明では、前記所定の帯域から外れるまで圧延ロールの回転周波数をシフトする。
【0012】
(e)次は、圧延ロールの回転周波数をシフトする具体的方法に関する。圧延ロールの回転周波数をシフトするには、圧延ロールの回転周波数を前記所定の帯域から外す圧延ロールの回転周波数の目標値を演算し、得られた圧延ロールの回転周波数の目標値に基づいて圧延速度の目標値を演算する。そして、得られた圧延速度の目標値に基づいてミルモータの回転速度を制御する。これらの演算制御を行うことにより、シングル圧延機とタンデム圧延機の双方の圧延機について、圧延操業中に発生する圧延機の振動を未然に防ぐことができる。
【0013】
(f)ただし、複数の圧延スタンドからなるタンデム圧延機については、すべてのスタンドにおけるマスフローが一定になるように各スタンドの圧延速度を調整しなければならないという制約がある。したがって、圧延ロールの回転周波数がロール軸の固有振動周波数を中心とする予め定めた所定の帯域に入ったスタンドについて前記方法によって圧延ロールの回転周波数をシフトした場合には、圧延スタンドの入側と出側の間におけるマスフロー一定則の制約により別のスタンドの圧延速度が影響を受けることとなる。このため、前記シフト操作によって新たに別のスタンドにおいて圧延ロールの回転周波数がロール軸の固有振動周波数を中心とする予め定めた所定の帯域に入る可能性がある。したがって、タンデム圧延機の場合には、すべてのスタンドにおける圧延ロールの回転周波数が各スタンドにおける前記所定の帯域から外れるまで上記操作を繰り返し、これにより圧延操業中に発生するタンデム圧延機の振動を未然に防ぐこととする。
【0014】
本発明は、上記知見に基づいて完成した発明であり、その要旨とするところは以下のとおりである。
(1)金属板を連続的に圧延する圧延機の制御方法において、
圧延中に時々刻々と変化する圧延速度に基づいて圧延ロールの回転周波数を逐次演算し、
圧延ロールの回転周波数がロール軸の固有振動周波数を中心とする予め定めた所定の帯域に入ったときに、
圧延ロールの回転周波数を前記所定の帯域から外す圧延ロールの回転周波数の目標値を演算し、
次いで、得られた圧延ロールの回転周波数の目標値に基づいて圧延速度の目標値を演算し、
次いで、得られた圧延速度の目標値に基づいてミルモータの回転速度を制御して、
圧延ロールが回転することによって生じる圧延ロールの振動とロール軸がねじれることによって生じるロール軸の振動との共振によって発生する圧延機の振動を未然に防ぐことを特徴とする圧延機の制御方法。
【0015】
(2)金属板を連続的に圧延するタンデム圧延機の制御方法において、
(A)各スタンドについて圧延中に時々刻々と変化する圧延速度に基づいて各スタンドにおける圧延ロールの回転周波数を逐次演算し、
(B)圧延ロールの回転周波数がロール軸の固有振動周波数を中心とする予め定めた所定の帯域に入ったスタンドについては、圧延ロールの回転周波数を前記所定の帯域から外す圧延ロールの回転周波数の目標値を演算し、
次いで、得られた圧延ロールの回転周波数の目標値に基づいて圧延速度の目標値を演算し、
次いで、得られた圧延速度の目標値に基づいて当該スタンドにおけるミルモータの回転速度を制御するとともに、すべてのスタンドにおけるマスフローが一定になるように当該スタンド以外のスタンドにおけるミルモータの回転速度を制御し、
(C)これらの制御によって新たに別のスタンドにおいて圧延ロールの回転周波数がロール軸の固有振動周波数を中心とする予め定めた所定の帯域に入ったときには、すべてのスタンドにおける圧延ロールの回転周波数が各スタンドにおける前記所定の帯域から外れるまで上記(A)〜(C)の操作を繰り返し、
圧延ロールが回転することによって生じる圧延ロールの振動とロール軸がねじれることによって生じるロール軸の振動との共振によって発生するタンデム圧延機の振動を未然に防ぐことを特徴とする圧延機の制御方法。
【0016】
(3)圧延ロールの回転周波数がロール軸の固有振動周波数を中心とする予め定めた所定の帯域に入ったとき、かつ、当該所定の帯域に入っている時間が予め定めた所定の時間を超えるときに、前記の圧延ロールの回転周波数の目標値の演算、圧延速度の目標値の演算、および、得られた圧延速度の目標値に基づくミルモータの回転速度の制御を行う前記(1)または(2)に記載の圧延機の制御方法。
【0017】
(4)金属板を連続的に圧延する圧延機の制御装置において、
圧延中に時々刻々と変化する圧延速度を逐次取得する圧延速度取得手段と、
取得した圧延速度に基づいて圧延ロールの回転周波数を逐次演算する回転周波数演算手段と、
ロール軸の固有振動周波数を記憶する振動周波数記憶手段と、
圧延ロールの回転周波数がロール軸の固有振動周波数を中心とする予め定めた所定の帯域に入ったか否かを判定する判定手段と、
前記判定手段による判定が是のときに、圧延ロールの回転周波数を前記所定の帯域から外す圧延ロールの回転周波数の目標値を演算する回転周波数目標値演算手段と、
前記判定手段による判定が是のときに、得られた圧延ロールの回転周波数の目標値に基づいて圧延速度の目標値を演算する圧延速度目標値演算手段と、
前記判定手段による判定が是のときに、得られた圧延速度の目標値に基づいてミルモータの回転速度を制御するミルモータ制御手段を備えた、
圧延ロールが回転することによって生じる圧延ロールの振動とロール軸がねじれることによって生じるロール軸の振動との共振によって発生する圧延機の振動を未然に防ぐことを特徴とする圧延機の制御装置。
【0018】
(5)金属板を連続的に圧延する圧延機の制御装置において、
圧延中に時々刻々と変化する圧延速度を逐次取得する圧延速度取得手段と、
取得した圧延速度に基づいて圧延ロールの回転周波数を逐次演算する回転周波数演算手段と、
ロール軸の固有振動周波数を記憶する振動周波数記憶手段と、
圧延ロールの回転周波数がロール軸の固有振動周波数を中心とする予め定めた所定の帯域に入ったか否かを判定する判定手段と、
圧延ロールの回転周波数が前記所定の帯域に入っている時間が予め定めた所定の時間を越えるか否かを判定する第二の判定手段と、
前記2つの判定手段による判定がともに是のときに、圧延ロールの回転周波数を前記所定の帯域から外す圧延ロールの回転周波数の目標値を演算する回転周波数目標値演算手段と、
前記2つの判定手段による判定がともに是のときに、得られた圧延ロールの回転周波数の目標値に基づいて圧延速度の目標値を演算する圧延速度目標値演算手段と、
前記2つの判定手段による判定がともに是のときに、得られた圧延速度の目標値に基づいてミルモータの回転速度を制御するミルモータ制御手段を備えた、
圧延ロールが回転することによって生じる圧延ロールの振動とロール軸がねじれることによって生じるロール軸の振動との共振によって発生する圧延機の振動を未然に防ぐことを特徴とする圧延機の制御装置。
【0019】
(6)金属板を連続的に圧延するタンデム圧延機の制御装置において、
圧延中に時々刻々と変化する各スタンドの圧延速度を逐次取得する圧延速度取得手段と、
取得した圧延速度に基づいて各スタンドにおける圧延ロールの回転周波数を逐次演算する回転周波数演算手段と、
各スタンドにおけるロール軸の固有振動周波数を記憶する振動周波数記憶手段と、
各スタンドについて圧延ロールの回転周波数がロール軸の固有振動周波数を中心とする予め定めた所定の帯域に入ったか否かを判定する判定手段と、
各スタンドについて圧延ロールの回転周波数が前記所定の帯域に入っている時間が予め定めた所定の時間を越えるか否かを判定する第二の判定手段と、
いずれかのスタンドについて前記2つの判定手段による判定がともに是のときに、圧延ロールの回転周波数を前記所定の帯域から外す当該スタンドにおける圧延ロールの回転周波数の目標値を演算する回転周波数目標値演算手段と、
いずれかのスタンドについて前記2つの判定手段による判定がともに是のときに、得られた圧延ロールの回転周波数の目標値に基づいて当該スタンドにおける圧延速度の目標値を演算する圧延速度目標値演算手段と、
いずれかのスタンドについて前記2つの判定手段による判定がともに是のときに、得られた圧延速度の目標値に基づいて当該スタンドにおけるミルモータの回転速度を制御するとともに、すべてのスタンドにおけるマスフローが一定になるように当該スタンド以外のスタンドにおけるミルモータの回転速度を制御するミルモータ制御手段を備えた、
圧延ロールが回転することによって生じる圧延ロールの振動とロール軸がねじれることによって生じるロール軸の振動との共振によって発生するタンデム圧延機の振動を未然に防ぐことを特徴とする圧延機の制御装置。
【発明の効果】
【0020】
前記のとおり、シングル圧延機とタンデム圧延機の双方において圧延操業中に発生する10数〜20数Hzの振動の発生原因は、圧延ロールが回転することによって生じる圧延ロールの振動とロール軸がねじれることによって生じるロール軸の振動とが共振することである。そして、圧延ロールの振動周波数である圧延ロールの回転周波数は時々刻々と変化するのに対し、ロール軸の振動周波数は不変・固有であり、圧延速度には依存しない。
しかして、これらの有用な技術的知見に基づいて完成した本発明に係る圧延機の制御方法・装置は、時々刻々と変化する圧延ロールの回転周波数がロール軸の固有振動周波数を中心とする予め定めた所定の帯域に入ったタイミングで、圧延ロールの回転周波数をシフトする。したがって、シングル圧延機とタンデム圧延機の双方において圧延操業中に発生する10数〜20数Hzの振動を未然に防ぐことができる。このため、これ以外の振動周波数で圧延機が振動した場合には、その原因が油膜切れ、油膜厚変動等の別要因であることを特定することができ、迅速かつ的確な対応が可能となる。結果、歩留まり、製品品質の向上を期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明装置の構成の一例を示す構成図である。
【図2】ロール軸がねじれることによって生じるロール軸の振動部位を示す模式図である。
【図3】本発明装置の構成の別の一例を示す構成図である。
【図4】本発明装置の構成のさらに別の一例を示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
<第1の実施の形態>
以下、図1〜4を参照して本発明を詳説する。図1は本発明装置の構成の一例を示す構成図である。当該図に示すように、この例における圧延機の制御装置1は、圧延速度取得手段2、回転周波数演算手段4、振動周波数記憶手段5、判定手段6、回転周波数目標値演算手段8、圧延速度目標値演算手段9、および、ミルモータ制御手段10を備える。
【0023】
圧延速度取得手段2は、圧延中に時々刻々と変化する圧延速度をリアルタイムに逐次取得する手段であり、計測または計算により取得した現在の圧延速度を後記する回転周波数演算手段4に出力する。計測の場合には、例えば、ミルモータの回転速度計測機(レゾルバ、PLG等)によって圧延速度を取得する。また、計算の場合には、例えば、圧延を実施する際の圧延速度指令値によって圧延速度を取得する。
【0024】
必須手段ではなく必要に応じて設置するロール径取得手段3は、圧延中の摩耗により時々刻々と変化するロール径を圧延ロール毎に逐次取得する手段であり、計測または計算により取得した現在のロール径を後記する回転周波数演算手段4に出力する。また、後記する判定手段6による判定が是(Yes)のときには、後記する圧延速度目標値演算手段9にも現在のロール径を出力する。計測の場合には、例えば、ロール円周、または直径の実測によってロール径を取得する。また、計算の場合には、例えば、上位のプロセスコンピュータでのロール径計算結果によってロール径を取得する。
なお、取得するロール径は、上下の作業ロール24の各々のロール径である。
【0025】
回転周波数演算手段4は、圧延速度取得手段2が取得した圧延速度に基づいて圧延ロールの回転周波数を逐次演算する。例えば、レゾルバ、PLG等によってモータ回転数[rpm]を取得したのであれば、モータ回転数[rpm]/(スピンドルギヤ比[機/電]×60[sec])にて圧延ロールの回転周波数[Hz]を逐次演算する。
なお、選択的手段であるロール径取得手段3を設置し、これによりロール径を取得する場合については、取得した圧延速度とロール径とに基づいて圧延ロールの回転周波数を逐次演算しても構わない。例えば、圧延ロールの回転周波数[Hz]=圧延速度[mpm]/(ロール径[m]×π×60[sec])にて圧延ロールの回転周波数[Hz]を演算することができる。
なお、取得するロール径は、上下の作業ロール24の各々のロール径であるため、各々のロール径に基づいて上下の作業ロール24の各々の回転周波数を逐次演算する。
【0026】
振動周波数記憶手段5は、ロール軸の固有振動周波数を記憶する手段であり、記憶させたロール軸の固有振動周波数を後記する判定手段6に出力する。
本発明は、圧延ロールが回転することによって生じる圧延ロールの振動とロール軸がねじれることによって生じるロール軸の振動とが共振することによって発生する圧延機の振動を未然に防ぐものであるところ、後者のロール軸がねじれることによって生じるロール軸の振動とは、図2に示すようにミルモータ〜圧延ロールまでの機械系の軸円周方向のねじれ振動をいう。具体的には、ミルモータ〜スピンドルギヤおよびスピンドルギヤ〜作業ロールまでの機械系の軸円周方向のねじれ振動をいう。
なお、振動周波数記憶手段5に記憶させるロール軸の固有振動周波数は、予め行う計測によって取得するのが望ましいが、計算によって取得することもできる。計算の場合には、例えば、機械系の各々の構成部品の慣性力とバネ定数を用いてモーダル解析を実施することによってロール軸の固有振動周波数を計算する。ここで、ロール軸の固有振動周波数の計算には、作業ロールと補強ロールのロール径の変化を加味して演算することが望ましい。1コイル内でのロール径の摩耗量は非常に小さいものの、それぞれのロール径の変化によって慣性力が変化するためである。例えば、プロセスコンピュータでは1コイル毎にロール径を計算するのが一般的なので、1コイル毎にプロセスコンピュータから作業ロールと補強ロールのロール径を取得し、1コイル毎にこれらのロール径の変化を加味してロール軸の固有振動周波数を演算することが望ましい。
なお、記憶するロール軸の固有振動周波数は、上下の作業ロール24の各々のロール軸の固有振動周波数である。
【0027】
判定手段6は、圧延ロールの回転周波数がロール軸の固有振動周波数を中心とする予め定めた所定の帯域に入ったか否かを判定する。圧延ロールの回転周波数がロール軸の固有振動周波数f[Hz]と一致してからの対処方法では、共振が発生して振動が拡大してしまうおそれがある。したがって、本発明では、圧延ロールの回転周波数がロール軸の固有振動周波数f[Hz]を中心とする予め定めた所定の帯域(f−α/2[Hz]〜f+α/2[Hz])に入ったタイミングで圧延ロールの回転周波数をシフトすることで、圧延ロールの振動とロール軸の振動との共振を未然に防ぐ。
なお、当該判定についても上下の作業ロール24の各々の回転周波数と各々のロール軸の固有振動周波数について行う。
【0028】
ロール軸の固有振動周波数f[Hz]を中心とする予め定めた所定の帯域(f−α/2[Hz]〜f+α/2[Hz])の帯域幅(α[Hz])については特に規定するものではないが、圧延ロールが回転することによって生じる圧延ロールの振動とロール軸がねじれることによって生じるロール軸の振動とが共振することによって発生する圧延機の振動周波数は10数〜20数Hzなので、帯域幅については1〜3[Hz]程度に設定するのが望ましい。なお、α>0[Hz]であり、この値を任意に設定できるようにするのが望ましい。
【0029】
以上説明した判定手段6による判定手法は、圧延ロールの回転周波数の一次周波数がロール軸の固有振動周波数を中心とする予め定めた所定の帯域に入ったか否かを判定する判定手法である。このため、圧延ロールの回転周波数の一次周波数とロール軸の固有振動周波数は一致こそしないが、圧延ロールの回転周波数の高次周波数とロール軸の固有振動周波数とが一致するために共振が発生するおそれがある。
このため、圧延ロールの回転周波数の高次周波数がロール軸の固有振動周波数を中心とする予め定めた所定の帯域に入ったか否かについても判定手段6で判定することが望ましい。なお、高次周波数としては、二次周波数で十分である。
したがって、圧延ロールの回転周波数の一次周波数または二次周波数がロール軸の固有振動周波数f[Hz]を中心とする予め定めた所定の帯域に入ったタイミングで圧延ロールの回転周波数をシフトすることで、圧延ロールの振動とロール軸の振動との共振を未然に防ぐことが望ましい。
【0030】
回転周波数目標値演算手段8は、判定手段6による判定が是(Yes)のときに、圧延ロールの回転周波数を前記所定の帯域から外す圧延ロールの回転周波数の目標値を演算する手段であり、演算された圧延ロールの回転周波数の目標値を後記する圧延速度目標値演算手段9に出力する。
なお、当該回転周波数の目標値の演算についても上下の作業ロール24の各々の回転周波数について行う。
圧延ロールの回転周波数の目標値については、圧延ロールの回転周波数を前記所定の帯域(f−α/2[Hz]〜f+α/2[Hz])から外すものであれば特に制限されない。したがって、圧延ロールの回転周波数を現在の圧延ロールの回転周波数よりも上げてもよいし下げてもよい。この点において、手動にて圧延速度を下げていた従来技術に係るオペレータによる対応とは大きく異なる。
【0031】
例えば、現在の圧延ロールの回転周波数をf[Hz]、ロール軸の固有振動周波数をf[Hz]として、f−f>0の関係が成立する場合、圧延ロールの回転周波数の目標値fを現在の圧延ロールの回転周波数よりも上げてf=f+β[Hz]とし、f−f>0の関係が成立しない場合、圧延ロールの回転周波数の目標値fを現在の圧延ロールの回転周波数よりも下げてf=f−γ[Hz]としてもよい。なお、β>0[Hz]、γ>0[Hz]である。
【0032】
あるいは、f−f>0の関係が成立する場合、圧延ロールの回転周波数の目標値fを現在の圧延ロールの回転周波数よりも上げてf>f+α/2[Hz]とし、f−f>0の関係が成立しない場合、圧延ロールの回転周波数の目標値fを現在の圧延ロールの回転周波数よりも下げてf<f−α/2[Hz]としてもよい。
【0033】
なお、判定手段6による判定が否(No)のときには、図1に示すように、逐次取得される圧延速度に基づいて現在の圧延ロールの回転周波数が回転周波数演算手段4により逐次演算され、当該演算された圧延ロールの回転周波数がロール軸の固有振動周波数を中心とする予め定めた所定の帯域に入ったか否かが判定手段6により判定される。
【0034】
圧延速度目標値演算手段9は、判定手段による判定が是(Yes)のときに、得られた圧延ロールの回転周波数の目標値に基づいて圧延速度の目標値を演算する手段であり、演算された圧延速度の目標値を後記するミルモータ制御手段10に出力する。圧延速度としてモータ回転数[rpm]を目標値とする場合には、圧延ロールの回転周波数の目標値f[Hz]×スピンドルギヤ比[機/電]×60[sec]にて得ることができる。
また、選択的手段であるロール径取得手段3を設置し、これによりロール径を取得する場合については、得られた圧延ロールの回転周波数の目標値と逐次取得されるロール径とに基づいて圧延速度の目標値を演算することができる。例えば、圧延ロールの回転周波数の目標値f[Hz]×ロール径[m]×π×60[sec]にて圧延速度の目標値[mpm]を得ることができる。
なお、当該圧延速度の目標値の演算についても上下の作業ロール24の各々の圧延速度について行う。
【0035】
ミルモータ制御手段10は、判定手段による判定が是(Yes)のときに、得られた圧延速度の目標値に基づいてミルモータ28の回転速度を制御する手段である。
なお、当該ミルモータの回転速度の制御についても上下の作業ロール24の各々について行う。
【0036】
以上説明した図1に示す構成の本発明装置によれば、時々刻々と変化する圧延ロールの回転周波数がロール軸の固有振動周波数を中心とする予め定めた所定の帯域に入ったタイミングで圧延ロールの回転周波数をシフトするので、シングル圧延機とタンデム圧延機の双方において圧延操業中に発生する10数〜20数Hzの振動を未然に防ぐことができる。このため、これ以外の振動周波数で圧延機が振動した場合には、その原因が油膜切れ、油膜厚変動等の別要因であることを特定することができ、迅速かつ的確な対応が可能となる。
【0037】
以上、図1の構成図を用いて本発明装置の構成の一例を詳説したが、各構成要素が行う処理を時系列に示すと以下のフローとなる。
先ずは、この例における圧延機の制御装置1は、圧延中に時々刻々と変化する圧延速度を逐次取得する。圧延速度を取得するのは圧延速度取得手段2である。そして、回転周波数演算手段4が、取得した圧延速度に基づいて圧延ロールの回転周波数を逐次演算する。
【0038】
逐次演算された圧延ロールの回転周波数は判定手段6に入力され、判定手段6は、圧延ロールの回転周波数がロール軸の固有振動周波数を中心とする予め定めた所定の帯域に入ったか否かを判定する。なお、ロール軸の固有振動周波数は、振動周波数記憶手段5から判定手段6に入力されるが、圧延ロールの回転周波数の入力とロール軸の固有振動周波数の入力の順序は問わない。
【0039】
そして、圧延ロールの回転周波数がロール軸の固有振動周波数を中心とする予め定めた所定の帯域に入ったときには、以下の処理が行われる。
先ずは、圧延ロールの回転周波数を前記所定の帯域から外す圧延ロールの回転周波数の目標値が演算される。これを行うのは回転周波数目標値演算手段8である。
次いで、得られた圧延ロールの回転周波数の目標値に基づいて圧延速度の目標値が演算される。これを行うのは圧延速度目標値演算手段9である。
次いで、得られた圧延速度の目標値に基づいてミルモータの回転速度が制御される。これを行うのはミルモータ制御手段10である。
そして、これにより圧延ロールが回転することによって生じる圧延ロールの振動とロール軸がねじれることによって生じるロール軸の振動との共振によって発生する圧延機の振動を未然に防ぐ。
【0040】
なお、ミルモータの回転速度を制御した後であるが、前記のとおり、圧延ロールの回転周波数は圧延操業中に時々刻々と変化するため、圧延速度の取得、これに基づく圧延ロールの回転周波数の演算、および、当該演算された圧延ロールの回転周波数がロール軸の固有振動周波数を中心とする予め定めた所定の帯域に入ったか否かの判定は、逐次行われる。
【0041】
一方、圧延ロールの回転周波数がロール軸の固有振動周波数を中心とする予め定めた所定の帯域に入らないときには、逐次取得される圧延速度に基づいて現在の圧延ロールの回転周波数が回転周波数演算手段4により逐次演算され、当該演算された圧延ロールの回転周波数がロール軸の固有振動周波数を中心とする予め定めた所定の帯域に入ったか否かが判定手段6により判定される。
【0042】
<第2の実施の形態>
図3は本発明装置の構成の別の一例を示す構成図である。当該図に示すように、この例における圧延機の制御装置1は、図1に示す構成に第二の判定手段7を加えた構成である。したがって、圧延速度取得手段2、回転周波数演算手段4、振動周波数記憶手段5、判定手段6、回転周波数目標値演算手段8、圧延速度目標値演算手段9、および、ミルモータ制御手段10についての重複する説明は省略する。
【0043】
第二の判定手段7は、圧延ロールの回転周波数がロール軸の固有振動周波数を中心とする予め定めた所定の帯域に入っている時間が予め定めた所定の時間を越えるか否かを判定する。
圧延ロールの回転周波数は、圧延中に時々刻々と変化する圧延速度により決定されるので、時々刻々と変化する。このため、ある瞬間には、(f−α/2<f<f+α/2)の関係、すなわち、圧延ロールの回転周波数fがロール軸の固有振動周波数を中心とする予め定めた所定の帯域に入ったとしても、次の瞬間には、(f<f−α/2 or f+α/2<f)の関係、すなわち、圧延ロールの回転周波数fが前記所定の帯域から外れる場合がある。例えば、圧延速度を加減速しているときに、圧延ロールの回転周波数が前記所定の帯域を横切る場合である。このような場合には、圧延ロールの回転周波数がロール軸の固有振動周波数と一致したとしても次の瞬間には不一致となって共振が発生することはないので、積極的に圧延ロールの回転周波数をシフトする必要はない。もちろんこのような場合であっても、圧延ロールの回転周波数が前記所定の帯域に入ったタイミングでシフトしても構わないが、当該シフト操作は圧延制御を煩雑にするおそれがある。
【0044】
このため、無駄なシフト操作を排除すべく、第二の判定手段7を備える本発明装置では、圧延ロールの回転周波数がロール軸の固有振動周波数を中心とする予め定めた所定の帯域に入ったとき、かつ、当該所定の帯域に入っている時間が予め定めた所定の時間を超えるときに、圧延ロールの回転周波数をシフトする。
【0045】
前記予め定めた所定の時間については特に規定するものではないが、ロール軸の固有振動周波数f[Hz]を中心とする予め定めた所定の帯域(f−α/2[Hz]〜f+α/2[Hz])の帯域幅(α[Hz])を1〜3[Hz]程度に設定した場合、圧延速度を加減速しているときに圧延ロールの回転周波数が前記所定の帯域を横切るのに、加減速率の設定にもよるが0.1〜0.5[sec]程度を要することから、また、2[sec]未満でのシフト操作は圧延制御を煩雑にするおそれがあることから、所定の時間については2〜3[sec]程度に設定するのが望ましい。また、この時間を任意に設定できるようにするのが望ましい。
【0046】
なお、この例における回転周波数目標値演算手段8、圧延速度目標値演算手段9、および、ミルモータ制御手段10の各々が、判定手段6による判定と第二の判定手段7による判定がともに是(Yes)のときに、各々の演算・制御を行うことは言うまでもない。
また、この例における振動周波数記憶手段5が、記憶させたロール軸の固有振動周波数を判定手段6のみならず第二の判定手段7にも出力することも言うまでもない。
【0047】
<第3の実施の形態>
図4は本発明装置の構成のさらに別の一例を示す構成図である。当該図に示すように、この例における圧延機の制御装置1´は、圧延速度取得手段2´、回転周波数演算手段4´、振動周波数記憶手段5´、判定手段6´、第二の判定手段7´、回転周波数目標値演算手段8´、圧延速度目標値演算手段9´、および、ミルモータ制御手段10´を備える。なお、第二の判定手段7´は必須ではない。
【0048】
当該図に示すように、複数の圧延スタンドからなるタンデム圧延機22については、すべてのスタンドにおけるマスフローが一定になるように各スタンドの圧延速度を調整しなければならないという制約がある。したがって、圧延ロールの回転周波数がロール軸の固有振動周波数を中心とする予め定めた所定の帯域に入ったスタンドについて前記方法によって圧延ロールの回転周波数をシフトした場合には、圧延スタンドの入側と出側の間におけるマスフロー一定則の制約により別のスタンドの圧延速度が影響を受けることとなる。このため、前記シフト操作によって新たに別のスタンドにおいて圧延ロールの回転周波数がロール軸の固有振動周波数を中心とする予め定めた所定の帯域に入る可能性がある。
したがって、タンデム圧延機22の場合には、すべてのスタンドにおける圧延ロールの回転周波数が各スタンドにおける前記所定の帯域から外れるまで上記操作を繰り返し、これにより圧延操業中に発生するタンデム圧延機の振動を未然に防ぐこととする。
【0049】
圧延速度取得手段2´は、圧延中に時々刻々と変化する各スタンドの圧延速度をリアルタイムに逐次取得する手段であり、計測または計算により取得した現在の各スタンドにおける圧延速度を後記する回転周波数演算手段4´に出力する。なお、各スタンドの圧延速度を取得する以外は、圧延速度取得手段2と同様である。
【0050】
必須手段ではなく必要に応じて設置するロール径取得手段3´は、圧延中の摩耗により時々刻々と変化する各スタンドのロール径を圧延ロール毎に逐次取得する手段であり、計測または計算により取得した現在の各スタンドにおけるロール径を後記する回転周波数演算手段4´に出力する。なお、各スタンドのロール径を取得する以外は、ロール径取得手段3と同様である。
【0051】
回転周波数演算手段4´は、取得した圧延速度に基づいて各スタンドにおける圧延ロールの回転周波数を逐次演算する。なお、各スタンドにおける圧延ロールの回転周波数を逐次演算する以外は、回転周波数演算手段4と同様である。
【0052】
振動周波数記憶手段5´は、各スタンドにおけるロール軸の固有振動周波数を記憶する手段であり、記憶させたロール軸の固有振動周波数を後記する判定手段6に出力する。なお、各スタンドにおけるロール軸の固有振動周波数を記憶する以外は、振動周波数記憶手段5と同様である。
【0053】
判定手段6´は、各スタンドについて圧延ロールの回転周波数がロール軸の固有振動周波数を中心とする予め定めた所定の帯域に入ったか否かを判定する。すなわち、複数の圧延スタンドからなるタンデム圧延機22については、圧延ロールの回転周波数、または圧延ロールの回転周波数とロール軸の固有振動周波数はスタンド毎に異なるところ、判定手段6´は、各スタンドの夫々について圧延ロールの回転周波数がロール軸の固有振動周波数を中心とする予め定めた所定の帯域に入ったか否かを判定する。なお、スタンド毎に判定する以外は、判定手段6と同様である。また、予め定める所定の帯域については、スタンド毎に任意に設定できるようにするのが望ましい。
【0054】
第二の判定手段7´は、各スタンドについて圧延ロールの回転周波数がロール軸の固有振動周波数を中心とする予め定めた所定の帯域に入っている時間が予め定めた所定の時間を越えるか否かを判定する。なお、スタンド毎に判定する以外は、第二の判定手段7と同様である。また、予め定める所定の時間については、スタンド毎に任意に設定できるようにするのが望ましい。なお、前記のとおり、第二の判定手段7´は必須ではない。
【0055】
回転周波数目標値演算手段8´は、いずれかのスタンドについて前記2つの判定手段による判定がともに是(Yes)のときに、圧延ロールの回転周波数を前記所定の帯域から外す当該スタンドにおける圧延ロールの回転周波数の目標値を演算する手段であり、演算された圧延ロールの回転周波数の目標値を後記する圧延速度目標値演算手段9´に出力する。
ここで、複数の圧延スタンドからなるタンデム圧延機22については、2以上のスタンドにおいて前記2つの判定手段による判定がともに是(Yes)となる可能性がある。この場合、是判定となった各々のスタンドにおける圧延ロールの回転周波数の目標値を演算して、これを圧延速度目標値演算手段9´に出力しても構わないが、タンデム圧延機についてはマスフロー一定則の制約により、あるスタンドの圧延速度は他のスタンドの圧延速度に影響を与えるために圧延制御を煩雑にするおそれがある。また、タンデム圧延機については後段スタンドほど本発明が対象とする振動が発生しやすい。このため、2以上のスタンドにおいて前記2つの判定手段による判定がともに是となった場合には、是判定となったスタンドのうちの最後段スタンドにおける圧延ロールの回転周波数の目標値を演算し、これを圧延速度目標値演算手段9´に出力するのが望ましい。なお、それ以外の演算手法は、回転周波数目標値演算手段8と同様である。
【0056】
圧延速度目標値演算手段9´は、いずれかのスタンドについて前記2つの判定手段による判定がともに是(Yes)のときに、得られた圧延ロールの回転周波数の目標値に基づいて当該スタンドにおける圧延速度の目標値を演算する手段であり、演算された圧延速度の目標値を後記するミルモータ制御手段10´に出力する。
【0057】
ここで、2以上のスタンドにおいて前記2つの判定手段による判定がともに是(Yes)となった場合の演算であるが、回転周波数目標値演算手段8´が是判定となったスタンドのうちの最後段スタンドにおける圧延ロールの回転周波数の目標値を演算し、これを出力する場合には、圧延速度目標値演算手段9´は、是判定となったスタンドのうちの最後段スタンドにおける圧延ロールの回転周波数の目標値に基づいて、是判定となったスタンドのうちの最後段スタンドにおける圧延速度の目標値を演算する。なお、それ以外の演算手法は、圧延速度目標値演算手段9と同様である。
【0058】
一方、回転周波数目標値演算手段8´が是判定となった各々のスタンドにおける圧延ロールの回転周波数の目標値を演算して、各々を出力する場合には、圧延速度目標値演算手段9´は、入力された各々のスタンドにおける圧延ロールの回転周波数の目標値に基づいて、是判定となったスタンドの各々の圧延速度の目標値を演算しても構わない。
【0059】
ミルモータ制御手段10´は、いずれかのスタンドについて前記2つの判定手段による判定がともに是(Yes)のときに、得られた圧延速度の目標値に基づいて当該スタンドにおけるミルモータの回転速度を制御するとともに、すべてのスタンドにおけるマスフローが一定になるように当該スタンド以外のスタンドにおけるミルモータの回転速度を制御する。
【0060】
ここで、2以上のスタンドにおいて前記2つの判定手段による判定がともに是(Yes)となった場合の演算であるが、圧延速度目標値演算手段9´が是判定となったスタンドのうちの最後段スタンドにおける圧延速度の目標値を演算して、これを出力する場合には、ミルモータ制御手段10´は、是判定となったスタンドのうちの最後段スタンドにおける圧延速度の目標値に基づいて、是判定となったスタンドのうちの最後段スタンドにおけるミルモータの回転速度を制御するとともに、すべてのスタンドにおけるマスフローが一定になるように是判定となったスタンドのうちの最後段スタンド以外のスタンドにおけるミルモータの回転速度を制御する。
【0061】
一方、圧延速度目標値演算手段9´が是判定となったスタンドの各々の圧延速度の目標値を演算して、各々を出力する場合には、すべてのスタンドにおけるマスフローを一定にできない可能性がある。したがって、この場合には、ミルモータ制御手段10´は、是判定となったスタンドのうちの最後段スタンドにおける圧延速度の目標値に基づいて、是判定となったスタンドのうちの最後段スタンドにおけるミルモータの回転速度を制御するとともに、すべてのスタンドにおけるマスフローが一定になるように是判定となったスタンドのうちの最後段スタンド以外のスタンドにおけるミルモータの回転速度を制御しても構わない。
【0062】
ただし、これはすべてのスタンドにおけるマスフローを一定にできない場合の回避策であるので、どのスタンドを選択するかは是判定となったスタンドのうちの最後段スタンドに限定されるものではなく、是判定となったスタンドのうちのいずれかのスタンドであればよい。例えば、圧延速度目標値演算手段9´は、是判定となったスタンドのうちの最前段スタンドにおける圧延速度の目標値に基づいて、是判定となったスタンドのうちの最前段スタンドにおけるミルモータの回転速度を制御するとともに、すべてのスタンドにおけるマスフローが一定になるように是判定となったスタンドのうちの最前段スタンド以外のスタンドにおけるミルモータの回転速度を制御しても構わない。
ただし、前記のとおり、タンデム圧延機については後段スタンドほど本発明が対象とする振動が発生しやすいため、是判定となったスタンドのうちの最後段スタンドにおける圧延速度の目標値に基づいて、是判定となったスタンドのうちの最後段スタンドにおけるミルモータの回転速度を制御するのが望ましい。
【0063】
以上、図4の構成図を用いて本発明装置の構成の一例を詳説したが、各構成要素が行う処理を時系列に示すと以下のフローとなる。
(A)先ずは、この例における圧延機の制御装置1´は、各スタンドについて圧延中に時々刻々と変化する圧延速度を逐次取得する。各スタンドにおける圧延速度を取得するのは圧延速度取得手段2´である。そして、回転周波数演算手段4´が、取得した圧延速度に基づいて各スタンドにおける圧延ロールの回転周波数を逐次演算する。
【0064】
逐次演算された各スタンドにおける圧延ロールの回転周波数は判定手段6´に入力され、判定手段6´は、圧延ロールの回転周波数がロール軸の固有振動周波数を中心とする予め定めた所定の帯域に入ったか否かを判定する。なお、ロール軸の固有振動周波数は、振動周波数記憶手段5´から判定手段6´に入力されるが、圧延ロールの回転周波数の入力とロール軸の固有振動周波数の入力の順序は問わない。
なお、この例における圧延機の制御装置1´は、第二の判定手段7´を備える構成であるが、前記のとおり第二の判定手段7´は必須ではないので説明を省略する。
【0065】
(B)そして、圧延ロールの回転周波数がロール軸の固有振動周波数を中心とする予め定めた所定の帯域に入ったスタンドについては、以下の処理が行われる。
先ずは、圧延ロールの回転周波数を前記所定の帯域から外す圧延ロールの回転周波数の目標値が演算される。これを行うのは回転周波数目標値演算手段8´である。
次いで、得られた圧延ロールの回転周波数の目標値に基づいて圧延速度の目標値が演算される。これを行うのは圧延速度目標値演算手段9´である。
次いで、得られた圧延速度の目標値に基づいて当該スタンドにおけるミルモータの回転速度が制御されるとともに、すべてのスタンドにおけるマスフローが一定になるように当該スタンド以外のスタンドにおけるミルモータの回転速度が制御される。これを行うのはミルモータ制御手段10´である。
【0066】
(C)そして、これらの制御、すなわち、(B)の制御によって新たに別のスタンドにおいて圧延ロールの回転周波数がロール軸の固有振動周波数を中心とする予め定めた所定の帯域に入ったときには、すべてのスタンドにおける圧延ロールの回転周波数が各スタンドにおける前記所定の帯域から外れるまで上記(A)〜(C)の操作を繰り返す。
すなわち、いずれかのスタンドにおいて圧延ロールの回転周波数がロール軸の固有振動周波数を中心とする予め定めた所定の帯域に入っている限り、圧延速度の取得、これに基づく圧延ロールの回転周波数の演算、当該演算された圧延ロールの回転周波数がロール軸の固有振動周波数を中心とする予め定めた所定の帯域に入っているか否かの判定、および是判定となったスタンドにおける圧延ロールの回転周波数の目標値の演算、圧延速度の目標値の演算、ミルモータの回転速度の制御を繰り返す。
そして、これにより圧延ロールが回転することによって生じる圧延ロールの振動とロール軸がねじれることによって生じるロール軸の振動との共振によって発生するタンデム圧延機の振動を未然に防ぐ。
【0067】
<その他の実施の形態>
以上説明した圧延速度取得手段2、2´、ロール径取得手段3、3´、回転周波数演算手段4、4´、振動周波数記憶手段5、5´、判定手段6、6´、第二の判定手段7、7´、回転周波数目標値演算手段8、8´、圧延速度目標値演算手段9、9´、およびミルモータ制御手段10、10´としては、圧延速度を測定するセンサ等からの入力信号を得るためのインターフェース部、圧延条件等の操業指示を入力するためのキーボード、マウス等のI/O機器、コンピュータディスプレー、及び、圧延プロセス等の他のコンピュータと接続するネットワークボード等を具備する電子計算機(コンピュータ)を用いて構成することができる。そして、上記の各手段の機能を実行するためのコンピュータプログラムを作成して、当該コンピュータにロードする。
【0068】
圧延材20である金属板としては、鋼板のほかにチタン板、アルミニウム板、マグネシウム板、銅板などの金属板およびこれら各金属の合金板であってもよい。
【0069】
図1、図3、図4に例示した圧延機は4段圧延機であるが、これに限定されず6段圧延機であってもよい。また、図4はスタンド数を省略した図であり、スタンド数3以上のタンデム圧延機について本発明を適用することができる。
【符号の説明】
【0070】
1、1´ 圧延機の制御装置
2、2´ 圧延速度取得手段
3、3´ ロール径取得手段
4、4´ 回転周波数演算手段
5、5´ 振動周波数記憶手段
6、6´ 判定手段
7、7´ 第二の判定手段
8、8´ 回転周波数目標値演算手段
9、9´ 圧延速度目標値演算手段
10、10´ ミルモータ制御手段
20 圧延材 21 圧延機
22 タンデム圧延機 23 圧延スタンド
24 作業ロール 25 補強ロール
26 スピンドルギヤ 27 ロール軸
28 ミルモータ 29 圧下装置
30 荷重検出装置


【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属板を連続的に圧延する圧延機の制御方法において、
圧延中に時々刻々と変化する圧延速度に基づいて圧延ロールの回転周波数を逐次演算し、
圧延ロールの回転周波数がロール軸の固有振動周波数を中心とする予め定めた所定の帯域に入ったときに、
圧延ロールの回転周波数を前記所定の帯域から外す圧延ロールの回転周波数の目標値を演算し、
次いで、得られた圧延ロールの回転周波数の目標値に基づいて圧延速度の目標値を演算し、
次いで、得られた圧延速度の目標値に基づいてミルモータの回転速度を制御して、
圧延ロールが回転することによって生じる圧延ロールの振動とロール軸がねじれることによって生じるロール軸の振動との共振によって発生する圧延機の振動を未然に防ぐことを特徴とする圧延機の制御方法。

【請求項2】
金属板を連続的に圧延するタンデム圧延機の制御方法において、
(A)各スタンドについて圧延中に時々刻々と変化する圧延速度に基づいて各スタンドにおける圧延ロールの回転周波数を逐次演算し、
(B)圧延ロールの回転周波数がロール軸の固有振動周波数を中心とする予め定めた所定の帯域に入ったスタンドについては、圧延ロールの回転周波数を前記所定の帯域から外す圧延ロールの回転周波数の目標値を演算し、
次いで、得られた圧延ロールの回転周波数の目標値に基づいて圧延速度の目標値を演算し、
次いで、得られた圧延速度の目標値に基づいて当該スタンドにおけるミルモータの回転速度を制御するとともに、すべてのスタンドにおけるマスフローが一定になるように当該スタンド以外のスタンドにおけるミルモータの回転速度を制御し、
(C)これらの制御によって新たに別のスタンドにおいて圧延ロールの回転周波数がロール軸の固有振動周波数を中心とする予め定めた所定の帯域に入ったときには、すべてのスタンドにおける圧延ロールの回転周波数が各スタンドにおける前記所定の帯域から外れるまで上記(A)〜(C)の操作を繰り返し、
圧延ロールが回転することによって生じる圧延ロールの振動とロール軸がねじれることによって生じるロール軸の振動との共振によって発生するタンデム圧延機の振動を未然に防ぐことを特徴とする圧延機の制御方法。

【請求項3】
圧延ロールの回転周波数がロール軸の固有振動周波数を中心とする予め定めた所定の帯域に入ったとき、かつ、当該所定の帯域に入っている時間が予め定めた所定の時間を超えるときに、前記の圧延ロールの回転周波数の目標値の演算、圧延速度の目標値の演算、および、得られた圧延速度の目標値に基づくミルモータの回転速度の制御を行う請求項1または2に記載の圧延機の制御方法。

【請求項4】
金属板を連続的に圧延する圧延機の制御装置において、
圧延中に時々刻々と変化する圧延速度を逐次取得する圧延速度取得手段と、
取得した圧延速度に基づいて圧延ロールの回転周波数を逐次演算する回転周波数演算手段と、
ロール軸の固有振動周波数を記憶する振動周波数記憶手段と、
圧延ロールの回転周波数がロール軸の固有振動周波数を中心とする予め定めた所定の帯域に入ったか否かを判定する判定手段と、
前記判定手段による判定が是のときに、圧延ロールの回転周波数を前記所定の帯域から外す圧延ロールの回転周波数の目標値を演算する回転周波数目標値演算手段と、
前記判定手段による判定が是のときに、得られた圧延ロールの回転周波数の目標値に基づいて圧延速度の目標値を演算する圧延速度目標値演算手段と、
前記判定手段による判定が是のときに、得られた圧延速度の目標値に基づいてミルモータの回転速度を制御するミルモータ制御手段を備えた、
圧延ロールが回転することによって生じる圧延ロールの振動とロール軸がねじれることによって生じるロール軸の振動との共振によって発生する圧延機の振動を未然に防ぐことを特徴とする圧延機の制御装置。

【請求項5】
金属板を連続的に圧延する圧延機の制御装置において、
圧延中に時々刻々と変化する圧延速度を逐次取得する圧延速度取得手段と、
取得した圧延速度に基づいて圧延ロールの回転周波数を逐次演算する回転周波数演算手段と、
ロール軸の固有振動周波数を記憶する振動周波数記憶手段と、
圧延ロールの回転周波数がロール軸の固有振動周波数を中心とする予め定めた所定の帯域に入ったか否かを判定する判定手段と、
圧延ロールの回転周波数が前記所定の帯域に入っている時間が予め定めた所定の時間を越えるか否かを判定する第二の判定手段と、
前記2つの判定手段による判定がともに是のときに、圧延ロールの回転周波数を前記所定の帯域から外す圧延ロールの回転周波数の目標値を演算する回転周波数目標値演算手段と、
前記2つの判定手段による判定がともに是のときに、得られた圧延ロールの回転周波数の目標値に基づいて圧延速度の目標値を演算する圧延速度目標値演算手段と、
前記2つの判定手段による判定がともに是のときに、得られた圧延速度の目標値に基づいてミルモータの回転速度を制御するミルモータ制御手段を備えた、
圧延ロールが回転することによって生じる圧延ロールの振動とロール軸がねじれることによって生じるロール軸の振動との共振によって発生する圧延機の振動を未然に防ぐことを特徴とする圧延機の制御装置。

【請求項6】
金属板を連続的に圧延するタンデム圧延機の制御装置において、
圧延中に時々刻々と変化する各スタンドの圧延速度を逐次取得する圧延速度取得手段と、
取得した圧延速度に基づいて各スタンドにおける圧延ロールの回転周波数を逐次演算する回転周波数演算手段と、
各スタンドにおけるロール軸の固有振動周波数を記憶する振動周波数記憶手段と、
各スタンドについて圧延ロールの回転周波数がロール軸の固有振動周波数を中心とする予め定めた所定の帯域に入ったか否かを判定する判定手段と、
各スタンドについて圧延ロールの回転周波数が前記所定の帯域に入っている時間が予め定めた所定の時間を越えるか否かを判定する第二の判定手段と、
いずれかのスタンドについて前記2つの判定手段による判定がともに是のときに、圧延ロールの回転周波数を前記所定の帯域から外す当該スタンドにおける圧延ロールの回転周波数の目標値を演算する回転周波数目標値演算手段と、
いずれかのスタンドについて前記2つの判定手段による判定がともに是のときに、得られた圧延ロールの回転周波数の目標値に基づいて当該スタンドにおける圧延速度の目標値を演算する圧延速度目標値演算手段と、
いずれかのスタンドについて前記2つの判定手段による判定がともに是のときに、得られた圧延速度の目標値に基づいて当該スタンドにおけるミルモータの回転速度を制御するとともに、すべてのスタンドにおけるマスフローが一定になるように当該スタンド以外のスタンドにおけるミルモータの回転速度を制御するミルモータ制御手段を備えた、
圧延ロールが回転することによって生じる圧延ロールの振動とロール軸がねじれることによって生じるロール軸の振動との共振によって発生するタンデム圧延機の振動を未然に防ぐことを特徴とする圧延機の制御装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−152817(P2012−152817A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−16431(P2011−16431)
【出願日】平成23年1月28日(2011.1.28)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】