説明

圧電スピーカーおよびパラメトリックアレイスピーカー

【課題】漏れ音波を十分に低減する。
【解決手段】反射層と、前記反射層の表面上に積層され、内包する空隙の密度が前記反射層よりも高い吸収層と、前記吸収層の表面上に積層され、肉厚部と前記肉厚部よりも層間方向の厚みが薄い肉薄部とが面内方向に分布し、前記吸収層と前記肉薄部との間に中空空間を形成する基部と、前記肉薄部と一体となって振動する圧電素子と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電素子を備えた圧電スピーカーおよびパラメトリックアレイスピーカーに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の圧電スピーカーとして、超音波を吸収可能なハウジングを超音波トランスデューサの裏側に備えさせたものが提案されている(特許文献1、図12参照。)。超音波を吸収可能なハウジングを備えさせることにより、超音波トランスデューサの裏側への漏れ音波を低減することができた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−20429号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、超音波の一部がハウジングを貫通してしまい、漏れ音波の低減が不十分であるという問題があった。
本発明はこのような問題を解決するために創作されたものであって、漏れ音波を十分に低減する圧電スピーカーおよびパラメトリックアレイスピーカーの提供を目的の1つとする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
(1)上記目的を達成するための圧電スピーカーは、反射層と、前記反射層の表面上に積層され、内包する空隙の密度が前記反射層よりも高い吸収層と、前記吸収層の表面上に積層され、肉厚部と前記肉厚部よりも層間方向の厚みが薄い肉薄部とが面内方向に分布し、前記吸収層と前記肉薄部との間に中空空間を形成する基部と、前記肉薄部と一体となって振動する圧電素子と、を備える。
【0006】
本発明によると、肉薄部の振動によりバックキャビティとしての中空空間に送波された音波は、空隙を内包する吸収層にて吸収される。吸収層を貫通した音波は吸収層よりも空隙の密度が低い反射層の表面にて反射し、再度吸収層にて吸収される。すなわち、肉薄部の振動により中空空間に送波された音波の漏れを十分に低減できる。
【0007】
(2)上記目的を達成するための圧電スピーカーは、前記反射層と前記吸収層と前記基部とがジルコニアによって形成される。
かかる構成により、反射層と吸収層と基部とを一度の焼成により形成することができる。また、反射層と吸収層と基部の熱膨張係数が互いに一致するとともに、反射層と吸収層と基部の熱膨張係数が圧電素子を構成する圧電材料の熱膨張係数と近似するため、反りを防止できる。さらに、ジルコニアは曲げ弾性係数が大きいため肉薄部の振動周波数を高くできるとともに、曲げ強さも大きいため肉薄部の大きい振幅が得られる。ジルコニアは高温下でも安定した物質であるため、反射層と吸収層と基部とが圧電素子を構成する材料と反応することなく、圧電素子を工程が簡素な印刷・焼成によって形成できる。
【0008】
(3)前記の圧電スピーカーを複数配列させたパラメトリックアレイスピーカーにおいても、音波の漏れを十分に低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】(1A)は第1実施形態の圧電スピーカーの構造模式図、(1B)は第1実施形態の圧電スピーカーの断面図である。
【図2】(2A)〜(2D)は第1実施形態の圧電スピーカーの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態を添付図面を参照しながら説明する。なお、各図において対応する構成要素には同一の符号が付され、重複する説明は省略される。
【0011】
(1)パラメトリックアレイスピーカーの構成:
図1A,1Bはパラメトリックアレイスピーカー10の構成を示す構造模式図および断面図である。パラメトリックアレイスピーカー10は半導体製造プロセスや印刷プロセスを用いて製造されるMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)であって、図示しないケースに収容され、小型電子機器などの超指向性スピーカーとして用いられる。
なお、本明細書において、基部13から見た場合に圧電素子14が積層される側を上側と表記し、上側の反対側を下側と表記する。また、特に示さない限り、厚みと表記した場合には、層間方向の厚みを意味する。
【0012】
パラメトリックアレイスピーカー10は、反射層11と吸収層12と基部13と圧電素子14とを備える。反射層11は面内方向の全域にわたって厚みが一様であり、パラメトリックアレイスピーカー10の最下層を構成する。反射層11はジルコニア(ZrO2)で形成される。例えば、反射層11の厚みは100μmとされる。
【0013】
吸収層12は面内方向の全域にわたって厚みが一様であり、反射層11の上側の表面上に形成される。吸収層12はジルコニアで形成され、多数の微細な空隙を内包する。吸収層12が内包する空隙の密度は反射層11よりも高く、空隙の密度を表す体積率は20〜80%とされる。例えば、吸収層12の厚みは100μmとされ、吸収層12が内包する空隙の平均径は50μmとされる。
【0014】
基部13は、吸収層12の上側の表面上に形成される。基部13はジルコニアで形成される。平面視(面内方向)において、基部13は、例えば5個の円形状の肉薄部13aと、肉薄部13aを除く領域を構成する肉厚部13bとからなる。肉薄部13aは肉厚部13bよりも厚みが薄い。肉薄部13aは、基部13において下側の面から上側に向かって凹む円柱状の凹部Dを設けることにより形成される。肉薄部13aは、肉厚部13bよりも厚みが薄いため、肉厚部13bよりも剛性が低く、選択的に振動させられる。肉薄部13aを構成するジルコニアはシリコン(Si)等と比較して大きい曲げ弾性係数(210GPa)を有しており、肉薄部13aを高い周波数で振動させることができ、肉薄部13aから超音波を出力できる。また、ジルコニアはセラミックのなかでも曲げ強さが大きい(1120MPa)ため肉薄部13aの大きい振幅が得られ、音圧を大きくできる。
なお、凹部Dは肉薄部13aと吸収層12との間に形成される中空空間に相当する。例えば、平面視における肉薄部13aの径は1000μmとされ、肉薄部13aの厚みは15μmとされ、肉厚部13bの厚みは200μmとされる。
【0015】
圧電素子14は下電極14aと圧電層14bと上電極14cとを備える。下電極14aは基部13の上側の表面の全域上に形成される。下電極14aは、金(Au)や白金(Pt)によって形成される。例えば、下電極14aの厚みは1μmとされる。
圧電層14bは下電極14aの表面上に形成される。圧電層14bは一様な厚みを有しており、圧電層14bには平面視において5個の円形開口14b1と1個の正方形開口14b2とが形成される。各円形開口14b1は、平面視において基部13の各肉薄部13aの同心円とされ、各肉薄部13aよりも開口径が小さくされる。すなわち、平面視において圧電層14bの円形開口14b1の外側所定幅の円環状領域にて、肉薄部13aと圧電層14bとが層間方向に重なる。
上電極14cは圧電層14bの表面上に形成される。上電極14cは平面視において圧電層14bと同じパターンとされ、上電極14cにも5個の円形開口14c1と1個の正方形開口14c2とが形成される。圧電層14bの正方形開口14b2と上電極14cの正方形開口14c2とが層間方向に重なることにより下電極14aが上側に露出し、下電極14aに対する図示しない導線の接続が可能となる。
【0016】
このように構成されたパラメトリックスピーカー1は次のように作動する。図示しない導線を介して圧電素子14の上電極14cと下電極14aに超音波域の搬送波を可聴域の音声波によって振幅変調した変調波の駆動電圧を印加すると、圧電素子14の圧電層14bにて面内方向の伸縮・膨脹応力が生じる。圧電層14bにおける円形開口14b1の外側所定幅の円環状領域にて生じた伸縮・膨脹応力は、この円環状領域と層間方向に重なる各肉薄部13aに伝達され各肉薄部13aを振動させる。なお、圧電素子14の下電極14aと上電極14cとはそれぞれ電気的に一体であるため、各肉薄部13aは同相で振動する。振動する肉薄部13aから前記変調波の超音波が上側に送波され、超音波の強い指向性により肉薄部13aの上側垂線近傍の狭い範囲においてパラメトリックアレイ効果によって可聴音が発生する。パラメトリックアレイ効果とは、音波の非線形性に起因して、自己復調によってもとの音声波に相当する可聴音の空中音源が肉薄部13aの上側垂線近傍の直線的な領域に連続的に発生する現象である。このようなパラメトリックアレイ効果によって、出力音声の可聴空間の指向性が極めて強いパラメトリックスピーカー1が実現できる。さらに、肉薄部13aを曲げ強さが大きいジルコニアによって形成することにより、小型のパラメトリックスピーカー1であっても実用的な音圧が得られる。
【0017】
肉薄部13aの振動により超音波は肉薄部13aの下側へも送波される。肉薄部13aの下側へ送波された超音波は多数の空隙を内包する吸収層12に到達し、吸収層12において吸音される。超音波の一部は吸収層12を貫通するが、吸収層12と反射層11との接合界面にて上側へ反射する。上側へ反射した超音波は再度吸収層12にて吸収されることとなり、漏れ音波を十分に低減できる。
【0018】
また、反射層11と吸収層12と基部13とは、同一材料(ジルコニア)で形成されるため、反射層11と吸収層12と基部13の熱膨張係数が互いに一致する。また、ジルコニアで形成された反射層11と吸収層12と基部13の熱膨張係数は、ジルコニウム酸−チタン酸鉛で形成された圧電層14bの熱膨張係数と近似するため、パラメトリックアレイスピーカー10の反りを防止できる。従って、パラメトリックアレイスピーカー10は、指向性が安定し、かつ、エネルギー損失の少ない音声出力が可能である。
【0019】
(2)パラメトリックアレイスピーカーの製造方法:
図2A〜2Eは、パラメトリックアレイスピーカー10の製造手順を示す断面図である。
まず、図2Aに示すように、反射層11と吸収層12と基部13とに対応するグリーンシートG11〜G13を用意する。グリーンシートG11〜G13は、ジルコニアと焼結助剤の粉末と有機バインダーと溶剤とを混錬し、シート状に成形したものである。ここで、吸収層12に対応するグリーンシートG12は、反射層11と基部13とに対応するグリーンシートG12,G13よりも有機バインダーの混錬比率が高くなっている。有機バインダーはグリーンシートG11〜G13の焼成時に熱分解し、有機バインダーが占めていた空間が空隙となる。従って、グリーンシートG12を焼成することにより形成される吸収層12が内包する空隙の密度を、グリーンシートG11,G13を焼成して形成される反射層11と基部13が内包する空隙の密度よりも高くすることができる。
【0020】
基部13に対応するグリーンシートG13は、3枚のグリーンシートG13a〜G13cによって構成される。最も上側のグリーンシートG13aは肉薄部13aに対応する厚みとされる。すなわち、肉薄部13aの厚みはグリーンシートG13aの厚みによって管理することができるため、肉薄部13aの厚み精度を高くすることができる。従って、各肉薄部13aの振動特性を一致させることができ、各肉薄部13aから発せられた超音波のパラメトリックアレイ効果を一様に得ることができる。
下側の2枚のグリーンシートG13b,G13cのうち平面視において肉薄部13aに対応する領域は、パンチング等の機械穴明やレーザー穴明等によって穴明される。各グリーンシートG11〜G13が用意できると、図2Bに示すようにグリーンシートG11〜G13を重ね合わせて層間方向に150MPaで加圧しつつ、例えば1000〜1300℃で焼成する。これにより、反射層11と吸収層12と基部13とを一度の焼成により形成することができる。
【0021】
次に、図2Cに示すように基部13の上側の表面の全域上に金または白金の電極金属粉末を含むペーストを均一な厚みで印刷して焼成することにより、下電極14aを形成する。下電極14aの焼成温度は、例えば900〜1300℃とする。
次に、図2Dに示すように下電極14aの表面上にジルコニウム酸−チタン酸鉛粉末を含むペーストを均一な厚みで印刷して焼成することにより、圧電層14bを形成する。圧電層14bの焼成温度は、例えば900〜1300℃とする。
最後に図1Bに示すように圧電層14bの表面上に金または白金の電極金属粉末を含むペーストを均一な厚みで印刷して焼成することにより、上電極14cを形成する。上電極14cの焼成温度は、例えば900〜1300℃とする。なお、下電極14aと圧電層14bと上電極14cの面内方向の各パターンに対応する開口を有する印刷マスクを用いたスクリーン印刷を行うことにより、各層14a〜14cに対応するペーストを印刷することができる。
【0022】
以上のように反射層11と吸収層12と基部13をジルコニアで形成することにより、印刷・焼成により圧電素子14を形成することができる。すなわち、反射層11と吸収層12と基部13とをジルコニアで形成しておけば、これらが圧電層14bの焼成時に気化した鉛と反応することはない。印刷・焼成により圧電素子14を形成すれば、煩雑なフォトリソグラフィ等を行わなくも済む。さらに、反射層11と吸収層12と基部13を同一材料のジルコニアで形成することにより、各層11〜13の熱膨張係数が一致し、圧電素子14の焼成時における反りを防止できる。従って、焼成後における圧電素子14の残留応力を緩和することができる。さらに、ジルコニアは、圧電層14bを構成するジルコニウム酸−チタン酸鉛と近い熱膨張係数を有するため、圧電層14b形成後の熱処理工程における反りも防止できる。
【0023】
(3)他の実施形態:
本発明の技術的範囲は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。例えば前記実施形態で示した材質や寸法や形状や成膜方法やパターン転写方法はあくまで例示であるし、当業者であれば自明である工程の追加や削除や工程順序の入れ替えの可能性については説明が省略されている。
【0024】
パラメトリックアレイスピーカーの別の一例として、可聴域の音声波に相当する周波数差を有する2つの超音波を肉薄部13aから送波させ、2つの超音波の間に生じるうなり現象により可聴域の音声波を復調する方式のパラメトリックアレイスピーカーに本発明の構成を適用してもよい。この場合、独立して駆動電圧が入力可能な2つの圧電素子14によって2個以上の肉薄部13aを互いに異なる周波数で振動させる必要がある。また、本発明の構成は、パラメトリックアレイスピーカー以外の圧電スピーカーにも適用できる。すなわち、振動可能な肉薄部13aを1個以上備えた圧電スピーカーに本発明の構成を適用することにより、漏れ音波を十分に低減した圧電スピーカーが提供できる。すなわち、反射層11と吸収層12とで漏れを低減できる音波は超音波に限らず、可聴音を直接送波する圧電スピーカーにおいても本発明の効果が得られる。
【0025】
また、反射層11と吸収層12と基部13のいずれかまたは全部をジルコニア以外のセラミックによって形成してもよい。例えば、反射層11と吸収層12と基部13のいずれかまたは全部を、アルミナ(Al23),ムライト(3Al23・2SiO2),窒化アルミ(AlN),窒化珪素(Si34),ジルコニア強靭化アルミナ(Al23・ZrO2),ガラスセラミック等によって形成してもよい。例えば、これらのセラミック粉末を混練して形成したグリーンシートを用いて前記実施形態と同様の工程により圧電スピーカーを製造できる。さらに、反射層11よりも吸収層12に存在する空隙の密度を高くすることが可能な材料であればよく、反射層11と吸収層12と基部13のいずれかまたは全部をセラミック以外の有機材料や金属材料や半導体材料等によって形成してもよい。
【0026】
圧電素子14を印刷・焼成以外の工法、例えばフォトリソグラフィによって形成してもよい。また、上電極14cと圧電層14bと下電極14aの焼成を一度に行ってもよいし、さらに上電極14cと圧電層14bと下電極14aの焼成を反射層11と吸収層12と基部13の焼成と同時に行ってもよい。また、前記実施形態では、肉薄部13aの外周近傍にて圧電素子14と肉薄部13aとが層間方向に重なるようにしたが、例えば肉薄部13aの中央部にて圧電素子14と肉薄部13aとが層間方向に重なるようにしても、肉薄部13aを振動させることができる。肉薄部13aの形状は円形に限らず、矩形等であってもよい。さらに、肉薄部13aは肉厚部13bよりも厚みが薄ければよく、基部13が2段階以上の厚みを有していてもよいし、基部13が連続的な厚みの変化を有していてもよい。また、肉薄部13aごとに独立した中空空間を形成するものに限られず、複数の肉薄部13aに共通の中空空間を形成し、共通の中空空間に送波された音波が漏れるのを反射層11と吸収層12とで防止してもよい。
【符号の説明】
【0027】
10…パラメトリックアレイスピーカー,11…反射層,12…吸収層,13…基部,13a…肉薄部,13b…肉厚部,14…圧電素子,14a…下電極,14b…圧電層,14b1…円形開口,14b2…正方形開口,14c…上電極,14c1…円形開口,14c2…正方形開口,G11〜G13…グリーンシート。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
反射層と、
前記反射層の表面上に積層され、内包する空隙の密度が前記反射層よりも高い吸収層と、
前記吸収層の表面上に積層され、肉厚部と前記肉厚部よりも層間方向の厚みが薄い肉薄部とが面内方向に分布し、前記吸収層と前記肉薄部との間に中空空間を形成する基部と、
前記肉薄部と一体となって振動する圧電素子と、
を備える、
圧電スピーカー。
【請求項2】
前記反射層と前記吸収層と前記基部とがジルコニアによって形成される、
請求項1に記載の圧電スピーカー。
【請求項3】
請求項1または請求項2のいずれかに記載の圧電スピーカーが複数面内方向に配列する、
パラメトリックアレイスピーカー。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−44318(P2012−44318A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−181801(P2010−181801)
【出願日】平成22年8月16日(2010.8.16)
【出願人】(000004075)ヤマハ株式会社 (5,930)
【Fターム(参考)】